説明

編地およびその編成方法、ならびにデザイン装置

【課題】 編成終了後のセット作業を軽減することができる編地およびその編成方法、ならびにデザイン装置を提供する。
【解決手段】 挿入糸6は、基本編地1の折り目の山折り部2aを越えて谷折り部2bを通り、接近部3に達すると山折り部2aに戻るように折り返される。挿入糸6を編成終了後に引張ると、折り目の谷折り部2bから接近部3に沿う部分ではB部分1bと同等の長さを保つけれども、折り返し部分6aの長さが減少し、A部分1aはC部分1cとB部分1bとの間に折り返されて積層される状態となる。折り目に対するアイロン掛けなどのセット作業を行って、挿入糸6を除去すると、(a)に示すような積層状態の基本編地1が得られる。挿入糸6を引張る作業は容易であり、セット作業の軽減を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編み組織の差異を利用して曲げやすくする編地およびその編成方法、ならびにデザイン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、たとえばプリーツなどの折り目を有する編地を形成する場合に、編み組織の差異によって曲げやすい部分を編地に含むようにしている。編み組織の差として、表ウエールと裏ウエールとは、異なる方向にカールする特性を有する。表ウエールのみの領域と裏ウエールのみの領域との間を、各コースの編糸をある間隔だけ編まずに差し渡し状にすれば、スカートなどのプリーツ編地を形成することができる(たとえば、特許文献1参照。)。ただし、差し渡し状にする部分は編地としては形成されず、編糸が並ぶだけになってしまう。
【0003】
また、ウエール方向に連なるミス編成で折れ目屈曲部を形成することができる。特許文献1で開示されてるようなプリーツの差し渡し状の部分に相当する編地領域の両側に折れ目屈曲部を形成し、一方の折れ目屈曲部付近から、他方の折れ目屈曲部を越える広い編幅の部分を高収縮糸でミス編成するプリーツ編地の製造方法も開示されている(たとえば、特許文献2参照。)。
【0004】
さらに、編地の基本的組織を編成する基本給糸コースと、被覆弾性糸を用いるプリーツ形成用給糸コースとを組合わせるプリーツ編地の製造方法も開示されている(たとえば、特許文献3参照。)。基本給糸コースでは、ウエール方向にミス編成が連続する折目襞形成部分を含めて編成する。プリーツ形成用給糸コースでは、折目襞形成部分を含む範囲を複数ウエール分連続してコース方向にミス編成するように編成する。
【0005】
特許文献2や特許文献3で開示されている編地では、コース方向に連続してミスとなる部分を有するように編込まれる弾性糸の収縮を利用して、編地に曲げが生じるようにしている。しかしながら、弾性糸の収縮のみの利用では、たとえば、連続してミス編成している区間の長さを縮めて、開始部分に終了部分が接触するような変化を行わせることはできない。また、弾性糸は編地に編込まれるので、曲げる部分の両端間を引張る状態で、編地から浮いて残ってしまう。
【0006】
したがって、今日でも一般のプリーツ編地においては、編成終了後の後工程で折り目を手作業で整えながら、アイロンやスチーム等で安定化させるセット作業を行うようにしている。横編機で編成するプリーツ編地では、折り目の山折り部と谷折り部となるウエールを隣接する部分とは異なる編み組織として編成するけれども、編地は、折り目が広げられた平面状となるので、セット作業が必要となる。各折り目を手作業で整えながらセット作業を行うのは、相当の時間を要しており、作業の軽減が要望されている。
【特許文献1】実公昭31−17245号公報
【特許文献2】特公昭62−15656号公報
【特許文献3】特開平6−173144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、編成終了後のセット作業を軽減することができる編地およびその編成方法、ならびにデザイン装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、編み組織の差異によって形成される折り目部、および該折り目部で折り曲げると該折り目部に接近する接近部の組合わせを少なくとも1つ有する基本編地と、
折り目部が平坦な状態の基本編地に挿入され、折り目部と該折り目部に接近する接近部との組合わせに対して、接近部から折り目部とは異なる側に延びる接近部側延長部分、接近部から折り目部に至り反転して接近部に戻る折返し部分、および接近部から折り目部を越えて延びる折り目部側延長部分が形成される挿入糸とを、
含むことを特徴とする編地である。
【0009】
さらに本発明は、折り目を有する編地を編成する方法において、
基本編地を、編み組織の差異によって形成される折り目部と、該折り目部で折曲げると該折り目部に接近する接近部との組合わせを少なくとも1つ設けるように編成しながら、
基本編地の折り目部と該折り目部に接近する接近部との組合わせに対して、接近部から折り目部とは異なる側に延びる接近部側延長部分、接近部から折り目部に至り反転して接近部に戻る折返し部分、および接近部から折り目部を越えて延びる折り目部側延長部分が形成されるように、糸を挿入する、
ことを特徴とする編地の編成方法である。
【0010】
また本発明は、前記基本編地の折り目部と接近部との1つの組合わせに対して、
折り目となる山折り部または谷折り部のうちの一方および他方を、間隔をあけて順次編成し、折り目となる山折り部または谷折り部のうちの一方および他方を、編幅方向に間隔をあけて順次編成し、
一方の折り目となる部分を前記折り目部とし、
前記接近部を、該一方の折り目となる部分と隣接する該他方の折り目となる部分との間隔だけ、該他方の折り目となる部分から該一方の折り目となる部分とは異なる側に離れる位置に設けることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記編地を、少なくとも前後一対の針床が歯口で対向する横編機で編成し、
前記糸のうち、前記折り目部側延長部分と、前記折返し部分のうちの接近部から折り目部に至る部分とが挿入された後、それぞれ針床間で目移しすることを特徴とする。
【0012】
さらに本発明は、横編機で折り目を有する編地を編成するための編成データを生成するデザイン装置において、
基本編地を、編み組織の差異によって形成される折り目部と、該折り目部で折曲げると該折り目部に接近する接近部との組合わせを少なくとも1つ設けるように編成しながら、
基本編地の折り目部と該折り目部に接近する接近部との組合わせに対して、接近部から折り目部とは異なる側に伸びる接近部側延長部分、接近部から折り目部に至り反転して接近部に戻る折返し部分、および接近部から折り目部を越えて伸びる折り目部側延長部分が形成されるように、糸を挿入する、
ための編成データを、横編機に実行させるように生成することを特徴とするデザイン装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基本編地の折り目部と接近部との組合わせに対し、挿入糸を引張ることで、挿入糸の折返し部分の長さが減少する。挿入糸の折返し部分は、基本編地の編み組織の差によって形成される折り目部で折り曲げる際に折り目部に接近する接近部と折り目部との間に形成されるので、挿入糸の引張りで、折り曲げ時の折れ曲がり方を整えることが容易となり、セット作業を軽減することができる。セット作業が終了すれば、挿入糸を除去してしまうこともできる。また、挿入糸を残して、基本編地に襞を付けるように絞ることもできる。
【0014】
さらに本発明によれば、編成時は、編成終了後に折り目部となる部分を、編み組織の差異によって編成しながら、折り目部での折り曲がり方を整えるために、基本編地に糸を挿入するだけであるので、編成後の編地には曲りは生じない。編成後の編地で、挿入糸を引張れば、基本編地を折り目部で折り曲げる際の曲がり方を整えることが容易となり、セット作業を軽減することができる。
【0015】
また本発明によれば、編成終了後に挿入糸を引張れば、基本編地の山折り部と谷折り部とが折れ曲って基本編地の折り目部と接近部との組合わせの範囲が積層するように、容易に整えることができる。
【0016】
また本発明によれば、横編機での編地の編成で、編成終了後に引張れば基本編地の編み組織の違いで折り曲げやすくなる折り目部での曲がり方を整えるための挿入糸を、編地の表側を通るか裏側を通るかを切換えて挿入することができる。
【0017】
さらに本発明によれば、横編機での編成で、編み組織の違いで曲げやすくする折り目部を基本編地に形成し、編成終了後に引張って曲り方を整えるための挿入糸を適切に挿入することが可能な編成データを生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の実施の一形態としての編地の編成についての基本的な考え方を示す。図1(a)に示す基本編地1の状態は、図1(b)に示すような平面状の基本編地1を編成して、折り曲げて形成する。平面状の基本編地1を、そのA部分1aを折り目の山折り部2aで折り返し、さらに折り目の谷折り部2bでB部分1bを折返し、さらにC部分1cを経てA部分1aを折り返す。B部分1bとC部分1cとの間には折り目は設けられず、この境界は折り目の山折り部2aが接近する接近部3となる。山折り部2aでの折り曲げて、この山折り部2aに接近部3を接近させる組合わせの折り返しを順次繰返すことで、図1(a)に示す積層した状態が得られる。ただし、折り目の山折り部2aおよび谷折り部2bは、折り曲げやすい部分ではあっても、編成時にはほとんど曲らずに、平面状の基本編地1が得られる。なお、後述する図3から図4に示す編成では、基本編地1の下側が表目となる。この表目側が外側となる折り目を山折り部2aとし、内側となる折り目を谷折り部2bとする。
【0019】
本実施の形態として図1(c)に示す編地5は、図1(b)に示す基本編地1を編成する際に、挿入糸6を挿入して得られる。挿入糸6は、1つの山折り部2aから接近部3までの組合わせに対して、折り目の山折り部2aを越えて谷折り部2bを通り、接近部3に達すると山折り部2aに戻るように折り返される。折り返された挿入糸6は、山折り部2aに達すると再度折り返され、接近部3を通って組合わせの外部に出る。接近部3側に隣接して次の組合わせがあれば、挿入糸6は、次の組合わせの山折り部2aを越え、谷折り部2bを経て接近部3で折り返されることを、順次繰返す。1つの組合わせに対して山折り部2a側に隣接する組合わせがあれば、その山折り部2aを越える挿入糸6は、山折り部2a側に隣接する組合わせの接近部3から、隣接する組合わせが挿入の対象となる。各組合わせ毎に、山折り部2aと谷折り部2bとの間には、挿入糸6が折り返されて往復する折り返し部分6aが形成される。接近部3から山折り部2aを越えて延びる部分は折り目部側延長部分となる。接近部3から山折り部2aとは異なる側に延びる部分は、接近部側延長部分となる。
【0020】
挿入糸6は、セット作業で使用した後に除去するようにすることができる。除去する場合は、ナイロン糸などの滑りのよい糸を使用する。挿入糸6に、熱溶融糸や熱収縮糸などを使用して、セット作業時の加熱で溶融や収縮などを行うようにして、除去しないで編地5中に残すこともできる。
【0021】
図2は、図1(c)に示すような挿入糸6を挿入した編地5の編成後に、挿入糸6を引張ることで、図1(a)に示す基本編地1の積層状態に近づけられることを示す。すなわち、図2(a)に示すように、図1(c)に示す挿入糸6を編成終了後に引張ると、折り目の谷折り部2bから接近部3に沿う部分ではB部分1bと同等の長さを保つけれども、折り返し部分6aの長さが減少する。折り返し部分6aの長さの減少で、折り目部であるの山折り部2aと接近部3とが接近する。この結果、A部分1aは、B部分1bおよびC部分1cに対して折り返される。図2(b)に示すように、挿入糸6の折り返し部分6aの長さが減少して、A部分1aはC部分1cとB部分1bとの間に折り返されて積層される状態となる。折り目に対するアイロン掛けなどのセット作業を行ってから、挿入糸6を編地5から除去すると、図1(a)に示すような積層状態の基本編地1が得られる。挿入糸6を引張る作業は容易であり、セット作業の軽減を図ることができる。
【0022】
なお、基本編地1では、A部分1a、B部分1bおよびC部分1cの長さは同等にされているので、図1(a)に示すように、折り曲げ時には接近部3は下側で山折り部2aに接触するまで接近するとともに、上側で次の組合わせの谷折り部2bにも接触するまで接近する。この場合、A部分1aとB部分1bとの長さは、同等である必要がある。C部分1cの長さは、A部分1aおよびB部分1bとは異ならせることもできる。C部分1cの長さがA部分1aおよびB部分1bと異なれば、折り曲げ時の接近部3と次の組合わせの谷折り部2bとには間隔があくようになる。また、1つの山折り部2aと接近部3との組合わせに関して、中間の谷折り部2bを設けないようにすることもできる。谷折り部2bを設ければ、谷折り部2bで確実に折り曲げることができるけれども、設けない場合は、谷折り部2bに相当する部分付近で全体的に曲って山折り部2aと接近部3とが接近する。さらに、山折り部2aと接近部3との組合わせは、基本編地1に複数設ける例を示しているけれども、少なくとも1つ設ければよい。
【0023】
図3および図4は、図1(c)に示すような編地5を編成するための手順の例を示す。図の右側に示すC1〜C9は、横編機でキャリッジを走行させて編地5を編成する際の編成コースをそれぞれ示す。ただし、後述するように、C1とC2とをリピートするので、最初のC1,C2を除いて、Cに続く数字が編成コースの実際の順番を示すものではなく、C3以降は、相対的な編成コースの順番を示す。また、前後の針床が歯口で対向する横編機を想定し、ループ状の図形は、編針に形成される編目を示すけれども、使用する編針の本数は例示であり、実際の基本編地1の編成では、一般により多くの本数の編針が使用される。図では針床が上下で対向し、基本編地1は、下側に示す針床で平編み組織として編成されるものとして示すけれども、実際の横編機では、歯口を挟んで上下ではなく、前後に対向している。
【0024】
C1とC2とでは、編糸10を給糸するヤーンキャリア11をキャリッジに連行して、折り目の山折り部2aと谷折り部2bとを形成しながら、基本編地1を編成する。C1の編成コースでは、山折り部2aとなる部分を表目12、谷折り部2bとなる部分を裏目13で編成する。C2の編成コースでは、山折り部2aおよび谷折り部2bとなる部分をミス14で編成し、編目を形成しない。このようなC1とC2の編成コースを繰返して編成する基本編地1では、全体が表目12で編成され、折り目の山折り部2aはウエール方向に1つおきにミス14が行われることで隣接する部分とは編み組織が変えられる。また折り目の谷折り部2bは、ウエール方向に1つおきにミス14が行われ、さらにミス14が行われない編目は裏目13で編成されることで、隣接する部分とは編み組織が変えられる。ミス14の部分の形成で折り曲げやすくなり、ミス14に表目12または裏目13のいずれを組合せるかで、山折りまたは谷折りのいずれか曲りやすい方向が決定される。なお、表目12や裏目13とミス14との割合は、1:1とは異なるようにしてもよい。また、コース方向に、1目だけではなく、複数の目数だけ連続する折り目を形成することもできる。
【0025】
C3では、ヤーンキャリア11を連行して谷折り部2bに裏目13を形成しながら、B部分1bとC部分1cとの境界となる接近部3で下側に示す針床から上側に示す針床への目移し15を行う。横編機のキャリッジには、編針に編成動作および目移し動作を行わせることができるカムのシステムが複数組搭載されることが一般的である。複数組のうちの先行側のシステムでヤーンキャリア11を連行しての編目形成を行い、後行側のシステムで目移し15を行う。
【0026】
C4では、キャリッジの走行方向を反転して、先行側のカムシステムは挿入糸6を給糸するヤーンキャリア16を連行して、C3で目移し15を行っている接近部3を過ぎるまで挿入糸6を歯口に給糸する。後行側のシステムでは、山折り部2aと谷折り部2bとなる部分を除いて、編目を下側の針床から上側の針床に目移しする。この目移しによって、C4の前半で挿入した挿入糸6を編地の裏側に通し、次のC5では編地の表側に通すように切換えている。
【0027】
C5では、キャリッジが反転して、先行側のシステムでヤーンキャリア16を連行し、挿入糸6を接近部3から山折り部2aよりも元の方向に戻るまで折り返す。後行側のシステムでは、接近部3に隣接するC部分1c側の編目の目移しと山折り部2aの編目の目移しとを行う。山折り部2aの編目の目移しは、挿入糸6を編目の裏側から表側に通すための目移しである。
【0028】
C6では、先行側のシステムでヤーンキャリア16を連行して、挿入糸6を、山折り部2aよりも戻った位置から、山折り部2a、谷折り部2bおよび接近部3を通り、さらに次の山折り部2aおよび谷折り部2bを経て、接近部3を過ぎるまで歯口に給糸する。後行側のシステムでは、すでに上側に編目が形成されている谷折り部2bと接近部3と、下側に留める山折り部2aを除いて、下側から上側への編目の目移しを行う。
【0029】
C7では、先行側のシステムで、ヤーンキャリア16を連行して、挿入糸6を、接近部3から谷折り部2bを越えて山折り部2aを過ぎるまで折り返して戻す。後行側のシステムでは、山折り部2aで編目を下側から上側に目移しする。
【0030】
C8では、先行側のシステムで、ヤーンキャリア16を連行して、挿入糸6を山折り部2aから折り返し、谷折り部2bおよび接近部3を越えて給糸する。右側に同様なC部分1c、A部分1a、B部分1bが続けば、C6と同様に、次の接近部3までの挿入糸6の給糸を行う。後行側のシステムでは、下側から上側への目移しを行う。
【0031】
以下、同様に挿入糸6の挿入を繰返し、C9では先行側のシステムでヤーンキャリア16を連行して挿入糸6を右方から左方に給糸し、後行側のシステムで、折り目の谷折り部2bを除いて、上側から下側への目移しを行う。
【0032】
以上のようにして挿入する挿入糸6は、編地5に編目を形成して編込まれてはいないので、編成終了後に引張って緊張させれば、図2に示すように、容易に折り目を整えることができる。折り目を整えた後、アイロンやスチームを使用するセット作業を行った後で、挿入糸6は容易に除去することができ、図1(a)に示すような積層状態の基本編地1を得ることができる。熱溶融糸などを挿入糸として用いれば、除去は不要となる。なお、挿入糸6を図の左から右の編幅方向に挿入しているけれども、右から左の編幅方向に挿入してもよいことはもちろんである。また、C1〜C9では、挿入糸6を1コース挿入しているけれども、実際の製品でコース数が多い場合は、C1〜C9を繰返すなどで、所望のコース数おきに挿入糸6を挿入するようにすればよい。
【0033】
さらに、挿入糸6は、たとえば高弾性糸などを使用して、基本編地1とともに組合わせて使用することもできる。プリーツ付のスカートなどは、前後の針床で両端を連結しながら筒状に編成したり、平面状に編成して両端の縫製で筒状にすることができ、高弾性糸を挿入糸6として挿入しておけば、編地をしわ状に絞るドレープ風のデザインも可能となる。
【0034】
図5は、本発明の実施の他の形態としての編地20,21の模式的な構成を示す。図5(a)は、図1(c)の編地5に対し、挿入糸6の組合わせ方を変化させた編地20の例を示す。編地20では、折り目の谷折り部2bには挿入糸6を通さない。また、図5(b)では、C部分1cの長さを、A部分1aやB部分1bよりも長くしている。C部分1cの長さが長くなるので、挿入糸6を通過させる通過部22をC部分1cの途中に設けて、挿入糸6が浮かないようにしている。
【0035】
C部分1cの長さや挿入糸6の挿入の状態の設定は、以上で説明したものに限られず、他の形態も可能であるのはもちろんである。
【0036】
図6は、以上で説明しているような挿入糸6を横編機で挿入するための編成データを生成するデザイン装置30の概略的な構成と、デザイン装置30を使用しての編成データの概略的な作成手順と示す。
【0037】
図6(a)に示すように、デザイン装置30は、汎用のコンピュータ31に、編地のデザインを行うソフトウエアをインストールして実現される。コンピュータ31には、キーボード、デジタイザ、マウスなどの入力装置32、グラフィックディスプレイなどの表示装置33、LANなどを介しての外部との通信が可能な通信装置34、各種記録媒体を着脱可能な外部記録装置35などが接続される。ソフトウエアのインストールは、通信装置34を介するダウンロードによって行ったり、外部記録装置35にCD−ROMやDVD−ROMなどの記録媒体を装着して行うことができる。このソフトウエアには、図6(b)に示す手順で挿入糸6を挿入する編成データを生成するプログラムも含むようにする。
【0038】
図6(b)に示すように、編成データを生成するプログラムが開始されると、ステップs1として、操作者が入力装置32にデザインデータを入力し、表示装置33に表示されるデザイン結果を見ながら、基本編地1のデザインを行い、折り目などを含む柄データを入力する。次にステップs2では、操作者が挿入糸6の挿入を指示する。図3および図4では、挿入糸6を1本だけ挿入しているけれども、複数本挿入することもできる。操作者が糸挿入指示を行えば、ステップs3で、挿入糸6の挿入本数、挿入位置、挿入形態などの挿入仕様設定の手順が行われる。実際に横編機を作動させる編成データは、ステップs4で生成される。挿入糸6の挿入に関しては、ステップs3で設定される挿入仕様に基づき、必要な編成コースの組込みや、各編成コースでの動作などを表す編成データが生成される。
【0039】
柄データを編成するための編成データに挿入糸6の挿入に関する編成データが追加された編成データは、通信装置34を介して横編機に伝送されたり、外部記録装置35からディスクやUSBメモリなどの記録媒体に記録されてから横編機に入力されて、編地5,20,21の編成が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の一形態としての編地5の編成についての基本的な考え方を示す模式的な断面図である。
【図2】図1(c)に示すような挿入糸6を挿入した編地5の編成後に、挿入糸6を引張ることで、図1(a)に示す基本編地1の積層状態に近づけられることを示す模式的な断面図である。
【図3】図1(c)に示す編地5を得るための編成図である。
【図4】図1(c)に示す編地5を得るための編成図である。
【図5】本発明の実施の他の形態としての編地20,21の模式的な断面図である。
【図6】図3および図4に示すような編地の編成を横編機で行うための編成データを生成するデザイン装置の概略的な構成を示すブロック図、および編成データの概略的な生成工程を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0041】
1 基本編地
2a 山折り部
2b 谷折り部
3 接近部
5,20,21 編地
6 挿入糸
6a 折り返し部分
10 編糸
11,16 ヤーンキャリア
12 表目
13 裏目
14 ミス
30 デザイン装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
編み組織の差異によって形成される折り目部、および該折り目部で折り曲げると該折り目部に接近する接近部の組合わせを少なくとも1つ有する基本編地と、
折り目部が平坦な状態の基本編地に挿入され、折り目部と該折り目部に接近する接近部との組合わせに対して、接近部から折り目部とは異なる側に延びる接近部側延長部分、接近部から折り目部に至り反転して接近部に戻る折返し部分、および接近部から折り目部を越えて延びる折り目部側延長部分が形成される挿入糸とを、
含むことを特徴とする編地。
【請求項2】
折り目を有する編地を編成する方法において、
基本編地を、編み組織の差異によって形成される折り目部と、該折り目部で折曲げると該折り目部に接近する接近部との組合わせを少なくとも1つ設けるように編成しながら、
基本編地の折り目部と該折り目部に接近する接近部との組合わせに対して、接近部から折り目部とは異なる側に延びる接近部側延長部分、接近部から折り目部に至り反転して接近部に戻る折返し部分、および接近部から折り目部を越えて延びる折り目部側延長部分が形成されるように、糸を挿入する、
ことを特徴とする編地の編成方法。
【請求項3】
前記基本編地の折り目部と接近部との1つの組合わせに対して、
折り目となる山折り部または谷折り部のうちの一方および他方を、間隔をあけて順次編成し、
一方の折り目となる部分を前記折り目部とし、
前記接近部を、該一方の折り目となる部分と隣接する該他方の折り目となる部分との間隔だけ、該他方の折り目となる部分から該一方の折り目となる部分とは異なる側に離れる位置に設けることを特徴とする請求項2記載の編地の編成方法。
【請求項4】
前記編地を、少なくとも前後一対の針床が歯口で対向する横編機で編成し、
前記糸のうち、前記折り目部側延長部分と、前記折返し部分のうちの接近部から折り目部に至る部分とが挿入された後、それぞれ針床間で目移しすることを特徴とする請求項2または3記載の編地の編成方法。
【請求項5】
横編機で折り目を有する編地を編成するための編成データを生成するデザイン装置において、
基本編地を、編み組織の差異によって形成される折り目部と、該折り目部で折曲げると該折り目部に接近する接近部との組合わせを少なくとも1つ設けるように編成しながら、
基本編地の折り目部と該折り目部に接近する接近部との組合わせに対して、接近部から折り目部とは異なる側に伸びる接近部側延長部分、接近部から折り目部に至り反転して接近部に戻る折返し部分、および接近部から折り目部を越えて伸びる折り目部側延長部分が形成されるように、糸を挿入する、
ための編成データを、横編機に実行させるように生成することを特徴とするデザイン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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