説明

繊維基材及びこの繊維基材を用いた樹脂製歯車

【課題】抄造法において、耐久性を向上させた繊維基材及びこの繊維基材を用いた樹脂製歯車を提供する。
【解決手段】短繊維の凝集体を集積して所定の形状に形成されている繊維基材である。この繊維基材は、媒体に、その凝集体を生成する濃度になるように短繊維を分散させ、当該短繊維の凝集体を生成した後に、所定形状に抄造することにより製造される。好ましくは、短繊維の分散濃度が、6g/リットル以上であり、媒体中における直径が3mm以上になった凝集体を含んだ状態で抄造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維基材及びこの繊維基材に樹脂を含浸させて成形した樹脂製歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
補強用繊維基材を用いた樹脂製回転体は、耐久性能に優れ、車輌用部品、産業用部品等に用いられる樹脂製歯車等として用いられている。樹脂製歯車を成形するための補強用繊維基材としては、筒状に織られた又は編まれた筒状体を、端部より裏返しながら巻き込みドーナツ状に形成した補強用繊維基材が、特許文献1に記載されている。特許文献1には、この補強用繊維基材に樹脂を含浸して、歯部を形成した樹脂製歯車も記載されている。特許文献1に記載されるものは、補強用繊維基材と、金属製ブッシュに設けた抜け止めとの結合強度を向上させるために、成形金型内で2つの補強用繊維基材を、金属製ブッシュを間に介して2段に重ね、金属製ブッシュの抜け止めを図っている。
また、熱硬化性樹脂と短繊維の補強繊維を主成分とする抄造シートをプレス抜きした、抄造紙シート素形体を複数枚積み重ねて、成形金型内で加熱加圧成形する樹脂製歯車の製造法が、特許文献2記載されている。
【0003】
これら樹脂製歯車は、2つの補強用繊維基材の重ね合わせ界面や抄造シート素形体の積層界面に、繊維の絡み合いが殆どなく、使用用途によっては、積層面で剥離が発生しやすいという心配がある。このことから、使用用途によっては樹脂製歯車の耐久性が不足する心配がある。
【0004】
この問題解決のために、短繊維の補強繊維を用いて抄造法による金型で短繊維の集積体を作ることも提案された。特許文献3には短繊維の補強繊維と熱硬化性樹脂の混合スラリーを、透水性金型内で加圧ないしは減圧脱水して短繊維と熱硬化性樹脂の集積体を得る製造法が開示されている。
また、特許文献4には、短繊維の集積体として、抄造法により得られる円筒状に継ぎ目なく形成された補強用繊維基材を成形金型内で加熱加圧成形する樹脂製歯車の製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−295913号公報
【特許文献2】特開平11−227061号公報
【特許文献3】特開2001−1413号公報
【特許文献4】特開2007−138146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3,4に記載されるものは、補強繊維基材の製造は湿式抄造法を採用している。湿式抄造法により短繊維の補強繊維を集積させた場合、補強繊維は、厚み方向に絡みの殆どない積層状態で配向される。このため、樹脂製歯車において、万一クラックが発生した場合、このクラックが、積層状態に配向された界面に沿って拡大進展しやすいという心配がある。このことから、使用用途によっては樹脂製歯車の耐久性が不足する心配がある。
また、湿式抄造法における補強繊維の形態は、短繊維が収束した繊維束の状態が一般的である。これを分散及び/又は混合するために、大量の水を使用している。このため、タンク等の大きな製造設備が必要となる。また抄造工程で発生した排水を処理する設備も必要となる。
【0007】
本発明は、上記問題点を鑑み、抄造法において、耐久性を向上させた繊維基材及びこの繊維基材を用いた樹脂製歯車を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のものに関する。
(1)短繊維の凝集体を集積して所定の形状に形成されていることを特徴とする繊維基材。
(2)短繊維としてアラミド繊維短繊維を含むことを特徴とする請求項1記載の繊維基材。
(3)項(1)又は(2)に記載の繊維基材に樹脂が保持され歯部が形成された樹脂製歯車。
(4)媒体に、その凝集体を生成する濃度になるように短繊維を分散させ、当該短繊維の凝集体を生成した後に、所定形状に抄造することを特徴とする繊維基材の製造法。
(5)短繊維の分散濃度が、6g/リットル以上であることを特徴とする請求項4記載の繊維基材の製造法。
(6)媒体中における直径が3mm以上になった凝集体を含んだ状態で抄造することを特徴とする繊維基材の製造法。
(7)媒体が水であり、アラミド繊維短繊維を含む短繊維を抄造する項(4)から(6)のいずれかに記載の繊維基材の製造法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、短繊維の凝集体を集積して所定の形状に形成された繊維基材を使用することによって、積層状態の配向とは異なる繊維配向を有した繊維基材を得ることを特徴とする。
具体的には、短繊維の凝集体が発生する濃度(アラミド短繊維使用時:6g/リットル)に調整し、短繊維の凝集体を意図的に発生させて抄造した繊維基材を作製することによって、積層状態の配向とは異なる繊維配向を有した繊維基材を得ることが可能になる。
【0010】
これにより、本発明の繊維基材及び樹脂製歯車は、万一クラックが発生した場合であっても、このクラックが、積層状態に配向された界面に沿って一気に拡大進展することがなく、短繊維の凝集体の部分で不規則に折れ曲がって徐々に進展するため、積層状態に配向された繊維基材に比べて、耐久性の高い繊維基材及び樹脂製歯車の提供を可能にする。
【0011】
また、一般的に抄造法は、低濃度の短繊維や樹脂を水等の媒体で均一に分散させるために、界面活性剤等の添加剤を添加している。このため、排水処理を行う高額な水処理設備が必要であるが、本発明では、短繊維の凝集体を発生させるために界面活性剤等の添加剤を添加せず、また高濃度化することで短繊維分散時に使用する水量を減らすことが可能になる。
更に、排水処理の際は、界面活性剤等の薬品の処理が不要であるので、排水処理設備にかける投資を抑制できる効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の1実施例である、樹脂製歯車の縦断面図である。
【図2】図1に示す樹脂製歯車の金属製ブッシュを示すものであり、(A)は平面図を示し、(B)は突出部の拡大縦断面図を示す。
【図3】本発明の繊維基材の作製工程を示す概略工程図である。
【図4】本発明の樹脂製歯車の作製工程を示す概略工程図である。
【図5】モータリング耐久試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(媒体)
本発明にて用いる媒体は、短繊維を分散可能であり、使用する短繊維に対して、性状を悪化させないものでれば、特に限定されるものではなく、有機溶媒、有機溶媒と水との混合物、水等を用いることができ、特に経済的で、環境への負荷が少ない、水を使用することが好ましい。
有機溶媒を用いる場合には、安全面に充分注意し、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、ジエチルエーテル等の有機溶媒を使用することも可能である。
【0014】
(短繊維)
本発明に用いる短繊維は、融点、又は分解温度が、250℃以上の短繊維からなるものが好ましい。このような短繊維を用いることで、成形時の成形温度や加工温度、実使用時の雰囲気温度において、短繊維が熱劣化を起こすことなく、耐熱性に優れた繊維基材又は樹脂製歯車とすることができる。このような短繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリケトン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、及びポリビニルアルコール系繊維から選ばれた、少なくとも1種以上の短繊維を使用することが好ましく、特に、パラ系アラミド繊維と、メタ系アラミド繊維との混合繊維を用いた場合には、耐熱性、強度、樹脂成形後の加工性のバランスが優れている。
【0015】
また、短繊維には、引張強度:15cN/dtex以上、引張弾性率:350cN/dtex以上の高強度高弾性率繊維を、少なくとも20体積%以上含むことが好ましい。このような短繊維を用いた場合は、使用中にかかる高負荷に耐え得るものとすることができる。
また、上記繊維の単繊維繊度(太さ)は、好ましくは、0.1〜5.5dtex、より好ましくは、0.3dtex〜2.5dtexの範囲である。0.1dtex未満の場合、製糸技術上困難な点が多く、断糸や毛羽が発生して良好な品質の繊維を使用することが困難なだけでなく、コストが高くなり好ましくない。5.5dtexを越えると、繊維の強度低下が、徐々に大きくなるため好ましくない。
短繊維の長さは、特に限定されるものではないが、好ましくは、1〜12mm、より好ましくは、2〜6mmである。繊維長が1mm未満の場合、短繊維の凝集体を形成するのが、徐々に困難になり好ましくない。繊維長さが、12mmを越えると、短繊維の絡み合いが大きすぎて均一な地合形成が困難になるだけでなく、水に分散させた短繊維を抄造圧縮装置に移送する配管内で、徐々に短繊維による詰まりが発生し易くなり好ましくない。
【0016】
短繊維の樹脂成形体中に含まれる割合は、所望する樹脂製歯車の強度等によって異なるが、30〜50体積%であることが好ましい。樹脂成形体中に占める短繊維の割合が30体積%未満である場合、樹脂を短繊維で補強する効果がほとんど見られず、また、後述する金属製ブッシュの回り止め部への短繊維の充填も不充分となる。短繊維の割合が50体積%を越えた場合は、短繊維の占める割合が高すぎるため、樹脂注入成形時に樹脂含浸不足が発生し易くなる等の問題が発生する。
そのため、樹脂成形体に含まれる短繊維の割合は、強度があり、短繊維が確実に充填され、しかも樹脂の含浸を阻害しない範囲を選択することが好ましく、35〜45体積%が、特に好ましい。
【0017】
(短繊維の分散濃度)
本発明にて述べる短繊維の分散濃度は、濃度:6g/リットル以上であり、好ましくは、10g/リットル以下である。繊維長を2mmより短くした場合、分散濃度を10g/リットルより高濃度化することが可能であるが、樹脂製歯車の機械特性が低下する。また、短繊維の繊維長を6mmより長くした場合は、分散濃度6g/リットルより低濃度でも短繊維の凝集体を発生させること可能であるが、短繊維の繊維束をほぐして解離することが困難になる。
【0018】
(短繊維の凝集体)
本発明にて述べる短繊維の凝集体の径は3mm以上が好ましい。凝集体の径が3mmより小さくなっていくと、凝集体を意図的に発生させて抄造した繊維基材を用いた樹脂製歯車に発生したクラックが凝集体部分で不規則に折れ曲り進行する亀裂の折れ曲がり量が少なくなり、積層配向に沿ったクラックの進行スピードとの差がなくなるため、樹脂製歯車の耐久性に差が無くなっていく。
【0019】
(樹脂製歯車)
本発明にて述べる樹脂製歯車は、繊維基材に樹脂を含浸硬化させ、歯車形状に成形したものであれば、特に限定されるものではない。より具体的には、歯車を回転させる回転軸に嵌合する金属製ブッシュと、この金属製ブッシュの周囲に配置される歯部とを有するものを、好適に使用することができる。
【0020】
<金属製ブッシュ>
図1は、模式的に示した本発明の1実施例である樹脂製歯車の縦断面図である。この樹脂製歯車1は、図示しない回転軸を中心にして回転する金属製ブッシュ2を備えている。金属製ブッシュ2の中央部には、図示しない軸が嵌合される貫通孔3が形成されている。
また、金属製ブッシュ2の外周部には、複数の回り止め部を構成する突出部4Aが、周方向に所定の間隔をあけて一体に形成されている。この間隔は、適宜決定されるものであるが、金属製ブッシュ2の中心部から見て、等角度間隔に設けることで、抜けに対する強度を均一にすることができる。
尚、金属製ブッシュ2は、軸が一体に形成されているものでもよい。
【0021】
金属製ブッシュ2について、具体的な一例を挙げて説明すると、複数の突出部4Aの軸線方向に測った厚み寸法L2は、金属製ブッシュ2の軸線方向に測った厚み寸法L1よりも小さい。金属製ブッシュ2は、焼結法により製造されたものを用いている。そして回り止め部を構成する突出部4Aは、頂部の厚さが厚く基部の厚さが薄いアンダーカット形状である。金属製ブッシュ2の回転軸方向断面での角度θが、5〜40°のものを用いている。
回転方向への負荷に耐える回り止め部の作用を高めるためには、図2に示すように、回り止め部となる突出部4Aは、少なくとも高さh1の突出部4Aと二つの突出部4A間に形成されて高さh2の底部を有する凹部4Bとが交互に配列されたものが好ましい。このようなアンダーカットの形状を持ち、角度θが、5〜40°の突出部4Aを用いると、後述する繊維基材5内に、回り止め部としての複数の突出部4Aが完全に埋まった状態となり、両者間の機械的結合の強度を充分なものとすることができる。尚、隣り合う二つの突出部4A間に形成される凹部4B内に繊維基材5の一部が入ることによっても、前述の機械的強度は当然にして増加する。
【0022】
<歯部>
歯部は、先に述べた金属製ブッシュの外周に配置される。先に説明した図1を用いて、より具体的に述べると、1つの繊維基材5が、金属製ブッシュ2の外周部4の外側の位置に、外周部4に嵌った状態で配置されている。そして、繊維基材5は、樹脂が含浸され且つ樹脂が硬化して形成された樹脂成形体6となる。歯部は、この樹脂成形体6の外周に形成される。
【0023】
<樹脂製歯車の作製>
繊維基材5は、図3に概略的に示すように、抄造と圧縮を連続して行うことができる抄造圧縮装置7を用いて、金属製ブッシュ2の外周部4の外側位置に繊維集積体8を形成し、この繊維集積体8を、金属製ブッシュ2を回転させる回転軸(図示省略)の軸線方向に圧縮することにより形成される。
【0024】
先ず、抄造法により金属製ブッシュの外周部の周囲に短繊維を集積させて、1以上の回り止め部を含む金属製ブッシュの外周部を囲む繊維集積体を形成する、第1のステップについて説明する。
図3(A)に示すように、抄造圧縮装置7で用いる金型は、圧縮動作時に繊維集積体8(図3(B)参照)が金属製ブッシュ2の径方向外側に広がるのを規制する筒状金型9と、この筒状金型9の内部に配置されて、金属製ブッシュ2の外周部よりも内側に位置する部分を軸線方向の両側から挟み且つ圧縮動作時に繊維集積体8が、金属製ブッシュ2の径方向内側に広がるのを規制する一対のブッシュ支持用金型10及び11と、筒状金型9と一対のブッシュ支持用金型10及び11の間に位置して、圧縮動作時に繊維集積体8を軸線方向両側から挟んで圧縮する一対の圧縮用金型12及び13を備えている。
そして下側となる圧縮用金型13では、繊維集積体8に含まれる水の透水性を付与するために、排水を行う貫通孔14が形成されている。この貫通孔14には、図示を省略する真空吸引するポンプを取付けると、排水を短時間で完了することができ好ましい。尚、この例では、排水時の短繊維流出防止のために、下側の圧縮用金型13の上面に、底部材15が配置されている。
この底部材15には、金網を使用でき、そのメッシュサイズを、10〜250メッシュとすることが好ましい。250メッシュより大きくなると、徐々に水と短繊維の濾過抵抗が大きくなり、金型の内部に入れた短繊維を含む後述のスラリーを、ポンプで吸引して水分を金型から排水させ、短繊維と水の分離を行う時間が長くなり、製造サイクルが長くなる。また、10メッシュより小さいと、繊維長が長い短繊維を使用しても網目(貫通孔)が大きいために短繊維の多くが、水と共に流出してしまう。そのために、繊維集積体8の繊維密度が著しく低下してしまう問題が発生する。
尚、本明細書にて用いるメッシュサイズは、JIS G 3555に規定されるものに順ずる。
一対のブッシュ支持用金型10及び11は、金属製ブッシュ2の外周部よりも内側に短繊維が入り込まないように、金属製ブッシュ2の外周部よりも内側に位置する部分を、筒状金型9の中心線が延びる方向の両側から挟んで支持する。図3に示す例では、下側のブッシュ支持用金型11、上側のブッシュ支持用金型10、下側の圧縮用金型13、上側の圧縮用金型12、及び筒状金型9はそれぞれ単独で上下に移動可能に構成されている。
金属製ブッシュ2を一対のブッシュ支持用金型10及び11の間に挟む場合には、図3(A)に示すように、上側のブッシュ支持用金型10が上方向に移動する。そして金属製ブッシュ2を下側のブッシュ支持用金型11の上に位置決めした後に、図3(B)に示すように、上側のブッシュ支持用金型10を下方向に移動して、一対のブッシュ支持用金型10及び11の間に金属製ブッシュ2を挟持する。
【0025】
短繊維と水とを混合して形成したスラリーは、図3(B)に示すように、筒状金型9の上側の開口部から供給される。そして真空吸引をして、下側の圧縮用金型13に設けた複数の貫通孔14から水分を排出することにより、金属製ブッシュ2の外周部の周囲を囲む繊維集積体8を形成する。このように一対のブッシュ支持用金型10及び11を用いると、金属製ブッシュ2の位置決めと支持を簡単に行うことができる。また、繊維集積体8の外周面の形状は、筒状金型9の内周面の形状によって定まる。その結果、筒状金型9の内周面を歯車形状とすることにより、繊維集積体8の外周面に歯車形状の凹凸を形成することも可能になる。なおスラリーの供給は、前記開口部の複数の場所から行ってもよい。
【0026】
次に、繊維集積体を回転軸の軸線方向に圧縮して繊維基材を形成する第2のステップについて説明する。
前述の抄造圧縮装置7で用いる金型であれば、一対の圧縮用金型12及び13で繊維集積体8を圧縮した場合に、金属製ブッシュ2の径方向の内側及び外側の両方向に短繊維が膨出するのを確実に阻止することができる。
下側の圧縮用金型13に設けた複数の貫通孔14から水分を排出した後、図3(C)に示すように、金属製ブッシュ2が、一対の圧縮用金型12と13の間の中央に位置する状態となる位置まで、上側の圧縮用金型12を下降させる。その後、図3(D)に示すように、金属製ブッシュ2が一対の圧縮用金型12及び13の中央に位置する状態で、一対の圧縮用金型12及び13をそれぞれ移動させ、繊維集積体8が所定の厚みとなるまで圧縮する。尚、圧縮を行う時間、温度は、使用する短繊維の種類によって任意であるが、前記圧縮の際、上側の圧縮用金型12にヒータを取り付け、加熱した状態で圧縮することにより、抄造後の繊維基材に含まれる水分を取り除く時間を短縮することができるとともに、圧縮後の繊維基材5の厚みの経時変化を抑えることができる。好ましくは使用する溶媒、本例では水の沸点以上の温度100〜180℃で、0.5〜10分間圧縮することにより、厚みの経時変化のほとんど無い繊維基材5を得ることができる。
また、前記圧縮の際、下側の圧縮用金型13の貫通孔14から真空吸引した状態で圧縮することにより、抄造後の繊維基材に含まれる水分を取り除く時間を短縮することができる。
更に、金属製ブッシュ2の外周部4に設けた回り止め部(図1に示す突出部4A)と樹脂部の結合を強固たるものとするためには、回り止め部は頂部の厚さが厚く基部の厚さが薄いアンダーカット形状であり、金属製ブッシュ2の横断面に対する角度が5〜40°、好ましくは、10〜35°であるものが効果的である。これは外径方向への抜け阻止に作用するものである。
上記アンダーカット形状を有した回り止め部を構成する突出部4Aは、焼結法で成形すれば、精度よく設計どおりに作ることができる。突出部4Aの最適構造は、たとえば外径60mmの樹脂製歯車の場合、突出部(山)の数が30であり、突出部の間に形成される凹部すなわち谷部分の数は29である。なおこれらの数は、樹脂製歯車の径や厚さ、歯の構造に応じて適宜変更される。
【0027】
抄造圧縮装置7を用いて繊維集積体8を金属製ブッシュ2と一体化して形成したものを次工程に移動又は搬送する際に、形状を維持するための強度を付与するためには、短繊維がアラミド繊維をフィブリル化処理した微細繊維を含み、微細繊維のフリーネスが100〜400mlであって、微細繊維の含有量が、短繊維中の30質量%以下になるように配合することが望ましい。望ましい態様としては、パラアラミド繊維の機械的剪断で繊維軸方向に裂開させたフィブリル化処理のアラミド微細繊維を混合することが好ましい。フリーネスが400mlを超えると、フィブリル化が不充分のため繊維基材の形状を維持するための強度を付与する上で好ましいものでなくなる。フリーネスが100ml未満になると、繊維軸方向に裂開させるだけでなく、径方向に剪断されて粉末状態になってしまうために繊維の絡みが悪くなって、繊維基材の形状を維持するための強度を付与する上で好ましいものでなくなる。また、濾水性が悪化し、樹脂含浸の妨げとなる。フィブリル化処理したアラミド微細繊維が30質量%を超えると、繊維間の隙間にフィブリル化した微細繊維が充填され、樹脂注入成形時に、樹脂の樹脂含浸が阻害され、含浸不良などの不具合が生じてしまうことがある。より好ましくは、適度な強度を付与し、樹脂含浸性を阻害しない5〜10質量%のフィブリル化した微細繊維を配合するのが好ましい。
繊維基材5又は繊維集積体8を形成するために用いる短繊維の種類は前述したように、種々のものを用いることができる。そして短繊維の長さは、好ましくは1〜12mmであり、より好ましくは2〜6mmである。繊維長が1mm未満の場合、繊維同士の絡みが少なくなり、短繊維の凝集体の発生が困難になるだけでなく、樹脂成形体の機械特性が低下する。また、繊維長が12mmを超えると、短繊維の凝集体の発生は容易になるが、繊維束を水中で解離し分散させるときに、繊維束の解離が困難になる。
【0028】
次に、繊維基材に樹脂を含浸させ、樹脂を硬化して樹脂成形体(歯部)を形成するステップについて説明する。
図4に示すように、繊維基材5を備えた樹脂製歯車成形用半加工品16を、金型17内に配置した後に、金型17に液状樹脂を注入して繊維基材5に樹脂を含浸させ、その後硬化させて、樹脂成形体を備えた樹脂製回転体を成形する。金型17は、固定金型18と、この固定金型18の中心に配置されて上下方向に変位する移動金型19と、この移動金型19と対になって金属製ブッシュ2を挟持する上金型20とを備えている。
【0029】
上金型20の押圧部20Aが、固定金型18内に挿入されて、金属製ブッシュ2を押圧すると、移動金型19は、上金型20の挿入量に応じて下方に変位する。上金型20で、固定金型18の開口部を完全に塞いだ後に、固定金型18内に液状樹脂が注入される。その後、樹脂が硬化したら、繊維基材5を芯材として成形された樹脂成形体を備えた樹脂製回転体を、金型17から取り出す。
このようにして成形した樹脂製回転体の樹脂成形体の外周部に機械加工を施して歯を形成すれば樹脂製歯車を得ることができる。また外周面に沿って溝を形成すれば、プーリを得ることができる。
【0030】
<樹脂>
繊維基材5に含浸させる樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の何れでも良く、エポキシ樹脂、ポリアミノアミド樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等から選ばれた1以上の樹脂と、選択された樹脂の種類に応じた硬化剤とを組み合わせたものが使用できる。
これらの中でも、樹脂硬化物の強度、耐熱性等の点からポリアミノアミド樹脂が好ましく、耐熱性、強度が優れる2,2’−(1,3フェニレン)ビス2−オキサゾリンとアミン硬化剤の混合物100質量部に対し、触媒には硬化促進剤として、例えば、n−オクチルブロマイドを5質量部以下からなる樹脂を使用することが好ましい。尚、この触媒を5質量部を超えて添加すると、硬化時間が短くなって、繊維基材5に樹脂が充分含浸される前に樹脂が硬化してしまうため、樹脂含浸不良の問題が発生し易くなる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を説明する。
[実施例1]
スラリーを製造するために、短繊維の分散濃度が、8g/リットルとなる量の水を満たしたタンクを用意する。そしてこのタンク内に、樹脂成形体中の短繊維総量が40体積%となる量の短繊維を入れる。具体的には、短繊維として、単繊維繊度:1.7dtex、繊維長:3mm長のパラ系アラミド短繊維(帝人株式会社製「テクノーラ(帝人株式会社商標)」)を45質量%と、単繊維繊度:2.2dtex、繊維長:3mm長のメタ系アラミド短繊維(帝人株式会社製「コーネックス(帝人株式会社商標)」)を50質量%、そしてデュポン株式会社製「ケブラー(デュポン株式会社商標)パルプ」をフリーネス値:300mlまでフィブリル化処理した微細繊維:5質量%となる量をそれぞれ投入する。次に攪拌機でタンク内の水を攪拌し短繊維を分散させ、短繊維の凝集体を発生させる。短繊維の凝集体の径が4mmに成長するまで攪拌を継続する。
【0032】
次に、図3(A)に示す抄造圧縮装置7を用いて、下側のブッシュ支持用金型11上に金属製ブッシュ2を位置決めする。使用する金属製ブッシュ2の突出部4A及び凹部4Bの形状(図2参照)は、h1=2mm、h2=0.5mmであり、アンダーカット形状で、金属製ブッシュ2の仮想中心横断面と側面との間の角度θが20°である。
そして、図3(B)に示すように、上側のブッシュ支持用金型10を下方向に移動して、一対のブッシュ支持用金型10及び11の間に金属製ブッシュを挟持する。ここで、下側の圧縮用金型13の位置は、金属製ブッシュ2の軸方向中央から底部材15上面までの距離が40mmとなる位置とした。この抄造圧縮装置7内に、分散させた短繊維を含むスラリーを充填する。そして、真空吸引をして下側の圧縮用金型13に設けた複数の貫通孔14から水を排水することにより、短繊維と水を分離して円筒状の繊維集積体8を得る。なお排水時に貫通孔14より短繊維が流出するのを防止するために、下側の圧縮用金型13上には底部材15を配置した。この底部材15としては金属製100メッシュの金網を用いた。
【0033】
次に金属製ブッシュ2の回り止め部にさらに強固に短繊維を喰い込ませるために圧縮を行う。まず図3(C)に示すように、150℃に加熱した上側の圧縮用金型12を、金属製ブッシュ2の軸方向中央から上側の圧縮用金型12下面までの距離が40mmとなる位置まで下降させる。この位置は、金属製ブッシュ2が一対の圧縮用金型12と13の間の中央に位置する状態となる位置である。そして、図3(D)に示すように、金属製ブッシュ2が一対の圧縮用金型12と13の間の中央に位置する状態で、一対の圧縮用金型12及び13をそれぞれ速度1〜5mm/sで相互に近づく方向に移動させ、繊維集積体8が厚み10mmとなるまで圧縮する。そして、加熱した状態で2分間圧縮することにより、金属製ブッシュ2と一体化した繊維基材5を得た。前記圧縮の際、下側の圧縮用金型13の貫通孔14から真空吸引した状態で圧縮している。
【0034】
更に、図4に示すように、上記の工程で得られた金属製ブッシュ2と一体化した繊維基材5を200℃に加熱した成形金型19に配置して型締めする。そして、成形金型19内部を圧力90kPa以下に減圧した後、2,2’−(1,3フェニレン)ビス2−オキサゾリン:69質量部、4,4’−ジアミノジフェニルメタン:31質量部を混合した樹脂を、温度140℃で溶解し、オクチルブロマイド:1質量部を加えて撹拌した樹脂を、金型内部に注入して繊維基材5に含浸させ、成形金型19内で加熱硬化し樹脂製回転体を得る。この樹脂製回転体を切削加工により歯を形成することにより樹脂製歯車を得る。
【0035】
[比較例1]
スラリーを製造するために、短繊維の分散濃度が、4g/リットルとなる量の水を満たしたタンクで短繊維を分散させ、短繊維の凝集体の発生していないスラリーを使用する以外は実施例1と同様にして樹脂製歯車を作製した。
【0036】
上記実施例1及び比較例1に示す方法で作製した樹脂製歯車を用いてモータリング耐久寿命を測定した結果を図5に示す。測定方法は、下記に示すとおりである。
モータリング耐久寿命:下記表1に示す試験条件により歯元応力を変化させて樹脂製歯車を連続回転させ、樹脂製歯車が破壊するまでの総回転数を測定した。
【0037】
【表1】

【0038】

図5の横軸は総回転数を示しており、縦軸は歯元に加わる歯元応力を示している。図5から分かるように、歯元応力が大きい場合でも、また小さい場合でも、同じ歯元応力が歯元に加わっている場合には、常に比較例1のほうが、少ない総回転数で破壊に至っている。このことから、本発明に係る樹脂製歯車は、短繊維の凝集体の発生する濃度に調整し、短繊維の凝集体を意図的に発生させて抄造した繊維基材を使用することにより、モータリング耐久寿命が大幅に向上することが理解できる。
【符号の説明】
【0039】
1…樹脂製歯車、2…金属製ブッシュ、3…貫通孔、4…外周部、4A…突出部、4B…凹部、5…繊維基材、6…樹脂成形体、7…抄造圧縮装置、8…繊維集積体、9…筒状金型、10…ブッシュ支持用金型、11…ブッシュ支持用金型、12…圧縮用金型、13…圧縮用金型、14…貫通孔、15…底部材、16…樹脂製歯車成形用半加工品、17…金型、18…固定金型、19…移動金型、20…上金型、20A…押圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短繊維の凝集体を集積して所定の形状に形成されていることを特徴とする繊維基材。
【請求項2】
短繊維としてアラミド繊維短繊維を含むことを特徴とする請求項1記載の繊維基材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の繊維基材に樹脂が保持され歯部が形成された樹脂製歯車。
【請求項4】
媒体に、その凝集体を生成する濃度になるように短繊維を分散させ、当該短繊維の凝集体を生成した後に、所定形状に抄造することを特徴とする繊維基材の製造法。
【請求項5】
短繊維の分散濃度が、6g/リットル以上であることを特徴とする請求項4記載の繊維基材の製造法。
【請求項6】
媒体中における直径が3mm以上になった凝集体を含んだ状態で抄造することを特徴とする繊維基材の製造法。
【請求項7】
媒体が水であり、アラミド繊維短繊維を含む短繊維を抄造する請求項4から6のいずれかに記載の繊維基材の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−99171(P2011−99171A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253585(P2009−253585)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】