説明

繊維状炭素の製造方法、繊維状炭素およびその用途

【課題】化学気相成長法による繊維状炭素を製造する方法において、繊維状炭素合成のための安定した反応場を作り出すことにより、効果的な窒素含有化合物の添加を可能とし、反応容器や繊維状炭素の汚染を軽減するとともに繊維状炭素を高効率で合成する方法を提供すること。
【解決手段】化学気相成長法による繊維状炭素を製造する方法において、有機溶剤に少なくともメラミン誘導体を溶解したものを原料として用いて、該原料を反応容器内へ噴霧導入することを特徴とする繊維状炭素の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相成長法による繊維状炭素を製造する方法において、有機溶剤に少なくともメラミン誘導体を溶解したものを原料として用いて、該原料を噴霧することにより反応容器内へ導入することを特徴とする繊維状炭素の製造方法、繊維状炭素およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維状炭素の製造方法としては、例えば、アーク放電法(特許文献1)、レーザー蒸発法(非特許文献1)、化学気相成長 (CVD) 法(非特許文献2)等がある。このうち、CVD法は連続的に原料供給が可能であるため、大量で安価な合成が実現しつつある。繊維状炭素を製造するためのCVD法は大きく分けて基板法と流動気相法がある(特許文献2、非特許文献3〜5)。
【0003】
基板法はアルミナ、シリカ、ゼオライト等の多孔質粉末もしくは基板にCo, Fe, Ni, Co, Mo, Pt, Rhやそれらの複合金属微粒子を担持し、触媒基板とする。反応容器内に触媒基板を配置し、反応温度を600℃〜1000℃程度に制御して炭化水素、一酸化炭素、芳香族系有機溶剤、アルコール等を炭素原料として反応容器内へ導入することによりカーボンナノチューブ(CNT)等の繊維状炭素を基板上に成長させることができる。一方、流動気相法はフェロセン、ニッケロセンなどのメタロセンと呼ばれる有機金属化合物をアルコール等の有機溶剤に溶解し、それをスプレーや超音波アトマイザーにより反応空間へ供給することにより繊維状炭素を合成する方法である(非特許文献3〜7)。超音波アトマイザーによって形成するミストはミスト粒子の大きさが均質かつ小さいことが知られている。非特許文献7では、エタノールにフェロセンを溶解し、これを超音波アトマイザーにて導入することにより金属的なCNTの形成が促進されることを報告している(非特許文献7)。
【0004】
一方、近年、CNT等の構造中に窒素原子をドープした炭素材料が注目されている。窒化炭素および窒素をドープした炭素材料は純粋な炭素材料に比べてバンドギャップが狭くなることから良導電性であることや高強度であることが予測されている。そのため、例えば、蓄電デバイスの活物質、燃料電池用電極触媒および触媒担体、ディスプレー電極用の導電性薄膜材料として効果的に利用することができる。
【0005】
繊維状炭素の構造の一部に窒素原子をドープする方法としては、非特許文献8、9により提案されており、窒素源としてエチレンジアミンを用いて、主炭素源としてエタノールを用いて基板法によるCVDにより繊維状炭素を合成している(非特許文献8)。この文献によると、雰囲気ガスの導入口側に2個のシリンジを配置した反応容器を用いて電気炉にて反応空間の温度を制御できる構成の装置が用いられている。それぞれのシリンジにはフェロセンを溶解したエタノールとエチレンジアミンが個別のシリンジに挿入されており、800℃〜1000℃に制御した反応空間へエタノールとエチレンジアミンを同時に注入することにより節をもつ竹状のCNTが合成する。フェロセンを溶解したエタノールとエチレンジアミンが個別のシリンジにより反応空間へ注入されるため、反応空間内で気化したエタノールおよびエチレンジアミンは不均一な状態のまま反応空間を通過するため、窒素原子供給源となるエチレンジアミンが繊維状炭素合成反応に充分に寄与できず、大量のエチレンジアミンが必要となる。エチレンジアミンの添加量に比例して、反応に寄与しないエチレンジアミンも増加するため、アンモニアガスや炭化物といった反応副生成物の生成量が増加し、反応容器および排気ガスラインの汚染や腐食につながる。
【0006】
また、非特許文献9によると、繊維状炭素へ窒素原子をドープする方法として次のことが報告されている。この方法によると、2つの反応炉を配置した円筒状反応容器を用いる。雰囲気ガス導入側の反応炉(プレヒータ)中央部に固体であるメラミンを配置し、250℃に加熱する。次に、そのプレヒータ部にフェロセンを溶解したピリジンを送液ポンプにて供給する。このようにして生成したメラミンの熱分解ガスとピリジンはキャリアガスである水素ガスとともに750℃に設定したもうひとつの反応炉(反応部)へと供給され、そこで竹状のCNTが合成される。しかし、この方法の場合、プレヒータでピリジンが蒸発し、ピリジンに溶解している触媒金属であるフェロセンがプレヒータ部の反応容器に付着してしまうため、反応部へ供給される触媒金属は限られた量になってしまう。そのため、大量の触媒金属を必要とするという問題、プレヒータの昇温時にメラミンが熱分解を起こして炭化物として反応容器に付着するという汚染の問題や、メラミンの熱分解ガスが間欠的に生じて生成量が経時変化するため原料を安定的に供給できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−197325号公報
【特許文献2】特開2001−80913号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「Science」誌, vol.273,(1996),p. 483
【非特許文献2】「表面科学」誌, vol.26, No.9, (2005), p. 518
【非特許文献3】「Chemical Physics Letters」誌, vol. 360, (2002), p. 229
【非特許文献4】「Applied Physics Letters」誌, vol. 72, (1998), p. 3282
【非特許文献5】「Chemical Communications」誌, vol. 15, (1998), p. 1525
【非特許文献6】「Diamond and Related Materials」誌, vol. 16, (2007), p. 1958
【非特許文献7】「第38回フラーレン・ナノチューブ総合シンポジウム講演要旨集」, 「エアロゾルアシストCVD法による金属的な単層カーボンナノチューブの収率制御」
【非特許文献8】「Materials Science and Engineering B」誌 vol. 158, (2009), p. 69
【非特許文献9】「Applied Physics Letters」誌 vol. 88, (2006), p. 213119
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、窒素をドープした炭素材料は純粋な炭素材料に比べてバンドギャップが狭くなることから良導電性であることや高強度であることが予測されている。そのため、例えば、蓄電デバイスの活物質、燃料電池用電極触媒および触媒担体、ディスプレー電極用の導電性薄膜材料として効果的に利用することができると考えられる。
【0010】
しかしながら、非特許文献8の方法や非特許文献9の方法により繊維状炭素を合成すると、不均質雰囲気中にて繊維状炭素が合成され、目的とする物性の繊維状物質を大量に合成することができないという問題、窒素供給源となる窒素含有化合物を大量に使用することによって、繊維状炭素の合成に寄与しない窒素原子含有化合物の分解生成物が増加し、それが不純物として反応容器や繊維状炭素に付着してしまう問題や、該分解生成物による反応装置の腐食や洗浄の手間等の問題がある。
【0011】
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、CVD法による繊維状炭素の製造において、繊維状炭素を合成するための安定した反応場を作り出すことにより、窒素含有化合物を効果的に添加でき、原料の分解生成物による反応容器や繊維状炭素の汚染を軽減するとともに、導電性や機械的強度が向上した繊維状炭素を高効率で製造する方法、該方法により製造した繊維状炭素およびその用途を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究し、有機溶剤に少なくともメラミン誘導体を溶解したものを噴霧導入するCVD法を発明するに至り、繊維状物質を合成するための安定した反応場を作り出すことにより、窒素含有化合物を効果的に添加することができ、原料の分解生成物による反応容器や繊維状炭素の汚染を軽減するとともに繊維状炭素を高効率で合成する製造方法を見いだして、本発明を完成させたものである。
【0013】
本発明の繊維状炭素の製造方法は、CVD法による繊維状炭素を合成する方法において、有機溶剤に少なくともメラミン誘導体を溶解したものを原料として用いて、該原料を反応容器内へ噴霧導入することを特徴とするものである。
【0014】
本発明によれば、CVD法による繊維状炭素の合成において、有機溶剤に少なくともメラミン誘導体を溶解したものを原料として用いて、該原料を噴霧することにより、任意の割合でメラミン誘導体と有機溶剤を含んだミストを形成でき、キャリアガスにより該ミストを反応容器内へ移送することにより、安定した反応雰囲気中にて繊維状炭素を製造できる。
また、有機溶剤に添加するメラミン誘導体の添加量は反応容器の汚染・腐食や繊維状炭素の製造効率に影響するため、有機溶剤に溶解させるメラミン誘導体の添加量の最適化は非常に重大な課題であり、その最適な濃度の範囲は、0.01g/L以上30g/L以下である。
さらに、メラミン誘導体としてアルキル化メラミンもしくはエーテル化メラミンから選ばれる、少なくとも1つを含むものが好ましい。
さらにまた、メラミン誘導体を溶解した有機溶剤にフェロセン等の有機金属化合物を溶解し、流動気相法にて繊維状炭素を製造できる。このとき、超音波アトマイザーを用いて該原料を反応空間へ噴霧導入すると小さい直径の繊維状炭素が大量に製造できる。
本発明によれば、本発明は基板法および流動気相法によるCVDに適用することができる。基板法によるCVDに適用した場合、基板に成長した繊維状炭素を回収したものをプラスチックフィルムに塗工して、流動気相法によるCVDに適用した場合は反応容器や繊維状炭素の捕集部に付着した繊維状炭素を回収したものをプラスチックフィルムに塗工して、もしくは、捕集部に接着層を設けたプラスチックフィルムを配置しておき、プラスチックフィルムより上流側の反応部で形成した繊維状炭素をその重力下降を利用してプラスチックフィルムに気相製膜することにより、ディスプレー材料に好適な導電性薄膜フィルムを製造できる。
本発明において原料を反応容器内に噴霧導入する方法としては、例えば、反応容器に先立って原料を加熱する反応炉(プレヒータ)を備えた反応容器を用い、原料を該プレヒータに導入し、加熱された原料をもうひとつの反応炉(反応部)へ移送する方法が挙げられる。ここで、反応部となる反応炉に移送された原料は噴霧導入された時のミスト状態を保っていても、揮発して気体となっていてもよい。しかしながら、原料が触媒金属を含んでおり、反応部に移送された原料がミスト状態を保っている場合はミスト状態の原料から繊維状炭素の前駆体となる成長核が効率よく生成するため、繊維状炭素をさらに高効率で合成することができる。また、反応容器は1つ容器であっても複数の容器(反応炉)が接続された構造であってもよい。したがって、反応部となる1つの反応炉からなる反応容器内に原料を噴霧導入する方法であってもよい。また、プレヒータ等の反応部となる反応炉以外の容器を持つ反応容器において、反応部となる反応炉内に原料を噴霧導入する方法であってもよい。したがって、原料を反応容器内に噴霧して導入するのである限り、原料の導入方法は特に限定されない。
【0015】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
(1)化学気相成長法による繊維状炭素を製造する方法において、有機溶剤に少なくともメラミン誘導体を溶解したものを原料として用いて、該原料を反応容器内へ噴霧導入することを特徴とする繊維状炭素の製造方法。
(2)上記原料中に含まれるメラミン誘導体の濃度が0.01g/L以上30g/L以下であることを特徴とする前記(1)に記載の繊維状炭素の製造方法。
(3)上記メラミン誘導体がアルキル化メラミンもしくはエーテル化メラミンの内、少なくとも1つを含むものであることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の繊維状炭素の製造方法。
(4)流動気相法により繊維状炭素を成長させることを特徴とする前記(1)から(3)のいずれかに記載の繊維状炭素の製造方法。
(5)超音波アトマイザーを用いて原料を供給することを特徴とする前記(1)から(4)のいずれかに記載の繊維状炭素の製造方法。
(6)前記(1)から(5)のいずれかに記載の繊維状炭素を導電性材料として用いたことを特徴とする透明導電性フィルム。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、CVD法による繊維状炭素の製造において、繊維状炭素を合成するための安定した反応場を作り出すことができることにより、窒素含有化合物を効果的に添加でき、原料の分解生成物による反応容器や繊維状炭素の汚染を軽減することができる。また、本発明により窒素含有化合物を適切に添加することにより、繊維状炭素を高効率で合成することができるため、繊維状炭素を安価で大量に製造することが可能となる。
【0017】
本発明により製造した繊維状炭素は蓄電材料の電極活物質やそのフィラー、燃料電池用電極触媒および触媒担体、ディスプレーの導電性薄膜材料として効果的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は実施例1で得られた反応後の触媒基板表面のSEM観察像である。
【図2】図2は実施例2で得られた反応後の触媒基板表面のSEM観察像である。
【図3】図3は実施例3で得られた反応後の触媒基板表面のSEM観察像である。
【図4】図4は実施例4で得られた試料のSEM観察像である。
【図5】図5は実施例5で得られた試料のSEM観察像である。
【図6】図6は実施例6で得られた繊維状炭素フィルムの写真。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明における繊維状炭素の製造方法は、CVD法による繊維状炭素を製造する方法において、有機溶剤に少なくともメラミン誘導体を溶解したものを原料として用いて、該原料を反応容器内へ噴霧導入することを特徴とするものである。
【0020】
本発明におけるCVD装置は本発明の構成を達成できるものであれば特に制限はないが、例えば、電気炉を配置した円筒状の反応容器の片端にスプレーもしくは超音波アトマイザーといった原料の噴霧供給装置を配置し、その反対側の端に排気口を設けてある構成である。CVD装置の設置方向に制限はないが、CVD装置を縦型に配置する場合、噴霧供給装置が上部側であり、排気口が下部側になるように配置することが好ましい。また、キャリアガスは噴霧供給装置を経由して反応容器へ導入してもよいし、噴霧供給口とは別にガス導入口を設けて、そこから反応容器へ導入してもよい。さらに、反応容器の反応部に原料を供給するに先立って原料を加熱するためにプレヒータを設け、プレヒータに対して噴霧供給装置を接続してもよい。
【0021】
本発明でいうメラミン誘導体とはメラミン誘導体モノマー、メラミン誘導体オリゴマーもしくはこれらの混合物であり、有機溶剤に溶解するものであれば特に限定しないがアルキル化メラミン(モノマー、オリゴマー、もしくはそれらの混合物も含む)やエーテル化メラミン(モノマー、オリゴマー、もしくはそれらの混合物も含む)が好ましく、アルキル化メラミンがより好ましい。アルキル化メラミンとしては、メチル化メラミン、エチル化メラミン、n-プロピル化メラミン、イソプロピル化メラミン等が挙げられる。エーテル化メラミンとしては、メチルエーテル化メラミン、エチルエーテル化メラミン、n-プロピルエーテル化メラミン、イソプロピルエーテル化メラミン等が挙げられる。また、本発明でいうメラミン誘導体は有機溶剤に溶解するものであればポリマーであってもよい。中でもアルキル化メラミンが特に好ましい。さらに、メチル化メラミンであれば、多くの有機溶剤に容易に解けるのでより好ましい。
【0022】
メラミン誘導体の濃度は有機溶剤に対して0.01g/L以上30g/L以下が好ましく、0.01g/L以上1g/L以下がより好ましい。ナノパーティクルの生成が抑えられるので、さらに好ましくは、0.02g/L以上1g/L以下である。メラミン誘導体の濃度は有機溶剤に対して30g/Lより多いと未反応のメラミン誘導体の炭化物が生じやすく、繊維状炭素表面や反応容器に付着してしまうことや繊維状構造を保てなくなることがある。また、メラミン誘導体を溶解した有機溶剤にフェロセンやニッケロセンなどといったメタロセンなどの有機金属化合物をさらに添加してもよい。
【0023】
本発明に用いる有機溶剤に制限はないが、メタノールやエタノールなどのアルコールが好ましい。尚、アルコールは水分を含んでいてもよい。有機溶剤に含まれる水分量は特に制限しないが、未反応の有機溶剤もしくは未反応のメラミン誘導体の分解ガスを水性賦活反応等により適度に酸化できる程度が好ましい。有機溶剤に含まれる水分量が多いと、繊維状炭素も酸化されてしまうため、反応容器のサイズ、雰囲気ガスの流量、加熱温度、加熱時間等の反応条件を鑑みて、適宜制御することが好ましい。
【0024】
本発明に用いる雰囲気ガス(キャリアガスも含む)としては特に制限はないが、窒素、アルゴン、水素、もしくはこれらの混合ガスが好ましい。しかしながら、長い繊維状炭素を形成するためにエチレンガス、アセチレンガス等といった炭化水素ガスを1種以上さらに加えてもよい。
【0025】
メラミン誘導体を溶解した有機溶剤の導入にはスプレーや超音波アトマイザー等を用いることが好ましく、超音波アトマイザーを用いることがより好ましい。有機溶剤にメラミン誘導体を溶解し、スプレーや超音波アトマイザーにより反応空間へ噴霧導入すると、メラミン誘導体と有機溶剤を任意の割合で混合した混合ミストとして反応空間へ導入することができ、安定した反応ガス雰囲気を供給できる。また、メラミン誘導体を溶解した有機溶媒を用いることにより、反応容器内の反応部に安定的に原料を供給できるので繊維状炭素を形成する前駆体が形成されやすくなり、効率よく繊維状炭素を形成できるものと考えられる。尚、メラミン誘導体と有機溶剤と触媒金属を混合した混合ミストを反応空間に導入すると、反応部において繊維状炭素の前駆体となる成長核が効率よく生成する。したがって、超音波アトマイザーを用いて、メラミン誘導体と有機溶剤と触媒金属を混合した混合ミストを反応空間に導入することが特に好ましい。
【0026】
本発明における繊維状炭素を合成するためのCVD法としては、アルミナ、シリカ、ゼオライト等の多孔質粉末もしくは基板にCo, Fe, Ni, Co, Mo,
Pt, Rhやそれらの複合金属微粒子を担持した触媒基板を配置した反応容器に、メラミン誘導体を溶解した有機溶剤をスプレーや超音波アトマイザー等を用いて噴霧導入することを特徴とする製造方法や、メラミン誘導体を溶解した有機溶剤にフェロセンなどといったメタロセンなどの有機金属化合物を添加して、超音波処理等によりメラミン誘導体と有機金属化合物を有機溶剤に溶解して、それをスプレーや超音波アトマイザーにより反応容器へ噴霧導入することを特徴とする製造方法があげられる。メラミン誘導体を溶解した有機溶剤に有機金属化合物を溶解させることにより、反応空間へ噴霧導入するそれぞれのミスト粒子にはメラミン誘導体、触媒金属源、有機溶剤が仕込み量の割合で含有しているため繊維状炭素を合成するための反応場としてより安定となる。
【0027】
非特許文献7では、超音波アトマイザーを用いたCVDによりCNTを合成する際、直径が1nm 以下で、かつ、直径がそろった単層ナノチューブが形成されることを報告している。超音波アトマイザーにより形成されるミストはスプレー噴霧により形成するミストに比べてミストの粒子径が小さく、また、その粒子径分布も狭い。そのため、超音波アトマイザーにより形成されるミストに含まれる触媒金属源はスプレー噴霧により形成されるミストに含まれる触媒金属より少量となるため、その結果、直径分布が狭く、直径が小さいCNTが形成される。また、超音波アトマイザーを用いると、他の製造方法に比べて、製造される単層ナノチューブに含まれる金属的なCNTの存在割合が高くなることがわかっている。そのため、本発明における原料の噴霧供給装置には超音波アトマイザーを用いることがより好ましい。
【0028】
本発明における繊維状炭素にドープされている窒素の状態やドープ量を把握する場合、元素分析やX線光電子分光等により適宜調べることが可能である。
【0029】
本発明における繊維状炭素の合成条件としては、反応装置のサイズ、キャリアガスの流量、原料(例えば、メラミン誘導体および有機金属化合物を溶解した有機溶媒)の供給速度等により適宜設定することが好ましい。例えば、25mmφ
x 400 mm L の反応空間へキャリアガスが1L/min の流量で供給し、原料を0.5ml/min の供給速度で供給する場合、反応温度は600℃〜1000℃の間で設定することが好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明に関し実施例を用いて説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1
縦50 mm x横 50 mm x 厚み0.5mmの石英プレートにニッケルを直流マグネトロンスパッタ法により2〜5nm製膜したものをガラスカッターにて10mm
x 10 mm に切り出して触媒基板とした。管状電気炉内に配置したアルミナ焼成管を反応炉として用いて、反応炉の中央部に触媒基板を配置した。メチル化メラミン(株式会社三和ケミカル製 商品名 MW-30)0.005gをエタノール100mLに添加し、超音波洗浄器にて10分間処理してメチル化メラミンをエタノールに溶解したものを原料とした。窒素ガスを流したまま管状電気炉の温度を850℃まで昇温後、窒素ガスとともに炭素原料をスプレー(株式会社エアテックス製エアブラシXP-725)を用いて、2mL/minの原料導入量、6L/minのガス導入量で反応器内に原料とキャリアガスを導入した。反応時間は20分とした。その後、管状電気炉を室温まで放冷し、触媒基板表面を走査電子顕微鏡(SEM)により観察した。
【0032】
実施例2
メチル化メラミン0.1gをエタノール100mLに添加し、超音波洗浄器にて10分間処理してメチル化メラミンをエタノールに溶解したものを原料とした以外は実施例1と同様にした。
【0033】
実施例3
メチル化メラミン3gをエタノール100mLに添加し、超音波洗浄器にて10分間処理してメチル化メラミンをエタノールに溶解したものを原料とした以外は実施例1と同様にした。
【0034】
実施例4
エタノールにフェロセンを0.3重量%の濃度になるように添加し、さらにメチル化メラミンを0.05g/Lになるように添加し、超音波洗浄器にて20分間処理してフェロセンとメチル化メラミンを溶解したものを原料とした。実施例1と同様の装置を用いて、アルゴンガスを流したまま管状電気炉の温度を850℃まで昇温後、アルゴンガスとともに原料をスプレー(株式会社エアテックス製エアブラシXP-725)を用いて、2mL/minの原料導入量、6L/minのガス導入量で反応器内に導入した。反応時間は2時間とした。その後、管状電気炉を室温まで放冷し、反応器内の煤を回収したものを試料とし、走査電子顕微鏡(SEM)により観察した。
【0035】
実施例5
超音波アトマイザーを用いて原料を1mL/minの導入量で反応器内に導入した。また、雰囲気ガスとしてアルゴンガス1L/minを用いて、超音波アトマイザーを経由してアルゴンガスを反応器内へ流した。それ以外は実施例4と同様にした。
【0036】
実施例6
エタノールにフェロセンを0.3重量%の濃度になるように添加し、さらにメチル化メラミンを0.05g/Lになるように添加し、超音波洗浄器にて20分間処理し、繊維状炭素原料とした。実施例5と同様の装置を縦型に配置し、反応容器下部側の繊維状炭素製造時に200℃以下の温度となる位置に、ガスの流れる方向と垂直にプラスチックフィルムを配置した。尚、雰囲気ガスはプラスチックフィルムより下部に配置されたガス排出口から排出される。アルゴンガスを流したまま管状電気炉の温度を850℃まで昇温後、超音波アトマイザーを用いて反応容器上部側から原料を1mL/minの導入量で反応器内に導入した。雰囲気ガスとしてはアルゴンガスを用いて流量1L/minにて、超音波アトマイザーを経由してアルゴンガスを反応器内へ流した。反応時間は30分とした。厚み188μmのポリエステル製のPETフィルムには透明な接着層が設けてあり、該PETフィルムの接着層に均質に繊維状炭素が製膜されることにより、透明性のある繊維状炭素フィルムを得た。黒い線を引いたホワイトボードに該繊維状炭素フィルムをテープ止めして、写真撮影したものを図6に示す。該炭素繊維状炭素の薄膜を備えたPETフィルムは充分に透明であることがわかった。
【0037】
(比較例1)
原料としてエタノールを使用した以外は実施例1と同様にした。SEM観察の結果、多くのナノパーティクルが観察されたが、繊維状物質はほとんど観察されなかった。
【0038】
(比較例2)
原料としてエタノールを使用した以外は実施例4と同様にした。SEM観察の結果、多くのナノパーティクルが観察されたが、繊維状物質はほとんど観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
有機溶剤とともに窒素含有化合物を噴霧導入して合成した繊維状炭素は導電性や機械的強度が向上するものと予測され、蓄電材料の電極活物質やそのフィラー、燃料電池用電極触媒および触媒担体、ディスプレーの導電性薄膜材料として効果的に利用することができると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相成長法による繊維状炭素を製造する方法において、有機溶剤に少なくともメラミン誘導体を溶解したものを原料として用いて、該原料を反応容器内へ噴霧導入することを特徴とする繊維状炭素の製造方法。
【請求項2】
上記原料中に含まれるメラミン誘導体の濃度が0.01g/L以上30g/L以下であることを特徴とする前記請求項1に記載の繊維状炭素の製造方法。
【請求項3】
上記メラミン誘導体がアルキル化メラミンもしくはエーテル化メラミンから選ばれる、少なくとも1つを含むものであることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の繊維状炭素の製造方法。
【請求項4】
流動気相法により繊維状炭素を製造することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の繊維状炭素の製造方法。
【請求項5】
超音波アトマイザーを用いて該原料を供給することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の繊維状炭素の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の繊維状炭素を導電性材料として用いたことを特徴とする透明導電性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−72055(P2012−72055A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186332(P2011−186332)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(591158335)積水ナノコートテクノロジー株式会社 (20)
【Fターム(参考)】