説明

繊維及び不織布

【課題】本発明は、不織布の製造後短時間に親水性(初期親水性)が発現し、しかも、不織布を熱処理しても短時間に親水性が回復(耐久親水性)するという、初期親水性及び耐久親水性が共に優れるポリプロピレン不織布を開発することを目的とする。
【解決手段】融点(Tm)が125〜155℃の範囲にあるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体100重量部に対して、A成分、B成分及びC成分を含有する非イオン系界面活性剤混合物を0.5〜5重量部含むプロピレン共重合体組成物の繊維からなる長繊維不織布を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期親水性および耐久親水性に優れる繊維及びかかる繊維を含む不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン不織布は通気性、柔軟性、軽量性に優れることから各種用途に幅広く用いられている。そのため、不織布には、その用途に応じた各種の特性が求められるとともに、その特性の向上が要求されている。
一方、ポリプロピレン不織布は、本質的に疎水性であるので、紙おむつ、生理用ナプキン等の衛生材料のトップシート、ワイパーなどに使用するには、親水処理することが必須である。
【0003】
ポリプロピレン不織布を親水化する方法としては、複数の非イオン界面活性剤を含む処理剤で、ポリプロピレン不織布の表面を処理する方法(例えば、特許文献1;特開2007−107131号公報、特許文献2;特開2003−52752号公報)、界面活性剤を混入したスパンボンド不織布を少なくとも30秒以上加熱処理する方法(特許文献3;特開昭63−211350号公報)、あるいは複合繊維の鞘部に界面活性剤を含有させる方法(特許文献4:特開平2−221448号公報)等、幾多の方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、ポリプロピレン不織布の表面を界面活性剤で処理する方法は、初期親水性は優れるものの、界面活性剤が流出し易く、繰り返し使用した場合に親水性が低下する虞あり、ポリプロピレン不織布に界面活性剤を練り込む方法は、親水性の発現に時間がかかり、初期親水性に劣る虞がある。特に、プロピレン単独重合体からなる不織布は、親水性の発現に長時間を要し、しかも不織布を他の部材と積層するために、熱処理した場合は親水性の回復に数日間を要することから、紙おむつ、生理用ナプキン等の衛生材料のトップシートに使用するには、更なる親水性の改良が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−107131号公報
【特許文献2】特開2003−52752号公報
【特許文献3】特開昭63−211350号公報
【特許文献4】特開平2−221448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、不織布の製造後短時間に親水性(初期親水性)が発現し、しかも、不織布を熱処理しても短時間に親水性が回復(耐久親水性)するという、初期親水性および耐久親水性が共に優れるポリプロピレン不織布に好適な繊維及び不織布を開発することを目的とし、種々検討した結果、プロピレン系重合体として、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体を用い、しかも、界面活性剤として特定の非イオン系界面活性剤を含む混合物を添加・混合することにより、本発明の目的を達成し得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(1)融点(Tm)が125〜155℃の範囲にあるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体100重量部に対して、下記のA成分、B成分及びC成分を含有する非イオン系界面活性剤混合物を0.5〜5重量部含むプロピレン共重合体組成物からなる繊維及び当該繊維を含む不織布。
A成分:ポリオキシエチレンアルキルエーテル
B成分:ポリオキシエチレンアルキルアミド
C成分:グリセリンモノ脂肪酸エステル
及び、
(2)芯部が融点(Tm)が125〜155℃の範囲にあるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体、および下記のA成分、B成分及びC成分を含有する非イオン系界面活性剤混合物を含むプロピレン共重合体組成物、鞘部が融点(Tm)が125〜155℃の範囲にあるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体からなる芯鞘複合繊維であり、当該芯鞘構造複合繊維全体に含まれるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体合計100重量部に対して、非イオン系界面活性剤混合物を0.5〜5重量部含む繊維及び当該繊維を含む不織布。
A成分:ポリオキシエチレンアルキルエーテル
B成分:ポリオキシエチレンアルキルアミド
C成分:グリセリンモノ脂肪酸エステル
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維及び当該繊維を含む不織布は、製造後の親水性の発現時間が3時間以下と極めて短く、しかも、80℃で2時間熱処理した後も、直ちに親水性が回復し、初期親水性および耐久親水性が共に優れる。
【0009】
また、製造時の環境衛生の点より、本発明の芯鞘複合繊維及び当該繊維を含む不織布は、上記特徴に加え、繊維を製造する際に、押出された溶融樹脂繊維表面からの非イオン系界面活性剤の蒸発が抑制される、発煙等が少ないという特徴を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体>
本発明の繊維および当該繊維を含む不織布を形成するプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体は、融点(Tm)が125〜155℃、好ましくは130〜147℃の範囲にあるプロピレンと少量のエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン等の炭素数2以上、好ましくは2〜8の1種または2種以上のα−オレフィンとの共重合体、好ましくはランダム共重合体である。プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体におけるα−オレフィンの含有量は、融点(Tm)が上記範囲にある限り、特に限定はされないが、通常1〜10モル%の範囲にある。
【0011】
本発明に係るプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体は、通常、メルトフローレート(MFR)(ASTM D−1238、230℃、荷重2160g)が20〜100g/10分、好ましくは40〜80g/10分の範囲にある。MFRが20g/10分未満のプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体は、溶融粘度が高く紡糸性に劣る虞があり、一方、100g/10分を超えるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体は、得られる繊維及び当該繊維を含む不織布の引張強度等が劣る虞がある。
【0012】
融点(Tm)が155℃を超えるプロピレン重合体は、後述の非イオン系界面活性剤混合物を添加しても、得られる繊維および当該繊維を含む不織布は初期親水性および耐久親水性が劣る。一方、融点(Tm)が125℃未満のプロピレン共重合体は、後述の非イオン系界面活性剤混合物を添加すると得られる繊維及び当該繊維を含む不織布の初期親水性および耐久親水性は優れるものの、成形加工性や機械強度が劣る。
【0013】
本発明に係るプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体の融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温速度;10℃/分で昇温したときの融解吸熱曲線の極値を与える温度より50℃程度高い温度まで昇温して、この温度で10分間保持した後、降温速度;10℃/分で30℃まで冷却し、再度、昇温速度;10℃/分で所定の温度まで昇温したときの融解曲線を測定し、かかる融解曲線から、ASTM D3418の方法に倣い、融解吸熱曲線の極値を与える温度(Tp)を求め、かかるピーク温度の吸熱ピークを融点(Tm)とした。
【0014】
<非イオン系界面活性剤混合物>
本発明に係る非イオン系界面活性剤混合物は、A成分としてポリオキシエチレンアルキルエーテル、B成分としてポリオキシエチレンアルキルアミド、及びC成分としてグリセリンモノ脂肪酸エステルを含む。本発明に係る非イオン系界面活性剤混合物は、A成分、B成分及びC成分を含む限り、特に限定はされないが、通常、A成分を30〜60重量%、B成分を20〜50重量%、及びC成分を20〜50重量%〔A成分+B成分+C成分=100重量%〕の範囲で含む。
【0015】
<A成分>
本発明に係る非イオン系界面活性剤混合物に含まれるA成分は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、通常、AEと呼称されている脂肪族アルコールのエチレンオキサイド付加物である。本発明に係るポリオキシエチレンアルキルエーテルは、好ましくは、下記一般式(1)で表される化合物である。
R−O−(CH2CH2O)−H 式(1)
(式中、Rは炭素数12〜30の直鎖飽和炭化水素基を示し;xは0〜20の整数である)
【0016】
<B成分>
本発明に係る非イオン系界面活性剤混合物に含まれるB成分は、ポリオキシエチレンアルキルアミドである。本発明に係るポリオキシエチレンアルキルアミドは、好ましくは、下記一般式(2)で表される化合物である。
1CON−(CH2CH2O)−H 式(2)
(CH2CH2O)−H
(式中、Rは炭素数16〜18の直鎖飽和炭化水素基を示し;y及びzは、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい1以上の整数であり、x+yは5以上10以下である。)
【0017】
<C成分>
本発明に係る非イオン系界面活性剤混合物に含まれるC成分は、グリセリンモノ脂肪酸エステルある。本発明に係るグリセリンモノ脂肪酸エステルは、好ましくは直鎖飽和脂肪酸の炭素数が16〜18のグリセリンモノ脂肪酸エステルである。
【0018】
本発明に係る非イオン系界面活性剤混合物には、本発明の目的を損なわない範囲で、脂肪酸のアルキレンオキサイド付加物、または脂肪酸アミドのアルキレンオキサオド付加物等の他の非イオン系界面活性剤を必要に応じて配合してもよい。
【0019】
<プロピレン共重合体組成物>
本発明の繊維および当該繊維を含む不織布を形成するプロピレン共重合体組成物は、前記プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体100重量部に対して、前記非イオン系界面活性剤混合物を0.5〜5重量部、好ましくは1〜3重量部含む組成物である。
【0020】
非イオン系界面活性剤混合物の量が0.5重量部未満では、親水性が劣る。一方、上限は特に限定はされないが、5重量部を超えると、親水性が飽和するともに、得られる繊維及び当該繊維を含む不織布の表面に滲み出す界面活性剤の量が多くなり、成形加工性が低下する。
【0021】
本発明に係るプロピレン共重合体組成物を用意する場合は、前記非イオン系界面活性剤混合物を、5重量%を超える、例えば、10〜70重量%と高濃度に含むペレット状のマスターバッチとしておくと、繊維及び不織布の製造時に非イオン系界面活性剤混合物の添加および前記プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体との混合が容易となるので好ましい。非イオン系界面活性剤混合物のマスターバッチに用いるプロピレン系重合体は、前記プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体に限らず、プロピレンの単独重合体あるいは融点(Tm)が上記範囲外のプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体を用いてもよい。かかるプロピレン系重合体は目的とする繊維及び当該繊維を含む不織布に応じて、MFRを適宜選択し得る。
【0022】
本発明に係るプロピレン共重合体組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、顔料等の添加剤或いはプロピレン単独重合体、エチレン系重合体等の他の重合体を必要に応じて配合することができる。
【0023】
<繊維及び不織布>
本発明の繊維及び当該繊維を含む不織布は、前記プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体と前記非イオン系界面活性剤混合物を含むプロピレン共重合体組成物の繊維及び当該繊維を含む不織布である。
【0024】
また、本発明の繊維及び当該繊維を含む不織布の別の一態様としては、芯部が前記プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体と前記非イオン系界面活性剤混合物を含むプロピレン共重合体組成物を含み、鞘部が前記プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体からなる芯鞘複合繊維及び当該複合繊維を含む不織布である。本発明の芯鞘複合繊維は、通常、芯部/鞘部の重量比が10/90〜50/50の範囲にある。前記非イオン系界面活性剤混合物を含むプロピレン共重合体組成物からなる芯部の割合が10未満の場合は、製造後の親水性の発現時間が長くなる虞がある。本発明の芯鞘複合繊維は、前記非イオン系界面活性剤混合物を含まない鞘部が繊維表面の大部分を覆う限り、同芯、偏芯のいずれでも良いが、製造時に前記非イオン系界面活性剤混合物の蒸発による発煙を抑制する場合は、同芯が好ましい。
【0025】
本発明の繊維及び当該繊維を含む不織布として、芯鞘複合繊維を用いる場合は、当該芯鞘複合繊維全体に含まれる前記プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体100重量部に前記非イオン系界面活性剤混合物を0.5〜5重量部、好ましくは1〜3重量部の範囲で含む。したがって、芯部となる前記プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体と前記非イオン系界面活性剤混合物を含む組成物に含まれる非イオン系界面活性剤混合物の量は、芯鞘複合繊維の芯部/鞘部の重量比(10/90〜50/50)に応じて、前記範囲に比べて多く含むことになる。
【0026】
本発明の繊維は、通常、繊度が0.5〜5デニール、好ましくは0.5〜3デニールの範囲にある。本発明の繊維は短繊維であってもよいが、長繊維であることが、得られる不織布からの繊維の脱落等がないので好ましい。
【0027】
本発明の不織布は、通常、目付が3〜100g/m、好ましくは7〜60g/mの範囲にある。本発明の不織布は、長繊維不織布であれば繊維の脱落等がないので好ましい。
本発明の不織布は、用途により、種々公知の交絡方法、例えば、ニードルパンチ、ウォータージェット、超音波等の手段を用いる方法、あるいはエンボスロールを用いる熱エンボス加工またはホットエアースルーを用いることにより一部熱融着する方法により交絡しておいてもよい。かかる交絡方法は単独でも複数の交絡方法を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
熱エンボス加工により熱融着する場合は、通常、エンボス面積率が5〜30%、好ましくは5〜20%の範囲にある。刻印形状は、円、楕円、長円、正方、菱、長方、四角やそれら形状を基本とする連続した形が例示される。
【0029】
本発明の不織布は、種々用途により、単独でも他の層と積層して用いてもよい。
本発明の不織布と積層される他の層は、具体的には、例えば、編布、織布、不織布、フィルム等を挙げることができる。本発明の不織布と他の層を積層する(貼り合せる)場合は、熱エンボス加工、超音波融着等の熱融着法、ニードルパンチ、ウォータージェット等の機械的交絡法、ホットメルト接着剤、ウレタン系接着剤等の接着剤による方法、押出しラミネート等をはじめ、種々公知の方法を採り得る。本発明の不織布は、ホットメルト接着剤や押出しラミネート等、高温物質と接触する工程を経た後も、短時間に親水性が回復するので、製品の品質管理上、利便性が高い。
【0030】
本発明の不織布と積層される不織布としては、他のスパンボンド不織布、メルトブロー不織布、湿式不織布、乾式不織布、乾式パルプ不織布、フラッシュ紡糸不織布、開繊不織布等、種々公知の不織布を挙げることができる。
【0031】
かかる不織布を構成する材料としては、種々公知の熱可塑性樹脂、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンおよび1−オクテン等のα−オレフィンの単独若しくは共重合体である高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンランダム共重合体、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・1−ブテンランダム共重合体、プロピレン・1−ブテンランダム共重合体等のポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン−6、ナイロン−66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、熱可塑性ポリウレタンあるいはこれらの混合物等を例示することができる。これらのうちでは、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンランダム共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等が好ましい。
【0032】
本発明の不織布と積層される他のスパンボンド不織布として、捲縮繊維より成る不織布を用いると、得られる積層体は、柔軟性、嵩高性、および触感に優れる。また、熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーそれぞれの長繊維の混合繊維より成る不織布を延伸加工したものを用いると、得られる積層体は、前記特徴に加えて、伸縮性に優れる。
【0033】
本発明の不織布を使い捨ておむつのトップシート、セカンドシートあるいは吸収体を包むシート(コアラップ)に用いる場合、非イオン系界面活性剤混合物を0.7〜3重量部、繊度を0.5〜3デニール、目付を7〜30g/mの範囲とすることが好ましい。
【0034】
また、本発明の不織布を吸収性物品の吸収体を含むシート(コアラップ)を用いる場合は、前記メルトブロー不織布と積層して用いてもよい。
本発明の不織布と積層されるフィルムとしては、本発明の不織布の特徴である親水性を生かす、通気性(透湿性)フィルムが好ましい。かかる通気性フィルムとしては、種々公知の通気性フィルム、例えば、透湿性を有するポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマーからなるフィルム、無機あるいは有機微粒子を含む熱可塑性樹脂からなるフィルムを延伸して多孔化してなる多孔フィルム等を挙げることができる。多孔フィルムに用いる熱可塑性樹脂としては、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンランダム共重合体あるいはそれらの組成物等のポリオレフィンが好ましい。
【0035】
<不織布の製造方法>
不織布の原料として短繊維を用いる場合は、種々公知の製造方法、例えば、湿式法あるいは乾式法(カード)により製造し得る。
【0036】
<長繊維不織布の製造方法>
本発明の長繊維不織布は、種々公知の不織布の製造方法により製造し得るが、スパンボンド法により製造する方法が、生産性に優れる点で好ましい。
【0037】
本発明の長繊維不織布をスパンボンド法により製造する場合は、プロピレン共重合体組成物の単繊維からなるスパンボンド不織布を製造する場合は1つの押出機で、芯鞘複合繊維からなるスパンボンド不織布を製造する場合は、芯部を形成する前記プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体と前記非イオン系界面活性剤混合物を含むプロピレン共重合体組成物と、鞘部を形成する前記プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体とを、それぞれ別個の押出機で180〜250℃、好ましくは190〜230℃で溶融し、(複合)紡糸ノズルを有する180〜250℃、好ましくは190〜230℃に設定した紡糸口金から0.4〜1.5 g/分、好ましく0.5〜0.8g/分の単孔吐出量で吐出させて、(複合)繊維を紡出し、紡出した(複合)繊維を10〜40℃、好ましくは20〜30℃の冷却用エアにより冷却するとともに、2000〜7000m/分、好ましく3000〜6000m/分の高速エアにより(複合)繊維を牽引細化して所定の繊度とし、捕集ベルト上に捕集して所定の厚さ(目付)に堆積させた後、ニードルパンチ、ウォータージェット、超音波等の手段を用いる方法、あるいはエンボスロールを用いる熱エンボス加工またはホットエアースルーを用いることにより一部熱融着する方法等の交絡方法で交絡することにより製造し得る。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例における物性値等は、以下の方法により測定した。また、以下(1)繰り返し吸収率、(2)液流れ距離の測定では、人工尿として、表面張力が70+/−2mN/m塩化ナトリウムの水溶液(9g/リットル)を用いた。
【0039】
また、(1)繰り返し吸収率、(2)液流れ距離の測定は、長繊維不織布を製造してから24時間経過後48時間以内(加熱処理なし)、および長繊維不織布を製造してから24時間以上経過した長繊維不織布を設定温度80℃で2時間加熱処理した後取り出して2時間以内(加熱処理あり)の2条件で測定した。
【0040】
(1)繰り返し吸収率
長繊維不織布より試料(50mm×200mm)を採取した。アドバンテック社製No.2濾紙を10枚重ね、その上に試料を水平に置いた。試料面より約10mmの高さからスポイトにて人工尿を1滴(約0.3ml)ずつ、20mm間隔で10箇所に静置し、2秒以内に吸収される液滴の数を測定した。これを3分おきに3回繰り返し、吸収された液滴の合計数を30で除し、繰り返し吸収率(%)とした。この数値が大きいほど、親水性が優れると評価した。
【0041】
(2)液流れ距離
長繊維不織布より試料(50mm×200mm)を採取した。45度に傾斜させて固定した板上に、アドバンテック社製No.2濾紙を5枚重ねて置き、その上に試料を置いて、試料の長手方向の両端を前記濾紙と一緒に板上に固定した。試料面より約10mmの高さからスポイトにて人工尿を1滴(約0.3ml)落下させ、液滴の落下点から液滴が完全に吸収された点までの距離を計測し、液流れ距離(mm)とした。この数値が小さいほど、親水性が優れると評価した。
【0042】
(3)目付け(g/m2
長繊維不織布の任意の位置から100mm×100mmの試料を10枚採取し、それぞれの質量(g)を測定した。それらの平均値を求め、1m2当りの質量に換算して目付け(g/m2)とした。
【0043】
[実施例1]
A成分として、ポリオキシエチレン(5モル)ステアリルエーテル:50重量%、B成分としてポリオキシエチレン(10モル)ステアリルアミド:25%及びC成分としてグリセリンモノステアレート:25重量%を含む非イオン系界面活性剤混合物:20重量%、およびMFR:60g/10分のプロピレン単独重合体:80重量%に酸化防止剤(Ciba社製、商品名Irgafos 168)を0.05重量部加え、230℃で溶融混練して押出し、ペレット状のマスターバッチ(親水剤―1)を用意した。
【0044】
次いで、融点(Tm):142℃、MFR:60g/10分のプロピレン・エチレンランダム共重合体(PP−1)100重量部に対して、前記親水剤−1を8.1重量部加えて混合し、長繊維不織布製造用のプロピレン共重合体組成物(組成物−1)を用意した。
【0045】
次いで、組成物−1をスパンボンド法により溶融紡糸し、長繊維を得た。このとき、紡糸ノズル出口より、親水剤−1に由来する白煙が発生した。紡糸に続いて、熱エンボス加工を行い、目付けが20g/mの長繊維不織布を得た。次いで、刻印形状が菱形、エンボス面積率が18%、エンボス面積(刻印一つ当たりの面積)が0.41mmのエンボスロールを用いて、エンボスロールおよび平滑ロールの温度を125℃、線圧力を60N/mmとして、熱エンボス加工した。長繊維不織布を製造してから24時間経過後、48時間以内に繰り返し吸収率、および液流れ距離を測定した(加熱処理なし)。また、製造してから24時間以上経過した長繊維不織布をオーブン(エスペック社製、タバイセイフティオーブン STS222)内の中央付近に吊り下げ、設定温度80℃で2時間加熱処理した後、取り出して2時間以内に同様の測定を行った(加熱処理あり)。結果を表1に示す。
【0046】
[比較例1]
実施例1において、PP−1の代わりに融点:162℃、MFR:60g/10分のプロピレン単独重合体(PP−2)を用い、エンボスロールおよび平滑ロールの温度を133℃とする以外は、実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布について、実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例2]
実施例1において、PP−1:100重量部に対して親水剤−1を33.3重量部加えて混合し、長繊維不織布製造用のプロピレン共重合体組成物(組成物―2)とし、芯鞘型複合ノズルを用いて芯部を組成物−2、鞘部をPP−1、芯部/鞘部の重量比を30/70として複合溶融紡糸する以外は、実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。このとき、紡糸ノズル出口で、白煙は発生しなかった。得られた長繊維不織布について、実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から、融点が162℃のプロピレン単独重合体(PP−2)に親水剤として(親水剤−1)を添加して得た長繊維不織布(比較例1)は、加熱処理の有無に関わらず、繰り返し吸収率が0%、液流れ距離試験では吸収せず、初期親水性および耐久親水性に劣ることが明らかである。
それに対して、融点(Tm)が142℃のプロピレン・エチレンランダム共重合体(PP−1)を用いた長繊維不織布(実施例1)は、加熱処理前の繰り返し吸収率が100%、液流れ距離が15mmと初期親水性に優れ、加熱処理した後も、繰り返し吸収率は100%を維持し、しかも液流れ距離の低下も見られず、耐久親水性に優れることが明らかである。
また、融点(Tm)が142℃のプロピレン・エチレンランダム共重合体(PP−1)に親水剤−1を添加した組成物−2を芯部に用い、鞘部にPP−1に親水剤を添加せずに得られた芯鞘複合長繊維からなる長繊維不織布(実施例2)は、加熱処理後の繰り返し吸収率が100%、および液流れ距離が短いのに加え、長繊維不織布の製造時の白煙発生を防止できるという特徴を有していることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の長繊維不織布は、初期親水性は勿論のこと耐久親水性にも優れるので、使い捨ておむつや生理用品等の吸収性物品のトップシート、セカンドシートあるいは吸収体を包むシート(コア・ラップ)として特に有用であり、医療用、衛生材用、包装材、産業資材などの用途に好適に用いられる。具体的用途として、シーツ、ペットシート、野菜等のつゆ吸収シート、肉・魚類のドリップシート、コーヒーフィルター、ガウン、おしぼり、パップ剤、作業着、ワイパー、ウェットティッシュ、ガーゼ、布巾、タオル、お尻拭き、トイレクリーナー、フローリングクリーナー、レンジクリーナー、化粧落とし、眼鏡拭き等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点(Tm)が125〜155℃の範囲にあるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体100重量部に対して、下記のA成分、B成分及びC成分を含有する非イオン系界面活性剤混合物を0.5〜5重量部含むプロピレン共重合体組成物からなる繊維。
A成分:ポリオキシエチレンアルキルエーテル
B成分:ポリオキシエチレンアルキルアミド
C成分:グリセリンモノ脂肪酸エステル
【請求項2】
芯部が融点(Tm)が125〜155℃の範囲にあるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体および下記のA成分、B成分及びC成分を含有する非イオン系界面活性剤混合物を含むプロピレン共重合体組成物、鞘部が融点(Tm)が125〜155℃の範囲にあるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体をからなる芯鞘複合繊維であり、当該芯鞘複合繊維全体に含まれるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体合計100重量部に対して、非イオン系界面活性剤混合物を0.5〜5重量部含む繊維。
A成分:ポリオキシエチレンアルキルエーテル
B成分:ポリオキシエチレンアルキルアミド
C成分:グリセリンモノ脂肪酸エステル
【請求項3】
非イオン系界面活性剤混合物が、A成分:30〜60重量%、B成分:20〜50重量%及びC成分:20〜50重量%〔A成分+B成分+C成分=100重量%〕である請求項1または2に記載の繊維。
【請求項4】
繊維が長繊維である請求項1〜3のいずれかに記載の繊維。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の繊維からなる不織布。

【公開番号】特開2010−150674(P2010−150674A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326996(P2008−326996)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】