説明

繊維用処理剤組成物、耐光堅牢度向上方法及び繊維製品

【課題】染色された繊維製品の耐光性を色相の変化を抑えて向上させることができる繊維用処理組成物を提供する。
【解決手段】特定のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤及びトリアジン系紫外線吸収剤から選ばれる少なくとも1種の紫外線吸収剤及び特定の芳香族多価カルボン酸エステル化反応物及びアミド化反応物から選ばれる少なくとも1種の芳香族多価カルボン酸誘導体を含有する繊維用処理剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色された布帛等の繊維製品の耐光性を向上させる繊維処理用組成物及びその処理方法に関する。本発明は、特に、紫外線吸収剤の繊維表面への付着形態を、エステル化合物及び/又はアミド化合物を併用し、均一化することにより、耐光性発現効果を高める繊維処理用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維材料からなる染色繊維製品は各種分野に広く利用されており、産業資材分野、特にカーシート、カーマット、シートベルト等においてはより高度な耐光堅牢度が求められている。
【0003】
かかる耐光性を付与する方法として、一般的には、耐光向上剤(紫外線吸収剤など)を染色浴中又は捺染糊中に添加して繊維製品を処理する方法が用いられ、染色浴中又は捺染糊中には耐光向上剤の他、染料、pH調整剤、分散均染剤などが併用されており、染色時の処理条件の110〜130℃の圧力水系中で繊維製品に耐光向上剤を吸着させている。また、染色された布帛に対しても、後処理として耐光向上剤を添加した浸漬浴中に浸漬して付与する方法が用いられ、この時の処理条件として、40〜80℃で繊維製品に耐光向上剤を吸着させている。
【0004】
しかしながら、用いられるこれらの耐光向上剤は一般的に分散性が悪く、布帛への吸着が不均一になりやすいので目的の耐光性の効果が得られていないのが現状である。これは耐光向上剤の吸着過程において、耐光向上剤や染料の付着に強弱が発生して、耐光向上剤層及び染料層が不均一に形成されるためであり、この現象により耐光性の効果のみならず、布帛自体の色目にも変化が現れて影響を与えることとなる。そして、一旦局在化して吸着した耐光向上剤層や染料層を改善することは容易ではない。
【0005】
これらの問題点を解決する方法として、例えば、特許文献1では、特定のアニオン性界面活性剤で分散させた耐光向上剤を染色浴中に使用する方法が開示されているが、この場合ある程度の耐光性は発現するものの、染色された布帛に後処理で付与した場合には、耐光向上剤の吸着が不均一となり、耐光効果が弱くなり、実用上の問題点となる。
【0006】
また、特許文献2では、特定の構造式を有する紫外線吸収剤に、スルホン酸塩型アニオン性界面活性剤及びポリオキシアルキレン型非イオン性界面活性剤を併用する方法が開示されているが、例示されているスルホン酸塩型アニオン性界面活性剤及びポリオキシアルキレン型非イオン性界面活性剤は染料及び耐光向上剤に対する溶解力が十分ではなく、不均一な付着になりやすいので、紫外線吸収剤による耐光向上性を十分に引き出せないという問題点がある。
【0007】
さらに、特許文献3では、既存の紫外線吸収剤に化学的修飾をすることによって、繊維表面への付着状態の改善を試みているが、紫外線吸収剤自体の分散性が不十分となって、目的の耐光性向上の効果が得られていないのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開2005−163238号公報
【特許文献2】特開平9−217276号公報
【特許文献3】特開平9−143874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、染色された繊維製品の耐光性を色相の変化を抑えて向上させることができる繊維用処理組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、紫外線吸収剤に特定のエステル化合物又はアミド化合物を加えた繊維用処理剤組成物により繊維製品を処理することにより、染色繊維製品の色目の変化が少なく、耐光性を向上させることができることを見出し、この知見に基づき本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、下記紫外線吸収剤(A)及び芳香族多価カルボン酸誘導体(B)を含有することを特徴とする繊維用処理剤組成物、該繊維用処理剤組成物を染色繊維製品に付与することを特徴とする染色繊維製品の耐光堅牢度向上方法、及び該繊維用処理剤組成物が付与された繊維製品に関する。
【0012】
紫外線吸収剤(A):下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種
【0013】
【化1】

【0014】
(式(1)中、Rは水素原子又はハロゲン原子を表し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、ベンジル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、アリールオキシ基、ベンジルオキシ基、ベンゾイルオキシ基又はテトラヒドロフタルイミドメチル基を表す)
【0015】
【化2】

【0016】
(式(2)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜8のアルコキシ基を表し、Rは水酸基、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、ベンジル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、アリールオキシ基、ベンジルオキシ基又はベンゾイルオキシ基を表す)
【0017】
【化3】

【0018】
(式(3)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、ベンジル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ベンジルオキシ基、アミノ基、アミノアルキル基又はアミノアリール基を表し、R、R10はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、ベンジル基、アルコキシ基又はアリールオキシ基を表す)
芳香族多価カルボン酸誘導体(B):芳香族多価カルボン酸と下記一般式(4)で表される化合物とのエステル化反応物及び芳香族多価カルボン酸と下記一般式(5)で表される化合物とのアミド化反応物もしくはエステル化反応物からなる群から選ばれる少なくとも1種
【0019】
【化4】

【0020】
(式(4)中、R11は炭素数10〜22の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基又はベンジル基を表し、xは0又は1〜30の整数を表す)
【0021】
【化5】

【0022】
(式(5)中、R12は炭素数10〜22の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基又はベンジル基を表し、y、zはそれぞれ独立に0又は1〜30の整数を表す)
【発明の効果】
【0023】
本発明の繊維用処理剤組成物によれば、色目の変化が少なく、耐光堅牢度を向上させた染色繊維製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい態様を詳細に説明するが、本発明はこれらの態様のみに限定されるものではなく、本発明の精神とその実施の範囲内において様々な変形が可能であることを理解されたい。
【0025】
本発明に用いることのできる紫外線吸収剤(A)としては、前記一般式(1)のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、前記一般式(2)のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、前記一般式(3)のトリアジン系紫外線吸収剤が挙げられる。そして紫外線吸収剤(A)は、これらの内の少なくとも1種を含むことが必要であり、2種以上の場合にはこれらを任意に配合して使用することができる。
【0026】
前記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例としては、R及びRが水素原子であり、Rがメチル基である2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、R及びRが水素原子であり、Rがtert−ブチル基である2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、Rが水素原子であり、R及びRがそれぞれtert−ブチル基である2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジtert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、Rが塩素原子であり、R及びRがそれぞれtert−ブチル基である2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、Rが塩素原子であり、Rがtert−ブチル基であり、Rがメチル基である2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、Rが水素原子であり、R及びRがそれぞれtert−アミル基である2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジtert−アミルフェニル)−ベンゾトリアゾール、R及びRが水素原子であり、Rがtert−オクチル基である2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−オクチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、Rが水素原子であり、Rが3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチルであり、Rがメチル基である2−{2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル}−ベンゾトリアゾール、Rが塩素原子であり、Rがベンゾイルオキシ基であり、Rが水素原子である2−(2′−ヒドロキシ−4′−ベンゾイルオキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0027】
前記一般式(2)で表されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例としては、R及びRが水素原子であり、Rが水酸基である2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、R及びRが水素原子であり、Rがメトキシ基である2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、R及びRが水素原子であり、Rがn−オクトキシ基である2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、R及びRが水素原子であり、Rがベンゾイルオキシ基である2−ヒドロキシ−4−ベンゾイルオキシベンゾフェノン、Rが水酸基であり、Rが水素原子であり、Rがメトキシ基である2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、R、R及びRが水酸基である2,2′,4,4′−テトラヒドロキシ−ベンゾフェノン、R及びRが水酸基であり、Rがメトキシ基である2,2′,4′−トリヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0028】
前記一般式(3)で示表されるトリアジン系紫外線吸収剤の具体例としては、R、R及びRがメチル基であり、R10が水素原子である2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)−4,6−ジメチル−s−トリアジン、R、R、R及びR10がメチル基である2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジメチルフェニル)−4,6−ジメチル−s−トリアジン及び2−(2′−ヒドロキシ−4′,5′−メチルフェニル)−4,6−ジメチル−s−トリアジン、R及びRがエチル基であり、R及びR10がメチル基である2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジメチルフェニル)−4,6−ジエチル−s−トリアジン、R及びRがメチル基であり、Rが塩素原子であり、R10が水素原子である2−(2′−ヒドロキシ−5′−クロロフェニル)−4,6−ジメチル−s−トリアジン、R及びRがメチル基であり、R及びR10が水素原子である2−(2′−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジメチル−s−トリアジン、R及びRがメチル基であり、Rがtert−ブチル基であり、R10が水素原子である2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−ブチルフェニル)−4,6−ジメチル−s−トリアジン、R及びRがフェニル基であり、Rがメトキシ基であり、R10が水素原子である2−(2′−ヒドロキシ−4′−メトキシフェニル)−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、R及びRがフェニル基であり、Rがエトキシ基であり、R10が水素原子である2−(2′−ヒドロキシ−4′−エトキシフェニル)−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、R及びRがフェニル基であり、Rがイソプロピル基であり、R10が水素原子である2−(2′−ヒドロキシ−4′−イソプロピルフェニル)−4,6−ジフェニル−s−トリアジンなどが挙げられる。
【0029】
これらの中で、好ましい紫外線吸収剤(A)としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤であり、特に2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−4′−ベンゾイルオキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールが好ましい。
【0030】
本発明において用いることのできる芳香族多価カルボン酸誘導体(B)としては、芳香族多価カルボン酸と前記一般式(4)の化合物とをエステル化反応させることによって得られるエステル化反応物、芳香族多価カルボン酸と酸化エチレンが付加重合している前記一般式(5)の化合物とをエステル化反応させることによって得られるエステル化反応物、芳香族多価カルボン酸と酸化エチレンが付加重合していない前記一般式(5)の化合物とをアミド化反応させることによって得られるアミド化反応物が挙げられる。本発明においては、これらの芳香族多価カルボン酸誘導体の1種以上を含むことが必要であり、2種以上の場合にはこれらを任意に配合して使用することができる。
【0031】
芳香族多価カルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの酸無水物を挙げることができ、これらの内で好ましい芳香族多価カルボン酸としては、その反応性の観点からこれらの酸無水物が好ましく、特に無水トリメリット酸、無水フタル酸が好ましい。
【0032】
前記一般式(4)の化合物としては、アルキルアルコール、アルケニルアルコール、ベンジルアルコール及びこれらアルコールの酸化エチレン付加重合物が挙げられる。また、前記一般式(5)の化合物としては、アルキルアミン、アルケニルアミン、ベンジルアミン及びこれらアミンの酸化エチレン付加重合物が挙げられる。
【0033】
前記一般式(4)の炭素数10〜22のアルキルアルコール又はアルケニルアルコールの具体例としては、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、ヘキセノール、ヘプチノール、オクテノール、ノネノール、デセノール、ウンデセノール、ドデセノール、トリデセノール、テトラデセノール、ペンタデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール等が挙げられ、これらのアルキル基やアルケニル基は分岐鎖を有するものであってもよい。
【0034】
前記一般式(5)の炭素数10〜22のアルキルアミン又はアルケニルアミンの具体例としては、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ドコシルアミン、デセニルアミン、ウンデセニルアミン、ドデセニルアミン、トリデセニルアミン、テトラデセニルアミン、ペンタデセニルアミン、ヘキサデセニルアミン、ヘプタデセニルアミン、オクタデセニルアミン、ドコセニルアミン等が挙げられ、これらのアルキル基やアルケニル基は分岐鎖を有するものであってもよい。
【0035】
本発明に用いる芳香族多価カルボン酸誘導体(B)としては、芳香族多価カルボン酸と前記一般式(4)の化合物とをエステル化反応させることによって得られるエステル化反応物、芳香族多価カルボン酸と酸化エチレンが付加重合されている前記一般式(5)の化合物とをエステル化反応させることによって得られるエステル化反応物を用いるのが好ましい。また、芳香族多価カルボン酸誘導体(B)には、芳香族多価カルボン酸由来のカルボキシル基を1つ残すことが、分散性、耐光性向上の点で好ましい。
【0036】
紫外線吸収剤(A)と芳香族多価カルボン酸誘導体(B)の配合比率は、質量比で95〜50:5〜50であることが好ましく、特にその配合比率が90〜60:10〜40であることがより好ましい。紫外線吸収剤(A)の配合比率が50:50より小さい、すなわち紫外線吸収剤(A)が50質量%以下の配合になると、紫外線吸収剤成分が少なくなって十分な耐光性向上効果が得られにくくなるので実用的でなくなる。また、紫外線吸収剤(A)の配合比率が95:5より大きく、すなわち紫外線吸収剤(A)が95質量%以上の配合になると、染料及び紫外線吸収剤を均一に付着させる効果が弱くなり、耐光性の向上効果が弱くなる傾向にある。
【0037】
紫外線吸収剤(A)及び芳香族多価カルボン酸誘導体は水不溶から水分散の状態を示すことから、本発明の繊維用処理剤組成物においては、紫外線吸収剤(A)と芳香族多価カルボン酸誘導体の合計配合量を繊維用処理剤組成物の10〜50質量%に調整して、まず界面活性剤などの分散剤を用いて水に分散させた予備分散液を作成し、さらに物理的に粉砕して、微粒子分散の状態で組成物中に安定化させることが好ましい。合計配合量が10質量%未満の場合には、紫外線吸収剤の効果が弱く、十分な耐光性が得られない傾向にある。また、合計配合量が50質量%を超える場合には、系の粘度が上がり、作業性が低下するおそれがある。また、微粒子の大きさも特に限定されるものではないが、平均粒子径が2μm以下の大きさ、特に0.1〜1μmの大きさに粉砕した状態で使用することが好ましい。
【0038】
本発明の繊維用処理剤組成物には紫外線吸収剤(A)、芳香族多価カルボン酸誘導体(B)に加えて、分散安定性を向上させるなどの目的で、必要に応じて添加剤を併用することができる。添加剤としては、例えば、下記一般式(6)で表されるスルホサクシネート型アニオン性界面活性剤などのスルホン酸塩型アニオン性界面活性剤、ポリオキシアルキレン型非イオン性界面活性剤、水溶性高分子化合物類などを挙げることができる。これらの添加剤の内で好ましいものは、スルホン酸塩型アニオン性界面活性剤であり、特にスルホサクシネート型アニオン性界面活性剤が好ましい。
【0039】
【化6】

【0040】
(式(6)中、R13、R14はそれぞれ独立に炭素数10〜22の直鎖もしくは分岐鎖アルキル基を表し、Mはアルカリ金属又はアンモニウムを表す)
また、本発明の繊維用処理剤組成物には、柔軟性を付与する目的で、例えば、脂肪酸とジエタノールアミンなどのアミンとを反応させた脂肪酸系アマイド化合物などを添加することができる。さらに、他の添加剤として、抗菌剤、保存剤、エチレングリコールなどの製品安定剤、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤、湿潤剤、泡防止剤、緩衝剤などを適宜配合することができる。
【0041】
本発明の繊維用処理剤組成物の繊維製品に対する使用量は、染色時に1〜20%o.w.f.(対繊維質量)であるのが好ましく、特に5〜15%o.w.f.(対繊維質量)であるのが好ましく、かかる使用量で、紫外線吸収剤と染料を効率的に繊維製品に付着させることができる。
【0042】
本発明の繊維用処理剤組成物で処理することができる繊維材料としては、合成繊維材料や天然繊維材料が挙げられる。例えば、ポリエステル、ナイロン、アセテート、綿、ウール、レーヨン及びこれらの複合材料からなる織物、編物及び起毛品などが挙げられる。
【0043】
本発明の繊維処理方法においては、繊維用処理剤組成物を繊維表面に均一に付着させることによりその目的を達成することができる。繊維用処理剤組成物を繊維製品に付着させる方法としては、繊維用処理剤組成物の水分散液に浸漬する浸漬処理、パディング処理による連続処理などの方法を用いることができるが、これらの方法に限定されるものではない。これらの処理は、染色工程又は捺染工程の前工程もしくは後工程で行ってもよく、また染色と同時に行ってもよい。染色工程と同時に行う場合、例えば、レギュラーポリエステル繊維の繊維製品の染色と同時に行う場合には、通常の染色条件、すなわち、加圧下、100〜140℃で10〜60分間、またカチオン可染性(CD)ポリエステル繊維の繊維製品の染色と同時に行う場合には、加圧下、100〜120℃で10〜60分間処理するのが好ましい。染色機器としては、従来より用いられている機器、例えば、ジェット染色機、チーズ染色機、ビーム染色機、パッケージ染色機を用いることができ、またスプレー装置等を使用することもできる。更には、繊維製品を定置し、繊維用処理剤組成物を含む加工液を浴内に循環させる手段によって繊維製品と分散組成物とを接触させる装置を用いることもできる。
【0044】
染料としては、直接染料、反応染料、酸性染料(レベリング系、ハーフミーデング系、及びミーデング系)及び分散染料(アゾ系、及びキノン系)など、染色の対象とする繊維製品に好ましい染料を適宜選択して使用することができる。
【0045】
一般に、繊維製品への耐光性付与には、フェノール系、チオエーテル系及びホスファイト系などに代表される酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系及びトリアジン系に代表される紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系に代表される光安定剤等が使用される。これらの中では、紫外線吸収剤、特にベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が繊維製品を対象として一般的に用いられる。紫外線吸収剤は、太陽光などの光エネルギーを吸収して無害の熱エネルギーに変化させる作用によって、繊維製品に耐光性を付与する。芳香族多価カルボン酸誘導体は、揮発性が無く、グリコールエーテル系溶剤などの高沸点溶剤と同じような挙動を示し、染料及び紫外線吸収剤を溶解して、繊維表面に均一に薄く拡散し、染料膜層及び紫外線吸収剤膜層を形成する。また、芳香族多価カルボン酸誘導体は、芳香核を有する化合物であるため、一般的な染料や紫外線吸収剤と近似した構造をもつことによって、繊維表面への配向が均一なるように働き、紫外線吸収剤の耐光性向上効果を最大限に引き出すことができるものと、本発明者らは推察している。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
紫外線吸収剤(A)
(化合物A−1)
2−(2'−ヒドロキシ−3'−t−ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール
(化合物A−2)
2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)−ベンゾトリアゾール
(化合物A−3)
2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン
(化合物A−4)
2−(2′−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジメチル−s−トリアジン
【0047】
芳香族多価カルボン酸誘導体(B)
(化合物B−1)
高温反応釜に、オレイルアルコール536g(2mol)及び無水トリメリット酸192g(1mol)を仕込む。180℃に昇温して3時間脱水反応させ、化合物B−1を得た。化合物B−1の酸価は79であった。
(化合物B−2)
高温反応釜に、ステアリルアルコール810g(3mol)、及び無水ピロメリット酸218g(1mol)を仕込む。180℃に昇温して3時間脱水反応させ、化合物B−2を得た。化合物B−2の酸価は56であった。
(化合物B−3)
高温高圧反応釜に、オレイルアルコール536g(2mol)及び苛性ソーダ2gを仕込み、酸化エチレン440g(10mol)を準じ供給しながら、160℃に昇温して5時間反応させる。続いて、高温反応釜に移して、無水トリメリット酸192g(1mol)を加え、180℃に昇温して3時間脱水反応させ、化合物B−3を得た。化合物B−3の酸価は51であった。
(化合物B−4)
高温高圧反応釜に、ステアリルアミン269g(1mol)及び苛性ソーダ3gを仕込み、酸化エチレン880g(20mol)を準じ供給しながら、160℃に昇温して5時間反応させる。続いて、高温反応釜に移して、無水フタル酸296g(2mol)を加え、180℃に昇温して3時間脱水反応させ、化合物B−4を得た。化合物B−4の酸価は80であった。
(化合物B−5)
高温反応釜に、ステアリルアミン269g(1mol)及び無水フタル酸148g(1mol)を仕込む。180℃に昇温して3時間脱水反応させ、化合物B−5を得た。化合物B−5の酸価は138であった。
【0048】
(比較化合物B−1)
高温反応釜に、オレイルアルコール536g(2mol)及び無水マレイン酸98g(1mol)を仕込む。180℃に昇温して3時間脱水反応させ、比較化合物B−1を得た。比較化合物B−1の酸価は2であった。
(比較化合物B−2)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
【0049】
繊維用処理剤組成物
以下に、繊維用処理剤組成物の作成方法を示す。
実施例1
攪拌容器に化合物B−1(オレイルアルコールと無水トリメリット酸を反応させたエステル化反応物)50g及びアニオン性界面活性剤(スルホサクシネート型界面活性剤)50gを取り、混合攪拌して均一にする。次いで、攪拌しながらイオン交換水700gを添加したところに、化合物A−1(2−(2'−ヒドロキシ−3'−t−ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)200gを加えて予備分散させる。前記予備分散物を五十嵐機械製造(株)製のサンドグラインダーで4時間分散処理し、繊維用処理剤組成物を得た。この時の平均粒子径は、島津製作所(株)製の粒度分布測定機SALD−1100で測定した結果、1.0μmであった。また、この組成物5gを105℃で3時間乾燥して不揮発分を測定した結果、29質量%であった。
実施例2〜10
実施例1で用いた化合物A−1、化合物B−1を表1のように代え、同様にして実施例2〜10の繊維用処理剤組成物を作成した。
【0050】
染色処理布作成
テクサム技研(株)製の染色機ミニカラーを用いて、レギュラーポリエステルニットを下記の染色処理浴中で130℃で30分間の染色処理をした後、下記の還元洗浄浴中で80℃で30分間の還元洗浄を行い、その後、上野山鉄工(株)製のピンテンターを用いて60℃で5分間の乾熱乾燥処理を行い、染色処理布を得た。
(染色処理浴の組成)
Dianix Yellow AC-E NEW(Dystar(株)) 0.3%o.w.f.
Dianix Red AC-E 01(Dystar(株)) 0.3%o.w.f.
Dianix Blue AC-E(Dystar(株)) 0.3%o.w.f.
ニッカサンソルトRM−340(分散均染剤、日華化学(株)製) 0.5g/L
80%酢酸 1.0g/L
浴比=1:20
(還元洗浄浴の組成)
サンモールRC−1(ソーピング剤、日華化学(株)製) 2.0g/L
浴比=1:30
【0051】
試験処理布作成
前記染色処理布を、下記試験処理浴中に50℃で20分間浸漬処理した後、軽く濯ぎ洗いを行い、その後、上野山鉄工(株)製のピンテンターを用いて60℃で5分間の乾熱乾燥処理を行い、各試験処理布を得た。
(試験処理浴の組成)
各繊維用処理剤組成物 10%o.w.f.
浴比=1:20
【0052】
評価方法
(1)色目変化
作成した試験処理布の測色を行い、未処理布と比較を行った。測定機器としてSPECTROPHOTOMETER CM−3700D(MINOLTA(株)製)を用い、測定条件を入射角:10°、光源:D65として行った。色目変化の数値に関して、L値は明るさを示し、数値の高いほど色目が白いことを示す。a値は赤色緑色の色調を示し、数値の高いほど赤味が強いことを示す。b値は黄色青色の色調を示し、数値の高いほど黄色味が強いことを示す。
【0053】
また、作成した試験処理布と未処理布とを比較して色目の変化を、下記評価基準で、目視で判定した。
【0054】
○:ほとんど色目の変化が無い
△:若干色目の変化がある
×:色目の変化が顕著である
なお、○と△の中間の評価を○−△と、△と×の中間の評価を△−×と表記する。
(2)耐光堅牢度
JIS L 0842(第三露光法)3級に準じて耐光堅牢度を評価する。
【0055】
試験処理布を、カーボンアーク灯耐光試験器(スガ試験機(株)製)を用いて63℃で6時間耐光処理して、変褪色の程度を変褪色用グレースケール(JIS L 0804)を用いて級数の評価を行った。級数が大きいほど耐光堅牢度が良好である。
【0056】
結果を下記表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表1の結果より、実施例1〜8の繊維用処理剤組成物で処理された染色処理布は比較例1〜4の繊維用処理剤組成物で処理された染色処理布に比べて、耐光堅牢度に優れ、色目変化も少ないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の繊維用処理剤組成物によれば色目の変化が少なく、耐光堅牢度を向上させた染色繊維製品を得ることができるので、本発明は高い耐光堅牢度を有する産業資材、特にカーシート、カーマット、シートベルト等の繊維材料の提供を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記紫外線吸収剤(A)及び芳香族多価カルボン酸誘導体(B)を含有することを特徴とする繊維用処理剤組成物。
紫外線吸収剤(A):下記一般式(1)、(2)及び(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種
【化1】

(式(1)中、Rは水素原子又はハロゲン原子を表し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、ベンジル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、アリールオキシ基、ベンジルオキシ基、ベンゾイルオキシ基又はテトラヒドロフタルイミドメチル基を表す)
【化2】

(式(2)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜8のアルコキシ基を表し、Rは水酸基、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、ベンジル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、アリールオキシ基、ベンジルオキシ基又はベンゾイルオキシ基を表す)
【化3】

(式(3)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、ベンジル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ベンジルオキシ基、アミノ基、アミノアルキル基又はアミノアリール基を表し、R、R10はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、ベンジル基、アルコキシ基又はアリールオキシ基を表す)
芳香族多価カルボン酸誘導体(B):芳香族多価カルボン酸と下記一般式(4)で表される化合物とのエステル化反応物及び芳香族多価カルボン酸と下記一般式(5)で表される化合物とのアミド化反応物もしくはエステル化反応物からなる群から選ばれる少なくとも1種
【化4】

(式(4)中、R11は炭素数10〜22の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基又はベンジル基を表し、xは0又は1〜30の整数を表す)
【化5】

(式(5)中、R12は炭素数10〜22の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基又はベンジル基を表し、y、zはそれぞれ独立に0又は1〜30の整数を表す)
【請求項2】
紫外線吸収剤(A)が、前記一般式(1)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の繊維用処理剤組成物。
【請求項3】
紫外線吸収剤(A)が、2−(2'−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)−ベンゾトリアゾール又は2−(2'−ヒドロキシ−4'−ベンゾイルオキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールである請求項2に記載の繊維用処理剤組成物。
【請求項4】
芳香族多価カルボン酸誘導体(B)が、芳香族多価カルボン酸と前記一般式(4)で表される化合物又は前記一般式(5)で表される化合物とのエステル化反応物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の繊維用処理剤組成物。
【請求項5】
芳香族多価カルボン酸誘導体(B)が、芳香族多価カルボン酸と前記一般式(4)においてxが0である化合物とのエステル化反応物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の繊維用処理剤組成物。
【請求項6】
紫外線吸収剤(A)及び芳香族多価カルボン酸誘導体(B)に分散剤を加えて、水中に分散させたことを特徴とする請求項1に記載の繊維用処理剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を染色繊維製品に付与することを特徴とする染色繊維製品の耐光堅牢度向上方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物が付与された繊維製品。

【公開番号】特開2009−235606(P2009−235606A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81567(P2008−81567)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】