説明

繊維集合体の製造装置及び製造方法

【課題】本発明は、極細繊維不織布の製造を長時間停止させることなく流路詰まりを解消することができる、繊維集合体の製造装置ならびに該装置を用いた繊維集合体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の繊維集合体の製造装置は「(1)紡糸原液を保持できる保持容器、(2)毛細管現象及び/又は紡糸原液の表面張力の作用のみを用いて、紡糸部へ紡糸原液を供給することのできる紡糸原液供給部材、(3)紡糸部へ供給された紡糸原液を引き伸ばして繊維化できる電界形成手段、(4)前記繊維化した繊維を集積させることで繊維集合体を形成できる捕集手段、とを備えている繊維集合体の製造装置であり、該紡糸原液供給部材を該製造装置から容易に着脱できることを特徴とする、繊維集合体の製造装置。」であること、ならびに、本発明の繊維集合体の製造方法は該装置を用いたものであることにより、課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維集合体の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維の繊維径が小さいと、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れる繊維集合体を形成できるため、繊維の繊維径は小さいのが好ましい。このような繊維径の小さい繊維の製造方法として、紡糸原液をノズルから押し出すとともに、押し出した紡糸原液に電界を作用させて紡糸原液を延伸し、繊維径の小さい繊維とする、いわゆる静電紡糸法が知られている。
【0003】
静電紡糸法を用いて繊維集合体の幅方向の繊維量を一定に調整し、かつ繊維集合体の生産性を向上させる方法として、本願出願人は、周回可能なエンドレス軌道に沿って運動する支持体に、紡糸原液の供給管と接続した紡糸原液吐出部であるノズルを担持し、一定速度で支持体を周回させながら、ノズルから紡糸原液を吐出して繊維化する、極細繊維不織布の製造方法を提案した(特許文献1)。
【0004】
この極細繊維不織布の製造方法によれば、幅方向における繊維量が均一であり、かつ繊維径が均一な極細繊維不織布を生産性良く製造することができたが、連続的に紡糸を行うと、固化した紡糸原液のポリマーによってノズルで流路詰まりが発生することがあった。
【0005】
ノズルで流路詰まりが発生するとその解消のため、ノズルを該繊維集合体の製造装置から取り外して洗浄する必要があるものの、前記静電紡糸法を用いた繊維集合体の製造装置において、ノズルと供給管との接続部からポンプにより送液されてくる紡糸原液が漏洩しないよう強固にノズルと供給管とが接続されており、更にノズルが支持体に担持されていることからも、ノズルを該繊維集合体の製造装置から取り外すのは容易ではなく、ノズルの交換には時間を要するものとなった。
そのため、流路詰まりが発生すると長時間の極細繊維不織布の製造停止が生じ、繊維集合体の効率的な製造を妨げる要因となっていた。
【0006】
該製造方法を用いて極細繊維不織布の生産性を向上するためには、ノズルからの紡糸原液の総吐出量を増加させる必要があるものの、一本のノズルから吐出する紡糸原液量を増加させると、ノズルの先端に紡糸原液が液滴として留まり紡糸されない。また、幅の広い極細繊維不織布を製造するためには、幅方向にノズルの数を増やす必要がある。
そのため、極細繊維不織布の生産性を向上する、あるいは幅の広い極細繊維不織布を製造するためには、ノズルの数を増やす必要があるものの、ノズルの数の増加はノズル詰まりの発生頻度を上げるものであった。
【0007】
繊維集合体を生産性良く製造することができる製造装置として、ノズルブロックに設置された多数のノズルを狭い領域内に配列させ、上向きに紡糸を行う手段を有する、極細繊維の製造装置が提案されている(特許文献2)。
【0008】
この繊維集合体の製造装置におけるノズルブロックは、ノズルが高密度に多数配列されたノズルプレイトを有しており、これらノズルの開口形状や内径を最適なものとし、上部方向に紡糸を行うことで、ドロップレットが発生することなくナノ繊維の大量生産を可能としている。
【0009】
しかしながら、引用文献2の該極細繊維の製造装置のノズルブロックは、複数のノズルが配列するノズルプレイト上に各ノズルを取り囲む様態で、紡糸溶液臨時貯蔵板ならびに絶縁体板が積層され形成されている。そのため、一部のノズルが流路詰まりを発生した際、ノズルブロックから紡糸溶液臨時貯蔵板ならびに絶縁体板を取り外した後でなければ、ノズルを交換あるいは洗浄をすることができないものであった。そのため、長時間の極細繊維不織布の製造停止を解消するものではなかった。
【0010】
また、引用文献2に記載されている極細繊維の製造装置を用いて、極細繊維不織布の生産性を向上、あるいは幅の広い極細繊維不織布を生産するためには、ノズルブロックに設置されたノズルの数、またはノズルブロック自体を増やす必要があるものの、ノズルの数の増加は流路詰まりの発生頻度を上げるものである。
【0011】
繊維集合体の生産性向上をもたらし、流路の洗浄を想定した繊維集合体の製造装置として、以下の手段を有する極細繊維の製造装置が提案されている(特許文献3)。
1.十分な圧力をかけて大量の液体を計量・送液することのできるポンプ部を用いて、繊維化する液体を流体供給装置へと供給する手段。
2.ポンプ部により供給された繊維化する液体を、複数の部材が積層されてなる複合型の流体供給装置内部の、キャピラリーや孔のような閉空間や、針状金属表面や2枚平行板間隙の表面張力を利用した開空間により分配し、流体供給装置の末端に設けられた流体離脱部位へと供給する手段。
3.分配された繊維化する液体を表面張力や重力や延伸張力などによって、溝をなすことのできる、針状、棒状、円錐、三角錐、四角錐、その他多角錘、ドーム型、かまぼこ型、楕円体などの形態をとる、流体離脱部位の先端まで誘導する手段。
4.流体離脱部位の先端まで誘導された繊維化する液体に、電界の力を作用させ繊維化する手段。
この極細繊維の製造装置は、「洗浄を考慮して複数の部材から構成されることが好ましい」ものとしている。また流体供給装置を回転、スィープ、移動可能とし、紡糸部となる流体離脱部位同士の間隔を1mm未満という極限まで狭めて集積化することで、従来の静電紡糸技術を用いるよりも、均一な極細繊維集合体の生産性を、飛躍的に向上させている。
【0012】
しかしながら、引用文献3の流体供給装置において、構成する各部材間から送液の内圧によって繊維化する液体が漏れないよう、部材間にパッキンを用いるなど工夫することが好ましく、各部材同士は容易に分離されない程度に強固に固定され積層されている。また流体離脱部位においても、流体供給装置の回転、スィープ、移動が想定されていることから、流体離脱部位は流体供給装置と剥離しない程度に、1mm未満という極限まで狭めて集積され、固定されている。
このことから、流体供給装置あるいは流体離脱部位が流路詰まりを起こした際、流体供給装置の流路詰まりに関わる一部の部材、あるいは1mm未満という極限まで狭めて密集し集積されている流体離脱部位の、流路詰まりに関わる一部を、流体供給装置から取り外して洗浄をすることは容易ではないものであった。そのため、流路詰まりが発生すると長時間の極細繊維不織布の製造停止を招き、極細繊維の効率的な製造を行うことが難しいものであった。
【0013】
また、引用文献3に記載されている極細繊維の製造装置を用いて、極細繊維不織布の生産性を向上、あるいは幅の広い極細繊維不織布を生産するためには、流体供給装置上に設けられた流体離脱部位の数を増やす必要があるものの、流体供給装置ならびに流体離脱部位の数の増加は、流路詰まりの発生頻度を上げるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006-112023号公報(特許請求の範囲、0027、0031、0085、図2)
【特許文献2】特開2007-517991号公報(特許請求の範囲、0014-0015、0018-0025、図1、図4)
【特許文献3】特開2006-152479号公報(特許請求の範囲、0008-0009、0014-0019、0022、図1-図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従来技術を用いた静電紡糸法による繊維集合体の製造装置及び製造方法に関わる問題を解決するものであり、紡糸原液供給部材に流路詰まりが発生した際にも、極細繊維不織布の製造を長時間停止させることなく、流路詰まりを解消することができる繊維集合体の製造装置、及びこの製造装置を用いて繊維集合体を製造する繊維集合体の製造方法の提供が目的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1の、繊維集合体の製造装置は「(1)紡糸原液を保持できる保持容器、(2)毛細管現象及び/又は紡糸原液の表面張力の作用のみを用いて、紡糸部へ紡糸原液を供給することのできる紡糸原液供給部材、(3)紡糸部へ供給された紡糸原液を引き伸ばして繊維化できる電界形成手段、(4)前記繊維化した繊維を集積させることで繊維集合体を形成できる捕集手段、とを備えている繊維集合体の製造装置であり、該紡糸原液供給部材を該製造装置から容易に着脱できることを特徴とする、繊維集合体の製造装置。」である。
【0017】
請求項2の、繊維集合体の製造方法は「請求項1に記載の繊維集合体の製造装置を用いて繊維集合体を製造する、繊維集合体の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の請求項1にかかる製造装置は、該紡糸原液供給部材を該製造装置から容易に着脱できることを特徴としており、そのため、紡糸原液供給部材に流路詰まりや汚れが発生した際にも、紡糸原液供給部材の取り外しが容易に行えることから、長時間の極細繊維不織布の製造停止を招くことなく流路詰まりを解消することができる。そのため、生産性良く繊維集合体を製造できる装置である。
【0019】
本発明の請求項2にかかる製造方法は、請求項1に記載の繊維集合体の製造装置を用いて繊維集合体を製造することで、該紡糸原液供給部材を該製造装置から容易に着脱できることを特徴としているため、紡糸原液供給部材に流路詰まりや汚れが発生した際にも、紡糸原液供給部材の取り外しが容易に行えることから、長時間の極細繊維不織布の製造停止を招くことなく流路詰まりを解消することができる。そのため、生産性良く繊維集合体を製造できる製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の繊維集合体の製造装置の斜視図である。
【図2】図1に係る繊維集合体の製造装置により紡糸が行われている際の、紡糸原液の表面と垂直をなす方向における断面図である。
【図3】(a)本発明で使用することができる、紡糸原液供給部材の、紡糸方向における断面図である。(b)本発明で使用することができる、別の紡糸原液供給部材の、紡糸方向における断面図である。
【図4】(a)本発明で使用することができる、更に別の紡糸原液供給部材の、紡糸方向における断面図である。(b)本発明で使用することができる、更に別の紡糸原液供給部材の、紡糸方向における断面図である。(c)本発明で使用することができる、図4(a)の紡糸原液供給部材を、紡糸方向を軸として90°回転させた図である。
【図5】(a)本発明の別の繊維集合体の製造装置を、繊維捕集体側から見た模式的透視平面図である。(b)本発明の更に別の繊維集合体の製造装置を、繊維捕集体側から見た模式的透視平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の繊維集合体の製造方法及び製造装置について、図1および図2に沿って説明する。図1は本発明の繊維集合体の製造装置の斜視図を示したものである。図2は、図1に係る繊維集合体の製造装置により紡糸が行われている際の、紡糸原液の表面と垂直をなす方向における断面図を示したものである。
【0022】
図1に示す繊維集合体の製造装置は、紡糸原液(13)を保持する保持容器(14)中に、紡糸原液供給部材(15)が存在している(以降、紡糸原液(13)と保持容器(14)および紡糸原液供給部材(15)を総称し、紡糸セット(20)と呼ぶ)。本発明の繊維集合体の製造装置に係る紡糸原液供給部材(15)は、本発明の繊維集合体の製造装置を構成している、保持容器(14)などの部材と一体化していない。そのため、該紡糸原液供給部材(15)を本発明の繊維集合体の製造装置から、工具を使用することなく容易に着脱することが可能である。
また、紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)から一定の距離離れて、パワーサプライ(17)を介してアース(19b)された繊維捕集体(18)が配置されている。
【0023】
紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)に存在する紡糸原液(13)は、保持容器(14)に接続されているアース(19a)と、パワーサプライ(17)により荷電された繊維捕集体(18)との間に形成される電界の作用によって、紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)から引き伸ばされ繊維化(11)するとともに、繊維捕集体(18)で捕集されることにより、繊維集合体(12)が製造される。
【0024】
本発明に係る製造装置を用いて繊維集合体(12)を製造する場合、まず、紡糸原液(13)を用意する。この紡糸原液(13)は、例えば、静電紡糸可能な樹脂を溶媒に溶解させた溶液、あるいは静電紡糸可能な樹脂を溶融させたものを使用できる。
【0025】
樹脂の種類は、本発明に係る繊維集合体の製造装置を用いて紡糸することができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、或いはポリプロピレンなどを使用することができる。これら例示以外の樹脂も使用可能であり、例示以外の樹脂も含め、2種以上の樹脂からなる紡糸原液(13)とすることもできる。
【0026】
上述の樹脂を溶媒に溶解させる場合、溶媒は使用する樹脂や紡糸条件によっても変化するため、特に限定されるものではないが、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。これら例示以外の溶媒も使用可能であり、例示以外の溶媒も含め、2種以上の溶媒が混和した混和溶媒を使用することもできる。
【0027】
紡糸原液(13)が上述のような樹脂を溶媒に溶解させたものである場合、その粘度は使用する樹脂の組成、樹脂の分子量、溶媒の組成、溶媒における樹脂の濃度等によって変化するため特に限定されるものではないが、本発明に係る静電紡糸装置への適用性の点から、粘度が10〜6000mPa・sの範囲となるような濃度であるのが好ましく、20〜5000mPa・sの範囲となるような濃度であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、粘度が低すぎて曳糸性が悪く、繊維になりにくい傾向があり、粘度が6000mPa・sを超えると、紡糸原液(13)が延伸されにくくなり、繊維形状となりにくい傾向がある。
【0028】
なお、この「粘度」は粘度測定装置を用い、温度25℃で測定したシェアレート100s−1時の値をいう。
【0029】
また、紡糸原液(13)が溶融した樹脂の場合、その粘度は使用する樹脂の組成、樹脂の分子量等によって変化するため特に限定されるものではなく、本発明に係る繊維集合体の製造装置を用いて紡糸することができる粘度であれば良い。静電紡糸への適用性の点から、例えば溶融した樹脂としてポリプロピレンを用いる場合の紡糸原液(13)は、メルト・インデックスが10(g/10min)以上となるものであるのが好ましい。メルト・インデックスが10(g/10min)未満であると、紡糸原液(13)が延伸されにくくなり、繊維形状となりにくい傾向がある。ポリプロピレン紡糸原液(13)のメルト・インデックスが100(g/10min)以上であるのがより好ましく、1000(g/10min)以上であるのがより好ましい。
【0030】
なお、このメルト・インデックスは、溶融した樹脂をキャピラリーレオメータに導き、JISK7199に基づいて測定した際の、押出量(g/10min)の値を指す。溶融時の粘度を調整するために、樹脂に粘度調整剤、また紡糸時における紡糸原液(13)が酸化あるいは光により変性しないように、酸化防止剤、光安定剤などを添加しても良い。
【0031】
紡糸原液(13)を保持する保持容器(14)は、紡糸原液(13)を保持できるものであれば良く、その素材や形状を特別限定するものではないが、保持容器(14)を電極として使用することで紡糸原液(13)に電圧を印加する場合には、保持容器(14)は体積固有抵抗値が10Ω・cm以下の導電性材料(例えば、金属製)からなるのが好ましい。
【0032】
溶媒に樹脂を溶解してなる紡糸原液(13)を使用した場合、紡糸中に熱を帯びることで、樹脂濃度や物性が変化するとともに、紡糸条件の変化が起きる恐れがあるため、保持容器(14)に冷却機構が備わっていることが好ましい。また、紡糸原液(13)が溶融した樹脂である場合には、樹脂が保持容器(14)中で固化しないよう、保持容器(14)に加熱機構が備わっていることが好ましい。
【0033】
また、紡糸を行っていくと、繊維捕集体(18)に繊維集合体(12)が形成されるとともに、保持容器(14)中の紡糸原液(13)の量が減少することで、繊維集合体の連続的な製造が不可能となる。そのため、保持容器(14)に紡糸原液(13)を供給する装置を設けるのが好ましい。
【0034】
紡糸原液供給部材(15)の構造について、図1、2に図示されている紡糸原液供給部材(15)の、紡糸方向における断面図を示したものである図3(a)、及び、更に紡糸原液供給部材(15)の別の形態を示した、図3(b)ならびに図4(a)(b)を用いて説明する。
【0035】
紡糸原液供給部材(15)は、紡糸原液(13)の有する毛細管現象及び/又は表面張力の作用のみを用いて、保持容器(14)中の紡糸原液(13)を、紡糸部となる紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)まで供給する作用を示す。紡糸原液供給部材(15)における該作用が好適に発揮できる形状として、内部に細管を有する形状(図3(a)および図3(b))、表面に溝を有する形状(図4(a))、ならびに、平板が積層されることで形成される、一定間隔の隙間を有した形状(図4(b))などが挙げられる。
【0036】
温湿度、紡糸原液(13)の物性などの紡糸条件によって、最適な紡糸を行うことができる紡糸原液供給部材(15)の形状は変化するため、細管の開口直径、溝の形状、一定間隔の隙間の大きさは、好適に紡糸が行えるよう適宜調整されるべきものである。
【0037】
紡糸原液供給部材(15)を電極として使用することで紡糸原液(13)に電圧を印加する場合には、紡糸原液供給部材(15)は体積固有抵抗値が10Ω・cm以下の導電性材料(例えば、金属製)からなるのが好ましい。その際には、紡糸原液供給部材(15)がアースされているのが好ましい。
【0038】
本発明の繊維集合体の製造装置に係る紡糸原液供給部材(15)は、本発明の繊維集合体の製造装置から、工具を使用することなく容易に着脱することが可能である。
【0039】
容易に着脱することが可能であるとは、例えば、紡糸原液供給部材(15)が保持容器(14)中に静置されている状態や、保持容器(14)に接触していない状態(例えば、紡糸原液供給部材(15)が絶縁体を介して保持容器(14)中に静置されている状態、紡糸原液供給部材(15)が紡糸原液(13)中で浮んでいる状態)などであり、工具を使用することなく、該繊維集合体の製造装置から紡糸原液供給部材(15)を着脱することのできる状態を指す。
【0040】
本発明の繊維集合体の製造装置においては、紡糸原液供給部材(15)を運動させる運動装置(図示せず)を設けることができる。本発明の繊維集合体の製造装置に係る紡糸原液供給部材(15)と該運動装置とは、工具を使用することなく容易に着脱することが可能である。容易に着脱することが可能であるとは、紡糸原液供給部材(15)が運動装置に接触していない状態(例えば、運動装置の磁力に紡糸原液供給部材(15)が追従する状態、運動装置がリング形状の部位を有するとともに、紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)を該リングで取り囲んでいる状態、運動装置と紡糸原液供給部材(15)とが、面ファスナーや両面粘着テープなどを介して接続している状態)など、工具を使用することなく、紡糸原液供給部材(15)を運動装置から容易に着脱できる状態を指す。
【0041】
このような状態で、紡糸原液供給部材(15)と運動装置とが接続されているため、該紡糸原液供給部材(15)に流路詰まりや汚れが発生したとしても、該運動装置から該紡糸原液供給部材(15)の取り外しが容易である。
【0042】
運動装置として、ベルトコンベア、ピストン、クランクなど、同じ運動を繰り返し行える装置が例示できる。該運動装置は、紡糸原液供給部材(15)と接続されるとともに、保持容器(14)中で該紡糸原液供給部材(15)を紡糸原液(13)の表面と平行方向あるいは垂直方向に繰り返し運動させる作用を示す。あるいは、該運動装置は紡糸セット(20)と接続されるとともに、該紡糸セット(20)を紡糸原液(13)の表面と平行方向あるいは垂直方向に繰り返し運動させる作用を示すものである。該運動装置によって紡糸原液供給部材(15)又は紡糸セット(20)が、紡糸原液(13)の表面と平行かつ繊維集合体の生産方向と垂直を成す方向に運動する場合、生産幅が広く均一な目付の繊維集合体(12)を得ることが可能となる。また、該運動装置によって紡糸原液供給部材(15)又は紡糸セット(20)が、紡糸原液(13)の表面と垂直方向に運動する場合、紡糸開始部位(16)と繊維捕集体(18)との距離が変動しながら紡糸が行われるため、繊維径など物性の不均一な繊維(11)が集合してなる繊維集合体(18)を得ることが可能となる。
【0043】
なお、運動装置に電圧が印加されないように、該運動装置はアースされていると共に、絶縁体を介して紡糸原液供給部材(15)あるいは紡糸セット(20)と接続されているのが好ましい。
【0044】
本発明の繊維集合体の製造装置において、パワーサプライ(17)とアース(19a)により電位差が形成されることで、紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)へと供給された紡糸原液(13)を、引き伸ばして繊維化できる。このように、図1および図2の製造装置においては、パワーサプライ(17)とアース(19a)とで電界形成手段を構成している。
【0045】
紡糸セット(20)と繊維捕集体(18)との間に電位差がなければ、紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)へと供給された紡糸原液(13)を、引き伸ばして紡糸することができないため、パワーサプライ(17)により繊維捕集体(18)または、紡糸セット(20)に電圧を印加する。この時、紡糸原液(13)に直接電圧を印加しても良いし、保持容器(14)または紡糸原液供給部材(15)が導電性材料であるのならば、保持容器(14)または紡糸原液供給部材(15)に電圧を印加することで紡糸原液(13)へと電圧を印加しても良い。パワーサプライ(17)として、例えば、直流高電圧発生装置やヴァン・デ・グラフ起電機を用いることができる。好適に電圧の印加が行えるのであれば、パワーサプライ(17)の種類や電圧の印加方法は限定されるものではない。印加された繊維捕集体(18)の極性は、正極と負極のいずれであっても構わないが、繊維の拡がりを抑制し繊維が均一に分散した繊維集合体(12)を製造しやすいように、適宜、極性を確認するのが好ましい。
【0046】
本明細書における図1および図2では、パワーサプライ(17)により繊維捕集体(18)に電圧が印加されているが、図1および図2の態様とは逆に、パワーサプライ(17)により紡糸セット(20)に電圧が印加されていてもよい。その際、該紡糸セット(20)はパワーサプライを介してアースされていなければならない。また、紡糸原液(13)と繊維捕集体(18)との間に電位差が存在するように、紡糸セット(20)と繊維捕集体(18)の双方に電圧を印加してもよい。
【0047】
紡糸原液(13)と繊維捕集体(18)との間の電位差は、紡糸原液(13)の諸物性、紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)と繊維捕集体(18)との距離、温湿度などの紡糸条件によって変化するため、好適に紡糸が行えるよう、適宜、調整されるべきものであり、特に限定するものではないが、0.1〜50kV/cmの範囲内となるように、パワーサプライ(17)で電圧を印加するのが好ましい。電位差が50kV/cmを超えると、繊維捕集体(18)と保持容器(14)あるいは紡糸原液供給部材(15)との間で、絶縁破壊が生じやすい傾向があり、0.1kV/cm未満であると、紡糸原液(13)の延伸が不十分で繊維化されにくい傾向がある。
【0048】
本発明の繊維集合体の製造装置において、繊維捕集体(18)は紡糸原液(13)から紡糸された繊維(11、一般に連続繊維)を、直接集積させて繊維集合体(12)を形成することができる捕集手段であればよく、その構造や素材などは特に限定されるものではない。例えば、繊維捕集体(18)として、金属製や炭素などの導電性材料又は有機高分子などの非導電性材料からなる、不織布、織物、編物、ネット、ドラム、或いはベルトなどを挙げることができる。繊維捕集体(18)がコンベアなど可動式のものであると、連続して繊維集合体(12)を製造することができる。特に、繊維捕集体(18)の移動方向端部に巻取り装置を備えていると、長尺状の繊維集合体(12)を製造できる。
【0049】
繊維捕集体(18)に電圧を印加する場合には、繊維捕集体(18)は体積固有抵抗値が10Ω・cm以下の導電性材料(例えば、金属製)からなるのが好ましい。一方、繊維捕集体(18)が導電性材料からならない場合には、紡糸セット(20)側から見て繊維捕集体(18)よりも後方に、導電性材料からなる対向電極(図示せず)を設けるのが好ましい。この時、繊維捕集体(18)は電圧が印加されている必要性はなく、対向電極がパワーサプライ(17)によって電圧が印加されている状態、あるいはアースされている状態であれば良い。また、繊維捕集体(18)と対向電極とは離間していても、接触していてもよい。
【0050】
繊維捕集体(18)と紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)との最適な距離は、紡糸原液(13)と繊維捕集体(18)の間の電位差、紡糸原液(13)の諸物性、温湿度などの紡糸条件によって変化する。そのため、好適に紡糸が行えるよう適宜調整されるべきものであるが、この距離が200mmを超えると作用する電界が弱まることで、紡糸原液(13)が引き伸ばされ難くなるため繊維化されない傾向があり、10mm未満であると紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)あるいは保持容器(14)と、繊維捕集体(18)との間で、絶縁破壊が生じる傾向がある。そのため、この距離は10〜200mmの範囲内であるのが好ましく、30〜150mmの間であるのがより好ましい。
【0051】
本発明に係る繊維集合体の製造装置における、繊維補集体(18)の移動方向と平行あるいは垂直をなす方向に、複数の紡糸セット(20)を連なって配置しても良い。また、その時、複数の紡糸セット(20)の保持容器(14)には、同一種類あるいは各々異なった種類の紡糸原液(13)が満たされているようにできる。
【0052】
保持容器(14)に同一種類の樹脂からなる紡糸原液(13)が満たされている場合、該紡糸セット(20)が繊維捕集体(18)の移動方向と平行をなす方向に連なって配置されていると、紡糸セット(20)を一つだけ設けて繊維集合体(12)を製造する場合よりも、紡糸部が増えた状態であることから、効率良く繊維集合体(12)を製造することができる。また、該紡糸セット(20)が繊維捕集体(18)の移動方向と垂直をなす方向に連なって配置されていると、紡糸セット(20)を一つだけ設けて繊維集合体(12)を製造する場合よりも、幅の広い繊維集合体(12)を製造することができる。
【0053】
保持容器(14)に各々異なった紡糸原液(13)が満たされている場合、該紡糸セット(20)が繊維集合体(12)の製造方向と平行をなす方向に沿って配置されていると、異なった種類の繊維が積層してなる繊維集合体(12)を製造することができる。
【0054】
なお、紡糸セット(20)が設けられるその数、ならびに、一つの該紡糸セット(20)中に設けられている紡糸原液供給部材(15)の数は、限定するものではなく、各紡糸セット(20)同士がなす間隔などの配置は、好適に紡糸が行えるように、適宜、調整するのが良い。
【0055】
電界の形成される、紡糸セット(20)と繊維捕集体(18)との間の空間、またその周囲の温湿度や溶媒の蒸気濃度などが変化することで、電界の作用により紡糸された繊維(11)は、繊維径など形状の変化や強度など物性の変化を生じることが知られている。開空間において本発明の繊維集合体の製造装置を用いて繊維集合体(12)を製造すると、電界の形成される、紡糸セット(20)と繊維捕集体(18)との間の空間、またその周囲の温湿度や溶媒の蒸気濃度などを恒常化することが困難であることから、均一な繊維からなる繊維集合体(12)を製造することが困難となる恐れがある。電界の形成される周囲の温湿度や溶媒の蒸気濃度などを恒常化することが容易であることから、本発明の繊維集合体の製造装置は閉鎖空間に設けられているのが好ましい。
【0056】
本発明の繊維集合体の製造装置を閉鎖空間で使用し、樹脂を溶媒に溶解させた紡糸原液(13)を用いて紡糸する場合には、紡糸時に発生した溶媒の蒸気を排気する排気装置ならびに、繊維集合体の製造装置の紡糸空間における温湿度などの環境を恒常化する気体供給装置を設けるのが好ましい。
【0057】
静電紡糸を行っていると、繊維集合体の製造装置の紡糸空間における溶媒の蒸気濃度が次第に高くなり、溶媒の蒸発が抑制され、繊維径が細くなりにくくなり、繊維径のバラツキが発生しやすい傾向がある。最悪の場合には、溶媒の蒸気濃度が飽和に達してしまい、静電紡糸を行うことが困難となる。そのため、紡糸に最適な気体を繊維集合体の製造装置の紡糸空間へと供給し、蒸発した溶媒を閉鎖空間外へと排出することによって、繊維集合体の製造装置の紡糸空間における溶媒の蒸気濃度を一定とすると、繊維径の揃った繊維集合体を製造しやすい。なお、気体供給装置(図示せず)ならびに排気装置(図示せず)の種類は特に限定するものではないが、例えば、気体供給装置として除湿機、加湿機など、排気装置として排気口に設置されたファンであることができる。
【0058】
また、繊維捕集体(18)がメッシュ、不織布又は織物などの、気体を透過することのできる場合には、この排気装置の排気口が紡糸原液(13)側から向かって繊維捕集体(18)の背後に存在しているのが好ましい。紡糸方向と排気方向が同一であると、紡糸と繊維の捕集を阻害することなく排気を行うことができ、繊維捕集体(18)に形成された繊維集合体(12)から揮発する溶媒も効率良く排気することができる。
【0059】
紡糸の原理について、図2ならびに図3と図4を用いて説明する。
【0060】
紡糸原液(13)は、自身が有する毛細管現象及び/又は表面張力の作用のみによって、紡糸原液供給部材(15)の内部に存在する細管(34)や、紡糸原液供給部材(15)の表面に設けられた溝(35)、あるいは平板が積層されることで形成される一定間隔の隙間(36)を伝い、紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)まで供給される。紡糸開始部位(16)まで供給された紡糸原液(13)は、繊維捕集体(18)と保持容器(14)に接続されているアース(19a)により形成された電界の作用を受けることで引き伸ばされ、紡糸原液(13)は細径化するとともに繊維化して、繊維捕集体(18)へと向かって飛翔する。紡糸原液(13)は飛翔中、更に細径化するとともに表面積が増大することで、溶媒が失われる、あるいは冷却されることで繊維化(11)し、繊維捕集体(18)に繊維(11)が堆積することで繊維集合体(12)が形成される。
【0061】
このとき紡糸方向は、紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)から繊維捕集体(18)へと向かう方向である。
【0062】
本発明では、紡糸原液供給部材(15)の形状や数などを、適宜、最適なものとすることができる。その例について、図3ならびに図4に沿って説明する。
【0063】
図3(a)(b)は紡糸原液供給部材(15)の紡糸方向における断面図を示したものである。図3(a)(b)に図示された紡糸原液供給部材(15)は、内部に細管(34)を有することで、紡糸原液(13)を紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)まで供給することができる。なお、該紡糸原液供給部材(15)において、紡糸原液(13)の表面よりも重力方向側の、いずれかの場所に該細管(34)が開口している部位を吸液部(32)とする。
【0064】
紡糸原液供給部材(15)における細管(34)の内径は、好適に紡糸が行えるよう適宜調整されるのが好ましい。また、紡糸開始部位(16)が紡糸原液(13)の表面から突出するように、該紡糸原液供給部材(15)の高さは適宜調節する。
【0065】
図3(a)の紡糸原液供給部材(15)は、細管(34)を内部に有したノズル形状をなしているとともに、紡糸時の転倒防止のために底板(31)を有している。また、底板(31)の保持容器(14)と面する側に吸液部(32)を設ける場合には、保持容器(14)によって、該吸液部(32)へと紡糸原液(13)が供給されるのを妨げられないように、底板(31)に突起(33)を設けるのが好ましい。
【0066】
図3(b)の紡糸原液供給部材(15)は、細管(34)を内部に有した柱形状をなしている。なお、該紡糸原液供給部材(15)は柱形状をなすことで、転倒が防止されている。また、保持容器(14)と面する側に吸液部(32)を設ける場合には、保持容器(14)によって、該吸液部(32)へと紡糸原液(13)が供給されるのを妨げられないように、保持容器(14)と面する側に、突起(33)を設けるのが好ましい。
【0067】
図3(a)(b)では、一本の細管(34)により形成されている紡糸開始部位(16)を、一つ有した、紡糸原液供給部材(15)を図示しているが、該細管(34)ならびに該紡糸開始部位(16)の数は限定されるものではない。細管(34)の存在する数を増やすとともに、紡糸原液供給部材(15)における紡糸開始部位(16)の数を増やすことで、本発明に係る繊維集合体の製造方法における紡糸部が増えるものとなり、繊維集合体(12)の生産性を向上することができる。紡糸原液供給部材(15)の、紡糸開始部位(16)同士の距離や配置は好適に紡糸が行えるように、適宜調節する。
【0068】
また、紡糸を行う際に使用する紡糸原液供給部材(15)の数もまた、限定されるものではない。紡糸セット(20)における紡糸原液供給部材(15)の数を増やすことで、本発明に係る繊維集合体の製造方法における紡糸部が増えるものとなり、繊維集合体(12)の生産性を向上することができる。紡糸原液供給部材(15)同士の距離や配置は好適に紡糸が行えるように、適宜調節する。
【0069】
図4(a)(b)は、本発明で使用することができる、別の紡糸原液供給部材の、紡糸方向における断面図である。
【0070】
図4(a)(b)に図示された紡糸原液供給部材(15)は、表面に形成されている溝(35)や、平板が積層されることで形成される、一定間隔の隙間(36)を有した形状であることによって、紡糸原液(13)を紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)まで供給することができる。なお、該紡糸原液供給部材(15)は、紡糸時の転倒防止のために底板(31)を有している。図4(a)(b)の該紡糸原液供給部材(15)において、底板(31)から最も遠い部位が紡糸開始部位(16)となる。
【0071】
図4(c)は、図4(a)の紡糸原液供給部材(15)を、紡糸方向を軸として90°回転させた図である。図4(c)のように紡糸原液供給部材(15)が、紡糸原液(13)を集中して紡糸開始部位(16)へと供給できる形状を有していると、効率的な紡糸ができ好ましい。なお、図4(b)を、紡糸方向を軸として90°回転させた場合も、図4(c)と同様であることができる。
【0072】
紡糸原液供給部材(15)の形状ならびに、紡糸原液(13)の表面から紡糸開始部位(16)までの長さは、好適に紡糸が行えるよう適宜調整されるのが好ましい。該紡糸原液供給部材(15)の長さは、紡糸開始部位(16)が紡糸原液(13)の表面から突出する長さとなるように、適宜調節する。
【0073】
図4(a)の紡糸原液供給部材(15)は、その表面に溝(35)を有している。該紡糸原液供給部材(15)における溝(35)の形状は、紡糸原液(13)が有する毛細管現象及び/又は表面張力の作用のみによって、紡糸原液(13)の表面から紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)まで、紡糸原液(13)を供給できるものであれば良く、限定するものではない。好適に紡糸が行えるよう適宜調整されるのが好ましい。
【0074】
図4(b)の紡糸原液供給部材(15)は、平板同士が一定間隔をなして複数枚積層されてなる形状である。該紡糸原液供給部材(15)の、平板が積層されることで形成される、一定間隔の隙間(36)の大きさは、紡糸原液(13)が有する毛細管現象及び/又は表面張力の作用のみによって、紡糸原液(13)の表面から紡糸原液供給部材(15)の紡糸開始部位(16)まで、紡糸原液(13)を供給できるものであれば良く、限定するものではない。好適に紡糸が行えるよう適宜調整されるのが好ましい。
【0075】
図4(a)または図4(b)では、一つの紡糸開始部位(16)を有する紡糸原液供給部材(15)を図示しているが、紡糸原液供給部材(15)が有する紡糸開始部位(16)の数は限定されるものではない。紡糸原液供給部材(15)が有する紡糸開始部位(16)の数を増やすことで、本発明に係る繊維集合体の製造方法における紡糸部が増えるものとなり、繊維集合体(12)の生産性を向上することができる。紡糸原液供給部材(15)の、紡糸開始部位(16)同士の距離や配置は好適に紡糸が行えるように、適宜調節する。
【0076】
また、紡糸を行う際に使用する紡糸原液供給部材(15)の数もまた、限定されるものではない。紡糸セット(20)における紡糸原液供給部材(15)の数を増やすことで、本発明に係る繊維集合体の製造方法における紡糸部が増えるものとなり、繊維集合体(12)の生産性を向上することができる。紡糸原液供給部材(15)同士の距離や配置は好適に紡糸が行えるように、適宜調節する。
【0077】
図5(a)および図5(b)は、本発明の別の繊維集合体の製造装置を繊維捕集体(18)側から見た模式的透視平面図である。この透視平面図においては、運動装置として働く、周回可能なエンドレス軌道に沿って移動する支持体(51)、紡糸セット(20)、繊維捕集体(18)を示している。なお、繊維捕集体(18)は最も手前側に存在することから、破線を用いて示している。
【0078】
図5(a)に係る製造装置の支持体(51)は、その周縁部に紡糸原液供給部材(15)を多数設けることができる、周回可能なエンドレス軌道に沿って移動するベルトコンベアであり、保持容器(14)中で該紡糸原液供給部材(15)をエンドレス軌道に沿って運動させる役割を担う。該支持体(51)が金属や炭素などの導電性材料からなるときには、支持体(51)に紡糸原液供給部材(15)を通して電圧が印加されないように、支持体(51)はアース(図5(a)では省略し図示せず)されていると共に、支持体(51)と紡糸原液供給部材(15)とは、絶縁体を介して接続されているのが好ましい。支持体(51)のアースと保持容器(14)のアース(19a)とは互いに接続されていても良い。
【0079】
また、図5(b)に係る別の製造装置のように、支持体(51)の周縁部に紡糸セット(20)を多数設け、該紡糸セット(20)をエンドレス軌道に沿って運動させながら、紡糸を行っても良い。
【0080】
支持体(51)上に設けられた、紡糸原液供給部材(15)あるいは紡糸セット(20)の数やその間隔、支持体(51)が周回移動する速度は、紡糸原液供給部材(15)から紡糸される繊維の量、製造する繊維集合体の目付、紡糸時の温湿度等により、適宜、調節されるべきものであるため限定するものではない。
【0081】
図5(a)(b)に示された繊維集合体の製造装置は、周回可能なエンドレス軌道に沿って移動する支持体(51)の、軌道の直線運動領域を繊維捕集体(18)の幅方向と一致させた状態で、前記支持体(51)を一定速度で周回させながら、紡糸を行うことができるという特徴がある。この特徴を有することで、支持体(51)に多数設けられた各紡糸原液供給部材(15)が紡糸を行いながら一定速度でエンドレス軌道を循環周回するので、幅の広い繊維集合体を得ることが可能となる。また、幅方向における繊維量が均一な繊維集合体を製造することができる。更には、繊維集合体を構成する繊維同士が交差した状態となり、様々な方向における機械的強度が均一な繊維集合体を製造することができる。
【0082】
本発明の繊維集合体の製造装置に係る、紡糸原液供給部材(15)の形状および紡糸時に使用されるその数、該紡糸原液供給部材(15)における紡糸開始部位(16)の数、紡糸セット(20)の数、運動装置の種類ならびに実施の形態、紡糸原液供給部材(15)が保持容器(14)と接した状態であるか否か、等は紡糸が好適に行えるよう、適宜、調節できるものであり、その実施形態は限定されるものではない。
【0083】
本発明の繊維集合体の製造装置に係る紡糸原液供給部材(15)は、本発明の繊維集合体の製造装置(例えば、保持容器(14)など)から、工具を使用することなく容易に着脱することが可能である。そのため、紡糸部となる紡糸原液供給部材(15)に流路詰まりや汚れが発生したとしても、該紡糸原液供給部材(15)の取り外しが容易であることから、長時間の極細繊維不織布の製造停止を招くことなく流路詰まりを解消することができる。
【0084】
上述の繊維集合体の製造装置を用いて紡糸を行うことで、生産性良く繊維集合体(12)を製造することができるとともに、長時間の極細繊維不織布の製造停止を招くことなく流路詰まりを解消することができる、繊維集合体の製造方法である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の製造装置は静電紡糸法による繊維集合体の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0086】
11・・・繊維化した紡糸原液
12・・・繊維集合体
13・・・紡糸原液
14・・・保持容器
15・・・紡糸原液供給部材
16・・・紡糸原液供給部材の紡糸開始部位
17・・・パワーサプライ
18・・・繊維捕集体
19a・・・保持容器のアース
19b・・・パワーサプライのアース
20・・・紡糸セット
31・・・底板
32・・・吸液部
33・・・底板の重力方向に設けられた突起
34・・・細管
35・・・溝
36・・・平板が積層されることで形成される、一定間隔の隙間
51・・・周回可能なエンドレス軌道に沿って運動する支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)紡糸原液を保持できる保持容器、(2)毛細管現象及び/又は紡糸原液の表面張力の作用のみを用いて、紡糸部へ紡糸原液を供給することのできる紡糸原液供給部材、(3)紡糸部へ供給された紡糸原液を引き伸ばして繊維化できる電界形成手段、(4)前記繊維化した繊維を集積させることで繊維集合体を形成できる捕集手段、とを備えている繊維集合体の製造装置であり、該紡糸原液供給部材を該製造装置から容易に着脱できることを特徴とする、繊維集合体の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維集合体の製造装置を用いて繊維集合体を製造する、繊維集合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−280993(P2010−280993A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132669(P2009−132669)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】