説明

織機における経糸ビームの巻径検出方法

【課題】経糸ビームの実際の巻径に対応した巻径が得られる経糸ビームの巻径検出方法を提供する。
【解決手段】送出しモータ及び巻取りモータが一定時間T0だけ正転駆動される。低速で時間T1だけ回転された後、時点H1で高速回転に切り替えられる。時間T2後の時点H2及び時間T3後の時点H3で経糸張力を検出し、経糸張力の差から経糸張力変化量WT1が演算される。経糸張力変化量WT1が許容範囲にないと、経糸張力変化量WT1に基づく補正量を1回目の正転駆動時の巻径に加算し、新たな巻径を演算し、記憶する。以下同様にして経糸張力変化量が許容範囲になるまで逆転及び正転駆動を繰り返し、経糸張力変化量WT2、WT3、WT4を検出する。4回目の逆転駆動時の経糸張力変化量WT4が許容範囲になると、送出しモータ及び巻取りモータの駆動指令は停止され、4回目の逆転駆動時の演算巻径を製織運転時の経糸ビーム4の巻径として設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、織機における経糸ビームの巻径検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
織機においては、予め設定された経糸張力を維持するために、経糸ビームの巻径に対応した送出しモータの回転数を演算し、演算された回転数で経糸の送出しを行なっている。経糸ビームは機仕掛けにより新しい経糸ビームがセットされた時及び織機の製織運転により経糸が順次消費される時、巻径が変化する。このため、経糸ビームの巻径は機械的に検出することが困難となり、現実には代替手段を用いて演算により巻径を求める方法が多い。
【0003】
例えば、特許文献1は次のような方法により経糸ビームの巻径を検出している。特許文献1には、パイル経糸ビームの巻径の検出例と地経糸ビームの巻径の検出例とが開示されているが、思想は同じであるので、メインの例として開示されたパイル経糸ビームの巻径の検出について説明する。
【0004】
織機の製織運転中、パイル経糸ビームは送出しモータにより回転駆動される。前記パイル経糸ビームの下流に配置された転向ローラはパイル経糸の送出しに伴って回転する。前記転向ローラの回転に伴う被検出要素の周回軌跡の近傍に近接スイッチが配設されている。前記近接スイッチは前記被検出要素の周回軌跡上に検出領域を持つ。前記近接スイッチは前記被検出要素と対向すると、送出し制御装置にON信号を出力する。前記送出し制御装置は前記近接スイッチの検出信号に基づいて前記パイル経糸ビームの巻径を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−60753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、織機の製織運転により経糸が消費され、変化する経糸ビームの巻径を転向ローラの回転量の検出信号に基づき演算する方法を開示している。このような演算により巻径を求める方法では、織機を一定時間以上運転する必要がある。このため、特許文献1の方法では、機仕掛けによりセットされた新しい経糸ビームの巻径を織機の起動前に検出することはできない。一般的に、新しい経糸ビームがセットされた場合は、作業者が新しい経糸ビームの巻径を初期値として制御装置に手入力する方法が行なわれる。
【0007】
しかし、手入力では、入力ミスにより実際の巻径と異なる値を設定したり、入力忘れを生じる場合がある。なお、入力忘れの場合は、通常、制御装置に設定されている交換前の経糸ビームの巻径が使用される。また、新しい経糸ビームの巻径が製織仕様通りの値で入力された場合でも、実際の巻径が何らかの原因で製織仕様の数値と異なるケースも存在する。
【0008】
いずれにしても、機仕掛け後の織機の起動に際して、送出しモータの回転数は実際の経糸ビームの巻径と異なる巻径に基づいて演算される。このため、織機の起動後に、経糸張力が異常な高張力あるいは低張力となり、製織運転が不能となる恐れがある。
【0009】
本願発明は経糸ビームの実際の巻径に対応した巻径が得られる経糸ビームの巻径検出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の本願発明は、経糸ビームを独立して回転する送出しモータ、織布巻取りビームを独立して回転する巻取りモータ及び前記送出しモータと前記巻取りモータの回転を制御する制御装置を備えた織機において、前記織機の起動前に前記送出しモータ及び前記巻取りモータを駆動し、前記駆動時間内に時間間隔を開けて経糸張力を検出し、検出した経糸張力から経糸張力変化量を演算し、前記経糸張力変化量に基づいて前記経糸ビームの巻径を演算することを特徴とする。
【0011】
請求項1に記載の本願発明によれば、経糸の移動と移動中の経糸張力の検出及び経糸張力変化量を演算により求めるという簡単な方法により、経糸ビームの巻径を正確に検出することができ、織機の起動後における経糸送出しモータの回転を実際の経糸ビームの巻径に適合させて、異常張力発生を確実に防止することができる。
【0012】
請求項2に記載の本願発明は、前記送出しモータ及び前記巻取りモータは駆動を複数回繰り返し、前記駆動毎に前記経糸張力の検出と経糸張力変化量の演算及び経糸ビームの巻径の演算を行い、前記演算された経糸ビームの巻径に基づいて前記送出しモータ及び前記巻取りモータの回転数を補正し、前記補正された回転数により次回の前記駆動を行うことを特徴とするため、駆動を繰り返す毎に経糸張力変化量が減少し、速やかに正確な巻径を求めることができる。
【0013】
請求項3に記載の本願発明は、前記送出しモータ及び前記巻取りモータは正転駆動及び逆転駆動を交互に繰り返し、前記正転駆動及び逆転駆動毎に前記経糸張力の検出と経糸張力変化量の演算及び経糸ビームの巻径の演算を行うことを特徴とするため、経糸を一方向にのみ移動させる場合に比し、織機のテンプル等による経糸の損傷を防止することができる。
【0014】
請求項4に記載の本願発明は、前記送出しモータ及び前記巻取りモータは前記経糸張力変化量が予め設定された許容範囲に達するまで駆動されることを特徴とするため、前記送出しモータ及び前記巻取りモータの駆動を不要に繰り返すことがない。
【0015】
請求項5に記載の本願発明は、前記制御装置は経糸ビームの巻径と経糸張力変化量との関係線図を予め記憶し、前記演算された経糸張力変化量と前記関係線図に基づいて前記経糸ビームの巻径を演算することを特徴とするため、経糸ビームの巻径演算を容易に行うことができる。
【0016】
請求項6に記載の本願発明は、前記経糸ビームの巻径の演算は経糸ビームの交換後に行うことを特徴とするため、交換後の経糸ビームの巻径を簡単に検出することができるので、経糸ビームの巻径入力が不要となり、入力ミスや入力忘れによる織機起動後の異常張力発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本願発明は、経糸ビームの実際の巻径に対応した正確な巻径を演算により簡単に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態を示す織機の概略図である。
【図2】経糸ビームの演算巻径と経糸張力変化量との関係を示す線図である。
【図3】送出しモータ、巻取りモータ及び経糸張力のタイミングチャートである。
【図4】第2の実施形態を示す送出しモータ、巻取りモータ及び経糸張力のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
第1の実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。図1において、織機駆動モータ1は織機の制御装置2により制御される。織機駆動モータ1から独立した正逆回転可能な経糸の送出しモータ3は経糸ビーム4を駆動し、経糸4aを送出す。経糸4aはバックローラ5及びテンションローラ6を経由して綜絖7及び筬8に通される。緯糸(図示せず)が経糸4aの間に緯入れされ、製織された織布13aは、エキスパンションバー9、サーフェスローラ10、プレスローラ11及びしわ取りガイド12を経由して織布巻取りビーム13に巻取られる。織布巻取りビーム13及びサーフェスローラ10は、織機駆動モータ1から独立した正逆回転可能な専用の巻取りモータ14によって駆動される。
【0020】
テンションローラ6は、テンションレバー15の一端部に取り付けられ、テンションレバー15の他端アーム16に取り付けられた引張りばね17の付勢力により経糸4aに張力を付与する。テンションレバー15は、検出レバー18の一端側のアーム19に回転可能に支持されている。検出レバー18の他端にはロードセル20が連結されている。経糸張力は、テンションローラ6、テンションレバー15及び検出レバー18を介してロードセル20に伝達される。ロードセル20は経糸張力に応じた電気信号を制御装置2に出力する。従って、テンションローラ6、テンションレバー15、検出レバー18及びロードセル20は経糸張力検出装置を構成する。
【0021】
ファンクションパネル21には、織物種類及び各織物に対応した経糸張力を含む製織条件を入力する入力スイッチ22、起動スイッチ23、正転インチングスイッチ24、逆転インチングスイッチ25、停止スイッチ26、送出しモータ3の駆動スイッチ27及び巻取りモータ14の駆動スイッチ28が配設され、それぞれ制御装置2に電気的に接続されている。また、制御装置2には織機駆動モータ1の駆動系に配設された織機回転角度検出用のロータリエンコーダ29、送出しモータ3の回転軸に配設されたモータ回転角度検出用のレゾルバ30及び巻取りモータ14の回転軸に配設されたモータ回転角度検出用のレゾルバ31がそれぞれ電気的に接続されている。
【0022】
なお、第1の実施形態は、1つの制御装置2によって織機駆動モータ1、送出しモータ3、巻取りモータ14及び経糸開口装置等を制御する構成であるが、それぞれに専用の制御装置を備え、各制御装置を制御装置2と接続し、制御装置2にホストとしての機能を持たせた制御システムで構成することも可能である。
【0023】
制御装置2は織機駆動モータ1、送出しモータ3及び巻取りモータ14へ駆動信号を出力し、織機を運転させることができる。制御装置2には、織機の稼動運転中、ロータリエンコーダ29から出力される織機回転角度検出信号、ロードセル20から出力される経糸張力の検出信号、送出しモータ3のレゾルバ30及び巻取りモータ14のレゾルバ31から出力されるモータ回転角度検出信号が入力される。制御装置2はロードセル20の検出信号に基づき、経糸張力が制御装置2に予め設定されている運転時目標経糸張力と一致するように送出しモータ3及び巻取りモータ14に駆動信号を出力する。
【0024】
一方、制御装置2は図示しない演算部、記憶部及び入出力インターフェース等を備えている。例えば、新しい織物を製織する場合、新旧の経糸ビーム4の交換及び新しい経糸ビーム4の経糸4aを織布巻取り側へ引き通す機仕掛け作業が行われると、経糸ビーム4の交換完了の信号又は機仕掛け作業の完了信号が制御装置2に入力される。前記完了信号は、例えばファンクションパネル21に設けた完了スイッチ32を操作することにより入力することができる。また、新しい織物の製織条件がファンクションパネル21の入力スイッチ22の操作により開かれた入力画面から入力され、入出力インターフェースを介して制御装置2の記憶部に格納される。
【0025】
図1に示した織機において、旧経糸ビームを新しい経糸ビーム4に交換した場合を例に取り、経糸ビーム4の巻径を検出する方法について図2及び図3を参照して説明する。
【0026】
図2に示した演算による経糸巻径と経糸張力変化量との関係線図は、第1の実施形態において使用する経糸種類について実験的に得たもので、本願発明の基本的な思想を示したものである。経糸張力変化量(kg)の実際値は使用する経糸種類によって異なるが、演算による経糸巻径と経糸張力変化量との関係は全ての経糸種類において同様の変化を示し、図2のように一般化して示すことができる。
【0027】
図2の詳細について以下に説明する。経糸ビーム4の実際の巻径を0点とした時、演算巻径が+(プラス)側にずれる場合と−(マイナス)側にずれる場合とが生じる。実線で示した正転曲線Pは、演算巻径が+又は−側にずれた状態で送出しモータ3及び巻取りモータ14の回転数を演算し、この回転数で送出しモータ3及び巻取りモータ14を正転させて経糸4aの送出しを行なった場合の経糸張力変化量を示している。正転曲線Pにおいて、演算巻径が−側にずれていると、経糸張力変化量は基準点0kgよりも−側に増大する2次曲線になる。逆に、演算巻径が+側にずれていると、経糸張力変化量は基準点0kgよりも+側に増大する2次曲線になる。
【0028】
点線で示した逆転曲線Rは演算巻径が+又は−側にずれた状態で送出しモータ3及び巻取りモータ14の回転数を演算し、この回転数で送出しモータ3及び巻取りモータ14を逆転させて経糸4aの巻取りを行なった場合の経糸張力変化量を示している。逆転曲線Rでは、演算巻径が−側にずれていると、経糸張力変化量は基準点0kgよりも+側に増大する2次曲線になり、演算巻径が+側にずれていると、経糸張力変化量は基準点0kgよりも−側に増大する2次曲線になる。
【0029】
このため、経糸ビーム4の演算巻径が実際の巻径と異なるか否かは、経糸張力変化量を把握することにより判断することができる。
【0030】
即ち、経糸張力変化量が基準点0kgから+側又は−側にずれている場合、経糸張力変化量から把握される実際の巻径との差に基づき演算巻径を補正し、この新しい演算巻径によって送出しモータ3及び巻取りモータ14の回転数を演算する。経糸4aは送出しモータ3及び巻取りモータ14によって新しく演算された回転数で送出しあるいは巻取りされる。この過程で検出された経糸張力変化量が基準点0kgに一致する時、演算巻径は経糸ビーム4の実際の巻径に一致する。
【0031】
なお、経糸張力変化量が基準点0kgに完全一致するまで正転駆動あるいは逆転駆動を繰り返すことは効率が悪い。従って、本願発明では、基準点0kgに対し許容範囲Aを設定し、演算巻径は経糸張力変化量が許容範囲Aに達した時点で経糸ビーム4の実際の巻径に実質的に一致したと判断する方法が好ましい。
【0032】
図3において、図2の思想を利用した経糸ビーム4の巻径検出方法を織機に実施した具体例によって説明する。なお、制御装置2には、図2に示した経糸ビームの演算巻径と経糸張力変化量との関係線図がマップ化されて制御装置2にプログラムされており、経糸張力変化量を検出した時、経糸ビームの巻径演算が前記関係線図によって行なわれる。
【0033】
新旧経糸ビームが交換されると、交換完了信号が自動又は作業者による完了スイッチ32の操作により制御装置2に入力される。制御装置2は交換完了信号に基づき送出しモータ3及び巻取りモータ14にのみ1回目の一定時間T0の正転駆動を指令する。この場合、制御装置2は新しい経糸ビーム4の巻径を認識していないため、ビーム交換前に記憶された経糸ビームの巻径に基づき演算された回転数による駆動を指令する。
【0034】
送出しモータ3及び巻取りモータ14は、初期の時間T1を比較的低速回転で起動し、時点H1で比較的高速回転となる指令回転数(ビーム交換前に記憶された経糸ビームの巻径に基づき演算された回転数)に切り替えられ、一定時間T0後に停止する。1回目の正転駆動における経糸張力の検出信号は制御装置2によって受信、記憶され、例えば図3に示すように変化したとする。図2に示す関係線図によれば、正転曲線Pにおいて経糸張力変化量が+側となるのは、演算巻径と実際巻径との差が+側である場合なので、図3の1回目の経糸張力変化は、制御装置2から指令された回転数の演算の基となった経糸ビームの巻径(演算巻径)が実際の巻径よりも大きいことを示している。
【0035】
起動初期において、経糸張力は例えば経糸4aの伸び等の影響を受け、大きく低下する傾向を示し、不安定な状態である。経糸4aは例えば時間T1だけ運転されると安定する。1回目の正転駆動時には、送出しモータ3及び巻取りモータ14が経糸ビームの実際の巻径よりも大きい巻径に基づき演算された回転数により運転され、経糸4aの送出し量が小さいため、安定後の経糸張力は一定の割合で上昇する。
【0036】
制御装置2は安定状態にある経糸4aの張力を検出する。即ち、制御装置2は送出しモータ3及び巻取りモータ14が指令回転数に達してから時間T2後の時点H2で、テンションローラ6を介してロードセル20から発信されている経糸張力信号により経糸張力を検出する。さらに、制御装置2は、時間T3後の時点H3でロードセル20から発信されている経糸張力信号より経糸張力を再度検出する。制御装置2は時点H2及び時点H3で検出した経糸張力の差から経糸張力変化量WT1を演算し、経糸張力変化量WT1が図2に示した許容範囲Aに達しているか否かを判断する。経糸張力変化量WT1が許容範囲Aに達していないため、制御装置2は経糸張力変化量WT1に基づいて得られる補正量を1回目の正転駆動において想定された巻径に加算し、新たに得られた経糸ビーム4の演算巻径を記憶する。具体的には、制御装置2には予め経糸張力変化量に比例した補正量を複数設定しておき、経糸張力変化量WT1が得られた場合には、その大きさに対応した補正量を読み出して、巻径の演算に使用する。
【0037】
1回目の正転駆動の停止後、制御装置2は1回目の正転駆動後に演算した演算巻径に基づいて指令回転数を演算し、送出しモータ3及び巻取りモータ14にのみ2回目の駆動となる一定時間T0の演算された指令回転数による逆転駆動を指令する。
【0038】
2回目の逆転駆動においても、初期の時間T1は低速回転で駆動され、時点H1で指令回転数に切り替えられる。制御装置2は1回目の正転駆動時と同様に、経糸4aの張力が安定している指令回転数による駆動期間中の時間T2後の時点H2及び時間T3後の時点H3でロードセル20から発信されている経糸張力信号により経糸張力を検出する。2回目の逆転駆動では、図3に示すように経糸張力が減少している。図2に示す関係線図によれば、逆転曲線Rにおいて経糸張力変化量が−側となるのは、演算巻径と実際巻径との差が+側である場合なので、図3の2回目の経糸張力変化は、演算巻径が依然として実際の巻径よりも大きいものの、経糸変化量の絶対値は小さくなっているので実際の巻径と演算巻径との差は小さくなっていることを示している。制御装置2は時点H1及び時点H2で検出した経糸張力の差から経糸張力変化量WT2を演算し、1回目の正転駆動時と同様に、経糸張力変化量WT2が許容範囲Aに達しているか否かを判断する。2回目においても、経糸張力変化量WT2は許容範囲Aに達していないため、制御装置2はさらに経糸張力変化量WT2に基づいて得られた補正量を1回目の正転駆動後に演算された演算巻径に加算して新たな経糸ビーム4の演算巻径を演算し、記憶する。具体的には、経糸張力変化量WT2は経糸張力変化量WT1よりも小さいため、前回の補正量よりも小さい補正量が読み出され、前回の演算巻径に加算される。
【0039】
以下、同様にして、制御装置2は送出しモータ3及び巻取りモータ14に対してのみ、3回目の正転駆動を指令して経糸張力変化量WT3を検出し、経糸張力変化量WT3が許容範囲Aに達していないため、さらに4回目の逆転駆動を指令する。図2に示す関係線図によれば、正転曲線Pにおいて経糸張力変化量が−側となるのは、演算巻径と実際巻径との差が−側である場合なので、図3の3回目の経糸張力減少は、演算巻径が実際の巻径よりも小さいことを示している。従って、3回目の正転駆動に用いられた演算巻径に経糸張力変化量WT3の大きさに応じた補正量を加算した値を次回の駆動の基となる演算巻径として記憶する。図3の経糸張力線図に示すように、1回目から4回目までの正転駆動及び逆転駆動により、経糸張力変化量は、WT1>WT2>WT3>WT4のように順次小さくなる。
【0040】
制御装置2は4回目の逆転駆動において検出された経糸張力変化量WT4が許容範囲Aに達した値と判断すると、送出しモータ3及び巻取りモータ14に対する駆動指令を停止する。なお、経糸張力変化量WT4が許容範囲Aに達していないと判断される場合、制御装置2はさらに5回目の正転駆動、6回目の逆転駆動を交互に指令し、各駆動毎に検出された経糸張力変化量が許容範囲Aに達したと判断されるまで繰り返し駆動指令が発信される。
【0041】
制御装置2は許容範囲Aに達した4回目の逆転駆動に用いられた演算巻径を製織運転時の経糸ビーム4の巻径設定値として記憶する。なお、経糸張力変化量WT4の大きさに基づく補正量を減算した演算巻径を経糸ビーム4の製織運転時の巻径設定値として記憶してもよい。また、制御装置2は記憶された演算巻径に基づいて送出しモータ3及び巻取りモータ14の回転数を演算し、記憶部に設定する。経糸ビーム4の巻径検出が終了すると、作業者により起動スイッチ23が操作され、織機の製織運転が開始される。制御装置2は経糸ビーム4の実際の巻径に対応した回転数を送出しモータ3及び巻取りモータ14に指令することができるため、正確な経糸4aの送出しが行なわれ、安定した製織運転が開始される。なお、1回目の正転駆動において経糸張力変化量が許容範囲Aに達したと判断される場合もある。この場合は、その後の駆動を行なう必要が無く、1回目の正転駆動時の演算巻径を経糸ビーム4の巻径の設定値として記憶するとともに、この巻径の設定値に基づいて送出しモータ3及び巻取りモータ14の回転数を演算し、演算された回転数が織機の起動時の設定値として記憶される。
【0042】
前記した第1の実施形態は以下の作用効果を有する。
(1)経糸張力変化量を検出し、その時の経糸張力変化量に基づいて実際の巻径との差を把握することにより経糸ビーム4の巻径を演算することができる。このため、経糸ビーム4の実際の巻径と実質的に同一の巻径を演算により正確に得ることができ、簡単な方法で織機の起動後の異常張力発生を確実に防止することができる。
(2)巻径入力を必要としないので、作業者による入力ミスや入力忘れによる問題発生が無い。
(3)経糸4aの移動のみにより経糸の張力を検出する構成であるため、織機の製織運転時と異なり、経糸開口運動や筬打ち運動による経糸の張力変動の影響が無く、真の経糸張力を容易に検出することができる。
(4)送出しモータ3及び巻取りモータ14の正転駆動及び逆転駆動を繰り返し行なう駆動方法であるため、送出しモータ3及び巻取りモータ14の正転駆動のみが繰り返される場合に比べて、経糸4aが例えばテンプル等により損傷される恐れを解消することができる。
(5)経糸張力変化量に対して許容範囲Aを設定することにより経糸ビーム4の巻径検出を効率よく行なうことができる。
(6)図2に示した経糸ビームの演算巻径と経糸張力変化量との関係線図をマップ化して制御装置2にプログラムしておくことにより、経糸張力変化量に基づく経糸ビームの巻径演算を容易に行なうことができる。
【0043】
(第2の実施形態)
図4に示す第2の実施形態は、第1の実施形態における経糸4aの移動方向及び移動速度を変更したもので、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。第2の実施形態は、送出しモータ3及び巻取りモータ14を常に正転方向へ駆動し、経糸4aを送出し方向へ移動する。また、制御装置2から送出しモータ3及び巻取りモータ14へ指令する回転数は起動時から一定の回転数となるように設定されている。
【0044】
制御装置2は、送出しモータ3及び巻取りモータ14が指令回転数により駆動され、経糸4aが安定状態になる時間T4(第1の実施形態における時間T1+時間T2に相当する)後の時点H2及びさらに時間T3後の時点H3でロードセル20から発信されている経糸張力信号により経糸張力を検出する。以下は第1の実施形態と同様に、制御装置2がH2時点及びH3時点で検出した経糸張力の差により経糸張力変化量WT1を演算し、経糸張力変化量WT1が図2に示した許容範囲Aに達しているか否かを判断する。
【0045】
経糸張力変化量WT1が許容範囲Aに達していない場合、第1の実施形態と同様にして、新たに経糸ビーム4の巻径を演算し、記憶する。続いて、制御装置2は新しく記憶された経糸ビーム4の巻径により回転数を演算し、送出しモータ3及び巻取りモータ14に2回目の正転駆動を指令する。制御装置2による3回目以降の正転駆動の指令は検出される経糸張力変化量WT3、WT4が許容範囲Aに達するまで行なわれる。
【0046】
第2の実施形態は、経糸4aが常に送出し方向へ移動されるため、経糸4aの張力変化が発生しやすくなり、経糸張力変化量を検出し易い利点がある。
【0047】
本願発明は、前記した各実施形態の構成に限定されるものではなく、本願発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、次のように実施することができる。
【0048】
(1)第1の実施形態の正転駆動及び逆転駆動における回転速度は、低速回転から高速回転に切り替えることなく、第2の実施形態のように一定の回転速度に設定しても良い。逆に第2の実施形態の正転駆動を第1の実施形態のように低速回転から高速回転に切り替えるように設定しても良い。
(2)第1及び第2の実施形態における駆動時間は、必ずしも全駆動回数において一定にする必要が無く、適宜変化させて駆動することも可能である。
(3)第1及び第2の実施形態において、図2に示した経糸張力変化量の許容範囲Aを設定することなく、経糸張力変化量が0になるまで巻径検出のための駆動を繰り返してもよい。
(4)第1及び第2の実施形態において、経糸ビームの演算巻径と経糸張力変化量との関係線図をプログラムする代わりに、経糸張力変化量に基づく巻径の演算式をプログラムする構成とすることができる。
(5)本願発明の経糸ビームの巻径検出方法は、製織運転中の織機が停止してから、次の再起動までの間であれば、経糸ビーム交換後に限らず、任意の時期に実施することが可能である。
(6)本願発明は、パイル織機におけるパイル経糸ビームの巻径検出に実施することができる。
(7)第1及び第2の実施形態においては、巻径検出のために一定時間T0だけ送出しモータ3及び巻取りモータ14が駆動されているが、これに限定されず、例えば経糸の移動量が一定となるように駆動してもよい。さらに、経糸張力変化量に基づき実際の巻径との差が把握できる範囲であれば、複数回繰り返される巻径検出動作のそれぞれの駆動時間又は駆動量(経糸の移動量)は一定でなくてもよい。
【符号の説明】
【0049】
2 織機制御装置
3 送出しモータ
4 経糸ビーム
4a 経糸
6 テンションローラ
13 織布巻取りビーム
14 巻取りモータ
20 ロードセル
32 完了スイッチ
P 正転駆動
R 逆転駆動
H1、H2、H3 時点
T1、T2、T3、T4 時間
WT1、WT2、WT3、WT4 経糸張力変化量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸ビームを独立して回転する送出しモータ、織布巻取りビームを独立して回転する巻取りモータ及び前記送出しモータと前記巻取りモータの回転を制御する制御装置を備えた織機において、
前記織機の起動前に前記送出しモータ及び前記巻取りモータを駆動し、前記駆動時間内に時間間隔を開けて経糸張力を検出し、検出した経糸張力から経糸張力変化量を演算し、前記経糸張力変化量に基づいて前記経糸ビームの巻径を演算することを特徴とする織機における経糸ビームの巻径検出方法。
【請求項2】
前記送出しモータ及び前記巻取りモータは駆動を複数回繰り返し、前記駆動毎に前記経糸張力の検出と経糸張力変化量の演算及び経糸ビームの巻径の演算を行い、前記演算された経糸ビームの巻径に基づいて前記送出しモータ及び前記巻取りモータの回転数を補正し、前記補正された回転数により次回の前記駆動を行なうことを特徴とする請求項1に記載の織機における経糸ビームの巻径検出方法。
【請求項3】
前記送出しモータ及び前記巻取りモータは正転駆動及び逆転駆動を交互に繰り返し、前記正転駆動及び逆転駆動毎に前記経糸張力の検出と経糸張力変化量の演算及び経糸ビームの巻径の演算を行なうことを特徴とする請求項2に記載の織機における経糸ビームの巻径検出方法。
【請求項4】
前記送出しモータ及び前記巻取りモータは前記経糸張力変化量が予め設定された許容範囲に達するまで駆動されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の織機における経糸ビームの巻径検出方法。
【請求項5】
前記制御装置は経糸ビームの演算巻径と経糸張力変化量との関係線図を予め記憶し、前記演算された経糸張力変化量と前記関係線図に基づいて前記経糸ビームの巻径を演算することを特徴する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の織機における経糸ビームの巻径検出方法。
【請求項6】
前記経糸ビームの巻径の演算は経糸ビームの交換後に行なうことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の織機における経糸ビームの巻径検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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