説明

線量計装着ウェア、これを用いた体表面被曝線量分布測定方法及び装置

【課題】被検体への体表面への多数の線量計の着脱を、医療行為に支障を来たすことなく、容易に且つ簡単に行なえるようにすると共に、線量計の設置位置も容易に再現できるようにする。
【解決手段】少なくとも被検体100の測定箇所をカバーする、被検体に着脱可能なウェア本体120と、該ウェア本体の被検体装着時に測定箇所に来る位置に配設された線量計収容ポケット130とを備えた線量計装着ウェアの線量計収容ポケットに線量計を収容して、被検体に装着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線透過像を利用した医療分野において、医療被曝の実態を把握し、更に医療記録として残すために、体表面の被曝線量を簡便に測定することが可能な、線量計装着ウェア、これを用いた体表面被曝線量分布測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大腿や前腕の動脈から血管内に挿入したカテーテルを、X線透視画像を見ながら、脳や心臓の動脈瘤や狭窄等が発生している部位まで進め、コイルやステント等を留置したり、癌の部位まで進めて塞栓物質や抗ガン剤の投与をすることにより、人体を切開手術することなく血管内から治療するIVR(interventional radiology)が、他の治療法と比べて比較的低侵襲で高い治療効果が得られることから、手術治療に代わる治療法として近年大きな成果を上げている。
【0003】
しかしその一方で、X線透視時間が長くなることや撮影回数が増えることにより、患者の皮膚線量が増加し、重篤な皮膚障害を来した症例が報告されている。
【0004】
IVRを、安全で、より有効性の高いものにするためには、可能な限り確定的影響の発現を防止し、確率的影響の発現リスクを容認できる水準に下げる必要がある。そのためには、患者の皮膚線量の測定とそのデータの長期にわたる蓄積、更には医療現場への被曝歴の適切なフィードバックが必須となる。
【0005】
このような目的で、非特許文献1や2に記載されている如く、(1)医療用ベッドと患者の間に線量測定用フィルムを敷いたり、(2)例えば特許文献1に記載されているような小型の線量計を患者の体表面の各所に貼り付ける方法が試みられている。
【0006】
【非特許文献1】「反射型線量測定用フィルムを用いたIVR手技時の患者皮膚線量」日本放射線技術学会雑誌第59巻第1号(2003年1月)121−129頁
【非特許文献2】「IVRにおける患者被曝線量の測定と防護に関する研究班報告」日本放射線技術学会雑誌第59巻第3号(2003年3月)369−381頁
【特許文献1】特開2003−73137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、(1)のフィルムを患者の下に敷く方法は、患者皮膚面とフィルムを完全に密着させることが不可能であるため、患者が動くと正しい値が得られない。更に、この方法で測定できるのは、あくまで患者ベッド上に敷いたフィルムを通過するX線の線量であるため、前後左右あらゆる方向から照射される可能性のあるX線による、患者の立体的な体表面各部位での被曝線量を、精密に反映しているとは言い難い。
【0008】
一方、(2)の線量計を患者の体表面に設置する方法は、多数の線量計を一つ一つ患者の体表面に貼付する地道な作業が要求され、実際の医療行為に支障を来してしまい、体表面を網羅し、且つ多数の患者の線量を測定することは、例え臨床研究として行なうのであっても、多大な困難を伴っていた。
【0009】
実際に医療現場では、線量計の設置は、患者の体表面で50−100箇所以上に及ぶが、次のような要請を満足する必要がある。
【0010】
(1)治療行為に支障を来たさず、又、患者の苦痛を伴うことなく、5分間程度で着脱できる。
【0011】
(2)容態急変時等には容易に取外すことができる。
【0012】
(3)線量計の着脱の際に、線量計の破損や紛失を来さないようにする。
【0013】
(4)着脱は訓練された者だけでなく、現場の看護師や介護スタッフにも、容易に実施できるものでなければならない。
【0014】
(5)線量計がX線透過性で、治療(X線透視)の妨げにならない。
【0015】
(6)線量計の設置位置が3次元的に容易に再現できる。
【0016】
(7)線量の解析が容易にできる。
【0017】
(8)線量の解析を行う線量計取扱機関と、医療現場である医療機関の間での線量計移送が容易にできる。
【0018】
(9)血液や体液が付着する可能性も高く、これらが線量解析を含めた全ての工程で、極力支障にならないようにする。
【0019】
(10)最終的には、数千から数万の患者データを、解析・蓄積・追跡する必要があり、それらの使用にコスト的にも耐え得る。
【0020】
(11)更に、異なる医療現場で測定される場合も、測定位置を同一にして測定されることがデータ集計上好ましい。
【0021】
本発明は、このような要請を満足した線量計装着ウェア、これを用いた体表面被曝測定方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、少なくとも被検体の測定箇所をカバーする、被検体に着脱可能なウェア本体と、該ウェア本体の被検体装着時に測定箇所に来る位置に配設された線量計収容ポケットと、を備えたことを特徴とする線量計装着ウェアにより、前記課題を解決したものである。
【0023】
又、前記ウェア本体を、伸縮性を有する素材でなるようにして、被検体のサイズの違いを吸収し、各ポケットが被検体表面に密着することで3次元的な相対位置関係を容易に再現できるようにしたものである。
【0024】
又、前記線量計収容ポケットの少なくとも開口部側の幅を、口すぼまり状及び/又は線量計アセンブリの幅よりも若干狭く形成して、線量計の脱落を防ぐことができるようにしたものである。
【0025】
又、前記線量計収容ポケットを、隣接する線量計との間隔が、照射方向や照射野の一定しない治療中にも、いずれか一つの線量計が常時照射野に入るよう、経験的に100ミリ以下となるように設けることで、X線照射野から線量計が外れることを極力避けることができるようにしたものである。
【0026】
又、前記線量計収容ポケットが、伸縮性を有する素材でなるようにして、線量計の脱落を防ぐようにしたものである。
【0027】
又、前記線量計収容ポケットに、測定箇所に対応する位置IDを付して、測定箇所の識別を容易とし、効率良く作業できるようにしたものである。
【0028】
又、各線量計収容ポケットを、被検体表面に沿うよう3次元的に配置して、X線照射野から線量計が外れることを極力避けることができるようにしたものである。
【0029】
又、前記ウェア本体を、被検体の頭部をカバーする帽子型として、頭部の治療に適用できるようにしたものである。
【0030】
又、前記線量計収容ポケットの一部が、被検体の眼を覆うように位置させて、眼球の被曝線量を的確に検出できるようにしたものである。
【0031】
又、前記帽子型のウェア本体が、被検体の頭部をカバーする半球部と、該半球部に両端が保持された、中央で分割可能な眼当てベルト部と、被検体の襟足をカバーするための、前記半球部から後ろに垂れ下がるエプロン部と、該エプロン部に両端が保持された、被検体の頸部に巻付き可能な首当てベルト部と、を含むようにしたものである。
【0032】
又、前記眼当てベルト部の半球部との接合部近傍に伸長回復性の芯材を装着して、眼当てベルト部の装着の繰り返しにより伸びて変形するのを防止できるようにしたものである。
【0033】
又、前記ウェア本体を、少なくとも被検体の胸部をカバーするTシャツ型又はベスト型として、心臓や肺の治療時に適用できるようにしたものである。
【0034】
又、前記線量計収容ポケットの一部が、被検体の甲状腺の近傍に位置するようにして、甲状腺の被曝線量を的確に検出できるようにしたものである。
【0035】
又、前記Tシャツ型又はベスト型のウェア本体が、被検体の胸部をカバーするための、前胸部で分割して被検体の体幹部に巻付き可能な胴部と、該胴部に上端が保持された、腕の内側で分割して被検体の上腕部に巻付き可能な腕部と、前記胴部に両端が保持された、被検体の頸部に巻付き可能な首当てベルト部と、を含むようにしたものである。
【0036】
本発明は、又、前記の線量計装着ウェアの線量計収容ポケットに線量計を収容して、被検体に装着することを特徴とする体表面被曝線量分布測定方法を提供するものである。
【0037】
又、前記線量計が、封入袋状部材に収容されたアセンブリ状態で、線量計収容ポケットに収容されるようにして、血液や体液による線量計の汚染を防止したものである。
【0038】
本発明は、又、前記の線量計装着ウェアと、該線量計装着ウェアの線量計収容ポケットに収容される線量計と、を備えたことを特徴とする体表面被曝線量分布測定装置を提供するものである。
【0039】
又、前記線量計に、測定箇所を識別するための素子IDを付して、ウェアから取外した後の線量計の識別を容易とし、効率良く作業できるようにしたものである。
【0040】
本発明は、又、初期化された線量計がポケットに収容された線量計装着ウェアを線量計取扱機関から医療機関に渡し、医療機関で被検体に装着して使用した後の線量計装着ウェアを線量計をポケットに収容したまま線量計取扱機関に戻して回収し、線量計取扱機関で線量計の測定値を計測して医療機関に知らせ、線量計取扱機関で測定した線量計の測定値を保管機関で保管することを特徴とする体表面被曝線量分布測定方法を提供するものである。
【0041】
又、前記線量計の測定値を、測定位置に対応する被曝線量分布図として線量計取扱機関から医療機関に知らせるようにして、被曝線量分布の把握を容易としたものである。
【0042】
本発明は、又、前記の方法で測定した被曝線量分布を被検体IDの基に記録する記録手段と、同一位置IDの基に記録された各被曝線量分布を積算する積算手段と、積算した総被曝線量分布を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする体表面被曝線量分布提示装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、線量計収容ポケットに予め線量計を収容した線量計装着ウェアを被検体に装着することによって、治療行為に支障を与えたり、被検体に苦痛を与えたりすることなく、短時間で容易に着脱可能となる。又、線量計の3次元的設置位置を容易に再現できるので、積算が容易で、データの信頼性も高い。更に、ウェアのポケットに収容したままで線量計の移送も容易に行なえる。又、医師が過去の被曝線量分布を把握した上で、放射線の過度の集中を避けて治療することにより、皮膚障害等の発生も防止できる等の優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0045】
本発明の第1実施形態は、患者の頭部被曝線量分布測定に適したもので、図1(患者の頭部に装着した状態を示す正面図)、図2(同じく背面図)、図3(同じく右側面図)、図4(同じく平面図)に示す如く、患者の頭部100をカバーする、頭部に着脱可能な帽子型のウェア本体120と、該ウェア本体120外側の患者頭部装着時に測定箇所に来る位置に配設された、多数(本実施形態では43個)の線量計収容ポケット(以下単にポケットとも称する)130とを備えたものである。
【0046】
前記ウェア本体120は、患者の頭部をカバーする、水泳帽と同様の単純な半球状の半球部122と、該半球部122に両端が保持された、中央で分割可能な眼当てベルト部124と、患者の襟足をカバーするための、前記半球部122から後ろに垂れ下がるエプロン部126(図2、図3参照)と、該エプロン部126に両端が保持された、患者の頸部に巻付き可能な首当てベルト部128と、を含んでいる。
【0047】
前記眼当てベルト部124の正面の分割部には、図1に示した如く、面ファスナ125が配設されており、患者の頭部サイズに合わせて容易に長さ調整可能とされている。
【0048】
又、該眼当てベルト部124と半球部122の接続部には、眼当てベルト部124の装着の繰り返しにより伸びて変形するのを防止するため、図5に断面を示す如く、伸長回復性の高い芯材(例えばパワーネット等の網状伸縮性繊維)123が縫い込まれている。
【0049】
又、前記首当てベルト部128の端部にも、図3に示した如く、面ファスナ129が配設されており、患者の首周りに合わせて容易に調整可能とされている。
【0050】
前記ポケット130の形状は、線量計が簡単に抜け落ちるのを防止するため、図6に示す如く口が窄まった壷状とされている。開口部側の幅を、線量計アセンブリの幅より若干狭く形成しておくと、更に抜け落ちにくくなる。このポケット130は、大きさを一定にし、ウェア本体の伸びを止めないようにフラットで、且つ、生地端からのほつれを防止するため、レーザによりカットされ、自動機により縫製されている。なお、線量計を入れ易くするため、ベルト部124、128に設けるポケット130の位置は、図7、図8に、それぞれ示す如く、ベルト部124、128の上縁からA(2mm程度)だけ下に下げられている。
【0051】
前記ポケット130には、図示したように、例えば1〜43の番号が位置IDとして付されており、ポケットの位置が番号により容易に識別できるようにされている。
【0052】
ここで、前記半球部122上のポケット、例えばポケット番号1〜33は、3次元的に、かつ装着時に互いに隣接するポケット間の距離が100ミリ以下となるように略均等に配置されている。これは、経験的に現在の治療や検査に於ける照射スポット径が120ミリ以上であるのに着目して決定したものである。
【0053】
又、図7に示したように、前記眼当てベルト部124上の4つのポケット34〜37のうち、例えばポケット番号35、36は、患者の眼102の真上に位置させ、ポケット番号34、37は、眼102の端に位置させることができる。
【0054】
又、前記エプロン部126には、図2及び図3に示した如く、頚動脈の部位を測定するための2つのポケット、例えばポケット番号38、41と、襟足部位を測定するための2つのポケット、例えばポケット番号39、40が設けられている。
【0055】
又、前記首当てベルト部128上のポケット、例えばポケット番号42、43は、図1に示したように、甲状腺の近傍に位置させることができる。
【0056】
各ポケットには、例えば特許文献1に記載されたような、例えば、1.0cm四方0.8mm厚の銀を分散させた透明なリン酸塩ガラス等の蛍光ガラス線量計140が、図9(斜視図)及び図10(断面図)に示す如く、血液や体液による汚染を防ぐための、例えばポリエチレンやビニール製の封入袋142に入れられ、その上に着用部位及び素子IDがプリントされた長方形のシール144が折ってC字状に貼られたアセンブリの状態で、前記ポケット130に挿入されている。
【0057】
なお、図11に示す変形例の如く、矩形のシール144を線量計140上に貼り、封入袋142の内側に入れて、シール144も血液や体液で汚染しないようにしてもよい。
【0058】
前記ポケット130の中に入れる線量計140の位置や、患者の頭100の大きさや形状によってずれないよう、前記ウェア本体120及びポケット130は、例えばポリエステル、ポリウレタン、ナイロン等の、例えば水着(スポーツウェア)用の伸縮性と強度を兼ね備えた全方向伸縮性の素材を用い、伸縮可能な縫製糸を用いて、布に対応した縫製が行なわれている。前記全方向伸縮性の素材としては、不織布や、紙、木綿、絹等の伸びない天然繊維を網状に加工して用いることもできる。又、伸縮可能な縫製糸としては、例えばウーリー加工したナイロン、ポリエステル、ポリウレタンを用いることができる。
【0059】
次に、胸部被曝線量分布測定に適したTシャツ型の本発明の第2実施形態を詳細に説明する。
【0060】
本実施形態のTシャツ型のウェア本体150は、図12(患者装着前の(a)正面図及び(b)展開図)及び図13(患者への装着状態を示す(a)正面図及び(b)背面図)を示す如く、患者の胸部をカバーするための、前胸部で分割して患者の体幹部に巻付き可能な胴部152と、該胴部152と一体化された、腕の内側で分割して患者の上腕部110に巻付き可能な腕部154と、前記胴部152に両端が保持された、患者の頸部に巻付き可能な首当てベルト部156と、各部(特に背中及び体幹側面及び上腕外側面)の外側に配設された第1実施形態と同様の線量計収容ポケット130とを含んで構成されている。
【0061】
前記胴部152は、上は首の所まで、下は肋骨下縁までカバーする長さとされている。
【0062】
前記胴部152、腕部154、首当てベルト部156には、これらを患者に巻付けて固定するための面ファスナ153、155、157が、それぞれ設けられている。
【0063】
患者への装着に際しては、線量計を収容したウェア本体150を、ポケット130を外側(ベッド側)にしてベッド上に敷いておき、その上に患者を寝かせてから、体幹部、上腕部、頸部にウェアを巻付けて面ファスナで止める。
【0064】
他の点については、第1実施形態と同じであるので説明は省略する。
【0065】
本実施形態においては、胴部152と腕部154が一体化されているので、腕部154のポケットに収容される線量計位置の再現性が高い。なお、図14に示す第3実施形態の如く、腕部154を別体としたベスト型でも良い。
【0066】
第1乃至第3実施形態のいずれにおいても、ウェア本体120、150は、子供用、大人用など異なる大きさのものを用意することができる。又、面ファスナの代わりに樹脂製のファスナやテープ状ボタン等を用いることもできる。
【0067】
測定に際しては、図15に示す如く、線量計取扱機関200で初期化した線量計140をポケット130に収容した線量計装着ウェア120、150を線量計取扱機関200から医療機関210に送付し、該医療機関210で患者に装着して使用した後の線量計装着ウェア120、150を患者(被検体)IDと共に線量計取扱機関200に戻して回収し、該線量計取扱機関200で計測し、その測定結果を例えば図16に示す如く各位置IDに対応する線量を示す線量分布図の形で描画して医療機関210に知らせることができる。
【0068】
この際、保管機関220において、患者線量分布データを蓄積・管理し、次のように患者被曝データベースを作成することが望まれる。
【0069】
即ち、ある患者が被曝する度に測定した患者線量分布データを、その患者のID毎に被曝を受けた医療機関、被曝日時、照射方法等と共に保管機関220のサーバーに集めて記録し、患者被曝データベースを構築しておく。データベースには、予めそれらの患者被曝データを所定のプログラムにより各位置IDにおける被曝線量を積算して、その患者の総被曝線量分布データも作成しておく。それにより、その患者が次に医療機関210を訪れたときに、その医療機関210からのリクエストにより、それらのデータを、通信回線を介して送信することができる。総被曝線量分布データは、各患者被曝データと所定のプログラムを、通信回線を介して、その医療機関210に送信し、該医療機関210のコンピュータにより作成させることもできる。
【0070】
医療機関210では、得た総被曝線量分布データをモニターに描画したり印刷したりして総被曝量分布データを表示して観察し、あるいは被曝毎の被曝線量分布データを同様にして観察し、今回の照射方法、位置などを検討したり、患者に説明したり、カルテに添付したりすることができる。
【0071】
なお、保管機関220としては、公的機関が望ましい。
【0072】
このようにして、IVR等による患者被曝の実態を容易に知ることが可能となる。更に、放射線による有害事象を、患者単位で詳細に追跡することで、最終的に大規模な疫学的な調査結果が得られる。
【0073】
更に、患者被曝データが医療機関にフィードバックされるようになれば、単に患者の放射線被曝歴管理の徹底という意味のみならず、医師の側にとっても、研修等に用いることで被曝線量低減の技術を向上させることができる。IVRを行う医師は、常日頃より自ら施行した症例の患者被曝データを知ることで、副作用に関する明快な情報を得ることができる。この情報により、医師は実際のIVRを施行するのに先立ち、自験例に基づくリスクとベネフィットを患者に説明することが可能になり、良好な医師−患者関係を築く一助となり得る。
【0074】
前記実施形態においては、放射線を照射したガラスに紫外線を当てると蛍光を発生するラジオフォトルミネッセンス(RPL)現象を利用した蛍光ガラス線量計が用いられていたので、X線透過性で、且つ、反復使用が可能である。なお、線量計の種類は、これに限定されず、放射線で照射された物質を加熱した際に発光する蛍光(熱ルミネッセンス)物質で、その発光量が物質の放射線吸収線量に比例する熱ルミネッセンス物質(TL物質)を用いた熱ルミネッセンス線量計(TLD)、放射線との相互作用によりエネルギを蓄積した物質に光照射を加えたときに現われる蛍光(光刺激ルミネッセンス)を利用したOSL(Optically Stimulated Luminescence)線量計、フィルム線量計、放射線エネルギが一旦蓄積され、後で熱や光等の励起により蛍光を発する現象(輝尽性発光現象)を応用した輝尽性蛍光フィルム(イメージングプレート)、化学線量計(鉄、セリウム、アラニン)、NaI(Tl)シンチレーション・カウンタ、半導体検出器、Si(Li)検出器、Si表面障壁型検出器、電離箱、比例計数管、ガイガー・ミュラー(GM)計数管等、X線を測定できるすべての放射線測定器を用いることができる。
【0075】
なお、前記実施形態においては、本発明が人体へのIVRに適用されていたが、本発明の適用対象は、これに限定されず、動植物を含む生体又は非生体一般の被曝線量分布測定にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】頭部被曝線量分布測定に適した本発明の第1実施形態を患者頭部に装着した状態を示す正面図
【図2】同じく背面図
【図3】同じく右側面図
【図4】同じく平面図
【図5】同じく半球部と眼当てベルト部の接続状態を示す断面図
【図6】同じく線量計収容ポケットの形状を示す正面図
【図7】同じく眼当てベルト部へのポケット取付状態を示す正面図
【図8】同じく首当てベルト部へのポケット取付状態を示す正面図
【図9】同じくポケット挿入前の線量計を示す斜視図
【図10】同じく断面図
【図11】同じくポケット挿入前の線量計の変形例を示す斜視図
【図12】胸部被曝線量分布測定に適したTシャツ型の本発明の第2実施形態の(a)正面図及び(b)展開図
【図13】同じく患者に装着した状態を示す(a)正面図及び(b)背面図
【図14】胸部被曝線量分布測定に適したベスト型の本発明の第3実施形態の(a)展開図及び(b)正面図
【図15】線量計のデータ処理方法を示すブロック図
【図16】同じく線量分布データの一例を示す図
【符号の説明】
【0077】
100…患者頭部
102…眼
110…上腕部
120、150…ウェア本体
122…半球部
123…芯材
124…眼当てベルト部
125、129、153、155、157…面ファスナ
126…エプロン部
128、156…首当てベルト部
130…線量計収容ポケット
140…蛍光ガラス線量計
142…封入袋
144…シール
152…胴部
154…腕部
200…線量計取扱機関
210…医療機関
220…保管機関

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも被検体の複数測定箇所をカバーする、被検体に着脱可能なウェア本体と、
該ウェア本体の被検体装着時に前記測定箇所に来る位置に配設された複数の線量計収容ポケットと、
を備えたことを特徴とする線量計装着ウェア。
【請求項2】
前記ウェア本体が、伸縮性を有する素材でなることを特徴とする請求項1に記載の線量計装着ウェア。
【請求項3】
前記線量計収容ポケットの少なくとも開口部側の幅が、口すぼまり状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の線量計装着ウェア。
【請求項4】
前記線量計収容ポケットの少なくとも開口部側の幅が、線量計アセンブリの幅よりも若干狭く形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の線量計装着ウェア。
【請求項5】
前記線量計収容ポケットを、隣接する線量計との間隔が、100ミリ以下となるように設けることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の線量計装着ウェア。
【請求項6】
前記線量計収容ポケットが、伸縮性を有する素材でなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の線量計装着ウェア。
【請求項7】
前記線量計収容ポケットに、測定箇所に対応する位置IDが付されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の線量計装着ウェア。
【請求項8】
各線量計収容ポケットを、被検体表面に沿うように3次元的に配置したことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の線量計装着ウェア。
【請求項9】
前記ウェア本体が、被検体の頭部をカバーする帽子型とされていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の線量計装着ウェア。
【請求項10】
前記線量計収容ポケットの一部が、被検体の眼を覆うように位置されていることを特徴とする請求項9に記載の線量計装着ウェア。
【請求項11】
前記帽子型のウェア本体が、
被検体の頭部をカバーする半球部と、
該半球部に両端が保持された、中央で分割可能な眼当てベルト部と、
被検体の襟足をカバーするための、前記半球部から後ろに垂れ下がるエプロン部と、
該エプロン部に両端が保持された、被検体の頸部に巻付き可能な首当てベルト部と、
を含むことを特徴とする請求項10に記載の線量計装着ウェア。
【請求項12】
前記眼当てベルト部の半球部との接合部近傍に伸長回復性の芯材を装着したことを特徴とする請求項11に記載の線量計装着ウェア。
【請求項13】
前記ウェア本体が、少なくとも被検体の胸部をカバーするTシャツ型又はベスト型とされていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の線量計装着ウェア。
【請求項14】
前記線量計収容ポケットの一部が、被検体の甲状腺の近傍に位置するようにされていることを特徴とする請求項9又は13に記載の線量計装着ウェア。
【請求項15】
前記Tシャツ型又はベスト型のウェア本体が、
被検体の胸部をカバーするための、前胸部で分割して被検体の体幹に巻付き可能な胴部と、
該胴部に上端が保持された、腕の内側で分割して被検体の上腕部に巻付き可能な腕部と、
前記胴部に両端が保持された、被検体の頸部に巻付き可能な首当てベルト部と、
を含むことを特徴とする請求項13又は14に記載の線量計装着ウェア。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれかに記載の線量計装着ウェアの線量計収容ポケットに線量計を収容して、被検体に装着することを特徴とする体表面被曝線量分布測定方法。
【請求項17】
前記線量計に、測定箇所を識別するための素子IDが付されていることを特徴とする請求項16に記載の体表面被曝線量分布測定方法。
【請求項18】
前記線量計が、封入袋状部材に収納されたアセンブリ状態で線量計収納ポケットに収納されることを特徴とする請求項16又は17に記載の体表面被曝線量分布測定方法。
【請求項19】
請求項1乃至15のいずれかに記載の線量計装着ウェアと、
該線量計装着ウェアの線量計収容ポケットに収容される線量計と、
を備えたことを特徴とする体表面被曝線量分布測定装置。
【請求項20】
前記線量計に、測定箇所を識別するための素子IDが付されていることを特徴とする請求項19に記載の体表面被曝線量分布測定装置。
【請求項21】
初期化された線量計がポケットに収容された線量計装着ウェアを線量計取扱機関から医療機関に渡し、
医療機関で被検体に装着して使用した後の線量計装着ウェアをポケットに線量計を収容したまま線量計取扱機関に戻して回収し、
線量計取扱機関で線量計の測定値を計測して医療機関に知らせ、線量計取扱機関で測定した線量計の測定値を保管機関で保管することを特徴とする体表面被曝線量分布測定方法。
【請求項22】
前記線量計の測定値を、測定位置に対応する被曝線量分布図データとして線量計取扱機関から医療機関に知らせることを特徴とする請求項21に記載の体表面被曝線量分布測定方法。
【請求項23】
請求項16乃至18のいずれかに記載の方法で測定した被曝線量分布を被検体IDの基に記録する記録手段と、
同一位置IDの基に記録された各被曝線量分布を積算する積算手段と、
積算した総被曝線量分布を表示する表示手段と、
を備えたことを特徴とする体表面被曝線量分布提示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−230510(P2006−230510A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46292(P2005−46292)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【出願人】(591031430)株式会社千代田テクノル (22)
【出願人】(592019523)株式会社ゴールドウインテクニカルセンター (35)
【出願人】(000214043)蝶理株式会社 (14)
【Fターム(参考)】