説明

線香用基材

【課題】安定供給性、経済性ならびに機械成型適性に優れ、燻煙に際し殺虫成分であるピレスロイドの揮散率を高め得る物理的性状を備え、しかも燻煙が刺激や異臭を発しないなど、線香用基材としての条件を具備し、除虫菊抽出粕粉や木粉に変わりうる有用な線香用基材を採用した線香を提供すること。
【解決手段】半発酵茶の抽出粕粉を原料の一部に含み、当該抽出粕粉が全重量中の5〜50%であることに基づき、前記課題を達成し得る蚊取線香、又はハエ取り線香等の線香。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線香用基材の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蚊取線香は、蚊の成虫駆除用殺虫剤として100年以上も前から親しまれているもので、マッチ一本で空間処理を時間的にも保持し、燃え尽きるまで効力は一定なので非常に合理的な殺虫形態である。1902年、渦巻型蚊取線香が日本で発明されたが、その原料は、除虫菊乾花の粉末(60〜80%)と粘結剤として椨の葉の粉末(20〜40%)を含む混合粉で、これに水を加えて練合し渦巻状にしたものを乾燥して製造された。このものは、その後第二次世界大戦中もマラリア対策の必需品として使用された。
一方、除虫菊乾花に含まれる殺虫成分(ピレトリン)の化学構造の解明を基礎として類似構造をもつ合成ピレスロイドが開発されるようになった。なかでも、1947年に発明されたアレスリンは、ピレトリンに非常によく似た化学構造を有し、1953年、日米で工業化に至るや蚊取線香の有効成分として使用されるようになった。
蚊取線香の基材としては、従来から木粉や除虫菊抽出粕等がその大部分を占めてきた。除虫菊抽出粕粉末は、燃焼させた時に刺激や異臭が少なく、また捏和、押出、打抜き工程における機械成型適性を備え、線香用基材として優れた原料である。しかしながら、除虫菊エキスの需要が合成ピレスロイドに移行したため、粕粉の生産量も著しく減少し、安定供給面の懸念から、一定品質の蚊取線香を大量に生産するにはその使用量に限界があった。
一方、マツ、スギ、ヒノキ等の木粉については、木材の製材時に副生する木片やチップを粉砕して粉末にするので安価ではあるが、原料木の種類、産地、樹齢、樹の部位、加工工程等の違いにより、その粉末の性質は種々変化するので一定品質のものは得がたい。また、木粉と粘結剤だけの原料を用いて線香を調製すると、線香の物理的性状が密となり有効成分の揮散率が低下し、殺虫効力の面で劣ることを発見した。更に、木粉を大量に用いた場合には、燃焼時に刺激や異臭の原因となったり、あるいは発煙量が多すぎるといった問題を生じる懸念があった。
そこで、除虫菊抽出粕や木粉以外の蚊取線香用基材の探索が試みられてきたが、蚊取線香用基材としては、下記諸条件を満たす必要がある。
(1)有効成分の効力を最大に発揮すること、
(2)安価にかつ安定的に供給されること、
(3)捏和、押出、打抜き工程において優れた機械成型適性を備えていること、
(4)製造された線香が燃焼に際して立ち消えせず、かつ燃焼時間を7時間程度に容易に調整できること、
(5)燻煙に刺激がなく、かつ異臭を発しないこと。
例えば、特公昭46−27839号公報(特許文献1)には、麦酒醸造に使用したるホップ絞り粕を用いること、特公昭61−11921号公報(特許文献2)には、サツマイモの発酵粕粉末を配合すること、更に、特公昭61−23762号公報(特許文献3)には、ニセアカシアの葉の乾燥粉末を用いることなどが提案されている。しかしながら、いずれも上記条件を十分満足させ得るものでなく、実用に至ったとしても一部少量の配合に止まっているのが現状である。
また、近年、ハエの発生は、都市部では減っているが、漁村、魚介類加工場、ゴミ処理場や畜舎、鶏舎などの周辺では従来以上に悩まされる機会が多くなっている。その対策として、空間処理用のハエ取り線香の需要が高まっており、蚊取線香だけでなく、ハエ取り線香も含めて基材検討が求められている。
ところで、茶等の茎葉植物の線香基材への適用については、例えば、特許文献2に支燃剤として使用できる旨の記載がある。しかしながら、当時ティーバッグ用途に転用された茶葉自体の粉砕粉はコストが高く、特異臭があるため、線香基材として使用するにしても少量の配合に止まり、茶の種類や性状等に基づいてその適性が格別検討されたわけではなかった。近年、茶飲料としてティーバッグの使用が減り、ペットボトルに充填されて自動販売機で市販される抽出茶が普及するに伴い、茶の抽出粕は産業廃棄物として安価に入手可能となった。本発明者らは、かかる現状を鑑み、茶の抽出粕の有効利用に着目し、線香用基材への使用を検討した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭46−27839号公報
【特許文献2】特公昭61−11921号公報
【特許文献3】特公昭61−23762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、安定供給性、経済性ならびに機械成型適性に優れ、燻煙に際し殺虫成分であるピレスロイドの揮散率を高め得る物理的性状を備え、しかも燻煙が刺激や異臭を発しないなど、線香用基材としての条件を具備し、除虫菊抽出粕や木粉に変わりうる有用な線香用基材を採用した線香を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用する。
(1)半発酵茶の抽出粕粉を原料の一部に含み、当該抽出粕粉が全重量中の5〜50%であることに基づく線香。
(2)線香が蚊取線香、又はハエ取り線香であることを特徴とする(1)記載の線香。
【発明の効果】
【0006】
本発明の線香に使用される半発酵抽出粕粉は、安定供給性、経済性に優れ、燻煙に際し殺虫成分であるピレスロイドの揮散率を高め得る物理的性状を備え、しかも燻煙が刺激や異臭を発しないなど、線香用基材としての条件を具備し、除虫菊抽出粕や木粉に変わりうるので本発明の線香の実用性は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0007】
茶は、大きく分けると、緑茶(不発酵茶)、半発酵茶及び発酵茶の3種類あり、製造の前段階で茶葉のカテキン類の酸化発酵をどの程度進ませるかによって分類されている。
緑茶(不発酵茶)は、茶葉を蒸す、炒る、煮るなどの方法で最初に葉の酸化酵素の働きを止めて加工したもので、加工方法や産地等の違いによって、煎茶、かぶせ茶、玉露、番茶などに分けられる。
また、半発酵茶は、まず茶芽を太陽の光に少時晒し、茶葉温度を上げて茶芽に含まれる芳香成分の量を葉内酵素の働きで増加させた後、茶芽を釜で炒って殺青し、これを直火か熱風にて乾燥させて製する。半発酵茶には、茶葉のカテキン類を軽度に酸化発酵させた包種茶と、中程度に進んだウーロン茶がある。前者の包種茶は高い芳香を発するのが特長で主に台湾で作られており、一方、後者のウーロン茶は芳香性の点では前者に劣るものの滋味が濃く、中国や台湾が主産地となっている。
本発明者らは、半発酵茶の抽出粕が、安価に入手でき、茶葉自体の粉砕粉に比べて特異臭が軽減され、更に木粉のみの原料に比べてよりポーラスに線香を調製できるため有効成分の揮散率向上に寄与し得ることなど、前記線香用基材としての条件を満足することを初めて見出し本発明を完成した。
半発酵茶の抽出粕の線香中における配合量は、線香の種類や用途、原料の調達状況等を考慮して5〜50質量%の範囲で適宜決定すればよい。
なお、発酵茶(紅茶)は茶葉を完全に発酵して揉みながら乾燥させたもので、その抽出粕粉には、半発酵茶の抽出粕粉ほど、線香基材として適正が認められなかった。明確な理由は不明であるが、茶葉のカテキン類を完全に酸化発酵させることが関連しているものと考えられる。
本発明の線香用基材が配合される蚊取線香やハエ取り線香は、対象害虫に対する殺虫効力や経済性等を考慮して0.01〜0.5質量%程度の有効成分を含有する。かかる有効成分としては、アレスリン、プラレトリン、ピレトリン、フラメトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、エムペントリン、4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシラート(以降、化合物Aと称する)等の各種ピレスロイド系殺虫成分あるいはそれらの任意の異性体が好適であるがこれらに限定されない。
また、前記線香は、効力増強剤として、N−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド(以降、効力増強剤Aと称する)を、有効成分量に対して0.1倍量以上、好ましくは2.0倍量以上配合するのが好ましい。これは、効力増強剤Aを有効成分と適量な組み合わせで併用した場合、有効成分が線香に含まれる水や効力増強剤Aとともに一種の水蒸気蒸留によって、最も効率的に揮散し、拡散が助長され、昆虫生理学的な効力増強効果と相まって、顕著な相乗効果を奏し得るためである。
本発明の線香用基材とともに配合されるものとしては、粘結剤や他種支燃剤があり、前者の粘結剤には、タブ粉、澱粉、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等があげられる。また、後者の他種支燃剤としては、除虫菊抽出粕粉、木粉、柑橘類の表皮粉、ニセアカシアの葉の乾燥粉末、ココナッツシェル粉末等の植物性粉末、ならびに珪藻土、ゼムライト、素灰等の無機粉末等を例示できる。
前記線香には、必要により、色素、防腐剤、安定剤等が含有されてもよい。色素としては、例えばマラカイトグリーン等の有機染料があげられ、防腐剤としては、例えばソルビン酸、デヒドロ酢酸、p−ヒドロキシ安息香酸等の酸、あるいはそれらの塩等が代表的である。また、安定剤としては、2,6−ジ−ターシャリーブチル−4−メチルフェノール(BHT)や2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−ターシャリーブチルフェノール)等があげられるがこれらに限定されない。
更に、本発明の趣旨を妨げない限りにおいて、殺菌剤、抗菌剤、忌避剤、あるいは芳香剤、消臭剤等を混合し、効力のすぐれた多目的組成物を得ることもできる。
本発明の線香用基材を用いた線香を調製するにあたっては、何ら特別の技術を必要とせず、公知の製造方法を採用できる。例えば、プレミックス粉(有効成分や効力増強剤等を支燃剤の一部に含有させたもの)と残部の線香基材を混合したものに水を加えて混練し、続いて、押出機、打抜機によって成型後、乾燥して蚊取線香もしくはハエ取り線香を製すればよい。また、線香基材のみを用いて成型後、これに有効成分等を含む液剤をスプレーあるいは塗布するようにしても構わない。
本発明の線香用基材を用いた線香は、アカイエカ、コガタアカイエカ、ネッタイイエカ、ネッタイシマカ、ハマダラカ、チカイエカ等の蚊類、イエバエ、キンバエ、ニクバエ、チョエバエ、コバエ等のハエ類に卓効を示すが、もちろん、ゴキブリ、屋内塵性ダニ類等の衛生害虫、あるいはユスリカ、アブ等の種々の害虫にも有効であり、その実用性は極めて高い。
【実施例1】
【0008】
化合物A(0.15部)、効力増強剤A(0.3部)、及び2,6−ジ−ターシャリーブチル−4−メチルフェノール0.1部を、線香基材99.45部(包種茶抽出粕粉25部、ココナッツシェル粉末20部、木粉30部、椨粉、澱粉等からなる混合粉)に均一に混合後、防腐剤を含む水を加え、公知の方法によって本発明によるハエ取り線香を得た。
【実施例2】
【0009】
表1に示す処方の蚊取線香を調製した。
すなわち、マラカイトグリーンを除く線香用混合粉100部に、着色剤のマラカイトグリーンと防腐剤を含む水100部を加えて十分に捏和した後、公知の方法によって渦巻状の蚊取線香を得た。
【0010】
【表1】


【0011】
表1に従って製造したそれぞれの蚊取線香につき、諸特性を測定した結果を表2に示す。
なお、蚊取線香の殺虫効力及び燻煙時間は、下記の基準によって評価した。
[25m3の部屋での実地殺虫効力試験]
閉めきった25m3の部屋にアカイエカ雌成虫100匹を放った後、部屋の中央に点火した供試蚊取線香(実施例1又は実施例2に準じて調製)を置いた。2時間暴露させ、時間経過に伴い落下仰転したアカイエカ雌成虫を数え、KT50値を求めた。
[燻煙時間]:長;>7時間30分、標準;6時間30分〜7時間30分、
短;<6時間30分。
【0012】
【表2】


【0013】
各試験の結果、半発酵茶の抽出粕を乾燥し、粉砕して得た粉末を線香用基材に用いた蚊取線香は、比較例のものと比べて、殺虫効力、機械成型適性、燻煙時間の特性において同等以上に優れ、燻煙時の刺激、特異臭の問題もなかった。従って、半発酵茶の抽出粕粉は、原料の安定供給の面で懸念される除虫菊抽出粕粉の代替品として使用可能である。
これに対し、比較例1のように、除虫菊抽出粕粉を木粉等で置き換えようとすると、粘結剤の増量が避けられず、線香が密となり有効成分揮散率を低減させ、殺虫効力の低下を招いた。また、完全発酵茶である紅茶の抽出粕粉は、比較例2に示すように、特異臭があり、線香用基材として半発酵茶の抽出粕粉ほどの適性が認められなかった。なお、緑茶葉粉砕粉は、飲料用に用いられるため、線香用基材としては経済性に劣り実用化
は困難であった。
【実施例3】
【0014】
表3に示す処方のハエ取り線香を調製した。
すなわち、線香用混合粉100部に、防腐剤を含む水100部を加えて十分に捏和した後、公知の方法によって渦巻状のハエ取り線香を得た。
【0015】
【表3】


【0016】
表3に従って製造したそれぞれのハエ取り線香につき、諸特性を測定した結果を表4に示す。なお、燻煙時間の基準は蚊取線香と同様とした。
[25m3の部屋での実地殺虫効力試験]
閉めきった25m3の部屋にイエバエ雌成虫100匹を放った後、部屋の中央に点火した供試ハエ取り線香(実施例2に準じて調製)を置いた。3時間暴露させ、時間経過に伴い落下仰転したイエバエ雌成虫を数え、KT50値を求めた。
【0017】
【表4】



【0018】
各試験の結果、半発酵茶の抽出粕を乾燥し、粉砕して得た粉末を線香用基材に用いたハエ取り線香は、比較例のものと比べて、殺虫効力、機械成型適性、燻煙時間の特性において同等以上に優れ、燻煙時の刺激、特異臭の問題もなかった。従って、半発酵茶の抽出粕粉は、原料の安定供給の面で懸念される除虫菊抽出粕粉の代替品として使用可能である。
これに対し、実施例3の蚊取線香の場合と同様、比較例2のように、除虫菊抽出粕粉を木粉等で置き換えようとすると、粘結剤の増量が避けられず、線香が密となり有効成分揮散率を低減させ、殺虫効力の低下を招いた。また、完全発酵茶である紅茶の抽出粕粉は、比較例3に示すように、特異臭があり、線香用基材として半発酵茶の抽出粕粉ほどの適性が認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、蚊取線香やハエ取り線香の製造分野において、須らく利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半発酵茶の抽出粕粉を原料の一部に含み、当該抽出粕粉が全重量中の5〜50%であることに基づく線香。
【請求項2】
線香が蚊取線香、又はハエ取り線香であることを特徴とする請求項1記載の線香。

【公開番号】特開2009−242429(P2009−242429A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167912(P2009−167912)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【分割の表示】特願2007−120666(P2007−120666)の分割
【原出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】