説明

繊維状バクテリオファージを使用してパーキンソン病を処置するための方法

本発明は、パーキンソン病を処置するための、炎症誘発性サイトカインに特異的に結合する抗体を提示する繊維状バクテリオファージの、単独におけるまたは哺乳動物細胞内部移行シグナルを提示しない繊維状バクテリオファージと組み合わせてのいずれかにおける使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は、パーキンソン病を処置するための治療薬および方法に関する。
【0002】
関連分野の記載
パーキンソン病(PD)は、その主な臨床的特徴として、安静時振戦、動作緩慢および固縮などの運動異常が含まれる進行性の神経変性疾病である(FahnおよびSulzer, 2004)。PDは、黒質緻密部におけるドーパミン神経の減少、並びに同じ領域の生存神経におけるレビー小体およびレビー神経突起と呼ばれる封入体の存在によって特徴付けられる(Forno, 1996)。中脳ドーパミン神経の減少が、主に、主要な運動症状の原因であることが一般的に認められているが、これは、PD患者において病的変化を示す唯一の領域ではない。レビー病態および細胞の減少は、最初に下位脳幹核に出現し、進行的に中脳に上行し、そして高度に予測可能な様式で最後には皮質領に上行する(Braak et al., 2004)。中脳の外の種々の領域へのレビー病態の進行は、うつ病、痴呆、並びに種々の自律神経機能不全および感覚機能不全などの、PD患者によく観察される多数の続発性症状を説明し得る。
【0003】
PDの原因は依然として分かりにくいままであるが、α−シヌクレインのミスフォールディングおよび異常な凝集が、疾病の病態発生の重要な構成要素であることを示唆する多くの証拠が存在する。遺伝子連鎖解析により、遺伝型のパーキンソン症において3つのミスセンス突然変異が同定され(Kruger et al. 1998; Polymeropoulos et al. 1997; Zarranz et al. 2004)、そして全ての突然変異体がオリゴマー化または線維化のいずれかを加速することが示された(Conway et al. 2000; Greenbaum et al. 2005)。野生型α−シヌクレインの蓄積は前記疾病を引き起こすのに十分である。
【0004】
α−シヌクレインの線維性凝集体が、レビー小体およびレビー神経突起の主要な構成成分であるようであり、そしてこれらは、死後診断のための最も信頼性の高いPDマーカーであると現在考えられている(Spillantini et al. 1998)。α−シヌクレインは細胞質タンパク質であるので、前記タンパク質によって誘導される病原性の変化および作用は、細胞質内で起こり、そして単一細胞内に限定されると想定される。しかしながら、細胞外α−シヌクレインの近年の研究は、病原性作用の範囲はその起源である細胞質を超えていることを示唆する(Lee, 2008)。
【0005】
細胞外液におけるα−シヌクレインおよびその凝集形の存在が、in vivoおよびin vitroの両方において近年実証された。細胞外α−シヌクレインは、小胞内α−シヌクレインの特殊なエキソサイトーシスによって送達されるようであるが、正確な機序は特徴付けられていない。小胞内α−シヌクレインは凝集する傾向があり、そしてこれは細胞外凝集体の可能性ある起源である。
【0006】
細胞外空間に分泌されたα−シヌクレインの役割は、組織培養系を使用した研究から推測することができる。いくつかの研究が、前記タンパク質を培養培地に加えた場合の、細胞外α−シヌクレインおよびその内部疎水性フラグメント(非アミロイド成分すなわちNAC(nonamyloid component))の細胞障害作用を報告した(Albani et al. 2004; Bodles et al. 2000; Du et al. 2003; El-Agnaf et al. 1998; Forloni et al. 2000; Lee et al. 2004; Seo et al. 2002; Sung et al. 2001)。線維性凝集体の毒性作用を実証した研究もあり(Bodles et al. 2000; El-Agnaf et al. 1998)、また毒性の原因としてプロトフィブリル性またはオリゴマー性凝集体を同定した研究もあった(Du et al. 2003)。
【0007】
α−シヌクレインは容易に膜内に取り込まれ得、そしてシナプス小胞内および細胞膜上に見出され得る。毒性の機序に関する十分に構成されたモデルは多くはない。近年の研究は、パーキンソン病の病態発生におけるα−シヌクレインの孔様のプロトフィブリルの可能性ある役割を例証する(Tsigelny et al., 2007; Lee et al., 2002; Volles and Lansbury, 2002)。あるモデルは、オリゴマー性α−シヌクレインが、中心に孔を有する環状構造を形成し得ると提案する(VollesおよびLansbury 2003)。これらの凝集体は膜に結合することができ(Volles et al. 2001)、そしてその膜透過作用は、リン脂質リポソーム(Volles et al. 2001)および平面二重膜(Kayed et al. 2004)などの合成モデル膜において実証されている。細胞膜へのこれらの凝集体の挿入は、細胞質と細胞外空間との間のイオンおよび小さな代謝物の自由な交換に因り、細胞生存度に対して破滅的な作用を及ぼすだろう。この毒性孔モデルは、少なくともいくつかのオリゴマー性凝集体の細胞障害作用を説明するが、孔および孔の活性は、依然として生物学的系においては実証されていない。細胞外α−シヌクレイン、および特にその凝集体形の神経毒性の別の可能性ある機序は、神経炎症応答を含み得る(Zhang et al., 2005; Klegeris et al., 2006)。
【0008】
PDを処置するための治療薬の開発において今までになされた進歩にも関わらず、依然としてさらなる治療が非常に必要とされる。
【0009】
本明細書におけるあらゆる文書の引用は、このような文書が関連のある従来技術である、または本出願の任意の請求項の特許性に対する材料であると考える承認とは捉えない。内容に関する任意の記述または任意の文書の日付は、出願時に出願人に利用可能な情報に基づき、そしてこのような記述の正確性に関する承認を構成するものではない。
【0010】
発明の要約
本発明は、パーキンソン病またはパーキンソン病への易罹患性の処置において使用するための繊維状バクテリオファージ、および、パーキンソン病(PD)に罹患した患者またはパーキンソン病に罹患し易い患者を処置するための方法を提供する。前記方法は、患者に、哺乳動物細胞内部移行シグナルを提示しない繊維状バクテリオファージを投与することを含む。
【0011】
本発明はまた、炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体を提示する繊維状バクテリオファージ、および(i)哺乳動物細胞内部移行シグナル;(ii)α−シヌクレイン抗原もしくはα−シヌクレイン抗体;(iii)β−アミロイド抗原もしくはβ−アミロイド抗体;または(iv)炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体、を提示しない第二の繊維状バクテリオファージを含む、薬学的組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1Aおよび1Bは、孔のような構造で細胞膜に包埋されたα−シヌクレイン凝集体の前面からの斜視図(図1A)および膜中へのタンパク質挿入の深さを示す膜の横断面図(図1B)を含む、膜α−シヌクレイン(AS)凝集体のコンピューターモデルを示す(Tsigelny et al., 2007)。
【図1B】図1Aおよび1Bは、孔のような構造で細胞膜に包埋されたα−シヌクレイン凝集体の前面からの斜視図(図1A)および膜中へのタンパク質挿入の深さを示す膜の横断面図(図1B)を含む、膜α−シヌクレイン(AS)凝集体のコンピューターモデルを示す(Tsigelny et al., 2007)。
【図2A】図2Aおよび2Bは、Thtによって測定し(図2A)、そしてTEMによって可視化した(図2B)、in vitroにおけるASフラグメント凝集体に対するファージの脱凝集活性を示す。
【図2B】図2Aおよび2Bは、Thtによって測定し(図2A)、そしてTEMによって可視化した(図2B)、in vitroにおけるASフラグメント凝集体に対するファージの脱凝集活性を示す。
【図3】図3は、SH−SY5Y細胞の生存度に対するファージの効果を示したグラフである。
【図4A】図4Aおよび4Bは、α−シヌクレインフィルター遅延アッセイにおいてα−シヌクレインポリクローナル抗体を使用して可視化(図4A)およびELISAにおいて測定した(図4B)、ファージ(ヘルパー)によるAS凝集体の減少を示す。
【図4B】図4Aおよび4Bは、α−シヌクレインフィルター遅延アッセイにおいてα−シヌクレインポリクローナル抗体を使用して可視化(図4A)およびELISAにおいて測定した(図4B)、ファージ(ヘルパー)によるAS凝集体の減少を示す。
【図5A】図5Aは、種々のα−シヌクレイン(AS)オリゴマーの存在を実証するSH−SY5Y細胞の膜画分のウエスタンブロット分析を示し、そして図5Bは、M13処理後のオリゴマーの測定のためのELISAアッセイを示す。図5Aでは、ASが、ASに対するポリクローナル抗体(Sigma)を用いて検出されている。図5Bでは、膜画分からのASオリゴマーの量が、ASに対するモノクローナル抗体(Sigma, clone Syn 211)で検出されるASオリゴマーに特異的なELISAにおいて定量された。ASオリゴマーの量の有意な減少が、野生型繊維状ファージで処理されたSH−SY5Y細胞の膜画分において測定された。*=非処理細胞と比較した有意差(p<0.05)。
【図5B】図5Aは、種々のα−シヌクレイン(AS)オリゴマーの存在を実証するSH−SY5Y細胞の膜画分のウエスタンブロット分析を示し、そして図5Bは、M13処理後のオリゴマーの測定のためのELISAアッセイを示す。図5Aでは、ASが、ASに対するポリクローナル抗体(Sigma)を用いて検出されている。図5Bでは、膜画分からのASオリゴマーの量が、ASに対するモノクローナル抗体(Sigma, clone Syn 211)で検出されるASオリゴマーに特異的なELISAにおいて定量された。ASオリゴマーの量の有意な減少が、野生型繊維状ファージで処理されたSH−SY5Y細胞の膜画分において測定された。*=非処理細胞と比較した有意差(p<0.05)。
【図6】図6は、ビヒクルと比較した、M13ファージとの相互作用後のAS反応性における減少を示したグラフである。データは、PBSビヒクル(+M13)の注入された他方の半球と比較した、M13の注入された脳の一方の半球において観察されたASの神経凝集体の平均数の比として表現される。−M13対照では、両方の半球にPBSビヒクルが注入された。
【0013】
発明の詳細な説明
定義
本明細書および添付の特許請求の範囲の目的のために、以下の定義を適用する。
【0014】
「患者」、「被験体」および「レシピエント」という用語は同義語として使用される。それらは、治療処置の目的であるヒトおよび他の哺乳動物を含む。
【0015】
パーキンソン病に関して「処置する」という用語は、パーキンソン病の進行を実質的に阻害、遅延もしくは逆転させること、例えばα−シヌクレインの凝集体の形成を減少もしくは阻害するか、またはα−シヌクレインの予め形成された凝集体を脱凝集させること;パーキンソン病の1つ以上の臨床症状を実質的に寛解させること、例えばパーキンソン病に関連した炎症を減少させること;またはパーキンソン病の臨床症状の出現を実質的に予防することを意味することを意図する。
【0016】
「共投与」という用語は、同時に、連続的に、または別々に投与される単一の剤形によるまたは複数の剤形による投与を意味することを意図する。好ましくは、共投与は、時刻が重複して、より好ましくは同時に処置される細胞上において各投与の効果の奏功を引き起こす。
【0017】
本明細書において使用したような「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ポリエピトープ特異性を有する抗体組成物、二重特異的抗体、ディアボディ、または他の精製された抗体調製物、および組換え抗体を含む。抗体は、例えば任意のアイソタイプ(IgG、IgA、IgE、IgMなど)の完全抗体であり得るか、または対象の抗原に結合する抗体フラグメントであり得る。本発明において使用する抗体の具体例においては、製剤化しようとする抗体は、IgGアイソタイプを有する抗体である。抗体を、従来の技術または他の技術を使用してフラグメント化することができ、そして前記フラグメントを対象の抗原への結合についてスクリーニングすることができる。一般に、抗体フラグメントは、インタクトな抗体の抗原結合領域および/または可変領域を含む。
【0018】
「抗体フラグメント」という用語は、選択されたタンパク質に選択的に結合することができる抗体分子のタンパク質分解的に切断されたまたは組換え調製された部分のセグメントを含む。このようなタンパク質分解的フラグメントおよび/または組換えフラグメントの非制限的な例は、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv、並びにペプチドリンカーによって接続されたVおよび/またはVドメインを含む一本鎖抗体(scFv)、ドメイン抗体(dAbs)、ナノバディ(登録商標)(天然に存在する重鎖抗体の独特な構造的で機能的な特性を含む、抗体に由来する生物学的な治療剤)、並びにユニバディ(ヒンジ領域を欠失した抗体)を含む。scFvsは、共有結合的または非共有結合的に連結して、2つ以上の結合部位を有する抗体を形成し得る。
【0019】
いくつかの態様において、抗体または抗体フラグメントは、ヒト化モノクローナル抗体または完全なヒト化モノクローナル抗体である。本明細書において使用したような「ヒト化モノクローナル抗体」という用語は、等価なヒトモノクローナル抗体(ドナー)において見出されるアミノ酸残基の少なくとも1つ以上を含むように改変された、非ヒト起源(レシピエント)由来のモノクローナル抗体である。「完全なヒト化モノクローナル抗体」は、等価なヒトモノクローナル抗体の抗原結合領域において見出される全てのアミノ酸残基を含むように改変された、非ヒト起源由来のモノクローナル抗体である。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体またはドナー抗体のいずれにも見られない残基も含み得る。これらの改変を行なって、抗体の機能性をさらに洗練および最適化することができる。ヒト化抗体はまた、ヒト免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部を場合により含み得る。
【0020】
「炎症誘発性サイトカイン」という用語は、パーキンソン病に関連した脳炎症に関与する任意の炎症誘発性サイトカインをいい、これは好ましくはIL−6、IL−1、IL−17およびTNFαを含み、そしてこれは最も好ましくはIL−6である。
【0021】
「哺乳動物細胞内部移行シグナル」という用語は、細胞接着および/または細胞への付着の結果として、内部移行を促進する任意の細胞接着配列をいう。数多くの哺乳動物細胞接着配列が知られており、そしてこれは、Arg−Gly−Asp(RGD)細胞接着配列、HIV由来のTatペプチド、並びにArg-Glu-Asp (RED)、Arg-Lys-Lys (RKK)、Leu-Asp-Val(LDV; Humphries, 1992)、Leu-Leu-Gly (LLG; Koivunen et al., 2001)、Asp-Gly-Glu-Ala (DGEA;配列番号2)、Ile-Arg-Val-Val-Met (IRVVM;配列番号3; Kosfeld et al., 1993)、Pro-His-Ser-Arg-Asp (PHSRN;配列番号4)およびRFYVVMWK (配列番号5; Kosfeld et al., 1993)の配列を含むペプチドを含む。例えばラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、フィブリノーゲン、トロンボスポンジンなどの細胞接着分子における多くの細胞接着配列(細胞付着モチーフとしても知られる)が知られている。
【0022】
「α−シヌクレイン抗原」という用語は、ヒトα−シヌクレイン由来の抗原をいい、ヒトα−シヌクレインは、好ましくは、配列番号6のアミノ酸配列(NCBI遺伝子ID:6622、アクセッショナンバー NP000336; UniProtKB/Swiss-Prot アクセッションナンバー P37840)を有する。「α−シヌクレイン抗体」は、α−シヌクレインの配列番号6またはその変異体もしくは突然変異体を認識しそして結合するものである。
【0023】
「β−アミロイド抗原」という用語は、ヒトアミロイド前駆体タンパク質に由来する、斑を形成する「β−アミロイドペプチド」(これは「βAP」、「βA」、「Aβ」または「AβP」としても知られる)に由来する抗原をいう。「β−アミロイド抗体」は、天然に存在するヒトAβ1〜42ペプチド並びにその変異体および突然変異体のβ−アミロイドペプチドを認識しそして結合するものである。
【0024】
本明細書において使用した「薬学的組成物」は、生理学的に適切な担体および賦形剤などの他の化学成分を含む、本明細書において記載した1つ以上の活性成分の調製物をいう。薬学的組成物の目的は、患者への化合物の投与を容易にすることである。
【0025】
「生理学的に許容される担体」および「薬学的に許容される担体」という語句は、同義語として使用され得るが、これらは生物に対して有意な刺激を引き起こさず、そして投与される化合物の生物活性および特性を消失させない、担体または希釈剤をいう。
【0026】
「賦形剤」という用語は、活性成分の投与をさらに容易にするために薬学的組成物に添加された不活性物質をいう。賦形剤の非制限的な例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖、および一種のデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0027】
本明細書において使用した「野生型繊維状バクテリオファージ」という用語は、典型的には天然においては会合している他の成分から単離されている、天然に存在する繊維状バクテリオファージを意味する。この用語はまた、「野生型」として特徴付けられる市販されている繊維状ファージも含む。
【0028】
本明細書において使用した「不活性化された野生型繊維状バクテリオファージ」という用語は、組換えDNA手段によって遺伝子的に改変されていないが、UV照射などによって複製できなくさせた、野生型繊維状バクテリオファージを意味する。ファージを複製できなくさせるが、バクテリオファージの繊維状構造は妨害しない(嗅覚経路を通して脳へと透過するその能力を保持する)任意の機序が本発明によって考えられる。
【0029】
「WTファージ」という用語は、野生型繊維状バクテリオファージおよび不活性化された野生型繊維状バクテリオファージの両方をいう。
【0030】
処置において使用するための繊維状バクテリオファージおよび処置法
1つの態様において、本発明は、パーキンソン病またはパーキンソン病への易罹患性の処置において使用するための繊維状バクテリオファージ、および、患者に繊維状バクテリオファージを投与することによってパーキンソン病に罹患した患者またはパーキンソン病に罹患し易い患者を処置する方法を提供し、前記バクテリオファージは(i)哺乳動物細胞内部移行シグナル;(ii)α−シヌクレイン抗原もしくはα−シヌクレイン抗体;または(iii)β−アミロイド抗原もしくはβ−アミロイド抗体を提示しない。
【0031】
この態様の1つの局面において、バクテリオファージは、薬学的に許容され得る担体を追加的に含む薬学的に許容され得る組成物の一部として患者に投与される。
【0032】
この態様の別の局面において、バクテリオファージはWTファージである。
【0033】
理論に拘るわけではないが、本発明において使用したファージは、膜において細胞外α−シヌクレインまたはα−シヌクレイン凝集体に結合し、そして細胞膜におけるα−シヌクレインの凝集を減少させると提唱されている。本発明者らは、膜におけるα−シヌクレイン凝集体のこの減少はまた、おそらく細胞内から細胞外へとα−シヌクレインの平衡をシフトさせることによって、α−シヌクレインの細胞内凝集体の減少をもたらすと提唱する。それにも関わらず、任意の特定の機序に拘るわけではないが、本発明の繊維状バクテリオファージおよび方法は、パーキンソン病に罹患した患者またはパーキンソン病に罹患し易い患者を処置するのに有用である。
【0034】
1つの態様において、繊維状バクテリオファージは、鼻腔内投与に有用である。鼻腔内投与は、これらのバクテリオファージが血液脳関門を通過することを可能とする。その後、ファージは、末梢臓器に対して有害な作用を及ぼすことなく、尿および糞便を介して脳および体内から排除される。
【0035】
炎症誘発性サイトカインは、パーキンソン病の神経炎症症状の原因となる。このような炎症誘発性サイトカインの除去はこのような症状を寛解させるだろう。従って1つの態様において、本発明は、パーキンソン病またはパーキンソン病への易罹患性の処置において使用するための炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体を提示する繊維状バクテリオファージ、および、炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体を提示する繊維状バクテリオファージを患者に投与することによってパーキンソン病に罹患した患者またはパーキンソン病に罹患し易い患者を処置する方法を提供する。この態様の1つの局面において、バクテリオファージは鼻腔内に投与される。別の局面において、バクテリオファージは、薬学的に許容され得る担体を追加的に含む薬学的に許容され得る組成物の一部として投与される。別の局面において、炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体はIgGクラスであり、そしてFc部分を有する。さらに別の局面において、前記抗体はIL−6に特異的な抗体である。さらに別の局面において、炎症誘発性サイトカインを有するバクテリオファージは、哺乳動物細胞内部移行シグナルを含まない。
【0036】
鼻腔内に投与されると、抗体を有するファージは脳へと送達され、そこで前記ファージはその上に提示される抗体によって炎症誘発性サイトカインへと指向され、これによりこのようなサイトカインを不活性化する。これらのファージ提示抗体のファージ部分は、抗体を血液脳関門を通過させそして直接的にα−シヌクレイン凝集を阻害するという2つの作用を有する。
【0037】
関連する態様によると、本発明は、(a)炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体を提示する第一の繊維状バクテリオファージ;および(b)第二の繊維状バクテリオファージ(第二のバクテリオファージは、炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体を提示しない)を患者に共投与することによって、パーキンソン病に罹患した患者またはパーキンソン病に罹患し易い患者を処置する際に使用するための第一および第二の繊維状バクテリオファージ、並びに、(a)炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体を提示する第一の繊維状バクテリオファージ;および(b)第二の繊維状バクテリオファージ(第二のバクテリオファージは、炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体を提示しない)を患者に共投与することによって、パーキンソン病に罹患した患者またはパーキンソン病に罹患し易い患者を処置する方法を提供する。1つの局面において、第二の繊維状ファージはさらに、哺乳動物細胞内部移行シグナルを提示しない。別の局面において、第二の繊維状ファージはさらに、(i)α−シヌクレイン抗原もしくはα−シヌクレイン抗体;または(ii)β−アミロイド抗原もしくはβ−アミロイド抗体を提示しない。さらに別の局面において、第二の繊維状ファージはさらに(i)哺乳動物細胞内部移行シグナル;(ii)α−シヌクレイン抗原もしくはα−シヌクレイン抗体;または(iii)β−アミロイド抗原もしくはβ−アミロイド抗体を提示しない。
【0038】
別の局面において、各繊維状バクテリオファージは、薬学的に許容され得る担体を追加的に含む薬学的に許容され得る組成物の一部として投与される。前記に示した任意の組成物の別の局面において、第二の繊維状バクテリオファージはWTファージである。さらに別の局面において、第二の繊維状バクテリオファージはUV照射されたバクテリオファージである。
【0039】
さらに別の局面において、第一および第二のバクテリオファージは各々患者に鼻腔内投与される。別の局面において、炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体はIgGクラスであり、そしてFc部分を有する。さらに別の局面において、前記抗体はIL−6に特異的な抗体である。別の局面において、第一のバクテリオファージは哺乳動物細胞内部移行シグナルを含まない。
【0040】
ファージに、当技術分野において知られている任意の技術によって炎症誘発性サイトカインに対する抗体を提示させるようにすることができる。例えば、前記抗体を、周知の技術によって一本鎖抗体として工学操作することができ、そしてバクテリオファージ表面上にこのような一本鎖抗体(scFv)を提示するようにファージベクターを改変することができる。
【0041】
任意の所与の抗体、好ましくはモノクローナル抗体をファージ上に提示させるようにする別の方法は、免疫グロブリンのFc部分に結合するポリペプチドを提示するファージを産生することである。このようなファージは当技術分野において公知であり、そしてPCT公開公報WO2007/095616に記載されている。このような改変されたファージを使用して、抗体を前記ファージと単に接触させることによって、Fc部分を含む任意の抗体をそのファージ上に提示させることができる。抗体のFc部分は、ファージによって提示されるFc結合ポリペプチドにより結合する。従って、抗体またはそのフラグメントの結合は促進される。
【0042】
1つの態様において、免疫グロブリンのFc部分に結合するポリペプチドは、プロテインA、プロテインG、プロテインA(すなわち結合ドメインB)もしくはプロテインGの抗体結合部分を含むそのフラグメント、またはプロテインAもしくはプロテインGの変異体である。別の態様において、プロテインA変異体は、配列番号1のアミノ酸配列を有する変異体である。Fc領域を欠失した抗体を使用する場合、それはファージによって直接的に提示されなければならない。
【0043】
繊維状バクテリオファージは、環状一本鎖DNAゲノムを含む、一群の構造的に関連したウイルスである。それらは増殖性感染中はその宿主を殺滅しない。Fプラスミドを含むEscherichia coliに感染するファージはまとめてFfバクテリオファージと呼ばれる。それらは哺乳動物細胞には感染しない。1つの態様において、前記に示した方法に使用される各繊維状バクテリオファージは、独立して、繊維状ファージM13、f1、およびfdから選択される。1つの局面において、第一および第二の繊維状ファージを使用する場合、各ファージは同じサブタイプであり、そして繊維状ファージM13、f1およびfdから選択される。
【0044】
炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体または免疫グロブリンのFc部分に結合するポリペプチドのいずれかを有するファージを、その表面上にタンパク質を提示するように工学操作する。これは典型的には、cDNAクローンのポリペプチドの発現を、ファージコートタンパク質との融合タンパク質として提示させることを含む。ファージコートタンパク質との融合物として外来タンパク質またはペプチドを提示する繊維状バクテリオファージは当業者には周知である。M13タンパク質III、M13タンパク質VIII、M13タンパク質VI、M13タンパク質IXおよびfdマイナーコートタンパク質pIIIを含むがこれらに限定されない、多種多様なファージおよびコートタンパク質を使用し得る(Saggio et al., 1995; UppalaおよびKoivunen, 2000)。このような融合タンパク質を産生するために多くのベクターを利用可能である(Kay et al., 1996; Berdichevsky et al., 1999;およびBenhar, 2001を参照)。外来コード配列をファージ遺伝子に挿入するための方法は周知である(例えば、Sambrook et al., 1989;およびBrent et al., 2003を参照)。
【0045】
1つの態様において、免疫グロブリンのFc部分に結合するポリペプチドは、繊維状ファージのマイナーコートタンパク質(タンパク質III)へのその融合によって提示される。
【0046】
本明細書において説明した方法はまた、特定の記載された処置が必要とされるとして患者が同定されている方法も含む。このような処置の必要な患者の同定は、患者または医療の専門家の判断により得、そして主観的(例えば意見)または客観的(例えば試験または診断法によって測定可能)であり得る。
【0047】
薬学的組成物
関連する態様において、本発明は、(a)炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体を提示する第一の繊維状バクテリオファージ;および(b)第二の繊維状バクテリオファージ(第二のバクテリオファージは、炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体を提示しない)を含む、薬学的組成物(例えば発熱物質を含まない)を提供する。1つの局面において、第二の繊維状ファージは追加的に哺乳動物細胞内部移行シグナルを提示しない。別の局面において、第二の繊維状ファージはさらに、(i)α−シヌクレイン抗原もしくはα−シヌクレイン抗体;または(ii)β−アミロイド抗原もしくはβ−アミロイド抗体を提示しない。さらに別の局面において、第二の繊維状ファージはさらに、(i)哺乳動物細胞内部移行シグナル;(ii)α−シヌクレイン抗原もしくはα−シヌクレイン抗体;または(iii)β−アミロイド抗原もしくはβ−アミロイド抗体を提示しない。
【0048】
この態様の1つの局面において、第二のバクテリオファージはWTファージである。より特定の局面において、第二のバクテリオファージはUV照射されたバクテリオファージである。
【0049】
別の局面において、炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体はIgGクラスであり、そしてFc部分を有する。さらに別の局面において、組成物中の第一のバクテリオファージは、IL−6に特異的な抗体を提示する。さらに別の局面において、第一のバクテリオファージは哺乳動物細胞内部移行シグナルを含まない。
【0050】
さらなる局面において、前記組成物は鼻腔内投与のために製剤化される。
【0051】
薬物の製剤化および投与のための技術は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」 Mack Publishing Co., Easton, PA, 最新版に見出し得、これは参照により本明細書に組み込まれ、そしてこれは当技術分野において周知である。
【0052】
従って、本発明に従って使用するための薬学的組成物は、薬学的に使用することのできる調製物への活性成分の加工を容易にする賦形剤および補助剤を含む、1つ以上の生理学的に許容され得る担体を使用して従来の方法で製剤化され得る。
【0053】
鼻腔内吸入による投与のために、本発明に従って使用するための活性成分は、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロ−テトラフルオロエタンまたは二酸化炭素などの適切な噴射剤を使用して、加圧包装またはネブライザーからエアゾールスプレー形の形態で簡便に送達される。吸入スプレーのように加圧包装またはネブライザーを必要としない鼻腔スプレーを、鼻腔内投与のために代替的に使用することができる。加圧エアゾールの場合、一定量を送達するためのバルブを施すことによって投与単位を決定し得る。化合物と適切な粉末基剤(ラクトースまたはデンプンなど)との粉末混合物を含む、ディスペンサに使用するための例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジを製剤化し得る。
【0054】
本発明の方法の脈絡において使用するのに適した薬学的組成物は、活性成分(群)が意図する目的を達成するために有効な量で含まれている組成物を含む。より具体的には、有効量とは、パーキンソン病を処置するのに有効な活性成分(群)の量を意味する。
【0055】
治療的に有効な量の決定は、特に本明細書において提供される詳細な開示に照らして、当業者の能力の十分に範囲内である。
【0056】
投与量および間隔は、処置をするのに十分な繊維状ウイルス提示ビヒクルの脳内レベルを与えるように個々に調整され得る(最小有効濃度、MEC)。MECは各調製物によって変動するが、in vitroデータから推測することができる。MECを達成するのに必要な投与量は、個々の特徴に依存する。
【0057】
投与の間隔はまた、MEC値を使用して決定することもできる。調製物は、処置クール中の時間の10〜90%、好ましくは時間の30〜90%、最も好ましくは時間の50〜90%においてMECを超える脳内レベルを維持するレジメンを使用して投与されるべきである。
【0058】
患者の処置しようとするパーキンソン病の重度および応答性に依存して、投与は、1回または複数回の投与であり得、処置クールは、数日間から数週間まで続くか、またはパーキンソン病の状態の減少が達成されるまで続く。
【0059】
投与しようとする組成物の量は、もちろん、処置される被験体、罹患の重度、処方医の判断などに依存する。
【0060】
本発明の方法において使用される組成物は、所望であれば、活性成分を含む1つ以上の単位投与形を含み得る、FDA承認キットなどの、包装またはディスペンサ装置に提示され得る。前記包装は、例えば、金属またはプラスチック箔を含み得、例えばブリスターパックなどであり得る。包装またはディスペンサ装置は、投与のための説明書を伴い得る。包装またはディスペンサはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定された形式で容器内に付随した注意書きを収容し得、この注意書きは、組成物の形態またはヒトもしくは動物への投与の機関による承認を反映している。このような注意書きは、例えば、処方薬のための米国食品医薬品局によって承認されたラベル、または承認された製品の同封説明書であり得る。適合性の薬学的担体中に製剤化された本発明の調製物を含む組成物もまた、さらに上記で詳述したように、調製し、適切な容器中に入れ、そして、適応する容態の処置のためにラベルを付け得る。
【0061】
1つの特定の態様において、本発明は、別々の容器に、(a)炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体を提示する第一の繊維状バクテリオファージ;および(b)第二の繊維状バクテリオファージ(第二のバクテリオファージは、(i)哺乳動物細胞内部移行シグナル;(ii)α−シヌクレイン抗原もしくはα−シヌクレイン抗体;(iii)β−アミロイド抗原もしくはβ−アミロイド抗体;または(iv)炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体、を提示しない);および(c)パーキンソン病を処置するためにキットを使用する方法を記載した説明書、を含む、パーキンソン病を処置するためのキットを提供する。
【0062】
今まで一般的に本発明を説明してきたが、本発明は、説明のために提供され本発明を限定するものとは捉えられない以下の実施例を参照してより容易に理解されるであろう。
【0063】
実施例
本実施例における実験結果は、PDの病態発生に関与するα−シヌクレイン凝集体の脱凝集に対する繊維状ファージの効果を実証する。
【0064】
繊維状ファージの調製
M13繊維状ファージを、50μg/mlのカナマイシン(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を含む2YTブロス中で、M13K07ヘルパーファージ(New England Biolabs, Beverly, MA)を用いて感染させたTG1Escherichia coli培養液から調製した。細菌細胞を遠心分離にかけ(8300×g、15分間)、そしてファージを、1/5(wt/vol)の16.7%のポリエチレングリコール(PEG)の添加によって上清から沈降させ、そして遠心分離にかけた(14,000×g、4℃で1時間)。ペレットを、滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS)(上清容量の3%)中に再懸濁した。残留細菌を、6,000×gで15分間の遠心分離によって除去し、そしてその後、ファージをPEG−NaCl沈降にかけた。ペレットを最終的にPBS(上清容量の2%)中に再懸濁し、そしてファージ溶液を発熱物質を含まない0.45μmのフィルターを通してろ過して、全ての残留細菌を除去した。等容量のクロロホルムと共にPBS中で繊維状ファージをインキュベーションすることによって球状のファージを生成した。溶液を室温(RT)で3分間かけて各10秒間6回ボルテックスにかけ、そして185,000×gで1分間遠心分離にかけた。全てのクロロホルム残渣が蒸発するまで、水溶液およびクロロホルム溶液の両方をフード中で蓋を掛けないで放置し、その後、PBS中に再懸濁して最初の容量とした。超音波細胞破壊機(Microson Heat Systems, Farmingdale, NY, USA)を使用して、15×5秒間の間、氷上でPBS中で500μlの1×1013個のファージに超音波をかけることによってファージの完全性を破壊した。
【0065】
in vitroにおけるα−シヌクレイン凝集の調査
レビー小体のコアである、ヒトα−シヌクレインのアミノ酸71〜82に対応する12アミノ酸フラグメント(配列番号7)、および完全な組換えα−シヌクレインタンパク質の両方の凝集レベルを試験しそして分析した。
【0066】
ペプチドおよび組換えα−シヌクレインの両方を妨げそして脱凝集する繊維状ファージの能力を調べた。α−シヌクレインの凝集レベルを、下記したようにチオフラビンT(Tht)およびタンパク質ろ過アッセイで決定した。
【0067】
α−シヌクレイン原線維および繊維状ファージを電子顕微鏡によって可視化した。
繊維状ファージの抗凝集効果を評価するために、α−シヌクレインのアミノ酸残基71〜82におよぶα−シヌクレインフラグメントの900μlの試料を、37℃で6週間インキュベーションした。この段階で、繊維状ファージを、1週間の期間、凝集したペプチドと共にインキュベーションした。1012/mlおよび1011/mlの2つのファージ濃度を調べた。ペプチド試料を0.3μMのTht水溶液中に希釈して、225μMの最終濃度とした。480nmにおける試料の蛍光発光を定量した。480nmにおける発光の減少によって観察されたように、1012/mlのファージ量を含む試料中において有意な43%の減少が検出された(図2A)。
【0068】
試料はまた、透過型電子顕微鏡(TEM)によっても観察された。試料をカーボングリッド上にのせ、そして酢酸ウラニルで被覆した。α−シヌクレインペプチドのみを含む試料では、濃密な形態での有意な量の複雑な原線維が検出された(図2B、左パネル)。原線維の量および複雑さのかなりの減少が、1011個のファージと共にインキュベーションした試料中で観察されたが、一方、1012個のファージと共にインキュベーションした試料中では原線維は全く検出されず、そして無定形な凝集体だけが見られた(図2B、中央および右のパネル)。
【0069】
細胞モデルとしてのSH−SY5Y細胞培養液
神経芽細胞腫の細胞株SH−SY5Yは、PDモデルとして使用するのに良好な候補である。なぜなら、それはドーパミン細胞であるからである。細胞を、野生型ヒトα−シヌクレイン遺伝子および突然変異体α−シヌクレインA53T遺伝子を用いて安定にトランスフェクションさせた。
・α−シヌクレイン発現を、ウェスタンブロットによって決定した。
・細胞を、α−シヌクレイン抗体で染色することによりレビー小体を可視化した。
【0070】
A53Tα−シヌクレインを過剰発現させるように安定にトランスフェクションされたSH−SY5Y細胞を、10cmの皿において成長させ、そして5%COを含む加湿インキュベーター中、37℃で、1%非必須アミノ酸(NEAAs)を含み、FCS(10%)、グルタミン(2mM)、ペニシリン−ストレプトマイシン溶液(1%)(Biological Industries)の補充されたDMEM:Ham’s F12(1:1)改変培地中で維持した。
【0071】
細胞溶解
α−シヌクレインの分離のために、溶解手順を、本発明者らの研究室によって改変されたLee et al. (2004)によって記載された細胞抽出を使用して実施した。簡潔に言うと、細胞をPBSで濯ぎ、15mlのチューブに収集された1つの皿あたり1.5mlのトリプシンを用いてトリプシン処理し、遠心分離にかけ、そしてPBSで再度洗浄し、その後、エッペンドルフチューブに回収した。細胞を、100μlの緩衝液T(20mMトリスpH7.4、25mM KCl、5mM MgCl、0.25Mスクロース、1%TritonX−100およびプロテアーゼ阻害剤混合物を含む)を用いて溶解し、細胞凝集塊が残留しなくなるまでピペッティングし、室温で10分間インキュベーションし、そして13,000×gで10分間遠心分離にかけた。上清を回収し、そして「sup」と印をつけた別々のエッペンドルフチューブに入れた(上清がペレット画分に全く残らないように注意する)。ペレットに、混合することなく穏やかに緩衝液N(0.1M NaCO、pH11.5およびタンパク質阻害剤混合物を含む)を被せ、そして4℃で一晩インキュベーションした。このことは、タンパク質が穏やかに緩衝液中に再懸濁されることを可能とした。インキュベーション後、今では曇った緩衝液を、小さなピペット尖端を使用して除去し、そして廃棄した。チューブ中の残りの材料を「ペレット」と印をつけた。上清およびペレット抽出物を−20℃に保ち、そしてウェスタンブロットによって分析して、可溶性および不溶性α−シヌクレインの量を定量した。
【0072】
ファージ毒性
ファージと共にインキュベーションした後の分化したSH−SY5Y細胞の生存度を、MTT試薬を使用して試験した。細胞を、96ウェルプレート中で1×10および1×1011個のファージ/ウェルと共に一晩インキュベーションした。インキュベーション後に細胞死は全く観察されなかった(図3)。
【0073】
フィルター遅延アッセイ
タンパク質凝集体のろ過のために、市販されているスロットブロット装置(Bio-Rad Laboratories, Munich, Germany)を使用した。試料を、遮断されたニトロセルロース膜(0-.2 μmの孔サイズ、Schleicher & Scheull, Dassel, Germany)を通してろ過した。ろ過後、各スロットを、0.1%SDSで洗浄した。α−シヌクレイン凝集体を、二次HRP結合ヤギ抗マウス抗体と共にモノクローナル抗体LB509(1:10,000)を使用して検出し、そして最終的に化学発光によって可視化した。PAFブロットの濃度測定による定量を、SigmaGel v1.0を用いて実施した。
【0074】
1つの10cm皿あたり等しい数の細胞を加え、そして80%の集密度を到達させた。その時点で、細胞を、種々の量のファージを用いて24時間および72時間処理した。その後、細胞を、各プレートから回収し、溶解し、そして下記したように分析した。野生型α−シヌクレインを過剰発現する分化SH−SY5Y細胞を、3時間の期間または一晩37℃で合計1×1012個のファージと共にインキュベーションした。可溶性および不溶性画分を抽出し、そして不溶性画分を0.2μmのニトロセルロース膜を通してろ過した。フィルター上に保持されたα−シヌクレイン凝集体の量は非処理細胞中においてより高かった(図4A)。
【0075】
α−シヌクレインオリゴマーのELISA
α−シヌクレインのオリゴマー種を検出するためのELISAを改変して(El-Agnaf et al., 2000)、SH−SY5Y細胞の不溶性画分中のα−シヌクレインオリゴマーの量を測定した。ASのオリゴマーのみを検出するために、被覆のために使用したのと同じモノクローナル抗体(ビオチンにコンジュゲート)を使用した。
【0076】
ASオリゴマーの40%〜50%の減少が、ファージを用いて3時間および一晩のインキュベーションの両方で処理した細胞の不溶性画分において検出された(図4B)。
【0077】
細胞モデルにおけるα−シヌクレインとM13ファージとの相互作用
α−シヌクレイン(AS)は、シナプス前終末に局在する天然ではフォールディングされていないタンパク質である。ASはN末端を通して膜中に容易に取り込まれ、従って、細胞中において膜結合形態および無秩序な細胞質形態という2つの形態で存在する。蓄積しているデータは、膜形態のASが細胞毒性において役割を果たしていることを示す。プロトフィブリルは、細胞膜上に包埋された環状構造を形成し得、そして膜透過性を引き起こし得る。ASが脂質の存在下においてより高度な凝集の傾向を有し、そして膜凝集体が細胞質形態のASの凝集を誘導し得ることが近年実証された。
【0078】
ここで、野生型ASを過剰発現するSH−SY5Y細胞における野生型(M13)繊維状ファージを用いて処理後のASオリゴマーのモデュレーションが提示される。細胞の膜画分を、ウェスタンブロット分析によるAS検出のために、膜抽出キット(MBL)を使用して抽出した。ASモノマーが検出されただけでなく、ASダイマーおよびトリマーも膜画分において検出され(図5A)、本発明者らの細胞モデルにおける膜区画におけるASオリゴマーの存在が実証された。繊維状ファージと共にインキュベーションした後のAS膜のオリゴマー化に対する繊維状ファージの効果を図5Aおよび5Bに示す。SH−SY5Y細胞を、レチノイン酸を使用して分化させ、そして1011個のファージ/mlの野生型ファージと共に一晩インキュベーションした。膜画分を次の日に抽出し、そして各抽出試料を、ASのオリゴマー種のみを認識するように設計されたELISAでASオリゴマーの量について測定した(図5B)。膜画分由来のASオリゴマーの有意な減少が、繊維状ファージと共にインキュベーションした後にSH−SY5Y細胞において測定された。膜画分から抽出されたAS凝集体に対する野生型ファージの効果は、野生型ファージが、おそらく、ASのNAC領域のアミノ酸73〜85に位置する以前に実証された相互作用領域を通してのASとの直接的な相互作用を介して、形質膜上のASに影響を及ぼすことを示唆する。細胞をファージと共に長時間インキュベーションすることに因り、僅かな割合のファージが細胞中に内部移行し、形質膜以外の細胞中の他の膜区画に影響を及ぼすことも可能である。内部移行の可能性を伴う細胞へのファージの結合は、リソソーム分解の活性化を通して、形質膜からのα−シヌクレインの排除を促進し得る。
【0079】
パーキンソン病のトランスジェニックマウスモデルを使用した、α−シヌクレインとM13との相互作用の研究
7カ月令のPDGFα−シヌクレイントランスジェニックマウス(D系)および非トランスジェニックマウスは、1×1014個のM13ファージの海馬内注入を受け、そして脳を免疫組織化学によって7日後に、α−シヌクレイン、M13およびlba1(ミクログリア活性化のため)に対する抗体を用いて分析した。M13を注入されたα−シヌクレインTgマウスにおいて、豊富なM13免疫反応性が観察された。M13の免疫染色が、新皮質および海馬の神経細胞体において観察された。海馬におけるM13の免疫染色はまた、ニューロピルにおいても豊富であった。α−シヌクレインの神経凝集体の平均数を、一方の半球にはM13を、他方の半球にはリン酸緩衝食塩水(PBS)ビヒクルを注入した後に脳の両半球において測定し、そして別々の半球における測定の比を図6に示す。
【0080】
今まで本発明を完全に説明してきたが、本発明を、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、過度の実験を行なうことなく、多種多様な等価なパラメータ、濃度および条件内で実施することができることが当業者によって認識されるだろう。
【0081】
本発明を、その具体的な態様と関連させて記載してきたが、さらなる改変も行なうことができることが理解されるだろう。本出願は、一般に本発明の原理に従って、本発明が属する技術分野内の公知または慣用的な実践内に該当し、そして以下のように添付の特許請求の範囲に示された本明細書において前記した本質的な特徴に適用され得るような、本発明の開示からのこのような逸脱を含む、本発明の任意の変法、使用または適応を網羅することを意図する。
【0082】
公知の方法工程、従来の方法工程、公知の方法または従来の方法への言及は、いずれにしても、本発明の任意の局面、記載または態様が、関連技術分野において開示、教義または示唆されていることを承認するものではない。
【0083】
以前の具体的な態様の記載は、本発明の一般的な性質を完全に明らかにするので、他者は、当技術分野の技術範囲内の知識(本明細書において引用した参考文献の内容を含む)を適用することによって、過度の実験を行なうことなく、本発明の一般的な概念から逸脱することなく、種々の適用のためにこのような具体的な態様を容易に改変および/または適応させることができる。それ故、このような適応および改変は、本明細書において提示した教義および指針に基づいて、開示された態様の均等物の意味および範囲内であることを意図する。本明細書における語句または用語は、説明のためであって制限するためのものではないので、本明細書の用語または語句は、当業者によって、本明細書において提示した教義および指針に照らして、当業者の知識と組み合わせて解釈されるものであることを理解されたい。
【0084】
【表1】





【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキンソン病またはパーキンソン病への易罹患性の処置において使用するための繊維状バクテリオファージであって、前記繊維状バクテリオファージは炎症誘発性サイトカインに対する抗体を提示する、前記繊維状バクテリオファージ。
【請求項2】
パーキンソン病またはパーキンソン病への易罹患性の処置において使用するための繊維状バクテリオファージであって、前記繊維状バクテリオファージは(i)哺乳動物細胞内部移行シグナル;(ii)α−シヌクレイン抗原もしくはα−シヌクレイン抗体;または(iii)β−アミロイド抗原もしくはβ−アミロイド抗体を提示しない、前記繊維状バクテリオファージ。
【請求項3】
前記バクテリオファージが哺乳動物細胞内部移行シグナルを提示しない、請求項1または2記載の繊維状バクテリオファージ。
【請求項4】
前記バクテリオファージがWTファージである、請求項1〜3のいずれか1項記載の繊維状バクテリオファージ。
【請求項5】
前記バクテリオファージがUV照射されたファージである、請求項4記載の繊維状バクテリオファージまたは使用。
【請求項6】
パーキンソン病の処置において使用するための第一および第二の繊維状バクテリオファージであって、
a)第一の繊維状バクテリオファージは、炎症誘発性サイトカインに対する抗体を提示し;
b)第二の繊維状バクテリオファージは、(i)哺乳動物細胞内部移行シグナル;(ii)α−シヌクレイン抗原もしくはα−シヌクレイン抗体;(iii)β−アミロイド抗原もしくはβ−アミロイド抗体;または(iv)炎症誘発性サイトカインに対する抗体、を提示しない、前記第一および第二の繊維状バクテリオファージ。
【請求項7】
第一のバクテリオファージが、哺乳動物細胞内部移行シグナルを提示しない、請求項6記載の繊維状バクテリオファージ。
【請求項8】
第二のバクテリオファージがWTファージである、請求項6または7記載の繊維状バクテリオファージ。
【請求項9】
第二のバクテリオファージがUV照射されたファージである、請求項8記載の繊維状バクテリオファージ。
【請求項10】
炎症誘発性サイトカインに結合する抗体を提示する繊維状バクテリオファージがさらに、プロテインAまたはプロテインGの抗体結合部分を提示し、そして炎症誘発性サイトカインに結合する前記抗体が、プロテインAまたはプロテインGの抗体結合部分に結合している、請求項1、3、4および5のいずれか1項記載の繊維状バクテリオファージ。
【請求項11】
炎症誘発性サイトカインに結合する抗体が、IL−6に結合する抗体である、請求項
3〜10のいずれか1項記載の繊維状バクテリオファージ。
【請求項12】
各バクテリオファージが、鼻腔内投与のために使用される、請求項1〜11のいずれか1項記載の繊維状バクテリオファージ。
【請求項13】
各繊維状バクテリオファージが、独立して、M13、f1およびfdバクテリオファージ、並びにその混合物から選択される、請求項1および3〜12のいずれか1項記載の繊維状バクテリオファージ。
【請求項14】
各繊維状バクテリオファージがM13である、請求項13記載の繊維状バクテリオファージ。
【請求項15】
a)炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体を提示する第一の繊維状バクテリオファージ;
b)第二の繊維状バクテリオファージ(前記の第二のバクテリオファージは(i)哺乳動物細胞内部移行シグナル;(ii)α−シヌクレイン抗原もしくはα−シヌクレイン抗体;(iii)β−アミロイド抗原もしくはβ−アミロイド抗体;または(iv)炎症誘発性サイトカインに特異的な抗体を提示しない);および
c)薬学的に許容され得る担体
を含む、薬学的組成物。
【請求項16】
鼻腔内投与のために製剤化された請求項15記載の組成物。
【請求項17】
第一のバクテリオファージが哺乳動物細胞内部移行シグナルを提示しない、請求項15または16記載の組成物。
【請求項18】
第二のバクテリオファージがWTファージである、請求項15〜17のいずれか1項記載の組成物。
【請求項19】
第二のバクテリオファージがUV照射されたバクテリオファージである、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
第一の繊維状バクテリオファージがさらに、プロテインAまたはプロテインGの抗体結合部分を提示し、そして炎症誘発性サイトカインに結合する抗体が、プロテインAまたはプロテインGの抗体結合部分に結合している、請求項15〜19のいずれか1項記載の組成物。
【請求項21】
炎症誘発性サイトカインに結合する抗体が、IL−6に結合する抗体である、請求項15〜20のいずれか1項記載の組成物。
【請求項22】
第一および第二の繊維状バクテリオファージの各々が、独立して、M13、f1、およびfdバクテリオファージ、並びにその混合物から選択される、請求項15〜21のいずれか1項記載の組成物。
【請求項23】
第一および第二の繊維状バクテリオファージがM13である、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
繊維状バクテリオファージをそれを必要とする患者に投与することによってパーキンソン病に罹患した患者またはパーキンソン病に罹患し易い患者を処置する方法であって、前記バクテリオファージは(i)哺乳動物細胞内部移行シグナル;(ii)α−シヌクレイン抗原もしくはα−シヌクレイン抗体;または(iii)β−アミロイド抗原もしくはβ−アミロイド抗体を提示しない、前記方法。
【請求項25】
炎症誘発性サイトカインに対する抗体を提示する繊維状バクテリオファージをそれを必要とする患者に投与することによって、パーキンソン病に罹患した患者またはパーキンソン病に罹患し易い患者を処置する方法。
【請求項26】
前記バクテリオファージが哺乳動物細胞内部移行シグナルを提示しない、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記バクテリオファージがWTファージである、請求項24または25記載の方法。
【請求項28】
前記バクテリオファージがUV照射されたファージである、請求項27記載の方法。
【請求項29】
a)炎症誘発性サイトカインに対する抗体を提示する第一の繊維状バクテリオファージ;および
b)第二の繊維状バクテリオファージ(前記の第二のバクテリオファージは(i)哺乳動物細胞内部移行シグナル;(ii)α−シヌクレイン抗原もしくはα−シヌクレイン抗体;(iii)β−アミロイド抗原もしくはβ−アミロイド抗体;または(iv)炎症誘発性サイトカインに対する抗体を提示しない)
をそれを必要とする患者に共投与することによってパーキンソン病に罹患した患者またはパーキンソン病に罹患し易い患者を処置する方法。
【請求項30】
前記の第一のバクテリオファージが、哺乳動物細胞内部移行シグナルを提示しない、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記の第二のバクテリオファージがWTファージである、請求項29または30記載の方法。
【請求項32】
前記の第二のバクテリオファージがUV照射されたファージである、請求項31記載の方法。
【請求項33】
炎症誘発性サイトカインに結合する抗体を提示する繊維状バクテリオファージがさらに、プロテインAまたはプロテインGの抗体結合部分を提示し、そして炎症誘発性サイトカインに結合する抗体が、プロテインAまたはプロテインGの抗体結合部分に結合している、請求項25〜32のいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
炎症誘発性サイトカインに結合する抗体が、IL−6に結合する抗体である、請求項25〜33のいずれか1項記載の方法。
【請求項35】
各バクテリオファージが鼻腔内に投与される、請求項24〜34のいずれか1項記載の方法。
【請求項36】
各繊維状バクテリオファージが、独立して、M13、f1およびfdバクテリオファージ、並びにその混合物から選択される、請求項24〜35のいずれか1項記載の方法。
【請求項37】
各繊維状バクテリオファージがM13である、請求項36記載の方法。

【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−509672(P2012−509672A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537703(P2011−537703)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2009/065659
【国際公開番号】WO2010/060073
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(504335699)ラモト アト テル−アヴィヴ ユニバーシティ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】