説明

編成靴下、及びその編成方法

【課題】
履いた状態で足の甲の部分から靴下の一部が靴から部分的にはみ出る不具合を防止して、ファッション性を高めた編成靴下の提供である。
【解決手段】
スニーカ用の靴下のように、足Pのほぼ全体を収容可能な略袋状の本体部10と、当該本体部10に接続して形成されて、開口縁21が踝31の下側に位置するようにして、踝31の下側の部分を収容する短筒状の履き口筒部20とから成る履き口22の低い編成靴下であって、前記本体部10の履き口筒部20に接続する接続部分K、及び当該履き口筒部20のうち少なくとも前記接続部分Kの甲側の前編地FKは、踵側の後編地BKに比較して、爪先から履き口22の方向に沿った長さが短くなっている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスニーカ用の靴下のように、履き口が低くて、その端縁が踝(くるぶし)の下側に位置するような編成靴下、及びその編成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、スニーカ用の靴下、ランニングソックスは、靴下を履いていることが見えないようにするのが、ファッション性、見栄え等の観点から要求される。このような靴下として、特許文献1に開示のものが知られており、靴下の本体部に対して凹状の履き口が形成されている靴下において、前記履き口の位置を爪先の側に移動させて、足の甲部に装着される部分の長さを短くすることにより、上記要求を満足させている。
【0003】
しかし、靴下の本体部を固定して、当該本体部に形成される凹状の履き口の位置を爪先の側に移動させる構成では、踵(かかと)の上部に編地の弛みが発生してしまい、履いた靴下を見えなくする要求は満足できても、履き心地が悪くなるという別の問題が発生する。
【特許文献1】特開2002−146603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、スニーカ用の靴下のように履き口の低い靴下において、履き心地を低下させることなく、履いた状態で足の甲の部分から靴下の一部が靴から部分的にはみ出る不具合を防止して、ファッション性を高めた編成靴下、及びその編成方法の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、スニーカ用の靴下のように、足のほぼ全体を収容可能な略袋状の本体部と、当該本体部に接続して形成されて、開口縁が踝の下側に位置するようにして、踝の下側の部分を収容する短筒状の履き口筒部と、から成る履き口の低い編成靴下であって、前記本体部の履き口筒部に接続する接続部分、及び当該履き口筒部のうち少なくとも前記接続部分の甲側の前編地は、踵側の後編地に比較して、爪先から履き口の方向に沿った長さが短くなっていることを特徴としている。
【0006】
請求項1の発明によれば、靴下の甲部における履き口筒部との接続部分を除いて、他の部分の構造はそのままであって、少なくとも前記接続部分の甲側の前編地が、踵側の後編地に比較して、爪先から足挿入開口の方向に沿った長さが部分的に短くなっているために、履き心地性を維持したままで、靴を履いた状態において足の甲の部分から靴下の一部がはみ出なくなって、ファッション性が高められる。
【0007】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の編成靴下を横編機又は丸編機を用いて編成する方法であって、前記本体部の少なくとも前記接続部分を編成する際には、各コースにおける後編地は、ヤーンフィーダが通過して編糸が供給される毎に各編針で全旧ループに対して順次新ループを編成し、各コースにおける前編地は、ヤーンフィーダが通過して編糸が供給されても作動しない編針を設けて、連続する旧ループに対して断続させて新ループを編成して、後編地の以後の1ないし複数のコースにおいて以前のコースで編成欠落している旧ループに新ループを編成して、前記以前のコースにおける全ての旧ループに新ループを編成した後に、前編地において次のコースに進むように編成することを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明によれば、編地の後側を編成する編針は常に使用して、全ての旧ループに対して新ループを編成するのに対して、編地の前側を編成する編針の一部を規則的に休止させることにより、靴下の本体部における履き口筒部との接続部分を編成している編地の編成済コース数(編成された状態におけるコース数)を、甲側の前編地の方が踵側の後編地よりも少なくすることができて、即ち、甲側の前編地の実質編成コース数は、ヤーンフィーダの周回数(往復移動数)よりも少なくなって、前記接続部分の爪先から履き口に沿った前編地の長さを、後編地の長さよりも短くできる。
【0009】
また、請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記接続部分の各コースにおける前編地は、連続する3つの旧ループに対して先頭の旧ループに対してのみ新ループを編成して、後編地の3コースに対して前編地の1コースが形成されるように編成することを特徴としている。
【0010】
請求項3の発明によれば、靴下の接続部分においては、後編地の3コースに対して前編地の1コースが編成されるため、理論上は、前記接続部分の前編地の長さを後編地の長さの(1/3)まで短くできて、本発明の上記課題を十分に達成し得る。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る編成靴下は、靴下の甲部における履き口筒部との接続部分を除いて、他の部分の構造はそのままであって、少なくとも前記接続部分の甲側の前編地が、踵側の後編地に比較して、爪先から履き口の方向に沿った長さが部分的に短くなっている。よって、履き心地性を維持したままで、靴を履いた状態において足の甲の部分から靴下の一部がはみ出なくなって、ファッション性が高められる。
【0012】
本発明に係る編成靴下の編成方法によれば、甲側の前編地を編成する編針のみを規則的に休止させる方法によって、甲側の前編地の実質編成コース数を、ヤーンフィーダの周回数(往復移動数)よりも少なくできて、前記接続部分の爪先から履き口に沿った前編地の長さを、後編地の長さよりも短くできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、最良の実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明する。図1は、横編機のニードルベッドの模式的斜視図であり、図2(イ)〜(ヘ)は、靴下Sの本体部10の履き口筒部20と接続する部分Kの各コースにおける編針Nの作用状態の説明図であり、図3(イ)〜(ヘ)は、履き口筒部20との接続部分Kの前編地FK、及び後編地BKの編成模式図であり、図4−A及び図4−Bは、靴下Sの接続部分Kの前編地FKの1つの編成済コースが編成される順序を示す編成図であり、図5(イ),(ロ)は、作用時、及び非作用時における編針Nの動きを説明する図であり、図6は、本発明に係る靴下Sの非使用状態の斜視図である。
【0014】
本発明に係る靴下Sは、後述の方法により横編機により編成され、図4に示されるように、5本指の各指袋部11を備え、人の足の踝31より下方の部分が収容される略袋状をした本体部10と、当該本体部10に接続して編成されて、開口縁21が踝31よりも下側に位置するようにして、踝31の下側の部分を収容する短筒状をした履き口筒部20とで構成される。本体部10における履き口筒部20に接続される部分Kは、前編地FKと後編地BKの編成構造が異なっていて、前編地FKにおける爪先から履き口22に沿った方向の長さが、後編地BKの同様の長さよりも短くなっていることが特徴である。
【0015】
次に、上記した靴下Sの編成方法について説明する。図1に示されるように、横編機には、一組のフロントニードルベッドFNとバックニードルベッドBNとが相前後して対向し、しかも前後方向の中央部が高くなるような山形(逆V字形)に配置されて、前後の各ニードルベッドFN,BNには、それぞれ数十本づつの編針群が挿入され、各編針は、ベッドの傾斜方向に沿って高サイクルで上下動する。この横編機の各ニードルベッドFN,BNには、編針を選定する装置(図示せず)が備え付けられていて、各ニードルベッドFN,BNに設けられた多数の編針群のうち、作用させる編針を選択する装置である。
【0016】
そして、靴下Sは、図4において、本体部10の爪先の各指袋部11から編成を開始して、履き口筒部20の開口縁21において編成を終了し、その編成途中において、本体部10における履き口筒部20に接続する部分Kを編成する際には、前記選針ドラム装置により各ニードルベッドFN,BNにおいて作用する編針を選択して、前編地FKの爪先から履き口22に沿った方向の長さが、後編地BKの同様の長さよりも短くなるように編成する。
【0017】
即ち、図2ないし図4において、履き口筒部20との接続部分Kの最初のコースにおいては、図2ないし図4で(イ)で示されるように、各ニードルベッドFN,BNの編針を全て作用させて行い、接続部分Kの第2コースにおいては、図2ないし図4で(ロ)で示されるように、ヤーンフィーダの周回走行(往復走行)に対してフロントニードルベッドFNにおいては、選択された編針(a〜h)のうち2つおきの編針(b, e, h) を作用させて、最初のコースで編成された旧ループL’に対して2つおきに新ループLを編成すると共に、バックニードルベッドBNにおいては、選択された全ての編針(A〜H)を作用させて、最初のコースで編成された全ての旧ループL’に対して新ループLを編成する。ここで、図5(イ),(ロ)は、それぞれ編針Nの作用時、及び非作用時の各状態を対比して示す図であって、編針Nの作用時には、旧ループL’に対して編針Nが進入することによりベラ41が外れた(「クリアリング」した)後に、ヤーンフィーダの通過により供給される編糸Yを編針Nの先端で引っ掛け、その後に編針Nが後退する途中で旧ループL’にベラ41が引っ掛かることにより閉じて、旧ループL’から編針Nが引き抜かれる(「ノックオーバー」される)ことにより、旧ループL’に対して新ループLが編成される。これに対して、編針Nの非作用時には、編針Nは、旧ループL’を掴んだままで移動せず、ヤーンフィーダの通過により編糸Yが供給されても、編針Nが編糸Yを引っ掛けることはない。よって、後編地BKでは、全旧ループL’に対して新ループLが編成されるのに対して、前編地FKでは、旧ループL’に対して2つおきに新ループLが編成されるため、編成欠落する旧ループL’が発生する。なお、図2及び図3において、a〜hは、フロントニードルベッドFNの選択された編針を示すと共に、A〜Hは、バックニードルベッドBNの選択された編針を示し、各編針(a〜h),(A〜H)の次の数字は、前編地FK及び後編地BKにおいて実際に編成されたコースの番号を示し、Y1ないしY6は、「数字」に対応するコースを編成している編糸を示す。
【0018】
更に、履き口筒部20との接続部分Kの第3コースにおいては、図2ないし図4で(ハ)で示されるように、フロントニードルベッドFNにおいては、選択された編針(a〜h)のうち、直前の第2コースに対して1つずらして2つおきの編針(a, d, e) を作用させて、第2コースにおいて編成欠落された旧ループL’の半分に対して新ループLを編成すると共に、バックニードルベッドBNにおいては、選択された全ての編針(A〜H)を作用させて、直前の第2コースで編成された全てのループ(旧ループ)に対して新ループを編成する。接続部分Kの第4コースにおいては、図2ないし図4で(ニ)で示されるように、フロントニードルベッドFNにおいては、選択された編針(a〜h)のうち、直前の第3コースに対して1つずらして2つおきの編針(c,f) を作用させて、第2コースにおいて編成欠落された残りの旧ループL’の全てに対して新ループLを編成して、ヤーンフィーダの3回の周回(3往復移動)によって、前編地FKの1つの「実質編成コース」を完成させると共に、バックニードルベッドBNにおいては、選択された全ての編針(A〜H)を作用させて、直前の第3コースで編成された全ての旧ループL’に対して新ループLを編成する。以後、図2ないし図4の(ホ),(ヘ)で示されるように、上記の操作を繰り返して、履き口筒部20の直前まで接続部分Kを編成し、履き口筒部20は、選択された全ての編針を作用させて行う通常の方法で編成する。
【0019】
このように、履き口筒部20との接続部分Kにおいては、ヤーンフィーダが3回の周回(3往復移動)の間に、後編地BKは、ヤーンフィーダの周回数と同数の3コース分だけ編成されるが、前編地FKは、実質的に1コース編成されるのみである。このため、履き口筒部20との接続部分Kにおいては、前編地FKの爪先から履き口22の方向に沿った長さは、後編地BKの同様の長さに対して、理論状は(1/3)となって、相当に短くなる。但し、前編地FKの編成時に編成欠落を生じさせても、当然に隣接するループLの間は編糸Yで連結されており、ループを編成しない編糸Y’〔図4−A(ロ),(ハ)及び図4−B(ニ)参照〕がヤーンフィーダの周回数に対応する本数だけ存在するために、前編地FKは、後編地BKに比較して「厚ぼったい」感じとなる。
【0020】
このため、図7ないし図9に示されるように、本発明に係る靴下Sを履いた場合には、本体部10における履き口筒部20との接続部分Kの編地は、前編地FKと後編地BKとで編成方法が上記のように異なっていて、接続部分Kの前編地FKの爪先から履き口22に至る方向に沿った長さは、後編地BKの同様の方向の長さよりも短くなっているため、本発明の編成方法を用いない通常の編成方法による靴下S’に比較して、履き口22の開口縁21の位置が足の甲部において爪先の側にずれることになる。このため、図10に示されるように、本発明に係る靴下Sを装着してスニーカQを履いた場合において、足Pの甲部において靴下Sの開口縁21の部分がはみ出して視認されることがなくなる。よって、スニーカQの履き口51に接する部分は素足となって、ファッション性が高められる。一方、本発明に係る靴下Sは、本体部10における履き口筒部20との接続部分Kの編地が、甲側の前編地FKの方が踵側の後編地BKに比較して短くなっているのみで、他の部分の編成構造は従来のままであるので、従来同様の良好な履き心地性を維持できる。
【0021】
また、上記実施例では、履き口筒部20との接続部分Kの前編地FKは、ヤーンフィーダが3回周回することにより、1つの実質編成コースが編成される構成であるが、前編地FKの1つの完成編成コースが編成されるためのヤーンフィーダの周回数は、2回、或いは4回であってもよく、ヤーンフィーダの前記周回数の調整により、前編地FKが後編地BKに対して短くなる程度の調整を行える。また、前記接続部分Kを編成する総コース数の調整によっても、前編地FKが後編地BKに対して短くなる程度の調整を行える。
【0022】
更に、上記実施例では、編成方法を異ならしめることにより、靴下Sの本体部10における履き口筒部20との接続部分Kの編地を構成する甲側の前編地FKと踵側の後編地BKとの長さを異ならしめているが、前記接続部分Kのみならず、履き口筒部20の部分まで、前側と後側とで上記のように編成方法を異ならしめて編成して、前側の編地の長さを後側の編地の長さよりも短くすることも可能である。
【0023】
なお、上記実施例は、横編機により靴下を編成する場合について説明したが、本発明の編成方法は、丸編機によっても可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】横編機のニードルベッドの模式的斜視図である。
【図2】(イ)〜(ヘ)は、靴下Sの本体部10の履き口筒部20と接続する部分Kの各コースにおける編針Nの作用状態の説明図である。
【図3】(イ)〜(ヘ)は、履き口筒部20との接続部分Kの前編地FK、及び後編地BKの編成模式図である。
【図4−A】(イ)ないし(ハ)は、靴下Sの接続部分Kの前編地FKの1つのコースが編成される途中までの順序を示す編成図である。
【図4−B】(ニ)ないし(ヘ)は、靴下Sの接続部分Kの前編地FKの1つのコースが編成される途中から最終までの順序を示す編成図である。
【図5】(イ),(ロ)は、作用時、及び非作用時における編針Nの動きを説明する図である。
【図6】本発明に係る靴下Sの非使用状態の斜視図である。
【図7】本発明に係る靴下Sの使用状態の側面図である。
【図8】同じく使用状態の側面断面図である。
【図9】図8のX−X線断面図である。
【図10】本発明に係る靴下Sを装着してスニーカQを履いた状態の側面図である。
【符号の説明】
【0025】
BK:後編地
FK:前編地
K:靴下の履き口筒部との接続部分
L:新ループ(ループ)
L’:旧ループ
N:編針
P:人の足
Q:スニーカ
S:靴下
Y:編糸
10:靴下の本体部
20:靴下の履き口筒部
21:開口縁
22:履き口
31:踝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スニーカ用の靴下のように、足のほぼ全体を収容可能な略袋状の本体部と、当該本体部に接続して形成されて、開口縁が踝の下側に位置するようにして、踝の下側の部分を収容する短筒状の履き口筒部と、から成る履き口の低い編成靴下であって、
前記本体部の履き口筒部に接続する接続部分、及び当該履き口筒部のうち少なくとも前記接続部分の甲側の前編地は、踵側の後編地に比較して、爪先から履き口の方向に沿った長さが短くなっていることを特徴とする編成靴下。
【請求項2】
請求項1に記載の編成靴下を横編機又は丸編機を用いて編成する方法であって、
前記本体部の少なくとも前記接続部分を編成する際には、各コースにおける後編地は、ヤーンフィーダが通過して編糸が供給される毎に各編針で全旧ループに対して順次新ループを編成し、
各コースにおける前編地は、ヤーンフィーダが通過して編糸が供給されても作動しない編針を設けて、連続する旧ループに対して断続させて新ループを編成して、後編地の以後の1ないし複数のコースにおいて以前のコースで編成欠落している旧ループに新ループを編成して、前記以前のコースにおける全ての旧ループに新ループを編成した後に、前編地において次のコースに進むように編成することを特徴とする編成靴下の編成方法。
【請求項3】
各コースにおける前編地は、連続する3つの旧ループに対して先頭の旧ループに対してのみ新ループを編成して、後編地の3コースに対して前編地の1コースが形成されるように編成することを特徴とする請求項2に記載の編成靴下の編成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−A】
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【図4−B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−69469(P2008−69469A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247595(P2006−247595)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(591038392)石川メリヤス有限会社 (2)
【Fターム(参考)】