説明

織布の製造方法、織機及び織布

【課題】織布内で緯糸密度が織物の幅方向に徐々に変化した、立体形状、もしくは湾曲した経糸を持つ平面形状あるいはその両者の複合構造の織物を均整に製織する製造方法と織機と新規な織布の提供。
【解決手段】少なくとも一部の経糸につき、1ピック当たりの経糸の送り出し長を各経糸ごとに変え、製織後の織布20の各該経糸が位置する部分の1ピック当たりの引き取り長を1ピック当たりの該各経糸の送り出し長と略等しくし、周径が回転軸方向に変化する経糸巻き芯14に巻き取られた互いに平行でシート状に配列する経糸の群からなる整経ビームを用い、前記経糸巻き芯を回転させて経糸を送り出すことを特徴とする製織方法である。織機には、周径が回転軸方向に変化する経糸巻き芯を備える。特に、織布内で緯糸密度が織物の幅方向に徐々に変化するため、布面に凹凸の立体形状、もしくはその立体形状が平面に展開可能な形状にすることができ、新規な織物となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緯糸密度が織布の幅方向に徐々に変化する織布の製造方法、織機、及びその製造方法で得られた新規な織布に関する。
【背景技術】
【0002】
織布内で緯糸密度が織物の幅方向に変化した織物としてはサッカーが知られている。このようなサッカーは収縮特性や弾性回復率の異なる2種の糸が経糸に縞状に配置されるように製織したのち経糸を収縮あるいは弾性回復を発現させて得られる。(例えば、特許文献1、2参照)。あるいは、互いに異なる経糸張力のもとで製織したのち経糸を歪回復させて製造される。
【0003】
しかし、かかる方式では、緯糸密度が織布の幅方向にステップワイズに急峻に変化し、織物に不規則な波状の部分が縞状に発現するだけであり、滑らかな湾曲部を有する織物を得ることは極めて難しい。また、平面形状を保ちつつ、織布内で緯糸密度が織物の幅方向に変化した織物を得ることは困難である。加えて、収縮あるいは弾性回復した部分の糸の物性が収縮あるいは弾性回復しない部分と異なるので織物全体にわたって均等な糸からなる織布が得られない。
【0004】
さらに、織布内で緯糸密度が織物の幅方向に変化した織物としては1ピック当たりの織布の引き取り量を幅方向に沿って漸増させて得られる螺旋織物が知られている。(例えば、特許文献3,4,5参照))これらの文献においては、あくまでも織布を平面形状としてとらえているため、さらに複雑な緯糸密度の織物の幅方向への変化、言わば立体形状の織
物への発展が見込めなない。さらに、経糸の送り出しについては経糸1本ごとの消極送り出しが示唆されているが、その他の具体的な経糸の送り出し方法については詳述されていない。経糸1本ごとの消極送り出しは経糸1本ごとに所定の張力を与えて織布の引き取りにより経糸を引き出すものであり、多数の経糸に独立して均一な張力を付与することが実際上難しく、経糸の引き出し張力のばらつきによる織布の不均整が避けられない。
【特許文献1】特開平08−049737号公報
【特許文献2】特開平09−087969号公報
【特許文献3】特開2002−212854号公報
【特許文献4】特開平06−170958号公報
【特許文献5】特開平05−321071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、織布内で緯糸密度が織物の幅方向に徐々に変化した織物を均整に製織する製造方法を提供しようとすることである。
【0006】
本発明の目的は、織布内で緯糸密度が織物の幅方向に徐々に変化した織物を均整に製織する織機を提供しようとすることである。
【0007】
本発明の目的は、緯糸密度が織布の幅方向に徐々に変化する新規な織布を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨とするところは、整経された経糸群を開口させ、緯糸を打ち込んで織組織を形成する製織方法であって、 少なくとも一部の経糸につき、1ピック当たりの経糸の送り出し長を各経糸ごとに変え、製織後の織布の各該経糸が位置する部分の1ピック当たりの引き取り長を1ピック当たりの該各経糸の送り出し長と略等しくする製織方法であり、 周径が回転軸方向に変化する経糸巻き芯に巻き取られた互いに平行でシート状に配列する経糸の群からなる整経ビームを用い、前記経糸巻き芯を回転させて経糸を送り出すことを特徴とする製織方法であることにある。
【0009】
また、本発明の要旨とするところは、整経された経糸群を開口させ、緯糸を打ち込んで織組織を形成する製織方法であって、 少なくとも一部の経糸につき、1ピック当たりの経糸の送り出し長を各経糸ごとに変え、製織後の織布の各該経糸が位置する部分の1ピック当たりの引き取り長を1ピック当たりの該各経糸の送り出し長と略等しくする製織方法であり、周径が自身の回転軸方向に変化する送り出しロールと該送り出しロールの法線に沿って該送り出しロールと接触する送り出しニップロールとで、互いに平行でシート状に配列する経糸の群を把持して該送り出しロールの回転により経糸を送り出すことを特徴とする製織方法であることにある。
【0010】
またさらに、本発明の要旨とするところは、周径が自身の回転軸方向に変化する織布巻き芯に製織後の織布を巻き取って引き取ることを特徴とする前記製織方法であることにある。
【0011】
さらにまた、本発明の要旨とするところは、 周径が自身の回転軸方向に変化する引き取りロールと該引き取りロールの法線に沿って該引き取りロールと接触する引き取りニップロールとで、製織後の織布を把持して該引き取りロールの回転により該織布を引き取ることを特徴とする前記製織方法であることにある。
【0012】
また、本発明の要旨とするところは、経糸群の開口部に緯糸を打ち込んで織組織を形成する織機であって、少なくとも一部の経糸につき、1ピック当たりの経糸の送り出し長を各経糸ごとに変える経糸送り出し手段と、製織後の織布の各該経糸が位置する部分の1ピック当たりの引き取り長を1ピック当たりの該各経糸の送り出し長と略等しくした織布引き取り手段を備え、 前記経糸送り出し手段が、周径が自身の回転軸方向に変化する経糸巻き芯と該経糸巻き芯を該回転軸回りに回転させて経糸を巻き出して送り出す経糸巻き芯回転手段を備える織機であることにある。
【0013】
さらに、本発明の要旨とするところは、経糸群の開口部に緯糸を打ち込んで織組織を形成する織機であって、少なくとも一部の経糸につき、1ピック当たりの経糸の送り出し長を各経糸ごとに変える経糸送り出し手段と、製織後の織布の各該経糸が位置する部分の1ピック当たりの引き取り長を1ピック当たりの該各経糸の送り出し長と略等しくした織布引き取り手段を備え、前記経糸送り出し手段が、周径が自身の回転軸方向に変化する送り出しロールと該送り出しロールの法線に沿って該送り出しロールと接触し、該送り出しロールとで経糸群を把持する送り出しニップロールと、該送り出しロールを該回転軸回りに回転させて経糸を送り出す送り出しロール回転手段を備える織機であることにある。
【0014】
前記織機においては、前記経糸巻き芯または前記送り出しロールの周形状が円錐台の周形状であり得る。
【0015】
前記織機においては、前記織布引き取り手段が、周径が自身の回転軸方向に変化する織布巻き芯と該織布巻き芯を該回転軸回りに回転させて織布を巻き取って引き取る織布巻き芯回転手段を備え得る。
【0016】
前記織機においては、前記織布引き取り手段が、周径が自身の回転軸方向に変化する引き取りロールと該引き取りロールの法線に沿って該引き取りロールと接触し、該引き取りロールとで織布を把持する引き取りニップロールと、該引き取りロールを該回転軸回りに回転させて織布を引き取る引き取りロール回転手段を備え得る。
【0017】
前記織機においては、前記織布巻き芯または前記引き取りロールの周形状が円錐台の周形状であり得る。
【0018】
前記織機においては、前記経糸巻き芯または前記送り出しロールの周形状と前記織布巻き芯または前記引き取りロールの周形状が略同じとされ得る。
【0019】
前記織機においては、前記経糸巻き芯または前記送り出しロールの周径の、回転軸方向のプロファイルが変更可能とされ得る。
【0020】
また、本発明の要旨とするところは、整経された経糸群を開口させ、緯糸を打ち込んで織組織を形成し、少なくとも一部の経糸につき、1ピック当たりの経糸の送り出し長を各経糸ごとに変え、製織後の織布の各該経糸が位置する部分の1ピック当たりの引き取り長を1ピック当たりの該各経糸の送り出し長と略等しくさせる製織方法で得られ、幅方向に緯糸密度が極値をもって変化する織布であることにある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、織布内で緯糸密度が織物の幅方向に徐々に変化した織物を均整に製織する製造方法が提供される。
【0022】
本発明によると、織布内で緯糸密度が織物の幅方向に徐々に変化した織物を均整に製織する織機が提供される。
【0023】
本発明によると、緯糸密度が織布の幅方向に徐々に変化し、凸部もしくは凹部あるいはその両方を含む立体形状、もしくはその立体形状が平面に展開可能な形状であれば、湾曲する経糸を持つ平面形状、あるいはその両者の複合形状の新規な織布が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の織布はその製造方法を説明することにより明らかになる。なお、本明細書においては、各図にわたって記される同じ符号は同一又は同様の部材やものを示す。図1に示すように、本発明の織布の製造に用いる織機2は、経糸送り出し部4、経糸開口部6、緯糸5を打ち込む緯入れ部8、筬打ち部10、織布引き取り部12を備える。経糸開口部6、緯入れ部8、筬打ち部10は従来の織機と同様の機構を有する。
【0025】
本発明の態様の代表例のひとつにあっては、経糸送り出し部4は、円錐台の周形状を有する経糸巻き芯14を備える。経糸巻き芯14には互いに平行な多数の経糸が全体としてシート状に配列してなる経糸群が、糸の長手方向を経糸巻き芯14の周方向に略一致させて整経されて巻かれている。経糸巻き芯14から経糸巻き芯14の回転軸15回りの回転により巻き出された経糸群16が経糸開口部6を経て緯入れ部8、筬打ち部10の作用により織組織が形成されて、織布20となり織布引き取り部12に導入される。回転軸15は円錐台の軸芯と同じとされている。
【0026】
整経された経糸巻き芯14からの、巻き芯14の回転角当たりの経糸の繰り出し長さの回転軸方向のプロファイルが、経糸の巻層の変化により変わってくるので、巻き芯14の径は大きいほうが長い織物を製造できて好ましい。
【0027】
織布引き取り部12は円錐台の周形状を有する織布巻き芯18を備える。織布20は織布巻き芯18の回転軸17回りの回転により織布巻き芯18に巻き取られる。回転軸17は円錐台の軸芯と同じとされている。織布巻き芯18は、回転軸17が回転軸15と略平衡になるように配置させる。回転軸17が回転軸15と所定の角度をなすように配置されてもよい。また、経糸巻き芯14の細径側の先端19と、織布巻き芯18の細径側の先端21とを結ぶ仮想線23が、織機の前後方向と略平行になっている。
【0028】
経糸巻き芯14と織布巻き芯18の周形状が略同じであることにより、各経糸の1ピック当たりの送り出し長さを、製織後の織布中の当該の経糸の引き取り長さに略合致させることができる。くわしくは、経糸巻き芯14と織布巻き芯18とで円錐台のテーパー角度が異なる場合も含め、経糸巻き芯14の単位回転角度あたりの経糸の送り出し長さの、経糸巻き芯14の回転軸方向のプロファイルと、織布を構成する経糸の織布巻き芯18への回転角当たりの巻き取り長さの回転軸方向のプロファイルとが経糸の曲がり等を補正したうえでほぼ合致するように経糸巻き芯14と織布巻き芯18とをそれぞれ回転させることにより、各経糸の1ピック当たりの送り出し長さを、製織後の織布中の当該の経糸の引き取り長さに略合致させることができる。
【0029】
織布を構成する経糸の織布巻き芯18への回転角当たりの巻き取り長さの回転軸方向のプロファイルが、織布の巻層の変化により変わってくるので、織布巻き芯18の径は大きいほうが長い織物を製造できて好ましい。
【0030】
経糸巻き芯14は表面が回転軸方向に勾配を有するので、回転軸方向に勾配を有する経糸巻き芯14への整経は、整織に要する経糸本数と同じ本数に糸を分割し、各々テンション装置を介し、適度な張りを与えながら、織筬を経て経糸巻き芯に直接巻き取る。このようにすることで、特殊な形状の経糸巻き芯に合った、それぞれに複雑に延長の異なる経糸を適切に巻取ることが可能となる。また、この時に、糸との摩擦係数の高い機草を使用することが、整経時や整織のための巻き出し時の糸の横ずれを防止するうえで好ましく、摩擦係数の高い機草としてはサンドペーパー状の表面を有する紙やゴム質などの滑りにくいフィルムが例示される。
【0031】
あるいは、整経時や整織のための巻き出し時の糸の横ずれを防止するために、経糸巻き芯14の表面に多数のピンもしくは、昔の脱殼機のドラム表面に見られるようなU字ループ形状の針金を立設させておくことで、整経時や整織のための巻き出し時の糸の横ずれを防止することが可能となる。また、ピンなどを立設させた経糸巻き芯を使用する場合には、整経時に、経糸が厚みを持った際に生じる崩れを防止することが出来るため、部分整経機のドラムを介さず、勾配を有する経糸巻き芯(勾配を有する整経ビーム)へ、それぞれに複雑に延長の異なる経糸を直接部分整形することが可能となり、経糸本数と同じ本数に糸を分割しての整経に比べ、経糸本数の多い織物への対応も容易となる。
【0032】
織布巻き芯18も表面が回転軸方向に勾配を有するので、織布巻き芯18の表面には多数の尖ったピンを立設させておくか、もしくは、摩擦係数の高い機草を必要に応じて挟み込みながら巻取ることが織布巻き取り時の織布の横ずれを防止するうえで好ましい。
【0033】
かかる構成により、1ピック当たりの経糸の送り出し長を経糸ごとに変えることができ、織布20の一の耳から他の耳に至る緯糸密度が漸増した螺旋織物構造を得ることができる。また、かかる構成により、全ての経糸について製織後の織布の各経糸が位置する部分の1ピック当たりの引き取り長を1ピック当たりの該各経糸の送り出し長と確実に製織による経糸の曲がり等を補正した値で略等しくすることができ、均整な織構造の織布が得られる。この経糸の1ピック当たりの送り出し長と引き取り長との関係は経糸張力による伸長後の伸長回復特性や経糸や緯糸の織物構造中での圧縮特性の影響もあり厳密に事前に設定できない要素があるので、安定した製織条件は製織の状態をみて経糸巻き芯14や織布巻き芯18の形状寸法や回転速度などの±数%以内の微調整で得ることとなる場合がある。
【0034】
織布巻き芯18は積極的に回転させるが、経糸巻き芯14は積極に回転させても、経糸張力により消極的に回転させてもよい。すなわち、織機2は経糸開口部6、緯入れ部8、筬打ち部10は従来の織機の機構や装置をそのまま使用可能である。経糸送り出し部4についても、経糸巻き芯14を除いては従来の整経ドラムの回転制御機構をそのまま使用可能である。織布引き取り部12についても、織布巻き芯18を除いては従来の織布巻き取り用ドラムの回転制御機構をそのまま使用可能である。このように、織機2は従来の織機の簡単な改造(ドラムの取り換え)により製作が可能であり、本発明は手芸用あるいは工芸用の手機や力織機などに好適に適用することができる。また、樹脂と織物からなる複合材用の織物の製造にも好適に適用することができる。
【0035】
本発明の他の態様にあっては、図2に示す織機2aのように、経糸送り出し部4aが、円錐台の周形状を有する送り出しロール22と、送り出しロール22の法線に沿って送り出しロール22と接触する送り出しニップロール24とを備える。不図示の経糸クリールから経糸群を繰り出して送り出しロール22と送り出しニップロール24とでニップさせて、送り出しロール22の回転により経糸開口部6に送り出す。送り出しニップロール24は送り出しロール22の回転により連れ回りする。送り出しニップロール24は積極に回転させても、織布の引き取りにより生じた経糸張力により消極的に回転させてもよい。また、送り出しニップロール24の表面部分は弾性体からなることが好ましい。また、経糸との摩擦係数が低いことが好ましい。あるいは送り出しロール22と送り出しニップロール24とのいずれか一方が鮫ロールのように経糸との摩擦係数の高い材質のものであり、他方が経糸との摩擦係数が低いことが好ましい。
【0036】
図2に示す態様にあっては、織布引き取りに図1に示す織機2の織布引き取り部12と同様のものが用いられる。この場合、織布巻き芯18と送り出しロール22のそれぞれの周形状は製織による経糸の曲がり等を補正すれば略同一であることが好ましい。送り出しロール22と織布巻き芯18とで円錐台のテーパー角度が異なる場合は送り出しロール22の単位回転角度あたりの経糸の送り出し長さの、送り出しロール22の回転軸方向のプロファイルと、織布を構成する経糸の織布巻き芯18への回転角当たりの巻き取り長さの回転軸方向のプロファイルとが経糸の曲がり等を補正したうえでほぼ合致するように送り出しロール22と織布巻き芯18とをそれぞれ回転させることが必要である。
【0037】
本発明のさらに他の態様にあっては、図3に示す織機2bのように、経糸送り出しに図1に示す経糸送り出し部4が用いられ、織布引き取り部12bが、円錐台の周形状を有する引き取りロール32と、引き取りロール32の法線に沿って引き取りロール32と接触する引き取りニップロール34とを備える。織布を引き取りロール32と引き取りニップロール34とでニップさせて、引き取りロール32の回転により送り出す。引き取りニップロール34は引き取りロール32の回転により連れ回りする。引き取りニップロール34の表面部分は弾性体からなることが好ましい。また、織布との摩擦係数が低いことが好ましい。あるいは引き取りロール32と引き取りニップロール34とのいずれか一方が鮫ロールのように織布との摩擦係数の高い材質のものであり、他方が織布との摩擦係数が低いことが好ましい。
【0038】
本発明のまたさらに他の態様にあっては、図4に示す織機2cのように、経糸送り出しに図2に示す経糸送り出し部4aが用いられ、織布引き取りに図3に示す織布引き取り部12bが用いられてもよい。
【0039】
図2、図3、図4に示す態様においても経糸送り出しに用いる経糸巻き芯14あるいは送り出しロール22(以下送りロールとも称する)の周形状と、織布引き取りに用いる織布巻き芯18あるいは引き取りロール32(以下テークロールとも称する)の周形状が略同じであることが好ましい。送りロールと、テークロールとで円錐台のテーパー角度が異なる場合も含め、送りロールの単位回転角度あたりの経糸の送り出し長さの、送りロールの回転軸方向のプロファイルと、織布を構成する経糸のテークロールへの回転角当たりの巻き取り長さの回転軸方向のプロファイルとが経緯交差という織り組織による経糸の曲がり等を補正したうえでほぼ合致するように送りロールと、テークロールとをそれぞれ回転させることにより、各経糸の1ピック当たりの送り出し長さを、製織後の織布中の当該の経糸の引き取り長さに略合致させることができる。
【0040】
くわしくは、送りロールの経糸が通過あるいは巻かれる部分の一端(p)を基準として軸方向への距離をxとし一端(p)からx離れた位置における送りロールの半径をr(x)とし、1ピック当たりの送りロールの回転角度をαsとし、送りロールの経糸が通過あるいは巻かれる部分の一端(p)に対応する、テークロールの織布が通過あるいは巻かれる部分の一端(q)を基準として軸方向への距離をxとし、一端(q)からx離れた位置におけるテークロールの半径をrr(x)とし、1ピック当たりのテークロールの回転角度をαtとし、経糸の平均織縮み率をzとしたとき、全てのxにつきαs・r(x)=αt・rr(x)・zであることが好ましい。zは製織前の経糸の長さをlとし、その経糸が織り込まれた部分の織布の長さをlwとしたときの、z=lw/lで表わされる値の織布の幅方向の平均値である。
【0041】
本発明においては、送りロールとテークロールの周形状が円錐台形であると織布の長手方向全体にわたって緯糸密度が織布の1の耳部から他の耳部の方向に漸増するいわゆる螺旋織物が得られるが、送りロールとテークロールの周形状は円錐台形のほかに各種の形状であってよい。送りロールとテークロールの周形状に対応して各種形状の織布を得ることができる。送りロールとテークロールの周形状が円錐台形でない場合、送りロールとして経糸巻き芯14を用い、テークロールとして織布巻き芯18を用いるときには両者の周形状は略同一であることが織布を歪なく巻き取るうえで好ましい。
【0042】
送りロールとテークロールの周形状と、その周形状で得られる織布の形状を図5に示す。図5(a)は周径が軸方向中央部で太くなった円筒形の送りロールとテークロールの縦断面形状を示す。図5(aa)は図5(a)に示す形状の送りロールとテークロールを用いて得られる織布40aの斜視模式図である。織布40aは長手方向に直交の断面形状が送りロールとテークロールの一端部から他端部に至る法線の形状と略合致していて、長手方向には全体として湾曲している。周径が軸方向中央部で太くなった部分から送りだされた経糸に対応する部分の織布の形状は、長手方向に直交の断面形状が円弧などの弧状であり、全体として弧の内側に向けて湾曲している。すなわち、装着前のタイヤの形状に類似の形状である。
【0043】
図5(b)は周径が軸方向中央部で太くなった部分を複数個有する円筒形の送りロールとテークロールの縦断面形状を示す。得られる織布は長手方向に直交の断面形状が送りロールとテークロールの一端部から他端部に至る法線の形状と略合致していて、長手方向には全体として湾曲している。周径が軸方向中央部で太くなった部分から送りだされた経糸に対応する部分の織布の形状は、長手方向に直交の断面形状が円弧などの弧状であり、全体として弧の内側に向けて湾曲している。
【0044】
図5(c)は周径が軸方向中央部でソロバン玉状に太くなった部分を有し軸方向と直交の外断面形状が円形の送りロールとテークロールの縦断面形状を示す。図5(cc)は得られる織布40cの斜視模式図である。織布40cは長手方向に直交の断面形状が送りロールとテークロールの一端部から他端部に至る法線の形状と略合致していてくの字形であり、長手方向には全体として湾曲していて、外観はソロバン玉状である。図5において1点鎖線は送りロールまたはテークロールの回転軸の方向を示す。
【0045】
図5(aa)、図5(cc)に示す織布は織布の幅方向にたどって緯糸密度が漸減し極小値を有し、極小値を有する部分70をこえると漸増する。
【0046】
図5(d)に示す送りロールとテークロールは軸方向中間部で周径が極小になる回転体の形状を有する。この送りロールとテークロールを用いて得られる織布は織布の幅方向にたどって緯糸密度が漸増し極大値を有し、極大値を有する部分をこえると漸減する。
【0047】
このように、本発明においては、織布の幅方向にたどって緯糸密度が極値(極小値または極大値)を有する新規な織布を得ることができる。すなわち、幅方向に緯糸密度が極値をもって変化する織布を得ることができる。この織物中の経糸には、部分的に伸長や収縮した部分がないので均整である。また、ポリウレタン繊維のようなゴム状弾性を有する弾性糸を用いる必要がない。この織布はガラス繊維や炭素繊維やアラミド繊維のような高弾性繊維を用いた曲板部を有する複合材の素材として好適に用いられる。また、天然繊維やポリエステル、アクリル、ポリアミド繊維等の合成繊維によるファッション衣料等の衣料の曲面部の新しい表現用の素材として好適に用いられる。
【0048】
さらに、螺旋織物に限らず本発明により得られる織布は緯糸密度を経糸の方向に漸増あるいは漸減させているので、縞、格子などの、織組織により生成させた柄を末広がりあるいは中央部分ですぼんだ瓢箪形、あるいは中央部分でふくらんだ形に変形させることができる。これにより、多くの既存の柄出しの技法に応用が可能で、柄を目新しく異なったものに変化させる事が出来て、新しい柄表現用の素材として好適に用いられる。
【0049】
本発明においては、送りロールとテークロールの形状は回転体形状である必要はなく、整経可能であれば任意の形状の経糸巻き芯14と、その経糸巻き芯14と略同形の織布巻き芯18とを組み合わせて用いることができる。これにより、経糸巻き芯14の形状に対応して各種形状の織布を得ることができる。
【0050】
さらに、本発明においては、経糸巻き芯14と織布巻き芯18とを形状変更可能とすることにより、1種類の経糸巻き芯14と織布巻き芯18とで多種類の織布を製造することができる。図6に形状変更可能な巻き芯、(経糸巻き芯と織布巻き芯)の一例を示す。図6において、巻き芯50は、軸シャフト52と、固定リング54と、摺動リング56を備える。固定リング52は軸シャフト52に嵌合されて軸シャフト52の一端部に固定されている。摺動リング56は軸シャフト52に摺動可能に挿入されている。また、巻き芯50は複数本の棒状部材60を備え、棒状部材60の一端部が固定リング52に周を一巡する状態に配されて、棒状部材60の一端部それぞれが固定リング52に第一軸着部62を介して軸着している。この軸着で棒状部材60は軸着部62のまわりに固定リング52を根元とする放射状に配される。すなわち、棒状部材60は傘の骨のように開閉可能となる。
【0051】
さらに、各棒状部材60に一端部から一定の距離を置く長手方向中間部にリンク用棒64の一端が第2軸着部65を介し軸着し、リンク用棒64の他端が摺動リング56に第3軸着部63を介し軸着している。リンク用棒64は軸シャフト52と、自身が軸着するリンク用棒64との張る平面上で搖動可能とされる状態に摺動リング56に軸着している。リンク用棒64は摺動リング56に周を一巡する状態に配される。かかる傘と同様の構成により摺動リング56の軸シャフト52に沿う移動により、軸シャフト52と各棒状部材60との成す角度γを変えることができる。棒状部材60全体としては、経糸や織布の巻き取りに関して円錐台の周面と同様の機能を果たすことができるので、摺動リング56の移動で角度γを変えることにより円錐台のテーパー角度を変えたと同じ効果を得る。摺動リング56は軸シャフト52に対して仮固定されるための例えば止めねじのような不図示の仮固定手段を備える。
【0052】
その他、本発明は、主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の織機の態様の一例を示す図であり、図1(a)は側面模式図、図1(b)は上面模式図、図1(c)は経糸送り出し部の要部斜視図、図1(d)は織布引き取り部の要部斜視図である。
【図2】本発明の織機の態様の他の一例を示す図であり、図1(a)は側面模式図、図1(b)は上面模式図、図1(c)は経糸送り出し部の要部斜視図、図1(d)は織布引き取り部の要部斜視図である。
【図3】本発明の織機の態様のさらに他の一例を示す図であり、図1(a)は側面模式図、図1(b)は上面模式図、図1(c)は経糸送り出し部の要部斜視図、図1(d)は織布引き取り部の要部斜視図である。
【図4】本発明の織機の態様のまたさらに他の一例を示す側面模式図である。本発明の吸音タイルの態様の一例を示す斜視図である。
【図5】本発明に用いられる送りロールとテークロールの周形状の例を示す縦断面模式図と得られた織布の形状を示す。斜視模式図である。
【図6】本発明に用いられる送りロールとテークロールの態様の一例を示す構造模式図である。
【符号の説明】
【0054】
2、2a、2b、2c:織機
44a:経糸送り出し部
6:経糸開口部
5:緯糸
8:緯入れ部
10:筬打ち部
12、12b:織布引き取り部
14:経糸巻き芯
15、17:回転軸
16:経糸群
18:織布巻き芯
20:織布
22:送り出しロール
24:送り出しニップロール
32:引き取りロール
34:引き取りニップロール
40a、40c:織布
50:巻き芯
52:軸シャフト
54:固定リング
56:摺動リング
60:棒状部材
62:第一軸着部
63:第3軸着部
64:リンク用棒
65:第2軸着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
整経された経糸群を開口させ、緯糸を打ち込んで織組織を形成する製織方法であって、 少なくとも一部の経糸につき、1ピック当たりの経糸の送り出し長を各経糸ごとに変え、製織後の織布の各該経糸が位置する部分の1ピック当たりの引き取り長を1ピック当たりの該各経糸の送り出し長と略等しくする製織方法であり、 周径が回転軸方向に変化する経糸巻き芯に巻き取られた互いに平行でシート状に配列する経糸の群からなる整経ビームを用い、前記経糸巻き芯を回転させて経糸を送り出すことを特徴とする製織方法。
【請求項2】
整経された経糸群を開口させ、緯糸を打ち込んで織組織を形成する製織方法であって、 少なくとも一部の経糸につき、1ピック当たりの経糸の送り出し長を各経糸ごとに変え、製織後の織布の各該経糸が位置する部分の1ピック当たりの引き取り長を1ピック当たりの該各経糸の送り出し長と略等しくする製織方法であり、周径が自身の回転軸方向に変化する送り出しロールと該送り出しロールの法線に沿って該送り出しロールと接触する送り出しニップロールとで、互いに平行でシート状に配列する経糸の群を把持して該送り出しロールの回転により経糸を送り出すことを特徴とする製織方法。
【請求項3】
周径が自身の回転軸方向に変化する織布巻き芯に製織後の織布を巻き取って引き取ることを特徴とする請求項1または2に記載の製織方法。
【請求項4】
周径が自身の回転軸方向に変化する引き取りロールと該引き取りロールの法線に沿って該引き取りロールと接触する引き取りニップロールとで、製織後の織布を把持して該引き取りロールの回転により該織布を引き取ることを特徴とする請求項1または2に記載の製織方法。
【請求項5】
経糸群の開口部に緯糸を打ち込んで織組織を形成する織機であって、少なくとも一部の経糸につき、1ピック当たりの経糸の送り出し長を各経糸ごとに変える経糸送り出し手段と、製織後の織布の各該経糸が位置する部分の1ピック当たりの引き取り長を1ピック当たりの該各経糸の送り出し長と略等しくした織布引き取り手段を備え、 前記経糸送り出し手段が、周径が自身の回転軸方向に変化する経糸巻き芯と該経糸巻き芯を該回転軸回りに回転させて経糸を送り出す経糸巻き芯回転手段を備える織機。
【請求項6】
経糸群の開口部に緯糸を打ち込んで織組織を形成する織機であって、少なくとも一部の経糸につき、1ピック当たりの経糸の送り出し長を各経糸ごとに変える経糸送り出し手段と、製織後の織布の各該経糸が位置する部分の1ピック当たりの引き取り長を1ピック当たりの該各経糸の送り出し長と略等しくした織布引き取り手段を備え、前記経糸送り出し手段が、周径が自身の回転軸方向に変化する送り出しロールと該送り出しロールの法線に沿って該送り出しロールと接触し、該送り出しロールとで経糸群を把持する送り出しニップロールと、該送り出しロールを該回転軸回りに回転させて経糸を送り出す送り出しロール回転手段を備える織機。
【請求項7】
前記経糸巻き芯または前記送り出しロールの周形状が円錐台の周形状である請求項5または6記載の織機。
【請求項8】
前記織布引き取り手段が、周径が自身の回転軸方向に変化する織布巻き芯と該織布巻き芯を該回転軸回りに回転させて織布を巻き取って引き取る織布巻き芯回転手段を備える請求項5から7のいずれかに記載の織機。
【請求項9】
前記織布引き取り手段が、周径が自身の回転軸方向に変化する引き取りロールと該引き取りロールの法線に沿って該引き取りロールと接触し、該引き取りロールとで織布を把持する引き取りニップロールと、該引き取りロールを該回転軸回りに回転させて織布を引き取る引き取りロール回転手段を備える請求項5から7のいずれかに記載の織機。
【請求項10】
前記織布巻き芯または前記引き取りロールの周形状が円錐台の周形状である請求項8または9に記載の織機。
【請求項11】
前記経糸巻き芯または前記送り出しロールの周形状と前記織布巻き芯または前記引き取りロールの周形状が略同じとされた請求項8から10いずれかに記載の織機。
【請求項12】
前記経糸巻き芯または前記送り出しロールの周径の、回転軸方向のプロファイルが変更可能とされた請求項5から11のいずれかに記載の織機。
【請求項13】
整経された経糸群を開口させ、緯糸を打ち込んで織組織を形成し、少なくとも一部の経糸につき、1ピック当たりの経糸の送り出し長を各経糸ごとに変え、製織後の織布の各該経糸が位置する部分の1ピック当たりの引き取り長を1ピック当たりの該各経糸の送り出し長と略等しくさせる製織方法で得られ、幅方向に緯糸密度が極値をもって変化する織布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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