説明

緩衝器

【課題】車両における乗り心地を向上することが可能な緩衝器を提供することである。
【解決手段】上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段は、筒状の外側部材1と、外側部材1内に出入りする内側部材2と、内側部材2の外周あるいは外側部材1の内周をシールするシール部材3とを備えて、外側部材1と内側部材2の相対移動を抑制する減衰力を発揮する緩衝器D1において、シール部材3がリング状とされて、電圧印加によって動作するアクチュエータ10を有してシール部材3の内側部材2あるいは外側部材1を締め付ける緊迫力を調節する調節手段4を備え、調節手段4は、外側部材1と内側部材2の相対移動速度が高くなると緊迫力を減じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種、緩衝器としては、たとえば、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されるロッドと、ロッドの外周をシールするシール部材とを備えて流体圧を利用して減衰力を発揮する緩衝器が知られている。
【0003】
このような緩衝器は、シリンダ内に挿入したピストンで二つの圧力室を画成しており、ピストンはロッドに連結され、シリンダに対してロッドが移動する際に、ピストンで一方の圧力室の容積を減少させるとともに他方の圧力室の容積を増大せしめ、容積が減少する圧力室から容積が増大する圧力室へ流体が移動する流れに抵抗を与えて、これら圧力室に差圧を発生させて減衰力を発揮するようになっている。
【0004】
そして、ロッドの外周をシールするシール部材は、ロッドの外周に摺接して、シリンダ内から流体が外部へ漏洩することを阻止し、また、ロッドとの間で生じる摩擦力を最小限度に留めるようにして、緩衝器が発生する減衰力に可能な限り摩擦力を重畳させないようにしている(たとえば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−226546号公報
【特許文献2】特開2007−120514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特に車両用途で使用される緩衝器に対しては、近年、乗り心地や操縦安定性の向上の観点から、高速走行時に車線変更する場合等、緩衝器が極低速で伸縮作動する際の減衰特性(伸縮速度に対する緩衝器が発生する減衰力の性質)に対しても要求が高まってきており、伸縮速度が低速領域を超える領域における減衰特性はそのままに、伸縮速度が極低速領域で作動する際にもしっかりと減衰力を出力できるようにとの要望がある。
【0007】
しかしながら、流体を利用した緩衝器にあっては、伸縮速度が極低く振動振幅が小さい場合には、減衰バルブを通過する流体量が少なかったり、あるいは、流体の圧縮性によって圧力室間で流体の移動が生じなかったりして、緩衝器は流体圧に依存した減衰力を発生できない虞がある。このような場合、緩衝器は、ロッドのシリンダに対する変位によって変形するシール部材の弾発力と、ロッドとシール部材との間に生じる摩擦力との合力を、ロッドの移動に対向する力として出力するのみとなって、減衰力不足に陥ることになる。なお、伸縮速度が極低い場合に、減衰力が不足することは、電磁力を利用した緩衝器にも当てはまる。
【0008】
したがって、従来構造の緩衝器で、上記した要求に応えるには、シール部材の緊迫力を大きくして、ロッドとシール部材との間に生じる摩擦力を大きくすることが考えられるが、そうすると、今度は伸縮速度が大きくなった場合に、当該摩擦力の影響によって緩衝器の円滑な伸縮が妨げられて、車両搭乗者にゴツゴツ感を知覚させるなどして乗り心地を悪化させてしまいかねない。
【0009】
そこで、上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、車両における乗り心地を向上することが可能な緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、筒状の外側部材と、当該外側部材内に出入りする内側部材と、上記内側部材の外周あるいは上記外側部材の内周をシールするシール部材とを備えて、上記外側部材と上記内側部材の相対移動を抑制する減衰力を発揮する緩衝器において、上記シール部材は上記外側部材あるいは上記内側部材に対して正面側を密着させるリング状とされ、電圧印加によって動作して上記シール部材を締め付けるか押圧することで上記シール部材の径を変更可能なアクチュエータを有して上記シール部材の上記外側部材あるいは上記内側部材を締め付ける緊迫力を調節可能な調節手段を備え、当該調節手段は、上記外側部材と上記内側部材の相対移動速度が高くなると上記緊迫力を減じることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の緩衝器によれば、シール部材における緊迫力を調節する調節手段を備えているので、伸縮速度が極低速域にある場合にあっても減衰力不足とならず、伸縮速度が低速域を超える場合には、内側部材あるいは外側部材とシール部材との間で生じる摩擦力が緩衝器の円滑な伸縮に影響を与えることを阻止でき、伸縮速度が極低速域にあるときにおけるシール部材に対する要求と伸縮速度が低速域を超える場合におけるシール部材に対する要求とを両立することができ、車両における乗り心地を飛躍的に向上することができる。また、調節手段が電圧印加で動作するアクチュエータでシール部材の緊迫力を調節するので、応答速度が高速で、緊迫力の変更を省エネルギで高速に行えるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施の形態における緩衝器の概略断面図である。
【図2】緩衝器の伸縮速度に対するシール部材の緊迫力の特性を示した図である。
【図3】他の実施の形態における緩衝器の一部拡大断面図である。
【図4】他の実施の形態の一変形例における緩衝器の一部拡大断面図である。
【図5】他の実施の形態の他の変形例における緩衝器の一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1は、一実施の形態における緩衝器の概略断面図である。図2は、緩衝器の伸縮速度に対するシール部材の緊迫力の特性を示した図である。図3は、他の実施の形態における緩衝器の一部拡大断面図である。図4は、他の実施の形態の一変形例における緩衝器の一部拡大断面図である。図5は、他の実施の形態の他の変形例における緩衝器の一部拡大断面図である。
【0014】
一実施の形態における緩衝器D1は、図1に示すように、筒状の外側部材たるシリンダ1と、シリンダ1内に出入りする内側部材たるロッド2と、ロッド2の外周をシールするシール部材3と、シール部材3のロッド2を締め付ける緊迫力を調節する調節手段4とを備えて構成され、この実施の形態の場合、緩衝器D1は流体として作動油を用いた油圧緩衝器とされている。
【0015】
詳しくは、緩衝器D1におけるシリンダ1内は、当該シリンダ1内に摺動自在に挿入されるとともにロッド2に連結されるピストンPによって、油が充填される二つの圧力室R1,R2に仕切られており、二つの圧力室R1,R2を連通する流路5をピストンPに設けて、外側部材たるシリンダ1に対して内側部材たるロッド2が相対移動する際に、通路5を介して圧力室R1,R2を行き来する作動油の流れに抵抗を与えて圧力室R1,R2間に差圧を生じせしめて、所定の減衰力を発生するようになっている。
【0016】
また、この実施の形態の場合、緩衝器D1は、作動流体を液体として片ロッド型の緩衝器に設定されているため、シリンダ1から出没するロッド2の体積分のシリンダ内容積変化を補償する図示しないリザーバあるいは気体室を別途備えている。なお、作動流体を気体とする場合、気体封入圧力によっては緩衝器D1の伸縮作動時におけるシリンダ1から出没するロッド2の体積分を気体体積の膨張と収縮によって補償することができるため、このような場合、必ずしもリザーバを設ける必要はない。
【0017】
つづいて、各部について詳細に説明すると、シリンダ1は、図1中下端が閉塞されており、上端の開口端には、環状のロッドガイド6が固定されている。このロッドガイド6は、シリンダ1の開口端を閉塞すると共に、内周側に保持した筒状のベアリング7を介してシリンダ1内に移動自在に挿入されるロッド2を軸支しており、このロッドガイド6には、同じく、シリンダ1の開口端に固定される環状のシール部材3が積層されている。
【0018】
シール部材3は、ロッド2の外周に摺接するリップ3aと、内周にリップ3aを保持するとともにロッドガイド6の図1中上端に積層される環状のリップ保持環3bとを備えて構成され、リップ3aは、ロッド2の外周に摺接してロッド周りをシールし、シリンダ1内からの作動油の漏洩を阻止している。また、シール部材3は、リップ保持環3bの内周上方で保持されるダストリップ3cを備えており、このダストリップ3cは、ロッド2の外周に付着した塵や埃を掻き落としてシリンダ1内への塵や埃の侵入を防いでいる。
【0019】
つづいて、調整手段4は、リップ3aの外周に嵌合される環状の高分子アクチュエータ4aと、高分子アクチュエータ4aへ電圧を印加する制御部4bとを備えて構成されている。
【0020】
ここで、高分子アクチュエータ4aは、たとえば、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性高分子、高分子電解質ゲルやイオン交換膜等、電圧の印加によって伸縮する高分子を駆動源としたアクチュエータであり、環状とされてリップ3aの外周に嵌合され、円周方向に伸縮してリップ3aを背面側から締め付けることができるようになっている。すなわち、高分子アクチュエータ4aの締付力を変更することによって、リップ3aのロッド2外周への緊迫力(ロッド2を締め付ける力)を増減でき、換言すれば、リップ3aを内側へ向けて締め付ける高分子アクチュエータ4aの締付力の変更によって、リップ3aの内径を変更することが可能で、この内径変化によって緊迫力を調節することができるようになっているのである。上述したように、この実施の形態の場合、シール部材3の緊迫力という場合、具体的には、ロッド2に摺接しているリップ3aにおける緊迫力を指している。なお、高分子アクチュエータ4aの駆動源としては、たとえば、特開2001−258275号公報に開示されているように非導電性高分子材料を使用することも可能である。
【0021】
そして、この場合、高分子アクチュエータ4aへの印加電圧を増加させることで、高分子アクチュエータ4aが伸長してリップ3aの締付力を減少させてリップ3aの緊迫力を小さくすることができるようになっている。
【0022】
他方、制御部4bは、シリンダ1に対するロッド2の相対移動速度をモニタしており、相対移動速度が所定の速度以下の場合には、高分子アクチュエータ4aに電圧印加せず、高分子アクチュエータ4aのリップ3aを締め付ける締付力が最大となるようにし、上記相対移動速度が所定の速度を超える場合には、高分子アクチュエータ4aに電圧印加して円周方向に伸長させ、高分子アクチュエータ4aのリップ3aを締め付ける締付力を減じ、リップ3aの緊迫力を減少させる。
【0023】
なお、制御部4bは、具体的にはたとえば、シリンダ1に対するロッド2の変位を検知する図示しないストロークセンサと図示しない外部電源とを備えており、当該ストロークセンサで検知したシリンダ1に対するロッド2の変位から相対移動速度を求め、当該相対移動速度に基づいて高分子アクチュエータ4aへ電圧印加の有無と印加電圧の大きさを決定して、当該決定通りに電圧を印加するようになっている。また、制御部4bにおける処理は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置を用いて行うようにしてもよいし、アナログ電子回路によって上記処理を行う構成としてもよい。
【0024】
このように構成された緩衝器D1は、調節手段4を備えているので、上記したようにシール部材3における緊迫力を調節することができる。すなわち、緩衝器D1の伸縮速度、つまり、シリンダ1とロッド2の相対速度が、極低速である場合、高分子アクチュエータ4aへ電圧を印加せずにシール部材3の緊迫力を大きくしておき、ロッド2とシール部材3との間で生じる摩擦力を大きくし、当該摩擦力とシール部材3の変形による弾発力でロッド2のシリンダ1に対する移動を抑制する。
【0025】
他方、緩衝器D1の伸縮速度が極低速を超えて高くなると場合、高分子アクチュエータ4aへ電圧を印加してシール部材3の緊迫力を小さくして、ロッド2とシール部材3との間で生じる摩擦力を小さくし、当該摩擦力が緩衝器D1の円滑な伸縮に影響を与えないようにして、車両における乗り心地を向上することができる。
【0026】
なお、緩衝器D1の伸縮速度がある程度大きくなると、それ以上は、高分子アクチュエータ4aへの印加電圧を上昇させず、シール部材3の緊迫力をそれ以上小さくしないようになっており、シール部材3の緊迫力が最小限必要な緊迫力を割り込んで低下することが無いようになっている。
【0027】
したがって、この緩衝器D1にあっては、図2に示すように速度に依存させてシール部材3の緊迫力を調節することで、緩衝器D1の伸縮速度が極低速域にある場合にあっても減衰力不足とならず、緩衝器D1の伸縮速度が低速域を超える場合には、ロッド2とシール部材3との間で生じる摩擦力が緩衝器D1の円滑な伸縮に影響を与えることを阻止でき、伸縮速度が極低速域にあるときにおけるシール部材3に対する要求と伸縮速度が低速域を超える場合におけるシール部材3に対する要求とを両立することができ、車両における乗り心地を飛躍的に向上することができる。
【0028】
本実施の形態においては、シール部材3の緊迫力を伸縮速度に対してどのように調節するかを説明するために、伸縮速度に極低速とそれ以上の速度でなる区分を設けているが、これらの区分の境の速度はそれぞれ任意に設定することができる。ちなみに、良路走行中の車線変更時における緩衝器の伸縮速度が0.02m/s程度であるため、これが極低速の範囲内に入るように上記境を設定しておくとよい。
【0029】
さらに、緩衝器Dの伸縮速度に対するシール部材3の緊迫力の特性は、図2に示したものは一例であり、極低速域を超えると緊迫力を段階的に減少させたり、一定値に低下させたりするようにしてもよい。
【0030】
また、この実施の形態における緩衝器D1にあっては、調節手段4は、自由にシール部材3の緊迫力を変更することができるので、たとえば、緩衝器D1が最伸長あるいは最収縮するようなストロークを呈する場合、シール部材3の緊迫力を高めて緩衝器D1の伸縮を抑制して、最伸長あるいは最収縮時の衝撃を緩和することもでき、さらには、緩衝器D1の伸縮速度によらず緩衝器D1の減衰力が不足する場合、シール部材3の緊迫力を高めて減衰力不足を補うことも可能となる。
【0031】
なお、上記したところでは、高分子アクチュエータ4aを環状としてリップ3aの外周に嵌合しているが、リップ3aの肉厚内に高分子アクチュエータ4aを内設するかリップ3aの外周に接着する等しておき、リップ3aの緊迫力をリップ自身がもつ緊迫力より減じるようにしてもよい。さらに、電圧印加によって高分子アクチュエータ4aを伸長作動させるようにしているが、電圧印加によって高分子アクチュエータ4aを収縮作動させてもよいし、また、電圧印加の方向によって高分子アクチュエータ4aを伸縮作動させるようにしてシール部材3の緊迫力を変更するようにしてもよい。そしてまた、高分子アクチュエータ4aは、環状とされているが、これを線状としてリップ3aの外周の全周あるいは一部に巻きつけ両端をリップ3aの外周に固定しておき、伸縮によってリップ3aの緊迫力を調節するようにしてもよい。
【0032】
さらに、高分子アクチュエータ4aは、低電圧でも動作し、応答速度も高速であるため、リップ3aの緊迫力の変更を省エネルギで高速に行えるという利点があるが、シール部材3の緊迫力の調節に際しては、高分子アクチュエータ4aではなく、電圧印加によって伸長する逆圧電効果を呈する圧電体や磁歪素子等を用いたアクチュエータを利用してもよい。なお、圧電体や磁歪素子等を用いたアクチュエータを用いる場合、たとえば、リップ3aの外周に複数のアクチュエータを配列させて印加時にリップ3aをロッド2の外周へ押し付けるようにしてもよいし、リップ3aの外周にCリングを嵌合させてCリングの開口部にアクチュエータを介装し、Cリングの径をアクチュエータで変更することでリップ3aの緊迫力を調節する構成としてもよい。
【0033】
つづいて、他の実施の形態における緩衝器D2は、図3に示すように、筒状の外側部材たるシリンダ1と、シリンダ1内に出入りする内側部材たるロッド2と、ロッド2の外周をシールするシール部材3と、シール部材3のロッド2を締め付ける緊迫力を調節する調節手段8とを備えて構成され、この他の実施の形態の緩衝器D2が一実施の形態の緩衝器D1と異なるのは調節手段8の構成である。
【0034】
したがって、この他の実施の形態の緩衝器D2の説明に当たり、調節手段8以外の緩衝器D1の同様の構成については説明が重複するので、同じ符号を付するのみとしてその詳しい説明を省略することとする。
【0035】
この異なる調節手段8は、緩衝器D2の伸縮動作によって発電する発電手段9と、発電手段9が発電した電力でシール部材3の緊迫力を調節する一実施の形態におけるものと同様の環状の高分子アクチュエータ10とを備えて構成されている。
【0036】
発電手段9は、外側部材たるシリンダ1側に固定されて内側部材たるロッド2を横切る磁界を発生する界磁11を備えており、リップ保持環3bの図3中左側と右側の内周側にそれぞれN極とS極が現れるように磁石a,bを配置させて界磁11を形成している。
【0037】
ロッド2は、導体とされており、この発電手段9にあっては、シリンダ1とロッド2の相対移動時に界磁11が形成する図3中左右方向の磁界中を、導体であるロッド2が磁界の向きに直交する方向となる図3中上下方向に移動することで、電磁誘導によりロッド2の内部に渦電流を生じさせることで発電する。
【0038】
そして、ロッド2の外周に当接する二つの端子12,13を備えており、この当該端子12,13を通じてロッド2に生じた渦電流を高分子アクチュエータ10に供給できるようになっている。端子12,13は、リップ3aの内周に保持されているが、設置位置は渦電流を捉えることができれば図示したところに限られない。なお、ロッド2の移動方向によって電流の向きが変わるため、渦電流量の増加に比例して高分子アクチュエータ10が伸長してリップ3aの緊迫力を減少させるよう、端子12,13で回収する電流を整流して高分子アクチュエータ10へ供給するようになっている。また、アンプによって電圧を増幅するようにしてもよく、整流に当たっては、周知のブリッジ回路を用いればよい。さらに、直接渦電流を高分子アクチュエータ10へ供給することに換えて、ロッド2に生じた渦電流による磁界を図示しないコイルに作用させて、コイルに生じる誘起電圧で高分子アクチュエータ10を印加するようにしてもよく、外側部材と内側部材の相対移動時に電磁誘導によって内側部材に電流を生じせしめることによって発電することには、電磁誘導によって生じた電流による磁界をコイルに作用させて発電することも含まれる。
【0039】
このように、他の実施の形態の緩衝器D2にあっては、シリンダ1とロッド2の相対移動速度が高くなればなるほど、発電手段9の発電量が多くなって高分子アクチュエータ10が伸長してシール部材3の緊迫力が小さくなっていく。
【0040】
したがって、この他の実施の形態における緩衝器D2にあっては、緩衝器D2の伸縮速度、つまり、シリンダ1とロッド2の相対速度が、極低速である場合、発電手段9による発電量が少なく、高分子アクチュエータ10への印加電圧も小さいため、シール部材3の緊迫力を減少させずにロッド2とシール部材3との間で生じる摩擦力を大きくし、当該摩擦力とシール部材3の変形による弾発力でロッド2のシリンダ1に対する移動を抑制する。他方、緩衝器D2の伸縮速度が低速を超えて高くなると場合、発電手段9による発電量が多くなって、高分子アクチュエータ10への印加電圧も大きくなり、伸縮速度の上昇に対して徐々にシール部材3の緊迫力を小さくして、ロッド2とシール部材3との間で生じる摩擦力を小さくし、当該摩擦力が緩衝器D2の円滑な伸縮に影響を与えないようにして、車両における乗り心地を向上することができる。
【0041】
なお、高分子アクチュエータ10は、リップ3aの外周に嵌合されており、シリンダ1とロッド2の相対移動速度が高くなって、印加電圧が所定値より大きくなると、環状の高分子アクチュエータ10の内径がリップ3aの外径より大きくなってシール部材3の緊迫力をそれ以上小さくしないようになっており、シール部材3の緊迫力が最小限必要な緊迫力を割り込んで低下することが無いようになっている。
【0042】
したがって、この緩衝器D2にあっても、図2に示すように、速度に依存させてシール部材3の緊迫力を調節することで、緩衝器D2の伸縮速度が極低速域にある場合にあっても減衰力不足とならず、緩衝器D2の伸縮速度が低速域を超える場合には、ロッド2とシール部材3との間で生じる摩擦力が緩衝器D2の円滑な伸縮に影響を与えることを阻止でき、伸縮速度が極低速域にあるときにおけるシール部材3に対する要求と伸縮速度が低速域を超える場合におけるシール部材3に対する要求とを両立することができ、車両における乗り心地を飛躍的に向上することができる。
【0043】
また、この場合、緩衝器D2自体が自己発電によって調整手段8を駆動してシール部材3の緊迫力を調節するので、外部から電力供給する必要が無く省エネルギとなり、また、発電手段9は、緩衝器D2の伸縮速度が高くなればなるほど発電量が多くなるので、特に、伸縮速度をモニタすることなく、伸縮速度に依存してシール部材3の緊迫力を調節できるので、別途制御装置の設置も不要となる利点がある。
【0044】
つづいて、他の実施の形態の一変形例における緩衝器D3について説明する。この緩衝器D3は、図4に示すように、調整手段14における発電手段15が上述の緩衝器D2と異なる。
【0045】
この調節手段14における発電手段15は、内側部材たるロッド2に軸方向となる図4中上下方向に交互にN極とS極が現れるように磁石を配置して設置した界磁16と、シリンダ1とロッド2の相対移動によって作用する界磁16の磁界が変化するように設置されるコイル17とを備えて構成されている。この場合、コイル17は、ロッド2の外周周りに設置されてシリンダ1に取付けられており、ロッド2はコイル17内に挿通されている。
【0046】
この発電手段15は、シリンダ1に対してロッド2が相対移動を呈すると、コイル17内を交互にN極とS極が通過するため、コイル17に作用する界磁16の磁界が変化し、コイル17に誘導起電力が生じて発電することができ、この発電手段15によって生じた電圧を高分子アクチュエータ10へ印加するようになっている。
【0047】
なお、コイル17の設置に当たり、上述の設置のほか、図5に示すように、ロッド2の径方向に沿ってコイル17を設置しても、シリンダ1に対してロッド2が相対移動する際に発電することができるので、そのようにしてもよい。
【0048】
なお、この発電手段15の場合も、ロッド2の移動方向によって電流の向きが変わるため、電圧の増加に比例して高分子アクチュエータ10が伸長してリップ3aの緊迫力を減少させるよう、整流して高分子アクチュエータ10へ供給するようになっている。
【0049】
したがって、他の実施の形態の一変形例における緩衝器D3にあっても、シリンダ1とロッド2の相対移動速度が高くなればなるほど、発電手段15の発電量が多くなって高分子アクチュエータ10が伸長してシール部材3の緊迫力が小さくなっていく。
【0050】
よって、緩衝器D3の伸縮速度、つまり、シリンダ1とロッド2の相対速度が、極低速である場合、発電手段15による発電量が少なく、高分子アクチュエータ10への印加電圧も小さいため、シール部材3の緊迫力を減少させずにロッド2とシール部材3との間で生じる摩擦力を大きくし、当該摩擦力とシール部材3の変形による弾発力でロッド2のシリンダ1に対する移動を抑制する。他方、緩衝器D3の伸縮速度が低速を超えて高くなると、発電手段15による発電量が多くなって、高分子アクチュエータ10への印加電圧も大きくなり、伸縮速度の上昇に対して徐々にシール部材3の緊迫力を小さくして、ロッド2とシール部材3との間で生じる摩擦力を小さくし、当該摩擦力が緩衝器D3の円滑な伸縮に影響を与えないようにして、車両における乗り心地を向上することができる。
【0051】
すなわち、この緩衝器D3にあっても、図2に示すように、速度に依存させてシール部材3の緊迫力を調節することで、緩衝器D3の伸縮速度が極低速域にある場合にあっても減衰力不足とならず、緩衝器D3の伸縮速度が低速域を超える場合には、ロッド2とシール部材3との間で生じる摩擦力が緩衝器D3の円滑な伸縮に影響を与えることを阻止でき、伸縮速度が極低速域にあるときにおけるシール部材3に対する要求と伸縮速度が低速域を超える場合におけるシール部材3に対する要求とを両立することができ、車両における乗り心地を飛躍的に向上することができる。
【0052】
また、この場合、緩衝器D3自体が自己発電によって調整手段15を駆動してシール部材3の緊迫力を調節するとともに、発電手段15は、緩衝器D3の伸縮速度が高くなればなるほど発電量が多くなるので、緩衝器D2と同様、省エネルギで制御装置の設置が不要となる利点がある。
【0053】
なお、上記した各実施の形態においては、緩衝器D1,D2,D3を油圧緩衝器としているが、作動流体を作動油以外の流体、たとえば、気体、水、水溶液、電気粘性流体、磁気粘性流体としてもよく、また、シール部材の緊迫力で外側部材と内側部材の相対移動時における摩擦力を調節するものであるから、減衰力の発生原理を流体の通路5の通過時における圧力損失によるものとする緩衝器に限らず、電磁緩衝器のように電磁力を減衰力発生源とする緩衝器にも適用可能である。
【0054】
さらに、たとえば、二輪車のフロントフォークに本発明を適用する場合、外側部材を緩衝器のシリンダあるいはロッドの一方に結合されるアウターチューブとし、内側部材を緩衝器のシリンダあるいはロッドの他方に結合されるインナーチューブとし、シール部材でアウターチューブとインナーチューブとの間をシールするような構成としてもよく、必ずしも、外側部材と内側部材はシリンダとロッドに限定されない。
【0055】
また、上記したところでは、シール部材3は内側部材たるロッド2の外周を緊迫しているため、シール部材3とロッド2との間に生じる摩擦力を調節することになるが、シール部材が外側部材の内周に摺接してシールするような場合、当該シール部材における外側部材への緊迫力を調節するようにしてもよい。
【0056】
さらに、上記した各実施の形態において、シール部材3がロッド2の外周に密着するリップ3aを備えて、調節手段によって緊迫力を調節するようにしているが、シール部材3は上記した実施の形態の構成に限定されることは無く、たとえば、シール部材をOリング等のようにリング状とし、正面側を内側部材あるいは外側部材に密着させたこのシール部材の背面にシール部材を締め付けたり押圧したりするアクチュエータを配置するような構成を採用することも可能である。
【0057】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
1 外側部材たるシリンダ
2 内側部材たるロッド
3 シール部材
3a シール部材におけるリップ
3b シール部材におけるリップ保持環
3c ダストリップ
4,8,14 調節手段
4a,10 高分子アクチュエータ
4b 制御部
5 通路
6 ロッドガイド
7 ベアリング
9,15 発電手段
11,16 発電手段における界磁
12,13 端子
17 発電手段におけるコイル
a,b 磁石
D1,D2,D3 緩衝器
P ピストン
R1,R2 圧力室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の外側部材と、当該外側部材内に出入りする内側部材と、上記内側部材の外周あるいは上記外側部材の内周をシールするシール部材とを備えて、上記外側部材と上記内側部材の相対移動を抑制する減衰力を発揮する緩衝器において、上記シール部材は上記外側部材あるいは上記内側部材に対して正面側を密着させるリング状とされ、電圧印加によって動作して上記シール部材を締め付けるか押圧することで上記シール部材の径を変更可能なアクチュエータを有して上記シール部材の上記外側部材あるいは上記内側部材を締め付ける緊迫力を調節可能な調節手段を備え、当該調節手段は、上記外側部材と上記内側部材の相対移動速度が高くなると上記緊迫力を減じることを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
シール部材は、上記内側部材の外周に摺接するリップと、内周に上記リップを保持するリップ保持環と、当該リップ保持環の内周上方で保持されるダストリップとを備え、上記アクチュエータは、環状であって上記リップの外周に嵌合されることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
上記アクチュエータは、電圧印加によって駆動する高分子アクチュエータであることを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝器。
【請求項4】
上記アクチュエータは、電圧印加によって逆圧電効果を呈する圧電体または磁歪素子を用いて上記シール部材の緊迫力を調節することを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−42059(P2012−42059A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248175(P2011−248175)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【分割の表示】特願2008−58246(P2008−58246)の分割
【原出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】