説明

締結部材の締め付けトルク検査方法及び締め付けトルク検査システム

【課題】締結部材の締め付けトルク検査方法において、締結部材の検査締め付けトルクを検出する場合に、被締結部材の剛性が低く、かつ、低トルク領域で検出する場合でも高精度に検査締め付けトルクを検出可能とすることである。
【解決手段】締め付けトルク検査方法は、ボルトを自動締め付け機構により増し締めするとともに、増し締め時の締め付けトルクT及び締め付け角度θを検出するステップと、検出されたT、θから、dT/dθを表す締め付け角度微分値特性を取得するステップと、取得された締め付け角度微分値特性で、dT2/d2θが負となり、かつ、dT/dθが0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の、対応する締め付けトルクに基づいて、検査締め付けトルクTmを取得するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結部材の増し締め時の締め付けトルク及び締め付け角度を検出し、検出された締め付けトルク及び締め付け角度から、検査締め付けトルクを取得する締め付けトルク検査方法及び締め付けトルク検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、締め付けられた状態にある締結部材であるボルトのトルクの値を検査する方法として、締め付けられたボルトをさらにトルクレンチで締め付け、ボルトが再び動きだした(再始動した)時のトルク値をトルクレンチで読み取る増し締めトルク方法が知られている。
【0003】
また、特許文献1には、検査ボルトが回動する前にトルクレンチが回動することによって生じる誤差を補正することで、精度のよいボルトの締結トルクを得ようとして考えられた増し締め検査用トルクレンチが記載されている。この増し締め検査用トルクレンチは、ボルトの締め付けの際のトルクを検出する手段と、トルクレンチの回動角度を検出する手段と、検出手段で検出したトルクと回転角度とを入力情報として、ボルトの回動後の安定領域で得られた入力情報と予め設定された基準となるねじれ特性勾配線とに基づいてボルトの回動状態におけるトルク勾配線を仮想し、ボルトが回動する前に得られたボルト静止状態のトルク勾配線を仮想し、2つのトルク勾配線の交点でのトルク値を測定トルク値としている。
【0004】
また、特許文献2に記載されたねじ締結トルク測定方法は、トルクレンチにより締結ねじの増し締めを開始し、トルクレンチが増し締め開始点から所望の回転角度に達する間で、増し締めトルクが安定して上昇するトルク勾配特性を検出し、トルク勾配特性をもとにして締結ねじの増し締め開始時における締め付けトルクを算出するとしている。
【0005】
また、特許文献3には、締め付け工程における作業能率の維持と検査結果の信頼性の確保を図ろうとして考えられたナットランナの検査方法が記載されている。この検査方法は、ボルトを第1のナットランナにより設定トルクまで締め付けた後、第2のナットランナにより増し締めし、第1のナットランナによる設定トルクと第2のナットランナによる増し締めトルクとを比較し、両トルクの差が許容トルク以上である場合にナットランナの異常として検出するとされている。
【0006】
また、特許文献4に記載されたボルト締結方法は、ナットランナによるボルト締め付け中に締め付け角度の変化に伴う締め付けトルクの変化を示すトルク特性線の状態を得るようにし、トルク特性線が直線にあると判断したときに、トルク勾配に基づいて求めた理論着座点から予め設定された第1設定角度に達するまでボルトを締め付け、目標締め付け軸力を得るようにするとされている。また、特許文献4には、締め付けトルク及び締め付け角度の検出データに基づく締め付けトルク及び締め付け角度線であるトルク特性線を求め、そのデータに基づき理論着座点を求め、理論着座点を基準とした締め付け角度を締め付けトルクに関連付け、理論着座点を基準として初期締め角度に達すると締め付けを停止させるとされている。また、トルク特性線が直線状態にあるとされた場合には、着座点角度法による締め付けを行うべく不足する角度分締め付けを再開させるとされている。
【0007】
また、特許文献5には、ボルトをナットランナでスナッグトルクまで締め付けた後、規定の締め付け角度で締め付け、その後ボルトを緩め、再度締め付け及び増し締めを行い、再始動トルク測定部により増し締め時の再始動時トルクを測定し、相間演算部において、締め付け角度と基準トルクとの相間が演算されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−120162号公報
【特許文献2】特開2000−778号公報
【特許文献3】特開平8−90362号公報
【特許文献4】特開2009−83025号公報
【特許文献5】特許第4075852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1,2に記載されたトルクレンチ及びねじ締結トルク測定方法の場合、トルクレンチを用いて締め付けトルクを算出しているので、被締結部材である「ワークの要因」、「締め付け手段側の要因」、及び「作業者要因」により、精度よく締め付けトルクを測定することが困難である。「ワークの要因」として、ワークの変形や、ワークのがた、寸法ばらつき等がある。また、「締め付け手段側の要因」として、例えば締め付け手段の変形や、ソケットのがた、ソケットの寸法ばらつき等がある。また、「作業者要因」として、増し締め検査時の作業者による締め付け速度のばらつきや、増し締め時のトルクレンチの押し付け力のばらつきによるトルク変動等がある。
【0010】
特に、上記の特許文献1,2に記載されたトルクレンチ及びねじ締結トルク測定方法の場合、締め付けトルクが例えば4Nm以下等の低トルク領域である場合、増し締め法では、作業者要因である作業者の作業ばらつきによるトルク変動の、他の要因によるトルク変動も含めたトルク変動全体に対する割合が大きくなる。このため、締め付けトルクを精度よく検出することが、低トルク領域になるほどより困難になる。例えば、株式会社東日製作所製の「増し締め検査用トルクレンチCTB」(商品名)では、検査トルクの測定範囲が4Nm以上となっており、実質的に低いトルク領域である4Nm未満で測定することは除かれている。このようにトルクレンチを用いる場合には、作業者がそれぞれ個々に検査を行うため、作業者ごとの個人差に起因するばらつきが発生し、高精度に締め付けトルクを検出することが困難である。
【0011】
また、特許文献3に記載されたナットランナの検査方法の場合、上記の作業者要因の影響をなくすことができる。ただし、例えば、特許文献3の図4等に記載されているように、ボルトの増し締め時には、締め付け角度の微小変化量Δθとトルク値の微小変化量ΔTとの比ΔT/Δθが所定値よりも大きくなった場合に、その時点から微小締め付け角度Δθbだけ締め付け方向へボルトを回転させ、そのときのトルク値を増し締めトルク値として検出している。この場合、実際には、ワークや、締め付け手段でのがたや変形があるため、ΔT/Δθが増し締め時に急激には立ち上がらない。このため、検査締め付けトルクである増し締めトルク値を精度よく求めるのは困難である。また、増し締めトルク値は、増し締め時に微小締め付け角度Δθbだけ余分に締め付けているため、検査締め付けトルクがその微小締め付け角度Δθbに対応するトルク分高めに出力されてしまう。すなわち、特許文献3では、ワークや締め付け手段の変形やがたを無視できる理想的な状態を想定している。このため、現実に即しておらず、締め付けトルクを高精度に測定することは困難である。特に、ワーク等の被締結部材の剛性が低くなる場合に、締め付けトルクを高精度に測定することがより困難になる。
【0012】
このような事情から、本発明者は、締め付けられている締結部材の検査締め付けトルクを検出する場合に、ワークの剛性が低く、低トルク領域で検出する場合でも高精度に検査締め付けトルクを検出できるようにするため、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値、及び、締め付けトルクの締め付け角度による2回微分値を利用して、検査締め付けトルクを検出する方法及び装置を考えた。また、特許文献4及び特許文献5のいずれにも、このような検出方法及び検出装置及びこれらを示唆する構成は開示されていない。
【0013】
本発明は、締結部材の締め付けトルク検査方法及び締め付けトルク検査システムにおいて、締結部材の検査締め付けトルクを検出する場合に、ワーク等の被締結部材の剛性が低く、かつ、低トルク領域で検出する場合でも高精度に検査締め付けトルクを検出可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る締結部材の締め付けトルク検査方法は、締結部材の検査締め付けトルクを検査する方法であって、締結部材を自動締め付け機構により増し締めするとともに、増し締め時の締め付けトルク及び締め付け角度を検出する検出ステップと、制御部により、検出された締め付けトルク及び締め付け角度から、締め付けトルクを締め付け角度で微分することにより得られた締め付け角度微分値特性を取得する第1取得ステップと、制御部により、取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の取得値である、対応する締め付けトルクまたは対応する締め付け角度に基づいて、検査締め付けトルクを取得する第2取得ステップとを含むことを特徴とする締結部材の締め付けトルク検査方法である。
【0015】
本発明に係る締結部材の締め付けトルク検査方法によれば、締結部材の検査締め付けトルクを検出する場合に、締結部材により締め付ける被締結部材の剛性が低く、かつ、低トルク領域で検出する場合でも高精度に検査締め付けトルクが検出可能となる。すなわち、自動締め付け機構により締結部材を増し締めし、増し締め時の締め付けトルク及び締め付け角度の検出値から検査締め付けトルクを取得するので、検査締め付けトルクの検出精度悪化要因の1である作業者要因を排除できる。また、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による2回微分値が負となる場合の取得値に基づいて検査締め付けトルクを検出しているので、上記の特許文献3に記載されたナットランナの検査方法の場合と異なり、締め付け角度の微小変化量Δθとトルク値の微小変化量ΔTとの比ΔT/Δθが所定値以上となるときのトルクを求めることはなく、実際の状態に即して検査締め付けトルクを高精度に求めることができる。
【0016】
また、本発明に係る締め付けトルク検査方法において、好ましくは、第2取得ステップは、制御部により、取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の、対応する締め付けトルクを、検査締め付けトルクとして取得する。
【0017】
また、本発明に係る締め付けトルク検査方法において、好ましくは、第2取得ステップは、制御部により、取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の、対応する仮想締め付け角度を取得する仮想締め付け角度取得ステップと、制御部により、仮想締め付け角度から予め設定した所定の第1角度増大させてから、第1角度よりも大きい所定の第2角度にいたるまでの1階微分値の変動幅が所定幅以内にある場合に得られる第1角度から第2角度までの締め付けトルクの締め付け角度に対する勾配線と、締め付けトルクと締め付け角度との関係を表す特性線との交点に対応する締め付けトルクを、検査締め付けトルクとして取得する検査締め付けトルク取得ステップとを含む。
【0018】
上記の構成によれば、静止状態にある締結部材に対して、より安定した動摩擦係数を利用して、より精度よく検査締め付けトルクを求めることができる。
【0019】
また、本発明に係る締め付けトルク検査システムは、本発明に係る締結部材の締め付けトルク検査方法に使用する締め付けトルク検査システムであって、締結部材を増し締めする自動締め付け機構と、自動締め付け機構による締結部材の増し締め時の締め付けトルクを検出するトルク検出手段と、自動締め付け機構による締結部材の増し締め時の締め付け角度を検出する角度検出手段と、第1取得手段及び第2取得手段を含む制御部とを備え、第1取得手段は、検出された締め付けトルク及び締め付け角度から、締め付けトルクを締め付け角度で微分することにより得られた締め付け角度微分値特性を取得し、第2取得手段は、取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の取得値である、対応する締め付けトルクまたは対応する締め付け角度に基づいて、検査締め付けトルクを取得することを特徴とする締め付けトルク検査システムである。
【0020】
また、本発明に係る締め付けトルク検査システムにおいて、好ましくは、第2取得手段は、第1取得手段により取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の、対応する締め付けトルクを、検査締め付けトルクとして取得する。
【0021】
また、本発明に係る締め付けトルク検査システムにおいて、好ましくは、第2取得手段は、第1取得手段により取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の、対応する仮想締め付け角度を取得する仮想締め付け角度取得手段と、仮想締め付け角度から予め設定した所定の第1角度増大させてから、第1角度よりも大きい所定の第2角度にいたるまでの1階微分値の変動幅が所定幅以内にある場合に得られる第1角度から第2角度までの締め付けトルクの締め付け角度に対する勾配線と、締め付けトルクと締め付け角度との関係を表す特性線との交点に対応する締め付けトルクを、検査締め付けトルクとして取得する検査締め付けトルク取得手段とを含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る締結部材の締め付けトルク検査方法及び締め付けトルク検査システムによれば、締結部材の検査締め付けトルクを検出する場合に、ワーク等の被締結部材の剛性が低く、かつ、低トルク領域で検出する場合でも高精度に検査締め付けトルクが検出可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の締め付けトルク検査システムを示す構成図である。
【図2】図1の締め付けトルク検査システムを構成するナットランナを示す略図である。
【図3】図1の締め付けトルク検査システムを構成する締め付けトルク算出装置を示す構成図である。
【図4】第1の実施の形態の締め付けトルク検査方法を示すフローチャートである。
【図5】第1の実施の形態により、締め付けトルク及び締め付け角度を表すトルク角度特性の特性線aと締め付け角度微分値特性の特性線bとを用いて検査締め付けトルクを算出する方法を説明するための図である。
【図6】本発明に係る第2の実施の形態の締め付けトルク検査システムを構成する締め付けトルク算出装置を示す構成図である。
【図7】第2の実施の形態の締め付けトルク検査方法を示す、図4のS16のステップに対応するフローチャートである。
【図8】第2の実施の形態により、締め付けトルク及び締め付け角度を表すトルク角度特性の特性線aと締め付け角度微分値特性の特性線bとを用いて検査締め付けトルクを算出する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1の発明の実施の形態]
以下において、図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。図1から図5は、本発明に係る第1の実施の形態を示している。図1に示すように、本実施の形態の締め付けトルク検査システムは、被締結部材である図示しないワークを締め付けている締結部材である図示しないボルトまたはナットにおいて、検査締め付けトルクを増し締め法により検査する方法に使用する。このような締め付けトルク検査システムは、自動締め付け機構10と、制御部である締め付けトルク算出装置12とを備える。なお、「増し締め法」とは、ワーク等の被締結部材を締結部材により締め付けた静止状態にある締結部材であるボルトまたはナットを、さらに締め付けることにより、増し締めし、締結部材が再び回りだしたときのトルク値を検査締め付けトルクとして求める方法である。
【0025】
自動締め付け機構10は、ボルト(ナットの場合も同様、以下同様とする。)を増し締めするナットランナ14と、ナットランナ14の作動状態を制御するナットランナコントローラ16とを含む。また、締め付けトルク算出装置12は、例えば締め付けデータ収集システムである、パーソナルコンピュータにより構成するもので、締め付けトルク角度データ記憶部18と、締め付けトルク算出アルゴリズム記憶部20と、演算部22と図示しない入出力装置とを含む。このため、締め付けトルク算出装置12は、締め付けトルク角度データ記憶部18及び締め付けトルク算出アルゴリズム記憶部20を構成するための、メモリやハードディスクドライブ装置(HDD)等の記憶部と、演算部22を構成するためのCPUとを含む。
【0026】
図2に示すように、ナットランナ14は、図示しないボルトの頭部に係合可能なソケット24と、ボルトの締め付けトルクを検出するトルク検出手段であるトルクセンサ28と、ソケット24を回転駆動する駆動モータ30と、ボルトまたはソケット24の回転角度である締め付け角度を検出する角度検出手段である角度センサ32とを含む。すなわち、トルクセンサ28は、自動締め付け機構10によるボルトの増し締め時の締め付けトルクを検出する。また、角度センサ32は、自動締め付け機構10によるボルトの増し締め時の締め付け角度を検出する。角度センサ32は、エンコーダ等により構成する。このようなナットランナ14は、図示しない自動締め付け設備に設置する。ナットランナ14を支持する支持部は、昇降や水平移動を可能とすることもできる。
【0027】
トルクセンサ28及び角度センサ32の検出値は、締め付けトルク算出装置12(図1)に入力する。すなわち、トルクセンサ28及び角度センサ32のそれぞれにより検出された締め付けトルク及び締め付け角度を表す信号は、図1に破線矢印αで示すように、ナットランナコントローラ16を通じて、締め付けトルク算出装置12の締め付けトルク角度データ記憶部18にデータとして収集し、保存、すなわち記憶する。また、締め付けトルク算出アルゴリズム記憶部20は、後述する第1のアルゴリズムを含むトルク算出プログラムを記憶している。第1のアルゴリズムは、締め付けトルク角度データ記憶部18に記憶されたデータを使用して、検査締め付けトルクを算出、すなわち取得するために使用する。
【0028】
また、図3に示すように、締め付けトルク算出装置12は、第1取得手段34と、第2取得手段36とを含む。第1取得手段34及び第2取得手段36のそれぞれの機能は、図1に示す締め付けトルク角度データ記憶部18と締め付けトルク算出アルゴリズム記憶部20と演算部22とを含む要素により実現可能とする。また、第1取得手段34は、締め付けトルク角度データ記憶部18に記憶された、検出された締め付けトルク及び締め付け角度を読み出し、読み出した締め付けトルク及び締め付け角度を用いて、締め付けトルク及び締め付け角度の特性であるトルク角度特性を表す第1特性線(図5のa)と、締め付けトルクを締め付け角度で微分することにより得られた締め付け角度微分値特性を表す第2特性線(図5のb)とを取得、すなわち算出する。
【0029】
また、図3に示す第2取得手段36は、取得された締め付け角度微分値特性を表す第2特性線で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の取得値である、対応する締め付けトルクに基づいて、検査締め付けトルクを算出する、すなわち取得する。すなわち、第2取得手段36は、第1取得手段34により取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の、対応する締め付けトルクTmを、検査締め付けトルクTmとして算出する。算出された検査締め付けトルクTmは、入出力装置の出力部であるディスプレイ等に出力する、すなわち表示させたり、この検査締め付けトルクTmを締め付け部の良否を判定するために使用する。例えば、締め付け部の良否を判定する場合には、取得された検査締め付けトルクTmを、予め設定された基準値Taと比較することにより、基準値Taからのずれが予め設定された閾値以上である場合に異常と判定し、それ以外の場合には正常と判定し、入出力装置のディスプレイ等で、それぞれに対応する表示を表示させる。例えば、異常と判定された場合に、警告音を発生させたり、警告灯を点灯させることもできる。
【0030】
次に、このような締め付けトルク検査システムを用いて、検査締め付けトルクTmを検査する方法を、図4に示すフローチャートを用いて説明する。なお、以下の説明では、図1から図3に示した要素と同一の要素には同一の符号を付して説明する。まず、ステップS10(以下では、ステップは単にSとして説明する。)で、ナットランナ14を用いて、ワークを締め付けているボルトの頭部にソケット24を係合させ、駆動モータ30を駆動することにより、ボルトの増し締めを行わせる。この場合、例えば、ワークは、設定した目標締め付けトルク(例えば2Nm)で予めボルトにより締め付けている。この増し締めステップは、予め設定した締め付け角度閾値までボルトが締め付けられた場合や、予め設定した締め付けトルク閾値までボルトが締め付けられた場合に終了させる。
【0031】
また、ナットランナコントローラ16と締め付けトルク算出装置12とは連動させており、ナットランナコントローラ16または締め付けトルク算出装置12に設けた図示しない入力部を用いてユーザが操作することにより、ナットランナ14を駆動させるとともに、ナットランナコントローラが、トルクセンサ28及び角度センサ32により締め付けトルク及び締め付け角度を、予め設定された締め付け角度増分ずつボルトが締め付けられた時点で検出させ、検出された締め付けトルク及び締め付け角度を、締め付けトルク算出装置12の締め付けトルク角度データ記憶部18に出力する。また、締め付けトルク算出装置12が起動され、入力部を用いて所定の操作が行われることにより、第1のアルゴリズムを含む第1のトルク算出プログラムが実行される。このような図4のS10のステップでは、ボルトを自動締め付け機構10により増し締めするとともに、増し締め時の締め付けトルク及び締め付け角度を検出する「検出ステップ」を行う。
【0032】
また、S12では、締め付けトルク算出装置12が、ボルトの締め付け開始から増し締め終了までに検出された締め付けトルク及び締め付け角度のすべてを、データとして、締め付けトルク算出装置12の締め付けトルク角度データ記憶部18に記憶させる「記憶ステップ」を行う。なお、図4のS10,S12では、すべての締め付けトルク及び締め付け角度を検出した後で、締め付けトルク算出装置12の締め付けトルク角度データ記憶部18に記憶させている。ただし、それぞれの締め付け角度の一定増分ずつで、ボルトが締め付けられた時点で締め付けトルク及び締め付け角度を検出させるのと、検出された締め付けトルク及び締め付け角度を締め付けトルク角度データ記憶部18に記憶させるのとを同時に行うこともできる。すなわち、図4のS10の検出ステップとS12の記憶ステップとは、合わせて「検出記憶ステップ」とすることもできる。
【0033】
次いで、S14では、締め付けトルク算出装置12の第1取得手段34が、検出された締め付けトルク及び締め付け角度を締め付けトルク角度データ記憶部18から読み出して、読み出した締め付けトルク及び締め付け角度を用いて、トルク角度特性を表す第1特性線(図5のa)と、締め付けトルクを締め付け角度で微分することにより得られた締め付け角度微分値特性を表す第2特性線(図5のb)とを取得する第1取得ステップを行う。なお、図5では、左側の縦軸により第1特性線aの値を示している。また、右側の縦軸により第2特性線bの値を示している(後述する図8も同様とする。)。
【0034】
次いで、S16では、締め付けトルク算出装置12の第2取得手段36が、取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の取得値である、対応する締め付けトルクに基づいて、検査締め付けトルクを取得する第2取得ステップを行う。すなわち、第2取得ステップは、締め付けトルク算出装置12が、取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の、対応する締め付けトルクTmを、検査締め付けトルクTmとして取得する。このように自動締め付け機構10でボルトを増し締めし、すべての検出締め付けトルク及び検出締め付け角度を表すデータを締め付けトルク算出装置12に記憶させた後で、検査締め付けトルクTmの検査を行っている。また、第1取得ステップ(S14)と第2取得ステップ(S16)とは、第1アルゴリズムにより実行される。
【0035】
このような第1アルゴリズムは、締め付けトルクに関するトルク角度特性を表す第1特性線aの「変曲点」または「変曲点」とほぼ同等の点から「検査締め付けトルクTm」を求める方法である。この変極点がボルトの増し締め時の動き出し点である。したがって、本実施の形態では、この変極点が精度よく求められるので、検査締め付けトルクも精度よく求めることができる。より具体的に図5を参照しつつ説明すると、第2取得手段36が、第2特性線bで、例えば、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値である、dT/dθ=0となる点Aがある場合に、点Aの傾きが負であるか否か、すなわち、点Aで、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値である、d2T/dθ2が負となる(d2T/dθ2<0)か否かを判定する。その判定で、d2T/dθ2が負となると判定された場合には、第2特性線bの締め付け角度θに対する傾きが負であると判定される。そして、第1特性線aからその点Aの締め付け角度θaでの締め付けトルクTmを算出し、その算出した締め付けトルクTmを検査締め付けトルクTmとして取得する。
【0036】
これに対して、第2特性線bでdT/dθ=0となる点Aがない場合も考えられる。このために、本実施の形態では、第1アルゴリズムで予め0近辺の所定の設定微分値Q1(例えば、0.05以下の任意の設定値)を設定しておく。そして、第2取得手段36が、第2特性線bでdT/dθ=0となる点Aがないと判定した場合には、dT/dθが規定値である設定微分値Q1と等しくなった(dT/d=Q1)場合の代替点Aを求め、その代替点Aを変極点とほぼ同等の点と仮定する。そして、上記と同様に、第2取得手段36が、第2特性線bの代替点Aでの傾きが負である、すなわち、代替点Aで、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値である、d2T/dθ2が負となる(d2T/dθ2<0)と判定された場合には、第1特性線aからその代替点Aの締め付け角度θaでの締め付けトルクを算出し、その算出した締め付けトルクTmを検査締め付けトルクTmとして取得する。なお、図5では、代替点Aでの締め付けトルクTmを表している。
【0037】
また、S18で、締め付けトルク算出装置12が検査締め付けトルクTmと予め設定された基準値Taとを比較し、締め付け部の締め付けトルク良否判定を行う良否判定ステップを行う。例えば、取得された検査締め付けトルクTmと基準値Taとのずれが予め設定された閾値以上である場合には異常と判定し、それ以外の場合には正常と判定し、出力部であるディスプレイ等で、それぞれに対応する表示を表示させる。なお、S18の良否判定ステップは省略することもできる。
【0038】
このような本実施の形態によれば、ボルトの検査締め付けトルクを検出する場合に、ボルトにより締め付ける被締結部材である、ワークの剛性が低く、かつ、例えば4Nm以下の低トルク領域で検出する場合でも高精度に検査締め付けトルクが検出可能となる。すなわち、自動締め付け機構10によりボルトを増し締めし、増し締め時の締め付けトルク及び締め付け角度の検出値から検査締め付けトルクTmを取得するので、検査締め付けトルクTmの検出精度悪化要因の1である作業者要因を排除できる。また、自動締め付け機構10を備えた構成に、さらに締め付けトルク角度データ記憶部18及び締め付けトルク算出アルゴリズム記憶部20を備えるので、自動締め付け機構10によるボルトの自動締め付け後に、締め付けトルクTmの検査を実施することができる。
【0039】
また、締め付けトルク算出装置12において、締め付けトルク及び締め付け角度の検出値のデータをすべて締め付けトルク角度データ記憶部18に記憶させた後に、検査締め付けトルクTmの算出を行うので、同じ記憶データを使用しながら、第1アルゴリズムとは異なる後述する第2の実施の形態で使用する第2アルゴリズム等、別のアルゴリズムを用いて、検査締め付けトルクの算出を行うこともできる。このため、ワークの種類に応じて最適なアルゴリズムを用いて検査締め付けトルクTmの算出を行うことができる。また、このようなアルゴリズムの変更を容易に行える。また、締め付けトルクの良否判定を行って異常と判定された場合に、記憶された締め付けトルク及び締め付け角度のデータを分析することにより、不具合発生の原因を調べることが容易になる。
【0040】
また、本実施の形態では、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値dT/dθが0または0近辺の所定の設定微分値Qとなり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による2回微分値d2T/dθが負となる場合の取得値に基づいて検査締め付けトルクTmを検出している。このため、上記の特許文献3に記載されたナットランナ14の検査方法のように、ボルトの増し締め時に、締め付け角度の微小変化量Δθとトルク値の微小変化量ΔTとの比ΔT/Δθが所定値よりも大きくなった場合に、その時点から微小締め付け角度Δθbだけ締め付け方向へボルトを回転させ、そのときのトルク値を増し締めトルク値として検出する場合と異なり、検査締め付けトルクの検出精度を高くできる。すなわち、このような特許文献3の方法の場合には、ワークや、締め付け手段でのがたや変形がない理想的な状態を仮定しているが、実際にはこのようながたや変形は無視できない。このため、ΔT/Δθが増し締め時に急激には立ち上がらず、検査締め付けトルクを精度よく求めることは困難である。これに対して、本実施の形態では、ΔT/Δθが所定値以上となるときのトルクを求めるものではなく、締め付け角度微分値特性を表す第2特性線bの変極点または変極点とほぼ同等の点での取得値、すなわち締め付けトルクに基づいて、ボルトの増し締め時の動き出し点に対応する検査締め付けトルクTmを、実際の状態に即して高精度に求めることができる。
【0041】
なお、本実施の形態では、ボルトを締め付けるときの検査締め付けトルクTmを求める場合に限定するものではなく、ナットをボルトに締め付けるときの検査締め付けトルクを求めることもできる。また、被締結部材をボルトとし、締結部材を摩擦安定材付のナットとする場合の、目標締め付けトルクを例えば2Nmとする場合のナットの検査締め付けトルクを求めることもできる。
【0042】
[第2の発明の実施の形態]
図6は、本発明に係る第2の実施の形態の締め付けトルク検査システムを構成する締め付けトルク算出装置を示す構成図である。図7は、第2の実施の形態の締め付けトルク検査方法を示す、図4のS16のステップに対応するフローチャートである。図8は、第2の実施の形態により、締め付けトルク及び締め付け角度を表すトルク角度特性の特性線aと締め付け角度微分値特性の特性線bとを用いて検査締め付けトルクを算出する方法を説明するための図である。
【0043】
なお、上記の第1の実施の形態では、締め付け角度微分値特性を表す第2特性線b(図5参照)の「変極点」または変極点とほぼ同等の点での「締め付けトルク」を、「検査締め付けトルクTm」として取得するようにしていた。これに対して、本実施の形態では、締め付け角度微分値特性を表す第2特性線b(図8)の変極点または変極点とほぼ同等の点での取得値である、対応する「締め付け角度」に基づいて、「検査締め付けトルクTm´」を取得する。この場合、「検査締め付けトルクTm´」は、トルク角度特性を表す第1特性線a(図8)の「傾き安定領域」での勾配線と、第1特性線aの他の部分との交点から求める。
【0044】
このため、図6に示すように、本実施の形態で使用する締め付けトルク検査システムでは、締め付けトルク算出装置12が含む第2取得手段36は、仮想締め付け角度取得手段38と、検査締め付けトルク取得手段40とを有する。仮想締め付け角度取得手段38は、第1取得手段34により取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の、対応する仮想締め付け角度を取得する。
【0045】
また、検査締め付けトルク取得手段40は、仮想締め付け角度から予め設定した所定の第1角度増大させてから、第1角度よりも大きい所定の第2角度にいたるまでの1階微分値の変動幅が所定幅以内にある場合に得られる第1角度から第2角度までの締め付けトルクの締め付け角度に対する勾配線Rと、締め付けトルクと締め付け角度との関係を表す第1特性線a(図8)との交点に対応する締め付けトルクを、検査締め付けトルクTm´として取得する。また、締め付けトルク算出アルゴリズム記憶部20(図1参照)は、後述する第2のアルゴリズムを含むトルク算出プログラムを記憶している。
【0046】
次に、このような締め付けトルク検査システムを用いて、検査締め付けトルクを検査する方法を、図7に示すフローチャートを用いて、上記の図4に示すフローチャートを参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、上記の第1の実施の形態を表す図1から図3、及び、上記の図6に示した要素と同一の要素には同一の符号を付して説明する。なお、図7のフローチャートは、図4のフローチャートのS16のステップに対応するものであり、S20よりも前のステップは、上記の図4のS10からS14のステップと同様である。例えば、S14(図4)では、締め付けトルク算出装置12の第1取得手段34が、検出された締め付けトルク及び締め付け角度を用いて、トルク角度特性を表す第1特性線(図8のa)と、締め付けトルクを締め付け角度で微分することにより得られた締め付け角度微分値特性を表す第2特性線(図8のb)とを取得する第1取得ステップを行う。そして、第1取得ステップ終了後に、S16(図4)の検査締め付けトルク取得ステップに移行すると、図7のS20、S22のステップに移行する。
【0047】
S20、S22では、第2取得手段36が、取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の取得値である、対応する締め付け角度に基づいて、検査締め付けトルクTmを取得する第2取得ステップを行う。すなわち、第2取得ステップは、S20の仮想締め付け角度取得ステップとS22の検査締め付けトルク取得ステップとを含む。S20の仮想締め付け角度取得ステップでは、仮想締め付け角度取得手段38が、取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の、対応する締め付け角度を取得する。
【0048】
また、S22の検査締め付けトルク取得ステップでは、検査締め付け取得手段40が、仮想締め付け角度から予め設定した所定の第1角度増大させてから、第1角度よりも大きい所定の第2角度にいたるまでの1階微分値の変動幅が所定幅以内にある場合に得られる第1角度から第2角度までの締め付けトルクの締め付け角度に対する勾配線Rと、締め付けトルクと締め付け角度との関係を表す第1特性線a(図8)との交点に対応する締め付けトルクTm´を、検査締め付けトルクTm´として取得する。締め付け角度微分値特性を取得する第1取得ステップと、検査締め付けトルクTm´を取得する第2取得ステップとは、第2アルゴリズムにより実行される。
【0049】
このような第2アルゴリズムは、図8に示すように、トルク角度特性を表す第1特性線aの「傾き安定領域」(角度θbからθb+Δθ2までの領域)での勾配線Rと、第1特性線aの他の部分、すなわち締め付け角度θが小さい領域との交点Bから「検査締め付けトルクTm´」を求める方法である。具体的には、「仮想締め付け角度取得ステップ」(S20)として、仮想締め付け角度取得手段38が、第2特性線bで、例えば、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値である、dT/dθ=0となる点Aがある場合に、点Aの傾きが負であるか否か、すなわち、点Aで、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値である、d2T/dθ2が負となる(d2T/dθ2<0)か否かを判定する。その判定で、d2T/dθ2が負となると判定された場合には、第1特性線aからその点Aの締め付け角度θaを、「仮想締め付け角度θa」として算出する、すなわち取得する。
【0050】
これに対して、第2特性線bでdT/dθ=0となる点Aがない場合には、上記の第1の実施の形態と同様に、dT/dθが規定値である0近辺の所定の設定微分値Q2(例えば、0.3以下の任意の設定値)と等しくなった代替点Aを求める。そして、その代替点Aを変極点とほぼ同等の点と仮定して、上記と同様に、第2特性線bの代替点Aでの傾きが負である、すなわち、代替点Aで、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値である、d2T/dθ2が負となる(d2T/dθ2<0)と判定された場合には、第1特性線aからその代替点Aでの締め付け角度を、「仮想締め付け角度」として取得する。なお、図5では、代替点Aでの締め付けトルクTmを表している。
【0051】
また、「検査締め付けトルク取得ステップ」(S22)として、検査締め付けトルク取得手段40が、第2特性線bで、仮想締め付け角度θaから予め設定した所定の角度Δθ1分増大させた第1角度θbから、第1角度θbよりも大きい所定の第2角度(θb+Δθ2)にいたるまでの1回微分値dT/dθの変動幅が所定幅W以内にあるか否かを判定する。そして、変動幅が所定幅W以内にあると判定した場合に得られる第1角度θbから第2角度(θb+Δθ2)までの、第1特性線aでの締め付けトルクの締め付け角度に対する勾配線Rを求める。勾配線Rは、第1特性線a上の第1角度θbの点と第2角度(θb+Δθ2)の点とを通る直線である。そして、勾配線Rを小締め付け角度領域側に伸ばしたものと、締め付けトルクと締め付け角度との関係を表す第1特性線aとの交点Bに対応する締め付けトルクTm´を、検査締め付けトルクTm´として取得する。すなわち、勾配線Rの、第1角度θbから第2角度(θb+Δθ2)までの線分を、第1特性線aの小締め付け角度領域側に外挿して得られた交点Bの締め付けトルクTm´を、検査締め付けトルクTm´として取得する。
【0052】
このような検査締め付けトルク取得ステップが終了した後は、図4のS18へ移行し、締め付けトルク良否判定ステップを行う。なお、本実施の形態でも、締め付けトルク良否判定ステップは省略することもできる。
【0053】
このような本実施の形態によれば、上記の第1の実施の形態よりもボルトまたはナットの検査締め付けトルクをより高精度に検出できる。すなわち、上記の第1の実施の形態では、ボルト(またはナット、以下同様とする。)の増し締め時の動摩擦係数により生じるトルクを利用して検査締め付けトルクTmを検出している。ただし、ボルトは実際には静止摩擦係数により生じるトルクで静止状態にあるため、動摩擦係数との摩擦係数が異なる分、検査締め付けトルクTmがやや高めになる可能性がないとはいえない。これに対して、本実施の形態でも、動摩擦係数を利用するが、第1特性線aの安定領域の傾きを利用し、この傾きを有する勾配線Rとボルトが静止状態にある場合の第1特性線aの小締め付け角度領域側との交点Bから検査締め付けトルクTm´を求めている。このため、第1の実施の形態の場合と異なり、静止状態にあるボルトに対して、より安定した動摩擦係数を利用して、より精度よく検査締め付けトルクTm´を求めることができる。その他の構成及び作用は、上記の第1の実施の形態と同様であるため、重複する図示及び説明を省略する。
【符号の説明】
【0054】
10 自動締め付け機構、12 締め付けトルク算出装置、14 ナットランナ、16 ナットランナコントローラ、18 締め付けトルク角度データ記憶部、20 締め付けトルク算出アルゴリズム記憶部、22 演算部、24 ソケット、28 トルクセンサ、30 駆動モータ、32 角度センサ、34 第1取得手段、36 第2取得手段、38 仮想締め付け角度取得手段、40 検査締め付けトルク取得手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結部材の検査締め付けトルクを検査する締め付けトルク検査方法であって、
締結部材を自動締め付け機構により増し締めするとともに、増し締め時の締め付けトルク及び締め付け角度を検出する検出ステップと、
制御部により、検出された締め付けトルク及び締め付け角度から、締め付けトルクを締め付け角度で微分することにより得られた締め付け角度微分値特性を取得する第1取得ステップと、
制御部により、取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の取得値である、対応する締め付けトルクまたは対応する締め付け角度に基づいて、検査締め付けトルクを取得する第2取得ステップとを含むことを特徴とする締結部材の締め付けトルク検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の締結部材の締め付けトルク検査方法において、
第2取得ステップは、
制御部により、取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の、対応する締め付けトルクを、検査締め付けトルクとして取得することを特徴とする締結部材の締め付けトルク検査方法。
【請求項3】
請求項1に記載の締結部材の締め付けトルク検査方法において、
第2取得ステップは、
制御部により、取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の、対応する仮想締め付け角度を取得する仮想締め付け角度取得ステップと、
制御部により、仮想締め付け角度から予め設定した所定の第1角度増大させてから、第1角度よりも大きい所定の第2角度にいたるまでの1階微分値の変動幅が所定幅以内にある場合に得られる第1角度から第2角度までの締め付けトルクの締め付け角度に対する勾配線と、締め付けトルクと締め付け角度との関係を表す特性線との交点に対応する締め付けトルクを、検査締め付けトルクとして取得する検査締め付けトルク取得ステップとを含むことを特徴とする締結部材の締め付けトルク検査方法。
【請求項4】
請求項1に記載の締結部材の締め付けトルク検査方法に使用する締め付けトルク検査システムであって、
締結部材を増し締めする自動締め付け機構と、
自動締め付け機構による締結部材の増し締め時の締め付けトルクを検出するトルク検出手段と、
自動締め付け機構による締結部材の増し締め時の締め付け角度を検出する角度検出手段と、
第1取得手段及び第2取得手段を含む制御部とを備え、
第1取得手段は、検出された締め付けトルク及び締め付け角度から、締め付けトルクを締め付け角度で微分することにより得られた締め付け角度微分値特性を取得し、
第2取得手段は、取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の取得値である、対応する締め付けトルクまたは対応する締め付け角度に基づいて、検査締め付けトルクを取得することを特徴とする締め付けトルク検査システム。
【請求項5】
請求項4に記載の締め付けトルク検査システムにおいて、
第2取得手段は、
第1取得手段により取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の、対応する締め付けトルクを、検査締め付けトルクとして取得することを特徴とする締め付けトルク検査システム。
【請求項6】
請求項4に記載の締め付けトルク検査システムにおいて、
第2取得手段は、
第1取得手段により取得された締め付け角度微分値特性で、締め付けトルクの締め付け角度による2階微分値が負となり、かつ、締め付けトルクの締め付け角度による1階微分値が0または0近辺の所定の設定微分値となる場合の、対応する仮想締め付け角度を取得する仮想締め付け角度取得手段と、
仮想締め付け角度から予め設定した所定の第1角度増大させてから、第1角度よりも大きい所定の第2角度にいたるまでの1階微分値の変動幅が所定幅以内にある場合に得られる第1角度から第2角度までの締め付けトルクの締め付け角度に対する勾配線と、締め付けトルクと締め付け角度との関係を表す特性線との交点に対応する締め付けトルクを、検査締め付けトルクとして取得する検査締め付けトルク取得手段とを含むことを特徴とする締め付けトルク検査システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−131331(P2011−131331A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292904(P2009−292904)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】