説明

繊維複合材料及びその製造方法

【課題】優れた耐熱性を示す繊維複合材料及びその製造方法の提供。
【解決手段】ポリL−乳酸とポリD−乳酸と天然繊維とを含む混合物を加熱加圧成形して得られた繊維複合材料、及び、ポリL−乳酸とポリD−乳酸と天然繊維とを含む混合物を加熱加圧成形する工程を少なくとも有する繊維複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸と天然繊維とを含む繊維複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球的規模での環境問題に対して、近年では廃棄物の有効活用の観点からトウモロコシなど農作物の廃棄部分などから抽出できるでんぷんを発酵させて得られる乳酸の重合体であるポリ乳酸の利用が検討されている。ポリ乳酸は生分解性のプラスチックであり、廃棄時の環境負荷低減の観点からも優れた材料である。
【0003】
ポリ乳酸は、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とを混合することによりステレオコンプレックスポリマーを形成する。ポリ乳酸のステレオコンプレックスポリマーはポリL−乳酸又はポリD−乳酸単独の場合よりも融点が高く、これを用いた部材の熱安定性が向上する。
【0004】
ポリ乳酸を利用した複合材料として、天然繊維とポリ乳酸系樹脂とが混在した繊維複合材料(繊維系ボード)が報告されている(例えば、特許文献1参照。)。この繊維系ボードは、天然繊維と溶融紡糸したポリ乳酸系樹脂(L−乳酸、D−乳酸の構成モル比がL−乳酸:D−乳酸=100:0〜0:100とするポリ乳酸樹脂)とを均一に混合し、分散させて繊維積層体としてポリ乳酸の融点以上に加熱加圧成形することにより得ることができる。
【特許文献1】特開2004−130796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の樹脂系ボードを形成する際に乳酸のステレオコンプレックスポリマーを用いると成形温度を高くする必要がある。これは、乳酸のステレオコンプレックスポリマーの融点(約230℃)がポリL−乳酸又はポリD−乳酸単独の場合(約170℃)よりも高いためである。しかし、成形温度を高くすることにより天然繊維の熱劣化を引き起こすことがある。天然繊維の熱劣化は繊維複合材料の耐熱性悪化の原因となることがある。
【0006】
本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、優れた耐熱性を示す繊維複合材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、
<1> ポリL−乳酸とポリD−乳酸と天然繊維とを含む混合物を加熱加圧成形して得られた繊維複合材料である。
【0008】
<2> 前記ポリL−乳酸と前記ポリD−乳酸との混合比が80:20〜20:80(質量比)である<1>に記載の繊維複合材料である。
【0009】
<3> 前記ポリL−乳酸と前記ポリD−乳酸との合計量と、前記天然繊維と、の混合比が30:70〜70:30(質量比)である<1>又は<2>に記載の繊維複合材料である。
【0010】
<4> 前記ポリL−乳酸及び前記ポリD−乳酸の少なくとも一方が、溶融紡糸して得られた繊維である<1>乃至<3>のいずれか1つに記載の繊維複合材料である。
【0011】
<5> ポリL−乳酸とポリD−乳酸と天然繊維とを含む混合物を加熱加圧成形する工程を少なくとも有する繊維複合材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた耐熱性を示す繊維複合材料及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の繊維複合材料及びその製造方法について詳細に説明する。
本発明の繊維複合材料は、ポリL−乳酸とポリD−乳酸と天然繊維とを含む混合物を加熱加圧成形して得られる。
【0014】
ポリL−乳酸及びポリD−乳酸のような立体規則性の異なるポリマーを混合することにより結晶性の大きなステレオコンプレックスを形成することができる。ポリ乳酸のステレオコンプレックスポリマーはポリL−乳酸又はポリD−乳酸単独の場合よりも融点が高いため、ポリ乳酸のステレオコンプレックスポリマーを含む繊維複合材料は樹脂成分としてポリL−乳酸又はポリD−乳酸を単独で含む場合よりも耐熱性に優れることがある。
【0015】
しかし、ポリ乳酸のステレオコンプレックスポリマーを用いて加熱加圧成形をする場合、ポリL−乳酸又はポリD−乳酸単独の場合と比較して加熱温度を上げる必要がある。この場合、併用される天然繊維の種類によっては加熱時の熱により天然繊維が劣化するおそれがある。天然繊維の熱による劣化は、繊維複合材料の耐熱性の低下の原因となることがある。例えば、ケナフ繊維を天然繊維として用い樹脂成分として融点の高い乳酸のステレオコンプレックスポリマーを用いた場合、加熱加圧成形における温度条件は230℃程度とする必要があり、この場合、ケナフ繊維が熱劣化してしまうことがある。
【0016】
本発明においては、ポリL−乳酸とポリD−乳酸と天然繊維とを含む混合物を加熱加圧成形することによりポリL−乳酸とポリD−乳酸との間でステレオコンプレックスポリマーを形成させるため、ポリ乳酸のステレオコンプレックスポリマーを用いる場合よりも低い成形温度でポリ乳酸のステレオコンプレックスポリマーを含む繊維複合材料を得ることができる。その結果として、天然繊維の熱劣化を防ぎ、耐熱性に優れる繊維複合材料を得ることができる。
【0017】
また、成形時にポリ乳酸のステレオコンプレックスポリマーが形成されるため、予めポリ乳酸のステレオコンプレックスポリマーを用意する必要が無く、製造工程を簡略化することができる。
【0018】
本発明に用いられる天然繊維としては、各種のセルロース系繊維、例えば木質系や草本系のセルロース系繊維を採用することができる。具体的には、(a) 木材パルプ、(b) バガス、ムギワラ、アシ、パピルス、タケ類等のイネ科植物パルプ、(c) 木綿、(d) ケナフ、ローゼル、アサ、アマ、ラミー、ジュート、ヘンプ等の靱皮繊維、(e) サイザルアサ、マニラアサ等の葉脈繊維等が挙げられる。
【0019】
これらのうちでも、一年草であって熱帯地方および温帯地方での成長が極めて早く容易に栽培できる草本類に属するケナフから採取される繊維を採用することが、天然資源の有効活用の面、リサイクルの面から好ましい。特にケナフの靱皮にはセルロース分が60%以上と高い含有率で存在していることから、ケナフ靱皮から採取されるケナフ繊維の利用が好ましい。
【0020】
本発明に用いられるポリL−乳酸は、L−乳酸単位70〜100モル%と、D−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合単位成分0〜30モル%とにより構成されており、ポリD−乳酸は、D−乳酸単位70〜100モル%と、L−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合単位成分0〜30モル%とにより構成されていることが好ましい。
【0021】
本発明に用いられるポリL−乳酸の重量平均分子量は、10万〜30万が好ましく、15万〜25万がさらに好ましく、18万〜22万が特に好ましい。また、本発明に用いられるポリD−乳酸の重量平均分子量は、10万〜30万が好ましく、15万〜25万がさらに好ましく、18万〜22万が特に好ましい。
【0022】
また、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸の分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤を添加しても良い。例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を添加して高分子量化したり、あるいはカーボネート化合物を用いて脂肪族ポリエステルカーボネートを得るようにしても良い。
【0023】
また、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸中に残存するモノマー量は、2000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下であると良い。ポリL−乳酸及びポリD−乳酸を製造する重合方法において、モノマー/ポリマーの反応平衡により、相当量のモノマー(ラクチド)の一部や低分子量(オリゴマー)がポリマー中に残存する。この残存モノマーや低分子量オリゴマーが最終製品(成形品、フィルム、繊維など)に存在すると一種の可塑剤或いは加水分解のトリガーとして作用し、経時的な強度劣化を促進する原因となる。またラクチドは昇華性物質であり、例えば繊維の紡糸工程で昇華し、ダイスやノズルに付着して糸切れの原因になったり、昇華物が異臭の原因になったりする。このために、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸に残存するモノマーはできるだけ低減させる必要がある。低モノマー化の方法としては、例えば特許第3055422号公報に記載されているモノマーを昇華させる方法や特開平9−110967号公報に記載されている溶剤による洗浄処理などがある。
【0024】
本発明の繊維複合材料に含有されるポリL−乳酸とポリD−乳酸との混合比(質量比)は、80:20〜20:80であることが好ましい。ポリL−乳酸とポリD−乳酸との混合比(質量比)を上述の範囲とすることにより、繊維複合材料の軟化温度を向上させることができる。ポリL−乳酸とポリD−乳酸との混合比(質量比)は75:25〜25:75がさらに好ましく、60:40〜40:60が特に好ましい。
【0025】
本発明に用いられるポリL−乳酸及びポリD−乳酸の形態は特に限定されるものではなく、粉体、フレーク、フィルム、ペレット、溶融紡糸して得られた繊維等特に限定されるものではないが、溶融紡糸して得られた繊維として用いることにより天然繊維と均一な混合物を形成しやすいため好ましい。
【0026】
本発明の繊維複合材料に含有されるポリL−乳酸とポリD−乳酸との合計量と、天然繊維と、の混合比(質量比)は、30:70〜70:30であることが好ましい。
【0027】
本発明の繊維複合材料は、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸及び天然繊維以外に必要に応じて公知の難燃剤、帯電防止剤、酸化防止剤等の添加剤や粒子を含有してもよい。
【0028】
本発明の繊維複合材料の製造方法は、ポリL−乳酸とポリD−乳酸と天然繊維とを含む混合物を加熱加圧成形する工程を少なくとも有する。本発明の繊維複合材料の製造方法に用いられるポリL−乳酸、ポリD−乳酸及び天然繊維等の具体例などは上述のとおりである。
【0029】
本発明の繊維複合材料の製造方法では、ポリ乳酸のステレオコンプレックスポリマーよりも融点の低いポリL−乳酸とポリD−乳酸とを樹脂成分(接着成分)として用いるため加熱加圧成形の際の温度を低く抑えることができる。また、加熱加圧成形の際にポリL−乳酸とポリD−乳酸との間でステレオコンプレックスポリマーが形成されるため、本発明の方法で製造される繊維複合材料は耐熱性に優れる。
【0030】
次に、本発明の繊維複合材料の製造方法について、天然繊維としてケナフ繊維を用い、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸として繊維状のポリマーを用いた場合について説明する。
【0031】
まず、ケナフ繊維を解繊し50mm程度にカットする。一方、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸を各々溶融紡糸して繊度6デシテックス程度の繊維とし捲縮を付与した後、50mm程度にカットする。ポリL−乳酸及びポリD−乳酸には溶融紡糸前にポリカルボジイミド化合物を混練すると良い。これらケナフ繊維とポリ乳酸繊維とを均一に混合し、分散させて混合物(繊維積層体)とする。これをポリ乳酸繊維の融点以上に加熱加圧し成形する。その際にポリ乳酸繊維を溶融させ、天然繊維同士または天然繊維とポリ乳酸繊維を接着させることにより、充分な剛性、曲げ強さを有する繊維複合材料を得ることができる。
【0032】
図1は、加熱加圧成形前後のポリL−乳酸(PLLA)繊維とポリD−乳酸(PDLA)繊維と天然繊維(ケナフ繊維)とを含む混合物の状態変化を説明するための図であり、図1(a)は加熱加圧成形前の混合物の状態を示し、図1(b)は加熱加圧成形後の混合物の状態を示す。溶融前には繊維状であったポリL−乳酸及びポリD−乳酸は、溶融後ステレオコンプレックスポリマーを形成すると共にケナフ繊維の接着剤として機能する。
【0033】
本発明の繊維複合材料の形状は平板に限定されるものではなく、表面に凹凸の模様を付けたもの、曲面を付けたものなどのプレス金型に所望の形状を付けることにより任意の形状に付形されたものも含むものとする。
【0034】
得られた繊維複合材料は、例えば、ドアトリム基材、インナーパネル、ピラーガーニッシュ、リヤパッケージ、天井基材、衝撃吸収材、吸音材等自動車の内装材として、壁材、床材、床下の衝撃吸収材、断熱材等の建材として好適に利用される。
【0035】
上述した繊維複合材料の製造方法において、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸は必ずしも繊維化する必要はなく、上記のように繊維化する以外に、粉末、フレーク、ペレット、フィルムにして、これを天然繊維と固体または溶融状態で混合し、溶融圧縮成形する方法を採ることもできる。
【0036】
本発明の繊維複合材料の製造方法において加熱加圧成形に用いられる装置としては、例えば、精密圧力プレス機((株)東邦インターナショナル製)が挙げられる。加熱条件としては、180〜220℃が好ましく、190〜210℃がさらに好ましい。加圧条件としては、100kN以上が好ましい。また、加熱加圧時間としては、30〜600秒が好ましく、60〜300秒がさらに好ましく、150〜250秒が特に好ましい。
【0037】
天然繊維としてケナフ繊維を用いる場合、ケナフ繊維の熱劣化を防ぐため加熱温度は190℃以下が好ましい。加熱加圧成形の際の温度条件を190℃以下とすることにより、ケナフ繊維の熱劣化を防ぐことができると共に容易にポリL−乳酸とポリD−乳酸との間でステレオコンプレックスポリマーを形成させることが可能となる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明について実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
ケナフ繊維(靱皮部)60質量部、ポリL−乳酸繊維(U’z−BO、重量平均分子量200000、トヨタ自動車(株)製)32質量部及びポリD−乳酸繊維(PURASORB PD、重量平均分子量102000、PURAC製)8質量部を均一に混合し、繊維マット(目付け0.7kg/m2)とした。次に、精密圧力プレス機(東邦インターナショナル製)で、190℃×20トン(196kN)×180秒の条件にてプレス成形し、続けて加熱冷却圧縮試験機で30℃×600kN×120秒の条件にてプレス成形し、0.7mm厚の繊維複合シート1を得た。
【0040】
[実施例2]
ポリL−乳酸繊維を38質量部と、ポリD−乳酸繊維を2質量部とした以外は実施例1と同様にして繊維複合シート2を得た。
【0041】
[実施例3]
ポリL−乳酸繊維を36質量部と、ポリD−乳酸繊維を4質量部とした以外は実施例1と同様にして繊維複合シート3を得た。
【0042】
[実施例4]
ポリL−乳酸繊維を24質量部と、ポリD−乳酸繊維を16質量部とした以外は実施例1と同様にして繊維複合シート4を得た。
【0043】
[実施例5]
ポリL−乳酸繊維を4質量部と、ポリD−乳酸繊維を36質量部とした以外は実施例1と同様にして繊維複合シート5を得た。
【0044】
[比較例1]
ポリL−乳酸繊維を40質量部としポリD−乳酸繊維を用いなかった以外は実施例1と同様にして繊維複合シート6を得た。
【0045】
[比較例2]
ポリL−乳酸繊維を用いずポリD−乳酸繊維を40質量部とした以外は実施例1と同様にして繊維複合シート7を得た。
【0046】
上述のようにして得られた繊維複合シート1乃至7の粘弾性を、FT Rheospectror(Rheology社製)を用いて測定した。測定条件は以下の通りである。本発明においては、粘弾性測定において弾性率が400MPa以下となる温度を軟化温度とした。得られた結果を図2に示す。
・測定試料の寸法:5mm×1.5mm×15mm
・測定温度:30〜200℃
・昇温速度:3℃/min.
・測定モード:伸長
・周波数:10Hz
【0047】
図2から、ポリ乳酸/ケナフ繊維複合材料においてPLLAとPDLAとの比を80:20〜20:80とすることで軟化温度が170℃以上となり耐熱性の改善が見られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】加熱加圧成形前後のポリL−乳酸繊維とポリD−乳酸繊維と天然繊維(ケナフ繊維)とを含む混合物の状態変化を説明するための図であり、(a)は加熱加圧成形前の混合物の状態を示し、(b)は加熱加圧成形後の混合物の状態を示す。
【図2】実施例で測定された軟化温度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリL−乳酸とポリD−乳酸と天然繊維とを含む混合物を加熱加圧成形して得られた繊維複合材料。
【請求項2】
前記ポリL−乳酸と前記ポリD−乳酸との混合比が80:20〜20:80(質量比)である請求項1に記載の繊維複合材料。
【請求項3】
前記ポリL−乳酸と前記ポリD−乳酸との合計量と、前記天然繊維と、の混合比が30:70〜70:30(質量比)である請求項1又は2に記載の繊維複合材料。
【請求項4】
前記ポリL−乳酸及び前記ポリD−乳酸の少なくとも一方が、溶融紡糸して得られた繊維である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の繊維複合材料。
【請求項5】
ポリL−乳酸とポリD−乳酸と天然繊維とを含む混合物を加熱加圧成形する工程を少なくとも有する繊維複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−185789(P2007−185789A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3788(P2006−3788)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】