説明

緩勾配の折半屋根の散水熱交換方法

【課題】 屋根凹凸面に対する熱媒体の斜め方向への散布では尾根が遮蔽物になって濡れムラができやすく、また粒子が外気中を飛翔するため大気への放熱ロスが大きい。
【解決手段】 緩勾配の折半屋根の尾根を形成する凸所の傾斜側面に吸液材(3a)を接着すると共に、凸所の縁に仕切りを設置して凸所の上側表面に囲み(2a)を設け、散水手段(A1〜9)よりこの囲み内に熱媒体を供給し、ゆっくりとした速度で移動する熱媒体は囲み内に停滞して熱媒体の溜りを形成する一方、囲みに設けたオリフィス(2b)より尾根の傾斜側面に熱媒体を流出させ、傾斜側面を覆う吸液材に保水させ拡散させながら囲みの位置より尾根の谷部(5)に向けて流下させ、熱媒体をその慣性により谷部を横断する方向に移動させて熱媒体と折半屋根表面との熱交換を行ない、他方、尾根の谷部の上流側に設けた熱媒体の放水手段(B1〜3)より下流側にむけて多量の熱媒体を放出し、この放出水により谷部表面を水洗する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、折半形式をした緩勾配屋根の散水熱交換方法、より具体的には緩勾配折半屋根の散水融雪方法および/または散水冷却方法に係る。豪雪地では、冬期に融雪目的のために利用し夏期には屋根冷却に用いることができる。
本明細書中では、説明の便宜上、融雪を事例とした説明がされている。
【背景技術】
【0002】
10分の1から100分の1といった緩勾配の凹凸折半屋根は屋根構造が単純で耐圧性に優れているため、規模の大きな建物に多く見られる屋根形式である。積雪量が2.5m程度までの耐雪屋根構造体として豪雪地域では汎用されている。
こうした大型の緩勾配折半屋根の融雪には地下水の散水方式が一般的であり、散水にはスプリンクラや噴射ノズル等の散布器を使用する事例が多く見られる。スプレイ散水は広範囲に拡散させることができるので、散布器を点在させておけば大規模な屋根面であっても想定される平均的積雪量の範囲内であればこれに対処することができる。
【0003】
しかし、長時間わたり多量の雪が降り続くと融雪が追いつかず、屋根凹凸面に対する熱媒体の斜め方向への散布では尾根が遮蔽物になって濡れムラができやすく、また粒子が外気中を飛翔するため大気への放熱ロスが大きい。
また風雪が強くてスプレイ水が飛ばされてしまうときには散水の効果が失われる。このような状況下では雪溜りが拡大し残雪がつながって屋根表面を広範囲に雪が被り、下側にトンネルが形成され、やがては屋根全面が雪で覆われ積雪が拡大していく。降雪量は軽微な年と甚だしい年の差が大きく、また記録的な大豪雪に見舞われる可能性もあって予測困難なのが実態である。
【0004】
設備能力に余力を持たせるために、散布器の設置間隔を狭めたり散水量を多くするなど熱の投入量を増やす方法にも限界がある。豪雪地帯での散水量として1平米あたり毎分0.5リットル程度なら多いとは言えないが、この水量でも5千平米の屋根では毎分2トン以上が消費される。1物件あたりの消費量としては1時間あたり120トン以上、日量では約3000トンにもなり、これが数日も続けばその水量は尋常ではなく、大型屋根での地下水利用は恒常的な設備にはなりにくい。
【0005】
豪雪地に大型工場を誘致する場合、この課題は大きな障害である。新たに井戸を掘削するには規制があって許可がされないこともある。ボイラー加熱方式を採用するには有資格者の管理する大型ボイラーの導入と高額の燃費を覚悟しなければならない。
【0006】
この解決策として、屋根上に平板を設置し平坦面を形成して融雪する方法につき評価してきた。この方法は、平坦面であるから融雪性能には優れていはいるものの、事実上、屋根の葺きなおしに相当し工事費の嵩む難点がある。
【特許文献1】 特開2004−149782
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、折半屋根の頂上部を跨がって敷設する平板はそれ自体が耐雪強度を備えた軽量な部材要素であって、しかも風圧対策を考慮に入れて屋根の支保構造に安定的に固定しておかなければならないので設置費用が高額になり、大型の折半屋根に採用するには費用対効果の観点から採用が難しい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、熱媒体を屋根面に広く均一に分布させるために、多く雪を被る尾根の上側表面に投入初期の熱媒体を滞留させながら、尾根頂上部の融雪と周辺への散水を同時に行ない屋根全面を融雪することを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
屋根の尾根の表面積は小さいので供給される熱媒体の水量が少なくても尾根の上側表面には熱媒体の溜りを確実に形成でき、頂上部に積もった雪を溶かしながら熱媒体を尾根の傾斜側面に流下させることができる。
並列する長細い尾根を用いるため、結果的に1つの広い融雪面を規則性を持たせて配置した少ない散水量に見合う小面積の融雪面に小分けしたことに相当し、これら融雪面から周辺の裾野の傾斜側面に均等に熱媒体を分配するため散水は凹凸全面にわたり分散され、効率よく短時間で融雪を行える。けじめよく散水をきりあげられるから熱媒体を無駄に流さなくてすむ。限られた量の熱媒体を有効に利用できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
熱媒体をムラなく散布するのが困難な凹凸屋根面に熱媒体を広く拡散させて確実に融雪するという目的を、屋根の様式を変更せずそのままの形態で行なう手順の下で実現した。
【実施例1】
【0011】
図1と図2は、本発明の散水熱交換方法の一例を示す簡略説明図である。貯水区域は、熱媒体を緩慢に流しながら溜めおくためのもので、凸所1の側縁に縁取り2aを設け凸所の上側表面に囲み2を形作っている。後で詳細に説明する散水手段(A1〜A9)よりこの囲み内に熱媒体が供給され、ゆっくりとした速度で移動する熱媒体は囲み内に停滞して熱媒体の溜りを形成する。流下区域は、囲みに設けたオリフィス2bより尾根の傾斜側面3に熱媒体を流出させ、この貯水区域より流出した熱媒体を尾根の急斜面に沿って拡散させながら流す区域である。排水区域は、急勾配を流下し急速に流れ落ちてきた熱媒体を谷部5に集めて排水する一方で、上流側より放水を行ない谷部に残留するシャーベットを強制的に洗浄除去する区域である。
【0012】
貯水区域は緩勾配の折半屋根の尾根の頂上部または凸所1を占めるため、尾根がそうであるように横方向に間隔をおいて並列して位置している。ただし屋根の凸所1の形態は折半様式により異なっているので、必ずしも尾根の最高所というわけではない。尾根の中央部を縦はぜ巻き連結部が縦に伸びる形態では、貯水区域ははぜの両側に形成されるからである。
【0013】
囲み2を構成する縁取り2aは、足で踏み付けても損傷しにくいゴム製のものが好ましい。囲み2に間隔をおいて形成されたオリフィス2bの形態はVカットや半円形のように様々である。
【0014】
貯水区域から下がる流下区域では、尾根の傾斜側面3に吸液材3aが装着されている。吸液材には、例えば、黒板塗料のような吸水性塗料、吹付けモルタル、繊維質の布を使用することができる。繊維布を使用する場合、裏面に塗布した粘着剤により傾斜側面に貼りつけて設置すれば安定的である。繊維素材の例では、耐候性の観点から、例えば、スパン10番手双糸から製作した平織織布が試用された。
【0015】
囲み2のオリフィス2bから流出した熱媒体は吸液材3aに沿って拡散しながら流下していく。吸液材は熱媒体を保水し、吸液材の表面に付着した雪は吸液材側から熱媒体を自吸して融けていく。吸液材がスパン糸の織布であれば雪の滑止めの性質は強く発揮され、吸液材に付着した雪をできるだけ止めたまま融かす働きをするので、尾根の傾斜側面に降り積もった雪が斜面を滑り落ちて谷部を埋めてしまい、融雪の妨げとなることが少ない。
囲み2は上向きに開放されているので降る雪は熱媒体に接触し、また囲み内に積もってしまった雪は熱媒体の流入により急速に溶解する。
【0016】
図3に示す例では、囲み2は弾性変形可能な合成樹脂のトレイからなり、下部両側には下向きのスカート2eが設置されている。このスカートは尾根の上部を挟むようにしてに凸所1に被せ位置決めされている。吸液材3aの上縁3cは前記スカート2eに被せて貼りつけられトレイを固定保持するようにしている。凸所の幅が狭ければ囲み2の縁取り2aをかさ上げして貯水量を増やすことができる。
【0017】
図4は、図1のものに加えて新たに拡散区域が追加された例を示している。この拡散区域は前記囲みに隣接して凸所上側の側縁に位置し、前記オリフィスから流出した直後の熱媒体を横方向に広げる働きをしている。
拡散区域は、図5に示すように、囲み2の貯水区域と流下区域に至る凸所の縁との間にあって棚状の表面1aの形態をしている。拡散区域の棚状の表面には、吸液材3aの上縁3cが接着されている。棚状の表面1aは緩勾配をしているので、囲みのオリフィス2bから流出した熱媒体は棚状の表面の吸液材に乗ったまま吸収され拡散されて横に広がるようになる。従って、棚上に降る雪は拡散した熱媒体に接触して溶解し、既に積もっている雪はオリフィスから流出して拡散する熱媒体と雪層の底面が接触し雪層は溶解していく。
【0018】
図示の例では、チャンネル材の縁取り2aは残水防止のために内部の底2dが両側にかけて傾斜している。また、チャンネル材は両側にリブ2cを備え、吸液材の上縁3cはこのリブを覆っている。オリフィス2bを通り抜けリブ2cの勾配に誘導され熱媒体は拡散しながら凸所1の側縁に向けて移動していく。
【0019】
前記拡散区域から下がる尾根の傾斜側面3は熱媒体の流下区域であり、拡散区域と同様に吸液材3aが接着されている。
囲み2のオリフィス2bから流出した熱媒体は拡散区域の吸液材3aにより面状に拡散し、やがて凸所の側縁を越えながら均されて均等に流下していく。拡散区域から流下区域にいたる図示の吸液材は連続したものとして示してあるが、凸所側縁を境界としてそれぞれの区域に独立して設ける態様とすることもできる。
流下区域の吸液材は熱媒体を保水し、吸液材の表面に付着した雪は吸液材側から熱媒体を自吸して融けていく。吸液材が織布であれば雪の滑止めの性質は強く発揮され、吸液材に付着した雪をできるだけ止めたまま融かす働きをする。傾斜側面に降り積もった雪が斜面を滑り落ちて谷部を埋めてしまい、融雪の妨げとなることが少ない。
尾根の急斜面に沿って流下した熱媒体は、急勾配によって大きな流速となり谷部を横切る方向に移動しながら谷部に集まり水嵩を増して下流側に移動していく。
【0020】
急傾斜の流下区域を流下する熱媒体は容易に雪のシャーベットを流し落とすことはできるが、谷部に到達して谷部を横断しながら減速し下流側にかけての緩慢な流れに戻る。そのため、溶け残りの雪シャーベットが谷部に多量に残留してしまうことがある。これに対処するため、谷部の上流側に設置した放水手段(B1〜B3)より大量の熱媒体を放出して谷部を洗浄し、軟化した雪シャーベットを押し流して除去することが行なわれる。
【0021】
図6は、散水手段の設置例を示すために大型の折半屋根を上方から見た平面図である。前述した散水手段A1〜A9と放水手段B1〜B3は、例えば、図7に示す例では小口径と大口径のパイプが使用されている。散水手段はノズルより囲み2内に熱媒体を供給し、放水手段は放水口10から大量の熱媒体の放水を行なう。例えば、散水手段の1つのノズルからの散水量を毎分10リットルとすれば、放水手段の1つの放水口からの放水量は毎分100リットル前後に設定することがある。散水手段と放水手段からの散水放水量は屋根勾配、尾根と谷部の面積比により選択される要素であるが、散水と放水の実行頻度によっても適宜に変更される。また、熱媒体の散水温度は最低でも摂氏10度以上であるのがよく、できれば30度前後であるのが望ましい。散水温度は谷部に残留する雪シャーベットの粘度に影響し、放水量とその実行頻度に関係している。散水操作は間欠的を原則とし、放水は時期を選択して行なわれる。放水に使用される熱媒体の温度は通常は低温水が使用される。
【0022】
散水手段A1〜A9は、例えば、屋根の軒側から棟にかけて約2メートル間隔で設置されている。散水手段からの散水は、原則として下段のものから上段のものにかけて順番に実行するのがよい。放水手段の操作を散水手段に連動させる場合、操作の順番はA1、A2、A3、B1、A4、A5、A6、B2、A7、A8、A9、B3のようになる。ただし、放水手段B1〜B3は、必ずしも個別に作動させる必要はなく、適宜に、3つの放水手段から同時一斉に散水することができる。A1〜A3、A4〜A6またはA7〜A9のそれぞれの群を同時に使用して散水してもよい。
このような段階散水を行なえば限られた熱媒体を効果的に分散させて利用でき、また上方からの融雪低温水が下方の散水熱媒体に合流するのを防止でき、無駄のない散水を行なえる利点がある。
【0023】
図6の電動二方弁C1〜C12の開閉動作は動作時期と動作時間を選択的に設定し変更できる制御装置により管理される。この制御装置は、大雪注意報や警報時に弁の開閉動作を一定のインターバルをおいて繰り返す大雪モード、予め設定した時間帯に動作する留守番モード、必要なときに弁動作を開始し一巡すれば自動停止する通常モードの運転モードを選択することができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
緩勾配の積雪面を比較的少量の熱媒体で融雪処理および/または冷却できるため、井戸施設またはボイラー設備を使用して、工場、駅舎、公共施設のような数万平米におよぶ長尺大型折半屋根にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】 本発明の散水熱交換方法の一例を示す簡略説明図である。
【図2】 散水熱交換方法を実施する装備を施した折半屋根を示している。
【図3】 散水熱交換方法を実施する装備の他の例を示している。
【図4】 本発明の散水熱交換方法の他の例を示す簡略説明図である。
【図5】 散水熱交換方法を実施する装備の別の例を示している。
【図6】 大型折半屋根の散水/放水手段の配置例を示す一部平面図である。
【図7】 散水/放水手段の設置例を示している。
【符合の説明】
【0026】
1 ストリップ材
2 囲み
2a 縁取り
2b オリフィス
3a 吸液材
A1〜9 散水手段
B1〜3 放水手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩勾配の折半屋根の尾根を形成する凸所の傾斜側面に吸液材を接着すると共に、凸所の縁に仕切りを設置して凸所の上側表面に囲みを設け、散水手段よりこの囲み内に熱媒体を供給し、ゆっくりとした速度で移動する熱媒体は囲み内に停滞して熱媒体の溜りを形成する一方、囲みに設けたオリフィスより尾根の傾斜側面に熱媒体を流出させ、傾斜側面を覆う吸液材に保水させ拡散させながら囲みの位置より尾根の谷部に向けて流下させ、熱媒体をその慣性により谷部を横断する方向に移動させて熱媒体と折半屋根表面との熱交換を行ない、他方、尾根の谷部の上流側に設けた熱媒体の放水手段より下流側にむけて多量の熱媒体を放出し、この放出水により谷部表面を水洗する緩勾配の折半屋根の散水熱交換方法。
【請求項2】
請求項1に記載された緩勾配の折半屋根の散水熱交換方法において、前記放出水により谷部表面に残留する軟化した雪シャーベットを洗浄除去する緩勾配の折半屋根の散水熱交換方法。
【請求項3】
請求項1に記載された緩勾配の折半屋根の散水熱交換方法において、前記囲みに隣接し凸所上側の側縁に位置する、前記オリフィスから流出した熱媒体を横方向に広げる棚状の拡散区域を備えている緩勾配の折半屋根の散水熱交換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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