説明

締結構造体

【課題】部品点数の増加及び配置自由度の低減を抑制しつつ、十分な強度を確保することができる締結構造体を提供する。
【解決手段】中空部材11は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、対向する蓋壁部11c及び底壁部11dを有して筒状に成形されている。蓋壁部11c、底壁部11dには、嵌合孔16、取付孔17がそれぞれ形成されている。鉄製の締結部材13は、嵌合孔16に嵌挿されて取付孔17の周縁部で底壁部11dの内壁面に当接する。締結部材13には、底壁部11dの内壁面に当接する先端面から穿設された雌ねじ部22aが形成されている。ボルト31は、取付孔17に挿入されて雌ねじ部22aに螺合される。締結部材13には、蓋壁部11cから露出されて、被締結部材14を締結するためのボルト32に螺合される雌ねじ部24aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる中空部材に被締結部材を締結するための締結構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、こうした締結構造体としては、例えば図6に示されるものが知られている。すなわち、この締結構造体は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる略四角筒状の中空部材91と、該中空部材91にアーク溶接にて接合されたアルミニウム又はアルミニウム合金からなるブロック状のブラケット92とを備える。そして、ブラケット92の中空部材91から離隔する側の先端部には、被締結部材(図示略)を締結するためのナット93が圧入又はカシメによって固着されている。従って、被締結部材は、該被締結部材に挿入されるボルト(図示略)の雄ねじ部がナット93の雌ねじ部と螺合することで、ブラケット92に締結される。このように、中空部材91及び被締結部材の締結にブラケット92を介在させるのは、これら中空部材91及び被締結部材の各々の形状又は配置の自由度を増大するためである。
【0003】
この場合、中空部材91及びブラケット92の結合に係る、アルミニウム又はアルミニウム合金同士の溶接部が強度不足になる可能性がある。また、アルミニウム又はアルミニウム合金同士の溶接が必要になる分、例えば鉄同士の溶接に比べてコストが増大してしまう。さらに、アルミニウム又はアルミニウム合金製のブラケット92を採用することにより、コストの増大を余儀なくされる。
【0004】
一方、別の従来の締結構造体としては、例えば図7に示されるものが知られている。すなわち、この締結構造体は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる略四角筒状の中空部材96と、該中空部材96にボルト−カシメナット又はリベットなどの締結具97により締結される鉄製のブロック状のブラケット98とを備える。そして、ブラケット98の中空部材96から離隔する側の先端部には、被締結部材(図示略)を締結するためのウェルドナット99が固着されている。従って、被締結部材は、該被締結部材に挿通されるボルト(図示略)の雄ねじ部がウェルドナット99の雌ねじ部と螺合することで、ブラケット98に締結される。
【0005】
この場合、アルミニウム又はアルミニウム合金製の中空部材96と鉄製のブラケット98とを締結する締結具97が強度不足になる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−280004号公報(第8図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
なお、例えば特許文献1では、中空部材(42)及び被締結部材(30)の間に固定手段(50)を介在させてこれら中空部材及び被締結部材を締結することが提案されている。しかしながら、中空部材及び固定手段の締結にあたってボルト(20B)と螺合するナット(22)が必要になる分、部品点数の増大を余儀なくされる。また、固定手段は、中空部材の幅方向外側で被締結部材に締結される構成のため、固定手段が当該方向に大型化してその配置自由度を低減する可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、部品点数の増加及び配置自由度の低減を抑制しつつ、十分な強度を確保することができる締結構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、対向する一対の壁部を有して筒状に成形された中空部材と、前記一対の壁部のいずれか一方に形成された嵌合孔と、前記嵌合孔と同心で前記一対の壁部のいずれか他方に形成された取付孔と、前記嵌合孔に嵌挿されて前記取付孔の周縁部で該取付孔の形成された前記壁部の内壁面に当接する鉄製の締結部材と、前記締結部材に形成され、前記取付孔の形成された前記壁部の内壁面に当接する先端面から穿設された雌ねじ部と、前記取付孔に挿入されて前記雌ねじ部に螺合され、前記取付孔の形成された前記壁部及び前記締結部材を締結するボルトと、前記締結部材に形成され、前記嵌合孔の形成された前記壁部から露出されて、被締結部材を前記締結部材に締結するための締結具に螺合されるねじ部とを備えたことを要旨とする。
【0010】
同構成によれば、前記取付孔が形成された前記壁部(中空部材)と、前記嵌合孔に嵌挿された前記締結部材とは、前記ボルトが前記取付孔に挿入されて前記締結部材の前記雌ねじ部に螺合されることで締結する。一方、前記締結部材及び前記被締結部材は、前記締結具が前記締結部材の前記ねじ部に螺合されることで締結する。以上により、前記中空部材及び前記被締結部材を、前記締結部材を介して締結することができる。この場合、前記中空部材及び前記締結部材の結合(締結)において、従来のような溶接部やカシメナット又はリベットなどで発生する強度不足を回避することができる。あるいは、鉄製の前記締結部材は、前記一対の壁部間に亘って前記嵌合孔及び前記取付孔の中心線方向に延在して前記被締結部材を支えることで、従来のようなブラケットに比べて強度を増大することができる。また、前記中空部材及び前記被締結部材の締結に係る前記雌ねじ部及び前記ねじ部を前記締結部材に一体形成したことで、部品点数の増加を抑制することができる。さらに、前記締結部材は、前記嵌合孔及び前記取付孔の中心線周りに集約的に配置されることで、その配置自由度を増大することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の締結構造体において、前記締結部材は、前記嵌合孔の周縁部で該嵌合孔の形成された前記壁部の外壁面に当接するフランジを有することを要旨とする。
【0012】
同構成によれば、前記中空部材は、前記ボルト(頭部)及び前記フランジにより前記嵌合孔及び前記取付孔の中心線方向に挟まれることで、前記締結部材に対しより堅固に締結することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の締結構造体において、前記嵌合孔及び該嵌合孔に嵌挿される前記締結部材の間には、前記中空部材及び前記締結部材の相対回動を規制する回り止め手段が設定されていることを要旨とする。
【0014】
同構成によれば、前記中空部材及び前記締結部材は、前記回り止め手段により相対回動が規制されることで、例えば前記雌ねじ部に前記ボルトを螺合する際、又は前記ねじ部に前記締結具を螺合する際の前記締結部材の連れ回りを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、部品点数の増加及び配置自由度の低減を抑制しつつ、十分な強度を確保することができる締結構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態を示す横断面図。
【図2】同実施形態を示す斜視図。
【図3】バッテリフレームを示す斜視図。
【図4】本発明の変形形態を示す横断面図。
【図5】本発明の変形形態を示す横断面図。
【図6】従来形態を示す斜視図。
【図7】別の従来形態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態について図面に従って説明する。
図3は、電気自動車やハイブリッド車などが備える高電圧バッテリを搭載するためのバッテリフレーム10を概略的に示す斜視図である。同図に示されるように、このバッテリフレーム10は、互いに平行になるように延在する一対の中空部材11と、これら中空部材11間に橋渡しされて各々の先端に接合される一対のフレーム12とを備えて略四角枠形状を呈している。そして、各中空部材11には、その延在方向に間隔をおいて、複数(3つ)の鉄製の締結部材13が締結されている。各締結部材13には、中空部材11に対し図3における上側に離隔する状態で、被締結部材14(図1参照)が締結される。
【0018】
次に、締結部材13を介した中空部材11及び被締結部材14の締結構造体について説明する。
図1に示されるように、中空部材11は、アルミニウム又はアルミニウム合金の押出材からなる。中空部材11は、図1における左右方向に間隔をおいて対向する一対の側壁部11a,11bと、両側壁部11a,11bの一側(図1の上側)の先端間及び他側(図1の下側)の先端間をそれぞれ接続する一対の壁部としての蓋壁部11c及び底壁部11dとを有して略四角筒状に成形されている。そして、蓋壁部11cには、略小判形の嵌合孔16が形成されている。嵌合孔16は、中空部材11の延在方向に並設される各締結部材13の位置に合わせて複数(3つ)配設されている。また、底壁部11dには、嵌合孔16と同心で円形の取付孔17が形成されている。
【0019】
締結部材13は、図1における上下方向に延在する柱状に成形されている。図2に併せ示されるように、締結部材13は、嵌合孔16に嵌挿される略小判形の嵌合壁部21と、該嵌合壁部21の中央部に突設された略円柱状の第1突設部22と、嵌合壁部21の図1における上側に隣接配置された円盤状のフランジ23と、該フランジ23の中央部に上向きに突設された略円柱状の突設部としての第2突設部24とを一体的に有する。これら嵌合壁部21、第1突設部22、フランジ23及び第2突設部24は、嵌合孔16及び取付孔17の中心線と同心に配置される。
【0020】
嵌合孔16及び嵌合壁部21は、略小判形の内壁面及び外壁面の嵌合によって、中空部材11及び締結部材13の相対回動を規制する(回り止め手段)。
第1突設部22は、嵌合壁部21から図1において下向きに突出しており、取付孔17の周縁部で底壁部11dの内壁面に当接する。フランジ23は、嵌合孔16の最大内径よりも大きな外径を有しており、嵌合孔16の周縁部で蓋壁部11cの外壁面に当接する。なお、第1突設部22には、その先端面から取付孔17と同心で穿設された雌ねじ部22aが形成されている。中空部材11及び締結部材13は、各取付孔17に挿通されたボルト31の雄ねじ部31aと雌ねじ部22aとの螺合による底壁部11d及び第1突設部22の締結によって結合する。
【0021】
第2突設部24は、フランジ23から図1において上向きに突出する。従って、第2突設部24は、フランジ23とともに蓋壁部11cから露出されている。そして、第2突設部24には、その先端面から中心線に沿って穿設されたねじ部としての雌ねじ部24aが形成されている。締結部材13及び被締結部材14は、該被締結部材14のボルト挿通孔14aに挿通された締結具としてのボルト32の雄ねじ部32aと雌ねじ部24aとの螺合による第2突設部24及び被締結部材14の締結によって結合する。
【0022】
以上により、中空部材11及び被締結部材14は、締結部材13を介して締結される。
(1)本実施形態では、中空部材11及び被締結部材14を、締結部材13を介して締結することができる。この場合、中空部材11及び締結部材13の結合(締結)において、従来のような溶接部やカシメナット又はリベットなどで発生する強度不足を回避することができる。あるいは、鉄製の締結部材13は、蓋壁部11c及び底壁部11d間に亘って嵌合孔16及び取付孔17の中心線方向に延在して被締結部材14を支えることで、従来のようなブラケットに比べて強度を増大することができる。また、中空部材11及び被締結部材14の締結に係る雌ねじ部22a,24aを締結部材13に一体形成したことで、部品点数の増加を抑制することができる。さらに、締結部材13は、嵌合孔16及び取付孔17の中心線周りに集約的に配置されることで、その配置自由度を増大することができる。
【0023】
さらにまた、締結部材13を鉄製にすることにより、コストを削減することができる。
(2)本実施形態では、中空部材11は、ボルト31(頭部)及びフランジ23により嵌合孔16及び取付孔17の中心線方向に挟まれることで、締結部材13に対しより堅固に締結することができる。
【0024】
(3)本実施形態では、中空部材11及び締結部材13は、嵌合孔16の内壁面及び嵌合壁部21の外壁面の嵌合によって相対回動が規制されることで、例えば雌ねじ部22aにボルト31を螺合する際、又は雌ねじ部24aにボルト32を螺合する際の締結部材13の連れ回りを抑制することができる。
【0025】
(4)本実施形態では、第2突設部24の突出分だけ中空部材11から離れた位置で、被締結部材14を締結部材13に締結することができる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0026】
・図4に示されるように、第2突設部24を割愛した締結部材41を採用してもよい。この場合、蓋壁部11cから露出されるフランジ23には、その先端面から中心線に沿って穿設されたねじ部としての雌ねじ部42が形成されている。そして、前記実施形態と同様、締結部材41及び被締結部材14は、ボルト32の雄ねじ部32aと雌ねじ部42との螺合によるフランジ23及び被締結部材14の締結によって結合する。このように変更することで、蓋壁部11cから露出するフランジ23(締結部材41)の先端面に密着する位置で、被締結部材14を締結部材13に締結することができる。
【0027】
・図5に示されるように、断面略「日」の字の筒状に成形された中空部材46を採用してもよい。すなわち、この中空部材46は、図5における上下方向に間隔をおいて対向する一対の側壁部46a,46bと、両側壁部46a,46bの一側(図5の左側)の先端間及び他側(図5の右側)の先端間をそれぞれ接続する一対の壁部としての蓋壁部46c及び底壁部46dと、両側壁部46a,46b間を二分する中リブ46eとを有する。そして、前記嵌合孔16及び前記取付孔17は、中リブ46eよりも側壁部46a側で、蓋壁部46c及び底壁部46dに配設されている。なお、ボルト31による底壁部46d及び第1突設部22の締結は、前記実施形態と同様である。
【0028】
・前記実施形態において、第2突設部24に、ねじ部としての雄ねじ部を形成してもよい。
・前記実施形態において、中空部材11,46は、対向する一対の壁部を有するのであれば、五角以上の多角筒状や一部が円弧の筒状であってもよい。
【0029】
・本発明は、その他の車両外装部品や車両用以外の部品に適用してもよい。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)請求項1〜3のいずれか一項に記載の締結構造体において、
前記締結部材は、前記嵌合孔から突出する突設部を有し、
前記ねじ部は、前記突設部に形成されていていることを特徴とする締結構造体。同構成によれば、前記突設部の突出分だけ前記中空部材から離れた位置で、前記被締結部材を前記締結部材に締結することができる。
【0030】
(ロ)請求項2に記載の締結構造体において、
前記ねじ部は、前記フランジの先端面から穿設されたねじ孔であることを特徴とする締結構造体。同構成によれば、前記フランジの先端面に密着する位置で、前記被締結部材を前記締結部材に締結することができる。
【符号の説明】
【0031】
11,46…中空部材、11c,46c…蓋壁部(壁部)、11d,46d…底壁部(壁部)、13,41…締結部材、14…被締結部材、16…嵌合孔(回り止め手段)、17…取付孔、21…嵌合壁部(回り止め手段)、22a…雌ねじ部、23…フランジ、24a,42…雌ねじ部(ねじ部)、31…ボルト、32…ボルト(締結具)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、対向する一対の壁部を有して筒状に成形された中空部材と、
前記一対の壁部のいずれか一方に形成された嵌合孔と、
前記嵌合孔と同心で前記一対の壁部のいずれか他方に形成された取付孔と、
前記嵌合孔に嵌挿されて前記取付孔の周縁部で該取付孔の形成された前記壁部の内壁面に当接する鉄製の締結部材と、
前記締結部材に形成され、前記取付孔の形成された前記壁部の内壁面に当接する先端面から穿設された雌ねじ部と、
前記取付孔に挿入されて前記雌ねじ部に螺合され、前記取付孔の形成された前記壁部及び前記締結部材を締結するボルトと、
前記締結部材に形成され、前記嵌合孔の形成された前記壁部から露出されて、被締結部材を前記締結部材に締結するための締結具に螺合されるねじ部とを備えたことを特徴とする締結構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の締結構造体において、
前記締結部材は、前記嵌合孔の周縁部で該嵌合孔の形成された前記壁部の外壁面に当接するフランジを有することを特徴とする締結構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の締結構造体において、
前記嵌合孔及び該嵌合孔に嵌挿される前記締結部材の間には、前記中空部材及び前記締結部材の相対回動を規制する回り止め手段が設定されていることを特徴とする締結構造体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−31885(P2012−31885A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169650(P2010−169650)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】