説明

繊維にカーボン・ナノチューブを浸出するために垂直炉を用いるための方法及び装置

CNT浸出基材を形成するための方法は、触媒ナノ粒子、炭素原料ガス及びキャリアガスをCNT合成温度に晒すこと、CNTを触媒ナノ粒子上に形成させること、触媒ナノ粒子上に形成したCNTを冷却すること、及び、冷却されたCNTをCNT浸出基材形成のために基材表面に晒すことを含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、カーボン・ナノチューブを連続合成するためのシステム、方法及び装置に関する。
【0002】
(関連出願の参照)
本出願は、2009年4月10日出願の米国仮出願第61/168,526号の優先権を主張するものであり、これらの全ては、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
(連邦政府の資金提供による研究開発の記載)
適用なし。
【背景技術】
【0004】
繊維は、例えば、商業航空、レクリエーション、工業及び運輸業等、多種多様な産業において様々な用途に用いられる。カーボン・ナノチューブ(「CNTs」)は、優れた物理的特性を示し、例えば、最強のCNTsは、おおよそ、高炭素鋼の80倍の強度、6倍の剛性(即ち、ヤング率)及び1/6の密度を示す。CNTsは、例えば複合材料等のある繊維性材料に組み込まれた場合に有用である。従って、これら望ましい特性を持つ複合材料の分野でのCNTsの開発には高い関心が寄せられている。
【0005】
複合材料は、巨視的尺度で形態又は組成が異なる2つ以上の構成要素の異種な組み合わせである。複合材料の2つの構成要素としては、強化材と樹脂マトリックスが挙げられる。繊維をベースとした複合材料においては、繊維は強化材の役割を果たす。樹脂マトリックスは、繊維を所望の場所及び方向に保持し、複合材料内で繊維間の負荷伝達媒体としての役割も果たす。これらの非常に優れた機械的特性のために、CNTsは、複合材料において繊維を更に強化するために用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複合材料の持つ繊維特性の利点を実現するため、繊維とマトリックス間の良好な界面が必要とされる。これは、表面コーティング(通常「サイジング(sizing)」と称す)を用いることによって達成される。サイジングは、繊維と樹脂マトリックスとの間に物理−化学的な結合をもたらし、複合材料の機械的及び化学的特性に大きな影響を及ぼす。サイジングは、製造中の繊維に適用される。一般的に、従来のCNT合成は、700℃〜1500℃の範囲の高温を必要とする。しかしながら、従来の処理において、CNT合成に通常必要とされる高温は、多くの繊維やCNTsが形成される繊維上のサイジングに悪影響を及ぼす。例えば、そのような比較的高い温度では、例えば「E‐ガラス」等のガラス繊維の機械的特性は、著しく低下する。その場連続カーボン・ナノチューブ成長処理に用いる場合、E-ガラス繊維は、最大で約50%の強度の低下が見られる。劣化した繊維は張力を受け且つ小径回転において擦り切れたり切断したりするので、このような低下は、伝搬し、プロセスラインの停止という問題を引き起こす。炭素繊維を含んでいるその他の繊維も、同様の問題が見られる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある実施形態では、CNT浸出基材の形成方法は、触媒ナノ粒子、炭素原料ガス及びキャリアガスをCNT合成温度に晒すこと、CNTを前記触媒ナノ粒子上に形成させること、前記CNTを冷却すること、及び、CNT浸出基材を形成するために前記冷却されたCNTを基材表面に晒すこと、を含んで構成される。ある実施形態では、前記基材を、前記CNTに晒す前に官能基化してもよい。また、前記CNT浸出基材も官能基化してもよい。ある実施形態では、前記方法はまた、触媒と溶媒からなる触媒溶液を供給すること、及び前記触媒溶液を霧化して前記触媒ナノ粒子を残すように前記溶剤を蒸発させることを含んで構成される。
【0008】
ある実施形態では、システムは、キャリアガスを供給するキャリアガス供給源と、触媒ナノ粒子を供給する触媒供給源と、炭素原料を供給する炭素原料供給源と、基材を供給する基材供給源と、前記キャリアガス、前記触媒ナノ粒子及び前記炭素原料を受け入れて、前記キャリアガス、前記触媒ナノ粒子及び前記炭素原料をCNT成長ゾーン内へ導入する注入装置、CNTを前記触媒上に合成させて合成CNTを形成させるために、前記CNT成長ゾーン内で前記キャリアガス、前記触媒ナノ粒子及び前記炭素原料をCNT合成温度まで加熱する発熱体、前記合成CNTを受け入れて当該合成CNTを冷却する分散フード、及び前記合成CNTと前記基材とを受け入れてCNT浸出基材を生産するために前記基材を冷却された合成CNTへ晒すCNT浸出チャンバーを含むCNT成長反応器と、を含んで構成される。ある実施形態では基材を官能基化する。
【0009】
ある実施形態では、方法は、触媒ナノ粒子、炭素原料ガス及びキャリアガスを供給すること、前記触媒ナノ粒子、前記炭素原料ガス及び前記キャリアガスをCNT合成温度まで加熱すること、CNTを前記触媒ナノ粒子上に形成させること、前記CNTを冷却すること、基材を供給すること、CNT浸出基材を形成するために前記基材を前記冷却されたCNTに晒すこと、及び、前記CNT浸出基材を含んで構成された複合材料を形成すること、を含んで構成される。ある実施形態では前記基材を官能基化し、ある実施形態では前記複合材料を形成する前にCNT浸出基材を官能基化する。ある実施形態では基材を動的ベースで供給する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のある実施形態によるカーボン・ナノチューブの製造用反応器構造を示す。
【図2】本発明のある実施形態による複合材料で用いるのに好適なCNT浸出基材の供給方法を示す。
【図3】本発明のある実施形態による垂直炉成長チャンバーを用いてその表面上に浸出されたCNTsを有するE‐ガラス繊維を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、概略的には、CNTsの連続合成及び基材上への浸出のためのシステム、方法、装置に関する。特に、本発明は、カーボン・ナノチューブの高温合成と基材への塗布との間の少なくともいくつかの分離を提供する。CNTsが効果的に高温反応器内で合成され、続いて、種々の基材上に浸出されて、カーボン・ナノチューブ浸出(「CNT浸出」)基材が生成される。この処理は、特に、温度感受性基材又は温度感受性サイジングを有する基材と共に用いるのに有益である。基材上のCNTsの配置は、多くの機能(例えば、湿気、酸化、磨耗及び圧縮によるダメージから保護するサイジング剤等を含む)を果たすことができる。また、CNTをベースとしたサイジングは、複合材料の基材とマトリックス材との間の界面としても機能することができる。また、CNTsは、基材を被覆するいくつかのサイジング剤の1つとしても機能することができる。更に、基材上に浸出したCNTsは、基材の種々の特性(例えば、熱的及び/又は電気的な伝導率、及び/又は引張強度等)を変えることが可能である。CNT浸出基材を作るために用いられる処理により、CNTsに略均一な長さ及び分布が与えられて、改質しようとする基材の表面には有用な特性が均一に付与される。更に、本明細書で開示された処理により、巻き取り可能な寸法のCNT浸出基材が生成可能となる。
【0012】
また、本明細書で開示されたシステム及び方法により、種々のサイジングや、一部の従来のカーボン・ナノチューブ合成処理で使われる高い処理温度に耐えられないポリアラミド繊維(例えばケブラー)のような基材を用いることが可能となる。更に、本発明のシステム及び方法により、少なくともひとつにはCNTsが接触し基材上に浸出される際の温度が比較的低温であるために、CNTs浸出複合材料の形成に感温基材を用いることが可能となる。本発明のシステム及び方法のさらなる利点は、CNTsの連続合成が得られ、これにより、CNTsを有する複合材料の大量生成が容易となることである。連続合成処理は、動的基材(例えば、入口を通って反応器に入り、反応器を通過し、反応器の出口から退出する基材)で実施される。
【0013】
本明細書に記載された処理は、巻き取り可能な長さのトウ(tow)、テープ、織物(fabric)及び他の3次元(3D)織物構造物に沿って長さ及び分布が均一なCNTsの連続生産を可能にする。様々なマット、織布、及び不織布等に、本発明の処理によって機能を付与できるが、トウ、ヤーン(yarn)又は同様のものの母材にCNT機能を付与した後に、これら母材から当該高規則構造を生成することも可能である。例えば、CNT浸出の織布(woven fabric)をCNT浸出のトウから作り出すことができる。
【0014】
用語「基材」とは、その上にCNTsを合成できるあらゆる材料を含むことを意味し、これらに限定されないが、例えば、炭素繊維、グラファイト繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、金属繊維(例えば、鋼、アルミニウム等)、セラミック繊維、金属-セラミック繊維、アラミド繊維(例えば、ケブラー)、熱可塑性樹脂、又は、これらの組み合わせを含んで構成されたあらゆる基材である。基材は、繊維トウ(fiber tow)(一般的に、約1000から約12000繊維を有する)に配列される繊維やフィラメントの他に、平面基材(例えば、織物(fabric)、テープ、リボン、グラフェンシート、シリコンウエハ、又は他の幅広繊維商品等)で、その上にCNTsを合成できるものを含む。
【0015】
本明細書で用いられる用語「巻き取り可能な寸法」とは、基材をスプール(spool)又はマンドレルに巻き取っておくことが可能な、長さの限定されない基材の有する少なくも1つの寸法をいう。「巻き取り可能な寸法」の基材は、本明細書に記載されるように、CNT浸出のためのバッチ処理又は連続処理のいずれかの利用に必要な少なくとも1つの寸法を有する。市販の巻き取り可能な寸法の基材の1つの例としては、800テックス(1テックス=1g/1,000m)又は620ヤード/ポンド(Grafil,Inc.,Sacramento,CAから入手できる)のG34‐700 12kの炭素繊維トウ(carbon fiber tow)が挙げられる。特に、工業用の炭素繊維トウは、例えば、5、10、20、50及び100ポンド(高重量、通常3k/12Kのトウを有するスプールとして)のスプールで入手される、より大きなスプールの場合は特別注文を必要とするであろう。
【0016】
本明細書では、用語「カーボン・ナノチューブ」(CNT、複数はCNTs)とは、グラフェン、気相成長炭素繊維、炭素ナノ繊維、単層カーボン・ナノチューブ(SWNTs)、二層カーボン・ナノチューブ(DWNTs)、多層カーボン・ナノチューブ(MWNTs)を含むフラーレン群からなる多数の円筒形状の炭素同素体のあらゆるものをいう。CNTsは、フラーレンのような構造により閉塞されるか、又は両端が開口していてもよい。CNTsには、他の物質を封入するものが含まれる。
【0017】
本明細書で、「長さが均一」という場合、反応装置において成長するCNTsの長さについて言及するものである。「均一な長さ」は、約1ミクロン〜約500ミクロンの種々のCNT長さに関して、CNTsが、CNTの全長の±約20%またはそれ未満の許容誤差を伴う長さを有することを意味する。極めて短い長さ、例えば1〜4ミクロン等では、この誤差は、CNTの全長の±約20%から±約1ミクロンまでの範囲、即ち、CNTの全長の約20%よりも若干大きくなる。
【0018】
本明細書で、「分布が均一」とは、基材におけるCNTの密度が不変であることをいう。「均一な分布」は、基材におけるCNTsの密度が、CNTsにより被覆された基材の表面積の割合として定義される被覆率において±約10%の許容誤差となることを意味する。これは、直径8nmの5層CNTでは、1平方マイクロメートル当たり±1500のCNTsに相当する。このような値ではCNTsの内部空間を充填可能と仮定している。
【0019】
本明細書では、用語「浸出する(infused)」とは、結合されることを意味し、用語「浸出(infusion)」とは結合処理を意味する。このような結合は、直接共有結合、イオン結合、π−π相互作用、及び/又はファンデルワールス力の介在による物理吸着等が含まれる。ある実施形態では、CNTsは、例えば、基材が官能基化された時点で基材に直接結合(例えば、共有的に或いはπ‐π結合を介して)される。結合は間接的でもよく、例えば、CNTsと基材との間に介在されるコーティングを介した基材へのCNT浸出等である。ある実施形態では、CNTsは、あらゆる介在物質及び/又は官能基化なしで基材に間接結合(例えば、物理吸着を介して)される。本明細書に開示されたCNT浸出基材において、CNTは、直接的又は間接的に基材に「浸出」し得る。CNTを基材に浸出させる特有の方法は、「結合モチーフ」と呼ばれる。
【0020】
本明細書では、用語「遷移金属」とは、周期表のd‐ブロックにおけるあらゆる元素又はその合金をいう。また、用語「遷移金属」には、遷移金属元素ベースの塩形態(例えば、酸化物、炭化物、塩化物、塩素酸塩、アセテート、硫化物、硫酸塩、窒化物、硝酸塩等)も含まれる。
【0021】
本明細書では、用語「ナノ粒子」若しくはNP(複数ではNPs)、又はその文法的な同等物とは、NPsは球形である必要はないが、球の等価直径が約0.1から約100ナノメートルの間のサイズの粒子をいう。遷移金属NPsは、特に、反応器内におけるCNT合成のための触媒としての機能を果たす。
【0022】
本明細書では、用語「炭素原料」とは、揮発、噴霧、霧化、又はその他の流体化が可能で、高温で少なくともいくらかの遊離炭素ラジカルに解離又は分解(cracking)が可能で、そして、触媒の存在で、CNTを形成可能な、炭素が合成されたあらゆる気体、固体、又は液体を言う。
【0023】
本明細書では、用語「遊離炭素ラジカル」は、CNTの成長を助長することが可能なあらゆる活性炭素をいう。理論によって限定されるものではないが、遊離炭素ラジカルは、CNTを形成するため又は存在するCNTの長さを伸ばすためのCNT触媒と結合することによってCNTの成長を助長する。
【0024】
本明細書では、用語「サイジング剤(sizing agent)」、「繊維サイジング剤(fiber sizing agent)」又は単に「サイジング(sizing)」とは、基材(例えば、炭素繊維)の製造において基材を完全な状態で保護するための、複合材料における基材とマトリックス材間の界面相互作用を向上させるための、及び/又は、基材の特定の物理的特性を変更及び/又は高めるための、被覆として用いられる材料をいう。ある実施形態では、基材に浸出するCNTsが、サイジング剤として作用することができる。
【0025】
本明細書では、用語「材料滞留時間」とは、巻き取り可能な寸法の基材に沿った個々の位置で、本明細書に記載されるCNT浸出処理の間、反応器内で合成されたCNTsが晒される時間をいう。この定義には、多層CNT成長チャンバーを用いる場合の材料残留時間が含まれる。
【0026】
本明細書では、用語「ラインスピード」とは、本明細書に記載されるCNT浸出処理により、巻き取り可能な寸法の基材を送り込むことができるスピードをいい、この場合、ラインスピードは、CNTの(1つの又は複数の)チャンバー長を材料残留時間で除して算出される速度である。
【0027】
図1は、CNT浸出基材の合成用反応器100の概略図を示す。図1に示されるように、触媒供給源104、炭素原料供給源106及びキャリアガス供給源102が、注入装置108を介してCNT成長ゾーン112の頂部に導入される。発熱体110は、混合物の温度を上昇させるために用いられ、これによってCNTsの形成を促進する。CNTsが成長するとき、それらは、基材118(ある実施形態では官能基化されている)を含んだ浸出チャンバー116に入る前、冷却のために分散フード114を通過する。合成されたCNTsは基材118に浸出してCNT浸出基材を生成した後に、反応器100から排出されて次の処理へ向かう。
【0028】
ある実施形態において、触媒供給源104は、CNTsの合成を開始するために触媒を供給する。そのような触媒は、ナノサイズ粒子触媒の形態をとる。用いられる触媒は、上述したようにあらゆるd-ブロックの遷移金属のナノ粒子であってよい。更に、ナノ粒子(NPs)は、元素形態又は塩形態のd-ブロック金属の合金及び非合金混合物、及びこれらのあらゆる混合物を含む。前記の塩形態には、これらに限定しないが、酸化物、炭化物、塩化物、塩素酸塩、酢酸塩、硫化物、硫酸塩、窒化物、硝酸塩、及びこられの混合物が含まれる。限定されない例示的遷移金属NPsは、Ni,Co,Mo,Cu,Pt,Au、及びこれらの塩を含む。これら遷移金属触媒の多くは、例えば、フェローテックコーポレーション(Bedford,NH)を含む種々のサプライヤーから市販されている。
【0029】
ある実施形態では、触媒は、コロイド溶液や金属塩溶液内にある。他の触媒溶液も用いられる。ある実施形態では、市販のCNT形成遷移金属ナノ粒子触媒を入手し、希釈せずに使用される。他の実施形態では、市販の触媒分散液を希釈する。そのような溶液を希釈するか否かは、反応器内の条件と触媒、キャリアガス及び炭素原料の相対的流速によって決まる。触媒溶液は、触媒溶液中に触媒を均一に分散させる溶媒を含む。そのような溶媒は、これらに限定されないが、水、アセトン、ヘキサン、イソプロピル・アルコール、トルエン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン、或いは、CNT形成触媒ナノ粒子又は塩溶液の適切な分散を作り出すように制御された極性を有するあらゆる他の溶媒を含む。CNT形成触媒の濃度は、触媒溶液中の触媒と溶媒が約1:1から約1:10000の範囲内である。
【0030】
図1に戻って、炭素原料供給源106は、注入装置108を通してCNT成長ゾーン112の頂部と流体連結している。別の実施形態では、炭素原料供給源106とキャリアガス供給源102からのガスは、注入装置108を通してCNT成長ゾーン112に供給される前に混合される。
【0031】
炭素原料は、あらゆる炭素化合物の気体、固体、又は揮発、噴霧、霧化、或いは他の流動が可能な液体であってよく、そして、高温で少なくともいくらかの遊離炭素ラジカルに解離又は分解が可能である。遊離炭素ラジカルは、触媒の存在でCNTsを形成できる。ある実施形態では、炭素原料は、アセチレン、エチレン、メタノール、メタン、プロパン、ベンゼン、天然ガス、或いは、これらの組み合わせを含む。ある例示的な実施形態では、アセチレンを含む炭素原料が、約450℃と約1000℃の間の温度まで加熱されCNT成長ゾーン112に注入される場合、少なくとも一部のアセチレンは、触媒ナノ粒子の存在下で炭素と水素に解離する。CNT成長ゾーンの温度はアセチレンの迅速な解離を促進するが、基材及び/又は存在するあらゆるサイジング物質の物理的及び化学的特性に悪影響を及ぼし得る。基材からCNT成長ゾーン112を離すことによって、CNT形成中及び基材上への次の浸出中は、基材及びあらゆるサイジング物質或いは他のコーティングの完全性が保たれる。
【0032】
例えば、アセチレンのような炭素原料の使用により、酸化物を含む触媒を還元するために利用されるCNT成長ゾーン112内へ水素を導入するという別の処理の必要性が低減される。炭素原料の解離は、触媒粒子を純粋な粒子へ(例えば、純粋な元素形態に)、或いは少なくとも許容範囲の酸化物レベルまで還元する水素を提供できる。理論にとらわれることはないが、触媒として用いられる酸化物の安定性は、触媒粒子の反応性に影響を与えると考えられる。酸化物の安定性が増大すれば、触媒粒子は、一般的に反応し難くなる。より不安定な酸化物或いは純粋な金属への還元(例えば、水素との接触を介して)は、触媒の反応性を増大する。例えば、もし触媒が酸化鉄(例えば、マグネタイト)を含む場合、そのような酸化鉄粒子は、酸化鉄の安定性に起因してCNTsの合成を助長しない。より不安定な酸化状態や純鉄への還元は、触媒粒子の反応性を増大する。アセチレンから出た水素は、触媒粒子から酸化物を除去するか、又は、より不安定な酸化物形態へ酸化物を還元する。
【0033】
キャリアガスは、CNTsの成長に悪影響を及ぼす酸素をCNT成長ゾーン112から除去することに加えて、CNT成長ゾーン112を通る触媒と炭素原料の大きな流れを制御するために用いられる。もし、酸素がCNT成長ゾーン112に存在する場合、炭素原料から生成された炭素ラジカルは、種構造体としての触媒ナノ粒子を用いてCNTを形成する代わりに、酸素と反応して二酸化炭素及び/又は一酸化炭素を形成する傾向がある。更に、酸素の存在下でのCNTの形成は、CNTの酸化分解をもたらす。キャリアガスは、CNT成長プロセスに悪影響を及ぼさないあらゆる不活性ガスを含む。ある実施形態では、キャリアガスは、これらに限定されないが、窒素、ヘリウム、アルゴン、又は、これらの組み合わせを含む。ある実施形態では、キャリアガスは、処理パラメータの制御を可能にするガスを含む。このようなガスは、これらに限定されないが、水蒸気及び/又は水素を含む。ある実施形態では、炭素原料は、混合ガス全体の約0%から約15%の範囲で供給される。
【0034】
図1に示すように、触媒供給源104からの触媒、炭素原料供給源106からのガス及びキャリアガス供給源102からのガスは、注入装置108を介してCNT成長ゾーン112に供給される。注入装置は、ガスと触媒を一緒に又は分離して導入するための1つ以上の装置を含んで構成される。ある実施形態では、注入装置108は、噴霧器を備え、触媒を噴霧形態の触媒溶液として導入する。これは、ネブライザー、噴霧ノズル、或いは他の技術によって達成される。工業用噴霧器又は噴霧ノズル構造は、高圧流体(例えば液体)又はガスアシストノズル構造の使用に基づいている。高圧液体ノズルにおいて、触媒溶液圧は小さいオリフィスを介して流体を加速し、触媒溶液をミクロサイズの飛沫にするノズル通路内側のせん断力を付与するのに用いられる。せん断エネルギは、高圧の触媒溶液によって供給される。ガスアシストノズルの場合、超音波ガスジェット(例えば、炭素原料、キャリアガス、又は、この2つの組み合わせ)によって作り出された慣性力が、噴霧ノズル内部で及び噴霧ノズルを出るときに触媒溶液をせん断し、触媒溶液をミクロサイズの飛沫にする。
【0035】
ある実施形態では、触媒溶液はネブライザーを通過し、霧化形態の触媒溶液となる。ネブライザーは、触媒溶液の入った容器を通過した高圧ガス(例えば、炭素原料、キャリアガス、又は、この2つの組み合わせ)を導入することによって動作する。溶液を通過するガスの作用により、触媒溶液の一部を取り込み、霧状のキャリア溶液を生成する。もう1つの方法としては、高周波で振動しキャリア溶液と接触する膜を用いて霧状の触媒溶液を生成する。その後、ガスは霧状の触媒溶液を通り抜け、注入装置108を介して霧状の触媒溶液をCNT成長ゾーン112へと運ぶ。
【0036】
ガスが、霧状の触媒溶液を生成するために注入装置108と連結して用いられるある実施形態では、前記ガスは、キャリアガス、炭素原料、又はこれらのあらゆる混合物を含む。ある実施形態では、高圧液体ノズルが触媒溶液の霧化に用いられ、キャリアガスと炭素原料は触媒溶液から分離し、個々に又は混合された混合ガスとして、注入装置108を介して導入される。触媒溶液が注入装置108を通過すると、触媒溶液は蒸発し触媒ナノ粒子が残る。これは、溶媒の液体部分が触媒ナノ粒子を残して蒸発するように触媒がコロイド溶液内に存在するか、又は溶媒の蒸発が触媒ナノ粒子の結晶化をもたらすように触媒が溶媒に溶解された塩であるためである。
【0037】
図1に示すように、発熱体110が、CNT成長ゾーン112に入る成分の温度を上げるために用いられ、これによってCNTの形成が促進される。ある実施形態では、発熱体は、適切な反応温度まで、CNT成長ゾーン、触媒ナノ粒子、炭素原料、或いは、これらのあらゆる複合生成物の温度を上昇させることのできるあらゆるタイプの発熱体を含む。ある実施形態では、発熱体110は、CNT成長ゾーン内に所望の温度及び/又は所望の温度プロフィルを生み出せる複数の個別の発熱体を含んで構成される。ある実施形態では、発熱体110は、これらに限定されないが、成長ゾーンに隣接して又は成長ゾーン内に配置された赤外線ヒータ又は抵抗ヒータを含む。発熱体110は、触媒及びガスを、一般的には約450℃から約1000℃であるCNT合成温度まで加熱する。これらの温度で、少なくとも一部の炭素原料は、少なくともいくつかの遊離炭素ラジカルに解離又は分離(crack)する。その結果、触媒ナノ粒子が、遊離炭素ラジカルと反応してCNTsを合成する。ある実施形態では、水素もまた炭素原料の解離で生成され、触媒を純金属粒子に還元する。
【0038】
炭素原料、キャリアガス及び触媒粒子が、CNT成長ゾーン112内で加熱されると、これらがCNT成長ゾーン112を通過するときに、CNTが触媒上で合成される。合成されたCNTは、その凝集体と1つ以上の触媒粒子を含む。CNTの長さは、これらに限定されないが、炭素原料の濃度と温度、触媒組成、キャリアガス流量、及び、CNT成長ゾーン長さ及びガス流特性(例えば、速度等)の関数である、CNT成長ゾーンにおける触媒粒子と合成CNTの滞留時間等、いくつかの要因の影響を受ける。
【0039】
ある実施形態では、発熱体110及び/又はCNT成長ゾーン112の一部或いは全ての部品は、金属製である(例えば、ステンレス鋼、高ニッケル鋼合金等)。金属、特にステンレス鋼の使用は、炭素の堆積(即ち、煤及び副生成物形成)をもたらす。炭素が装置壁面に単分子層堆積すると、炭素は直ちにその上に堆積するようになる。ある実施形態では、金属を、炭素の堆積を防止或いは抑制するためにコーティングする。適切なコーティングは、これらに限定されないが、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、及び、これらのあらゆる組み合わせを含む。炭素の堆積が生じた場合、あらゆる炭素の堆積がガス、触媒粒子、CNTs、又はこれらのあらゆる組み合わせの流れを妨げるのを防ぐために、定期的なクリーニングとメンテナンスが用いられる。
【0040】
図1に示すように、CNTsは、CNT成長ゾーン112から排出された後に分散フード114へと移動するが、そこで、合成されたCNTは、基材118が入っている浸出チャンバー116に入る前に冷却される。分散フード114により、緩衝領域が提供され、そこで、混合ガス(例えばあらゆる残留炭素原料、解離性生物及び/又はキャリアガス)と合成CNTが基材に到達する前に冷却される。ある実施形態では、分散フードは、例えば分散フードの外側を冷却するか、さもなければ合成CNTsを含む混合ガスから熱を取り除くための熱伝達配置等の1つ以上の冷却装置を含んで構成される。ある実施形態では、分散フードは、合成CNTsの温度が約25℃から約450℃の範囲の温度に低下するように設計される。反応器構造によって、基材はCNT合成に必要とされる高温に晒されないで済む。その結果として、温度感受性基材を用いる実施形態では、基材の劣化及び/又はこれがなければ基材特性が損なわれてしまうサイジングの除去を回避できる。
【0041】
図1に示すように、合成CNTsは、反応器100から排出され次のプロセスへ向かう前に、CNT浸出基材を生成するために基材118に浸出する。基材は、基材として用いるのに適切な上記に記載されたあらゆる材料を含み得る。ある実施形態では、基材は、サイジング物質でコーティングされたE‐ガラス繊維を含む。他の実施形態では、基材は、安価なガラス繊維や炭素繊維等のその他の繊維を含む。更に別の実施形態では、基材は、ケブラー等のアラミド繊維であってよい。繊維は、「トウ(tow)」として知られる束にして供給される。トウは、約1000から約12000のフィラメント繊維を有する。ある実施形態では、フィラメント繊維は約10ミクロンの直径を有するが、他の直径を有するフィラメント繊維を使用することは可能である。繊維は、例えば、炭素ヤーン、炭素テープ、一方向炭素テープ、炭素繊維紐、炭素織物、不織布炭素繊維マット、炭素繊維プライ(ply)、3次元織布構造体等も含む。
【0042】
ある実施形態では、基材はサイジング剤で被覆される。サイジング剤は、種類や機能が多岐にわたっており、これらに限定されるものではないが、界面活性剤、静電気防止剤、潤滑剤、シロキサン、アルコキシシラン、アミノシラン、シラン、シラノール、ポリビニルアルコール、スターチ(starch)及び、これらの混合物を含む。そのようなサイジング剤は、CNTsそれ自体を保護するか、又は浸出したCNTsの存在では与えられない付加的な特性を繊維に提供するのに用いられる。ある実施形態では、あらゆるサイジング剤は基材が反応器100に入る前に除去される。ある実施形態では、例えば、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、シラン、シロキサン等のコーティング、又はその他のタイプのコーティングは、基材へのCNTsの結合を助けるために基材上にコーティングされる。理論によって制限されるものではないが、このタイプのコーティングで基材にCNTsを結合することは、より機械的であり、物理吸着的及び/又は機械的連結に依存すると思われる。
【0043】
ある実施形態では、基材は、基材への合成CNTsの浸出を促進するために官能基化される。官能基化は、通常、基材表面で極性官能基の創造を伴う。適切な官能基は、これらに限定されないが、アミン基、カルボニル基、カルボキシル基、フッ素含有基、シラン基、シロキサン基、及び、これらのあらゆる組み合わせを含む。極性基は、極性基とCNTs内の炭素原子との相互作用を介して基材への合成CNTsの浸出において生じる。基材は、当業者には周知のあらゆる技術を用いて官能基化される。適切な技術は、これらに限定されないが、スパッタリング、プラズマ官能基化、及び、基材を1つ以上の化学溶液に通すことを含む。
【0044】
図1に示すように、反応器100から排出され次の処理へ向かう前に、CNTsは、CNTs浸出基材を生成するために基材118に浸出する。図1中、矢印で示されるように、基材118は、動的ベースで反応器100に供給される。理論によって限定されるものではないが、合成CNTsはCNT壁に沿う不規則性による炭素ラジカル(例えば、ぶら下がった炭素)又はCNT合成処理中に閉塞されないCNT終端での炭素ラジカルを1つ以上含んでいると考えられる。ある実施形態では、これらのラジカルは、官能基化された基材との結合を形成する。ラジカルが合成CNTsの終端に存在すると、その結果として生じる浸出基材は、基材表面にそれらの終端で結合された合成CNTsを有し、これによって、基材表面で櫛状模様を作り出す。ある実施形態では、そのラジカルは、CNTs壁に沿って存在し、その壁に沿ってその位置で基材と結合する。ある実施形態では、合成CNTsは、共有結合より弱い結合力によって基材の表面に浸出される。従って、種々の結合モチーフもまた可能であり、これによって種々のCNT浸出基材構造がもたらされる。その後、その結果生じた浸出基材は、次の処理のために反応器100から排出される。
【0045】
CNT浸出基材は、炭素フィラメント、炭素繊維ヤーン、炭素繊維トウ、炭素テープ、炭素繊維紐、炭素織物、不織布炭素繊維マット、炭素繊維プライ(ply)、及び、3次元織布構造体等の基材を含む。前記フィラメントは、約1ミクロンから約100ミクロンの間の範囲の直径を有する高アスペクト比の繊維を含む。繊維トウは、一般的に、密に結合したフィラメントの束であり、通常、撚り合わされてヤーンとなっている。
【0046】
当業者なら、1つ以上のコントローラによって、基材供給速度、キャリアガスの流量と圧力、触媒の流量と圧力、炭素原料の流量と圧力、発熱体、及びCNT成長ゾーン内の温度の1つ以上を含むシステムパラメータを独立して感知、監視、或いは制御するのに適したコントローラシステムが形成されることを認識するだろう。当業者であれば理解することだが、このようなコントローラシステムは、パラメータデータを受信し、制御パラメータ又は手動制御装置の種々の自動調整を行う、一体化され、自動化された電子システム制御装置である。
【0047】
ある実施形態では、カーボン・ナノチューブを官能基化するための後官能基化処理は、樹脂マトリックスへのカーボン・ナノチューブの接着を促進するために行われる。官能基化は、一般的に、CNT表面における極性官能基の創造を伴う。適切な官能基は、これらに限定されないが、アミン基、カルボニル基、カルボキシル基、フッ素含有基、シラン基、シロキサン基、及び、これらのあらゆる組み合わせを含む。適切な技術は、これらに限定されないが、スパッタリング、プラズマ官能基化、及び、基材を1つ以上の適切な化学溶液に通すこと等を含む。
【0048】
図1は、一般的に垂直反応器構造を示すが、反応器システムは、図1に示す構造に限定されない。ある実施形態では、CNT成長ゾーンを備える反応器は、非垂直構造であってもよい。触媒粒子が霧化されると、CNT成長ゾーンを通るガス流は、一般的に、大きなガス流と一緒に触媒粒子とあらゆる合成CNTを同伴する。ある実施形態では、触媒粒子は、CNT成長ゾーンの外側にある分散フードへ向かう前に、通常、水平方向にCNT成長ゾーンを通過する。このようにして、反応器の方向は、変えることができる。
【0049】
図2は、CNT合成方法のフローチャートを示す。ある実施形態において、ステップ202で、霧化した触媒溶液を供給し、ステップ204で、炭素原料ガスを供給し、ステップ206で、キャリアガスを供給する。ある実施形態において、触媒溶液、炭素原料及び/又はキャリアガスは、溶液の霧化及び加熱の前に混合される。その後、ステップ208で、触媒溶液、炭素原料ガス及びキャリアガスをCNT合成温度まで加熱する。前記CNT合成温度は、約450℃から約1000度の範囲である。混合物は、所望の長さと大きさのCNTを合成するのに十分な時間、CNT合成温度でCNT成長ゾーン内に保持される。その後、合成CNTはキャリアガスと共に進み、ステップ210で、冷却される。混合物は、約25℃から約450℃の範囲の温度まで冷えるように例えば分散フード等の装置を通過する。前記冷却により、温度感受性基材の劣化及び/又はこれがなければ基材特性が損なわれるサイジングの除去が回避される。その後、合成CNTは、基材に晒される。
【0050】
図2に示すように、ステップ211で、合成CNTに晒す前に基材を選択的に官能基化してもよい。CNT成長反応器に導入された後、ステップ212で、基材は冷却ゾーンを通過する合成CNTに晒される。ある実施形態において、基材は動的ベースで導入される。合成CNTは、CNT浸出基材を生成するために基材と結合する。その後、CNT浸出基材は、次の使用又は処理のために反応器から排出される。ある実施形態において、CNT浸出基材を、樹脂マトリックスとCNT浸出基材の接着性を改善するために選択的に官能基化してもよい。
【0051】
本明細書で記載されたCNT合成処理及びシステムは、基材上にCNTsが均一に分散されたCNT浸出基材を提供する。例えば、図3は、本発明のいくつかの実施形態による垂直炉成長チャンバーを用いてその表面上にCNTsが浸出されたE‐ガラス繊維を示す。高密度・短尺CNTsは、機械的特性を改善するのに有用である一方、低密度。・長尺CNTは、熱的及び電気的特性を改善するのに有用であるが、密度の増加は依然好ましいものである。低密度は、より長いCNTsが成長した場合に生じる。これは、より高温で高速な成長により触媒粒子収率が低下したためである。
【0052】
ある実施形態では、CNT浸出基材は、複合材料を形成するのに有効である。このような複合材料は、マトリックス材を含んで構成されたCNT浸出基材で複合材料を形成する。本発明で有用なマトリックス材は、これらに限定されないが、熱硬化性と熱可塑性の両樹脂(ポリマー)、金属、セラミック及びセメントを含む。マトリックス材として有効な熱硬化性樹脂は、フタル酸/マレイン酸型のポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール類、シアン酸塩、ビスマレイミド、及びナディック・エンド・キャップド・ポリイミド(nadic end−capped polyimides)(例えば、PMR‐15)が含まれる。熱可塑性樹脂には、ポリスルホン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレン酸化物、ポリ硫化物、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、及び液晶ポリエステルが含まれる。マトリックス材として有効な金属には、例えば、アルミニウム6061、アルミニウム2024、及び713アルミニウム・ブレーズ(aluminium braze)等のアルミニウム合金が含まれる。マトリックス材として有効なセラミックには、炭素セラミック(例えば、リチウムアルミノケイ酸塩等)、酸化物(例えば、アルミナやムライト等)、窒化物(例えば、窒化ケイ素等)、及び炭化物(例えば、炭化ケイ素等)が含まれる。マトリックス材として有効なセメントには、炭化物ベースのセメント(炭化タングステン、炭化クロム及び炭化チタン)、耐火セメント(タングステントリア(tungsten‐thoria)及び炭酸バリウム−ニッケル(barium‐carbonate‐nickel))、クロム−アルミニウム、ニッケル−マグネシア、及び鉄−炭化ジルコニウムが含まれる。前述のマトリックス材のいかなるものも、単独で、又は組み合わせて用いることができる。
【0053】
実施例1
この実施例は、どのようにして、炭素繊維材が、垂直炉の実施形態を用いた連続処理においてCNTsを浸出するのかを示す。
【0054】
図1は、本発明の具体例によるCNT浸出繊維の製造システム100を示す。システム100は、触媒供給源104、炭素原料供給源106及びキャリアガス供給源102、CNT成長ゾーン112、ガス/蒸気注入装置108、発熱体110、分散フード114、浸出チャンバー116、プラズマシステム(図示せず)及び炭素繊維基材118を含む。
【0055】
キャリアガス供給源102は、約60リットル/分の流速で窒素ガス流を供給し、前記窒素ガスは、約1.2リットル/分の流速で供給される炭素原料供給源106からのアセチレンガスと混合する。窒素/アセチレン混合ガスを、ネブライザー噴霧システムにおいて噴霧ガスとして用い、イソプロピル・アルコール中の1%の酢酸鉄溶液が入ったガス/蒸気注入装置108を触媒供給源104として用いる。
【0056】
霧化された触媒/キャリア/原料の混合ガスを、直径約2.5cm、長さ92cmのCNT成長ゾーン112に導入する。CNT成長ゾーン112を、2つの独立に制御される発熱体110で加熱する。前記発熱体は、一方が他方の上部に積み重ねられており、それぞれの長さは約46cmである。第1発熱体は、CNT成長温度までガス/蒸気の混合物の予熱に用いられる。第2発熱体は、適当な長さのCNTにとって必要な成長滞留時間の間、成長温度を維持するために用いられる。この実施例では、ガス/蒸気の滞留時間は、約30秒であり、これにより約20ミクロンの均一なCNT長さが可能となる。
【0057】
ゾーンの大きさが約2.5cmから約2.5×7.5cmの矩形断面に増大する分散フード114へ、気相CNTsは重力アシストされる。分散フードは、CNT浸出チャンバー116内でフードの下を通過する繊維へ、より均一に塗布されるように落下する気相CNTsを散開する。
【0058】
気相CNTsの生成中、炭素繊維基材118を、制御された酸素処理が繊維表面を官能基化するのに用いられるプラズマシステムに晒す。アルゴンをベースとするプラズマを、炭素繊維基材118の表面にカルボニルとカルボキシルの両官能基を付けるために約1体積%の酸素混合物と一緒に用いる。
【0059】
官能基化された炭素繊維基材118は、気相CNTsが分散フード114を通過して炭素繊維表面に塗布されるCNT成長チャンバー116を通って引き抜かれる。カルボニルとカルボキシルの両官能基は、CNT終端或いはCNT壁上の不規則部分にぶら下がった炭素の紐が結合点を提供するCNTs浸出点として機能する。繊維は、約150cm/分のラインスピードで浸出チャンバーを通って引き抜かれる。ラインスピードを変えることによって、CNT浸出密度が制御される。本実施例で述べた速度では、約2000から約4000CNT/μm2の間の密度を達成する。
【0060】
CNT浸出炭素繊維は、CNT成長チャンバー116から排出され、梱包用及び保管用のスプールに巻かれる。さらなる官能基化ステップが、マトリックス界面特性についての今後のCNTを向上するためにCNT浸出処理後に発生するが、これは本実施例の範囲を超えるものである。
【0061】
当然のことながら、前述の実施形態は単に本発明の具体例にすぎず、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱しない限りは、前述の実施形態の多くの変形例を考え出すことができる。例えば、本明細書において、数々の具体的詳細が、本発明の例示の実施形態の説明及び理解を完全にするために提供されている。しかしながら、当業者であれば、本発明の1以上の詳細がなくても、又は他の処理、材料、構成要素等を用いて本発明を実施でき得ることを認識するであろう。
【0062】
また、場合によっては、例示的な実施形態が分かり難くなることを避けるため、周知の構造、材料、又は工程を図示しないか、又は詳細に説明しない。当然のことながら図面に図示された様々な実施形態は例示であり、必ずしも一定の縮尺で描かれたものではない。本明細書全体にわたって「一実施形態」又は「1つの実施形態」又は「ある実施形態(実施形態の中には)」についての言及は、特定の機能、構造、材料、又は(複数の)実施形態と関連して記載した特徴は、本発明の少なくとも1つの実施形態には含まれるが、必ずしも全ての実施形態に含まれるものではない、ということを意味する。従って、本明細書の全体にわたって様々な箇所で見られる表現「1つの実施形態において」、「一実施形態において」又は「ある実施形態において」は、必ずしも全て同じ実施形態について言及しているものものとは限らない。更に、特定の機能、構造、材料、又は特徴は、1以上の実施形態においてあらゆる適切な方法により組み合わせることができる。従って、このような変形は、以下の特許請求の範囲及びその同等物の範囲内に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒ナノ粒子、炭素原料ガス及びキャリアガスをCNT合成温度に晒すこと、
CNTを前記触媒ナノ粒子上に形成させること、
前記CNTを冷却すること、
及び、CNT浸出基材を形成するために前記冷却されたCNTを基材表面に晒すこと、
を含んで構成された方法。
【請求項2】
前記基材を前記CNTに晒す前に、当該基材を官能基化することを更に含んで構成された請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CNT浸出基材を官能基化することを更に含んで構成された請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基材を、アミン基、カルボニル基、カルボキシル基、フッ素含有基、シラン基、シロキサン基、及び、これらのあらゆる組み合わせからなるグループから選択された官能基を添加することによって官能基化する請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記基材が、炭素繊維、グラファイト繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、金属‐セラミック繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、及びこれらのあらゆる組み合わせからなるグループから選択された少なくとも1つの材料を更に含んで構成された請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記CNT合成温度が、約450℃から約1000℃の範囲の温度である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記CNTを、約25℃から約450℃の範囲の温度に冷却する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
触媒と溶媒を含む触媒溶液を供給すること、及び、
前記触媒溶液を霧化して前記触媒ナノ粒子を残すように前記溶剤を蒸発させること、
を更に含んで構成された請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記触媒ナノ粒子が、d-ブロックの遷移金属を含んで構成された請求項1に記載の方法。
【請求項10】
キャリアガスを供給するキャリアガス供給源と、
触媒ナノ粒子を供給する触媒供給源と、
炭素原料を供給する炭素原料供給源と、
基材を供給する基材供給源と、
前記キャリアガス、前記触媒ナノ粒子及び前記炭素原料を受け入れて前記キャリアガス、前記触媒ナノ粒子及び前記炭素原料をCNT成長ゾーン内へ導入する注入装置、CNTを前記触媒上に合成させて合成CNTを形成させるために前記CNT成長ゾーン内で前記キャリアガス、前記触媒ナノ粒子及び前記炭素原料をCNT合成温度まで加熱する発熱体、前記合成CNTを受け入れて当該合成CNTを冷却する分散フード、及び、前記合成CNTと前記基材を受け入れてCNT浸出基材を生産するために前記基材を冷却された合成CNTへ晒すCNT浸出チャンバーを含んで構成されたCNT成長反応器と、
を含んで構成されたシステム。
【請求項11】
前記基材を、官能基化する請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記基材が、炭素繊維、グラファイト繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、金属‐セラミック繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、及びこれらのあらゆる組み合わせからなるグループから選択された少なくとも1つの材料を含んで構成された請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記CNT合成温度が、約450℃から約1000℃の範囲の温度である請求項10に記載のシステム。
【請求項14】
前記分散フードは、前記合成CNTを約25℃から約450℃の範囲の温度に冷却する請求項10に記載のシステム。
【請求項15】
前記炭素原料が、アセチレン、エチレン、メタノール、メタン、プロパン、ベンゼン、天然ガス、及びこれらのあらゆる組み合わせからなるグループから選択された少なくとも1つの化合物を含んで構成された請求項10に記載のシステム。
【請求項16】
触媒ナノ粒子、炭素原料ガス及びキャリアガスを供給すること、
前記触媒ナノ粒子、前記炭素原料ガス及び前記キャリアガスをCNT合成温度まで加熱すること、
CNTを前記触媒ナノ粒子上に形成させること、
前記CNTを冷却すること、
基材を供給すること、
CNT浸出基材を形成するために前記基材を前記冷却されたCNTに晒すこと、及び
前記CNT浸出基材を含んで構成された複合材料を形成すること、
を含んで構成された方法。
【請求項17】
前記基材を、官能基化する請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記複合材料を形成する前に前記CNT浸出基材を官能基化することを更に含んで構成された請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記基材を、動的ベースで供給する請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記複合材料がマトリックス材を更に含んで構成され、前記マトリックス材が、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、金属、セラミック、セメント、及び、これらのあらゆる組み合わせからなるグループから選択された少なくとも1つの材料を含んで構成された請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−523368(P2012−523368A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504905(P2012−504905)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/030621
【国際公開番号】WO2010/118381
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】