説明

繊維吸収体の製造方法

【課題】本発明の目的は、反発力をより有効に抑制することと、原材料の使用効率の向上を図ることとを両立可能な繊維吸収体の製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、(1)開繊した繊維を個片化する工程と、(2)前記開繊した繊維を圧縮する工程と、(3)ニードル挿入用の穴が形成されているニードルパンチ加工用ケースに前記圧縮した繊維を収納する工程と、(4)前記ニードルパンチ加工用ケース内にて、少なくとも互いに垂直関係にある3方向から前記穴を通してニードルを挿入することにより、ニードルパンチを行う工程と、を含むことを特徴とする繊維吸収体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製繊維を用いた吸収体の製造方法であって、特にインクジェットヘッドへインクを供給するためにインクを保持する吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドへインクを供給するインクタンクには、インクを保持する吸収体が用いられている。記録時以外の状態では外部にインクを漏らすことがないようにインクを保持し、更に、記録時には安定してインクジェットヘッドにインクを供給することが要求される。一般的に吸収体には、ウレタンフォーム等の発泡部材やポリオレフィン等の繊維部材を用いることで、その内部に生じる毛細管力を負圧発生源とし、インクを保持させることが提案されている。
【0003】
樹脂製繊維吸収体を製造する方法としては、以下2通りの手法が提案されている。まず1つ目として、繊維材料を吸収体1個分となる重量に取り分けた後(以下個片化と称する)、吸収体の形状へ加工する(以下成形と称する)手法が挙げられる。
【0004】
特許文献1には、このように個片化した後、成形する製造方法が記載されている。個片化する手段の詳細は記載されていないが、成形する手段として、樹脂製繊維により構成されたインク吸収体の表面をヒーター等によって加熱溶融することが記載されている。具体的には、繊維吸収体を1面が開口している型へ挿入し、該開口部から吸収体に定圧をかけた状態でヒーターにて加熱させる。ヒーターに接している吸収体表面の繊維が溶融した後、冷却することで硬化させる。加熱溶融した箇所の繊維は融着している。該工程を6回繰り返すことにより、6面体の形状を有する吸収体が得られる。
【0005】
2つめの手法として、成形した後、個片化する手法が挙げられる。特許文献2には、成形する手法として、樹脂製繊維の原材料を薄いウェッブシート化し、ニードルパンチを行い、機械的に繊維を絡ませた後、繊維全体を加熱することにより、成形することが記載されている。その後、打ち抜き型を用い、吸収体の形状へ個片化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−47688号公報
【特許文献2】特開平7−323566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インク吸収体は、インクを保持するための負圧を発生する手段として、内部に微小な空孔領域を形成することで生じる毛細管力を利用している。したがって、如何に吸収体内部の微小な空孔領域を制御できるかが重要である。
【0008】
特許文献1に記載されているように、吸収体表面のみを加熱溶融させただけでは、昨今大型化するインクタンク用吸収体の反発力を抑制し、形状を保持させることが困難となる場合がある。すなわち、加熱溶融させるための型から取り出した際に、繊維反発力が大きいために吸収体の形状と寸法が維持できない場合がある。また、該吸収体をインクタンクへ挿入すると、タンク壁に押し当てられた部位の繊維密度が上昇するため、当初設計した通りの毛細管力を得られない場合がある。
【0009】
このような繊維反発力をなるべく抑制するためには、吸収体表面だけでなく、吸収体内部へ作用するような形態が好ましい。反発力を抑制するために、特許文献2のように、繊維業界にて汎用的に用いられているニードルパンチ後に、熱キュア工程を設け、繊維吸収体全体を硬化させることは有効な手段である。しかしながら、特許文献2のように、成形工程を経てから、打ち抜き型により吸収体の形状へ個片化することは、吸収体の寸法によって廃材が生じることに繋がり、原材料の使用効率を高めることが困難となる場合がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、反発力をより有効に抑制することと、原材料の使用効率の向上を図ることとを両立可能な繊維吸収体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明は、
(1)開繊した繊維を個片化する工程と、
(2)前記開繊した繊維を圧縮する工程と、
(3)ニードル挿入用の穴が形成されているニードルパンチ加工用ケースに前記圧縮した繊維を収納する工程と、
(4)前記ニードルパンチ加工用ケース内にて、少なくとも互いに垂直関係にある3方向から前記穴を通してニードルを挿入することにより、ニードルパンチを行う工程と、
を含むことを特徴とする繊維吸収体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、繊維吸収体の内部まで繊維反発力を抑制する作用を働かせることができるため繊維吸収体の形状を有効に保持することができる。また、本発明によれば、種々の寸法の吸収体を生産しても材料の使用効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態1におけるインク吸収体の製造工程を説明するための模式図である。
【図2】(a)実施形態1の実施例におけるニードル挿入回数と挿入抵力の関係を示した図である。(b)ニードル挿入回数と挿入抵抗力の変化率との関係を示した図である。
【図3】ニードルパンチ加工用ケースの各面の名称を示す図である。
【図4】実施形態1におけるインクジェットカートリッジの製造工程を示す模式図である。
【図5】実施形態2における製造方法を示した模式図である。(a)ニードルパンチ加工用ケースの外観斜視図である。(b)図5(a)のA−A線の断面におけるニードル挿入前の状態を示す断面図である。(c)ニードル挿入時を示す断面図である。
【図6】実施形態3におけるニードルパンチ加工用ケースのニードル挿入用穴のねじれ位置関係を示す模式図である。
【図7】実施形態4におけるインクジェットカートリッジの製造工程を示す模式図である。(a)ニードルパンチ加工用ケースの外観斜視図である。(b)インク吸収体の挿入工程を示す模式図である。(c)インクジェットカートリッジの外観斜視図である。(d)(c)のB−B線における断面模式図である。
【図8】実施形態5における製造方法を示した模式図である。(a)ニードルパンチ加工用ケースの外観斜視図である。(b)(a)のC−C線の断面におけるニードルを挿入する前の状態を示す断面模式図である。(c)ニードルを挿入した状態を示す断面模式図である。(d)ニードルを抜いた後の状態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、インク吸収体等の繊維吸収体の製造方法に関する。本発明においては、まず、開繊した繊維を個片化する。個片化とは、開繊した繊維の集合体から任意の重量に取り分けることをいう。そして、個片化した開繊繊維を圧縮した後、ニードルパンチ加工用ケースに収納する。このニードルパンチ加工用ケースにはニードルを挿入するための穴が設けられている。そして、ニードルパンチ加工用ケース内にて、少なくとも互いに垂直関係にある3方向から前記穴を通してニードルを挿入することにより、ニードルパンチを行う。
【0015】
本発明において、ニードルパンチ加工用ケースを用いて少なくとも互いに垂直関係にある3方向からニードルパンチを行うことにより、繊維の内部まで有効にニードルパンチすることができるため、繊維吸収体の形状保持能力を向上することができる。また、繊維吸収体の繊維量を予め取り分けて個片化してから加工することにより、原材料である繊維の廃材を低減することが可能となる。
【0016】
ニードルパンチ加工用ケースとしては、例えば、繊維を収納する収納部が直方体形状又は立方体形状であり、この収納部のうち少なくともそれぞれ互いに垂直な3面にニードル挿入用の穴が配置されているものを用いることができる。また、収納部の全ての面にニードル挿入用穴が複数配置されていることが好ましい。このようなニードルパンチ加工用ケースを用いることで、3方向から繊維をニードリングすることができる。
【0017】
また、ニードルパンチは、ニードル挿入用の穴からニードルを垂直に挿入することにより行うことが好ましい。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0019】
(実施形態1)
図1は本発明における第1の実施形態を示すインク吸収体製造方法の工程フローを模式的に表したものである。以下、実施例も示しつつ、第1の実施形態について説明する。
【0020】
繊維吸収体としてのインク吸収体10は、繊維の集合体から構成されている。
【0021】
繊維吸収体を構成する繊維の材質は、耐インク接液性を考慮し適宜選択することができ、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、アクリロニトリル等が挙げられるが、好適には化学的に安定性の高いポリオレフィンを用いることができる。一般的なインク吸収体に用いられている芯鞘構造などの2層構造の繊維を選択することもでき、具体的には、芯にポリプロピレン(PP)、鞘にポリエチレン(PE)のように異種材料を選択してもよい。また、繊維材質は単一でもよい。本実施形態における実施例においては、前記2層構造の繊維(PP−PE)を選択した。
【0022】
また、インク吸収体10の機能として、インクジェットカートリッジに適した負圧を設定することが求められる。該負圧は、インク吸収体10内に存在する空隙の寸法により主に決定される。すなわち、タンクケース12(図4参照)に形成されたインク収容部体積と該インク収容部に存在する繊維体積の割合(以下、繊維密度)と、繊維の直径により平均的な負圧が決定される。繊維密度は、各インクジェットカートリッジの求める負圧により適宜選択でき、本実施形態の実施例における平均繊維密度は、12%とした。繊維径においても負圧特性を満足できれば適宜選択することができ、本実施形態の実施例においては6.7デシテックスを選択した。繊維の長さについては、負圧特性に影響を及ぼす因子ではないが、製造上の取り扱いにより適宜選択することが可能である。繊維の長さは、ニードルパンチにより繊維同士が絡み合う長さ以上であれば適宜選択することができる。本実施形態の実施例では、検討の結果、繊維同士の絡み合うことで形状を保持するには、6mm長以上とすることが好ましいことが明らかとなった。本実施形態の実施例においては、インク吸収体の形にした後の形状保持性の観点より、50mm長の繊維を用いた。
【0023】
一般的に、ニードルパンチは、繊維をウェッブシートと呼ばれる比較的薄い(例えば10mm以下)状態に加工し、連続的に搬送しながら行われる。そのため、特許文献2に記載されているように、シートに対して上下の2方向のみ加工を行い、その後所望の寸法へ切断することで吸収体形状を得る。しかし、このように、シート形状から型抜きや切断にて吸収体形状へ加工を行うと、当然廃材が生じてしまう。さらに、所望の吸収体寸法が多種に渡るほど、原材料の使用効率が低下してしまう。そこで本発明では、原材料の使用効率を向上させるため、予め所望の繊維量を取り分けた後、ニードルパンチを実施する。
【0024】
図1(a)は、開繊した繊維を個片化した後、繊維を圧縮する工程を示したものである。具体的には、開繊した繊維101を圧縮した繊維102へ圧縮する工程を示している。開繊した繊維101は、繊維吸収体1個分となる重量に取り分けられた繊維を表している。
【0025】
取り分ける(個片化する)手法としては、汎用的な繊維業界の手法を用いることができる。例えば、繊維塊を粗開繊、カーディング(梳綿)することにより薄いウェッブシートを作製する。該ウェッブシートをスライバー形状へ加工した後、所定の寸法に切断することで、インク吸収体1個となる重量を取り分けることができる。
【0026】
開繊した繊維101の体積は適宜選択することができる。すなわち、個片化したスライバー状態を保ったままでも良いが、好適な例として圧縮空気の力や機械的な力によって綿菓子状に嵩高く開繊した状態とすることが挙げられる。
【0027】
次に、図1(a)に示すように、開繊した繊維101を圧縮して圧縮した繊維102を得る。圧縮した繊維102を得るには、吸収体寸法となるよう用意された型へ充填する手法や各方向より順次圧縮していき最終的に所望の寸法になるように圧縮する手法が挙げられる。本実施例では後者を選択し、具体的には、開繊した繊維101は圧縮板121により所望の寸法に圧縮され圧縮される。なお、図1において、高さ方向における圧縮板121は不図示である。
【0028】
次に、図1(b)に示すように、圧縮した繊維102をニードルパンチ加工用ケース205に収納する。
【0029】
ここで、図1(b)は、ニードルパンチ加工用ケース205に圧縮した繊維102を収納する工程を示したものである。図1(b)において、ニードルパンチ加工用ケース205は加工用枠体201及び加工用蓋203から構成されている。本実施例では直方体の形態を示したが、他の形態も適宜選択することができる。例えば、吸収体の毛管力を調整するため、吸収体の繊維密度に分布を持たせることもできる。その場合、ニードルパンチ加工用ケースの断面形状は、例えば台形や凸形状を選択することができる。
【0030】
加工用枠体201には、圧縮した繊維102の出し入れが可能となるように、1面が開口した形態や上下2面が開口した形態など適宜選択することができる。本実施形態の実施例では、上下2面が開口した形態を用い、加工用枠体201のほかに上下方向に蓋をする加工用蓋203を用意した。圧縮した繊維102を加工用枠体201へ挿入した後、該加工用蓋203にて閉じ、圧縮した繊維102の6面がニードルパンチ加工用ケース205で囲われた状態を得た。
【0031】
加工用枠体201及び加工用蓋203には、ニードルパンチを行う際にニードルを挿入できるように、予めニードル挿入用の穴202が複数形成されている。各々の面におけるニードル挿入用穴202の配置は、中にいれた繊維の反発力に対して適宜選択することができる。ニードル挿入用穴202のピッチが大きくなるほど、繊維反発力を抑制する力が弱くなることから、該ピッチは15mm以下が好ましく、好適には10mm以下に配置することができる。また、本実施形態の実施例においては、5mmピッチにニードル挿入用穴202を形成した。また、本実施形態の実施例においては、加工用蓋203を閉じた状態における加工用枠体201と加工用蓋203に形成されたニードル挿入用穴202は、各面のニードル挿入用穴から挿入されたニードルの軌道が互いに直交する位置関係とした。
【0032】
次に、図1(c)に示すように、ニードル挿入用穴202からニードルを挿入し、圧縮した繊維102をニードルパンチして成形する。
【0033】
ここで、図1(c)は、ニードルパンチ加工用ケース205内にて成形する工程を示したものである。具体的には、ニードルパンチ加工用ケース205へニードルパンチ用のニードル(不図示、以下ニードルとする)を挿入してニードルパンチを行う工程を示している。
【0034】
本実施例では、図1に示したような6面体のニードルパンチ加工用ケース205を選択したことから、ニードルを挿入可能な面として、X方向、Y方向、Z方向にそれぞれ直交する面がそれぞれ2面ずつ存在する。なお、以下、X方向に直交する面をX面、Y方向に直交する面をY面、Z方向に直交する面をZ面と簡略化する。X面、Y面、Z面はそれぞれ2面ずつ存在する。
【0035】
ここで、ニードルを挿入する面は、少なくともそれぞれ互いに垂直な3面が選択され、面数は3〜6面の間で適宜選択することができる。ニードルパンチ加工用ケース205の収容部に配置された圧縮した繊維102は、XYZ方向に反発力を有することから、少なくともXYZ方向の3方向からニードルパンチすることが必要である。また、6面全てからニードルパンチを実施することが好ましい。また、1面に複数個存在するニードル挿入用穴202に対してニードルを全て配置できれば、生産性の観点より一括にニードルパンチを行うことが好ましい。
【0036】
次に、図1(d)に示すように、ニードルパンチされて成形された繊維を取り出す。
【0037】
ここで、図1(d)は、成形された繊維を加工用ケース外へ取り出す工程を示したものである。具体的には、上下方向(Z方向)の加工用蓋203を外し、インク吸収体10を取り出す工程を示している。
【0038】
本実施例では、上下方向の2面を開放することにより、上方向から下方向へインク吸収体10を押し出し、ニードルパンチされたインク吸収体10を得た。
【0039】
ニードルパンチを行う面の順序や回数については、ニードルパンチ加工用ケース205より取り出したインク吸収体10が形状を保持できる範囲であれば適宜選択することができる。
【0040】
ここで、インク吸収体10の形状保持の観点からは、ニードルパンチを行う回数が多いほど良いと考えられるが、その分生産性は低下する傾向がある。そこで、良好な生産性を保ったまま適切なニードル挿入回数を決定すべく検討を行った。ニードル挿入用穴202を通して、ニードルパンチ加工用ケース205内の圧縮した繊維102へニードル1本を挿入した時、ニードルの受ける挿入抵抗力を以下のように測定した。挿入抵抗力の数値化には、デジタルフォースゲージ(株式会社イマダ製)を用い、該ゲージを単軸ロボットに取り付け、一定速度で稼動させた。このデジタルフォースゲージの先端にニードル1本を取り付け、ニードルを挿入する速度は5mm/sec、ニードル挿入量は20mmの条件で測定を行った。測定した結果を図2に示す。図2(a)は、同一のニードル挿入用穴202へ複数回ニードルを挿入した場合におけるニードル1本が受けた最大挿入抵抗力を示すグラフである。横軸はニードル挿入回数、縦軸はニードルが受ける挿入抵抗力を表している。挿入回数が増加するにつれて、ニードルが受ける挿入抵抗力は減少することが明らかとなった。前述したようにニードルパンチは、ニードルに形成されたバーブが繊維をひっかけ、内側へ繊維を移動させ繊維同士を絡ませることで、繊維反発力を抑制する。したがって、挿入回数が増加するにつれて、ニードルが受ける挿入抵抗力が減少するということは、ニードルに形成されたバーブに繊維がひっかかりにくくなることを示している。すなわち、ある回数からはニードルパンチの繊維を絡める効果が減少することを示している。
【0041】
本実施例においては、1箇所のニードル挿入用穴202において3回以上ニードルを挿入することにより、インク吸収体10の形状を好ましく保持することができた。ここで、挿入抵抗力の減少の度合い、即ち、変化率に着目してみると、次のような式で表すことができる。
【0042】
変化率(%)={(挿入抵抗力n−1回目)−(挿入抵抗力n回目)}/挿入抵抗力n回目×100
【0043】
図2(b)に挿入回数と挿入抵抗力の変化率との関係を示す。横軸はニードル挿入回数、縦軸は変化率を表している。上記検討では、ニードルパンチを一つの穴に3回以上行うことによりインク吸収体10の形状保持を好ましく行うことができたことから、挿入抵抗力の変化率が15%以下となる回数以上ニードルパンチを実施することが好ましい。つまり、ニードルの挿入抵抗力の変化率が少なくとも15%以下となるまでニードルを複数回挿入することが好ましい。生産性や繊維反発力のばらつきを考慮し、本実施形態の実施例においては、ニードルパンチを各穴につき10回ずつ行った。
【0044】
また、ニードルパンチする順序について以下に説明する。図3には、ニードルパンチ加工用ケース205の外観斜視図を示し、各面に対応するようX1、X2、Y1、Y2、Z1、Z2とニードルの挿入方向としての名称を記載した。ニードルパンチを行う順序は特に制限されるものではないが、6面全てニードルパンチする場合、例えば、まず各面に対して1回ずつニードルを挿入し6面行った後、挿入回数n回まで繰り返すことができる。具体的には、(Z1→Z2→X1→Y1→X2→Y2)→(Z1→Z2→X1→Y1→X2→Y2)→という順序でニードルを挿入することができる。さらに生産性を向上させるためには、Z1×n回→Z2×n回→X1×n回→Y1×n回→X2×n回→Y2×n回とする順序も好適な例として挙げられる。それは、ニードル挿入用穴202とニードルを位置決めする回数が最小となることにより、製造タクトが短縮できるからである。本実施形態の実施例では、後者の順序を選択した。
【0045】
得られたインク吸収体10は、タンクケース12へ挿入した。そして、インク吸収体10にインクを注入した後に蓋14を接合し、インクジェットカートリッジ11を得た(図4参照)。
【0046】
本実施例において製造したインクジェットカートリッジは、インク吐出デバイス(不図示)が取り付けられている形態であるが、インク吐出デバイスが分離されている形態においても当然に適用できる。
【0047】
本実施例におけるインク吸収体10は、3方向からのニードルパンチによって吸収体内部まで繊維が通っていることから、圧縮された繊維の反発力を抑制することができ、吸収体内部の負圧も設計どおりに制御することができた。その結果、得られたインクジェットカートリッジにてインク使い切り特性を評価したところ、良好な結果を得た。また、インク吸収体10に必要とされる繊維量を予め取り分けて個片化してから加工することにより、原材料である繊維の廃材を低減することが可能となる。
【0048】
(実施形態2)
本発明の第二の実施形態は、ニードルパンチ加工時に対向する面から同時にニードルパンチする製造方法に関する。以下に第一の実施形態で挙げた実施例と異なる点を中心に説明する。
【0049】
図5に示したようにニードルパンチ加工用ケース205のZ1、Z2方向からほぼ同時にニードルを挿入する形態について説明する。図5(a)は、ニードルパンチ加工用ケース205の斜視図である。図5(b)〜(c)は、図5(a)の線A−Aにおける断面模式図を使って説明したものである。図5(b)は、ニードル501がZ1面及びZ2面に形成されたニードル挿入用穴202に対して位置決めされた状態を示している。図5(c)は、Z1面とZ2面からほぼ同時にニードルパンチ加工用ケース502へニードル501が挿入された状態を示している。この際、図5(c)に示したように、圧縮された繊維102の内部には、上下のニードル501の先端の間にニードルが通らない領域が存在する。この上下のニードルの先端の間は、ニードルパンチによる繊維の絡まりがない。しかしながら、得られるインク吸収体10全体から見るとニードルパンチによる繊維の絡まりがない領域は少ないので、ニードルパンチを実施しない時よりも繊維の反発力は減少する。したがって、ニードルパンチ後にインク吸収体10が形状を保持できれば、繊維を絡めない領域範囲を適宜選択することが可能である。さらに、本実施例においては、Z1面とZ2面に関して示したが、X1面とX2面、Y1面とY2面も同様に実施できることは言うまでもない。加えて、X、Y、Z面全て実施しても良いし、各面を適宜選択しても良い。本実施例によれば、対向する両面からほぼ同時に加工を行うことが可能となることから、実施例1のように各面を個別にニードルパンチした場合と比較して、生産性をより高めることができる。
【0050】
(実施形態3)
本発明の第三の実施形態は、ニードルパンチ加工用ケースの各面に形成されたニードル挿入用穴202の配置がねじれの位置関係にある形態に関する。以下に第一の実施形態で挙げた実施例と異なる点を中心に説明する。
【0051】
本実施例におけるニードルパンチ加工用ケース210は、図6に示すように加工用枠体206、加工用蓋207から構成されている。ニードルパンチ加工用ケース206の各面に形成されたニードル挿入用穴202の位置関係はねじれの位置関係になっている。
【0052】
ここで、ねじれの位置関係とは、一つの面から挿入したニードルがこの面と垂直な他の面から挿入したニードルと接しないニードル挿入用穴の配置形態を言う。つまり、ねじれの位置関係にニードル挿入用穴を配置すれば、収納部の第1の面から挿入したニードルが前記第1の面と垂直関係にある面のいずれかから挿入したニードルと接しない。例えば、第1の面におけるニードル挿入用穴を通りかつ該面に垂直な線と、第1の面に垂直な第2の面におけるニードル挿入用穴を通りかつ該第2の面に垂直な線とが交わらない位置関係でそれぞれの面にニードル挿入穴を形成することができる。この際、ニードル挿入用穴を通る線はニードルと同じ径を有するものとする。このようにニードル挿入用穴をねじれ位置関係に形成することにより、各面から挿入したニードルは機械的に干渉しないことから、X1面とY1面といった対向していない複数の面から同時にニードルを挿入してニードルパンチすることが可能となる。したがって、さらなる生産性の向上を図ることができる。
【0053】
より具体的に図6(b)を用いて説明する。図6(b)は、図6(a)の一部の拡大模式図である。図6(b)において、直交する3つの線をそれぞれx方向、y方向、z方向とする。また、x方向に垂直な面をX面、y方向に垂直な面をY面、z方向に垂直な面をZ面とする。X面、Y面、Z面にはそれぞれニードル挿入用穴202が形成されている。図6(b)においては、ニードル挿入用穴はそれぞれ同径及び同ピッチで形成されている。X面におけるニードル挿入用穴202aは、Z面におけるニードル挿入用穴202cに対して、y方向にずれて配置されている。また、X面におけるニードル挿入用穴202aは、Y面におけるニードル挿入用穴202bに対して、z方向にずれて配置されている。同様に、Y面におけるニードル挿入用穴202bは、Z面におけるニードル挿入用穴202cに対して、x方向にずれて配置されている。このようなねじれ位置関係のニードル挿入用穴を用いてニードルを垂直に挿入してニードルパンチを行えば、複数の面から同時にニードルを挿入することが可能となる。
【0054】
また、圧縮した繊維102の繊維径や繊維材質等、さらには、ニードル径やバーブの形状および個数によっては、ニードルパンチ時のニードル挿入抵抗が繊維反発力よりも相対的に著しく大きくなることがある。その結果、ニードル挿入とともに繊維がニードルパンチ加工用ケース内で圧縮変形してしまうことがある。この場合、繊維同士を安定して絡めることができず、ニードルパンチの効果が低下してしまう場合がある。そこで、例えばX面にニードルを挿入した状態で、Y面からニードルを挿入することにより、繊維の変形を防止することができる。つまり、ニードルを挿入する際に、既に他面からのニードルにより繊維を串刺し状態としておくことで、ニードルパンチ加工用ケース210内における繊維の移動を極力制限することができる。このような方法を採用することにより、ニードルパンチ時における繊維の圧縮変形を抑制することができることから、繊維同士を安定的に絡めることができる。その結果、繊維同士から形成される空隙のサイズも安定させることが可能となる。
【0055】
(実施形態4)
本発明の第四の実施形態は、インク吸収体10においてインク供給口20に相当する部分へ近づくほど密にニードルを挿入する方法に関する。以下に第一の実施形態で挙げた実施例と異なる点を中心に説明する。
【0056】
図7(a)に示すように、本実施形態におけるニードルパンチ加工用ケース211は、ニードル挿入用穴202のピッチが部分的に異なるように形成されている。本実施形態において、タンクケース12へインク吸収体10を挿入した際にインク供給口20近傍に位置する部分が密にニードリングされる。つまり、インク吸収体におけるニードル挿入位置は、インク供給口の近傍に位置する領域が他の領域に比べて相対的に密になるように配置される。
【0057】
ここで、図7(a)において、Z2面はタンクケース12に挿入された際、インク供給口20と対向する面であり、Z1面はインクジェットカートリッジ用蓋部材14に対向する面を示している。X面及びY面についても同様、インク供給口20近傍に相当する部分におけるニードル挿入用穴は、他の箇所に比べて相対的に密になるように配置されている。具体的には、本実施例ではインク供給口20近傍に相当する部分の各ニードル間ピッチは3mm、その他の箇所は6mmとなるように配置した。
【0058】
図7(a)に示すように成形されたインク吸収体10は、図7(b)に示すように、タンクケース12に収容される。この際、上述のように相対的に密にニードリングした部分がインク供給口20と対向するように収容される。次に、図7(c)に示したように、インクジェットカートリッジ用蓋部材14を取り付ける。ここで、図7(d)は、図7(c)におけるB−B線における断面模式図であり、挿入されたインク吸収体10の配置状態を示している。インク吐出デバイス31へインクを供給するインク供給口20近傍におけるインク吸収体10のニードル挿入位置は他の箇所と比較して相対的に密に配置されている。
【0059】
また、図7(d)に示すように、インクジェットカートリッジ用蓋部材14に蓋リブ15を設けておくことにより、インク吸収体10とインク供給口20上に設置されたフィルター(不図示)と圧接を高めることができる。本実施形態のようにインク供給口20に対向する箇所のニードリング密度を高めることで、より圧接が高まりインク供給口20近傍の繊維密度が増加する。その結果、インク供給口20近傍の毛管力が高まり、インク供給特性を向上することができる。
【0060】
本実施例では、XYZ各面で実施した形態を示したが、例えばZ面だけインク供給口近傍に相当する部分を密にニードリングしてもよく、適宜選択することが可能である。本実施例においてはニードル挿入ピッチが3mmと6mmの2種類を選択したが、多段階となるようにピッチを変更しても良い。
【0061】
(実施形態5)
本発明の第五の実施形態は、ニードルパンチを行いながら、ニードルからの伝熱により、繊維吸収体を部分的に加熱溶着する方法に関する。以下に第一の実施形態で挙げた実施例と異なる点を中心に説明する。
【0062】
繊維の材質や繊維長さ等によっては、繊維の反発力をさらに抑制する手段が求められる。本実施形態におけるニードルパンチ用ニードルは、ニードルパンチ加工用ケース205へ挿入された際に加温可能な構成となっている。加温する方法としては、汎用的な手段を用いることができ、例えばヒーターからの伝熱が挙げられる。
【0063】
図8(a)は、本実施例に使用したニードルパンチ加工用ケース205の外観斜視図であり、図8(b)〜(d)は、図8(a)のC−C断面図を用いた工程フロー模式図である。図8(b)では、ニードル挿入用穴202に対して、加熱可能なニードル502が干渉しないように位置決めされている。この状態において、予めニードルを加温しておく。
【0064】
図8(c)は、ニードルが圧縮した繊維102へ挿入された状態を示す。加温された状態のニードル502は、ニードル502に形成されたバーブ(不図示)でニードルパンチ用蓋203付近の繊維をひっかけ、圧縮した繊維102の内部へ移動させていく。この際、ニードル502は加温されているため、伝熱によりニードル502近傍の繊維は、加熱溶融され、加熱溶融部503を形成する。
【0065】
図8(d)は、ニードル502をニードルパンチ用加工ケース205から抜いた状態を示したものである。このように内部へ挿入された繊維と、周囲の繊維が加熱融着することから効率的に繊維同士を融着することができる。
【0066】
本実施例では、PP−PEからなる芯鞘構造の繊維を用いた。本実施例におけるPPの融点は170℃、PEは130℃であり、ニードルパンチ時の加温条件は、160℃とした。加熱溶融部503は、繊維同士が完全に溶融し皮膜を形成しても良い。また、芯鞘構造の繊維を使用し、鞘部のみを溶融させて繊維間交点を融着させることが好ましい。
【0067】
繊維材質によっては、ニードルが挿入された状態(図8(c))にて、昇温することも可能である。この場合、なるべく生産性を低下させないために瞬間的に繊維を加熱溶融させることが好ましい。瞬間的に加熱する方法としては、ニードル502の材質に発熱抵抗体を用いてパルスヒート加熱し、繊維同士を溶着せしめる方法が挙げられる。
【0068】
このように本実施例によれば、繊維が有する反発力が強い場合においても、キュア炉などによって吸収体全体を固める手法よりも高い生産性を維持しつつ、繊維の反発力を抑えることが可能となる。
【0069】
(他の実施形態)
上述した各実施例ではプリンタなどの記録装置に着脱できるインクジェットカートリッジ11について適用したが、サブタンクや廃インク用の吸収体など記録装置において固定的に用いられる液体吸収部材についても本発明を適用することができる。また、インク吸収体10が1個の形態について説明したが、インク用の吸収体10がインクジェットカートリッジ11内に複数個搭載したインクジェットカートリッジについても適用することができる。さらに、各実施例では単色のインクジェットカートリッジ11について適用した例を示したが、複数色を有するインクジェットカートリッジに適用できることはいうまでもない。本発明においては、各吸収体の寸法や形状、繊維密度が異なる場合においても、原材料となる繊維の廃材を極力減らすことが可能であることから、より安価で顧客へ提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0070】
10 インク吸収体
11 インクジェットカートリッジ
12 タンクケース
14 インクジェットカートリッジ用蓋部材
15 蓋リブ
20 インク供給口
31 吐出デバイス
101 開繊した繊維
102 圧縮した繊維
121 圧縮板
201 加工用枠体
202 ニードル挿入用穴
203 加工用蓋
205 ニードルパンチ用加工ケース
206 加工用枠体(ねじれ位置型)
207 加工用蓋(ねじれ位置型)
210 ニードルパンチ用加工ケース(ねじれ位置型)
211 ニードルパンチ用加工ケース(ピッチ変更型)
501 ニードル
502 加熱可能なニードル
503 加熱溶融部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)開繊した繊維を個片化する工程と、
(2)前記開繊した繊維を圧縮する工程と、
(3)ニードル挿入用の穴が形成されているニードルパンチ加工用ケースに前記圧縮した繊維を収納する工程と、
(4)前記ニードルパンチ加工用ケース内にて、少なくとも互いに垂直関係にある3方向から前記穴を通してニードルを挿入することにより、ニードルパンチを行う工程と、
を含むことを特徴とする繊維吸収体の製造方法。
【請求項2】
前記ニードルパンチ加工用ケースの前記圧縮した繊維を収納する収納部は直方体形状又は立方体形状であり、該収納部のうち少なくともそれぞれ互いに垂直な3面に前記穴が配置されている請求項1に記載の繊維吸収体の製造方法。
【請求項3】
前記収納部の全ての面に前記穴が複数配置されている請求項2に記載の繊維吸収体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(4)において、前記穴から前記ニードルを垂直に挿入する請求項2又は3に記載の繊維吸収体の製造方法。
【請求項5】
前記収納部の面に配置された前記穴は、前記収納部の第1の面から挿入したニードルが前記第1の面と垂直関係にある面のいずれかから挿入したニードルと接しないねじれの位置に配置されている請求項4に記載の繊維吸収体の製造方法。
【請求項6】
前記工程(4)において、前記第1の面からニードルを挿入した状態で、前記第1の面と垂直関係にある面のいずれかからニードルを挿入する請求項5に記載の繊維吸収体の製造方法。
【請求項7】
前記工程(4)において、前記ニードルの挿入抵抗力の変化率が少なくとも15%以下となるまで、前記ニードルを複数回挿入する請求項1乃至6のいずれかに記載の繊維吸収体の製造方法。
【請求項8】
前記工程(4)において、前記ニードルを加熱することにより、前記ニードルの周囲の前記繊維を加熱溶融させる請求項1乃至7のいずれかに記載の繊維吸収体の製造方法。
【請求項9】
前記ニードルが発熱抵抗体である請求項8に記載の繊維吸収体の製造方法。
【請求項10】
前記繊維吸収体は、インク用の吸収体である請求項1乃至9のいずれかに記載の繊維吸収体の製造方法。
【請求項11】
前記繊維吸収体は、廃インク用の吸収体である請求項1乃至9のいずれかに記載の繊維吸収体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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