説明

締結機構およびそれを用いたスタビライザ

【課題】大型化することなく、緩み防止を実現することができる締結機構およびそれを用いたスタビライザを提供する。
【解決手段】締結機構112では、被締結部材103,104の締結時、ラチェット機構15,32A同士が噛み合う。また、ラチェット機構16,103B同士が噛み合う。この場合、荷重を印加しても、筒状部11,12の当接部は相手部材に対して摺動しないから、ラチェット機構同士の噛み合いが確実に行われる。高さ設定部33の下端部は、被締結部材103の上面に当接し、ばね1の軸線方向長を所定長に設定することができる。ばね1自体の固有振動数は非常に高いから、高周波振動が入力しても、ばね1でのサージングの発生を防止することができる。また、被締結部材103,104に変位入力がなされても、ばね1の動的ばね定数が小さいから、荷重を安定して負荷することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定治具により被締結部材同士を締結する締結機構およびそれを用いたスタビライザに係り、特に、固定治具の緩み止め技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業や、精密機器産業、家電、建築等の各種分野では、振動伝達を抑制する技術が要求されている。たとえば車両は、スタビライザおよびサスペンションを備え、スタビライザは、車体のロールを抑制することにより乗員の乗り心地や操縦安定性の向上を図る装置として用いられ、サスペンションは、車輪が路面から衝撃を受けたときに生じる衝撃の車体への伝達を抑制する装置として用いられている(たとえば特許文献1)。
【0003】
スタビライザは、略コ字形状を有するバーを備え、ブッシュを介して車体に取り付けられている。スタビライザの両端部には、スタビリンクを介してサスペンションが締結されている。たとえば図9に示すように、スタビリンク220のスタッド部221のねじ部221Aおよびナット230が締結機構240として機能し、この場合、スタビライザ210の両端部の孔部にスタッド部221を挿入し、ナット221をねじ部221Aに螺合させることにより、スタビライザ210をスタビリンク220に締結する。なお、符号222はハウジング、符号223はサポートバー、符号224はダストカバーである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−18697号公報
【特許文献2】特開平11−153122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、車両では、路面からの振動が、たとえばストッパショック等の高周波振動であるとき、サスペンションによる振動伝達の抑制が困難となる。この場合、図9に示す締結機構240では、振動によってナット230が緩んで脱落してしまい、スタビライザ210がスタビリンク220から離脱する虞がある。特にスタビライザの分野において、スタビライザ210をスタビリンク220に締結するための締結機構240では、ナット230の緩み止め対策が行われていなかった。
【0006】
緩み止め対策として、たとえばボルトおよび座金を備える締結機構において、ラチェット構造を座金に形成し、座金と相手部材とに間にコイルばねを設ける技術が提案されている(たとえば特許文献2)。このような特許文献2の技術をスタビライザの締結部に適用することが考えられる。
【0007】
しかしながら、上記のように特許文献2の技術を適用した場合、締結機構および被締結部材からなる系の固有振動数とは異なる固有振動数でコイルばね自体が振動する(すなわち、コイルばねにサージングが発生する)。そのため、コイルばねによる荷重が低下する結果、特許文献2の技術を適用しない場合と同様、ナットが脱落する虞がある。また、コイルばねは軸線方向の長さが長いため、締結機構が大型化する。
【0008】
したがって、本発明は、大型化することなく、緩み防止を実現することができる締結機構およびそれを用いたスタビライザを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の締結機構は、被締結部材を締結する固定治具と、固定治具に対向する被締結部材と固定治具との間に配置されるばねとを備え、ばねは、孔部を有する本体部と、 本体部の内周部および外周部に設けられた筒状部と、本体部と筒状部との境界部に形成された角部とを備え、本体部は、軸線方向に交差する方向に延在し、筒状部は、内周部および外周部から、それぞれの相手部材に向けて突出してそこに当接する当接部を有し、角部は、その角度が締結力に応じて変化するように弾性変形可能であり、当接部の少なくとも一方は、相手部材に噛み合うラチェット機構を有し、被締結部材と固定治具との間に、締結時のばねの軸線方向長を設定するする軸線方向長設定部材が設けられていることを特徴とする。なお、相手部材は、固定治具あるいは被締結部材である。
【0010】
本発明の締結機構では、本体部、筒状部、および それらの境界部に形成された角部を有するばねでは、荷重印加時、角部が弾性変形することができるから、筒状部における角部と相手部材との間の距離を適宜設定することにより、荷重印加時に筒状部の相手部材近傍の部位の変形を防止することができる。これにより、固定治具による被締結部材同士の締結時、被締結部材と固定治具との間に配置されるばねに荷重を印加しても、筒状部の当接部は相手部材に対して摺動しない。
【0011】
したがって、当接部のラチェット機構は確実に相手部材に噛み合うことができる。よって、固定治具の緩み方向の回転を防止することができる。また、軸線方向長設定部材は、ばねの軸線方向長を所定長に設定することができるから、ばねでは、弾性領域において所望のたわみ量に設定することができる。固定治具の脱落防止のための所望の荷重を発生することができる。
【0012】
さらに、ばねは重量が軽いから、ばね自体の固有振動数は非常に高いから、高周波振動が入力しても、その振動数は、ばね自体の固有振動数と比較して非常に小さく無視できる程である。したがって、ばねでのサージングの発生を防止することができるから、サージングの発生による荷重変動を防止することができる。また、ばねの荷重特性でヒステリシスが発生しなく、ばねの動的ばね定数が小さいから、被締結部材に変位入力がなされても、荷重を安定して負荷することができる。
【0013】
以上のことから本実施形態では、固定治具の脱落を効果的に防止することができる。また、本体部が皿ばね部として機能するから、コイルばねを用いる場合と比較して小さな変位で大きな荷重を支持することができる。また、筒状部の当接部にラチェット機構を設けることができ、ラチェット機構を有する別部品を用いる必要がないから、部品点数の低減を図ることができる。さらに、ばねは、コイルばねと比較して軸線方向長が短くすることができるから、締結機構の小型化を図ることができる。
【0014】
本発明の締結機構は種々の構成を用いることができる。たとえば、ラチェット機構の係合歯の軸線方向長は、固定治具のねじのピッチよりも大きい態様を用いることができる。この態様では、高周波振動が相手部材に入力しても、固定治具の緩み方向の回転をより確実に防止することができる。
【0015】
本発明のスタビライザは、本発明の締結機構によりスタビリンクに締結されることを特徴とする。本発明のスタビライザは、本発明の締結機構と同様な効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の締結機構あるいはそれを用いたスタビライザによれば、大型化することなく、緩み防止を実現することができる等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る締結機構の一例の概略設置状態を表す側断面図である。
【図2】図1に示す締結機構において固定治具として用いたボルトの構成を表す側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る締結機構の他例の概略設置状態を表し、(A)は締結機構の上端部の側面図、(B)は締結機構の下端部の側面図、(C)は全体の側断面図である。
【図4】図3に示す締結機構において固定治具として用いたナットの構成を表し、(A)は斜視図、(B)は側断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る締結機構で用いられるばねの構成を表し、(A)はばねの斜視図、(B)はばねの側面図、(C)は部材間に配置されたばねの右側部分の側断面図である。
【図6】図5のばねの右側部分の動作状態を表し、(A)は、ばねの動作前(点線)と動作時(実線)の側断面図であり、(B)は、ばねの動作時の第1角部および第2角部の拡大側断面図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係るサスペンション装置で使用されるばねの実施例の荷重特性の実験結果の一部を表すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態に係る締結機構の他例を用いてスタビライザをスタビリンクに締結した状態を表す側断面図である。
【図9】従来の締結機構を用いてスタビライザをスタビリンクに締結した状態を表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1)実施形態の構成
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る締結機構111の概略設置状態を表す側断面図である。図2は、図1に示す締結機構111で用いたボルト21の構成を表す側面図である。図3は、本発明の一実施形態に係る締結機構112の概略設置状態を表し、(A)は締結機構112の上端部の側面図、(B)は締結機構112の下端部の側面図、(C)は全体の側断面図である。図4は、図3に示す締結機構112で用いたナット31の構成を表し、(A)は斜視図、(B)は側断面図である。
【0019】
図1に示す締結機構111では、図2に示すボルト21を用い、ボルト21と被締結部材101との間にばね1を配置し、被締結部材101,102を締結している。ボルト21は、図1,2に示すように、大径部22および小径部23を有している。大径部22の下端部の座面には、ラチェット機構22Aが形成されている。小径部23は、大径部22よりも径が小さく設定されている。小径部23の下部には、外周面に雄ねじを有するねじ部23Aが形成されている。ねじ部23Aは、被締結部材101,102の孔部101A,102Aの内周面の雌ネジに螺合する。
【0020】
小径部23の上部の外周部には、ねじ部23Aの外径および孔部101Aの内径よりも大きな外径を有する高さ設定部24(軸線方向長設定部材)が形成されている。高さ設定部24は、被締結部材101,102の締結時、被締結部材101の上面に当接することにより、ばね1の高さ(軸線方向長)が所定長に設定される。被締結部材101の上面には、ラチェット機構101Bが形成されている。
【0021】
なお、本実施形態では、高さ設定部24がボルト21のスリーブ部としてボルト21に一体化されている態様を用いたが、これに限定されるものではない。たとえば高さ設定部24を、ボルト21に一体化せずに、たとえばリング状をなす高さ設定部材(軸線方向長設定部材)として別体で形成してもよい。この場合、高さ設定部材は、たとえば小径部23の外径および孔部101Aの内径よりも大きな外径を有するとともにばね1の孔部10Aの内径よりも小さな外径を有する。高さ設定部24を有するボルト21や高さ設定部材は、ばねの必要な発生荷重に応じた高さに設定されているものに交換可能である。
【0022】
図3に示す締結機構112では、図4に示すナット31を用い、ナット31と被締結部材102との間にばね1を配置し、被締結部材103,104を締結している。ナット31は、図3,4に示すように、本体部32および高さ設定部33を有している。本体部32および高さ設定部33の孔部の内周面には、雌ネジであるねじ部31Aが形成されている。孔部31Aの雌ネジは、被締結部材104のねじ部104Aの外周面の雄ネジに螺合する。本体部32の下端部の座面には、ラチェット機構32Aが形成されている。
【0023】
高さ設定部33(軸線方向長設定部材)は、本体部32よりも外径が小さく設定されている。高さ設定部33は、被締結部材103,104の締結時、被締結部材103の上面に当接することにより、ばね1の高さ(軸線方向長)が所定長に設定される。被締結部材103の上面には、ラチェット機構103Bが形成されている。なお、符号104Bは、被締結部材104の本体部である。
【0024】
なお、本実施形態では、高さ設定部33がナット31のスリーブ部としてナット31に一体化されている態様を用いたが、これに限定されるものではない。たとえば高さ設定部33を、ナット31に一体化せずに、たとえばリング状をなす高さ設定部材(軸線方向長設定部材)として別体で形成してもよい。この場合、高さ設定部材は、ねじ部102Aの外径以上の内径を有するとともにばね1の孔部10Aの内径よりも小さな外径を有する。高さ設定部33を有するナット31や高さ設定部材は、ばねの必要な発生荷重に応じた高さに設定されているものに交換可能である。
【0025】
図5は、ばね1の構成を表し、(A)はばね1の斜視図、(B)はばね1の側面図、(C)は部材X,Yの間に配置されたばね1の右側部分の側断面図である。なお、図5(C)において、締結機構111の場合には、部材Xはボルト21の大径部22、部材Yは被締結部材101、締結機構112の場合には、部材Xはナット31の本体部32、部材Yは被締結部材103である。なお、図5でのばね1のラチェット機構15,16の係合歯の形状や数は、図示の便宜上、図1,3のものとは変更している。ラチェット機構15,16の係合歯の形状や数は、図示のものに限定されるものではなく、必要に応じて適宜設定してもよいのは言うまでもない。
【0026】
ばね1は、たとえば、ばね鋼や強化材プラスチックからなる。ばね1は、たとえば中心部に孔部10Aが形成された本体部10を備えている。本体部10は、たとえば部材Xおよび部材Yからの押圧力の方向に対して交差する方向に延在する円錐部である。その円錐部は、たとえば下方に向かうに従って傾斜して皿ばね部としての機能を有する。孔部10Aは、たとえば円形状をなしている。
【0027】
本体部10の内周部には、部材Xに向けて突出する第1円筒部11(筒状部)が設けられている。第1円筒部11の上端部は、部材Xに当接する当接部である。第1円筒部11の当接部には、ラチェット機構15が形成されている。ラチェット機構15の係合歯は、部材Xのラチェット機構(大径部22のラチェット機構22Aあるいは本体部32のラチェット機構32A)の係合歯に係合することにより、ラチェット機構同士は噛み合い、第1円筒部11の当接部は部材Xに固定される。
【0028】
本体部10の外周部には、部材Yに向けて突出する第2円筒部12(筒状部)が設けられている。第2円筒部12の下端部は、部材Yに当接する当接部である。第2円筒部12の当接部には、ラチェット機構16が形成されている。ラチェット機構16の係合歯は、部材Yのラチェット機構(被締結部材101のラチェット機構101Bあるいは被締結部材103のラチェット機構103B)の係合歯に係合することにより、ラチェット機構同士は噛み合い、第2円筒部12の当接部は部材Yに固定される。
【0029】
ラチェット機構15,16は、ボルト21あるいはナット31の緩み方向の回転を防止することができる。ラチェット機構15およびラチェット機構16の係合歯の傾斜方向は、たとえば同じ方向に設定され、図1,3,5において右下へ向かう方向に設定されている。この態様では、ボルト21あるいはナット31の緩み方向の回転を効果的に防止することができる。
【0030】
ラチェット機構15およびラチェット機構16の係合歯の高さ(軸線方向における係合歯の最下点から最高点までの長さ)の少なくとも一方は、ボルト21のねじ部23Aあるいはナット31のねじ部31Aのピッチ(軸線方向におけるねじ山同士の間隔)よりも大きく設定されていることが好適である。この態様では、高周波振動が部材X,Yに入力しても、ボルト21およびナット31の緩み方向の回転をより確実に防止することができる。
【0031】
本体部10と第1円筒部11との境界部には第1角部13が形成され、本体部10と第2円筒部12との境界部には第2角部14が形成されている。第1角部13および第2角部14は、部材Xおよび部材Yからの押圧力に応じて、その角度を変化させるように弾性変形可能である。第1角部13および第2角部14が円弧状をなす場合、その曲率半径は、たとえば本体部10および円筒部11,12の板厚と等しくする。
【0032】
上記構成を有するばね1は、重量が軽いから、ばね1自体の固有振動数を非常に高く設定することができる。第1角部13および第2角部14は、種々の手法により形成することができる。第1角部13および第2角部14は、たとえば第1角部13および第2角部14は、本体部10と第1円筒部11の境界部および本体部10と第2円筒部12の境界部を折り曲げて形成することができる。また、たとえば、本体部10と第1円筒部11の溶接および本体部10と第2円筒部12の溶接により形成することができる。
【0033】
荷重印加時における筒状部11,12の機能について、おもに図6を参照して説明する。図6は、部材X,Y間に設置されたばね1の右側部分の動作状態を表し、(A)は、ばね1の動作前(点線)と動作時(実線)の側断面図であり、(B)は、ばね1の動作時の第1角部13および第2角部14の拡大側断面図である。
【0034】
図6(A)の点線で示すように、部材X,Y間に配置されたばね1に対して、部材Xから下側方向の荷重を加える。すると、図6(B)の実線で示すように、ばね1は撓んで対象物111が下方に移動する。図中の符号dは、ばね1のたわみの大きさを示している。
【0035】
本体部10は、部材Xからの押圧力の方向に交差する方向に延在し、ばね1の上側において、第1筒状部11は、本体部10の内周部から部材Xに向けて突出してそこに当接している。そのような本体部10と第1筒状部11の境界部に形成した第1角部13は、荷重印加時に部材Xからの押圧力に応じて角度αが変化するように弾性変形することができる。この場合、第1角部13は、上記のような位置関係にある本体部10と第1筒状部11の境界部に形成された部位であるから、そのような第1角部13は、荷重印加時に角度αを変化させながら、本体部10の内周部の内側(図の左側)に移動することができる。
【0036】
このように荷重印加時に第1角部13は弾性変形することができるので、第1筒状部11が荷重印加時に対象物111側の不変形部分(図6(B)中の点Sより上側)を有するように第1筒状部11の長さを適宜設定することにより、第1筒状部11の部材X側部分の変形を防止することができる。
【0037】
一方、ばね1の下側において、第2筒状部11は、本体部10の内周部から部材Yに向けて突出してそこに当接している。この場合、第1角部13と同様な機能を有する第2角部14は、荷重印加による弾性変形時に、部材Yからの押圧力に応じて、角度βを変化させながら、本体部10の外周部の外部側(図の右側)に移動することができる。
【0038】
このように荷重印加時に第2角部14は弾性変形することができるので、第2筒状部12が荷重印加時に部材Y側の不変形部分(図6(B)中の点Tより下側)を有するように第2筒状部12の長さを適宜設定することにより、第2筒状部12の基台112側部分の変形を防止することができる。
【0039】
以上のようにばね1は、筒状部11,12に不変形部分を有するので、初期状態(無負荷状態)から荷重を印加しても、筒状部11,12の当接部は相手部材に対して摺動しない。また、荷重が変動しても、筒状部11,12の当接部は相手部材に対して摺動しないから、ばね1の荷重特性では、図7に示すように、皿ばねで問題となっていたヒステリシスが発生しなく、その結果、動的ばね定数を小さくすることができる。
【0040】
(2)実施形態の動作
締結機構111,112の動作について、おもに図1,3を参照して説明する。
【0041】
締結機構111では、ばね1を被締結部材101上に配置し、ボルト21の小径部23をばね1の孔部10Aに挿通し、小径部23のねじ部23Aを被締結部材101,102の孔部101A,102Aに螺合させる。これにより、被締結部材101,102はボルト21により締結される。一方、締結機構112では、被締結部材104のねじ部104Aをばね1の孔部10Aに挿通し、被締結部材103上に配置し、ナット31の本体部32のねじ部32Aをねじ部104Aに螺合させる。これにより、被締結部材103,104はナット31により締結される。
【0042】
なお、締結機構111は、ナット31の代わりにボルト21を用い、締結機構112と同様にラチェット機構15,16を有するばね1を備え、高さ設定部33に対応する高さ設定部24を有し、締結機構112と同様な作用・効果を得ることができるから、以下では、締結機構112を用いて本実施形態の締結機構の作用・効果を説明し、締結機構111の説明は省略する。
【0043】
締結機構112では、被締結部材103,104の締結時、第1筒状部11の当接部のラチェット機構15の係合歯は、本体部32のラチェット機構32Aの係合歯に係合することにより、ラチェット機構15,32A同士が噛み合い、第1円筒部11の当接部は本体部32の下端部に固定される。また、筒状部12の当接部のラチェット機構16の係合歯は、被締結部材103のラチェット機構103Bの係合歯に係合することにより、ラチェット機構16,103B同士が噛み合い、第2円筒部12の当接部は、被締結部材103の上面に固定される。
【0044】
ここで本実施形態では、被締結部材103,104の締結時、荷重を印加しても、第1筒状部11の当接部は本体部32に対して摺動しないから、ラチェット機構15,32A同士の噛み合いが確実に行われる。また、第2筒状部12の当接部は被締結部材103に対して摺動しないから、ラチェット機構16,103B同士の噛み合いは確実に行われる。したがって、ナット31の緩み方向の回転を防止することができる。
【0045】
また、高さ設定部33の下端部は、被締結部材103,104の締結時、被締結部材103の上面に当接することにより、ねじ部104Aへのナット31の螺合が過剰に行われたり不十分に行われたりすることを防止することができるから、ばね1の軸線方向長を所定長に設定することができる。これによりばね1は、図7に示す弾性領域において所望のたわみ量に設定することができるから、ナット31の脱落防止のための所望の荷重を発生することができる。
【0046】
さらに、ばね1自体の固有振動数は非常に高いから、高周波振動が入力しても、その振動数は、ばね自体の固有振動数と比較して非常に小さく無視できる程である。したがって、ばね1でのサージングの発生を防止することができるから、サージングの発生による荷重変動を防止することができる。また、被締結部材103,104に変位入力がなされても、ばね1の動的ばね定数が小さいから、荷重を安定して負荷することができる。
【0047】
以上のことから本実施形態では、ナット31の脱落を効果的に防止することができる。また、本体部10が皿ばね部として機能するから、コイルばねを用いる場合と比較して小さな変位で大きな荷重を支持することができる。また、筒状部11,12の当接部にラチェット機構15,16を設けることができ、ラチェット機構15,16を設けるための別部品を用いる必要がないから、部品点数の低減を図ることができる。さらに、ばね1は、コイルばねと比較して軸線方向長が短くすることができるから、締結機構112の小型化を図ることができる。
【0048】
(3)実施形態の適用例
締結機構112は、たとえば図8に示すように、スタビライザ210をスタビリンク220に締結するための締結機構として用いることができる。なお、図8に示す本実施形態の適用例は、ばね1を用いる以外は、図9に示す従来例と同様な構成であるから、図9に示す構成要素と同様なものには同符号を付し、その説明は省略する。
【0049】
図8に示す適用例では、スタビライザ210が、図3に示す被締結部材103に対応し、スタビリンク220におけるスタッド部221のねじ部221Aが、図3に示す被締結部材104のねじ部104Aに対応し、スタッド部221の鍔部221Bが被締結部材104の本体部104Bに対応している。図8に示す適用例は、スタビライザ210とスタッド部221の鍔部221Bとの間にばね1を配置していることが図3に示す締結機構112とは異なる。
【0050】
本実施形態の適用例では、締結機構112の上記効果を得ることができる。たとえば通常の車両では、路面からの振動が、たとえばストッパショック等の高周波振動であるとき、サスペンションによる振動伝達の抑制が困難となる。しかしながら、本実施形態の適用例では、高周波振動が入力しても、ばね1自体の固有振動数は非常に高いから、コイルばねを用いる従来技術とは異なり、サージングの発生を防止することができる。しかも、筒状部11,12やラチェット機構15,16等による上記作用・効果を得ることができるから、ナット31の脱落を効果的に防止することができる。
【0051】
(4)変形例
以上のように上記実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。なお、以下の変形例では、上記実施形態と同様な構成要素には同符号を付し、その説明は省略している。
【0052】
上記実施形態では、本発明の締結機構が適用される例としてスタビライザを用いたが、これに限定されるものではなく、固定治具としてボルトあるいはナットを用いて被締結部材同士を締結する各種装置に本発明の締結機構を適用することができるのは言うまでもない。本実施形態では、第1筒状部および第2筒状部にラチェット機構を設けたが、第1筒状部および第2筒状部のいずれか一方のみにラチェット機構を設けてもよい。
【0053】
本発明の本体部は、たとえば、外周部から内周部に向かって下方に傾斜する円錐状、S字状や、階段状、平坦状をなすことができる。筒状部は、筒状であればよく、その断面形状は多角形でもよく、その側断面形状は、曲線状でもよい。また、本体部および筒状部には、軽量化のためにスリットを形成することができる。また、第1角部および第2角部の形状は、図示の形状に限定されるものではなく、曲面形状等の種々の形状に変更可能である。
【0054】
また、第1筒状部および第2筒状部を本体部の内周部および外周部に形成したが、第1筒状部および第2筒状部のいずれか一方のみに形成してもよい。以上のような各種変形例は適宜組み合わせることができるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0055】
1…ばね、10…本体部、10A…孔部、11…第1筒状部(筒状部)、12…第2筒状部(筒状部)、13…第1角部(角部)、14…第2角部(角部)、15,16…ラチェット機構、21…ボルト(固定治具)、31…ナット(固定治具)、24,33…高さ設定部(軸線方向長設定部材)、101〜104…被締結部材、210…スタビライザ、220…スタビリンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結部材を締結する固定治具と、
前記固定治具に対向する前記被締結部材と前記固定治具との間に配置されるばねとを備え、
前記ばねは、
孔部を有する本体部と、
前記本体部の内周部および外周部に設けられた筒状部と、
前記本体部と前記筒状部との境界部に形成された角部とを備え、
前記本体部は、軸線方向に交差する方向に延在し、
前記筒状部は、前記内周部および前記外周部から、それぞれの相手部材に向けて突出してそこに当接する当接部を有し、
前記角部は、その角度が締結力に応じて変化するように弾性変形可能であり、
前記当接部の少なくとも一方は、相手部材に噛み合うラチェット機構を有し、
前記被締結部材と前記固定治具との間に、締結時の前記ばねの軸線方向長を設定するする軸線方向長設定部材が設けられていることを特徴とする締結機構。
【請求項2】
前記ラチェット機構の係合歯の軸線方向長は、前記固定治具のねじのピッチよりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の締結機構。
【請求項3】
請求項1または2に記載の締結機構によりスタビリンクに締結されることを特徴とするスタビライザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−36564(P2013−36564A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173969(P2011−173969)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】