説明

緯編地

【課題】吸放湿性に優れると共に、透け防止効果や紫外線遮蔽効果を有し、洗濯を繰り返してもそれらの効果が低減し難い緯編地を提供する。
【解決手段】単糸繊度0.5〜1.5dtexの溶剤紡糸セルロース繊維を紡績糸全質量に対し60質量%以上含む40〜120番手の紡績糸を用いてなり、該溶剤紡糸セルロース繊維が平均一次粒子径0.1〜1.0mmの酸化チタンを繊維全質量に対し0.5〜1.5質量%含有し、針密度24〜46ゲージで編成されてなる緯編地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタンを含む溶剤紡糸セルロース繊維が使用された緯編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、肌着に適した緯編地として綿や溶剤紡糸セルロース繊維などを使用した緯編地が知られている。この編地は、風合いがよく、着用時の吸湿性及び放湿性に優れているため、好ましいものである。
【0003】
一方で、肌着に適用するには、透け難い編地であることが好ましいとされ、編地における光の屈折率を調整することにより所望の透け防止効果が得られることが知られている。しかし、綿、溶剤紡糸セルロース繊維といった繊維を使用した場合、編地において、透け防止効果を得るに適した屈折率の調整が困難であるため、このような繊維を使用するときは、編地の厚みや密度を増やす、太い糸を使用するといった手段を採用するのが一般的である。ところが、このような手段を採用すると、編地が重くなるだけでなく、蒸れ感が増し、フィット感も得られ難くなる。さらに、仕上加工に所定の工程を組み入れることにより、編地の透け防止効果を向上させようという試みもあるが、洗濯を繰り返すと当該効果が低下するという問題が残されている。
【0004】
そこで、合成繊維を交編することにより、所望の透け防止効果を得る試みがある。例えば特許文献1には、3次元捲縮を発現するポリエステル系複合糸と、精製セルロースとを交編織した複合布帛が開示されている。この技術では、ポリエステル系複合糸を甘〜中撚域で撚糸することにより、布帛において透け防止効果の他、適度なストレッチ性やシボ感のないフラット感なども得ることができる。
【特許文献1】特開2003−113554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に肌着には身体の動きに追随できるだけの適度なストレッチ性が求められるため、上記の複合布帛を肌着に適用してもよいと考えられるが、合成繊維を使用すると、編地の吸放湿性が低減するのに伴い、肌着の着用快適性が大幅に低減するという問題がある。
【0006】
さらに、近年では、肌着をアウター感覚で着用する場面が増えており、防透け効果に加え、紫外線を効率的に遮蔽する性能も求められるようになってきた。しかし、上記複合布帛では、この点について一切検討されていない。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、吸放湿性に優れると共に、透け防止効果や紫外線遮蔽効果を有し、洗濯を繰り返してもそれらの効果が低減し難い、従来にない優れた特性を有する緯編地を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、溶剤紡糸セルロース繊維に酸化チタンを特定量含有させると同時に、編地密度や編地を構成する紡績糸の太さなどを特定範囲に限定することにより、所望の効果が得られることを知見し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、単糸繊度0.5〜1.5dtexの溶剤紡糸セルロース繊維を紡績糸全質量に対し60質量%以上含む40〜120番手の紡績糸を用いてなり、該溶剤紡糸セルロース繊維が平均一次粒子径0.1〜1.0mmの酸化チタンを繊維全質量に対し0.5〜1.5質量%含有し、針密度24〜46ゲージで編成されてなることを特徴とする緯編地を要旨とするものであり、特に、該溶剤紡糸セルロース繊維が、フィブリル化防止加工されていることを好ましい態様として含むものである。そして、緯編地の用途として、肌着に適用する態様を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吸放湿性に優れると共に透け防止効果や紫外線遮蔽効果を有し、しかも、洗濯を繰り返してもそれらの効果が低減し難い緯編地を提供することができる。特に、本発明では、品位の観点から、フィブリル化防止加工された溶剤紡糸セルロース繊維を用いるのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の緯編地では、溶剤紡糸セルロース繊維を使用する。溶剤紡糸セルロース繊維とは、パルプを原料とし、所定の溶剤に溶かして濾過した後、これを乾式紡糸又は湿式紡糸することにより得られる繊維である。溶剤としては、例えば、N−メチルモルフォリン−N−オキサイド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピペリジン−N−オキサイド、ジメチルアセトアミドなどが好ましく使用される。
【0013】
本発明では、溶剤紡糸セルロース繊維として単糸繊度0.5〜1.5dtexのものを使用する。単糸繊度が0.5dtex未満になると、繊維化が極めて困難となり、一方、1.5dtexを超えると、編地の風合いが硬くなる。
【0014】
本発明では、このような溶剤紡糸セルロース繊維をそのまま使用して編地となすのではなく、一旦紡績糸した後、これを使用して目的の編地となす。このとき、紡績糸中には、溶剤紡糸セルロース繊維を紡績糸全質量に対し60質量%以上含ませる必要がある。これは、後述するように、本発明に用いる溶剤紡糸セルロース繊維には特定量の酸化チタンが含まれているため、紡績糸に含まれる溶剤紡糸セルロース繊維含有量が60質量%未満になると、編地に対し、後述する透け防止効果や紫外線遮蔽効果などの効果を付与できなくなるからである。
【0015】
紡績糸の太さとしては、英式番手で40〜120番手であることが必要である。太さが40番手より太くなると、編地の厚みや質量が増し、用途が限られてしまうことがあり、一方、120番手より細くなると、糸の強度が下がるのに伴い編地の強度も下がり、実用上問題が生じることがある。本発明では、生産ロット管理に加え発明の効果を最大限発揮する観点から、紡績糸の太さとして、40、50、60番手のいずれかを採用することが好ましい。
【0016】
本発明では、このように溶剤紡糸セルロース繊維を使用することにより、編地の吸放湿性を優れたものとすることができ、結果として、衣服としたとき着用快適性が得られる。
【0017】
本発明の編地は、この他にも透け防止効果や紫外線遮蔽効果といった効果も奏する。本発明では、このような効果を得るため、溶剤紡糸セルロース繊維中に酸化チタンを含有させる。
【0018】
酸化チタンの平均一次粒子径としては、0.1〜1.0mmである必要がある。平均一次粒子径が0.1mm未満になると、編地に対し十分な透け防止効果及び紫外線遮蔽効果を付与することができなくなる。一方、1.0mmを超えると、繊維強度が著しく低減し、紡糸過程において繊維が切断することがある。また、繊維全質量に対する酸化チタンの含有量としては、0.5〜1.5質量%とする必要がある。含有量が0.5質量%未満になると、編地に対し十分な透け防止効果及び紫外線遮蔽効果を付与できず、一方、1.5質量%を超えると、繊維強度が著しく低減し、紡糸過程において繊維が切断することがある。 なお、酸化チタンは、一般に紡糸段階で繊維中に配合する。
【0019】
ここで、透け防止効果については、編地を白色と黒色とでバッキング(裏あて)し、それぞれに光を当てて反射光を測定し、2つの測定値の比を求めることで、その効果の度合いを知ることができる。透け防止効果の目安としては、85%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましい。
【0020】
他方、紫外線遮蔽効果については、分光光度計(島津UV−3100PC)を用いて、編地に照射した紫外線の透過率を測定することで(測定波長領域:290〜400nm)、その効果の度合いを知ることができる。紫外線遮蔽効果の目安としては、90%以上であることが好ましく、95%以上がより好ましい。
【0021】
本発明では、このように繊維中に酸化チタンを含有させるという手段を採用しているので、洗濯を繰り返しても両効果は低減し難い。両効果の洗濯耐久性としては、JIS L0217(103法)に基づき30回洗濯した後の編地につき、両効果を測定し、洗濯前と比較することで、評価する。
【0022】
本発明の編地は、上記の溶剤紡糸セルロース繊維を紡績糸となし、これを編成することにより得ることができる。本発明では、紡績手段及び編成手段として共に公知の手段が採用できる。具体的には、紡績手段としてはリング精紡機を使用する手段、編成手段としては市販の丸編機を使用する手段が採用できる。
【0023】
ただ、本発明では、編機の針密度として24〜46ゲージの範囲を採用する必要があり、好ましくは28〜36ゲージを採用する。これは、針密度が24ゲージ未満になると、編地密度が粗くなって透け感が増し、一方、46ゲージを超えると、編成が困難となるばかりか、編地の強度に対しても悪影響を及ぼすことがあるからである。
【0024】
また、編地の組織としては、特に限定されるものでないが、用途展開の観点からベア天竺が好ましい。
【0025】
本発明の編地では、以上のように溶剤紡糸セルロース繊維が使用されている。一般に溶剤紡糸セルロース繊維を使用した編地は、衣服となした後に洗濯を繰り返すと、衣服表面が白っぽく見えることがある。これは、溶剤紡糸セルロース繊維に限らず、セルロース系繊維を使用すると一般的に見られる現象で、フィブリル化現象と呼ばれている。繊維の毛羽立ちが原因とされている。フィブリル化現象は、衣服の外観を損なうだけでなく風合いにも悪影響を及ぼすことから、本発明では、最終的に得られる編地がフィブリル化防止加工されたものであることが好ましい。フィブリル化防止加工としては、繊維自身をフィブリル化防止加工する手段や、編成後の編地をフィブリル化防止加工する手段などがあげられるが、編地を加工すると、編地の強度や摩耗強力を大きく低下させてしまう懸念があるので、好ましくは繊維自身を加工する。この場合の加工としては、紡糸と同時に繊維を加工するか、又は繊維を得た後に加工すればよいが、より高いフィブリル化防止効果を得るには、得られた繊維を加工するのがよい。
【0026】
具体的には、クロルヒドリン基又はグルシジル基を有する化合物から少なくとも1つ選ばれる化合物と、アルカリ性を示す化合物と、中性塩からなる反応促進剤とを含む水溶液を用いて、得られた溶剤紡糸セルロース繊維を加工する。加工機器としては、パッケージ染色機が使用できる。加工時間としては、繊維の投入量、使用する装置、原綿の回転速度などの条件にもよるが、一般に10〜90分間が好ましい。処理時間が10分間未満になると、所望のフィブリル化防止効果が得られない傾向にあり、一方、90分間を超えると、それ以上のフィブリル化防止効果を望めないばかりか、コスト面で不利となる傾向にあり、いずれも好ましくない。加工温度としては、40℃以上が好ましく、60〜100℃がより好ましい。温度が40℃未満になると、反応速度が遅くなるのに伴って処理時間が長くなるので、コスト面で不利となる傾向にあり、一方、100℃を超えると、反応ムラが生じやすくなる傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0027】
フィブリル化防止効果を評価するには、JIS L 0217(103法)に基づき編地を30回洗濯した後、編地表面を電子顕微鏡で拡大し、目視により評価する。
【0028】
本発明の編地は、用途として衣料分野であれば特段限定されるものでないが、特に肌着に好ましく適用できる。このことから、本発明の編地は、上記に加え摩耗強力、破裂強力及び抗ピリング性にも優れていることが好ましい。
【0029】
具体的に、摩耗強力については、JIS L1096(マーチンデール試験機による摩擦:9KPa)記載の方法により測定した摩耗強力が、6000回以上であることが好ましい。摩耗強力が6000回未満であると、衣服を着用したときの擦れ・アタリにより、編地が破損することが稀にあり、好ましくない。
【0030】
編地の破裂強力については、JIS L 1098:1999(ミューレン型A法、低圧ゴム使用)に準じて破裂強力を5回測定し、その最低値が300KPa以上となるのが好ましい。破裂強力が300KPa未満になると、同じく編地が破損することが稀にあり、好ましくない。
【0031】
そして、編地の抗ピリング性については、JIS L1076 ICI法(A法)で5時間測定したときのピリング級判定が3級以上であることが好ましく、4級以上であることがより好ましい。抗ピリング性が3級未満になると、衣服に使用するにつれ外観品位が損なわれる傾向にあり、好ましくない。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0033】
平均一次粒子径0.4mmの酸化チタンを0.8質量%含有する、単糸繊度1.3dtexの溶剤紡糸セルロース繊維を原綿状態でフィブリル化防止加工した。そして、この繊維を用いて通常工程によりスライバー(有効繊維長34〜38mm)を作製し、粗紡工程を経て粗糸を得た。得られた粗糸をリング精紡機に仕掛け、撚係数3.6で精紡し、英式番手50番手の紡績糸を得た。
【0034】
次に、得られた紡績糸と、ポリウレタン弾性繊維22dtex1fとを、釜径84cm、針密度28ゲージ、総針本数2976本、口数102口のベア天竺丸編機に仕掛け、プレーティングによるベア天竺組織の緯編地を編成した。その後、これをプレセット、アルカリ処理、精練・リラックス、ファイナルセットの順で仕上加工し、幅155cm、目付け155g/m、密度66コース/44ウェールの緯編地を得た。
【0035】
得られた編地における透け防止効果及び紫外線遮蔽効果を、前述した手段により測定したところ、それぞれ91.6%、90.7%であった。そして、JIS L0217(103法)に基づき30回洗濯した後の編地については、当該効果がそれぞれ91.0%、90.3%であったことから、本発明の編地は、洗濯耐久性に優れていることが確認できた。
【0036】
また、編地表面おけるフィブリル化現象を、前述した手段により観察したところ、ごく僅かしか認められなかったことから、フィブリル化防止効果は概ね良好といえることが確認できた。
【0037】
さらに、編地の摩耗強力、破裂強力及び抗ピリング性を、前述した手段により測定したところ、それぞれ10000回、315KPa、3級であった。
【0038】
比較のため、酸化チタンを含む溶剤紡糸セルロース繊維に代えて酸化チタンを含まない溶剤紡糸セルロース繊維を用い、さらに、仕上加工において編地に紫外線吸収剤を付与する工程を付加する以外は、上記緯編地と同様にして編地を得た。得られた編地の透け防止効果及び紫外線遮蔽効果を同様にして測定したところ、それぞれ91.2%、91.4%であった。しかしながら、JIS L0217(103法)に基づく洗濯30回後の当該効果については、それぞれ78.3%、79.3%であったことから、洗濯耐久性を具備していないことが確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度0.5〜1.5dtexの溶剤紡糸セルロース繊維を紡績糸全質量に対し60質量%以上含む40〜120番手の紡績糸を用いてなり、該溶剤紡糸セルロース繊維が平均一次粒子径0.1〜1.0mmの酸化チタンを繊維全質量に対し0.5〜1.5質量%含有し、針密度24〜46ゲージで編成されてなることを特徴とする緯編地。
【請求項2】
溶剤紡糸セルロース繊維が、フィブリル化防止加工されていることを特徴とする請求項1記載の緯編地。
【請求項3】
請求項1又は2記載の緯編地を使用してなる肌着。


【公開番号】特開2010−84240(P2010−84240A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251841(P2008−251841)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】