説明

緩衝層含有光学用積層体

【課題】光学異方性フィルム等の光学用基材を、耐衝撃性と取り扱い性とを高めて保護し、かつ、それを用いた表示装置の視認性を高めた積層体を得る。
【解決手段】光学用基材2の一面に、未架橋状態のポリオルガノシロキサン1を積層させた後、ガンマ線を照射して上記ポリオルガノシロキサンを架橋させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光学用基材に緩衝作用を与えた緩衝層含有光学用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
光学異方性フィルムなどの光学用フィルムは、液晶表示パネルやプラズマディスプレイパネル等の光学表示機器に不可欠な材料である。この光学用フィルムは、フィルム単独で用いることはほとんど無く、通常は、粘着剤によって他の機能材料と複合化させることで、表示機器の光学特性などの機能を向上させて用いられており、視認性を確保させつつ、さらに耐衝撃性を高めることが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、光学フィルタを透明の粘着材により電磁波シールド材と密着一体化して、画像表示パネルの表示面基板に積層させ、視認性と耐衝撃性を向上させた表示装置が記載されている。
【0004】
また、粘着剤の代わりに、液晶パネルと保護パネルとを、所定の可塑度を有するポリオルガノシロキサン層を用いて密接着させた、視認性に優れた液晶表示装置を得る方法がある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−150065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のように、光学用基材を通常のアクリル系粘着剤などと複合化させたものは、タッチパネル等のしばしば外力が加わる表示機器として用いるには緩衝能力が十分ではない場合があり、また、粘着剤だけでは弾性回復性が十分ではない場合があるため、永久変形が生じる可能性があった。
【0007】
また、所定の可塑度であるポリオルガノシロキサンを用いて光学用積層体を複合化させると、ポリオルガノシロキサン自体が緩衝作用を有するので耐衝撃性は高くなり、光線透過率も高くなって視認性も向上するが、弾性回復性が十分ではなく、これも永久変形が生じる可能性があった。
【0008】
そこでこの発明は、光学異方性フィルム等の光学用基材を複合化させた積層体の耐衝撃性と弾性回復性とを高め、かつ取り扱い性を向上させ、しかも、それを用いた表示装置の視認性を高めた積層体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、光学用基材の一面に、未架橋状態のポリオルガノシロキサンを積層させた後、ガンマ線を照射して上記ポリオルガノシロキサンを架橋させることにより、上記の課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0010】
ポリオルガノシロキサンは光透過率が高く、視認性の妨げになることを最小限に抑えることができる。また、ポリオルガノシロキサンの積層時には、架橋前であるため弾性率が低く取り扱いが容易な状態で積層させることができ、積層後には架橋させて必要な弾性率や弾性回復性が得られる。さらに、ポリオルガノシロキサンは、反対面で、また別の基材と接着させることもできるのでさらなる積層も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、光学用基材の一面に、未架橋状態のポリオルガノシロキサンを積層させた後、ガンマ線を照射して上記ポリオルガノシロキサンを架橋させた、緩衝層含有光学用積層体である。
【0012】
上記光学用基材とは、光学的等方性基材や光学的異方性基材などとして働くフィルム、シート、プレートなどの面を有する基材をいい、例えば、光学異方性フィルムが挙げられる。この光学用基材の材料は、透明性が高く、かつ、この発明で用いるガンマ線の照射によって色変化が生じないか、又は色変化が光学的に無視できる材料であることが必要である。具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略す。)、トリアセチルセルロース、環状オレフィンポリマーなどが挙げられる。
【0013】
この光学用基材の一面に積層させる未架橋状態のポリオルガノシロキサンとは、式(1)に記載のシロキサン骨格を有する物質であり、架橋反応を起こさせることができるものをいう。
【0014】
【化1】

【0015】
ここで、式(1)中「R」はメチル基やエチル基等のアルキル基、ビニル基、フェニル基などの炭化水素基、又はフルオロアルキル基などのハロゲン置換炭化水素基である。具体的には、式(1)中「R」が全てメチル基であるポリジメチルシロキサンや、ポリジメチルシロキサンのメチル基の一部が上記炭化水素基又は上記ハロゲン置換炭化水素基の一種又は複数種によって置換された各種のポリオルガノシロキサンが挙げられる。この発明で用いるポリオルガノシロキサンとしては、それらのポリジメチルシロキサンや各種のポリアルキルシロキサンを単独、又は二種類以上混合して用いることができる。
【0016】
上記のポリオルガノシロキサンの好ましい混合比は、この発明にかかる緩衝層含有光学用積層体の用途に求められる光学特性や、架橋反応後の物性を考慮して決定する。
【0017】
上記の未架橋状態のポリオルガノシロキサンに、ガンマ線を照射することによって、架橋反応を起こさせることができる。ガンマ線の照射で架橋反応を進行させることができるので、架橋剤を使わないで架橋反応を起こすことが出来る。これにより、架橋剤を用いて架橋した際に見られる架橋剤による色変化を避けることができ、また、架橋剤の反応による副生成物の残留も防ぐことができるので、上記光学用基材の光学特性の変化を最小限に留めることができる。さらに、温度の影響が少なく済むため、上記光学用基材の熱劣化も避けることができる。
【0018】
このような材質からなるポリオルガノシロキサンは、JIS K 7105による全光線透過率は85%を超えることが好ましく、90%以上であるとより好ましい。また、ヘイズ値が3%未満であると好ましく、1%以下であるとさらに好ましい。ヘイズ値が3%以上となると、光学用基材として用いる際に曇りとなり、光学用途における使用が妨げられる場合が多くなるためである。
【0019】
上記のガンマ線の照射量は、5kGy以上であると好ましく、10kGy以上であるとより好ましい。照射量が5kGy未満であると、十分な架橋が得られないおそれがあり、必要なゴム弾性が得られなくなってしまう可能性がある。一方で、50kGy以下であると好ましく、30kGy以下であるとより好ましい。50kGyを超えると、架橋が進みすぎて損失係数(tanδ)が小さくなりすぎ、必要な緩衝作用が得られなくなってしまうおそれがあり、さらに、上記ポリオルガノシロキサンと上記光学用基材との密着力が足りずに剥がれる可能性がある。
【0020】
なお、上記の条件でガンマ線を照射して架橋すると、上記光学用基材に予め表面処理を施していなくても、上記ポリオルガノシロキサンと上記光学用基材との間に強固な接着力を発揮させることが出来る。
【0021】
上記の架橋を行った後の上記ポリオルガノシロキサンは、周波数10Hz温度20度の環境で動的粘弾性測定した剪断弾性率G’が、0.05MPa以上であると好ましく、0.08MPa以上であるとより好ましい。剪断弾性率G’が0.01MPa未満であると、柔らかすぎて衝撃に対する変形量が大きくなりすぎ、取扱性も落ちてしまうためである。一方で、剪断弾性率がG’は0.30MPa以下であると好ましく、0.15MPa以下であるとより好ましい。0.30MPaを超えると、固すぎてしまい、十分な緩衝作用が得られなくなる場合があるためである。
【0022】
また、架橋を行った後の上記ポリオルガノシロキサンは、上記の剪断弾性率と同じ条件で計測した場合、損失係数(tanδ)が、0.08以上であると好ましく、0.10以上であるとより好ましい。tanδが小さすぎて0.08未満となると、十分な緩衝作用が得られなくなってしまうためである。一方で、0.35以下であると好ましく、0.30以下であるとより好ましい。0.35を超えると、弾性回復性が悪くなってしまうためである。
【0023】
この発明にかかる緩衝層含有光学用積層体の形状は特に限定されるものではない。ただし、緩衝層である上記の架橋されたポリオルガノシロキサンの層の厚みは、0.03mm以上であると好ましく、0.1mm以上であるとより好ましい。厚みが薄すぎると、光学用基材に耐衝撃性を与えるために必要な分の緩衝作用が得られなくなるおそれがある。一方で1.0mm以下であると好ましく、0.7mm以下であるとより好ましい。1.0mmを超えると、外力に対する変形量が大きくなりすぎてしまうだけでなく、厚すぎて実用上の妨げになることもある。さらに、使用するポリオルガノシロキサンの量が多くて経済的ではない。
【0024】
この発明にかかる衝撃層含有光学用積層体は、上記光学用基材の一面にポリオルガノシロキサンの層を積層させただけではなく、ポリオルガノシロキサンの上記光学用基材と反対側の面上に、もう一つの光学用基材を積層させて、ポリオルガノシロキサンを上記光学用基材で挟むものであってもよい。このもう一つの光学用基材とは、先に上記ポリオルガノシロキサンを積層させた光学用基材と同じものでもよいし、違う性質を有するものでもよい。上記のポリオルガノシロキサンの層を上記光学用基材で挟む場合、ポリオルガノシロキサンを挟んでから、ポリオルガノシロキサンにガンマ線を照射して架橋させると好ましい。
【0025】
この発明にかかる緩衝層含有光学用積層体の使用形態としては、例えば、液晶パネル等と貼り合わせたりすることによって液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等の、表示機器として使用するものが挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、この発明の具体的な実施例を説明する。
【0027】
(実施例1)
2枚のPETフィルム2(三菱化学ポリエステルフィルム(株)製:S−100、厚み50μm)の間にポリジメチルシロキサン1(GE東芝シリコーン(株)製:TSE200A)を挟み込んで、一対のロール間で総厚が400μmとなるように積層させた。これにガンマ線を20kGy照射してポリジメチルシロキサン1を架橋させて、図1のような緩衝層含有光学用積層体を得た。
【0028】
(動的粘弾性測定)
得られた緩衝層含有光学用積層体の架橋後のポリジメチルシロキサン1について、動的粘弾性測定装置(レオメトリックス社製:ダイナミックアナライザーRDII)を用いて、周波数10Hz、温度20℃の環境で動的粘弾性測定を行ったところ、剪断弾性率G’は0.03MPa、損失係数tanδは0.27であった。
【0029】
(液晶パネル及びポリカーボネート板の貼り付け)
また、得られた緩衝層含有光学用積層体の両面に、厚さ25μmのアクリル系両面テープ3を貼り合わせ、片方の面に液晶パネル4(3.5cm×4.5cm、厚さ2mm、白黒STN)を貼り付け、もう片方の面にポリカーボネート板5(厚さ1.5mm、以下、「PC板5」と略す。)を貼り付け、図2のような構成のものとした。
【0030】
(耐衝撃性測定)
液晶パネル4とPC板5を貼り付けた緩衝層含有光学用積層体を、PC板5を上にした状態で鋼板上に置き、PC板5の上に、JIS B 1501に準拠した直径10mmの鋼球を1mの高さから自然落下させた。その後液晶パネル4の状態を目視観察したところ、割れは見られなかった。
【0031】
(弾性回復性測定)
得られた緩衝層含有光学用積層体の架橋後のポリジメチルシロキサン1について、フィッシャー硬度計((株)フィッシャー・インストルメンツ社製)を用いて、1ステップ1秒とし、19ステップで100mNまで荷重をかけ、同様に19ステップで荷重を除いた時の弾性回復率(%)、及び弾性回復率が95%に達するまでの時間を測定した。なお、弾性回復率(%)の計算は下記式(2)による。
【0032】
弾性回復率(%)={100mN印加時の変化量(μm)−回復時の変位量(μm)}/100mN印加時の変位量(μm)×100 (2)
【0033】
荷重を除去した時の弾性回復率は76%であった。また、弾性回復率が95%に達するまでの時間は、荷重を除去してから23秒であった。
【0034】
(密着性の観測及び測定)
得られた緩衝層含有光学用積層体から、液晶パネル4及びPC板5を貼り付ける前に、PETフィルム2を手で剥がそうと試みたが出来なかった。また、液晶パネル4とPC板5を貼り付けた緩衝層含有光学用積層体を、温度60℃、湿度95%に設定した恒温恒湿槽中に500時間放置した後、液晶パネル4を目視観察したところ、層間剥離は見られず、それ以外の外観の変化も見られなかった。JIS K 7105に基づく全光線透過率は93%、ヘイズ値は0.3%であった。
【0035】
(比較例1)
ポリオルガノシロキサンとして、実施例1のポリジメチルシロキサンの代わりに、架橋型ポリオルガノシロキサンであるミラブル型シリコーンゴム(GE東芝シリコーン(株)製:TSE2571−5Uを使用し、厚さ0.3mmのシートを作成して、これから一旦PETフィルム2を剥離し、ガンマ線を60kGy照射し、その後常温圧着ロールにより両面にPETフィルム2を貼り合わせた以外は実施例1と同様の手順により積層体を得た。実施例1と同様に動的粘弾性測定を行ったところ、剪断弾性率G’は2.8MPaであり、tanδは0.07であった。
【0036】
また、実施例1と同様に液晶パネル4及びPC板5を貼り付けた時点で色むらが発生し、その他の評価は行わなかった。なお、全光線透過率は85%、ヘイズ値は3%であった。
【0037】
(比較例2)
ガンマ線を照射しない以外は比較例1と同様の手順により積層体を得た。実施例1と同様に動的粘弾性測定を行ったところ、剪断弾性率G’は0.03MPaであり、損失係数tanδは0.27であった。また、液晶パネル4を色むら無く貼り付けることは出来たが、耐衝撃性を測定したところ、割れは見られなかった。しかし、弾性回復性を測定しようとしても、流動しやすく、正確に測定することが困難であり、応力を加えると変形し、元に戻らなかった。なお、全光線透過率は85%、ヘイズ値は3%であった。
【0038】
(結果)
未架橋状態のジメチルシロキサンを積層後にガンマ線で架橋した実施例1では、柔軟に液晶パネルに貼り付けて容易には剥がれないようにすることができた。また、液晶パネル4に貼り付けて、液晶パネル4を保護することができ、その緩衝層含有光学用積層体自体も元に戻った。しかし、既に架橋したポリオルガノシロキサンを用いた比較例1では、固くなり過ぎてしまい、液晶パネルへの貼り付けがうまくいかなかった。また、ポリオルガノシロキサンを用いてガンマ線を照射しなかった比較例2では、液晶パネル4への貼り付けは成功したが、強度と弾性回復性が足りず、元に戻らなかった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明にかかる緩衝層含有光学用積層体
【図2】液晶パネルとPC板を張り付けた緩衝層含有光学用積層体
【符号の説明】
【0040】
1 ポリジメチルシロキサン(ポリオルガノシロキサン)
2 PETフィルム
3 アクリル系両面テープ
4 液晶パネル
5 PC板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学用基材の一面に、未架橋状態のポリオルガノシロキサンを積層させた後、ガンマ線を照射して上記ポリオルガノシロキサンを架橋させた、緩衝層含有光学用積層体。
【請求項2】
上記の積層させたポリオルガノシロキサンの上記光学用基材を積層させた面の反対側の面上に、もう一つの光学用基材を積層させた後に上記ガンマ線を照射する、請求項1に記載の緩衝層含有光学用積層体。
【請求項3】
上記ガンマ線の照射量が5kGy以上、50kGy以下である、請求項1又は2に記載の緩衝層含有光学用積層体。
【請求項4】
架橋後の上記ポリオルガノシロキサンの、周波数10Hz、温度20℃の環境で動的粘弾性測定した剪断弾性率G’が0.01MPa以上、0.30MPa以下であり、かつ、損失係数(tanδ)が0.08以上、0.35以下である、請求項1乃至3のいずれかに記載の緩衝層含有光学用積層体。
【請求項5】
上記の積層させたポリオルガノシロキサンの層の厚みが0.03mm以上、1.0mm以下である、請求項1乃至4のいずれかに記載の緩衝層含有光学用積層体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の緩衝層含有光学用積層体を組み込んだ表示機器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−175808(P2006−175808A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373583(P2004−373583)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】