説明

緩衝器

【課題】コストを低減することができる緩衝器の提供。
【解決手段】バルブ本体33が、ピストン18の摺動によって流体の流れが生じる流路40a,40bの開口部43a,43bと、開口部43a,43bを内周側に備え取り囲むように設けられる環状の開口部有シート部53a,53bと、開口部有シート部53a,53bと周方向に隣接して配され、開口部を内周側に有さない環状の開口部無シート部54a,54bと、を備えた焼結部品からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器において、ピストンに、流路の開口部をシート部で取り囲んだ区画を周方向に複数設け、各区画がディスクバルブへの受圧面積を異ならせて形成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−199732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、緩衝器においては、所望の特性が得られるように特性に応じてピストンを製造しているため、ピストンの種類が多く、生産性が悪いという課題がある。
【0005】
したがって、本発明は、生産性を向上することができる緩衝器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、減衰力発生機構が、ピストンの摺動によって流体の流れが生じる通路の開口部が設けられたバルブ本体を有し、該バルブ本体は、前記開口部と、該開口部を内周側に備え取り囲むように設けられる環状の開口部有シート部と、該開口部有シート部と周方向に隣接して配され、前記開口部を内周側に有さない環状の開口部無シート部と、を備えた焼結部品からなる構成とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る第1実施形態の緩衝器を示す一部を断面とした正面図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態の緩衝器を示す要部の拡大断面図である。
【図3】本発明に係る第1実施形態の緩衝器のピストン本体の第1の例を含むピストンを示すもので、(a)は平面図、(b)は(a)のX1−X1断面図、(c)は下面図である。
【図4】第1の例のピストン本体を用いた場合の伸び側の減衰力特性線図である。
【図5】本発明に係る第1実施形態の緩衝器のピストン本体の第2の例を示すもので、(a)は平面図、(b)は下面図である。
【図6】第2の例のピストン本体を用いた場合の伸び側の減衰力特性線図である。
【図7】本発明に係る第1実施形態の緩衝器のピストン本体の第3の例を示すもので、(a)は平面図、(b)は下面図である。
【図8】第3の例のピストン本体を用いた場合の伸び側の減衰力特性線図である。
【図9】本発明に係る第1実施形態の緩衝器のピストン本体の第4の例を示すもので、(a)は平面図、(b)は下面図である。
【図10】第4の例のピストン本体を用いた場合の伸び側の減衰力特性線図である。
【図11】伸び側のバルブシートに第2の例の構造を、縮み側のバルブシートに第4の例の構造を適用した場合の減衰力特性線図である。
【図12】伸び側のバルブシートに第1の例の構造を、縮み側のバルブシートに第3の例の構造を適用した場合の減衰力特性線図である。
【図13】伸び側のバルブシートに第4の例の構造を、縮み側のバルブシートに第1の例の構造を適用した場合の減衰力特性線図である。
【図14】伸び側のバルブシートに第3の例の構造を、縮み側のバルブシートに第2の例の構造を適用した場合の減衰力特性線図である。
【図15】本発明に係る第1実施形態の緩衝器のピストン本体の第5の例を示す下面図である。
【図16】第5の例のピストン本体を用いた場合の伸び側の減衰力特性線図である。
【図17】本発明に係る第1実施形態の緩衝器のピストン本体の変形例を示す正断面図である。
【図18】本発明に係る第2実施形態の緩衝器を示す要部の拡大断面図である。
【図19】本発明に係る第2実施形態の緩衝器のピストンを示すもので、(a)は平面図、(b)は(a)のX2−X2断面図、(c)は下面図である。
【図20】本発明に係る第2実施形態の緩衝器の減衰力特性プレートを示すもので、(a)は第1の例、(b)は第2の例、(c)は第3の例、(d)は第4の例である。
【図21】本発明に係る第2実施形態の緩衝器のピストン本体および減衰力特性プレートの第1の例を示すもので、(a)は下面図、(b)は(a)のW1−W1断面図である。
【図22】本発明に係る第2実施形態の緩衝器のピストン本体および減衰力特性プレートの第2の例を示すもので、(a)は下面図、(b)は(a)のW2−W2断面図である。
【図23】本発明に係る第2実施形態の緩衝器のピストン本体および減衰力特性プレートの第3の例を示すもので、(a)は下面図、(b)は(a)のW3−W3断面図である。
【図24】本発明に係る第2実施形態の緩衝器のピストン本体および減衰力特性プレートの第4の例を示すもので、(a)は下面図、(b)は(a)のW4−W4断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る各実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
「第1実施形態」
本発明に係る第1実施形態を図1〜図17に基づいて説明する。
【0011】
第1実施形態の緩衝器は、複筒式のもので、例えば自動車のサスペンション装置に用いられるものである。図1に示すように、緩衝器11は、作動流体である油液が封入される略円筒状のシリンダ12と、シリンダ12を覆う略円筒状の外筒13と、シリンダ12内に摺動可能に設けられてシリンダ12内を上室16および下室17の二室に画成するピストン18と、ピストン18に一端側が連結され他端側がシリンダ12から外部に延出されるピストンロッド19とを有している。
【0012】
ピストンロッド19は、主軸部21と、主軸部21のシリンダ12内に配置される内端側に形成された、主軸部21よりも小径の取付軸部22とを有しており、主軸部21の取付軸部22側は、軸直交方向に沿う段部23となっている。取付軸部22には、主軸部21側から順に、リテーナ25、ディスクバルブ26b、上記したピストン18、ディスクバルブ26aおよびストッパ27が挿入されており、これらは、取付軸部22の端部に螺合されたナット28と段部23とで挟持されてピストンロッド19に取り付けられている。ピストンロッド19のリテーナ25のピストン18とは反対側には、リバウンドストッパ29が配置されている。
【0013】
ピストン18は、図2に示すように、ピストンロッド19に固定されるピストン本体(バルブ本体)33と、ピストン本体33の外周面に装着される円環状の摺動部材34とによって構成されており、摺動部材34においてシリンダ12の内周面に摺接する。
【0014】
ピストン本体33には、上室16と下室17とを連通させ、ピストン18のシリンダ12内での上室16側への摺動によって上室16から下室17に向けた油液の流れが生じる複数、具体的には図3に示す4カ所の通路40aと、ピストン18のシリンダ12内での下室17側への移動によって下室17から上室16に向けた油液の流れが生じる複数、具体的には図3に示す4カ所の通路40bとが形成されている。通路40aは、ピストン本体33の円周方向において、それぞれ間に1カ所の通路40bを挟んで等ピッチで形成されており、図2に示すようにピストン本体33の軸方向の上室16側がピストン本体33の径方向外側に、下室17側が径方向内側に開口している。
【0015】
そして、これら通路40aの下室17側には上記したディスクバルブ26aが設けられている。通路40aは、ピストンロッド19がシリンダ12外に伸び出る伸び側にピストン18が移動するときに上室16から下室17に向けて油液が通過する伸び側の通路を構成しており、これらに対して設けられたディスクバルブ26aは、伸び側の通路40aの油液の流動を制御して減衰力を発生させる伸び側の減衰力発生機構42aを構成している。
【0016】
また、残りの通路40bは、図3に示すように、ピストン本体33の円周方向において、それぞれ間に1カ所の通路40aを挟んで等ピッチで形成されており、図2に示すようにピストン本体33の軸方向の下室17側が径方向外側に、上室16側が径方向内側に開口している。
【0017】
そして、これら通路40bの上室16側に、上記したディスクバルブ26bが設けられている。通路40bは、ピストンロッド19がシリンダ12内に入る縮み側にピストン18が移動するときに下室17から上室16に向けて油液が通過する縮み側の通路を構成しており、これらに対して設けられたディスクバルブ26bは、縮み側の通路40bの油液の流動を制御して減衰力を発生させる縮み側の減衰力発生機構42bを構成している。
【0018】
図3に示すように、ピストン本体33は、略円板形状をなしており、その中央には、軸方向に貫通して、上記したピストンロッド19の取付軸部22を挿通させるための挿通穴44が形成されている。
【0019】
図2に示すように、ピストン本体33の軸方向の下室17側の端部には、バルブシート45aが形成されている。バルブシート45aの軸方向外側に、上記したディスクバルブ26aが配置されており、ディスクバルブ26aがバルブシート45aに当接することで伸び側の通路40aの一端の開口部43a側を閉じ、バルブシート45aから離間することで伸び側の通路40aの開口部43a側を開く。つまり、ディスクバルブ26aとバルブシート45aとが伸び側の減衰力発生機構42aを構成する。
【0020】
ピストン本体33の上室16側の端部には、バルブシート45bが形成されている。バルブシート45bの軸方向外側に、上記したディスクバルブ26bが配置されており、ディスクバルブ26bがバルブシート45bに当接することで縮み側の通路40bの一端の開口部43b側を閉じ、バルブシート45bから離間することで縮み側の通路40bの開口部43b側を開く。つまり、ディスクバルブ26bとバルブシート45bとが縮み側の減衰力発生機構42bを構成する。
【0021】
ピストン本体33において、バルブシート45aの挿通穴44とは反対側は、バルブシート45aよりも軸方向高さが低い環状の段差部46bとなっており、この段差部46bの位置に縮み側の通路40bの他端の入口部47bが開口している。また、バルブシート45bの挿通穴44とは反対側は、バルブシート45bよりも軸線方向高さが低い環状の段差部46aとなっており、この段差部46aの位置に伸び側の通路40aの他端の入口部47aが開口している。
【0022】
ピストン本体33は焼結部品であり、図3(c)に示すように、バルブシート45aには、通路40aの開口部43aを内周側に備えこの開口部43aを取り囲むように設けられる環状の開口部有シート部53aと、開口部有シート部53aとピストン本体33の周方向に隣接して配され、通路40aの開口部43aを内周側に有さない環状の開口部無シート部54aとを備えている。具体的には、ピストン本体33の周方向において隣り合う開口部有シート部53a同士の間に、周方向に並んで3カ所(複数)の開口部無シート部54aが配置されるようにして、4カ所の開口部有シート部53aと12カ所の開口部無シート部54aとが形成されている。
【0023】
開口部有シート部53aはその内側に略扇形をなしてピストン本体33の軸方向に凹む凹部55aを有しており、この凹部55aの底面に開口部43aが開口している。また、開口部無シート部54aもその内側に略扇形をなしてピストン本体33の軸方向に凹む、凹部55aと同形状の凹部56aを有している。すべての開口部有シート部53aおよびすべての開口部無シート部54aは、ピストン本体33における中心から等距離の位置に形成されている。
【0024】
すべての開口部有シート部53aおよびすべての開口部無シート部54aは、それぞれのピストン本体33の径方向における外端部分が、円環状に連続する一つの共通の外側環状壁57aによって形成されており、ピストン本体33の径方向の内側部分も、環状に連続する一つの共通の内側環状壁58aによって形成されている。また、隣り合う開口部有シート部53aと開口部無シート部54aとの間には、これらに共通の中間壁部59aが形成されており、中間壁部59aは、合計8カ所形成されて、ピストン本体33の径方向に沿って外側環状壁57aと内側環状壁58aとを繋いでいる。同様に、隣り合う開口部無シート部54aと開口部無シート部54aとの間には、これらに共通の中間壁部60aが形成されており、中間壁部60aは、合計8カ所形成されて、ピストン本体33の径方向に沿って外側環状壁57aと内側環状壁58aとを繋いでいる。なお、外側環状壁57aは、ディスクバルブ26aがピストン本体33の軸方向外側から当接可能となるように、その外径がディスクバルブ26aの外径と略同径に形成されている。ピストン本体33には、その周方向において隣り合う開口部有シート部53a同士の中央位置に通路40bの入口部47bが形成されている。
【0025】
図3(a)に示すように、バルブシート45bには、通路40bの開口部43bを内周側に備えこの開口部43bを取り囲むように設けられる環状の開口部有シート部53bと、開口部有シート部53bとピストン本体33の周方向に隣接して配され、通路40bの開口部43bを内周側に有さない環状の開口部無シート部54bとを備えている。具体的には、ピストン本体33の周方向において隣り合う開口部有シート部53b同士の間に、周方向に並んで3カ所(複数)の開口部無シート部54bが配置されるようにして、4カ所の開口部有シート部53bと12カ所の開口部無シート部54bとが形成されている。
【0026】
開口部有シート部53bはその内側に略扇形をなしてピストン本体33の軸方向に凹む凹部55bを有しており、この凹部55bの底面に開口部43bが開口している。また、開口部無シート部54bもその内側に略扇形をなしてピストン本体33の軸方向に凹む、凹部55bと同形状の凹部56bを有している。すべての開口部有シート部53bおよびすべての開口部無シート部54bは、ピストン本体33における中心から等距離の位置に形成されている。
【0027】
すべての開口部有シート部53bおよびすべての開口部無シート部54bは、それぞれのピストン本体33の径方向における外端部分が、円環状に連続する一つの共通の外側環状壁57bによって形成されており、ピストン本体33の径方向の内側部分も、環状に連続する一つの共通の内側環状壁58bによって形成されている。また、隣り合う開口部有シート部53bと開口部無シート部54bとの間には、これらに共通の中間壁部59bが形成されており、中間壁部59bは、合計8カ所形成されて、ピストン本体33の径方向に沿って外側環状壁57bと内側環状壁58bとを繋いでいる。同様に、隣り合う開口部無シート部54bと開口部無シート部54bとの間には、これらに共通の中間壁部60bが形成されており、中間壁部60bは、合計8カ所形成されて、ピストン本体33の径方向に沿って外側環状壁57bと内側環状壁58bとを繋いでいる。なお、外側環状壁57bは、ピストン本体33の軸方向外側からディスクバルブ26bが当接可能となるように、その外径がディスクバルブ26bの外径と略同径に形成されている。ピストン本体33には、その周方向において隣り合う開口部有シート部53b同士の中央位置に通路40aの入口部47aが形成されている。
【0028】
第1実施形態において、ピストン本体33は、焼結直後の素材の状態では、バルブシート45aを含む表と、バルブシート45bを含む裏とが共通の形状となっている。このとき、外側環状壁57a、内側環状壁58a、すべての中間壁部59aおよびすべての中間壁部60aは、ピストン本体33の軸方向における高さが同じ一定高さであり、外側環状壁57b、内側環状壁58b、すべての中間壁部59bおよびすべての中間壁部60bも、ピストン本体33の軸方向における高さが同じ一定高さとなっている。
【0029】
そして、このようなピストン本体33の共通の素材に対し、バルブシート45a側において、開口部有シート部53aとこれに隣り合う開口部無シート部54aとの間の中間壁部59aに、これらの凹部55a,56a同士を連通する切欠部70aを図5(b)に示すように形成するか、図3(c)に示すように形成しないかを選択設定することによって、伸び側の減衰力発生機構42aのバルブ特性を調整するようになっている。加えて、図7(b)に示すように複数ある開口部有シート部53aのすべてに対して凹部55aに連通する開口部無シート部54aの凹部56aの数を同じとしたり、図5(b)に示すように異ならせたりすることを選択設定することによっても、伸び側の減衰力発生機構42aのバルブ特性を調整するようになっている。さらに、図9(b)に示すように開口部有シート部53aの凹部55aに連通する開口部無シート部54aの凹部56aの数を調整するように適宜の中間壁部60aに切欠部71aを形成することによっても、伸び側の減衰力発生機構42aのバルブ特性を調整するようになっている。なお、切欠部70a,71aは、凹部55aおよび凹部56aと同じ深さに形成されている。
【0030】
また、ピストン本体33の共通の素材に対し、バルブシート45b側においても、開口部有シート部53bとこれに隣り合う開口部無シート部54bとの間の中間壁部59bに、これらの凹部55b,56b同士を連通する切欠部70bを図5(a)に示すように形成するか、図3(a)に示すように形成しないかを選択設定することによって、縮み側の減衰力発生機構42bのバルブ特性を調整するようになっている。加えて、図7(a)に示すように複数ある開口部有シート部53bのすべてに対して凹部55bに連通する開口部無シート部54bの凹部56bの数を同じとしたり、図5(a)に示すように異ならせたりすることを選択設定することによっても、縮み側の減衰力発生機構42bのバルブ特性を調整するようになっている。さらに、図9(a)に示すように開口部有シート部53bの凹部55bに連通する開口部無シート部54bの凹部56bの数を調整するように適宜の中間壁部60bに切欠部71bを形成することによっても、縮み側の減衰力発生機構42bのバルブ特性を調整するようになっている。なお、切欠部70b,71bも、凹部55bおよび凹部56bと同じ深さに形成されている。
【0031】
以上により、共通の素材を用いても、切欠部70a,70bを異ならせることで、複数種類のバルブ特性のピストン本体33を製造することができる。勿論、一つのピストン本体33において減衰力発生機構42aと減衰力発生機構42bとでバルブ特性を異ならせることもできる。ここで、開口部有シート部53aとこれに隣接する開口部無シート部54aとの間を連通する切欠部70a、隣接する開口部無シート部54a同士を連通する切欠部71a、開口部有シート部53bとこれに隣接する開口部無シート部54bとの間を連通する切欠部70b、および、隣接する開口部無シート部54b同士を連通する切欠部71bは、いずれも、ピストン本体33の焼結製の素材に対して、例えば汎用の油圧プレス加工機を用いた塑性加工、あるいは切削加工によって形成されることになる。
【0032】
具体的には、例えば、図3に示す第1の例においては、図3(c)に示すように中間壁部59aに切欠部70aを形成しない構成とする(この場合は中間壁部60aにも切欠部71aを形成しない)。これにより、通路40aの開口部43aを囲むように設けられるシート部の大きさが、開口部有シート部53aのみの大きさとなって小さくなる。言い換えれば、通路40aが開口する凹部55aのみの内側が上室16に常時連通してディスクバルブ26aを撓ませる圧力を発生させる圧力室61aになり、このような圧力室61aが4カ所形成され、他の12カ所の凹部56aの内側の室62aは上室16に常時は連通せず圧力室としては機能しない。
【0033】
よって、伸び行程において、油液は上室16から4カ所の通路40aを介して4カ所の開口部有シート部53aの凹部55a内の圧力室61aに導入される。開口部有シート部53aの両側の中間壁部59aで圧力室61aから他の室62aへの連通が規制されているため、圧力室61a内の油液は、逃げ場がなくなり、圧力室61aから伸び側の減衰力発生機構42aのディスクバルブ26aを撓ませて、ディスクバルブ26aと開口部有シート部53aとの隙間から下室17側に流れる。
【0034】
この場合、図9(b)に示すようにすべての凹部55aおよびすべての凹部56a内が連通して一つの圧力室64aを形成する場合と比べて、伸び側の減衰力発生機構42aのディスクバルブ26aを撓ませる圧力を発生させる圧力室の割合が4/16=1/4となる。これにより、減衰力発生機構42aにおけるピストン速度に対する減衰力の特性が、図4に示すようにピストン速度が速くなると減衰力が高くなり、しかもピストン速度が速いほど減衰力の上昇率が高くなるプログレッシブ特性となる。
【0035】
また、図3(a)に示すように、中間壁部59bおよび中間壁部60bのいずれにも、切欠部70bおよび切欠部71bを形成しなければ、通路40bの開口部43bを囲むように設けられるシート部の大きさが、開口部有シート部53bのみの大きさとなって小さくなる。言い換えれば、通路40bが開口する凹部55bのみの内側が下室17に常時連通してディスクバルブ26bを撓ませる圧力を発生させる圧力室61bになり、このような圧力室61bが4カ所形成され、他の12カ所の凹部56bの内側の室62bは下室17に常時は連通せず圧力室としては機能しない。このように構成すれば、減衰力発生機構42bの特性は、伸び側と同様、ピストン速度が速くなると減衰力が低くなり、しかもピストン速度が速いほど減衰力の下降率が高くなるプログレッシブ特性となる。
【0036】
また、例えば、図5に示す第2の例においては、図5(b)に示すように180度異なる位置にある2カ所の中間壁部59aに切欠部70aを形成し、残り6カ所の中間壁部59aに切欠部70aを形成せず、中間壁部60aにも切欠部71aを形成しない。これにより、180度異なる位置にある2カ所の通路40aの開口部43aを囲むように設けられるシート部の大きさが、隣り合う開口部有シート部53aと開口部無シート部54aとを合わせた大きさとなって大きくなり、残り2カ所の通路40aの開口部43aを囲むように設けられるシート部の大きさが、開口部有シート部53aのみの大きさとなって小さくなる。言い換えれば、通路60aが開口する凹部55a、これに連通する切欠部70aおよびこれに連通する凹部56aの内側が上室16に常時連通する圧力室63aになり、このような圧力室63aが2カ所形成され、通路60aが開口する凹部55aの内側のみで上室16に常時連通してディスクバルブ26aを撓ませる圧力を発生させる圧力室61aが2カ所形成され、他の10カ所の凹部56aの内側の室62aは上室16に常時は連通せず圧力室としては機能しない。
【0037】
よって、伸び行程において、油液は上室16から4カ所の通路40aを介して2カ所の圧力室61aおよび2カ所の圧力室63aに導入された後、逃げ場がなくなり、2カ所の圧力室61aおよび2カ所の圧力室63aから伸び側の減衰力発生機構42aのディスクバルブ26aを撓ませて、ディスクバルブ26aと開口部有シート部53aとの隙間から下室17側に流れる。
【0038】
この場合、図9(b)に示すように、すべての凹部55aおよびすべての凹部56a内が連通して一つの圧力室64aを形成する場合と比べて、伸び側の減衰力発生機構42aのディスクバルブ26aを撓ませる圧力を発生させる圧力室61aの割合が6/16=3/8となる。これにより、減衰力発生機構42aにおけるピストン速度に対する減衰力の特性が、図6に示すようにピストン速度が速くなると減衰力が比例的に高くなるリニア特性となる。
【0039】
また、図5(a)に示すように、180度異なる位置にある2カ所の中間壁部59bに切欠部70bを形成し、残り2カ所の中間壁部59bに切欠部70bを形成せず、中間壁部60bにも切欠部71bを形成しなければ、180度異なる位置にある2カ所の通路40bの開口部43bを囲むように設けられるシート部の大きさが、隣り合う開口部有シート部53bと開口部無シート部54bとを合わせた大きさとなって大きくなり、残り2カ所の通路40bの開口部43bを囲むように設けられるシート部の大きさが、開口部有シート部53bのみの大きさとなって小さくなる。言い換えれば、通路60bが開口する凹部55b、これに連通する切欠部70bおよびこれに連通する凹部56bの内側が下室17に常時連通する圧力室63bになり、このような圧力室63bが2カ所形成され、通路60bが開口する凹部55bの内側のみで下室17に常時連通してディスクバルブ26bを撓ませる圧力を発生させる圧力室61bが2カ所形成され、他の10カ所の凹部56bの内側の室62bは下室17に常時は連通せず圧力室としては機能しない。このように構成すれば、減衰力発生機構42bの特性は、伸び側と同様、ピストン速度が速くなると減衰力が比例的に低くなるリニア特性となる。
【0040】
また、例えば、図7に示す第3の例においては、図7(b)に示すように、90度異なる位置にある4カ所の中間壁部59aに切欠部70aを形成し、残り4カ所の中間壁部59aに切欠部70aを形成せず、中間壁部60aにも切欠部71aを形成しない。これにより、90度異なる位置にある4カ所の通路40aの開口部43aを囲むように設けられるシート部の大きさが、隣り合う開口部有シート部53aと開口部無シート部54aとを合わせた大きさとなって大きくなる。言い換えれば、通路60aが開口する凹部55a、切欠部70aおよび凹部56aの内側が上室16に常時連通してディスクバルブ26aを撓ませる圧力を発生させる圧力室63aになり、このような圧力室63aが4カ所形成され、他の8カ所の凹部56aの内側の室62aは上室16に常時は連通せず圧力室としては機能しない。
【0041】
よって、伸び行程において、油液は上室16から4カ所の通路40aを介して4カ所の圧力室63aに導入された後、逃げ場がなくなり、4カ所の圧力室63aから、伸び側の減衰力発生機構42aのディスクバルブ26aを撓ませて、ディスクバルブ26aと開口部有シート部53aとの隙間から下室17側に流れる。
【0042】
この場合、図9(a)に示すように、すべての凹部55aおよびすべての凹部56a内が連通して一つの圧力室64aを形成する場合と比べて、伸び側の減衰力発生機構42aのディスクバルブ26aを撓ませる圧力を発生させる圧力室61aの割合が8/16=1/2となる。このように構成すれば、減衰力発生機構42aにおけるピストン速度に対する減衰力の特性が、図8に示すようにピストン速度が速くなると減衰力が高くなり、しかも、所定のピストン速度よりも遅ければ減衰力の上昇率が高くなり、所定のピストン速度よりも速ければ減衰力の上昇率が低くなるデグレッシブ特性となる。
【0043】
図7(a)に示すように、90度異なる位置にある4カ所の中間壁部59bに切欠部70bを形成し、残り4カ所の中間壁部59bに切欠部70bを形成せず、中間壁部60bにも切欠部71bを形成しなければ、90度異なる位置にある4カ所の通路40bの開口部43bを囲むように設けられるシート部の大きさが、隣り合う開口部有シート部53bと開口部無シート部54bとを合わせた大きさとなって大きくなる。言い換えれば、通路60bが開口する凹部55b、これに連通する切欠部70bおよびこれに連通する凹部56bの内側が下室17に常時連通してディスクバルブ26bを撓ませる圧力を発生させる圧力室63bになり、このような圧力室63bが4カ所形成され、他の8カ所の凹部56bの内側の室62bは下室17に常時は連通せず圧力室としては機能しない。このように構成すれば、減衰力発生機構42bの特性は、伸び側と同様、ピストン速度が速くなると減衰力が低くなり、しかも、所定のピストン速度よりも遅ければ減衰力の下降率が高くなり、所定のピストン速度よりも速ければ減衰力の下降率が低くなるデグレッシブ特性となる。
【0044】
また、例えば、図9に示す第4の例においては、図9(b)に示すように、8カ所すべての中間壁部59aに切欠部70aを形成し、8カ所すべての中間壁部60aに切欠部71aを形成する。これにより、4カ所の通路40aの開口部43aを囲むように設けられるシート部が共通となり、その大きさが、最大となる。言い換えれば、すべての凹部55a、すべての切欠部70a、すべての切欠部71aおよびすべての凹部56aの内側が上室16に常時連通してディスクバルブ26aを撓ませる圧力を発生させる圧力室64aになり、圧力室64aの割合が上記に対して16/16=1/1となる。
【0045】
よって、伸び行程において、油液は上室16から4カ所の通路40aを介して1カ所の圧力室64aに導入された後、逃げ場がなくなり、この圧力室64aから、伸び側の減衰力発生機構42aのディスクバルブ26aを撓ませて、ディスクバルブ26aと開口部有シート部53aとの隙間から下室17側に流れる。
【0046】
これにより、減衰力発生機構42aにおけるピストン速度に対する減衰力の特性が、図10に示すようにピストン速度が速くなると減衰力が高くなり、しかも、所定のピストン速度よりも遅ければ減衰力の上昇率が高くなり、所定のピストン速度よりも速ければ減衰力の上昇率が図7(b)の場合と比べてさらに低くなるハイフロー特性となる。
【0047】
図9(a)に示すように、8カ所すべての中間壁部59bに切欠部70bを形成し、8カ所すべての中間壁部60bに切欠部71bを形成すれば、4カ所の通路40bの開口部43bを囲むように設けられるシート部が共通となり、その大きさが、最大となる。言い換えれば、すべての凹部55b、すべての切欠部70b、すべての切欠部71bおよびすべての凹部56bの内側が上室16に常時連通してディスクバルブ26aを撓ませる圧力を発生させる圧力室64bになる。このように構成すれば、減衰力発生機構42bの特性は、伸び側と同様、ピストン速度が速くなると減衰力が低くなり、しかも、所定のピストン速度よりも遅ければ減衰力の下降率が高くなり、所定のピストン速度よりも速ければ減衰力の下降率が図7(a)の場合と比べてさらに低くなるハイフロー特性となる。
【0048】
なお、上記したシート部の形状を伸び側と縮み側とで使い分けることも可能である。例えば、伸び側において、図5(b)に示す第2の例を適用し、180度異なる位置にある2カ所の中間壁部59aに切欠部70aを形成し、残り6カ所の中間壁部59aに切欠部70aを形成せず、中間壁部60aにも切欠部71aを形成しないものとする一方、縮み側において、図9(a)に示す第4の例を適用し、8カ所すべての中間壁部59bに切欠部70bを形成し、8カ所すべての中間壁部60bに切欠部71bを形成する。このように伸び側と縮み側とを異ならせる。このように構成すれば、図11に示すように、伸び側においてピストン速度が速くなると減衰力が比例的に高くなるリニア特性となる一方、縮み側においてピストン速度が速くなると減衰力が低くなり、しかも、所定のピストン速度よりも遅ければ減衰力の下降率が高くなり、所定のピストン速度よりも速ければ減衰力の下降率が低くなるハイフロー特性となる。
【0049】
また、例えば、伸び側において、図3(c)に示す第1の例を適用し、中間壁部59aに切欠部70aを形成せず、中間壁部60aにも切欠部71aを形成せず、縮み側において、図7(a)に示す第3の例を適用し、90度異なる位置にある4カ所の中間壁部59bに切欠部70bを形成し、残り4カ所の中間壁部59bに切欠部70bを形成せず、中間壁部60bにも切欠部71bを形成しない。このように伸び側と縮み側とを異ならせる。このように構成すれば、図12に示すように、伸び側においてピストン速度が速くなると減衰力が高くなり、しかもピストン速度が速いほど減衰力の上昇率が高くなるようなプログレッシブ特性となる一方、縮み側において、ピストン速度が速くなると減衰力が低くなり、しかも、所定のピストン速度よりも遅ければ減衰力の下降率が高くなり、所定のピストン速度よりも速ければ減衰力の下降率が低くなるデグレッシブ特性となる。
【0050】
また、例えば、伸び側において、図9(b)に示す第4の例を適用し、8カ所すべての中間壁部59aに切欠部70aを形成し、8カ所すべての中間壁部60aに切欠部71aを形成する一方、縮み側において、図3(a)に示す第1の例を適用し、中間壁部59bおよび中間壁部60bのいずれにも、切欠部70bおよび切欠部71bを形成しない構成とする。このように伸び側と縮み側とを異ならせる。このように構成すれば、図13に示すように、伸び側において、ピストン速度が速くなると減衰力が高くなり、しかも、所定のピストン速度よりも遅ければ減衰力の上昇率が高くなり、所定のピストン速度よりも速ければ減衰力の上昇率が低くなるようなハイフロー特性となる一方、縮み側において、ピストン速度が速くなると減衰力が低くなり、しかもピストン速度が速いほど減衰力の下降率が高くなるプログレッシブ特性となる。
【0051】
また、例えば、伸び側において、図7(b)に示す第3の例を適用し、90度異なる位置にある4カ所の中間壁部59aに切欠部70aを形成し、残り4カ所の中間壁部59aに切欠部70aを形成せず、中間壁部60aにも切欠部71aを形成しない構成とする一方、縮み側において、図5(a)に示す第2の例を適用し、180度異なる位置にある2カ所の中間壁部59bに切欠部70bを形成し、残り2カ所の中間壁部59bに切欠部70bを形成せず、中間壁部60bにも切欠部71bを形成しない構成とする。このように伸び側と縮み側とを異ならせれば、図14に示すように、伸び側において、ピストン速度が速くなると減衰力が高くなり、しかも、所定のピストン速度よりも遅ければ減衰力の上昇率が高くなり、所定のピストン速度よりも速ければ減衰力の上昇率が低くなるデグレッシブ特性となる一方、縮み側において、ピストン速度が速くなると減衰力が比例的に低くなるリニア特性となる。
【0052】
以上に述べたように、第1実施形態によれば、ピストン本体33が、通路40a,40bの開口部43a,43bと、開口部43a,43bを内周側に備え取り囲むように設けられる環状の開口部有シート部53a,53bと、開口部有シート部53a,53bと周方向に隣接して配され、通路40a,40bの開口部43a,43bを内周側に有さない環状の開口部無シート部54a,54bとを備えた焼結部品からなっている。このため、共通の素材に対して、開口部有シート部53a,53bと開口部有シート部53a,53bに隣り合う開口部無シート部54a,54bとの間を連通する切欠部70a,70b,71a,71bを塑性加工または切削加工により形成したり、形成しなかったりすることで、油圧が導入される圧力室を任意に設定して、特性の異なる複数種類の緩衝器11を製造することができる。したがって、減衰力特性が異なっていても、シリンダ12のサイズ毎に1種類のピストン本体33の素材を用意すれば良いため、素材が共通化され、生産性を向上することができる。また、金型費の投資を大幅に圧縮することができ、さらには管理コストも低減できるため、コストを低減することができる。
【0053】
また、油圧を導入する圧力室を任意に設定して、バルブシート45a,45bのシート部とディスクバルブ26a,26bとで形成される連通路面積を積極的にコントロールすることができる。よって、1種類のピストン本体の素材から、減衰力プログレッシブ特性、減衰力リニア特性、減衰力デグレッシブ特性、減衰力ハイフロー特性、また、それぞれの中間特性等、多種多様の減衰力特性の緩衝器を製造することが容易にできる。よって、顧客の要望に迅速に対応することが可能となり、また、車種毎にマッチングのとれた減衰力特性の緩衝器を素早く提供することが可能となる。
【0054】
なお、伸び側および縮み側は上記した組み合わせに限定されることなく、種々の組み合わせが可能である。また、開口部有シート部53aに連通する開口部無シート部54aの数および開口部有シート部53bに連通する開口部無シート部54bの数も上記に限定されることなく種々の変更が可能である。
【0055】
例えば、図15に示す第5の例のように、通路40aを内周側に有する開口部有シート部53aと、その一側に隣り合う開口部無シート部54aとの間の中間壁部59aの切欠部70aを大きくし、この開口部無シート部54aと、その一側に隣り合う開口部無シート部54aとの間の中間壁部60aの切欠部71aを小さくし、この開口部無シート部54aと、その一側に隣り合う開口部無シート部54aとの間の中間壁部60aの切欠部71aをさらに小さくする。このように、開口部有シート部53aの切欠部70aを最も大きくし、開口部有シート部53aから離れるほど段階的に切欠部71aが小さくなるようにする。他方、上記した開口部有シート部53aと、その上記とは逆側に隣り合う開口部無シート部54aとの間の中間壁部59aには切欠部70aを形成しない。このようにして、4カ所の開口部有シート部53aの凹部55aをそれぞれ基点とし、それぞれに対して周方向の同側に連続する3カ所の開口部無シート部54aの凹部56aを連通させて圧力室66aを4カ所形成する。
【0056】
このように構成すれば、通路40aから開口部有シート部53a内の凹部55a内に導入された油液は、切欠部70aの絞り効果により減圧されて隣接する開口部無シート部54a内の凹部56aに導入され、切欠部70aよりも小さくなる切欠部71aの絞り効果により減圧されて隣接する開口部無シート部54a内の凹部56aに導入され、さらに小さくなる切欠部71aの絞り効果により減圧されて隣接する開口部無シート部54a内の凹部56aに導入される。これにより、ディスクバルブ26aの開弁圧に到達するまでの時間が、開口部有シート部53aを基点としてここから離れるほど遅れるようになる。これにより、ディスクバルブ26aを円周方向に円滑に開弁させることができる。この場合の減衰力特性は、図16に示すように、ディスクバルブ26aの開弁圧付近Aで発生していた急激な圧力変動が抑えられ、なだらかな圧力変動にすることができる。したがって、開弁圧付近での送受安定性の向上が図れる。
【0057】
なお、上記構成は、縮み側にも適用可能であり、適用すれば同様の効果が得られる。また、減衰力を発生させない一方向のチェック弁の機能だけを必要とする部位(伸び側の減衰力だけを発生させるワンウェイピストンのインテイクバルブシート面やベースバルブのサクションバルブシート面等)にも適用可能である。この場合、例えば、チェック弁の開閉動作を全周均一の開閉ではなく、作動圧力に応じて円周方向にバルブリフトさせることが可能となるため、チェック弁の開閉レスポンスが向上して、減衰力の立ち遅れ等による圧力変動を最小限に抑えることができる。
【0058】
また、図17に示すように、ピストン本体33を軸方向に2体に分割しても良い。このようにピストン本体33を2つの分割体33A,33Bで構成することにより、焼結での製造が容易となる。
【0059】
「第2実施形態」
次に、第2実施形態を主に図18〜図24に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0060】
第2実施形態においては、図18に示すように、ピストン本体33の伸び側および縮み側に減衰力特性プレート84が設けられている。図19に示すように、ピストン本体33には、すべての中間壁部59aに切欠部70aが形成され、すべての中間壁部60aに切欠部71aが形成されていて、これらが伸び側の円環状の嵌合溝80aを構成している。同様に、すべての中間壁部59bに切欠部70bが形成され、すべての中間壁部60bに切欠部70bが形成されていて、これらが縮み側の円環状の嵌合溝80bを構成している。
【0061】
ここで、切欠部70aおよび切欠部71aは、一つの切欠部71aを除いて同じ大きさとなっており、この一つの切欠部71aのみが径方向にのみ小さくされ、これによりこの切欠部71aの径方向外側が径方向内側に突出する位置決め突起81aとなっている。同様に、切欠部70bおよび切欠部71bは、一つの切欠部71bを除いて同じ大きさとなっており、この一つの切欠部71bのみが径方向に小さくされ、これによりこの切欠部71bの径方向外側が径方向内側に突出する位置決め突起81bとなっている。
【0062】
なお、すべての切欠部70a、すべての切欠部71a、すべての切欠部70b、すべての切欠部71bは、焼結時に金型により形成されている。
【0063】
そして、上記した嵌合溝80a,80bに、円環状の例えば図20(a)〜(d)に示すような減衰力特性プレート84が減衰力特性に応じて選択的に嵌合されることになる。これらの減衰力特性プレート84は、通路穴85の有無、通路穴85の数および大きさによって減衰力特性を選択設定するようになっている。減衰力特性プレート84は、切欠部70a、切欠部71a、切欠部70bおよび切欠部71bの深さと同等の厚さとなっており、外周側に、位置決め突起81a,81bに嵌合することでピストン本体33に対して周方向(回転方向)の位置決めを行う位置決め溝86が形成されている。通路穴85は減衰力特性プレート84の内外径と同心の長穴形状をなしている。なお、位置決め突起81a,81bと位置決め溝86との関係はルーズであっても嵌合であっても良い。嵌合とした場合には、減衰力特性プレート84をピストン本体33に対し予め取り付けてサブアッセンブリ化しても減衰力特性プレート84がピストン本体33から脱落しないメリットがある。
【0064】
減衰力特性プレート84の通路穴85は、減衰力特性プレート84が位置決めされて伸び側の嵌合溝80aに嵌合されると、少なくとも切欠部70aの位置に設けられて隣り合う開口部有シート部53aの凹部55aと開口部無シート部54aの凹部56aとを連通させるものであり、必要により、さらに切欠部71bの位置に設けられて隣り合う開口部無シート部54aの凹部56aと開口部無シート部54aの凹部56aとを連通させることになる。この減衰力特性プレート84は、縮み側の嵌合溝80bに嵌合される場合も同様である。
【0065】
図20(a)に示す減衰力特性プレート84は、通路穴85が形成されていない構成となっており、図21に示すように、伸び側の嵌合溝80aに位置決めされて嵌合されると、すべての切欠部70aおよびすべての切欠部71aを閉塞することになる。
【0066】
図20(b)に示す減衰力特性プレート84には、図22に示すように、伸び側の嵌合溝80aに位置決めされて嵌合されると、180度異なる位置に配置される2カ所の開口部有シート部53aの凹部55aと、これらにそれぞれ一方で隣り合う開口部無シート部54aの凹部56aとを連通させる2カ所の通路穴85が形成されている。この減衰力特性プレート84は、縮み側の嵌合溝80bに嵌合される場合も同様となる。
【0067】
図20(c)に示す減衰力特性プレート84には、図23に示すように、伸び側の嵌合溝80aに位置決めされて嵌合されると、すべての開口部有シート部53aの凹部55aと、これらにそれぞれ一方で隣り合う開口部無シート部54aの凹部56aとを連通させる4カ所の通路穴85が形成されている。この減衰力特性プレート84は、縮み側の嵌合溝80bに嵌合される場合も同様となる。
【0068】
図20(d)に示す減衰力特性プレート84には、図24に示すように、伸び側の嵌合溝80aに位置決めされて嵌合されると、すべての隣り合う開口部有シート部53aの凹部55aと開口部無シート部54aの凹部56aとを連通させ、すべての隣り合う開口部無シート部54aの凹部56aと開口部無シート部54aの凹部56aとを連通させる、開口部有シート部53aおよび開口部無シート部54aの数と同数の16カ所の通路穴85が形成されている。この減衰力特性プレート84は、縮み側の嵌合溝80bに嵌合される場合も同様となる。
【0069】
以上により、共通のピストン本体33を用いても、減衰力特性プレート84を異ならせることで、複数種類のバルブ特性のピストン18を製造することができる。勿論、一つのピストン18において減衰力発生機構42aと減衰力発生機構42bとでバルブ特性を異ならせることもできる。
【0070】
具体的には、例えば、図21に示すように、通路穴85が形成されていない図20(a)に示す減衰力特性プレート84を伸び側の嵌合溝80aに位置決めして組み付ける。すると、伸び行程において、油液は上室16から通路40aを介して4カ所の開口部有シート部53aの凹部55a内の圧力室90aに導入される。開口部有シート部53aの両側の中間壁部59aの切欠部70aは減衰力特性プレート84で閉塞されているため、油液は逃げ場がなくなり、圧力室90aから伸び側の減衰力発生機構42aのディスクバルブ26aを撓ませて、ディスクバルブ26aと開口部有シート部53aとの隙間から下室17側に流れる。このとき、減衰力発生機構42aにおけるピストン速度に対する減衰力の特性は、ピストン速度が速くなると減衰力が高くなり、しかもピストン速度が速いほど減衰力の上昇率が高くなるプログレッシブ特性となる。縮み側にこの減衰力特性プレート84を組み付けた場合も同様である。
【0071】
また、例えば、図22に示すように、2カ所の通路穴85が形成された図20(b)に示す減衰力特性プレート84を伸び側の嵌合溝80aに位置決めして組み付ける。すると、伸び行程において、油液は上室16から通路40aを介して4カ所の開口部有シート部53aの凹部55a内に導入され、そのうちの2カ所についてはそれぞれの一側に隣り合って減衰力特性プレート84の通路穴85で連通している開口部無シート部54aの凹部56aに抵抗なく導入される。つまり、減衰力特性プレート84の通路穴85で連通していない2カ所の凹部55a内の圧力室90aと、減衰力特性プレート84の通路穴85で連通している2カ所の、凹部55aおよび凹部56a内の圧力室91aとに油液が導入される。そして、油液は逃げ場がなくなり、これら2カ所の圧力室90aと2カ所の圧力室91aとから、伸び側の減衰力発生機構42aのディスクバルブ26aを撓ませて、ディスクバルブ26aと開口部有シート部53aとの隙間と、ディスクバルブ26aと隣接する開口部有シート部53aおよび開口部無シート部54aとの隙間とから下室17側に流れる。このとき、減衰力発生機構42aにおけるピストン速度に対する減衰力の特性は、ピストン速度が速くなると減衰力が比例的に高くなるリニア特性となる。縮み側にこの減衰力特性プレート84を組み付けた場合も同様である。
【0072】
また、例えば、図23に示すように、4カ所の通路穴85が形成された図20(c)に示す減衰力特性プレート84を伸び側の嵌合溝80aに位置決めして組み付ける。すると、伸び行程において、油液は上室16から通路40aを介して4カ所の開口部有シート部53aの凹部55a内に導入され、これらそれぞれの一側に隣り合って減衰力特性プレート84の通路穴85で連通している開口部無シート部54aの凹部56aに抵抗なく導入される。そして、油液は、逃げ場がなくなり、減衰力特性プレート84の通路穴85で連通している4カ所の、凹部55a内および凹部56a内の圧力室91aから、伸び側の減衰力発生機構42aのディスクバルブ26aを撓ませて、ディスクバルブ26aと、隣接する開口部有シート部53aおよび開口部無シート部54aとの隙間から下室17側に流れる。このとき、減衰力発生機構42aにおけるピストン速度に対する減衰力の特性は、ピストン速度が速くなると減衰力が高くなり、しかも、所定のピストン速度よりも遅ければ減衰力の上昇率が高くなり、所定のピストン速度よりも速ければ減衰力の上昇率が低くなるデグレッシブ特性となる。縮み側にこの減衰力特性プレート84を組み付けた場合も同様である。
【0073】
また、例えば、図24に示すように、16カ所の通路穴85が形成された図20(d)に示す減衰力特性プレート84を伸び側の嵌合溝80aに位置決めして組み付ける。すると、伸び行程において、油液は上室16から通路40aを介して4カ所の開口部有シート部53aの凹部55a内に導入され、減衰力特性プレート84の通路穴85で連通している12カ所すべての開口部無シート部54aの凹部56aに抵抗なく導入される。そして、油液は逃げ場がなくなり、4カ所の開口部有シート部53aの凹部55a内および12カ所すべての開口部無シート部54aの凹部56a内の圧力室92aから、伸び側の減衰力発生機構42aのディスクバルブ26aを撓ませて、ディスクバルブ26aと、すべての開口部有シート部53aおよびすべての開口部無シート部54aとの隙間から下室17側に流れる。このとき、減衰力発生機構42aにおけるピストン速度に対する減衰力の特性は、ピストン速度が速くなると減衰力が高くなり、しかも、所定のピストン速度よりも遅ければ減衰力の上昇率が高くなり、所定のピストン速度よりも速ければ減衰力の上昇率がさらに低くなるハイフロー特性となる。縮み側にこの減衰力特性プレート84を組み付けた場合も同様である。
【0074】
以上に述べた第2実施形態によれば、ピストン本体33を共通化して、成形が容易な減衰力特性プレート84を複数種類準備し選択して使用することで、特性の異なる複数種類の緩衝器11を製造することができる。したがって、コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0075】
11 緩衝器
12 シリンダ
18 ピストン
19 ピストンロッド
40a,40b 通路
90,91 通路(第2通路)
26a,26b ディスクバルブ
42a,42b 減衰力発生機構
43a,43b 開口部
33 ピストン本体(バルブ本体)
53a,53b 開口部有シート部
54a,54b 開口部無シート部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が封入されたシリンダと、
該シリンダ内に摺動可能に設けられたピストンと、
該ピストンに連結されて前記シリンダから外部に延出されたピストンロッドと、
前記シリンダ内の前記ピストンの摺動によって流体の流れが生じる通路と、
該通路に設けられたディスクバルブを有する減衰力発生機構と、を備えた緩衝器において、
前記減衰力発生機構は、前記通路の開口部が設けられたバルブ本体を有し、
該バルブ本体は、前記開口部と、該開口部を内周側に備え取り囲むように設けられる環状の開口部有シート部と、該開口部有シート部と周方向に隣接して配され、前記開口部を内周側に有さない環状の開口部無シート部と、を備えた焼結部品からなることを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
前記バルブ本体は、前記ピストンであることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
前記バルブ本体は、軸方向に2体に分割されることを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−229784(P2012−229784A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99938(P2011−99938)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】