説明

縦型タンクのスレッディング方法

【課題】縦型タンクの液抜き、液入れ、シンクロールの昇降を実施することなく、安価な設備投資で、縦型タンク内に鋼帯を速やかにスレッディングできる方法を提供すること。
【解決手段】連続鋼帯処理設備の縦型タンク5の両側壁に、鋼帯通板時の鋼帯端面と向き合う位置で開口する断面凹状のスリット2を有するスレッディングガイド1を、縦型タンク5の入側上部から出側上部まで連続して設けておき、スレッディングロープ6を接続したスレッディング冶具7の両端部を、縦型タンク5の入側上部および出側上部よりスリット2に挿入し、スレッディング冶具7をスリット2に案内させながら縦型タンク5内に落とし込み、縦型タンク5の入側上部から落とし込んだスレッディング冶具7と縦型タンク5の出側上部から落とし込んだスレッディング冶具7とを磁力により一体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧延鋼板等の鋼帯を連続的に処理する連続鋼帯処理設備に設けられている縦型タンク内に鋼帯を通板させるための縦型タンクのスレッディング方法に関し、より詳細には、連続鋼帯処理設備の立ち上げ時や鋼帯破断時に、連続鋼帯処理設備の縦型タンク内に鋼帯を通板させるための縦型タンクのスレッディング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋼帯処理設備においては、例えば電気メッキ設備の前・後処理工程等で、縦型タンクが用いられている。図4に示す一般的な縦型タンク5の配置のように、縦型タンク5の下部にはシンクロール4が設けられ、縦型タンク5の上方にはデフレクターロール3が設けられている。縦型タンク5は直列に複数並べられ、洗浄・酸洗・めっき・化成処理等の用途に用いられている。通常の電気めっき設備でのシンクロール径はΦ400からΦ500mm程度で、鋼帯9と縦型タンク5との間隙は100から200mm程度である。また、デフレクターロール3はΦ400からΦ600mm程度である。
【0003】
また、縦型タンク5の下部には、タンク内部のメンテナンス用にマンホール8が設けられている。このマンンホール8の位置は、後述する人手による作業が行いやすいように、フロアレベルから1000mm程度の高さレベルに配置される。デフレクターロール3の高さレベルは4000mm程度である。
【0004】
通常の操業では、鋼帯9は、デフレクターロール3とシンクロール4とで交互に向きを変えられ、縦型タンク5内を通過する。縦型タンク5内の処理液は用途に応じ、酸・アルカリ・温水などが適用される。また、縦型タンク5内には必要に応じ、図示しないスプレーノズルや、電解処理のための電極が配置される。
【0005】
このような縦型タンク5への鋼帯9のスレッディング作業は、従来、以下の方法にて実施していた。
1)縦型タンク5内の処理液抜きを行う。
2)縦型タンク5の下部に設けたマンホール8を開ける。
3)人手により、鋼帯9を通板させるためのロープをシンンロール3に沿わせて縦型タンク5内に通す。
4)マンホール8を通して鋼帯9とロープを連結し、鋼帯9をシンクロール3に沿わせて通板する。
5)縦型タンク5の下部のマンホール8を閉じる。
6)縦型タンク5に処理液を入れる。
【0006】
しかし、このような人手によるスレッディング作業には、タンク内の液抜き・液入れ作業が必要で、処理液を無駄に消費してしまうという問題があり、しかもこの液抜き・液入れ作業には10時間程度の時間を要するため、生産効率の低下を招くという問題がある。
【0007】
そこで、縦型タンクのスレッディング作業の省力化をはかるため、シンクロールをデフレクターロールよりも上方まで持ち上げ、鋼帯をデフレクターロールの上面に通板させた後に、シンクロールを縦型タンク内の所定の位置まで下降させて通板することも検討された。
【0008】
シンクロールを昇降させる技術としては、特許文献1に記載されている技術がある。この特許文献1の技術では、縦型タンクの上部に設けた昇降装置にてチエンを介してシンクロールを吊り上げる。シンクロールの回転駆動装置はシンクロールと一体に昇降させる。シンクロール昇降時に、シンクロール軸受部と干渉するタンク側壁には、縦方向の開閉ドアが設けられている。特許文献1では、タンク内にスプレーヘッドも設けられているが、シンクロール昇降時に干渉するため、前記タンク側壁の開閉ドアを開け、タンク外に引き出している。
【0009】
しかし、この特許文献1の技術には以下の問題があり、実際には、ほとんど採用されていない。すなわち、シンクロールを昇降させるためには、シンクロールの回転駆動装置を含めた部位を昇降させる必要があり、その際、干渉するタンク側壁に開閉ドア等の開閉機構を設ける必要がある。さらに、シンクロールには通常の通板時、上向きの力が加わるため、タンク上方からの支持機構が必要であり、シンクロールを昇降させる際には、この支持機構も昇降させる必要がある。したがって、シンクロールを昇降させるには、その昇降駆動装置をはじめとした設備の機構が複雑となり、多大な設備費が必要となる。
【0010】
また、特許文献2には、縦型の鋼帯の貯蔵装置において、鋼帯のスレッディングの作業性を改善する技術が開示されている。この特許文献2の技術では、上下に昇降可能なロールキャリッジの平面形状を、それぞれの上下移動に際しロールキャリジ同士がすれ違い可能な形状としている。そして、鋼帯のスレッディング時には、下キャリッジを鋼帯のパスラインよりも上方に移動し、上キャリッジを鋼帯のパスラインよりも下方に移動させる。
【0011】
しかし、特許文献2の技術は、ロールが非駆動のものに対応するものであり、タンク内に液がある場合に対応するものでもないので、縦型タンクのスレッディングには適用できない。
【特許文献1】特開昭57−123996号公報
【特許文献2】実開平5−70708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、縦型タンクの液抜き、液入れ、シンクロールの昇降を実施することなく、安価な設備投資で、縦型タンク内に鋼帯を速やかにスレッディングできる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る縦型タンクのスレッディング方法は、連続鋼帯処理設備の縦型タンク内に鋼帯を通板させる縦型タンクのスレッディング方法において、縦型タンクの両側壁に、鋼帯通板時の鋼帯端面と向き合う位置で開口する断面凹状のスリットを有するスレッディングガイドを、縦型タンクの入側上部から出側上部まで連続して設けておき、スレッディングロープを接続したスレッディング冶具の両端部を、縦型タンクの入側上部および出側上部より前記スリットに挿入し、前記スレッディング冶具を前記スリットに案内させながら縦型タンク内に落とし込み、縦型タンクの入側上部から落とし込んだスレッディング冶具と縦型タンクの出側上部から落とし込んだスレッディング冶具とを磁力により一体化する、というものである。
【0014】
本発明において、スレッディングガイドは、非磁性の金属材料あるいは樹脂材料で形成することが好ましい。スレッディングガイドの断面形状については、鋼帯通板時の鋼帯端面と向き合う位置で開口する断面凹状のスリットを有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、パイプにスリットを加工したものでも良く、マグネット付きのスレッディング冶具を摺動抵抗が小さい状態でスリットに案内させることができれば良い。そのため、パイプを使用する場合でも、その外径、内径が制限されるものではない。
【0015】
また、スレッディング冶具としては、マグネットを樹脂被覆して構成したものを用いることができる。また、前記スレッディング冶具へ接続するスレッディングロープとしては、鋼帯を牽引するときの張力に耐え得る機械的強度を有していれば良く、例えばステンレス鋼製ワイヤが挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、縦型タンクの両側壁にスレッディングガイドを縦型タンクの入側上部から出側上部まで連続して設け、このスレッディングガイドに鋼帯通板時の鋼帯端面と向き合う位置で開口する断面凹状のスリットを設けておき、鋼帯のスレッディング時に、スレッディングロープを接続したスレッディング冶具の両端部を、縦型タンクの入側上部および出側上部よりスリットに挿入し、スレッディング冶具をスリットに案内させながら縦型タンク内に落とし込むと、縦型タンクの入側上部から落とし込んだスレッディング冶具と縦型タンクの出側上部から落とし込んだスレッディング冶具とが磁力により一体化して、スレッディングロープを縦型タンクのデフレクターロールおよびシンクロールに通すことができる。このため、縦型タンクの液抜き・液入れが不要である。当然、縦型タンク下部のマンホール部での人手による、デフレクターロールから垂らされたスレッディングロープのシンクロール下部での締結作業も不要である。この結果、作業時間が大幅に短縮でき、生産効率が改善できる。
【0017】
また、本発明では、スレッディングガイドを非磁性材料で形成することが好ましいが、例えば、非磁性材料としてオーステナイト系ステンレス鋼材でスレッディングガイドを形成すれば、安価で、磨耗にも強く、加工性も良いものとなる。
【0018】
さらに、本発明では、スレッディング冶具を、マグネットを樹脂被覆して構成し、縦型タンク内の液の種類に応じ、液に侵されない樹脂を選定することで、スレッディング冶具自体の損傷を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明に係る縦型タンクのスレッディング装置の一実施例を示す。図1に示すように、縦型タンク5の両側壁には、スレッディングガイド1が縦型タンク5の入側上部から出側上部まで連続して設けられている。そして、このスレッディングガイド1には、鋼帯通板時の鋼帯端面と向き合う位置で開口する断面凹状のスリット2が設けられている。
【0020】
すなわち、鋼帯が縦型タンク5の入側上部のデフレクターロール3から縦型タンク5下部のシンクロール4まで直進する領域では、スレッディングガイド1も直線状の形状とする。また、鋼帯がシンクロール4により、向きを180度変える領域では、スレッディングガイド1も半円状の形状とする。スレッディングガイド1に設ける断面凹状のスリット2は、スレッディングガイド1が半円状に曲折しても、その開口部が常に鋼帯通板時の鋼帯端面と向き合う位置にあるように設けることはいうまでもない。
【0021】
なお、実施例では、スレッディングガイド1は、オーステナイト系ステンレス鋼材により形成した。
【0022】
以上の構成において、鋼帯のスレッディング時には、図2に示すようにスレッディングロープ6を接続したスレッディング冶具7の両端部を、縦型タンク5の入側上部および出側上部よりスリット2に挿入し、そのままスレッディング冶具7をスリット2に案内させながら落とし込む。
【0023】
そうすると、図3(a)に示すように、縦型タンク5の入側上部から落とし込まれたスレッディング冶具7と出側上部から落とし込まれたスレッディング冶具7とは、シンクロール下部で接触する。
【0024】
実施例では、スレッディング冶具7は、マグネットを樹脂被覆して構成した。マグネットを被覆する樹脂は、縦型タンクが酸洗槽の場合には耐酸性の樹脂を選定する等、縦型タンク内の液の種類に応じて、適切に選定することはいうまでもない。また、スレッディング冶具7は、全体をマグネットとすることもできるし、スレッディング冶具7の一部にマグネットを使用することもできる。また、縦型タンクの入側上部から落とし込むスレッディング冶具7と出側上部から落とし込むスレッディング冶具7の両方、あるいは、いずれか一方のスレッディング冶具7にのみマグネットを使用することもできる。
【0025】
いずれにしても、本発明では、縦型タンクの入側上部から落とし込むスレッディング冶具7と出側上部から落とし込むスレッディング冶具7とが磁力により一体化する。したがって、図3(b)に示すように、スレッディング冶具7同士が一体化した状態で、出側のスレッディングロープ6を縦型タンク外へ引き出すことで、縦型タンクのスレッディングロープのスレッディングは完了する。
【0026】
このあとの作業は、通常のスレッディング作業と同じである。すなわち、スレッディングロープと鋼帯とを接続し、スレッディングロープを引き出すことにより鋼帯のスレッディングができる。また、縦型タンクが複数ある場合は、この作業をタンクの数だけ繰り返すことにより、全ての縦型タンク内へのスレッディングを行うことができる。
【0027】
以上説明したように、本発明では、大掛かりなシンクロール昇降装置などを用いることがなく、縦型タンクに設けるスレッディングガイドとスレッディングロープを接続するスレッディング冶具のみであるので、その設備費は安価で、その作業は容易である。また、スレディング作業前後の液抜き・液入れという煩雑で長い時間を必要とする作業も不要であるため、生産効率の低下も回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る縦型タンクのスレッディング装置の一実施例を示す。
【図2】スレッディングガイドへのスレッディング冶具の挿入状況を模式的に示す。
【図3】スレッディングガイド内でのスレッディング冶具の状況を模式的に示し、(a)はシンクロール下部での接続時の状況、(b)はスレッディングロープ引き上げ時の状況を示す。
【図4】一般的な縦型タンクの配置を示す。
【符号の説明】
【0029】
1 スレッディングガイド
2 スリット
3 デフレクターロール
4 シンクロール
5 縦型タンク
6 スレッディングロープ
7 スレッディング冶具
8 マンホール
9 鋼帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋼帯処理設備の縦型タンク内に鋼帯を通板させる縦型タンクのスレッディング方法において、縦型タンクの両側壁に、鋼帯通板時の鋼帯端面と向き合う位置で開口する断面凹状のスリットを有するスレッディングガイドを、縦型タンクの入側上部から出側上部まで連続して設けておき、スレッディングロープを接続したスレッディング冶具の両端部を、縦型タンクの入側上部および出側上部より前記スリットに挿入し、前記スレッディング冶具を前記スリットに案内させながら縦型タンク内に落とし込み、縦型タンクの入側上部から落とし込んだスレッディング冶具と縦型タンクの出側上部から落とし込んだスレッディング冶具とを磁力により一体化する縦型タンクのスレッディング方法。
【請求項2】
スレッディングガイドが、非磁性の金属材料あるいは樹脂材料で形成されている請求項1に記載の縦型タンクのスレッディング方法。
【請求項3】
スレッディング冶具として、マグネットを樹脂被覆して構成したスレッディング冶具を用いる請求項1または請求項2に記載の縦型タンクのスレッディング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−277658(P2007−277658A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106869(P2006−106869)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】