説明

緩み止め螺合構造

【課題】一度締結したのちに再締結することも可能であり、また、確実に所定以上の緩み止めの機能を果たすことができ、さらに、螺合構造全体での締め付け軸力の保持性を確保することのできる緩み止め螺合構造を提供する。
【解決手段】ナット部11の内螺子から連設する内螺子延長部を有した締めつけ部12を具備するナット構造1と、前記締め付け部12を挿通可能なワッシャ孔21を有した板状のワッシャ構造2からなる。ワッシャ孔21は、ワッシャ板の一面側に形成された、締めつけ部12の解放時の外形よりも大きい孔形状からなる大径部から、板厚さ方向へ縮径して前記外形の最小部よりも小さい孔形状の小さい最小径部に至る縮径構造を、それぞれワッシャ板の一面側から他面寄りの位置にかけて有する。ナット構造の締結によって最小径部が締めつけ部12を周着して締めつけることで圧着締結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト、ナット構造とワッシャとを使用して螺合締結するための螺合構造であって、緩み止め機能を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の緩み止め構造として、ナットの内螺子内にボルトに歯合する歯合爪付きのボルトが開示される。
【0003】
このような緩み止め機能(逆回転防止機能)を有するボルト及びナット構造として、例えばねじ山4を横切って軸方向に延びる係合溝6が形成されているボルト1と、このボルトに螺合するナット2とにより構成されるものが開示される(特許文献1参照)。個のボルト及びナット構造においては、ナットの頂面部に、係合溝に係合してナットの緩み方向Lへの回転を阻止する弾性金属板製の係合爪が、ボルトとの螺合前においては半径内向きに突出するように取付けられている。そしてナットとボルトとが螺合すると、係合爪はボルトの外周面に重なるように押し曲げられて係合溝に係合する、とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−211753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来のナット構造では、ナット内に取り付けた弾性金属板製の係合爪がボルトのネジ山側に突出しておさえることで緩み止め効果を出すものであるため、確実に所定以上の緩み止めの機能を果たすものとはいえなかった。
【0006】
特に、上記従来の緩み止めナットを含め、ボルト、ナットによる締結体において、ボルトやナットの強度や材質が考慮されるものの、座金を含めた螺合構造全体での締め付け保持力が考慮されることは少なかった。また、この種の締め付けによる螺合構造において、締めつけ時の締め付けトルクは重要視されるものの、締めつけ後の締結軸力は不明であった。
【0007】
そこで本発明は、確実に所定以上の緩み止めの機能を果たすことができ、さらに、螺合構造全体での締め付け軸力の保持性を確保することのできる緩み止め螺合構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく本発明では下記(1)〜(4)の手段を講じている。
【0009】
(1)本発明の緩み止め螺合構造は、ナット部11の一端から延設され、ナット部11の内螺子から連設する内螺子延長部を有した締めつけ部12を具備するナット構造1と、
前記締め付け部12を挿通可能なワッシャ孔21を有した板状のワッシャ構造2とを具備してなり、
前記ワッシャ孔21は、ワッシャ板の一面側に形成された、締めつけ部12の解放時の外形よりも大きい孔形状からなる大径部から、板厚さ方向へ縮径して前記外形の最小部よりも小さい孔形状の小さい最小径部に至る縮径構造を、それぞれワッシャ板の一面側から他面寄りの位置にかけて有し、
ナット構造の締結によってワッシャ構造2とナット構造1とが近接することで、ワッシャ孔21内での締め付け部12の収容位置がずれて、最小径部が締めつけ部12を周着して締めつけることで、内螺子延長部がボルトの外螺子を圧着締結することを特徴とする。
【0010】
(2)前記締め付け部12は、軸方向の延長先端に向かって外形が縮径してなる先端縮径部120を有し、前記ワッシャ孔21は、前記先端縮径部120の長さ方向の縮径率よりも大きな縮径率で縮径した最縮径部分に前記最小径部22を有することが好ましい。
【0011】
(3)前記最小径部22はワッシャの他面よりもワッシャ孔21内へずれた位置に形成されることが好ましい。
【0012】
(4)締めつけ部12は、ナット部11寄りの軸位置に、ナット部11から同径のまま延長するか或いは内径側へ窪んで延長する基端延長部121を有し、
ワッシャ構造2はワッシャ孔21内の一面寄りの位置に、締めつけ部12の基端部の解放時の外形よりも小さい孔形状として内方突出した第二縮径部23を有してなり、前記最小径部22が締めつけ部12を締めつける状態の位置関係において、第二縮径部23が基端延長部121の外周に位置することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上記手段を講じることで、ナットの内螺子を延長させた部分がワッシャ孔への挿通によって締めつけられ、ボルトのネジ山を螺合接触したまま押さえ込むという構造となっている。このため、要求される性能に応じたワッシャ孔形状等のワッシャ構造を使用することで、確実に所定以上の緩み止めの機能を果たすことができ、さらに、螺合構造全体での締め付け軸力の保持性を確保することのできる緩み止め螺合構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1のナット構造及びワッシャ構造の締め付け前後の各状態(a)(b)を示す側面視軸断面説明図。
【図2】実施例1のナット構造及びワッシャ構造の締め付け前後の各状態(a)(b)を示す底面視説明図。
【図3】実施例1のナット構造及びワッシャ構造の締め付け前後の状態を示す平面視説明図。
【図4】実施例2のナット構造及びワッシャ構造の締め付け前の状態を示す側面視軸断面説明図。
【図5】実施例3のナット構造及びワッシャ構造の締め付け前の状態を示す側面視軸断面説明図。
【図6】実施例4のナット構造及びワッシャ構造の締め付け後の状態を示す側面視軸断面説明図。
【図7】実施例4のナット構造及びワッシャ構造を示す図6のA−A線断面図。
【図8】実施例4のナット構造及びワッシャ構造を示す図6のB−B線断面図。
【図9】実施例4のナット構造及びワッシャ構造を示す図6のC−C線断面図。
【図10】実施例5のワッシャ構造の側面視断面説明図。
【図11】実施例6のナット構造、ワッシャ構造及びカバー構造の側面視断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態につき各図と共に説明する。本発明の緩み止め螺合構造は基本的に、
・ナット部11の一端から延設され、ナット部11の内螺子から連設する内螺子延長部を有した締めつけ部12を具備するナット構造1と、
・前記締め付け部12を挿通可能なワッシャ孔21を有した板状のワッシャ構造2とを具備する。
【0016】
いずれの実施例においてもナット構造1は、内螺子延長部を内孔形成して同軸状に延設され、外周からの締結によって縮径可能な締めつけ部12を有する。
【0017】
またいずれの実施例においてもワッシャ孔21は、ワッシャ板の一面側に形成された、締めつけ部12の解放時の外形よりも大きい孔形状からなる大径部から、板厚さ方向へ縮径して前記外形の最小部よりも小さい孔形状の小さい最小径部に至る縮径構造を、それぞれワッシャ板の一面(ワッシャ上面2A)側から他面(ワッシャ下面2B)寄りの位置にかけて有する。
【0018】
そしていずれの実施例においても、締め付け前の状態から締め付け状態となるとき、ナット構造の締結によってワッシャ構造2とナット構造1とが近接することで、ワッシャ孔21内での締め付け部12の収容位置がずれて、最小径部が締めつけ部12を周着して締めつけることで、内螺子延長部がボルトの外螺子を圧着締結する。内螺子の延長部の螺合構造を利用した、面接触による圧着締結であり、かつワッシャの挿通に伴うワッシャ孔による締めつけ部12の周着構造であるから、複数種類の形状のワッシャ孔やワッシャ厚さのワッシャ構造を用意することで、周着力を調節することも可能である。
【0019】
締め付け部12は、軸方向の延長先端に向かって外形が縮径してなる先端縮径部120を有する。このうち実施例1,3,5,6においては、前記ワッシャ孔の孔面は凹面状に湾曲形成されており、前記先端縮径部120の長さ方向の縮径率よりも大きな縮径率で縮径した最縮径部分に前記最小径部22を有することで、最小径部22による締め付け部への締め付け力を締めつけ後も確実に確保するものとしている。
【0020】
実施例2を除く実施例1、3乃至6の最小径部22はワッシャの他面よりもワッシャ孔21内へずれた位置に形成される。
【0021】
実施例1を除く実施例2〜6の締めつけ部12は、ナット部11寄りの軸位置に、ナット部11から同径のまま延長するか或いは内径側へ窪んで延長する基端延長部121を有する。
【0022】
実施例1,2,6を除く実施例3,4、5のワッシャ構造2はワッシャ孔21内の一面寄りの位置に、締めつけ部12の基端部の解放時の外形よりも小さい孔形状として内方突出した第二縮径部23を有してなり、前記最小径部22が締めつけ部12を締めつける状態の位置関係において、第二縮径部23が基端延長部121の外周に位置する。
【0023】
実施例6はワッシャ構造に外ネジ部が設けられると共に、これに螺合してナット構造の鍔部13を覆う円形断面のカバー構造3を具備する。カバー構造3はナット部11のナット面に張り出してバネ固定する固定板33を有しており、ナット構造とワッシャ構造との締めつけ後の固定状態を長期間確保するものとしている。
【0024】
図1〜3に示す実施例1の緩み止め螺合構造において、ナット構造は六角柱状のナット部11の下端に扁平部分円錐状の鍔部13が下方へ拡径して張り出してなり、さらにその下方へ向かって一定の割合で縮径する外形部分円錐面状の締めつけ部12が延設される。図1a、図2aに示す締めつけ前の解放状態において、ナット部11の上端から締めつけ部の下端に亘って等径に内螺子が形成される。締め付け部12は軸断面視傾斜直線状の外縁と、軸と直交する円弧状の底面と、軸と並行な円環状の内螺子延長部を有した部分円錐環体において、その全高さに沿って、複数カ所を位相方向へ等間隔毎に切り欠いた離間部Dが形成されてなる。この離間部Dは解放状態では平行な離間幅であるが、締め付け状態ではワッシャ構造の最小径部22によって下端側が小幅となって、離間した締めつけ部12の各片同士が近接する。
【0025】
実施例1のワッシャ構造は断面弧状の凹曲面で形成されるワッシャ孔を有する。実施例の最大径部22はワッシャ下面2Bよりわずかにワッシャ孔側へずれた位置に形成され、最小径部20はワッシャ上面に形成される。
【0026】
図4に示す実施例2のワッシャ構造は部分円錐状の断面傾斜直線縁で形成されるワッシャ孔を有し、最大径部22はワッシャ下面2B上の位置に形成され、最小径部20はワッシャ上面2A上の位置に形成される。実施例2の締め付け部12として、長さ方向に等しい径の円環状の基端延長部121が設けられる。
【0027】
図5に示す実施例3の締め付け部12として、中心側にくぼんだ断面半円弧状の窪みを外形に有する基端延長部121が設けられる。
【0028】
図6〜9に示す実施例4のワッシャ構造は断つきのワッシャ孔内に2枚の環状板22,23が埋設される。
【符号の説明】
【0029】
ナット部11
内螺子延長部
締めつけ部12
ナット構造1
ワッシャ孔21
ワッシャ構造2
大径部
最小径部
先端縮径部120
基端延長部121
最小径部22
第一ワッシャ面
第二ワッシャ面
第二縮径部23


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナット部11の一端から延設され、ナット部11の内螺子から連設する内螺子延長部を有した締めつけ部12を具備するナット構造1と、
前記締め付け部12を挿通可能なワッシャ孔21を有した板状のワッシャ構造2とを具備してなり、
前記ワッシャ孔21は、ワッシャ板の一面側に形成された、締めつけ部12の解放時の外形よりも大きい孔形状からなる大径部から、板厚さ方向へ縮径して前記外形の最小部よりも小さい孔形状の小さい最小径部に至る縮径構造を、それぞれワッシャ板の一面側から他面寄りの位置にかけて有し、
ナット構造の締結によってワッシャ構造2とナット構造1とが近接することで、ワッシャ孔21内での締め付け部12の収容位置がずれて、最小径部が締めつけ部12を周着して締めつけることで、内螺子延長部がボルトの外螺子を圧着締結することを特徴とする緩み止め螺合構造。
【請求項2】
前記締め付け部12は、軸方向の延長先端に向かって外形が縮径してなる先端縮径部120を有し、前記ワッシャ孔21は、前記先端縮径部120の長さ方向の縮径率よりも大きな縮径率で縮径した最縮径部分に前記最小径部22tを有する請求項1記載の緩み止め螺合構造。
【請求項3】
前記最小径部22tはワッシャの他面よりもワッシャ孔21内へずれた位置に形成される請求項1又は2記載の緩み止め螺合構造。
【請求項4】
前記締めつけ部12は、ナット部11寄りの軸位置に、ナット部11から同径のまま延長するか或いは内径側へ窪んで延長する基端延長部121を有し、
ワッシャ構造2はワッシャ孔21内の一面寄りの位置に、締めつけ部12の基端部の解放時の外形よりも小さい孔形状として内方突出した第二縮径部23tを有してなり、前記最小径部22tが締めつけ部12を締めつける状態の位置関係において、第二縮径部23tが基端延長部121の外周に位置する請求項1、2又は3のいずれか記載の緩み止め螺合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−17814(P2012−17814A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156267(P2010−156267)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(508284850)株式会社トラスト (5)
【Fターム(参考)】