説明

繊維複合体及びその製造方法

【課題】本発明は、線膨張係数が小さく、透明性、耐熱性および可撓性に優れた、繊維とシルセスキオキサンとから形成される繊維複合体を提供する。
【解決手段】繊維径が30nm以下である繊維と、シルセスキオキサンまたはシルセスキオキサンの重合体を含む組成物とを含む混合物を硬化させて得られる繊維複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維複合体及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、基板に好適に用いられる、線膨張係数が小さく、軽量で、透明性、耐熱性および可撓性を兼ね備えた材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示素子用基板、有機EL表示素子用基板、カラーフィルター基板および太陽電池用基板などの基板には、ガラス板が一般に使用されている。しかしながら、ガラスは、材料としては割れ易く、曲げられず、比重が大きく軽量化に不向きであるなどの欠点がある。
【0003】
したがって、近年、その代替としてプラスチック材料の検討が始まった。しかしながら、汎用のプラスチック材料は、電気回路配線に使われる銀や銅などと比較して線膨張係数が大きいことから、配線の剥離、断線などの問題がある。さらに、高い透明性や耐候性、小さな複屈折率を同時に有するプラスチック材料はこれまで存在しなかった。
【0004】
かご型や部分かご型構造を有するシルセスキオキサンは、その特徴的な構造から特異な機能の発現が期待され、様々な分野から注目され応用検討がなされている。特に透明性と耐熱性が高いことから、ガラスの代替として注目され検討されている。
【0005】
例えばフラットパネルディスプレイに使われるフィルム基板材料としては、かご型構造を有するシルセスキオキサンを含むシリコーン樹脂とアクリル樹脂との共重合体が開示されている(特許文献1および2)。これらはアクリル樹脂を含有しているため、機械的強度や透明性には問題がない。
【0006】
アクリル樹脂を用いず、重合体の主鎖にシルセスキオキサン骨格を含むポリマーを用いて作製された、フィルム基板が知られている(特許文献3および4)。これらのフィルム基板は透明性に加えて、紫外線に対して劣化がなく耐候性に優れている。
【0007】
またポリフェニレンエーテル(PPE)の流動性を改善する目的で、かご型シルセスキオキサンを組み込んだ変性PPEとガラスクロスでフィルム状成形体を形成する試みも行なわれている。
【0008】
しかしながら、特許文献1および2に記載のかご型構造を有するシルセスキオキサンを含むシリコーン樹脂とアクリル樹脂との共重合体は、耐候性が損なわれる場合が多い。
【0009】
また、特許文献3および4に記載の重合体の主鎖にシルセスキオキサン骨格を含むポリマーを用いて作製されたフィルム基板は、得られるフィルムの線膨張係数が大きいという問題がある。
【0010】
さらに、かご型構造を有するシルセスキオキサンを組み込んだ変性PPEとガラスクロスでフィルム状成形体は、加工温度が280℃と高温を要することから、加工性に難がある(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−123936号公報
【特許文献2】特開2006−089685号公報
【特許文献3】特開2006−233154号公報
【特許文献4】特開2008−112942号公報
【特許文献5】特開2008−201978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、線膨張係数が小さく、透明性、耐熱性および可撓性に優れた、繊維とシルセスキオキサンとを含む混合物を硬化させて得られる繊維複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、上記課題を解決すべく検討を行った。その結果、繊維径が30nm以下である繊維と、シルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物とを含む混合物を硬化させて得られる繊維複合体は、高い透明性と耐熱性を有し、かつ線膨張係数が小さいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は下記のとおりである。
1.繊維径が30nm以下である繊維と、シルセスキオキサンまたはシルセスキオキサンの重合体を含む組成物とを含む混合物を硬化させて得られる繊維複合体。
2.前記繊維がキチン繊維である前項1に記載の繊維複合体。
3.前記キチン繊維がキチン不織布である前項2に記載の繊維複合体。
4.前記シルセスキオキサンが、かご型または部分かご型構造を有するシルセスキオキサンである前項1〜3のいずれか1項に記載の繊維複合体。
5.前記かご型または部分かご型構造を有するシルセスキオキサンが、一般式(A−1)〜(A−3)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種である前項4に記載の繊維複合体。
【0015】
【化1】

【0016】
一般式(A−1)〜(A−3)において、Rは、それぞれ独立して、水素、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく、隣接しない−CH−が−O−若しくはシクロアルキレンで置き換えられてもよい炭素数が1〜45のアルキル、炭素数が4〜8のシクロアルキル、任意の水素が炭素数1〜10のアルキル、またはハロゲンで置き換えられてもよいアリールである。Rは、それぞれ独立して炭素数が1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基である。少なくとも1つのXは、水素、ビニル基、または重合性の官能基を有する、炭素数が1〜10のアルキル、シクロアルキル、若しくはフェニルであり、残りのXはRと同様に定義される基である。
6.前記一般式(A−1)〜(A−3)において、重合性の官能基が、オキシラニル、3,4−エポキシシクロヘキシル、オキセタニル、アクリルまたは(メタ)アクリルである、前項5に記載の繊維複合体。
7.線膨張係数が120ppm/K以下である前項1〜6のいずれか1項に記載の繊維複合体。
8.以下の工程(1)および(2)を含む、繊維径が30nm以下である繊維とシルセスキオキサンとの繊維複合体の製造方法。
(1)シルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物を、繊維径が30nm以下である繊維に含浸させる工程
(2)工程(1)で前記繊維に含浸させた前記シルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物を硬化反応させる工程
9.前記繊維がキチン繊維である前項8に記載の製造方法。
10.前記キチン繊維がキチン不織布である前項9に記載の製造方法。
11.前記シルセスキオキサンが、一般式(A−1)〜(A−3)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種である前項8〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【0017】
【化2】

【0018】
一般式(A−1)〜(A−3)において、Rは、それぞれ独立して、水素、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく、隣接しない−CH−が−O−若しくはシクロアルキレンで置き換えられてもよい炭素数が1〜45のアルキル、炭素数が4〜8のシクロアルキル、任意の水素が炭素数1〜10のアルキル、またはハロゲンで置き換えられてもよいアリールである。Rは、それぞれ独立して炭素数が1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基である。少なくとも1つのXは、水素、ビニル基、または重合性の官能基を有する、炭素数が1〜10のアルキル、シクロアルキル若しくはフェニルであり、残りのXはRと同様に定義される基である。
12.前記一般式(A−1)〜(A−3)において、重合性の官能基が、オキシラニル、3,4−エポキシシクロヘキシル、オキセタニル、アクリルまたは(メタ)アクリルである、前項11に記載の製造方法。
13.前記重合体の重量平均分子量が3,000〜4,000,000である、前項8〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
14.前記工程(1)において、前記組成物が重合開始剤を含む前項8〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
15.前記重合開始剤が、カチオン重合開始剤またはラジカル重合開始剤である前項14に記載の製造方法。
16.前記工程(1)において、前記組成物が硬化剤を含む前項14または15に記載の製造方法。
17.前記硬化剤が、酸無水物またはアミンである前項16に記載の製造方法。
18.前記工程(2)において、硬化反応が熱硬化反応である前項8〜17のいずれか1項に記載の製造方法。
19.前記工程(2)において、硬化反応が光硬化反応である前項8〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
20.前記組成物がさらにエポキシ樹脂またはオキセタン樹脂を含む前項8〜19のいずれか1項に記載の製造方法。
21.前項8〜20のいずれか1項に記載の製造方法により製造される繊維複合体。
22.前項1〜7および21のいずれか1項に記載の繊維複合体を用いる基板。
【発明の効果】
【0019】
本発明の繊維径が30nm以下である繊維と、シルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物とを含む混合物を硬化させて得られる繊維複合体(以下、本発明の繊維複合体ともいう。)は、線膨張係数が小さく、且つ透明性及び可撓性に優れている。
【0020】
したがって、本発明の繊維複合体は、ガラス板の代替として、液晶表示素子用基板、有機EL表示素子用基板やカラーフィルター用基板、さらに太陽電池用基板やタッチパネル用基板やプラズマディスプレイ用基板などの基板に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を具体的に説明する。
【0022】
本発明の繊維複合体は、繊維径が30nm以下である繊維と、シルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物とを含む混合物を硬化させて得られる繊維複合体である。繊維径が30nm以下である繊維と、シルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物とを含む混合物を硬化させるとは、繊維径が30nm以下である繊維に、シルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物を含浸させて、該組成物を硬化反応させることをいう。
【0023】
本発明の繊維複合体における繊維径が30nm以下である繊維の含有率は、繊維複合体の総質量に対して20〜80質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましい。また、本発明の繊維複合体における、繊維径が30nm以下である繊維とシルセスキオキサンとの質量比は、2:8〜8:2が好ましく、3:7〜7:3がより好ましい。
【0024】
(繊維)
本発明の繊維複合体に用いる繊維の繊維径は、30nm以下であり、20nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがより好ましい。また、下限は特に限定されないが、通常4nmである。繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)および電界放出型電子顕微鏡等により測定することができる。
【0025】
繊維径が30nm以下である繊維としては、特に限定されないが、透明性が高く、セルロース繊維に比べて、純度が高く、乾燥キチンから容易に調製可能であり、吸湿性が低いという利点を有することから、キチン繊維が好ましい。
【0026】
キチン繊維の原材料であるキチンは、エビ、カニ、昆虫の外皮およびキノコなどの菌類の細胞壁など、きわめて多くの生物に含まれている天然素材である。その構造はセルロースに似ているが、N−アセチル−D−グルコサミンが鎖状に長くつながったアミノ多糖であるため(数百から数千)、高度な機能、環境との調和などの面から注目を集めている高分子材料である。
【0027】
また、キチンは、地球上で合成される量が1年間で1000億トンにもなると推測されている生物資源である。また持続型資源であることから、地球温暖化に影響する二酸化炭素削減への寄与も大きい。
【0028】
キチン繊維は、次の方法等により得られたものでも、市販品でも、いかなるものでもよい。キチン繊維を得る方法として、具体的には、例えば次の工程(i)および(ii)を含む方法が挙げられる。
【0029】
(i)キチン粉末を溶媒に分散させたキチン分散液を作成する。天然物を精製したままのキチン、及び脱アセチル化度の比較的低いキチンを使用する場合には、溶媒は、ハロゲン化炭化水素とトリクロル酢酸の混合物、N−メチルピロリドン、またはジメチルアセトアミドと塩化リチウムの混合物が好ましい。また、脱アセチル化度の高いキチン及びキトサンを使用する場合には、溶媒は、酢酸等の酸溶液が好ましい。キチン分散液中のキチン濃度は、0.5〜2.0質量%が好ましい。
(ii)工程(i)で得られたキチン分散液を攪拌した後、キチンを摩砕して解繊する。攪拌時の温度は室温〜40℃とすることが好ましい。キチンの解繊は、市販の石臼式摩砕機(例えば、スーパーマスコロイダー、増幸産業製)を用いて行うことができる。摩砕時の砥石の回転数は1000〜1500rpmで行うことが好ましく、摩砕回数は1〜3回が好ましい。摩砕時の温度は室温〜60℃とすることが好ましい。
【0030】
キチン繊維は、キチン不織布であることが好ましい。本発明におけるキチン不織布とは、主としてキチンからなる不織布であり、キチン繊維の集合体である。
【0031】
繊維径が30nm以下である繊維としてキチン不織布を用いる場合、キチン不織布の厚みは、20〜500μmであることが好ましく、50〜200μmであることがより好ましい。当該範囲とすることにより、透明性と強度と熱膨張性に優れる複合体を調製することができる。
【0032】
また、キチン不織布の比容積は、5〜30cm/gであることが好ましく、10〜15cm/gであることがより好ましい。当該範囲とすることにより、繊維含有率が25〜50質量%の繊維複合体を作成することができる。
【0033】
本発明の繊維複合体に用いるキチン不織布は、キチン繊維懸濁液を抄紙又は塗布によって製膜する方法、あるいはゲル状膜を乾燥する方法などによって得ることができる。キチン不織布の製造方法として、具体的には、例えば、次の工程(i)〜(iii)を含む方法が挙げられる。
【0034】
(i)キチン繊維懸濁液を攪拌し、ろ過する。キチン繊維懸濁液中のキチン繊維の濃度は、0.1〜10質量%が好ましい。攪拌時間は0.5〜1時間とすることが好ましい。ろ過は、金属メッシュフィルターの上にメンブランフィルターを載せ、その上からキチン繊維懸濁液を流し込み、減圧濾過することにより行う。
(ii)工程(i)の減圧濾過後、完全に水分が除去される前に、流し込んだキチン繊維懸濁液の質量を基準として、好ましくは純水を追加し、再度減圧濾過する、という操作を好ましくは2〜5回行う。さらに、流し込んだキチン繊維懸濁液の質量を基準として、好ましくは極性の高い有機溶媒を追加し、減圧濾過する、という操作を好ましくは1〜3回行うことにより、メンブランフィルター上にキチン繊維の堆積物を得る。該有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、メタノールおよびアセトンが挙げられる。
(iii)工程(ii)で得られたキチン繊維の堆積物を加圧加熱することにより、キチン不織布を得ることができる。加圧加熱の条件は、圧力は0.1〜2MPaが好ましく、温度は60〜100℃が好ましく、時間は0.5〜2時間が好ましい。
【0035】
(シルセスキオキサン)
シルセスキオキサンは、かご型または部分かご型構造を有するシルセスキオキサンが好ましい。かご型シルセスキオキサンは閉じた空間を有するシルセスキオキサンである。また、部分かご型シルセスキオキサンは、その骨格を形成するSi−O−Si結合の一部分が開裂して閉じていた空間が開いた状態の構造を有する化合物である。
【0036】
かご型構造を有するシルセスキオキサンとしては、下記一般式(A−1)および(A−2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。部分かご型構造を有するシルセスキオキサンとしては、下記一般式(A−3)で表される化合物が好ましい。また、下記一般式(A−1)〜(A−3)で示される化合物のうち、有機溶媒やエポキシ樹脂、オキセタン樹脂、(メタ)アクリル酸モノマーへの相溶性や、硬化剤、重合開始剤、そのほか各種の添加剤の溶解性を考慮すると、一般式(A−3)で表される化合物が好ましい。
【0037】
(シルセスキオキサンを使用した繊維複合体の製造例)
下記一般式(A−1)〜(A−3)で表されるシルセスキオキサンから選ばれる少なくとも1種、必要に応じて他のモノマーを加えた組成物を、繊維径が30nm以下である繊維に含浸させることで、混合物とし、この混合物を硬化させることで、繊維複合体とすることができる。シルセスキオキサンが繊維の空隙の隅々まで進入することにより、高い透明性を保持することができる。
【0038】
【化3】

【0039】
一般式(A−1)〜(A−3)において、Rは、それぞれ独立して、水素、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく、隣接しない−CH−が−O−若しくはシクロアルキレンで置き換えられてもよい炭素数が1〜45のアルキル、炭素数が4〜8のシクロアルキル、任意の水素が炭素数1〜10のアルキル、またはハロゲンで置き換えられてもよいアリールである。ハロゲンとしては、塩素、臭素およびフッ素が挙げられ、フッ素が特に好ましい。
【0040】
は、それぞれ独立して炭素数が1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基である。少なくとも1つのXは、水素、ビニル基、または重合性の官能基を有する、炭素数が1〜10のアルキル、シクロアルキル、若しくはフェニルであり、残りのXはRと同様に定義される基である。
【0041】
Rが水素の場合には、一つのXだけが水素であってもよい。Xが、ビニル基または重合性の官能基を有する場合には、少なくとも2つのXが重合性の官能基を有することが好ましい。
【0042】
前記重合性の官能基としては、付加重合、開環重合、又は重縮合が可能な官能基であれば特に限定されない。当該官能基としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルなどのエポキシ、オキシラニル、オキセタニルおよび2−オキサプロパン−1,3−ジオイルなどのオキセタン、アクリルまたは(メタ)アクリル、アルケニル並びにアミンが挙げられる。なかでも、透明性、耐熱性および電気特性に優れることから、エポキシおよびオキセタンが特に好ましい。
【0043】
Xとしては、具体的には下記式(a)〜(h)で示される基を例示することができる。なお、本明細書においては、3員環の環状エーテルをエポキシ、4員環の環状エーテルをオキセタンと称し、それぞれが1分子中に2個以上有する化合物をエポキシ樹脂、オキセタン樹脂と呼ぶことがある。
【0044】
【化4】

【0045】
式(a)〜(h)において、Rは、炭素数1〜10のアルキレンであり、好ましくは、炭素数1〜6のアルキレンである。このアルキレンにおける1つの−CH−は、−O−または1,4−フェニレンで置き換えられてもよい。そして、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルであり、水素であることが好ましい。
【0046】
一般式(A−1)〜(A−3)で表される化合物は、公知の製造方法によって合成することができる。
【0047】
一般式(A−1)で表されるかご型構造を有するシルセスキオキサンは、例えば、国際公開第2003/024870号または特開2006−265243号公報に記載の方法により合成することが可能である。
【0048】
一般式(A−2)で表されるかご型構造を有するシルセスキオキサンは、例えば、特開2008−150478号公報に記載の方法によって合成することができる。
【0049】
一般式(A−3)で表される部分かご型構造を有するシルセスキオキサンは、例えば、国際公開第2004/024741号に記載の方法により容易に合成することができる。
【0050】
本発明の繊維複合体は、透明性が高く、線膨張係数が小さい。本発明の繊維複合体の全光線透過率は、70〜95%であることが好ましく、80〜95%であることがより好ましい。また、濁度は、1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。全光線透過率および濁度は実施例で後述する方法により測定することができる。
【0051】
本発明の繊維複合体の線膨張係数は、120ppm/K以下であることが好ましく、30ppm/K以下であることがより好ましい。この範囲とすることにより、繊維複合体の透明基板用途における加工性が格段に向上する。線膨張係数は実施例で後述する方法により測定することができる。
【0052】
本発明の繊維複合体の厚さは、特に限定されないが、20〜500μmであることが好ましく、50〜200μmであることがより好ましい。当該範囲内とすることにより、透明性と強度と熱膨張性に優れる繊維複合体を調製することができる。
【0053】
本発明の繊維複合体は、以下の工程(1)および(2)を含む製造方法により得られる。
(1)シルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物を、繊維径が30nm以下である繊維に含浸させる工程
(2)工程(1)で前記繊維に含浸させた前記シルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物を硬化反応させる工程
以下、各工程に分けて説明する。
【0054】
(1)シルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物を、繊維径が30nm以下である繊維に含浸させる工程
含浸は、減圧下脱泡して溶存空気を除去してシルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物を調整し、気泡が入らないように、繊維径が30nm以下である繊維に前記組成物を塗布し、圧力をかけることにより行う。前記圧力は、0.1〜2MPaが好ましい。
【0055】
工程(1)において、繊維径が30nm以下である繊維に含浸させるシルセスキオキサンまたはその重合体の量は、0.5〜2.0g/cmであることが好ましく、0.5〜1g/cmであることが好ましい。
【0056】
(シルセスキオキサンの重合体を使用した繊維複合体の製造例)
シルセスキオキサンの重合体は、前記一般式(A−1)〜(A−3)で表されるシルセスキオキサンから選ばれる少なくとも1種、必要に応じて他のモノマーを加えて、付加重合、開環重合、または重縮合することにより、Bステージ化、すなわち溶媒に再可溶な重合体(完全には硬化させず半硬化の状態)とすることで、組成物とすることができる。得られる組成物を繊維径が30nm以下である繊維に含浸させることで、混合物とし、この混合物を硬化させることで、繊維複合体とすることができる。
【0057】
また、シルセスキオキサンの重合体は、前記一般式(A−1)〜(A−3)で表されるシルセスキオキサンから選ばれる少なくとも1種を、付加重合、開環重合、または重縮合することにより、Bステージ化、すなわち溶媒に再可溶な重合体(完全には硬化させず半硬化の状態)とし、別途、他のモノマーを重合して得られる重合体を混合することで組成物とすることができる。このとき、他のモノマーから得られる重合体も、同様に溶媒に可溶な重合体とすることが必要である。得られる組成物を繊維径が30nm以下である繊維に含浸させることで、混合物とし、この混合物を硬化させることで、繊維複合体とすることができる。
【0058】
また、シルセスキオキサンの重合体は、前記一般式(A−1)〜(A−3)で表されるシルセスキオキサンから選ばれる少なくとも1種を、付加重合、開環重合、または重縮合することにより、Bステージ化、すなわち溶媒に再可溶な重合体(完全には硬化させず半硬化の状態)とし、さらに他のモノマーを加えて、組成物とすることができる。得られる組成物を繊維径が30nm以下である繊維に含浸させることで、混合物とし、この混合物を硬化させることで、繊維複合体とすることができる。
【0059】
シルセスキオキサンの重合体の重量平均分子量は3,000〜4,000,000の範囲が好ましく、10,000〜200,000の範囲がより好ましい。シルセスキオキサンの重合体の重量平均分子量は、実施例で後述する方法により測定することができる。
【0060】
前記他のモノマーとしては、例えば、下記式(B)で表される化合物が挙げられる。
【0061】
【化5】

【0062】
式(B)において、それぞれのRは独立して炭素数1〜4のアルキルまたはフェニルであり、mは0〜1000の整数であり、0〜150の整数であることが好ましい。Yは水素またはビニル基である。
【0063】
化合物(B)は、市販されている化合物を入手することができ、市販されていない化合物でも、例えば特開2003−252995号公報に記載されている方法を参照することにより製造することができる。
【0064】
例えば、上記一般式(A−1)〜(A−3)において、Xがアルケニル基であり、上記式(B)において、Yが水素である場合の例として、国際公開第2004/018084号に記載の方法により、アルケニル基を有するシルセスキオキサンとSiH基を有するシルセスキオキサンおよびポリジオルガノシロキサンの少なくとも一方とを、後述するヒドロシリル化触媒の存在下、ヒドロシリル化反応を行うことにより、重量平均分子量が3,000〜4,000,000のシルセスキオキサンの重合体を得ることができる。
【0065】
ヒドロシリル化反応は、ヒドロシリル化触媒を重合開始剤として用いることで反応をより容易に進行させることができる。ヒドロシリル化触媒としては、例えば、カルステッド(Karstedt)触媒およびスパイヤー(Spier)触媒などが挙げられる。
【0066】
前記ヒドロシリル化触媒は、一般的によく知られた触媒であり、活性が高いので少量添加すれば十分反応を進めることができる。そのため使用量は、触媒に含まれる白金族金属がSi-Hに対する割合で、通常10−9〜1モル%であることが好ましく、10−7〜10−3モル%であることがより好ましい。
【0067】
(重合開始剤)
シロセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物は、重合開始剤を含有することが好ましい。重合開始剤は、シルセスキオキサンが有する重合性の官能基の種類によって、カチオン重合開始剤およびラジカル重合開始剤等を適宜選択して用いることができるが、通常カチオン重合開始剤が好ましい。
【0068】
カチオン重合開始剤としては、例えば、紫外線などの活性エネルギー線によりカチオン種またはルイス酸を発生する活性エネルギー線カチオン重合開始剤、および熱によりカチオン種またはルイス酸を発生する熱カチオン重合開始剤などを挙げることができる。
【0069】
活性エネルギー線カチオン重合開始剤としては、例えば、金属フルオロホウ素錯塩および三フッ化ホウ素錯化合物、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)メタン金属塩、アリールジアゾニウム化合物、周期表の第VIa族元素の芳香族オニウム塩、周期表の第Va族元素の芳香族オニウム塩、IIIa〜Va族元素のジカルボニルキレート、チオピリリウム塩、MF(陰イオンの形である周期表の第VIb族元素;Mはリン、アンチモンおよび砒素から選択される)、アリールスルホニウム錯塩、芳香族ヨードニウム錯塩および芳香族スルホニウム錯塩およびビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド−ビス−ヘキサフルオロ金属塩並びに鉄化合物の混合配位子金属塩およびシラノール−アルミニウム錯体が挙げられる。これらの塩のいくつかは市販されているものを使用することができる。
【0070】
熱カチオン重合開始剤としては、例えば、トリフリック酸(Triflic acid)塩および三弗化ホウ素等のカチオン系およびプロトン酸触媒などが挙げられる。なかでも、トリフリック酸塩が好ましい。
【0071】
トリフリック酸塩としては、例えば、トリフリック酸ジエチルアンモニウム、トリフリック酸ジイソプロピルアンモニウムおよびトリフリック酸エチルジイソプロピルアンモニウムが挙げられる。
【0072】
また、活性エネルギー線カチオン重合開始剤としても用いられる芳香族オニウム塩のうち、熱によりカチオン種を発生するものも、熱カチオン重合開始剤として用いることができる。芳香族オニウム塩としては、例えば、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩およびホスホニウム塩が好適に挙げられる。
【0073】
これらのカチオン重合開始剤の中で、芳香族オニウム塩が、取り扱い性および潜在性と硬化性のバランスに優れるという点で好ましい。カチオン重合開始剤は、単独でもしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0074】
重合開始剤の使用割合は、特に限定されないが、シルセスキオキサンまたはその重合体の質量に対して、0.01〜10.0質量%が好ましく、0.05〜3.0質量%がより好ましい。当該範囲内とすることで、硬化反応が十分に進行して目的とする硬化物が得ることができ、硬化物の物性低下を防ぎ、硬化物の着色を抑制することができる。
【0075】
(硬化剤)
シロセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物は、硬化剤を含有することが好ましい。硬化剤としては一般の樹脂の硬化に用いられている化合物であれば特に制限されず、アミンおよび酸無水物などを使用することができる。
【0076】
硬化剤として用いる酸無水物の具体例としては、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、3−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物と4−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物の混合物、テトラヒドロ無水フタル酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物およびシクロヘキサン−1,3,4−トリカルボン酸−3,4−無水物並びにこれらの誘導体が挙げられる。
【0077】
なかでも、4−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、及び、3−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物と4−メチル−シクロヘキサンジカルボン酸無水物の混合物は、室温で液体のため取り扱いが容易であり、好ましい。
【0078】
硬化剤として用いるアミンの具体例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレントリアミン、ビスシアノエチルアミン、およびテトラメチルグアニジン、ピリジン、ピペリジン、メセンジアミン、イソホロンジアミン、1,3−ビスアミノメチル−シクロヘキサン、ビス(4−アミノ−シクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチル−シクロヘキシル)メタン、ベンジルメチルアミン、α−メチル−ベンジルメチルアミン、m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンおよびジアミノジフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0079】
硬化剤の使用割合は、シルセスキオキサンに含まれている重合性の官能基1当量に対して硬化剤0.7〜1.2当量とすることが好ましく、0.9〜1.1当量とすることがより好ましい。当該範囲内とすることで、硬化が完全で良好な硬化物を得ることができる。
【0080】
(硬化促進剤)
硬化剤と併用して、硬化促進剤を使用してもよい。硬化促進剤としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、n−ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、2−メチルイミダゾールおよび2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどが挙げられる。しかしながら、硬化性がよく、着色がないものであれば、これらに限定されない。
【0081】
これらの硬化促進剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7などの双環式アミジン類、並びに2−メチルイミダゾールおよび2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類は、少量の添加量でもシロセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物に対して高い活性を示し、比較的低い硬化温度でも短時間で硬化できるのでより好ましい。
【0082】
硬化促進剤の使用割合は、硬化促進効果が認められ、硬化物の物性低下を招かず、硬化物に着色を引き起こさなければ、特に限定されない。一般に、シルセスキオキサンまたはその重合体の量に対する硬化促進剤の質量比で、0.005〜5.0質量%が好ましく、0.05〜1.0質量%がより好ましい。
【0083】
(溶剤)
シルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物の調製に使用する溶剤は、前記組成物や重合体を溶解可能であればよく、特に制限はない。
【0084】
溶剤としては、例えば、ヘキサンおよびヘプタンなどの炭化水素系溶剤、トルエン、キシレン、メシチレンおよびアニソールなどの芳香族炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(以下、THF)、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル系溶剤、塩化メチレンおよび四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールエステル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトンおよびメチルイソブチルケトンなどのケトン類が好適に挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。
【0085】
これらの中でも、トルエン、メシチレン、アニソール、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートおよび酢酸2−(2−エトキシエトキシ)エチルが好ましい。
【0086】
なお、シルセスキオキサンの重合体を繊維径が30nm以下である繊維に含浸させる際には必ずしも溶剤を用いる必要はないが、溶剤で希釈する場合は、樹脂濃度を5質量%以上99質量%以下とすることが好ましく、30質量%以上90質量%以下とすることがより好ましい。
【0087】
(エポキシ樹脂およびオキセタン樹脂)
本発明の繊維複合体に、エポキシ樹脂またはオキセタン樹脂を配合してもよい。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびビスフェノールS型エポキシ樹脂など)、2個のオキシラニルを有するエポキシ樹脂(ビフェニル型エポキシ樹脂および水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂など)、多官能複素環式エポキシ樹脂(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂およびトリグリシジルイソシアヌレートなど)、3個以上のオキシラニルを有するエポキシ樹脂(ポリ(エポキシ化シクロヘキセンオキサイド)などの多官能脂環式エポキシ樹脂)並びに脂環エポキシ樹脂(ダイセル化学工業株式会社製 製品名:セロキサイド2021、同製品名:セロキサイド 3000および同製品名:セロキサイド 2081)などが挙げられる。
【0088】
オキセタン樹脂としては、例えば、東亞合成株式会社製 アロンオキセタン、製品名OXT−101:3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、同OXT−212:2−エチルヘキシルオキセタン、同OXT−121:キシリレンビスオキセタンおよび同OXT−221:3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタンが挙げられる。
【0089】
これらのエポキシ樹脂およびオキセタン樹脂は、2種以上を併用してもよい。これらのうち、透明性の観点から、着色の少ない、脂環エポキシ樹脂およびオキセタン樹脂を用いることがより好ましい。
【0090】
エポキシ樹脂またはオキセタン樹脂の配合割合は、シルセスキオキサンまたはその重合体の質量を基準として5〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0091】
なお、エポキシ樹脂及びオキセタン樹脂を含まないシルセスキオキサンを含む組成物またはシルセスキオキサン重合体を含む組成物を繊維径が30nm以下である繊維に含浸させ、硬化させて得られる繊維複合体も当然に本発明の繊維複合体に含まれる。このような繊維複合体は従来の成形体に比べて簡便に作製することができるため、好ましい。
【0092】
(酸化防止剤)
本発明の繊維複合体に、酸化防止剤を配合してもよい。酸化防止剤を配合することにより、酸化劣化を防止し着色の少ない成形体とすることができる。
【0093】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、硫黄系およびリン系の酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤の配合割合は、特に限定されないが、シルセスキオキサンまたはその重合体の質量を基準として、0.0001〜1.0質量%が好ましく、0.01〜0.1質量%がより好ましい。
【0094】
酸化防止剤としては、例えば、モノフェノール類(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−p−エチルフェノールおよびステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなど)、ビスフェノール類(2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)および3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなど)、高分子型フェノール類(1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−S−トリアジンー2,4,6−(1H,3H,5H)トリオンおよびトコフェノールなど)、硫黄系酸化防止剤(ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネートおよびジステアリルル−3,3’−チオジプロピオネートなど)、ホスファイト類(リフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビ(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビ(2,4−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトおよびビス[2−t−ブチル−6−メチル−4−{2−(オクタデシルオキシカルボニル)エチル}フェニル]ヒドロゲンホスファイトなど)並びにオキサホスファフェナントレンオキサイド類(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドおよび10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなど)が挙げられる。
【0095】
前記酸化防止剤はそれぞれ単独で使用できるが、フェノール系/硫黄系またはフェノール系/リン系と組み合わせて使用することが特に好ましい。市販のフェノール系の酸化防止剤としては、チバ・ジャパン(株)製IRGANOX 1010(商品名)やIRGAFOS 168(商品名)をそれぞれ単独で利用することができ、また、これらを混合して利用することもできる。
【0096】
(紫外線吸収剤)
本発明の繊維複合体に、紫外線吸収剤を配合してもよい。紫外線吸収剤を配合することで、繊維複合体の耐候性を向上させることができる。
【0097】
紫外線吸収剤としては、一般のプラスチック用紫外線吸収剤を使用できる。その配合割合は、特に限定されない。紫外線吸収剤の配合量は、シルセスキオキサンまたはその重合体の質量を基準として、0.0001〜1.0質量%が好ましく、0.001〜0.1質量%がより好ましい。
【0098】
紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリシレート、p−t−ブチルフェニルサリシレートおよびp−オクチルフェニルサリシレート等のサリチル酸類、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノンおよび2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジtert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジtert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジtert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾールおよび2−{(2’−ヒドロキシ−3’,3’’,4’’,5’’,6’’−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル}ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール類、並びにビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートおよびビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[{3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドリキシフェニル}メチル]ブチルマロネート等のヒンダートアミン類が挙げられる。
【0099】
工程(1)において、シルセスキオキサンを含む組成物またはシルセスキオキサン重合体を含む組成物に、更に下記成分(a)〜(f)を配合してもよい。
【0100】
(a)粉末状の補強剤や充填剤、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、微粉末シリカ、溶融シリカおよび結晶シリカなどのケイ素化合物、ガラスビーズ等の透明フィラーおよび水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、カオリン、マイカ、石英粉末、グラファイト並びに二硫化モリブデン等。
【0101】
(b)着色剤または顔料、例えば、二酸化チタン、モリブデン赤、紺青、群青、カドミウム黄、カドミウム赤および有機色素等。
(c)難燃剤、例えば、三酸化アンチモン、ブロム化合物およびリン化合物等。
(d)イオン吸着体。
(e)シランカップリング剤。
(f)ジルコニア、チタニア、アルミナ、シリカなどの金属酸化物のナノ粒子分散液。
【0102】
これら(a)〜(f)の成分の配合量は、シルセスキオキサンを含む組成物またはシルセスキオキサン重合体を含む組成物中のシルセスキオキサンの質量に対する質量比で0.01〜0.50であることが好ましい。
【0103】
(2)工程(1)で繊維径が30nm以下である繊維に含浸させたシルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物を硬化反応させる工程
この工程は、工程(1)で繊維径が30nm以下である繊維に含浸させた、シルセスキオキサンを含む組成物またはシルセスキオキサン重合体を含む組成物を加圧、加熱および光硬化等の処理を施すにより硬化させる工程である。
【0104】
(加熱硬化)
加熱硬化の際の温度および時間は、用いるシルセスキオキサンが有する重合性の官能基に応じて適宜設定することができる。加熱の際、重合体を完全に硬化させず半硬化の状態すなわちBステージの状態としたのち、プレス機で挟んで加圧しながら加熱硬化させることにより、いっそう表面が平滑な成形体を得ることができる。この場合の圧力は、通常0.1〜2.0MPaが好ましく、0.2〜1.0MPaがより好ましい。
【0105】
加熱は、徐々に温度を上げながら段階的に行うことが好ましい。急速加熱は繊維複合体の内部ひずみを貯めるからである。具体的には、例えば、80℃で1時間、120℃で1時間および160℃で1時間、順次加熱する方法が好ましい。
【0106】
シルセスキオキサンを含む組成物または重合体を含む組成物に有機溶媒を含有しない場合は、後述の実施例1のようにプレス機などを用いてシルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物を繊維径30nm以下である繊維に密着させ、加熱して前記組成物を融解させて該繊維に含浸させることもできる。この場合は、含浸と熱硬化を同時に達成できる。この場合、加熱条件は、例えば、40〜100℃で0.1〜1時間とすることが好ましい。
【0107】
(光硬化)
また、シルセスキオキサンが有する重合性の官能基の種類によっては、シルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物に重合開始剤(光酸発生剤)を加えることで光硬化によって硬化反応させることができる。
【0108】
シルセスキオキサンを含む組成物またはシルセスキオキサン重合体を含む組成物における光酸発生剤の含有量は、シルセスキオキサンまたはその重合体の質量に対する質量比で0.0001〜0.01が好ましく、0.001〜0.01がより好ましい。
【0109】
光硬化は、波長100〜400nmの光を露光することにより行うことが好ましい。波長100〜400nmの光としては、例えば放射線発生装置により発生された種々の波長の光、例えば、g線およびi線等の紫外線光、遠紫外線光(248nm、198nm)並びに電子線等が挙げられる。露光量は、例えば10〜2000mJ/cmが好ましい。
【0110】
本発明の繊維複合体は、透明性が高く、線膨張係数が小さく、軽量のため、各種基板に用いることができる。基板としては、例えば、液晶表示素子用基板、有機EL表示素子用基板、カラーフィルター基板、太陽電池用基板、タッチパネル用基板、プラズマディスプレイ用基板などが挙げられる。また、ガラス基板、プラスチック基板、フィルム基板および金属基板などの基板上に本発明の繊維複合体を形成して、基板としてもよい。
【実施例】
【0111】
本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されない。
【0112】
シルセスキオキサン重合体の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法により測定した。具体的には、テトラヒドロフラン(THF)でシルセスキオキサンの重合体の濃度が約0.05〜0.10質量%になるように希釈し、昭和電工株式会社製カラムKF−805L、およびKF−804Lを用いて、THFを展開剤として測定し、標準ポリメチルメタクリレートに換算することにより求めた。
【0113】
[合成例1]
<化合物(II)の製造>
下記の経路により化合物(II)を製造した。
【0114】
【化6】

【0115】
第1段:3−アリロキシメチル−3−エチル−オキセタンの製造
窒素雰囲気下、温度計、滴下ロートおよび還流冷却器を備えた内容積2.0リットルの反応容器に50質量%水酸化カリウム水溶液(2500g)及び3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(580g、50mol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(50g)を加えて撹拌しながらアリルブロミド(1210g、100mol)を滴下ロートから滴下した。滴下終了後、室温で24時間撹拌したのち、水を加えてヘキサンで抽出した。有機層を水洗したのち、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。そして減圧濃縮で溶媒留去したのち減圧蒸留を行い、圧力1.4kPa、塔頂温度76℃の留分で3−アリロキシメチル−3−エチル−オキセタンを780g(収率89%)得た。
【0116】
第2段:化合物(II)の製造
化合物(II)を国際公開第2004/024741号に開示されている方法に従って合成した。即ち、窒素雰囲気下、温度計、滴下ロートおよび還流冷却器を備えた内容積2.0リットルの反応容器に、化合物(I)(400g)、トルエン(620g)を仕込み、マグネチックスターラーで攪拌しながら加熱し、液温を80℃にした。Pt触媒[ユミコアプレシャスメタル株式会社製、製品名 Pt−VTSC−3.0X(白金3質量%キシレン溶液)](80μL)をマイクロシリンジで加えたのち、第1段で製造した3−アリロキシメチル−3−エチル−オキセタン(288g)を添加した。そして還流温度で3時間攪拌した後、室温まで冷却してから富士シリシア化学株式会社製、商品名SHシリカ(2.0g)を加え1時間攪拌した。SHシリカを濾過して得た濾液をエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮物にメタノール(3000g)を加え、さらに活性炭(18g)加え室温で1時間攪拌した。活性炭を濾過で除去した濾液をエバポレーターで濃縮し、無色の粘ちょう液体を595g得た。H NMRの測定の結果、化合物(II)であることがわかった(収率83%)。
【0117】
[キチン繊維の調製]
カニ殻由来の乾燥キチン粉末(ナカライテスク社製キチン(粉末),商品コード07946−62)20gを2リットルの純水に分散させ、酢酸を10g添加し、室温にて約1時間撹拌しキチン繊維分散液を調製した。その後、得られたキチン繊維分散液中のキチン繊維を、石臼式摩砕機(スーパーマスコロイダー、増幸産業製)を用いて、1時間解繊処理し、キチン繊維の懸濁液とした。解繊時の砥石の回転数は1500rpmとした。解繊処理後のキチン繊維を電界放出型電子顕微鏡で観察し、写真を撮影した。この写真中のキチン繊維を無作為に50本選び、その繊維径を測定し、繊維径の最小値及び最大値を求めた。その結果、得られたキチン繊維は、繊維径が10〜20nmの範囲に入ることがわかった。また、均一でかつ高いアスペクト比を有するナノファイバーであることも確認できた。
【0118】
[キチン不織布Aの調製]
前記方法により得られたキチン繊維の懸濁液を、純水でキチン繊維濃度0.2質量%になるように希釈し、25℃にて3時間、300rpmで撹拌した。濾過器としてアドバンテック社製を使用し、金属メッシュフィルターの上に同アドバンテック社製の0.1μmPTFEメンブランフィルターを載せた。上部から十分に撹拌を行ったキチン繊維の懸濁液を15g流し込み、減圧濾過した。完全に水分が除去される前に、純水5gを追加し、再度減圧濾過の操作を2回行った。その後、エタノール5gを追加し、再度減圧濾過の操作を2回行う。PTFEメンブランフィルターの上にキチン繊維の堆積物が得られた。このキチン繊維の堆積物をろ紙に挟み込み、2kgの荷重をかけ90℃で6時間乾燥を行い、厚さ40μmのキチン不織布Aを得た。キチン不織布Aの比容積は、2cm/gであった。
【0119】
[キチン不織布Bの調製]
前記キチン繊維不織布Aを、更に110℃で4時間乾燥を行い、得られたものをキチン不織布Bとした。キチン不織布Bの厚さは40μmであり、比容積は、2cm/gであった。
【0120】
本実施例において使用した主な材料
シルセスキオキサン:合成例1で製造した化合物(II)
繊維径30nm以下である繊維:キチン不織布Aまたはキチン不織布B
重合開始剤:カチオン重合開始剤(三新化学工業(株)製 商品名 サンエイド SI−100)
【0121】
(実施例1)
容器に合成例1で製造した化合物(II)(100質量部)と、エチレングリコールジメチルエーテル(5質量部)に溶解したカチオン重合開始剤(0.5質量部)を仕込み、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製 あわとり練太郎(商品名)ARE−250)にセットし、混合と脱泡を行い、シルセスキオキサンを含む組成物とした。この組成物を、塗布量が均一となるように、PET(TORAY製 ルミラー100-T60、以下PETと称する)上に塗布し、キチン不織布A、上記組成物、PETの順に積層させた。その後気泡が入らないように注意しながら、金属板で最上層のPETに1MPaの圧力をかけながら、2時間含浸させた。
【0122】
含浸後、得られた混合物を熱プレス機(株式会社東洋精機製作所製 MINI TEST PRESS−10、以下プレス機とする)にセットした。そして1MPaの圧力を掛けて80℃で1時間、120℃で1時間、そして160℃で1時間加熱を行い、繊維複合体として、厚さ55μmのキチン繊維複合化シルセスキオキサン成形体を得た。
【0123】
(実施例2)
容器に合成例1で製造した化合物(II)(50質量部)と、エチレングリコールジメチルエーテル(50質量部)に溶解したカチオン重合開始剤(0.5質量部)を仕込み、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製 あわとり練太郎(商品名)ARE−250)にセットし、混合と脱泡を行い、シルセスキオキサンを含む組成物とした。この組成物にキチン不織布Aを5分間含浸させ、混合物とした。得られた混合物を80℃で1時間、120℃で1時間、そして160℃で1時間加熱を行い、繊維複合体として、厚さ80μmのキチン繊維複合化シルセスキオキサン成形体を得た。
【0124】
(実施例3)
容器に合成例1で製造した化合物(II)(80質量部)と、エチレングリコールジメチルエーテル(20質量部)、カチオン重合開始剤(0.5質量部)仕込み、それ以外は実施例2と同様にして、繊維複合体として、厚さ130μmのキチン繊維複合化シルセスキオキサン成形体を得た。
【0125】
(実施例4)
キチン不織布Bを用いて、実施例2と同様にして、繊維複合体として、厚さ80μmのキチン繊維複合化シルセスキオキサン成形体を得た。
【0126】
(実施例5)
キチン不織布Bを用いて、実施例3と同様にして、繊維複合体として、厚さ130μmのキチン繊維複合化シルセスキオキサン成形体を得た。
【0127】
(比較例1)
キチン不織布Aを使用しない以外は、実施例1と同様にして、繊維複合体として、厚さ50μmのシルセスキオキサンフィルムを得た。
【0128】
(比較例2)
キチン不織布Aの物性を評価した。
【0129】
(比較例3)
キチン不織布Bの物性を評価した。
【0130】
<キチン繊維含有量>
キチン繊維含有量は、複合前後の材料の質量を計測することにより測定した。
【0131】
<全光線透過率・濁度測定>
実施例1〜5、比較例1〜3で得られたシルセスキオキサン成形体を、ヘーズメータ(日本電色工業株式会社製 NHD5000)で全光線透過率と濁度を測定した。結果を表1に示す。全光線透過率が70〜95%であり、且つ濁度が1〜30である場合に、透明性が高いと判断した。
【0132】
<線膨張係数>
実施例1〜5、比較例1〜3により得られたシルセスキオキサン成形体を幅3mm×長さ15mmにカットし、セイコー電子工業株式会社製 熱機械分析装置(TMA−100)を使用し、チャック間距離10mm、荷重0.1gで10℃/minで100〜150℃の範囲で線膨張係数を算出した。結果を表1に示す。
【0133】
<可撓性の評価>
実施例1〜5、比較例1、2から得られたシルセスキオキサン成形体のサンプルの短辺と短辺が合わさるように180°折り曲げ試験を行ったところ、何れのサンプルも割れることがなく、可撓性を有し自由に曲げることができた。
【表1】

【0134】
表1に示す結果から分かるように、本発明により、キチン繊維で複合化された実施例1〜5のシルセスキオキサン成形体は、高い透明性を維持したまま、線膨張係数を低減することができた。さらに、180°に折り曲げても割れないことから、可撓性が高いことが分かった。
【0135】
一方、キチン繊維で複合化していない比較例1は、全光線透過率が高いものの、線膨張係数が大きかった。また、キチン不織布Aである比較例2およびキチン不織布Bである比較例3は、シルセスキオキサンを含まないことから、全光線透過率および濁度が大きかった。
【0136】
これらの結果から、本発明の繊維複合体は、液晶表示素子用基板、有機EL表示素子用基板、カラーフィルター用基板および太陽電池用基板に好適に用いることができることが予想された。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の繊維複合体は、液晶表示素子用基板、有機EL表示素子用基板やカラーフィルター用基板、太陽電池用基板およびタッチパネル用基板やプラズマディスプレイ用基板などに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が30nm以下である繊維と、シルセスキオキサンまたはシルセスキオキサンの重合体を含む組成物とを含む混合物を硬化させて得られる繊維複合体。
【請求項2】
前記繊維がキチン繊維である請求項1に記載の繊維複合体。
【請求項3】
前記キチン繊維がキチン不織布である請求項2に記載の繊維複合体。
【請求項4】
前記シルセスキオキサンが、かご型または部分かご型構造を有するシルセスキオキサンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維複合体。
【請求項5】
前記かご型または部分かご型構造を有するシルセスキオキサンが、一般式(A−1)〜(A−3)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の繊維複合体。
【化7】


一般式(A−1)〜(A−3)において、Rは、それぞれ独立して、水素、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく、隣接しない−CH−が−O−若しくはシクロアルキレンで置き換えられてもよい炭素数が1〜45のアルキル、炭素数が4〜8のシクロアルキル、任意の水素が炭素数1〜10のアルキル、またはハロゲンで置き換えられてもよいアリールである。Rは、それぞれ独立して炭素数が1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基である。少なくとも1つのXは、水素、ビニル基、または重合性の官能基を有する、炭素数が1〜10のアルキル、シクロアルキル、若しくはフェニルであり、残りのXはRと同様に定義される基である。
【請求項6】
前記一般式(A−1)〜(A−3)において、重合性の官能基が、オキシラニル、3,4−エポキシシクロヘキシル、オキセタニル、アクリルまたは(メタ)アクリルである、請求項5に記載の繊維複合体。
【請求項7】
線膨張係数が120ppm/K以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の繊維複合体。
【請求項8】
以下の工程(1)および(2)を含む、繊維径が30nm以下である繊維とシルセスキオキサンとの繊維複合体の製造方法。
(1)シルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物を、繊維径が30nm以下である繊維に含浸させる工程
(2)工程(1)で前記繊維に含浸させた前記シルセスキオキサンまたはその重合体を含む組成物を硬化反応させる工程
【請求項9】
前記繊維がキチン繊維である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記キチン繊維がキチン不織布である請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記シルセスキオキサンが、一般式(A−1)〜(A−3)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項8〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【化8】


一般式(A−1)〜(A−3)において、Rは、それぞれ独立して、水素、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく、隣接しない−CH−が−O−若しくはシクロアルキレンで置き換えられてもよい炭素数が1〜45のアルキル、炭素数が4〜8のシクロアルキル、任意の水素が炭素数1〜10のアルキル、またはハロゲンで置き換えられてもよいアリールである。Rは、それぞれ独立して炭素数が1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニルから選択される基である。少なくとも1つのXは、水素、ビニル基、または重合性の官能基を有する、炭素数が1〜10のアルキル、シクロアルキル、若しくはフェニルであり、残りのXはRと同様に定義される基である。
【請求項12】
前記一般式(A−1)〜(A−3)において、重合性の官能基が、オキシラニル、3,4−エポキシシクロヘキシル、オキセタニル、アクリルまたは(メタ)アクリルである、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記重合体の重量平均分子量が3,000〜4,000,000である、請求項8〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記工程(1)において、前記組成物が重合開始剤を含む請求項8〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記重合開始剤が、カチオン重合開始剤またはラジカル重合開始剤である請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記工程(1)において、前記組成物が硬化剤を含む請求項14または15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記硬化剤が、酸無水物またはアミンである請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記工程(2)において、硬化反応が熱硬化反応である請求項8〜17のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項19】
前記工程(2)において、硬化反応が光硬化反応である請求項8〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記組成物がさらにエポキシ樹脂またはオキセタン樹脂を含む請求項8〜19のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項21】
請求項8〜20のいずれか1項に記載の製造方法により製造される繊維複合体。
【請求項22】
請求項1〜7および21のいずれか1項に記載の繊維複合体を用いる基板。

【公開番号】特開2012−41404(P2012−41404A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181946(P2010−181946)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】