説明

繊維補強コンクリート複合材料

【課題】一般に多用されているコンクリートに対して、一般的なコンクリートアジテータ車での混練によって容易に練り混ぜが出来、かつ経済的な、たわみ硬化現象を呈する繊維補強コンクリート複合材料を提供すること。
【解決手段】材齢28日の硬化体の曲げ試験において初期ひび割れ強度が6N/mm2以下でクラック分散状の破壊状態を呈する繊維補強コンクリート複合材料であって、特定のフレッシュコンクリートに、特定の補強用短繊維を0.8〜1.7 vol.%配合し、硬化してなることを特徴とする繊維補強コンクリート複合材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維補強コンクリート複合材料に関するものであり、建築、あるいは土木用のコンクリートであって、特に耐震用の高靱性なコンクリート材料として好適なものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは社会基盤用の安価材料として多用されてきたが、圧縮には強いが引張に弱く、脆い材料である。一方、鉄は延性があり引張に強い材料であるが、湿潤・空気中では酸化・腐食しやすい材料である。この両者の長所を組み合わせ、短所を補う材料が鉄筋コンクリート(RC)である。
近年、コンクリートを含めたセメント系複合材の補強用途として、金属あるいは有機の各種繊維材料を組み合わせた複合セメント系材料が注目され実用化されている。
短繊維をセメント系材料に配合し、曲げモーメントあるいは引張力作用下において、ひび割れ発生後も応力の低下がなく、見かけのひずみの増加に伴って応力が増加する現象を示す材料、技術として、特許文献1〜3が開示されているがいずれも、具体的に開示されているのは、粗骨材が配合されたコンクリートではなく、配合材料(セメント、砂、混和材、短繊維等)を限定したモルタルであり、一般に多用されている、粗骨材が配合されたコンクリートには適用できない。
【0003】
その理由はコンクリートではセメント量がモルタルより少なく、繊維の配合が可能な量に制限があること、コンクリートはモルタルとは異なり、粗骨材が配合されているため、繊維の均一分散に対しても制限があり、コンクリートでは、ひび割れ発生後も応力の低下がなく、見かけのひずみの増加に伴って応力が増加する現象、すなわちひずみ硬化現象、又はたわみ硬化現象を発生させることは困難であった。
【0004】
なお、ひび割れ発生後も応力の低下がなく、見かけのひずみの増加に伴って応力が増加する現象の表現として、特許文献1では、載荷終了間際まで曲げ応力が増加する現象を「ひずみ硬化現象」とし(特許文献1、段落〔0047〕)、特許文献2では、一軸張力試験を行って、引っ張り強度が歪の増加に伴って増加する現象を「ひずみ硬化特性」としている(特許文献2、段落〔0037〕)。
一方、特許文献3では、実施例1の曲げ強度特性として、曲げ荷重(kN)とたわみ(mm)の関係が、たわみが増加しても曲げ荷重が低下していない状態を示す図1を、コンクリート部材の変形特性を大幅に改善したものとしているが、「ひずみ硬化」の文言は使用していない。
このように、従来においては、補強されたコンクリート複合材の特性について、「ひずみ硬化」について、引張モード、曲げモードの何れにも使用し、明確に区分されていなかったが、2007年3月発行の土木学会設計・施工指針案では、「ひずみ硬化」とは一軸引張モードでの性能発現であり、曲げモードでの性能発現の場合は、「たわみ硬化」という指針が出されている。また、従来「ひずみ硬化」とは、金属材料において一般化した表現なので、コンクリート複合材の分野では「擬似ひずみ硬化」という新たな表現に変更されている。
【0005】
このように表現変更後の用語で説明すれば、コンクリートにおけるひずみ硬化現象は、コンクリートの一軸引張応力下において、一方、たわみ硬化現象は、コンクリート曲げ載荷(曲げ引張り応力下)において、コンクリートの破壊が発生した初期ひび割れ以降、歪みの増大に対して、多数のクラックをともなって荷重が増大していくことによってもたらされる。
一般に、コンクリートは脆性が大きいため、外圧により一旦ひび割れが発生すると、この最初のひび割れがそれ以降徐々に拡大する。地震のような大きな変形を受けた場合には一瞬でひび割れが拡大し破壊が生じる。
これに対してたわみ硬化型のコンクリートでは、多数のひび割れに変形が分散するため、ひとつのひび割れの巾及び深さともに、繊維配合のないコンクリートに比べて小さく、コンクリート内部にまで及ぶ中性化を抑制することができる。また地震に対してコンクリートの変形追従性が大きく、地震の横揺れエネルギーを効果的にダンピングすることが可能になる。
【0006】
しかし、上述のように、特許文献1〜3に具体的に開示されているのは、粗骨材が配合されたコンクリートではなく、配合材料(セメント、砂、混和材、短繊維等)を限定したモルタルであり、一般に多用されている、粗骨材が配合されたコンクリート(以下、単に「コンクリート」という。)には適用できない。また、特許文献3に記載の発明は、引張補強材として、有機繊維の連続繊維からなる繊維補強コンクリートに、有機繊維からなる短繊維を混入したものである。
【0007】
一方、特許文献4には、鉄骨と鉄骨を囲む繊維補強コンクリートの一体構造で、コンクリートに鋼繊維、ビニロン繊維を配合し、たわみ硬化現象が発生することが開示されている。しかし、この技術では繊維を均一にコンクリート中に配合する技術、あるいは均一に分散可能な繊維については言及されていない。
すなわち、通常、一般に多用される、粗骨材を含むコンクリートはコンクリートアジテータ(生コン)車で配送し、現場で打ちこみされるケースがほとんどである。このような場合、繊維配合は、多用のプレーンコンクリートへのコンタミネーションを防止する目的で、生コン工場のプラントミキサーではなく、繊維配合が必要なコンクリートアジテータ車に直接繊維を投入し、コンクリートアジテータ車をミキサーとして練り混ぜせざるを得ないのが現状である。
このコンクリートアジテータ車の練り混ぜ機構(重力式ドラムミキサー)は、比較的小規模の練り混ぜバッチ量の場合に使用される強制1軸,2軸ミキサー、ホバートミキサーなどの練り混ぜ機に比べ、混練性が劣っていると言われており、均一に分散することが難しい。
【0008】
【特許文献1】特開平2004−315251号公報
【特許文献2】特表2007−507416号公報
【特許文献3】特開2006−232562号公報
【特許文献4】特開2003−336349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、一般に多用されているコンクリートに対して、一般的なコンクリートアジテータ車での混練によって容易に練り混ぜが出来、かつ経済的にたわみ硬化現象を呈する、繊維補強コンクリート複合材料を提供することを目的とする。
なお、本発明において、たわみ硬化現象とは、既に述べたように、コンクリートの曲げ載荷(曲げ引張り応力下)において、コンクリートの破壊が発生した初期ひび割れ以降、歪み(たわみ)の増大に対して、多数のクラックをともなって曲げ荷重が増大する現象をいう。
【0010】
本発明者は、コンクリートアジテータ車による混練性、混練後の施工性(フレッシュコンクリートの流動性等)、及び硬化コンクリートの物性の点から、補強用短繊維(以下、単に「繊維」ということがある。)として最もバランスが取れた有機樹脂製繊維の太さ、長さ、配合量を見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)材齢28日の硬化体の曲げ試験において初期ひび割れ強度が6N/mm2以下でクラック分散状の破壊状態を呈する繊維補強コンクリート複合材料であって、断面積が0.09〜0.3mm2で、繊維長が20〜35mmに切断された有機樹脂製補強用短繊維を0.8〜1.7vol.%配合し、硬化してなることを特徴とする繊維補強コンクリート複合材料、
(2)下記(A−1)のフレッシュコンクリートを用いた前記(1)に記載の繊維補強コンクリート複合材料、
(A−1)
粗骨材の最大粒径:20mm以下
細骨材率:40vol.(容積)%以上。
(3)下記(A−2)のフレッシュコンクリートを用いた前記(2)に記載の繊維補強コンクリート複合材料、
(A−2)
セメント系結合材を含み水セメント重量比:40%以上、
単位水量:150〜200kg/m3
(4)前記補強用短繊維が、長手方向に沿って凹凸部が付形された繊維である、前記(1)〜(3)のいずれか1に記載の繊維補強コンクリート複合材料、
(5)前記補強用短繊維が、断面形状が4個の突起部を有する略四角形であり、繊維の長手方向に沿って、深さが0.08〜0.13mmの凹部を、ピッチ2.0〜2.4mmで付形されてなる繊維である、前記(4)に記載の繊維補強コンクリート複合材料、
(6)前記補強用短繊維が、ポリプロピレンを主成分とするポリオレフィン樹脂製の延伸繊維である、前記(1)〜(5)のいずれか1に記載の繊維補強コンクリート複合材料、
(7)前記補強用短繊維を練り混ぜた打設時のスランプが16〜21cmに調整された補強用短繊維配合フレッシュコンクリートを使用する前記(1)〜(6)のいずれか1に記載の繊維補強コンクリート複合材料、及び
(8)前記材齢28日の硬化体の曲げ試験において、試験体作製のためのフレッシュコンクリートへの前記補強用短繊維の分散方法が、コンクリートアジテータ車によるものである、前記(1)〜(7)のいずれか1に記載の繊維補強コンクリート複合材料、
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維補強コンクリート複合材料は、補強用短繊維が、一般に多用されているコンクリートに対して、一般的なコンクリートアジテータ車での混練によって容易に練り混ぜ出来るものであり、かつ経済的にたわみ硬化現象を呈する繊維補強コンクリート複合材料が提供できる。
すなわち、特定の当該補強用短繊維の素材、太さ、長さ、及び配合量にすることにより、繊維補強コンクリート複合材料を提供することができるものであり、さらに特定の当該補強用短繊維の断面形状にすることで、効果的にたわみ硬化現象を発現するコンクリート系複合材料を提供することができる。一方、当該補強用短繊維の素材は有機樹脂製繊維として最も比重が小さいポリプロピレン系繊維(以下、「PP繊維」ということがある。)を使用したものにおいては、比重が小さいことから、コンクリート中での接触表面積が最も大きく、定着性の点で有利であるばかりか、配合重量を他素材に対して少なくできるという点で、材料コストの点で優れた繊維であり、最終的に、最も経済的なたわみ硬化現象を呈する繊維補強コンクリート複合材料型コンクリート複合材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の繊維補強コンクリート複合材料は、材齢28日の硬化体の曲げ試験において初期ひび割れ強度が6N/mm2以下でクラック分散状の破壊状態を呈する繊維補強コンクリート複合材料であって、フレッシュコンクリートに補強用短繊維を0.8〜1.7 vol.%配合し、硬化してなることを特徴とするものである。
ここで初期ひび割れ強度とは、曲げ試験による載荷による最初のひび割れ発生時の強度であり、コンクリート単体の曲げ強度であると考えてよい。
たわみ硬化現象を発現させるためには、ひび割れ耐力はコンクリートの曲げ強力の概ね1.1倍以上が必要である。この点でコンクリートの曲げ強度は6N/mm2以下であることが必要である。この曲げ強度は、一般的に多用されているコンクリートの圧縮強度範囲に該当している。6N/mm2を超えるコンクリートに対応するには、繊維混入率が1.7vol%を超えることとなる。繊維混入率が1.7vol%を超える配合比率では、繊維の練り混ぜ不良を生じ、流動性においても実用的な性質を維持することが困難となる。
この点で、ベースコンクリートの曲げ強度(初期ひび割れ強度)は、6N/mm2以下、繊維配合比率は1.7vol%以下に限定される。
また、繊維配合比が0.8vol%未満では、繊維構成本数が少なく、充分なひび割れ耐力が硬化コンクリートに発生しない。従って繊維配合比率は0.8〜1.7vol%の範囲が好適である。
【0013】
フレッシュコンクリートとしては、セメント系結合材を含み水セメント重量比が40%以上、単位水量が150〜200kg/m3、粗骨材の最大粒径が20mm以下、細骨材率が40重量%以上配合されたものである。
使用する骨材は、一般的な粗骨材(砕石、陸砂利、川砂利等)、細骨材(砕砂、陸砂、川砂等)が使用できる。粗骨材については、最大粒径が20mm以下、細骨材率が40vol.%以上であることが、補強用短繊維の分散性、硬化後のコンクリート強度の発現の点で必要である。細骨材は、一般的なもの(最大粒径が5mmを下回るもの)が使用できるが、望ましくは、粒径の小さい細骨材が好ましい。
補強用短繊維の分散及び打設時のワーカビリティの点から、各種減水剤、流動化剤を、経済性を考慮した上で適量使用することが望ましい。特に限定するものではないが、硬化コンクリートの物性安定性及び減水化率の点で、高性能AE減水剤の使用が望ましく、2〜7kg/m3の割合で配合することができる。
その他の添加剤として、公知のAE剤、増粘剤等の添加剤を併用することもできる。
【0014】
本発明に使用できるセメント系結合材としては、JISに規定された普通ポルトランドセメントを代表とする各種ポルトランドセメント(早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等)、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の混合セメント、エコセメント等を挙げることができる。
また、公知の膨張セメントを上記セメントに適量配合したセメント、あるいは、上記セメントの複数成分系セメント、成分や粒度の構成を変えたものとして、白色ポルトランドセメント、セメント系固化材、超微粒子セメント、高ビーライト系セメント等を使用してもよい。
さらに、これらのセメントに、顔料を混合したカラーセメントを使用することもできる。
なお、本発明の材齢28日の硬化体の養生方法は、コンクリートの型枠採取から16時間〜3日間以内に脱型し、それ以降、型枠採取日を起点として28日間、水中養生(20℃±3℃)もしくは、湿潤養生(20℃±2℃、RH100%)するものである。
【0015】
本発明の繊維補強コンクリート複合材料に用いられる、補強用短繊維において、繊維用有機樹脂としては、耐セメントアルカリ性を有するものであればよい。例えば、ポリオレフィン、ビニロンなどの有機樹脂が挙げられる。これらの有機樹脂のうち、繊維物性、低価格性、及び補強効率等からポリプロピレンを主成分とするポリオレフィン樹脂が好適に使用される。ポリプロピレンを主成分とするポリオレフィン樹脂としては、プロピレン単独重合体、エチレンなどのα−オレフィンとプロピレンとのブロックまたはランダム共重合体、またはこれらの混合物を使用することができる。また、ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)は、0.1〜20g/10分、より好ましくは0.3〜10/10分が、紡糸性と繊維物性の観点から好適である。
さらに、繊維用有機樹脂としてのポリオレフィン樹脂には、本願発明の効果を妨げない範囲で、他の合成樹脂や変性樹脂、酸化防止剤、耐光安定剤、造核剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、可塑剤、その他、無機・有機充填剤を適宜添加することができる。
【0016】
本発明に用いられる有機樹脂製の補強用短繊維は、太さが断面積で0.09〜0.3mm2(PP繊維換算繊度:800dtex〜2680dtex)、好ましくは0.11〜0.28mm2(PP繊維換算繊度:980dtex〜2500dtex)、さらに好ましくは0.17〜0.28mm2(PP繊維換算繊度:1520dtex〜2500dtex)であって、長さが20mm〜35mmの範囲である。すなわちアスペクト比(繊維長/円形断面換算直径)が、概ね55〜70の繊維であって、コンクリートへの配合量は、0.8〜1.7vol.%である。
太さが0.1mm2未満では、コンクリートへの混練状態が悪化し、またコンクリートの流動性が悪化するため、打設作業性が悪化する。一方、0.3mm2を越える太さでは流動性は良好であるが硬化コンクリート中の繊維構成本数が減少するため、たわみ硬化が発生するために必要な曲げ抵抗力(ひび割れ耐力)が充分発現できない。
【0017】
補強用短繊維は、ポリプロピレンを主成分とするポリオレフィン系樹脂からなり、硬化コンクリート中での引抜抵抗を増大するために、延伸繊維であって、繊維の長手方向に凹凸部が付形されていることが必要である。断面形状は、通常の丸(円形)断面、矩形断面など、特に限定されないが、4個の突起部を有する略四角形であり、繊維長手方向の凹凸部の付形が凹形状であることが望ましい。
略四角形の断面に付形された凹形状深さは、0.08〜0.13mmで、ピッチが2.0〜2.4mmである繊維が特に望ましい。4個の突起部を有する略四角形であることは、フレッシュコンクリート練り混ぜ中の繊維の折れや曲がりを抑制し、分散性を向上でき、また、表面の付形は、凸ではなく凹付形により、混練中の繊維同士の引っ掛かりを抑制し、硬化コンクリートでの引抜抵抗(ひび割れ耐力)を高めることができるからである。
【0018】
なお、本発明に用いられる補強用短繊維の略四角形の断面形状としては、繊維断面の各辺の頂点を結ぶ線で構成される形状が略四角形であることを意味し、X字形、十字形、四角形、台形等が挙げられる。
なお、略四角形断面は、より正方形に近い方が、従来の丸形断面や扁平丸形断面を有する繊維に比べて、見掛けの繊維厚みが増すため、繊維の断面二次モーメントが向上する。
このため、比較的小さな引張ヤング率の短繊維であっても、セメント配合時の粗骨材、細骨材などとの衝突による短繊維の屈曲が抑制され、補強に有効な形態で分散して繊維補強効果を発現でき、高いコンクリート物性向上効果を発揮できる。
セメントとの接触面積と前述の断面二次モーメントの観点から、特に、断面X字形が好ましい。
【0019】
本発明に用いる補強用短繊維の繊維自体の製造方法は、特に限定されず、種々の方法を採用することができる。通常、まず、有機樹脂を用いて、所望の断面形状に対応した形状のノズルから熔融紡糸し、冷却、延伸を経て、単層繊維又は複合繊維を製造する。次いで、ギヤ目形状の平歯車ローラーに当接して、繊維表面に当該歯車の先端幅に対応した凹部を付形し、さらに界面活性剤の付着処理などを施し、最後に所望の長さに切断することにより製造することができる。
【0020】
上記補強用短繊維は、短繊維とするための切断前または切断後に種々の処理を施すことができる。たとえば、繊維表面を界面活性剤、分散剤、カップリング剤等で処理してもよいし、ポリオレフィン系樹脂繊維の場合またはコロナ放電処理、紫外線照射、電子線照射等により表面活性化または架橋化等の処理を行ってもよい。特に、セメント系成形体に配合する際の分散性を高める点から、界面活性剤などで表面親水化処理を行うことがコスト面でも有利であり、好ましい。
界面活性剤としては、疎水性である有機樹脂製(ポリプロピレンなど)繊維とセメントペーストとの親和性を向上させるため、親水性の界面活性剤を使用するのが好ましい。疎水性である有機樹脂製(ポリオレフィンなど)繊維に親水性を付与することにより分散性が向上し、繊維とセメントペーストが均質に混合されることによって繊維補強効果が向上する。
親水性の界面活性剤としては、セメント水和反応に悪影響しないものであれば、特に限定なく使用することができるが、なかでもポリエチレングリコールアルキルエステル系ノニオン界面活性剤、アルキルフォスフェート系アニオン界面活性剤、多価アルコール型アマイドノニオン系界面活性剤などを好ましく使用できる。
【0021】
ポリエチレングリコールアルキルエステルとしては、水分散液の安定性、繊維付着性の点から、それを構成する長鎖脂肪族アルキル基の炭素数が6〜18、好ましくは8〜16であるものが好ましい。好ましいポリエチレングリコールアルキルエステルの具体例としては、ポリエチレングリコールラウレート、ポリエチレングリコールオレエート、ポリエチレングリコールステアレートなどが挙げられる。
アルキルホスフェートは、平均炭素数18以下、好ましくは6〜16、より好ましくは8〜14のアルキル基を1分子中に1〜2個、好ましくは1個有するホスフェートであり、塩としてはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩が挙げられる。好ましいアルキルフォスフェートの具体例としては、オクチルホスフェート、ラウリルホスフェート、ステアリルホスフェートのような高級アルコールの燐酸エステルのナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの塩及びアミン塩が挙げられる。その中和は遊離水酸基の50%以上、特に完全中和物が好ましい。
多価アルコール型アマイドノニオンは、炭素数4〜18のアルキルアミンと、3〜13個の水酸基を持つポリグリセリンとの付加反応物が用いられ、好ましくは炭素数11〜17のアルキルアミンと、3〜6個の水酸基を持つポリグリセリンとの付加反応物が用いられる。
【0022】
その他の好ましい界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルが挙げられる。ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステルの具体例としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテルリン酸エステルなどが挙げられ、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルの具体例としては、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンステアリン酸エステルなどが挙げられる。これらの界面活性剤は、一種単独又は二種以上を混合して使用することができる。
【0023】
上記界面活性剤の繊維に対する付着量は特に限定されないが、フレッシュコンクリートへの配合時の泡の発生抑制の観点から、総繊維に対して、通常0.05〜2質量%の範囲で用いられる。繊維に対する付着量が、総繊維に対して0.05質量%未満では疎水性である有機樹脂製(ポリオレフィンなど)繊維に親水性が十分付与されないおそれがあり、また、2質量%を超えても親水性は頭打ちになり、かえって繊維混練時のフッレシュコンクリートを代表とする各種セメント系成形体中に気泡が発生し、セメント系成形体の圧縮強度、曲げ強度などの物性値を低下させるおそれがあるので好ましくない。0.5質量%以上の付着においてはセメント系のフレッシュ性状(空気量)に影響するため、繊維配合時に公知の空気調整剤で調整することが必要である。
【0024】
有機樹脂製(ポリオレフィンなど)繊維に表面処理剤を付着させる方法としては、特に限定はなく、浸漬法、スプレー法、コーティング法のいずれの方法も採用することができる。繊維に表面処理剤を付与した後、必要に応じて、絞りロールなどを用いて繊維集合体の内部にまで浸透させることができる。
【0025】
また、本発明のたわみ硬化現象を呈する繊維補強コンクリート複合材料は、フレッシュコンクリートに練り混ぜし、打設時のスランプが16〜21cmに調整されることが好ましい。スランプの調整は、通常使用される高性能AE減水剤、AE減水剤、及び流動化剤が使用できる。16cm未満では、打ち込み充填が不完全になる場合があり好ましくない。また使用する骨材は一般的な粗骨材(砕石、陸砂利、川砂利等)、細骨材(砕砂、陸砂、川砂等)が使用できる。粗骨材については、最大粒径が20mm以下であることが、繊維の分散性の点で望ましい。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0027】
I)ポリプロピレン製補強用短繊維の製造
孔数が22、孔形がX形、または楕円形のノズルを備えた1軸溶融押出し機を使用し、MFR=2g/10分のアイソタクチックポリプロピレン樹脂(WF464N;住友化学製)を押出し温度240℃で溶融押出しし、押出された樹脂を冷却水槽中に投入して固化させながら5本の平行延伸ローラーで、定速で引き取った。引き取った繊維ストランドをそのまま連続して、92℃の温水加熱延伸槽に投入し、第二延伸ローラーで6.0倍〜7.2倍延伸した。更に連続して129℃の蒸気加熱延伸槽に投入し、第三延伸ローラーで1.71倍〜1.8倍延伸し、合わせて10.3倍〜12.3倍の2段延伸を行った。
【0028】
続いて、この延伸ストランドを上下1対のギヤ目形状の付形(成型)ローラーに挿通して、X形断面繊維では突起部先端に、楕円形断面繊維では扁平面の上下に、ストランド方向(繊維長手方向)に沿って、それぞれ連続的に、凹部を付形した。
付形ローラーの形状と付形条件は下記の通りである。
・付形ローラーの仕様、付形条件
歯車種:平歯車、歯形:並歯、モジュール0.75、圧力角20°、歯数132、歯先長さ0. 5mm、ローラー直径100.5mm、ローラー巾160mm、円周方向のギヤピッチが2.4 mm。
上記付形ローラーを用いて、上下歯の最短先端クリアランスを0.38mmに調整し、先端速度をストランドの速度と同速度で順回転させ、X形断面繊維では上下左右の4つの突起先端部に、また楕円形繊維では上下面に凹形状を付形した。
凹形状付形の後、連続して、水で希釈したアルキルフォスフェートアミン塩系界面活性剤(竹本油脂製)をスプレーにて約0.07〜0.13重量%になるようにストランドに付着させ、ファン型カッターでそれぞれ25mm、30mm、35mm、40mmにカットして所望のポリプロピレン製短繊維を製造し、以下の実施例及び比較例に用いた(表1、表2の繊維スペック参照)。
なお、繊維物性を含めた繊維物性試験方法を以下に記す。
【0029】
〔繊維物性試験方法〕
(1)繊度、引張強度:JIS L 1013に準じる。
(2)付形凹部の深さ測定
凹部深さとは、短繊維の上下それぞれの付形面の先端部において、隣接する未付形部間に接線を引いた時、この接線からこの間に存在する凹形付形部の最も深い位置への垂線長さを言う。
すなわち、測定方法は繊維上下付形面の横方向から写真撮影し、市販のパソコン画像距離測定ソフトを使い、あるいは撮影写真を拡大プリントし、標準尺を測定基準として、ペーパー上で垂線長さを測定した。
(3)凹部のピッチ測定
カット繊維長あたりの凹部数をカウントし、繊維長/凹部数で算出した。これをカット繊維100本で同様に測定し、その平均値を凹部ピッチとした。
(4)繊維長
カット繊維100本の繊維長をノギスで測定し、その平均値を繊維長とした。
【0030】
II)フレッシュコンクリート配合:
(ベースコンクリート):ポリプロピレン製短繊維を練り混ぜるベースコンクリートの配合内容は、粗骨材の最大粒径を20mmとし、単位セメント量を340kg/m3、単位水量を170kg/m3とした。水セメント比は50%とした。細骨材率は50.5〜60.2vol.%とした。詳細は、以下に示す。
(混和剤):ポリカルボン酸系高性能AE減水剤(BASFポゾリス製、レオビルドSP8HV)使用した。添加剤は、練り上がりのスランプが16〜21cmの範囲になるように、繊維練り混ぜ時点で適量追加使用した。
また、ポリプロピレン製短繊維の配合比は、1〜1.5vol.%(9.1〜13.7kg/m3)とした。
(その他):
・セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント製) 密度:3.16 g/cm3
・細骨材:城陽産山砂(密度:2.54 g/cm3)、揖斐川産川砂(密度:2.60 g/cm3)の1:1混合。
・粗骨材:家島産砕石(2010、密度:2.61 g/cm3)をそれぞれ使用した。
【0031】
III)ポリプロピレン製短繊維の練り混ぜ
予め生コン工場でベースコンクリートを配合し、4tコンクリートアジテータ車(重力式ドラムミキサー)に2m3のベースコンクリートを準備した。ベースコンクリートのスランプは、20〜21cmになる様、予め混和剤(前記の高性能AE減水剤)を生コン工場で配合した。
繊維の投入・練り混ぜは、ミキサー高速回転(概ね15〜16rpm)で、7kg/分のペースで投入した。投入終了後、そのまま高速回転で2分間追い練りした。
【0032】
IV)フレッシュ性状の確認:
(1)スランプ試験:JIS A−1101(コンクリートのスランプ試験方法)に従って測定した。スランプが16cm未満の場合は、コンクリートアジテータ車のホッパーから混和剤(前記の高性能AE減水剤)を適量追加投入し、再度高速回転で1分間追い練りし、16〜21cmの範囲になる様に調整した。
(2)繊維及び骨材の分散性観察:練り上がりのフレッシュコンクリートを排出し、シャベルを使って流動化させ、繊維の分散状況、骨材の耐分離状況を目視観察した。
【0033】
V)コンクリートの物性試験
(1)物性試験用供試体の採取:JIS A−1132(コンクリート強度試験用供試体の作り方)に従って採取した。但し、圧縮試験用供試体は、φ100mm×200L、曲げ靭性試験用供試体は100mm×100mm×400mmとし、曲げ靭性試験用供試体の採取においては、棒つきを実施しなかった。養生は水中標準養生(材齢28日)とした。
(2)圧縮強度試験:JIS A−1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)に従って測定した。
(3)曲げ強度・曲げ靭性試験:JCI-SF4(繊維補強コンクリートの曲げ強度及び曲げタフネス試験方法)に従って測定した。
【0034】
実施例、比較例の使用繊維とコンクリート配合内容、フレッシュコンクリートの性状観察結果、及びコンクリートの物性試験結果を表1〜3に示す。またそれぞれ実施例、比較例の曲げ靭性試験におけるタワミ(歪)−荷重曲線を図1〜14に示す。更に、実施例5の曲げ靭性試験を実施した後の、曲げ引張り応力側の破壊状態の写真を図15に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
表1,2、図1〜9、及び図15の写真の実施例から分かるように、本発明の繊維補強コンクリート複合材料は、いずれの繊維とコンクリート配合においても、その硬化体の曲げ破壊試験では、第1クラック発生以降、曲げ荷重が上昇し、複数のクラックが発生する、クラック分散状の破壊状態を伴う、いわゆるたわみ硬化現象が発生した。
また、コンクリートアジテータ車による練り混ぜにおいて、繊維の開繊・分散性及び混和剤(高性能AE減水剤)による流動性調整においても、繊維及び骨材の分離はなく、目標とするスランプ16cm〜21cmの範囲に調整できた。
一方、比較例1においては繊度700dtex、繊維長25mmの1vol.%配合では、フレッシュコンクリートの繊維分散性が悪く、スランプが低く流動化しにくい性状であった。また、添加剤(高性能AE減水剤)の増量によるスランプ調整では、粗骨材の材料分離が発生し、実施工では使えない結果であった(比較例1)。
【0039】
また、比較例2の繊度3340dtex、繊維長40mmでは、0.7vol.%の配合が上限であり、供試体の曲げ破壊においては、クラックは1点しか発生せず、いわゆるたわみ硬化現象は発生せず、たわみ軟化現象が発生した。なお、比較例2の繊維を1vol.%で配合した場合は、スランプが12cmに低下し、実施工では使用できない性状であった。
また、補強用短繊維として、断面が楕円形で4400dtexのPVA繊維(クラレ社製、クラテック:RF4000×30mm)を1vol.%配合した比較例4では、図13に示すように、当初たわみ硬化型の破壊状態を呈するが、その後、平行状態の曲げタワミ荷重曲線となり、ひび割れは複数発生したが、クラック分散状の破壊状態は呈せず、本願発明のコンクリート系複合材とは異なる挙動を示した。
さらに、0.6Φで長さ30mmの鋼繊維(ブリヂストン社製、商品名:タフグリップ)を1vol.%配合した比較例5では、図14に示すように、当初たわみ硬化型の破壊状態を呈するが、その後、荷重が漸減する曲げタワミ荷重曲線となり、ひび割れは1箇所しか発生せず、またクラック分散状の破壊状態も呈せず、本願発明のコンクリート系複合材とは明らかに異なる挙動を示した。
なお、補強用短繊維を全く配合しない比較例3では、当然ながら、図12に示すように、低いタワミで一気に破壊が起こっている。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の繊維補強コンクリート複合材料は、建築あるいは土木用のコンクリートとして、特に耐震用のコンクリート材料として有効に利用できるものであり、現場打ちコンクリート用、プレキャストコンクリート用等として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1の繊維強化コンクリートの曲げタワミ荷重曲線である。
【図2】実施例2の繊維強化コンクリートの曲げタワミ荷重曲線である。
【図3】実施例3の繊維強化コンクリートの曲げタワミ荷重曲線である。
【図4】実施例4の繊維強化コンクリートの曲げタワミ荷重曲線である。
【図5】実施例5の繊維強化コンクリートの曲げタワミ荷重曲線である。
【図6】実施例6の繊維強化コンクリートの曲げタワミ荷重曲線である。
【図7】実施例7の繊維強化コンクリートの曲げタワミ荷重曲線である。
【図8】実施例8の繊維強化コンクリートの曲げタワミ荷重曲線である。
【図9】実施例9の繊維強化コンクリートの曲げタワミ荷重曲線である。
【図10】比較例1の繊維強化コンクリートの曲げタワミ荷重曲線である。
【図11】比較例2の繊維強化コンクリートの曲げタワミ荷重曲線である。
【図12】比較例3の繊維配合のないコンクリートの曲げタワミ荷重曲線である。
【図13】比較例4の繊維強化コンクリートの曲げタワミ荷重曲線である。
【図14】比較例5の鋼線強化コンクリートの曲げタワミ荷重曲線である。
【図15】実施例5の繊維強化コンクリートの曲げ靭性試験によって発生した破壊状態を示す載荷下面(曲げ引張り応力側)のクラック分散状写真(倍率:約0.75倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材齢28日の硬化体の曲げ試験において初期ひび割れ強度が6N/mm2以下でクラック分散状の破壊状態を呈する繊維補強コンクリート複合材料であって、断面積が0.09〜0.3mm2で、繊維長が20〜35mmに切断された有機樹脂製補強用短繊維を0.8〜1.7vol.%配合し、硬化してなることを特徴とする繊維補強コンクリート複合材料。
【請求項2】
下記(A−1)のフレッシュコンクリートを用いた請求項1に記載の繊維補強コンクリート複合材料。
(A−1)
粗骨材の最大粒径:20mm以下
細骨材率:40 vol.%以上
【請求項3】
下記(A−2)のフレッシュコンクリートを用いた請求項2に記載の繊維補強コンクリート複合材料。
(A−2)
セメント系結合材を含み水セメント重量比:40%以上、
単位水量:150〜200kg/m3
【請求項4】
前記補強用短繊維が、長手方向に沿って凹凸部が付形された繊維である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の繊維補強コンクリート複合材料。
【請求項5】
前記補強用短繊維が、断面形状が4個の突起部を有する略四角形であり、繊維の長手方向に沿って、深さが0.08〜0.13mmの凹部を、ピッチ2.0〜2.4mmで付形されてなる繊維である、請求項4に記載の繊維補強コンクリート複合材料。
【請求項6】
前記補強用短繊維が、ポリプロピレンを主成分とするポリオレフィン樹脂製の延伸繊維である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の繊維補強コンクリート複合材料。
【請求項7】
前記補強用短繊維を練り混ぜた打設時のスランプが16〜21cmに調整された補強用短繊維配合フレッシュコンクリートを使用する請求項1ないし6のいずれか1項に記載の繊維補強コンクリート複合材料。
【請求項8】
前記材齢28日の硬化体の曲げ試験において、試験体作製のためのフレッシュコンクリートへの前記補強用短繊維の分散方法が、コンクリートアジテータ車によるものである、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の繊維補強コンクリート複合材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2010−53014(P2010−53014A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307819(P2008−307819)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】