説明

繊維構造物の製造方法

【課題】本発明は、染色されたポリアミド系繊維凝集体を含む繊維構造物に関するものであり、十分な発色性と湿潤堅牢性を満足させたなめらかな表面タッチと張りのある良好な風合いを有した繊維製品、およびその染色方法を提供するものである。
【解決手段】数平均による単繊維直径が1nm以上500nm以下であるポリアミド系繊維が凝集した繊維状凝集体を含むポリアミド系繊維構造物を染色する際に、反応性染料を用いて染色を行い、次いでフィックス処理を行うことによって得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド系繊維構造物の染色方法および染色物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド系繊維は衣料用途や産業資材用途に好適に用いられ、その用途の拡大により、繊維化技術のさらなる検討も活発に行われてきた。この中で特に、海島複合紡糸による極細繊維は、スエード調の人工皮革や、ピーチスキンやパウダータッチで優れた風合いの衣料用織物に広く展開されている。
【0003】
しかしながら、特に衣料用途、インテリア用途などに用いる場合には、審美性の点から淡色から濃色まで幅広い色濃度と色相を展開できることが望まれるが、極細繊維は一般に、表面積が大きいことにより表面反射が強くなり、したがって、濃色、鮮明色が得られにくいという欠点がある。また、繊維の表面積が大きいと水や界面活性剤の影響を受けやすく、洗濯時に染料が脱落しやすくなるため、堅牢度が悪いという問題点があり、濃色で堅牢度の良い極細繊維の染色品を得るために、これまで種々の検討が行われてきた。
【0004】
一方で、さらによりレベルの高い感性素材、高機能素材を得るために、究極に細い繊維が望まれた結果、単繊維の繊維直径が数百nm以下の繊維、いわゆる超極細繊維が開発されている。この超極細繊維を含む繊維構造物は、従来の極細繊維に比べ、更に洗濯による色落ちが悪い。したがって衣料用に必要な色濃度と堅牢度を両立できないという問題点があった。
【0005】
従来の極細繊維の染色に対しては、染色時の染料濃度を上げるなどの対策があるが、超極細繊維に対しては有効ではない場合が多い。また、比較的発色性と堅牢度の良好とされる金属錯塩型の染料を使用しても十分とは言えない。これらの問題に対し、超極細繊維の染色方法として、反応性染料を用いpH3〜8の染色浴で染色する方法が提示されている(特許文献1)。しかしながら、この方法では湿潤堅牢性は確かに向上するものの、満足した発色性が得られないという問題があった。
【0006】
したがって、繊維直径が数百nm以下のポリアミド系繊維の発色性と堅牢度とが両立する加工条件は得られていないのが実状であった。
【特許文献1】特開平11−152690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、発色性と湿潤堅牢性を満足させ、かつ鮮明な色相を表現できるポリアミド系繊維構造物の染色方法および染色物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、本発明の繊維構造物の染色方法、すなわち、数平均による単繊維直径が1nm以上500nm以下のポリアミド系繊維が凝集してなる、直径5μm以上500μm以下の太さの繊維状凝集体を含む繊維構造物を、反応性染料の濃度が、繊維重量に対し12重量%以上、60重量%以下となる条件で反応性染料を用いて染色を行い、その後フィックス処理する繊維構造物の染色方法により達成される。
さらに、本発明の繊維構造物の染色物は、上記染色方法によって得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発色性と湿潤堅牢性を満足させ、かつ、鮮明な色相を表現できるポリアミド系繊維構造物を提供することができ、衣料用にも展開可能な新規高付加価値繊維製品の展開が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明におけるポリアミド系繊維構造物は、数平均による単繊維直径が1nm以上500nm以下であるポリアミド系繊維を含むことが重要である。
【0011】
ポリアミド系繊維としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610などいずれも使用することができる。含有するアミノ末端基量は特に限定されず、また、すべて同じものを使用する必要はない。アミノ末端基量の異なるポリアミド系繊維を混合させて使用することができる。また、かかるポリアミド系繊維の他にポリエステル、ポリウレタン、アクリル等の合成繊維、綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維、レーヨン、テンセル等の半合成繊維など、他の繊維を含有していてもよい。またこれらポリエステル、アクリル、ポリウレタン等の合成高分子がコーティングまたは含浸などによって付与されていてもよい。また、上記単繊維直径以外に通常の繊度のポリアミド系繊維をミックスさせたものでもよい。単繊維直径が上記範囲外でも本発明により染色することが可能であるが、従来から使用されている酸性染料と比較して堅牢性の効果の差が小さい。本発明では数平均による単繊維直径が1nm以上500nm以下のポリアミド系繊維に対して有用な方法である。数平均による単繊維直径が1nm未満の場合、繊維構造物が十分な色濃度が得られず、また、十分な強度を得ることができない。一方、数平均による単繊維直径が500nmを越えると繊維径の極小さい繊維特有のなめらかな表面タッチ、柔らかな風合いのものが得られない。
【0012】
さらに本発明におけるポリアミド系繊維構造物は、上記数平均による単繊維直径が1nm以上500nm以下である繊維が凝集した繊維状凝集体(以下単にこれを繊維状凝集体と呼ぶことがある。)として含むことを特徴とする。かかる繊維状凝集体は各構成要素は極細繊維(単繊維直径が1nm以上500nm以下の繊維。以下、同じ。)繊維そのものでありながら、集合体としては直径の太い一般的な通常繊維様の形態を有している。そのため、高い比表面積、柔軟性等の極細繊維の特徴と、ハリコシのある風合い、形態安定性、発色性といった直径の太い一般的な通常繊維の特徴を併せ持っている。かかる繊維状凝集体を強固なものとするためには、繊維の数平均による単繊維直径はより小さい方が好ましい。しかし、逆に小さすぎると、繊維状凝集体の強度の低下を招く場合がある。したがって、ポリアミド系繊維の数平均による単繊維直径は、上記のとおり1nm以上500nm以下が必要であるが、好ましくは20〜300nm、より好ましくは30〜150nm、さらに好ましくは30〜100nmである。
【0013】
ここで、数平均による単繊維直径は以下のようにして求めることができる。すなわち、繊維状凝集体の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、同一横断面内で無作為抽出した300本の単繊維の円相当直径で測定し、これらを平均することで求めることができる。
【0014】
本発明においては、繊維状凝集体は直径5μm以上500μm以下の太さの繊維状に凝集したものであることを特徴とする。直径5μm以上であれば、繊維構造物が十分な強度とハリコシのある風合いになり、また、500μm以下であれば、柔軟な風合いを有する繊維構造物が得られる。さらに好ましくは、5μm以上100μm以下であれば、天然の麻に似た、美しい発色性と張りコシのある繊維構造体とすることが出来る。一例として、繊維状凝集体からなる織物表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図1に示す。
【0015】
繊維状凝集体の直径は以下のようにして測定する。すなわち、倍率200倍のSEMによる、繊維構造体の断面拡大写真から、繊維の繊維状凝集体の太さを計測し、10カ所の平均値をとって、平均直径とする。該繊維状凝集体の断面が円でない場合は、該断面の面積を求め、それと同じ面積となる円の直径を繊維状集合体の直径とする。
【0016】
本発明で言う繊維状凝集体とは、繊維の繊維軸方向がそろって集合した束状物のことであり、数百本から数百万本の繊維が凝集し、あたかも一本の繊維状に見えるものである。これにより繊維状凝集体にならない従来の極細繊維からなる構造物に比べ、極細繊維の持つ特有の風合いを維持しつつ、あたかも一本の繊維状に見えることによって、単繊維の細さに起因する表面反射による発色性の低下を押さえ、落ち着いた色相の発色性を得ることができるのである。
【0017】
本発明で用いる繊維の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば特開2004−162244号公報に記載の方法を採用することができる。
【0018】
すなわち、2種類以上の溶剤に対する溶解性の異なるポリマーをアロイ化したポリマーアロイ溶融体となし、これを紡糸した後、冷却固化して繊維化する。そして必要に応じて延伸・熱処理を施しポリマーアロイ繊維を得る。その後、海成分である易溶解性ポリマーを溶剤で除去し、難溶解性ポリマーを残すことにより本発明で用いる繊維を得ることができるのであるが、その際、溶剤としては水溶液系のものを用いることが環境負荷を低減する観点から好ましい。具体的にはアルカリ水溶液や熱水を用いることが好ましい。このため、易溶解ポリマーとしては、ポリエステルやポリカーボネート(PC)等のアルカリ加水分解されるポリマーやポリアルキレングリコールやポリビニルアルコールおよびそれらの誘導体等の熱水可溶性ポリマーが好ましい。
【0019】
さらに、アルカリ水溶液や熱水を用いて易溶解ポリマーを除去する際、または除去した後に、水を水流となして織編物に接触させると、易溶解ポリマーの除去性が高まるだけでなく、繊維の集合体表面で、繊維の単繊維同士のからみあいが生じ、また、その後、織編物から水が蒸発する際に更に強く凝集した結果、繊維状凝集体になるという効果が得られる。
【0020】
したがって、易溶解ポリマーの溶解時やその後の水系処理工程においては、液と繊維構造物が共に静止状態にある吊り練りや、パッドスチーム法よりも、液もしくは繊維構造物が移動するジッガーやパドル、さらには、液も繊維構造物も移動し強い力で接触する液流染色機を好ましく用いることが出来る。
【0021】
次いで本発明のポリアミド系繊維構造物の染色方法について説明する。本発明の染色において、反応性染料を用いて染色することが重要である。
【0022】
本発明でいう反応性染料とは、一般にヒドロキシル基やアミノ基に対し共有結合性を有する反応基を有する染料をいう。この反応基としては例えば、モノクロロトリアジン基、モノフルオロトリアジン基、カルボキシピリジニオトリアジン基、ジクロロトリアジン基など、また、ビニルスルホン基、スルファトエチルスルホン基など、フルオロクロロピリミジン基、トリクロロピリミジン基など、ブロモアクリルアミド基等の公知の反応基を少なくとも1つ以上有する染料であるがこれに限らず公知の反応基を適用できる。それらの中でも特に、以下の化学式1で表されるトリアジン誘導体を反応基として有する反応染料は、ポリアミド繊維との反応性が高く、発色性、洗濯堅牢性に優れるので特に好適に用いることができる。
【0023】
【化1】

【0024】
染料はこれらの反応基を1つ以上有していれば特に限定されず、例えばモノクロロトリアジン基を分子内に2つ以上有している染料やモノクロロトリアジン基又はモノフルオロトリアジン基とスルファトエチルスルホン基を同一分子内に含む異種反応基型染料でもよい。こういった反応基を持つ染料としては例えば、Sumifix、Sumifix Supra、Remazol、Celmazol、Levafix、Procion、Cibacron、Basilen、Drimarene,Drimalan、Lanasol、Kayacion、Mikacion、Kayaceron、React、Verofix、Realan等の冠称名で市販されているものを用いることができる。
【0025】
さらに、本発明の製造方法において、使用する反応性染料の濃度は繊維重量に対して12重量%以上60重量%以下であり、好ましくは、15重量%以上40重量%以下である。12重量%未満では十分な色濃度が表現できない場合があり、また60重量%を越えると、染色液量が少ない場合などでは染料の溶解性が不十分となり表面品位に悪影響を及ぼしたりあるいは染色機の汚れにも繋がる。
【0026】
また、ここでいう反応性染料の重量とは、反応性染料の溶解性や分散性などを高める目的で反応性染料の純分以外に市販品などに通常配合されている添加物の重量も含んだ状態のものをいう。溶液タイプの反応性染料の場合も溶液全体の重量のことをいう。
【0027】
本発明の製造方法における染液のpHは3〜8であることが好ましく、より好ましくは4〜7、さらに好ましくは4〜5.5に調整するのが染料利用効率、又は吸尽率の点から好ましい。pH3未満であると吸尽率は向上するが染色物の堅牢度が低下する。pH8を越えると吸尽率、利用率が低下して濃色が表現できず、また、反応性染料の利用率が低く排水負荷や経済性の点で不利となる。pH調整には、酸または緩衝液を適宜調整できる。その際に使用する酸や塩等は特に限定されず、酸発生剤としては、酢酸、蟻酸、塩酸等を使用することができ、硫酸アンモニウム等のpHスライド剤も使用することができる。緩衝液としては、酢酸と酢酸ナトリウムにより調整されたもの等を使用することができる。また、染料と水以外に何も添加しなくても、前記pHが達成されていれば、本発明の効果を達成することができる。
【0028】
本発明における染液は、前記構成物質の他、必要に応じて塩類、海面活性剤、均染剤、堅牢度向上剤、還元防止剤等を添加することができる。
【0029】
本発明では浸染、捺染、連続染色(パディング)、インクジェット染色等種々公知の染色方法を使用することができ、浸染の場合は60℃以上、好ましくは90〜130℃で30分〜90分程度加熱処理する。用いる染色機は、ジッガー、パドル、液流染色機をはじめ、繊維構造物に合わせて種々公知の染色機を用いることができる。また捺染およびパディング処方では、色糊として、本発明の反応性染料と糊剤等を好ましくはpH3〜8、より好ましくは4〜5.5に調整して付与した後に80〜130℃で10〜30分程度、飽和または加熱蒸気による湿熱処理、乾熱処理またはマイクロ波照射する。
【0030】
次いで本発明の製造方法は、染色後にフィックス処理を行うことが重要である。
【0031】
本発明で言うフィックス処理とは、染色後に、弱い結合力で染着している染料や未固着染料を繊維内部、あるいは繊維表面に封じ込めたり固着させたりする処理のことをいい、強固に固着した染料においてもさらに脱落しにくくする。本発明でいうフックス処理剤はこのような機能を付与する薬剤のことをいう。
【0032】
本発明におけるポリアミド系繊維構造物は繊維状凝集体で構成されているが、該繊維状凝集体表面も繊維で構成されているので、ランダムな凹凸や、微細な繊維間隙が多数存在して、凹凸や微細な繊維間隙にフィックス剤が吸着しやすい特性を持つ。そのため、染色後のフィックス処理が極めて有効に作用し、染色堅牢性の高い繊維構造物が得られるのである。
【0033】
本発明におけるフィックス処理剤としては、二浴法であればタンニンと吐酒石酸、一浴法であればポリアミン系カチオン樹脂、アリールスルフォン酸縮合物、ジシアンジアミド系樹脂などを使用することができ、特にポリエチレンポリアミン化合物が好ましく用いられる。
【0034】
製品名としてはCIBAFIX ECO、ERIOFAST FIX、CIBATEX RN、ネオフィックス KM―11、センカフィックス 401、センカフィックスSZ−2、センカフィックスE−300、ナイロンフィックスTH、ネオフィックスR―250、ネオフィックスR−800、ネオフィックスRD−5、ネオフィックスCF−20、ネオフィックスKM−11、ネオフィックスRP−70、ネオフィックスRP−70C、サンライフFW、サンライフTN、サンライフTN−8、サンライフE−37、サンライフE−48、サンライフEPS―3,サンライフTA200、SZ−9904、タンニンSSなどを好ましく用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
いずれも単独で使用することも複数を混合して使用することも、複数回処理することもできる。また樹脂剤、柔軟剤、風合い調整剤、耐光剤など、フィックス処理剤以外の薬剤と併用することもできる。
【0036】
フィックス剤の処理濃度は、フィックス剤の固形分濃度が繊維重量に対し、1.0〜20重量%であることが好ましく、さらに好ましくは1.6〜5重量%である。1.0%未満では染料の繊維への固着効果が少なく堅牢度に悪影響を及ぼす場合があり、20重量%を越えると風合いが硬化したり、あるいは着色して色相に影響を及ぼす場合があるため好ましくない。
【0037】
フィックス処理方法は、浸漬法、連続(パディング)処方等公知の方法を使用することができる。浸漬法の場合は30〜100℃の浴中で20〜40分程度処理するのが好ましい。また酢酸、酢酸ソーダ、硫安などのpH調整剤を添加することができる。用いる装置は、ジッガー、パドル、液流染色機など、繊維構造物に合わせて種々公知の染色機などを用いることができる。パディング処方では、フィックス剤を付与後、40〜110℃で10〜30分程度、飽和または加熱蒸気による湿熱処理、乾熱処理またはマイクロ波照射する。
【0038】
本発明の製造方法は、染色後はソーピングを行わずに、先にフィックス処理を行うことが好ましい。ここでいうソーピング処理とは未固着染料や弱い結合力で染着している脱落しやすい染料を取り除く処理のことを言い、本発明の染色方法は、フィックス後にソーピングを行うことが好ましい。ソーピング処理をフィックス処理後に行うことで、染色堅牢度をさらに向上させることができるため好ましい。ソーピング処理方法は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ発生剤等を、0.2〜3g/L程度添加した浴中にて40〜90℃程度の温度で処理することが好ましい。また、これらアルカリ発生剤と界面活性剤を併用することもできる。
【0039】
本発明の製造方法は、反応性染料での染色前後に分散染料やカチオン染料、酸性染料など反応性染料以外の染料を用いて染色をすることができ、また、染料等のイオン性を考慮すれば反応性染料と同時に染色することもできる。ポリアミド系以外の繊維が含有している場合に有用である。この場合の染色は通常用いる公知の染色方法が使用できる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0041】
A.繊維の数平均による直径
単繊維の数平均直径は以下のようにして求める。すなわち、TEMによる4万倍の繊維横断面写真を三谷商事(株)製の画像処理ソフト(WINROOF)を用いて単繊維の面積から直径を計算し、それの単純な平均値を求めた。これを「数平均による単繊維直径」とした。この時、平均に用いる繊維数は同一横断面内で無作為抽出した300本とし、計算した。
【0042】
B.繊維状凝集体の平均直径
倍率200倍のSEMによる、繊維構造体の断面拡大写真から、繊維の繊維状凝集体の太さを計測し、10カ所の平均値をとって、平均直径とした。該繊維状凝集物の断面が円でない場合は、該断面の面積を求め、それと同じ面積となる円の直径を繊維状集合体の直径とした。
【0043】
C.洗濯に対する染色堅ろう度試験方法
サンプルをJIS L0844.6.1.a)により試験片を調整し、JIS L0844.7.1.A−2(2005)「洗濯に対する染色堅ろう度試験方法」 に従って、洗濯堅牢度を評価し級判定した。
【0044】
実施例1
ナイロン6とポリ乳酸(PLA)を用い、ナイロン6のブレンド率を40重量%、PLAのブレンド率を60重量%とし、混練温度を220℃として溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。
【0045】
このポリマーアロイチップを溶融温度230℃で融解し、紡糸温度230℃のスピンブロックに導いた。そして、口金面温度215℃とした口金から溶融紡糸した。これにより、100dtex、36フィラメントの高配向未延伸糸を得た。この高配向未延伸糸を延伸熱処理し、ポリマーアロイ繊維を得た。
【0046】
得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、PLAが海、ナイロン6が島の海島構造を示し、島ナイロン6の数平均による直径は95nm(単繊維径のCV値は25%)であり、ナイロン6がナノサイズで均一分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。
【0047】
このポリマーアロイ繊維を2本合糸し、経緯に用いて、平織物を作成した。この平織物を、液流染色機を用いて、3%の水酸化ナトリウム水溶液で90℃60分間処理し、海ポリマーであるPLAを除去することで、ナイロン6の極細繊維からなる平織物を得た。この繊維の数平均による単繊維直径は95nmと従来にない細さであった。
【0048】
この平織物に、次の処方、条件で染色を行った。
[処方]
・Levafix Brilliant Red E−4BA((株)ダイスタージャパン社製 反応染料) 15%owf
・アルベガールB(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 均染剤) 2%owf
これらの混合液を、酢酸と酢酸ソーダにてpH5に調整した。
[条件]
・浴比 1:50
・染色機 サーキュラー染色機(液流染色機)
・染色 1分間に1℃の速度で98℃まで昇温し、98℃で40分キープする。次に、60℃まで降温し、排液する。
・水洗 オーバーフロー5分間処理し、排液する。
その後同じ染色機内で次の処方でフィックス処理を行った。
[処方]
・CIBAFIX ECO(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 12%owf
[条件]
・処理 40℃で20分間キープする。
・浴比 1:50
・水洗 オーバーフロー5分間処理し、排液する。
さらに同じ染色機内で次の処方でソーピング処理を行った。
[処方]
・炭酸ナトリウム1g/L液
[条件]
・処理 1分間に1℃の速度で90℃まで昇温し、90℃で20分キープする。
・浴比 1:50
次いで、同じ染色機内で次の処方で中和処理を行った。
[処方]
・酢酸1g/L液
[条件]
・処理 40℃で5分処理
・水洗 オーバーフロー水洗10分間。
【0049】
その後、遠心脱水機で脱水し、セーフティーオーブンにて60℃で30分間乾燥処理を行った。その結果、得られたナイロン繊維平織物は鮮明な赤色に着色されており、また、従来のナイロン織物のようなぬめり感はなく、薄地でありながら張りコシがあり、織物表面は非常になめらかな感触で、従来にない風合いであった。
【0050】
この織物の表面をSEMで観察した結果、繊維が寄り集まった糸状の凝集体構造になっており、繊維状凝集体の直径は平均160μmであった。
【0051】
この平織物の洗濯堅牢度を評価したところ、変退色5級、汚染(綿:5級、ナイロン:5級)、色落ち4−5級で、実用上問題のない堅牢度を有していた。結果を表1に示した。
【0052】
実施例2
実施例1と同じナイロンの繊維平織物を用いて、次の処方で染色を行った。
[処方]
・Levafix Brilliant Blue E−BRA((株)ダイスタージャパン社製 反応染料) 15%owf
・アルベガールB(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 均染剤) 2%owf
これらの混合液を、酢酸と酢酸ソーダにて液をpH5に調整した。
[条件]
・浴比 1:50
・染色機 サーキュラー染色機(液流染色機)
・染色 1分間に1℃の速度で98℃まで昇温し、98℃で40分キープする。次に、60℃まで降温し、排液する。
・水洗 オーバーフロー5分間処理し、排液する。
その後同じ染色機内で次の処方でフィックス処理を行った。
[処方]
・CIBAFIX ECO(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 12%owf
[条件]
・処理 40℃で20分間キープする。
・浴比 1:50
・水洗 オーバーフロー5分間処理し、排液する。
【0053】
その後、遠心脱水機で脱水し、セーフティーオーブンにて60℃で30分間乾燥処理を行った。
【0054】
その結果、得られたナイロン繊維平織物は鮮明な青色に着色されており、また、実施例1と同様に非常になめらかな感触で、従来にない風合いであった。
【0055】
この織物の表面をSEMで観察した結果、繊維が寄り集まった糸状の凝集体構造になっており、繊維状凝集体の直径は平均162μm、繊維の数平均による単繊維直径は95nmと従来にない細さであった。
【0056】
この平織物の洗濯堅牢度を評価したところ、変退色4−5級、汚染(綿:4−5級、ナイロン:5級)、色落ち4−5級で、実用上問題のない堅牢度を有していた。結果を表1に示した。
【0057】
実施例3
実施例1のナイロン6のブレンド率を20重量%、ポリL乳酸のブレンド率を80重量%に変え、溶融混練して、ポリマーアロイチップを得た。このチップを実施例1と同様に溶融紡糸し、55dtex、36フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。この繊維を丸編みし、実施例1同様にしてPLAの脱海を行った結果、繊維状凝集体からなる丸編物が得られた。この繊維の数平均による単繊維直径は90nmであった。この編物の表面をSEMで観察した結果、繊維が寄り集まった糸状の凝集体構造の直径は平均50μmであった。
【0058】
この丸編物を、実施例1と同様にして反応性染料にて染色、フィックス、ソーピングを行った。得られた丸編物は鮮明な赤色に着色されていた。
【0059】
この丸編物は、非常に薄く軽いものであり、やや張りコシと強度に欠けるが、美しい赤色の編物であった。洗濯堅牢度を評価したところ、変退色4−5級、汚染(綿:5級、ナイロン:5級)、色落ち4級で、実用上問題のない堅牢度を有していた。
【0060】
実施例4
実施例1と同じポリマーを用いて同条件で混練を行い、更に実施例より紡糸温度を上げ、250℃とし、溶融紡糸を行い、ポリマーアロイ繊維を得た。このポリマーアロイ繊維を、経緯に用いて、実施例1と同様の平織物を作成した。実施例1同様にPLAの脱海を行った結果、繊維状凝集体からなる平織物が得られた。この平織物を構成する繊維の単繊維直径の数平均は250nmであり、繊維からなる凝集体の平均直径は250μmであった。この平織物に、実施例1と同様に反応性染料により染色、フィックス、ソーピングを行った。得られた織物の風合いは、張りコシがあるうえに、実施例1よりはふんわりしたピーチタッチの風合いも感じられ、美しい光沢と鮮やかな赤色に着色されたものであった。洗濯堅牢度は、変退色5級、汚染(綿:5級、ナイロン:5級)、色落ち4−5級で、衣料用として十分使用可能な耐久性が得られていた。結果を表1に示した。
【0061】
実施例5
実施例1の染料濃度を20%owf、フィックス剤(CIBAFIX ECO)の濃度を18%owfとする以外は、実施例1と同様にして平織物を作成した。その結果、得られた織物は、鮮明な赤色で、実施例1よりさらに深みのあるものであった。結果を表1に示した。
【0062】
比較例1
染料濃度を8%ととする以外は実施例1と同じようにして平織物を作成した。その結果得られた織物は、洗濯堅牢度を調べたところ、変退色5級、汚染(綿:5級、ナイロン:5級)、色落ち4−5級と衣料用として十分使用可能な耐久性が得られていたものの、淡い赤色にしか染着しなかった。結果を表1に示した。
【0063】
比較例2
実施例1と同じナイロンの平織物を用いて、次の処方で酸性含金染料による染色を行った。
[処方]
・Lanacron Red S―G(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、酸性含金染料) 15%owf
・アルベガールB(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 均染剤) 2%owf
・硫酸アンモニウム 3G/L
[条件]
・浴比 1:50
・染色機 サーキュラー染色機(液流染色機)
・処理 1℃/分で昇温し、98℃で40分キープする。次に、60℃まで降温し、排液する。
・水洗 オーバーフローで5分間水洗。
その後同じ染色機内で次の処方でフィックス処理を行った。
[処方]
・タンニンSS(オー・ジー株式会社製 天然タンニン酸) 10%owf、
・酢酸 2g/L
[条件]
・浴比 1:50
・処理 80℃で20分間処理。
さらに同じ染色機内で次の処方で固着処理を行った。
[処方]
・ニューパワロン(オー・ジー株式会社製 吐酒石) 10%owf
[条件]
・浴比 1:50
・処理 80℃で20分間処理
・水洗 オーバーフローで5分間水洗。
さらに同じ染色機内で次の処方でソーピング処理を行った。
[処方]
・炭酸ナトリウム1g/L液
[条件]
・浴比 1:50
・処理 1分間に1℃の速度で90℃まで昇温し、90℃で20分キープする。
次いで、同じ染色機内で次の処方で中和処理を行った。
[処方]
・酢酸1g/L液
[条件]
・処理 40℃で5分処理
・水洗 オーバーフロー水洗10分間。
【0064】
次いで、セーフティーオーブンにて60℃で30分間乾燥処理を行った。この織物の表面をSEMで観察した結果、繊維が寄り集まった糸状の凝集体構造になっており、凝集体の直径は平均170μm、繊維の数平均による単繊維直径は98nmであり、風合いは、実施例1と同様であったが、織物の色相は鮮明性に欠けた淡い赤色であった。また非常に色落ちが大きく、洗濯堅牢度を評価したところ、変退色1−2級、汚染(綿:1級、ナイロン:1級)、色落ち1級と堅牢度が著しく悪く、実用に耐えないものであった。結果を表1に示した。
【0065】
比較例3
実施例1と同じナイロンの平織物を用いて、次の処方で反応性染料による染色を行った。
[処方]
・Levafix Brilliant Red E−4BA((株)ダイスタージャパン社製 反応染料) 15%owf
・アルベガールB(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 均染剤) 2%owf
これらの混合液を、酢酸と酢酸ソーダにて液をpH5に調整した。
[条件]
・浴比 1:50
・染色機 サーキュラー染色機(液流染色機)
・処理 1分間に1℃の速度で98℃まで昇温し、98℃で40分キープする。次に、60℃まで降温し、排液する。
・水洗 オーバーフロー5分間処理し、排液する。
その後同じ染色機内で次の処方でソーピング処理を行った。
[処方]
・炭酸ナトリウム1g/L液
[条件]
・浴比 1:50
・処理 1分間に1℃の速度で90℃まで昇温し、90℃で20分キープする。
次いで、同じ染色機内で次の処方で中和処理を行った。
[処方]
・酢酸1g/L液
[条件]
・処理 40℃で5分処理
・水洗 オーバーフロー水洗10分間。
【0066】
その後、遠心脱水機で脱水し、セーフティーオーブンにて60℃で30分間乾燥処理を行った。その結果、得られた織物は、淡い赤色にしか染着していなかった。この織物の表面をSEMで観察した結果、繊維状凝集体の直径は平均165μm、繊維の数平均による単繊維直径は103nmであった。この平織物の洗濯堅牢度を評価したところ、変退色2−3級、汚染(綿:3級、ナイロン:4級)色落ち2級と、実用上悪かった。結果を表1に示した。
【0067】
比較例4
フィックスとソーピングの工程を逆に実施する以外は実施例1と同じようにして平織物を作成した。その結果得られた織物は淡い赤色にしか染着しなかった。さらにこの織物の洗濯堅牢度を調べたところ、変退色3−4級、汚染(綿:3級、ナイロン:4級)、色落ち2−3級と衣料用としてはやや悪かった。結果を表1に示した。
【0068】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】極細繊維凝集体の状態を示す図面代用写真(数平均による単繊維繊度100nmの繊維の凝集体からなるタフタ表面を、SEMで倍率200倍で撮影した。)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均による単繊維直径が1nm以上500nm以下のポリアミド系繊維が凝集してなる、直径5μm以上500μm以下の太さの繊維状凝集体を含む繊維構造物を、反応性染料の濃度が、繊維重量に対し12重量%以上、60重量%以下となる条件で反応性染料を用いて染色を行い、その後フィックス処理することを特徴とするポリアミド系繊維構造物の製造方法。
【請求項2】
フィックス処理時のフィックス剤の固形分濃度が繊維重量に対し1.0〜20重量%であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド系繊維構造物の製造方法。
【請求項3】
フィックス処理後にアルカリ浴にてソーピング処理することを特徴とする請求項1または2のポリアミド系繊維構造物の製造方法。
【請求項4】
数平均による単繊維直径が1nm以上500nm以下であるポリアミド系繊維が凝集した繊維状凝集体を含んでなるポリアミド系繊維構造物であって、反応性染料により染色され、その後フィックス処理されたことを特徴とするポリアミド系繊維構造物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−208489(P2008−208489A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46694(P2007−46694)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】