説明

繊維シートを接合主材として用いた建築部材の接合構造

この建築部材の接合構造は、基礎(1)、土台(2)、柱(3)、横架材(5)等の建築物の躯体を構成する建築部材同士の接合部を介して建築部材の表面に接着剤を塗布し、接着剤を塗布した接着面に靭性に優れた高引張強度を有する繊維をシート状に形成した繊維シート(4)を接合主材として貼り付け、その後、この繊維シート4)の表面に接着剤を塗布することにより、繊維シート(4)に接着剤を確実に含浸させて、建築部材と確実に一体化させて接着接合・補強する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、木造建築物の躯体を構成する各建築部材同士を繊維シートを接合主材として用いて接着接合・補強する、建築部材の接合構造に関する。
本願は、2003年12月12日に出願された実願2003−273087号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
地震等による建築物の倒壊は、建築物の躯体を構成する建築部材自体あるいは建築部材同士の接合部が破損することにより生じており、特に、既存の木造建築物の耐震・耐風性能の改善が大きな社会的な問題となっている。
このため、近年では、大震災以来、主要の建築部材同士を耐震用の特殊な引張金具を用いて接合することが義務付けられている。特に、住宅の新築においては、耐震・耐風性といった性能が要求されているため、柱の径を太くしたり、エンジニアードウッドなどの強度の高い部材を用いたり、耐震性を高めるために特殊な引張金具を用いたり、面剛性を高める厚手の構造用合板を用い、壁・床・屋根などの全体の強度を高めることが行われている。
しかしながら、上記のような接合構造にあっては、その接合に用いられる特殊な引張金具が大型かつ複雑なものであるため、その取り付け施工作業に多大な労力を要するという問題があり、特に、既存の建築物への取り付けには、例えば、間柱や枠部材、建材、下地材などと補強金具との取り合いに注意を払わなければならなかった。しかも、金具と木材及び基礎コンクリートとの取り合いにおいては、金具の取り付け方法が複雑化し、既存建築物においては施工できない場合も生じ、さらに施工工事に時間及び労力を要しコストアップを招いていた。
さらに、新築の建築物に用いられた接合金具は、建築部材のやせによりゆるみが生じ、過大な応力による木材の割裂破壊により、接合耐力が急激に低下してしまうという問題があった。また、金具を設置するために新たに木材の断面欠損が生じ、耐力低下、そして、増改築の場合、既存部分の腐れからくる耐力低下があり、このような金具では、接合の用をなさないなどの問題があった。
しかも、この種の接合金具の場合、塩害等によって腐食するという問題も有しており、さらにヒートブリッジによる壁内結露の発生で、木部の腐れおよび断熱材の性能低下や、断熱欠損も生じている。
ここで、建築物の建築部材に繊維を接着して接合する技術が考えられつつあるが、単に繊維を切り込みを入れ折り曲げて張着して貼り付けただけでは繊維の特性である引張強度、靱性を十分に生かすことができず、信頼性の高い接合を行うことが困難であった。
従来の繊維補強技術として、公共物の道路、鉄道の高架橋柱、鉄筋コンクリート造建物の柱、梁、スラブ、壁、トンネル内壁などの補強鉄筋(帯筋やスラブ補助筋など)の補強材として繊維が耐震補強工事に積極的に利用されているが、木質系建築物への利用には至っていないのが現状である。
この発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維などの高引張強度繊維をシート状に形成した繊維からなる補強材の特性を生かして、引張接合金具に代えて、接合の主材として接着剤とともに用い、平面的施工により極めて容易にかつ低コストにて接着接合・補強を施すことができる信頼性に優れた建築部材の接合構造を提供することを目的としている。
【発明の開示】
本発明は、木造建築物の躯体を構成する建築部材同士を接合する建築部材の接合構造であって、前記建築部材の表面に、接合部を跨いで、高引張強度を有する繊維をシート状に形成した繊維シートが、接着剤とともに接合の主材として接着接合・補強され、さらに、前記繊維シートの表面に接着剤が上塗りされている建築部材の接合構造を提供する。
本発明の建築部材の接合構造によれば、基礎、土台、柱、横架材、根太、下枠、たて枠、上枠、頭つなぎ、まぐさ、たる木などの構造躯体や構造用合板等による建築物の躯体を構成する建築部材同士の接合部を跨いで建築部材の表面に、単に引張強度が高いだけでなく靱性に優れたアラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維などからなる繊維シートが接着剤によって貼り付けられ、金具に代わる接合主材として用いることで、これら建築部材同士の接合部を、高強度にかつ柔軟に接合してさらに補強することができる。これにより、低コストにて地震時に互いの建築部材同士が外れるようなことがなく、耐震性に優れた構造とすることができる。
ここで、基礎を含めた構造躯体同士の接合部表面への繊維シートの接着接合・補強の他に、基礎を除く構造躯体の外側に構造用合板等を設ける場合、床・壁・屋根の構造用合板等を施工した後に、その表面上より繊維シートを接着接合・補強することができることは勿論のことである。
また、建築部材に貼り付けられた繊維シートの表面に、接着剤が上塗りされているので、単に接着させただけの補強構造と比較して、繊維シートと建築部材との接着強度が大幅に向上されて一体化が図られ、高強度な接着接合・補強とされる。
本発明の建築部材の接合構造は、前記繊維シートが、複数の接合部に跨って接着されて貼り付けられることが望ましい。これによれば、複数の接合部に跨って繊維シートが接着されているので、複数の建築部材同士の接合部を一括して繊維シートによって接着接合・補強することができる。
本発明の建築部材の接合構造は、前記繊維シートが、前記接合部の複数面に接着されて貼り付けられることが望ましい。これによれば、接合部の複数面に繊維シートが接着接合されて固定されているので、接合部における接合および引張強度をさらに高めることができ、接着接合・補強の信頼性を大幅に向上させることができる。
本発明の建築部材の接合構造は、一枚の前記繊維シートが、一方の建築部材の外周へ巻き付けられて、接合部の両面に接着されて貼り付けられることが望ましい。これによれば、接合部の表裏に接着された一枚の繊維シートが一方の建築部材に巻き付けられているので、建築部材同士の接合部における抜け出しが確実に防止されて、接合部においてさらに接着接合・補強の信頼性を高めることができる。
本発明の建築部材の接合構造は、一枚の前記繊維シートが、接合部における互いに隣接した面にわたって接着されて貼り付けられることが望ましい。これによれば、接合部の角部等の互いに隣接する面に一枚の繊維シートが接着されて貼り付けられているので、建築部材同士の接合部における接合および引張強度をさらに高めることができ、接着接合・補強の信頼性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する接合部の斜視図である。
図2は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図3は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図4は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図5は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図6は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図7は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図8は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図9は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図10は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図11は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図12は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図13は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図14は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図15は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図16は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図17は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図18は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図19は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図20は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図21は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図22は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図23は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図24は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図25は、本発明の実施の形態の建築部材の接合構造を説明する他の接合部の斜視図である。
図26は、本発明の施工実施に用いるセット商品を説明する姿図である。
図27は、本発明の施工実施に用いるセット商品の内容を説明する姿図である。
図28は、本発明の施工実施に用いるセット商品の接着剤を説明する拡大姿図である。
図29は、本発明の施工実施に用いるセット商品での施工手順概要を説明する姿図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例について説明する。ただし、本発明は以下の各実施例に限定されるものではなく、例えばこれら実施例の構成要素同士を適宜組み合わせてもよい。
図1において、符号1は、布基礎(基礎)であり、この布基礎1には、その上面に、土台2が固定され、さらに、この土台2の上面に、柱3が立設されている。
そして、この土台2と柱3との接合部には、面一とされた表裏の面の一方に接着剤によって繊維シート4が接着されて貼り付けられて接合している。この場合、土台2と柱3との接合を示しているが、基礎1も含めて接着接合・補強することができるのは勿論である。
この繊維シート4は、例えば、アラミド繊維、炭素繊維あるいはガラス繊維等の高引張強度を有するとともに靱性に優れた繊維をシート状に形成したもので、土台2側及び柱3側に、それぞれ所定寸法(約100mm〜200mm位)以上の長さ寸法分貼り付けられて接合している。
また、接着剤によって接着された繊維シート4には、その表面に、接着剤が上塗りされている。
次に、この接合構造を施工する場合で、この接合構造を直ちに現場に採用してもらうため、あらかじめ施工部位の長さに適合するそれぞれのカット繊維シートや接着剤入りパック、施工用具(ローラやゴムへら、ポリエチレン手袋、ワイヤーブラシなど)を一箱に収納(図26)し、セット商品(図27)にしたものを現場で用いる場合について説明する。
ここで用いる接着剤(図28)は、例えばエポキシ系接着剤等のように、二種類の溶剤同士が混合されることにより硬化を開始する、二液性の接着剤を用いることが好ましい。具体的には、例えばポリエチレンやビニール等の柔軟な合成樹脂からなり、収容部を分割できるクリップを有するパック状の接着剤収容袋を用いることが好ましい。すなわち、クリップによって2つに分割された収容部の各々に適量の溶剤(主剤と硬化剤)を収容し、施工手順(図29)に従ってクリップを外して互いの収容部を連通させて溶剤同士を混合し、硬化を開始させる。そして、この接着剤収容袋から混合させた接着剤を絞り出し、柱3及び土台2の繊維シート4を貼り付ける接着面に満遍なく接着剤を塗布し、その後、ローラやゴムへらなどを用いて接着剤をのばして平滑にする。
このように、接着面に接着剤を十分に塗布したら、この接着剤が塗布された接着面に、繊維シート4を、柱3及び土台2のそれぞれの建築部材に、所定寸法以上の長さ寸法分が重なるように貼り付けて、繊維シート4に接着剤を含浸させ、その後、さらに、この繊維シート4の表面に接着剤を上塗りする。
そして、このように、接着剤によって繊維シート4を貼り付けることにより、土台2と柱3との接合部分が靱性に優れた繊維シート4によって極めて高強度かつ柔軟に接合されるとともに補強される。
なお、上記の例では、土台2と柱3との接合部における一方側の面だけに繊維シート4を貼り付けたが、繊維シート4を両面に貼り付けることにより、さらに高引張強度にて接着接合・補強することができるのは勿論である。
なお、土台2と柱3との接合部における接着接合・補強は、図2に示すように、建築物の角部に施工しても良く、この場合は、接合部の角部における両側面に、各々一枚ずつの繊維シート4が貼り付けられている。
この場合、出隅の接合を示しているが、入隅の接合もすることができるのは勿論である。さらにこの場合、土台2と柱3との接合を示しているが、基礎1も含めて接着し、接合することができるのは勿論である。
次に、他の接合構造を順に説明する。図3に示すものは、基礎1、土台2、柱3が接合され、特に大きな引き抜き力のかかる部位の接合部を表し、計三枚の繊維シート4によって一括して接着し、接合補強したものである。図3に示すように、この三枚の繊維シート4は、それぞれ基礎、土台、柱を跨いで、各々接着接合・補強されている。すなわち、繊維シート4は、基礎1から土台2を介して柱3まで貼り付けられている。この図3においては、貼り付けられた繊維シート4のうち、繊維方向が略垂直方向のものを符号4Aとして、略右上がり斜め方向のものを4C1、略左上がりのものを4C2として、各々示している。
この場合、基礎1と、土台2と、柱3との接合を示しているが、これに限らず、このほかに大きな引き抜き力のかかる接合部での柱3と横架材5の接合にも施すことができるのは勿論である。
図4に示すものは、繊維シート4によって、柱3と、梁等の横架材5との接合部を接着接合・補強したものであり、図5に示すものは、その角部の両側面を各々一枚ずつの繊維シート4によって接着接合・補強したものである。
図6に示すものは、繊維シート4によって、上下階の柱3と、胴差等の横架材5との接合部を接着接合・補強したものである。
さらに図7に示すものは、上下階の柱3と横架材5との接合部の角部を、計三枚の繊維シート4によって接着接合・補強したものである。この図7においては、貼り付けられた繊維シート4のうち、繊維方向が略垂直方向のものを符号4Aとして、略水平方向のものを符号4Bとして、各々示している。すなわち図示しているように、上下階の柱3と横架材5との接合部の両側面に、各々一枚ずつの繊維シート4Aが貼り付けられているとともに、接合部の角部を介して横架材5の両側面間にわたって、一枚の繊維シート4BがL字状に貼り付けられている。
この場合、上下階の柱3と横架材5との接合部の角部に一枚の繊維シート4BがL字状に貼り付けられているが、これに限らずあらゆる接合部の角部に一枚の繊維シート4BをL字状に貼り付けて接着接合・補強できるのは勿論である。
図8に示すものは、梁等の横架材5の側面に発生した割裂部分Cの周囲に、繊維シート4が貼り付けられて接合・補強するとともに、横架材5の下端面に、この横架材5の長さと略同一長さの繊維シート4が貼り付けられてたわみ補強したものである。この図8においては、貼り付けられた繊維シート4のうち、繊維方向が略垂直方向のものを符号4Aとして、略水平方向のものを符号4Bとして、各々示している。すなわち図示しているように、割裂部分Cの割裂方向と略平行に繊維シート4Bが貼り付けられ、さらに、割裂の度合が大きい部分には、割裂方向と略直交に繊維シート4Aが貼り付けられている。
この場合、割裂部分Cの周囲及び横架材5の下端面に接着剤によって貼り付けられた靱性に優れた繊維シート4によって、横架材5が高強度にかつ柔軟に接着接合・補強され、耐震性に優れかつ曲げ強度に優れた構造とすることができる。さらに、横架材5の側面及び下面の接着接合・補強を示しているが、上面や角部等も接合および補強することができるのは勿論である。
図9に示すものは、柱3と、梁等の横架材5との接合部の繊維シート4Aは、柱3と横架材5との接合部において、一枚の繊維シート4Aを横架材5の上面を通して接合部の表裏両面に繊維シート4を貼り付けている。この場合、柱3と横架材5との接合部を示しているが、例えば柱3と土台2などの接合部に繊維シート4を貼り付け、繊維シート4Aを横架材である土台2の下面を通して接合部の表裏両面に貼り付けて接着接合・補強することができるのは勿論である。
図10に示すものは、建築物の角部の柱頭部に施工された、柱3と横架材5との接合部における隅部に接合されており、ここでは、繊維シート4Aが、柱3と横架材5との接合部の両側面に各々一枚ずつ貼り付けられているとともに、繊維シート4Dが、柱頭部近傍を巻き込むようにして、柱3及び横架材5の表面にわたって貼り付けられて、これら接合部の接着接合・補強も施されている。すなわち繊維シート4Dは、貼り付けられた繊維シート4のうちで、繊維方向が、柱3及び横架材5の何れの延在方向とも非平行となっている。
特に図10に示す構造においては、繊維シート4を柱頭部近傍に巻き付けることで、柱3と横架材5との接合部を強固に固定し接着接合・補強するようにしているので、横架材5に浮き上がりやずれ等が発生することを的確に防止することができる。
図11に示すものは、ツーバイ工法又は木質パネル工法、ポスト&ビーム合理化工法などにおける繊維シートを接合主材として用いた建築部材の接合構造を有する建築物6全体を示し、土台部構造用合板7、一階壁部構造用合板8、壁中間部構造用合板9、二階壁部構造用合板10、妻壁部構造用合板11、屋根部構造用合板12、床部構造用合板13を各々施工した後に、建築部材各々の接合部に繊維シートで接着接合・補強した例を示すものである。
図11に示すもので上記記載以外のものの一つとして、基礎1のコーナー接合部の略水平L字状繊維シート4Dがあり、基礎を上から見た状態でのL字コーナー部や内部T字部などの基礎同士の鉄筋接合部に対する繊維シートの接着接合・補強例である。地震発生時の大きな水平荷重に対して有効であり、また既存建築物基礎に対するコンクリートの構造的ひび割れの部分的補修にも適している。また、基礎外回りの全週に繊維シート4Dを連続して接着接合・補強することができるのは勿論である。さらに基礎上部の建物コーナー接合部の略水平L字状繊維シート4Bで同様に接着接合・補強できるのは勿論である。
また、図11に示す他の例として、壁の構造用合板8、9、10などの面剛性を高め、他の建築部材との接合補強として、長尺の繊維シート4Eを斜めクロスに施すことができるものである。さらに基礎1から二階壁部20の上端、あるいは妻壁部22上端までの長尺繊維シート4Aを略垂直方向に施し、各々の構造用合板や建築部材の接着接合・補強ができる。これら長尺繊維シート4A、4Eを施す場合、壁に限らず、屋根部21や床部17、19も施すことができるのは勿論である。
また、図11の一点鎖線で示す窓や車庫等の開口14の両端部には、地震時大きな引き抜き力が発生するため、屋根部開口四隅に略正面L字状に繊維シート4にて接着接合・補強を施し、また壁部開口14上部の両端に繊維シート4Fを斜めに施すことによって、他の建築部材との接着接合・補強することは有効なものとなる。さらに計三枚の繊維シート4によって一括して接着接合・補強したものを図11の基礎1と土台部、一階壁部構造用合板に施した例を示し、この三枚の繊維シート4は、それぞれ基礎、土台、壁部を跨いで、各々接着接合・補強されている。すなわち、繊維シート4は、基礎1から土台部構造用合板7を介して一階壁部構造用合板合板8まで貼り付けられている。この図においては、貼り付けられた繊維シート4のうち、繊維方向が略垂直方向のものを符号4Aとして、略右上がり斜め方向のものを4C1、略左上がりのものを4C2として、各々示している。
ここで、大きな窓や車庫等の開口部の接合補強方法は図20、図21にて、床開口部の接合補強は図14,図15にて、屋根開口部の接合補強は図16、図17にて詳細に説明することとする。
図12、図13は図11における出隅部の基礎、床、壁の各建築部材接合を示す詳細図であり、図12は土台、壁、床の一部に構造用合板を施したもので、図13は壁の構造用合板を施すまえのものを示す。
図12においては、基礎1と土台2、一階床部17、一階壁部18との接合部、一階壁部18と二階床部19、二階壁部20との接合部、二階壁部上端の接合部の各々接合部を構造用合板7、8、9、10の表面から繊維シート4で接着接合・補強したもので、さらに出隅など二階壁部上端に繊維シート4Aを巻き込むことも示している。これらのシートを一枚の長尺繊維シート4Aにて連続して接着接合・補強できることは勿論である。ここで、特に大きな引き抜き力や水平力のかかる建物隅部や開口部周辺の構造用合板の表面より長尺の繊維シート4Eを斜めクロスに施こし、あるいは一枚の構造用合板の四隅に斜め繊維シート4Fを複数枚貼って面剛性高める接着接合・補強をすることは、さらに有効なものとなる。この場合、壁部分に限らず床部、屋根部にも施すことができるのは勿論である。
図13においては、基礎1と土台2、一階床部17、一階壁部18との接合部、一階壁部18と二階床部19、二階壁部20との接合部、二階壁部上端の接合部の各々接合部をそれぞれの構成建築部材表面から繊維シート4で接着接合・補強したもので、さらに出隅など二階壁部上端に繊維シート4Aを巻き込むことも示している。これらのシートを一枚の長尺繊維シート4Aにて連続して接着接合・補強できることは勿論である。
これらの場合、出隅部の両側面に施すことは勿論、図示していないが入り隅に施すことができるのは勿論である。
図14、図15は図11における二階床部の各建築部材接合を示す詳細図であり、図14は、床組などに構造用合板を施したもので、図15は床組などに構造用合板を施すまえのものを示す。
図14においては、二階床部19に設けられた開口14周辺の各々接合部を構造用合板13の表面から繊維シート4で略正面L字状に接着接合・補強したものである。また開口14の四隅に繊維シート4Fを斜めに施されている。さらにここでは壁部18と床部19の角に略水平L字状繊維シート4Bと床構造用合板13の表面に斜めクロスに施した繊維シート4Eの一例を示している。
図15においては、二階床部19に設けられた開口14周辺の各々接合部をそれぞれの建築部材表面から一方向は繊維シート4Aにて建築部材に巻き込み、他方向はその上から繊維シート4で略正面L字状に接着接合・補強したものである。さらに壁部18と床部19の角に略水平L字状繊維シートB4を施した一例を示している。
これらの場合、二階のその他の開口部に施すことは勿論、図示していないが一階の床部及び開口部に施すことができるのは勿論である。
図16、図17は図11における屋根部21の開口14の各建築部材接合及び妻壁部22を示す詳細図であり、図16は妻壁、屋根の一部に構造用合板11、12を施したもので、図17は妻壁、屋根の構造用合板11、12を施すまえのものを示す。
図16においては、屋根部21に設けられた開口14周辺の各々接合部を構造用合板12の表面から繊維シート4で略正面L字状に接着接合・補強したものである。さらに開口14の四隅に繊維シート4Fを斜めに施されている。また、妻壁部22と二階壁部20の各々接合部を構造用合板10、11の表面から繊維シート4で接着接合・補強したものである。ここで二階壁部上端から妻壁部を跨いで棟梁上面に繊維シート4Aを巻き込んで接着接合・補強した一例も示している。
図17においては、屋根部21に設けられた開口14周辺の各々接合部を屋根組材の各建築部材表面から一方向は繊維シート4Aにて建築部材に巻き込み、他方向はその上から繊維シート4で略正面L字状に接着接合・補強したものである。また、妻壁部22と二階壁部20の各々接合部を壁組材の各建築部材の表面から繊維シート4で接着接合・補強したものである。ここで二階壁部上端から妻壁部を跨いで棟梁上面に繊維シート4Aを巻き込んで接着接合・補強した一例も示している。さらに二階壁部と妻壁部の接合部に計三枚の繊維シート4によって一括して接着接合・補強した例を示し、この三枚の繊維シート4は、それぞれたて枠、上枠、頭つなぎ、たて枠を跨いで、各々接着接合されている。繊維シート4のうち、繊維方向が略垂直方向のものを符号4Aとして、略右上がり斜め方向のものを4C1、略左上がりのものを4C2として、各々示している。
これらの場合、二階屋根のその他の開口部及び妻壁に施すことは勿論、図示していないが一階の屋根部に施すことができるのは勿論である。
図18、図19は図11における屋根部21と二階壁部20の各建築部材接合部を示す詳細図であり、図18は壁の一部に構造用合板10を施したもので、図19は壁の構造用合板10を施すまえのものを示す。
図18においては、二階壁部20の各々接合部を構造用合板10の表面から繊維シート4Gを屋根組材に巻き込んで接着接合・補強したものである。
図19においては、二階壁部20の各々接合部を壁組建築部材の裏面と表面から繊維シート4Hを屋根組材に巻き込んで接着接合・補強したものである。
これらの場合、図示していないが一階の屋根部に施すことができるのは勿論である。さらに、図示していないが妻壁と屋根組材の接合部に繊維シートを巻き込んで接着接合・補強できるのは勿論である。
図20、図21は、図11に示す大きな窓や車庫等の開口14に設けることにより、耐震壁量の不足を補い、建物全体の耐力壁のバランスを保ち、建物のねじれを防ぐための耐震開口フレーム15、16であり、この耐震開口フレーム15、16の各建築部材接合部を示す詳細図である。
図20においては、窓等の開口14に組み込まれる耐震開口フレーム15で、縦部材と横部材を略正面L字状に接合し、その接合部が剛接合となるように繊維シート4を巻き込んで接着接合・補強した略正面L字状四個のフレームを接合金具23にて正面方形に組み合わせ、建物窓の開口14に組み込み、取り付け金具24にて躯体に止め付ける。
図21においては、車庫等の開口14に組み込まれる耐震開口フレーム16で、縦部材と横部材を略正面L字状に接合して正面門型とし、その接合部が剛接合となるように引張ボルト25で接合し、さらに繊維シート4を巻き込んで接着接合・補強したものを建物車庫等の開口14に組み込み、柱脚金具26にアンカーボルト27にて緊結する。さらに取り付け金具24にて躯体に取り付ける。この場合、引張ボルト25の金具を用いないで繊維シート4だけで接着接合・補強できるのは勿論である。
これら耐震開口フレームの略正面L字部接合補強の場合で、図示していないが、耐震開口フレーム15、16の隅部略垂直方向に、さらにもう一枚の繊維シート4を巻き込んで接着接合・補強することができるのは勿論である。さらに繊維シート4Fにて斜めにも巻き込んで接着接合・補強できるのは勿論である。
また、図22、図23、図24に示すものは、近年多く用いられるエンジニアードウッドによる構造躯体を構成するための柱や梁、根太、たるき等の建築部材であり、図25は合板である。これらの製造過程において、引張荷重を受ける側に、ラミナ28の接着接合時に長尺の繊維シート4Bを挿入することにより、大きな荷重を受けたとき繊維シートによりラミナ28同士の接着接合・補強となる。また、ラミナ28を積層してなる建築部材の繊維補強として最下端ラミナ28の裏面に繊維シート4Bを貼ることができるのは勿論である。これらにより、ラミナ28を積層して成る建築部材の曲げやたわみに対する強度を大幅に向上させることができる。
産業上の利用の可能性
本発明は、上記の繊維シートを接合主材として用いた建築部材の接合構造によれば、新築や既存建物を問わず、基礎、土台、柱、横架材や床部、壁部、屋根部等の建築物の躯体を構成する建築部材同士の接合部を跨いで建築部材の表面に、単に強度が高いだけでなく靱性に優れたアラミド繊維等からなる繊維シート4が接着剤によって貼り付けられ、金物に代わる接合主材として、これら建築部材同士の接合部を、高強度にかつ柔軟に接合し、補強することができる。これにより、低コストにて地震時に互いの建築部材同士が外れるようなことがなく、耐震性に優れた構造とすることができる。
また、建築部材に貼り付けられた繊維シート4の表面に、接着剤が上塗りされているので、単に接着させただけの補強構造と比較して、繊維シート4と建築部材との接着接合強度が大幅に向上されて一体化が図られ、高強度な接着接合・補強とされる。
しかも、複数の接合部に跨って繊維シート4を接着させることにより(図3、図6、図7、図12、図13、図14、図15、図16、図17、図18、図19参照)、複数の建築部材同士の接合部を一括して繊維シート4によって接着接合・補強することができる。
さらには、接合部の表裏面や角部を介した互いに隣接する面に一枚の繊維シート4を接着させて固定させることにより(図3、図7、図10参照)、接合部における接合および引張強度をさらに高めることができ、接合の信頼性を大幅に向上させることができる。
特に、一枚の繊維シート4を少なくとも一つの建築部材に巻き付け、接着接合・補強することにより(図9、図10、図18、図19、図20、図21参照)、建築部材同士の接合部における抜け出しが確実に防止されて、接合部においてさらに信頼性を高めることができる。
また、このような接合構造を施工する施工方法においては、建築部材同士の接合部を介して建築部材の表面に接着剤を塗布し、この接着剤を塗布した接着面に靱性に優れたアラミド繊維等をシート状に形成した繊維シート4を貼り付け、その後、この繊維シート4の表面に接着剤を塗布することにより、繊維シート4に接着剤を確実に含浸させて、建築部材と確実に一体化させることができ、建築部材の接合部を極めて高強度にかつ柔軟に接着接合・補強することができる。これにより、地震時に互いの建築部材同士が外れるようなことがなく、耐震性に優れた上記構造の接合構造を施すことができる。
また、図26、27に示すように、あらかじめ施工部位の長さに適合するそれぞれのカット繊維シートや接着剤入りパック、施工用具(ローラやゴムへらなど)を一箱に収納し、セット商品にしたものを現場で用いることにより、接着剤の主剤と硬化剤の現場での調合・混合が接着剤収納パックの分割クリップにて不要となり、適正な硬化・接着強度がえられる。セット商品には、図27に示すように、接着剤、繊維シート、ローラ、ゴムへら等が含まれているので、これらを使用し、図29に示す施工手順に従って作業を行う。具体的には、パックをもんで接着剤の2液を混ぜ、接合部に絞り出し、繊維シートを貼り付け、繊維シートの上からヘラ等で接着剤を均して接合部の全域に接着剤を馴染ませるようにすれば、接着剤が繊維シートに含浸して接着するので、容易に接着接合・補強することができる。このように繊維シート4と接着剤とによって簡単で確実に施工できるので、接合金具を用いた場合と比較して、その施工作業を大幅に簡略化させることができ、短い作業時間で、低コストにて高強度な接着接合・補強を施すことができる。さらに、金具を用いた場合のヒートブリッジによる壁内結露による腐れや、断熱材を施工した時の断熱欠損や断熱低下の心配もない。また、木質建築部材の欠点である釘や取付金具(ボルトなど)部分での割裂破壊を繊維シートで柔軟に接着接合・補強することができる。
以上により、産業上の利用の可能性は大きいといえる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】

【図27】

【図28】

【図29】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建築物の躯体を構成する建築部材同士を、繊維シートを接合主材として用い、接着接合・補強する建築部材の接合構造であって、
前記建築部材の表面に、接合部を跨いで、高引張強度を有する繊維をシート状に形成した繊維シートが、接着剤によって接着され、さらに、前記繊維シートの表面に接着剤が上塗りされている。
【請求項2】
請求項1記載の建築部材の接合構造であって、前記繊維シートが、複数の接合部に跨って接着されて貼り付けられている。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の建築部材の接合構造であって、前記繊維シートが、前記接合部の複数面に接着されて貼り付けられている。
【請求項4】
請求項3記載の建築部材の接合構造であって、一枚の前記繊維シートが、一方の建築部材の外周へ巻き付けられて、接合部の両面に接着されて貼り付けられている。
【請求項5】
請求項3記載の建築部材の接合構造であって、一枚の前記繊維シートが、接合部における互いに隣接した面にわたって接着されて貼り付けられている。

【国際公開番号】WO2005/056943
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516055(P2005−516055)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008907
【国際出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(593053977)ジェイ建築システム株式会社 (13)
【Fターム(参考)】