説明

織機の経糸制御方法

【課題】 経糸の張力制御に起因して発生する緯糸の密度むらを目立たなくすることにある。
【解決手段】 経糸制御方法は、織機の運転開始から複数ピックの期間を含む第1の期間の間、定常運転時と異なる緯糸密度から定常運転時の緯糸密度に近づく密度パターンにしたがって巻取ロールを変速駆動させる巻取装置と、経糸ビームの回転速度に対し、経糸の張力偏差を解消する方向に補正するための解消条件を基に、経糸ビームの回転速度に対する補正信号を出力して経糸ビームを回転駆動させる送出装置とを含む織機に適用され、第1の期間の開始時点を開始時点としかつ第1の期間の終了時点又はそれ以降を終了時点として定められる第2の期間の間、経糸張力制御を実行すると共に、第2の期間における張力偏差に対する補正信号の値が、張力偏差に基づく値であって第2の期間後における同じ張力偏差に対する値よりも小さい値の補正信号が出力されるように、解消条件を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織機における織段を抑制すべく経糸を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
織機においては、停台中における経糸の伸びや、停台原因を解消する処理等に起因して織段が織布に発生することから、そのような織段の発生を防止するための動作を織機に行わせている。
【0003】
織段防止技術の1つとして、再起動に先立って経糸ビーム又は巻取ロールを逆転又は正転させる、いわゆるキックバック動作を織機に行わせるもの(第1及び第2の従来技術)がある(特許文献1及び2)。
【0004】
織段防止技術の他の1つとして、織機の起動後に厚段が発生する織物について、起動後の数ピック(緯入れ)の期間にわたって緯糸密度を小さくするように、巻取ロールを通常運転(すなわち、定常運転)中の緯糸密度に対応する速度よりも速い速度で回転させるもの(第3の従来技術)がある(特許文献3)。
【0005】
織段防止技術のさらに他の1つとして、織機の起動後の経糸張力の変動にともなう薄厚段又は厚薄段の発生に対応して、先ず制御に実際に用いる緯糸密度(実際の緯糸密度)をこれが正規の密度に近づくように補正パターンに基づいて変更し、次いで実際の緯糸密度をさらに変更して正規の緯糸密度に対する実際の緯糸密度の大小関係を逆転させると共に、正規の緯糸密度と実際の緯糸密度との差(密度差)を増大させ、その後正規の緯糸密度に徐々に戻すように、巻取ロールを回転駆動させるもの(第4の従来技術)がある(特許文献4)。
【0006】
織機の運転中に、経糸の張力偏差を解消するように経糸ビームの回転速度を制御する、織機の経糸送り出し装置において、停台中に発生する経糸張力変動にともなって、織機起動後の送出モータの速度が不適切になり、経糸張力の変動幅が過大になる、という不都合を解消するために、制御器からの速度指令信号を織機の再起動後の所定期間にわたって乗算器を介して補正することにより、張力偏差に対する制御ゲインを補正するもの(第5の従来技術)がある(特許文献5)。
【0007】
【特許文献1】特開昭61−63749号公報
【特許文献2】特開昭60−181349号公報
【特許文献3】特開平2−234957号公報
【特許文献4】特開平10−280255号公報
【特許文献5】特開平7−34356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
第1及び第2の従来技術では、キックバック動作にともなって、経糸の張力が大きく変わるため、織機の起動後に、大きく変化した経糸張力に起因する織段が発生することがある。
【0009】
第3及び第4の従来技術は、いずれも、巻取ロールの駆動にともなって経糸張力が変動し、送出装置による駆動量が過大になる点については何ら考慮していない。
【0010】
また、一般に、送出装置の張力偏差(経糸張力の実際値と目標値との差)に対する制御ゲインは、経糸の開口運動(ドビー織りのような変わり織り)が行われる場合、数ピック程度で張力偏差を解消するように高めに設定される。
【0011】
これに対し、装置が上記のように巻取装置の変速駆動により発生する張力変動に過剰に応答する(経糸ビームを過剰に回転させる)から、張力の実際値が目標値に対して振動してしまう。
【0012】
したがって、第3及び第4の従来技術では、張力が比較的短い期間に急激に変化し、その結果緯糸密度も同様に変化して、密度むらが目立つ、という問題がある。
【0013】
第5の従来技術では、織機の再起動後に巻取ロールを変速駆動させる点については何ら考慮していない。
【0014】
第5の従来技術は、さらに、織段の発生を防止するために、織機の再起動に先立って、経糸ビーム又は巻取ロールを回転させるキックバック動作を織機に行わせると、停台中の経糸に張力変動が発生することを開示している。しかし、キックバック動作のみでは、第1の従来技術と同様に、織段の発生を防止することができない。
【0015】
本発明の目的は、織機の運転開始から所定期間の間、巻取ロールを所定の緯糸密度パターンにしたがって変速駆動させることにより、織段の発生を防止する際に、この期間の経糸の張力制御に起因して発生する緯糸の密度むらを目立たなくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る経糸制御方法は、織機の運転開始から複数ピックの期間を含む第1の期間の間、定常運転時と異なる緯糸密度に設定された密度パターンであって最終的に定常運転時の緯糸密度に近づくように設定された密度パターンにしたがって巻取ロールを変速駆動させる巻取装置と、経糸ビームの回転速度に対し、経糸の張力偏差を解消する方向に補正するための解消条件を基に、経糸ビームの回転速度に対する補正信号を出力して経糸ビームを回転駆動させる送出装置とを含む織機に適用される。
【0017】
そのような経糸制御方法は、前記送出装置において、前記第1の期間の開始時点を開始時点としかつ前記第1の期間の終了時点又はそれ以降を終了時点として定められる第2の期間の間、経糸張力制御を実行すると共に、前記第2の期間における張力偏差に対する補正信号の値が、前記張力偏差に基づく値であって前記第2の期間後における同じ前記張力偏差に対する値よりも小さい値の前記補正信号が出力されるように、前記解消条件を設定することを含む。
【0018】
第2の期間の間その後における値よりも小さい値の補正信号が出力されるように、解消条件を設定するならば、織機の運転開始以降の第1の期間にわたって定常運転時の緯糸密度と異なる密度に設定されて最終的には定常運転時の密度に達するように定められた緯糸密度パターンにしたがって巻取ロールが変速駆動されるにもかかわらず、以下のような作用効果を生じる。
【0019】
織機の運転開始後における第1の期間にわたって行われる巻取ロールの変速駆動により、経糸張力が変化しても、経糸ビームの回転速度は、従来のように急激に変更されることなく、張力偏差を防止する方向に長い時間をかけて緩やかに変更される。このため、緯糸密度は経糸張力に対応して変化するが、その変化は緩やかであり、したがって緯糸の密度むらは目立たなくなる。
【0020】
また、従来のように高い解消条件により張力偏差を解消すべく経糸ビームの回転速度が変更されることに起因して経糸張力の実際値がその目標値に対して振動する現象が発生し、緯糸の密度むらが目立つ、という不都合が防止される。
【0021】
前記密度パターンは、通常の緯糸密度を前記密度パターンの補正パターンに基づいて正規の密度に近づけるように変更すべく設定されていてもよい。
【0022】
これの代わりに、前記密度パターンは、通常の緯糸密度を前記密度パターンの補正パターンに基づいて正規の密度に近づけるように変更し、その後さらなる変更により正規の密度に対する大小関係を逆転させると共に、前記正規の密度との差を増大させ、その後徐々に前記正規の密度に戻すように設定されていてもよい。
【0023】
前記送出装置は、前記第2の期間の間及びその後にわたって経糸の張力を制御すべく前記補正信号を出力する制御器を備え、前記制御器は、張力偏差を予め定められる係数を乗じて前記補正信号と出力するようにされており、前記解消条件は、前記係数を含み、また前記第2の期間の間における前記係数をその期間後における係数値未満の値に設定されていてもよい。
【0024】
しかし、前記送出装置は、前記第2の期間の間及びその後にわたって経糸の張力を制御すべく前記補正信号を出力する制御器を備え、前記制御器は、張力偏差に対して比例要素及び積分要素の少なくとも一方を含む演算を行って補正値を出力可能とされており、前記解消条件は、前記比例要素及び積分要素の少なくとも1つを含み、また前記第2の期間の間における前記比例要素又は前記積分要素の係数のうちの少なくとも1つをその期間後における係数値未満の値に設定されていてもよい。
【0025】
また、前記送出装置は、経糸の張力を制御すべく信号を出力する制御器と、前記第2の期間の間その出力結果に係数を乗じてこれを前記補正信号として出力する演算器とを備え、前記解消条件は、前記係数を含み、また前記第2の期間の間における前記係数をその期間後における係数値未満の値に設定されていてもよい。
【0026】
経糸制御方法は、さらに、張力偏差に応じて複数の前記係数を設定すると共に、織機の起動時に張力偏差に対応する係数を選択するようにしてもよい。
【0027】
経糸制御方法は、さらに、前記第2の期間内において、張力偏差が解消したとき、それ以降の張力偏差に対する前記係数を前記期間以降の値に切り換えることを含むことができる。
【0028】
前記制御器は、前記解消条件を設定する設定器であって前記解消条件を前記期間毎に独立して入力可能の設定器に接続されていてもよい。
【0029】
前記制御器は、前記第2の期間を設定する設定器であって前記第2の期間の長さを入力可能の設定器に接続されていてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1を参照するに、織機10において、経糸12は、これが巻かれている経糸ビーム(送出ビーム)14から、バックローラ16、複数の綜絖枠18及び筬20を経て織前22に繋がっている。製織された織布24は、織前22から、ガイドローラ26を介して服巻ロール28に達し、服巻ロール28と一対のプレスロール30とにより布巻ビーム32に送り出されて、布巻ビーム32に巻き取られる。
【0031】
経糸ビーム14は、送出モータ34により歯車のような減速機構で構成される送出調整機構36を介して回転されて複数の経糸12をシートの形で送出する。経糸ビーム14に巻かれている経糸12の量は、経糸ビーム14からの経糸12の送り出しにともなって、漸次減少する。
【0032】
このため、経糸ビーム14の巻径は巻径センサ38により検出され、検出された巻径信号Dは送出モータ34を制御する送出制御装置40に供給される。送出モータ34の出力軸の回転速度は、タコジェネレータ42によって検出され、検出された回転速度信号S1は送出制御装置40に供給される。
【0033】
経糸12に作用している張力の値(実際値)は、バックローラ16に作用する荷重を検出する経糸張力センサ44により検出され、検出された張力信号T1は送出制御装置40に供給される。
【0034】
各綜絖枠18は、主軸モータ(図示せず)により回転される主軸46の回転運動を受ける運動変換機構48により上下に往復移動されて、経糸12を上下に開口させる。
【0035】
筬20は、主軸46の回転運動を受ける運動変換機構50により揺動されて、経糸12の開口に緯入れされた緯糸52を織前22に打ち付ける。
【0036】
服巻ロール28は、歯車のような減速機構で構成されて巻取モータ54の回転運動を受ける巻取調整機構56により回転されて、一対のプレスロール30と共同して織布24を布巻ビーム32に送り出す。このため、服巻ロール28は巻取ロールとして作用する。
【0037】
主軸46の回転角度は、主軸46に連結されたエンコーダ58によって検出される。検出された主軸回転角度信号S2は、送出モータ52を制御する巻取制御装置62及び送出制御装置40に供給される。
【0038】
これに対し、巻取モータ54の回転速度は、巻取モータ54の出力軸に連結されたエンコーダ60によって検出される。検出されたモータ速度信号S3は、巻取制御装置62に供給される。
【0039】
布巻ビーム32は、布巻ビーム32に巻かれた織布24の周速度が織布24の送り速度より若干速くなるように、主軸46の回転運動を受ける巻取トルク調整機構64により滑り軸受け(図示せず)を介して回転されて、織布24の巻取張力を一定に維持すべく回転される。
【0040】
巻取制御装置62は、通常、緯糸密度により定まる基本巻取速度V1で巻取モータ54を回転させるが、停台後における起動時には、織機の運転開始から複数ピックの期間を含む第1の期間の間、定常運転時と異なる緯糸密度に設定された密度パターンにしたがって巻取ロールを起動時巻取速度V2で変速駆動させる。密度パターンは、最終的に定常運転時の緯糸密度に近づくように設定されている。
【0041】
これに対し、送出制御装置40は、送出モータ34の基本送出速度V3と、経糸12の張力偏差(経糸張力の実際値と目標値との差)を解消するための解消条件を基に算出した補正送出速度V4とを加算した速度で経糸ビーム14を回転させる。解消条件は、定常運転時と起動時とで異なる値に設定されている。
【0042】
図2及び図3を参照して、緯糸制御装置を構成する巻取制御装置62及び送出制御装置40について説明する。
【0043】
図2に示すように、巻取制御装置62は、織機10が定常状態で稼働しているとき(定常運転時)に巻取モータ54の回転速度を制御する運転時制御器66と、織機10の起動時に巻取モータ54の回転速度を制御する起動時制御器68とを含む。
【0044】
主軸46の回転角度を表す主軸回転角度信号S2は、運転時制御器66と起動時制御器68とに供給されるのみならず、図3に示す織機の主制御装置70に関連して備えられた期間信号発生器72にも供給される。
【0045】
作業者が停台している織機10の運転を開始させる運転ボタン74を押下したときの押下信号は、主制御装置70に入力される。主制御装置70は、押下信号が入力したことにより、先ず送出制御装置40及び巻取制御装置62にオンの運転信号S0を出力する。主制御装置70は、また、図示しない主軸モータを駆動させて、織機の主軸を回転させることにより、織機を起動(運転開始)させる。
【0046】
期間信号発生器72は、主軸回転角度信号S2を基に、主軸が一回転するたびにピック信号をピック信号発生器76で発生し、そのピック信号をカウンタ78において計数する。
【0047】
カウンタ78は、送出制御装置40及び巻取制御装置62で用いる各種の期間が設定されている設定器80に接続されており、織機の運転開始から設定器80に設定された期間にわたり、第1及び第2の期間信号S11及びS12を発生し、第1及び第2の期間信号S11及びS12を、それぞれ、巻取制御装置62及び送出制御装置40に供給する。
【0048】
第1の期間信号S11は、織機の運転開始時から複数ピックの期間を含む第1の期間の間オンになる。第2の期間信号S12は、第1の期間の開始時点を開始時点としかつ第1の期間の終了時点より遅い終了時点を有する第2の期間の間オンになる。
【0049】
運転時制御器66は、図示しない選択信号発生器から緯入れピックに対応して供給される緯糸密度選択信号S4と主軸回転角度信号S2とを基に、織布24を巻き取るための基本巻取速度V1を算出する基本速度発生器82を備えている。基本速度発生器82には、選択信号S4に対応する緯糸密度が、製織すべき織布の種類に応じて、図示しない設定器を介して予め設定されている。
【0050】
起動時制御器68は、起動時に、密度パターン設定器84に設定されている緯糸の密度パターンと、主軸回転角度信号S2とを基に、起動時に織布24を巻き取るための起動時巻取速度V2を基本速度発生器86において算出する。
【0051】
設定器84に設定されている密度パターンは、織機の運転開始から始まる第1の期間の間、定常運転時の緯糸密度と異なり、しかも定常運転時の緯糸密度に漸次又は段階的に近づけられて、最終的に定常運転時の緯糸密度に近づくような密度パターンとされている。
【0052】
上記のような緯糸密度パターンは、例えば、薄段が発生しやすい織布については、定常運転時の緯糸密度より大きい(密である)緯糸密度から段階的に又は連続的に定常運転時の緯糸密度に近づくパターンとすることができ、厚段が発生しやすい織布については、定常運転時の緯糸密度より小さい(粗である)緯糸密度から段階的に又は連続的に定常運転時の緯糸密度に近づくパターンとすることができる。
【0053】
具体的には、密度パターンは、通常の緯糸密度を密度補正パターンに基づいて正規に密度に近づけるように変更すべく設定されている。
【0054】
上記のような密度パターンの一例を図4(A)に示し、その結果達成される巻取モータの回転速度を図4(B)に示す。図4(A)及び(B)において、縦軸は緯糸密度及び巻取(服巻)ロール速度をそれぞれ示し、横軸は緯入れピック数を示す。
【0055】
しかし、密度パターンは、図8(A)及び(B)に示すように、通常の緯糸密度をその補正パターンに基づいて正規の密度に近づけるように変更し、その後さらなる変更により正規の密度に対する大小関係を逆転させると共に、正規の密度との差を増大させ、その後徐々に正規の密度に戻すように設定してもよい。
【0056】
より具体的には、薄厚段が発生する傾向の織物に対しては、図8(A)に示すように、緯糸密度パターンは、起動直後は正規の密度である定常運転時の緯糸密度に対し密にし、定常運転時の緯糸密度を超えて粗くするようにして緯糸密度の大小関係を逆転させ、その後緯糸密度を正規の密度である定常運転時の緯糸密度に戻すように、(緯糸密度を密にするように)、設定することができる。
【0057】
上記と逆に、厚薄段が発生する傾向の織物に対しては、図8(A)に比べ上下逆に設定されるパターンすなわち図8(B)に示すように、起動直後は正規の密度である定常運転時の緯糸密度に対し粗にし、定常運転時の緯糸密度を超えて密にするようにして緯糸密度の大小関係を逆転させ、その後緯糸密度を正規の密度である定常運転時の緯糸密度に戻すように(緯糸密度を粗くするように)、設定することができる。
【0058】
基本巻取速度V1及び起動時巻取速度V2は、切換器88の入力端子に個々に供給される。切換器88は、第1の期間信号S11を期間信号発生器72から受けると共に、起動準備終了後にオンになる運転信号S0を主制御装置70から受ける。
【0059】
切換器88は、運転信号S0を受けると共に、第1の期間信号S11を受けると(起動時)、起動時巻取速度V2を加算器90に出力し、運転信号S0を受けているにもかかわらず、第1の期間信号S11を受けていないと(定常運転時)、基本巻取速度V1を加算器90に出力する。
【0060】
加算器90は切換器88の出力信号を加算側の入力端子に受けると共に、巻取モータ54の出力軸に連結された速度検出器64からの巻取モータ速度信号S3を減算側の入力端子に受けて、両信号の差の信号を巻取駆動信号S5としてドライバー92に出力する。
【0061】
図2においては、巻取制御装置62は、巻取モータ54を速度制御するように構成されているが、巻取モータ54を位置制御される構成、すなわち主軸回転角度に対応して発生されるパルス信号に応じて巻取モータ54を位置制御するように構成してもよい。
【0062】
ドライバー92は、巻取モータ54を入力する巻取駆動信号S5に応じて回転させる増幅回路であり、加算器90からの巻取駆動信号S5が正であれば、巻取モータ54を正転させ、負であれば巻取モータ54を逆転させる。これにより、経糸12の移動方向における織前22の位置は所定の位置に維持される。
【0063】
図3に示すように、送出制御装置40は、経糸12を送出する基本送出速度V3を発生する基本速度発生器94と、経糸12の張力偏差を解消する補正送出速度V4を発生する張力制御器96とを備えており、また経糸張力センサ44からの張力信号T1を張力制御器96に受ける。
【0064】
基本速度発生器94には、主軸回転角度信号S2及び緯糸密度選択信号S4が入力されている。基本速度発生器94は、織機の回転速度、すなわち織布24の巻取速度に応じた経糸の送出速度を算出し、算出した速度を基本送出速度V3として加算部98の一方の入力端子に出力する。基本速度信号発生器94にも、選択信号S4に対応する緯糸密度が図示しない設定器を介して予め設定されている。
【0065】
張力制御器96は、張力センサ44から供給される張力信号T1と、設定器100に予め設定された目標経糸張力T0と、設定器102又は104に設定された解消条件とを基に、経糸張力の実際値T1が目標値T0となるように張力偏差を解消する方向に補正送出速度V4を算出し、算出した補正送出速度V4を加算部98の他方の入力端子に出力する。
【0066】
経糸張力は、織機の1回転(1ピック)中に経糸開口運動により大きく変動する。このため、張力制御器96は、1ピックから数ピックにわたる経糸張力の平均値を算出し、その平均値を目標値T0に近づけるように制御することが好ましい。
【0067】
より具体的には、張力制御器96は、その内部で張力センサ44からの張力信号T1を基に、張力値を前記期間にわたって複数回サンプリングすることにより平均値を算出し、得られた平均値と目標値との張力偏差を算出し、得られた張力偏差を設定器102又は104に設定された係数で補正して、補正した張力偏差を補正送出速度V4として出力することが好ましい。
【0068】
上記のような張力制御器96として、増幅度を変更(切換)可能の増幅器や演算器、比例要素や積分要素を変更(切換)可能のPID制御器等を含むことができる。以下の説明では、張力制御器96としてPID制御器を用いるものとする。
【0069】
張力制御器96は、張力偏差を解消するための解消条件が設定された2つの設定器102,104に接続されており、また経糸張力の目標値と実際値との差(張力偏差)を設定器102又は104に設定された解消条件で修正することにより補正送出速度V4を発生する。
【0070】
解消条件は、比例要素(p)や積分要素(i)の制御ゲイン(pゲインやiゲイン)のように、張力偏差に対する補正速度の算出に用いる係数とすることができる。一方の設定器102には、第2の期間に用いる解消条件(係数)が設定されており、他方の設定器104には第2の期間以降の定常運転時に用いる解消条件(係数)が設定されている。
【0071】
設定器102に設定される解消条件(係数)は、第2の期間に用いられるものであり、例えば補正速度V4の値が第2の期間以降(すなわち、定常運転時)のそれ未満となるように設定されている。しかし、設定器104に設定される解消条件(係数)は、一定の値である。具体的には、解消条件(係数)は、第2の期間における、pゲインやiゲイン等の係数が第2の期間以降における係数値未満となるように設定される。
【0072】
解消条件を上記のように設定器104に設定したときの経糸張力及び経糸ビームによる経糸送出速度の実際値の一例を、それぞれ、図4(C)及び(D)に示す。図4(C)及び(D)において、縦軸は経糸張力及び経糸送出速度の実際値をそれぞれ示し、横軸は緯入れピック数を示す。
【0073】
張力制御器96は、織機の起動時、運転信号S0を主制御装置70から受けると共に、オンの第2の期間信号S12を期間信号発生器72から受ける。これにより、張力制御器96は、運転(起動)の開始から第2の期間の間、設定器104に設定されている係数を用いて補正送出速度V4を発生する。
【0074】
図4の(C)(D)では、先の停台あるいは織機起動直前等に行われる織前位置の補正動作などにより、織機の運転開始直前では経糸張力が定常運転時の目標張力値に対し約20.0kg・f程度低下している(すなわち張力偏差が−20kg・fである)ときを想定している。また、張力制御器96として、いわゆる公知のPI制御器を用い、また第2の期間における比例ゲイン(pゲイン)、積分ゲイン(iゲイン)を第2の期間以降(定常運転時の)値に対し、それぞれ1/10にしたときのものである。
【0075】
図4の(C)(D)に示すように、第2の期間における比例ゲイン(pゲイン)、積分ゲイン(iゲイン)がその期間以降に比べて小さい値が設定されているため、補正送出速度V4(すなわち経糸送出速度)は緩やかに低下することになり、この結果、織機運転開始後の経糸張力もその後も低下することになる。その結果、経糸張力の低下にともなって、緯糸密度もいくぶん粗くなる。
【0076】
これに対し、張力低下にともない、緯糸の打込具合(経糸と緯糸の屈曲度合い)が変化して経糸をより多く消費するようになり、経糸張力の低下が自然に吸収されていき、さらには補正送出速度V4もその後も継続的に低下していくため、経糸張力の低下が下げ止まり、その後定常運転時の目標張力に向けて次第に上昇する。そして経糸張力は、運転開始から数百ピック程度で定常運転時の目標張力に到達する。このように、運転開始から数百ピック程度の間に経糸張力が低下するもののその変動は比較的に緩やかであるため、これにより発生する緯糸密度のムラも比較的に目立たない。
【0077】
しかし、従来装置のように比例ゲインや積分ゲインが定常運転時の値に設定されている場合、張力制御器95は、上記ゲインが大きいこともあり、速やかに張力偏差を解消すべ〈補正送出速度V4を負の大きな値を出力する結果、経糸送出速度Vは急速に低下されるため、経糸張力は急速に上昇し、やがて経糸張力が目標張力を大きく超えることになるため、今度は過大になった経糸張力を低下させるために送出速度を急速に増大させることになる、このように、経糸張力が目標値に対して上下するいわゆるハンチングが発生する。経糸張力が上・下変動することにともなって、緯糸密度も数ピック単位という短い期間で粗密の状態を繰り返す。その結果、運転開始後の緯糸密度ムラがより目立つのである。
【0078】
第2の期間が経過すると、張力制御器96は、オンの第2の期間信号S12が入力されなくなったことにより、設定器102に設定されている係数を用いて補正信号を発生する。これにより、送出制御装置40は定常運転に移行する。
【0079】
この結果、張力制御器95は第2の期間以降に対応する解消条件(すなわち定
常運転時の比例ゲイン、積分ゲイン)に切り換えて、張力偏差に対する補正送出
速度V4を出力することになる。経糸の張力偏差がほぼ解消されていることもあり、経糸張力はその後大きなハンチングを起こすことなく目標張力に制御される。
【0080】
基本送出速度V3と補正送出速度V4とは、加算部98で加算され、加算信号S8は巻径補正器106に供給される。巻径補正器106は、図1に示す巻径センサ38からの巻径信号Dに基づいて、加算部98からの加算信号S6を補正し、補正した送出速度信号S7を減算部108の一方の入力端子に出力する。
【0081】
減算部108は、巻径補正器106からの送出速度信号S7から送出モータ速度信号S3を減算し、その算出結果を送出速度指令S8としてドライバー110に出力する。ドライバー110は、送出速度指令S8を増幅して、送出モータ34を駆動させる増幅回路として作用する。
【0082】
具体的には、ドライバー110は、送出モータ34を入力する送出速度指令S8に応じて回転させる増幅回路であり、減算部108からの送出速度指令S8が正であれば、送出モータ34を増速させ、負であれば送出モータ34を減速させる。
【0083】
上記のように、送出制御装置40は、信号S2及びS7を用いて、経糸ビーム14から送り出される経糸12の速度が送出速度指令S8に応じた速度になるように、送出モータ34を制御するフィードバック回路の機能を備えている。
【0084】
第2の期間の解消条件である比例ゲインや積分ゲインは、実際の織布の状態を見て決定することが望ましい。具体的には、定常運転時の値未満に設定する。(ただし前記双方がともにゼロ設定される事を除く)。例えば、一部の織物(フィラメント織物)の例では、定常運転時の値に対し1/2〜1/20の範囲にすれば効果的であることが確認されている。
【0085】
第2の期間の長さについても、解消条件の設定により張力偏差が解消される期間を確認の上、決定することが好ましい。前記織物の例では、数百ビックである。
【0086】
図4から明らかなように、第2の期間は、第1の期間の数倍から数百倍、好ましくは数倍から百倍と長い。例えば、第1の期間を、数ピックから百数十ピック、好ましくは数ピックから数十ピック、より好ましくは数ピックから十数ピックとし、第2の期間を10ピックから1000ピック、好ましくは数十ピックから800ピック、より好ましくは十数ピックから数百ピックとすることができる。
【0087】
図4に示す例では、(A)及び(B)に示すように巻取速度が段階的に急変することにより、経糸張力が一時的に急変することが考えられる。このため、設定器102に設定する係数を図示の例より若干低い値とすることが望ましい。
【0088】
上記のことから、オンの運転信号S0が発生されると、図2に示すように、巻取制御装置62は、オンの第1の期間信号S11が入力している間、起動時制御器68から出力される起動時巻取速度V2に応じて巻取モータ54を駆動させる。
【0089】
巻取制御装置62は、また、オンの運転信号S0が入力しているにもかかわらず、オンの第1の期間信号S11が入力しなくなると、運転時制御器66から出力される基本巻取速度V1に応じて巻取モータ54を駆動させる。
【0090】
これに対し、送出制御装置40は、オンの運転信号S0が発生されると、オンの第2の期間信号S12が入力している間、基本速度発生器94で発生した基本送出速度V3と、設定器104に設定された係数を用いて張力制御器96で発生した補正送出速度V4との和の信号S6に応じて送出モータ34を駆動させる。
【0091】
また、送出制御装置40は、オンの運転信号S0が入力しているにもかかわらず、オンの第2の期間信号S12が入力しなくなると、基本速度発生器94で発生した基本送出速度V3と、設定器102に設定された係数を用いて張力制御器96で発生した補正送出速度V4との和の信号S6に応じて送出モータ34を駆動させる。
【0092】
上記の結果、運転開始後の第1の期間にわたって行われる巻取ロール28の変速駆動により、経糸張力が変化しても、経糸ビーム14の回転速度は、従来のように急激に変更されることなく、張力偏差を防止する方向に長い時間をかけて緩やかに変更される。このため、緯糸密度は経糸張力に対応して変化するが、その変化は緩やかであり、したがって緯糸の密度むらは目立たなくなる。
【0093】
また、従来のように高い解消条件により張力偏差を解消すべく経糸ビームの回転速度が変更されることに起因して経糸張力の実際値がその目標値に対して振動する現象(経糸張力のオーバーシュート)が発生し、緯糸の密度むらが目立つ、という不都合が防止される。
【0094】
図5を参照するに、送出制御装置120は、第1の期間の開始時点から複数ピックの期間を含む第3の期間の間、予め設定される速度パターンにしたがって送出モータ34ひいては経糸ビーム14を変速駆動させるいわゆるフィードフォワード制御をし、第3の期間の終了後には、経糸張力偏差に基づいて、経糸ビームの回転速度に対する補正信号を出力する制御を行うと共に、第3の期間経過後の第4の期間の間、張力制御器で用いる係数を低くする。
【0095】
第3の期間は、好ましくは第4の期間と同じに定めるが、異ならせる設定すなわち第3の期間の終了時点を第4の期間の終了時点より早めるあるいは遅くする
ことも可能である。このため第4の期間の開始時点は、第3の期間の開始時点から第1の期間の終了時点より遅い時点の期間内において適宜定めてもよい。
【0096】
速度パターンは、送出モータ34の回転速度が図6に実線で示すように段階的に速くなるように、設定器122に設定されており、第3の期間の間速度信号発生器124において用いられる。
【0097】
第3及び第4の期間をそれぞれ指定する第3及び第4の期間信号S13及びS14は、それぞれ、図2における期間信号発生器72から切換器126及び張力制御器96に供給される。
【0098】
速度信号発生器124は、第3の期間の間、設定器122に設定された速度パターンに応じた速度信号V5を切換器126の一方の入力端子に、図2に示す巻取制御装置62の起動時制御器68からの起動時巻取速度V2の出力と同期して出力する。このため、第3の期間の間は、織布の巻取速度が巻取制御装置62の制御に起因して変化しても、経糸が織布の速度に同期して送り出されるから、経糸張力が大幅に変化することを防止される。
【0099】
切換器126の他方の入力端子には、基本速度発生器94からの基本送出速度V3が供給される。切換器126は、オンの第3の期間信号S13が入力している間、速度信号発生器124からの速度信号V5を加算部98の一方の入力端子に出力し、第3の期間信号S13がオフになると、基本速度発生器94からの基本送出速度V3を加算部98の一方の入力端子に出力する。
【0100】
張力制御器96は、張力センサ44から供給される張力信号T1と、設定器100に予め設定された目標経糸張力T0と、設定器102又は104に設定された解消条件とを基に、経糸張力の実際値T1が目標値T0となるような補正送出速度V4を算出し、算出した補正送出速度V4を加算部100の他方の入力端子に出力する。
【0101】
張力制御器96は、第4の期間信号S14がオンの間、設定器102に設定されている解消条件を用い、第4の期間信号S14がオフになると、設定器104に設定されている解消条件を用いる。
【0102】
速度信号発生器124が第3の期間の間に巻取制御装置62による織布の巻取速度の変化に起因する経糸張力の変化を緩和するような速度信号V5をするような係数を設定器122に設定してもよい。
【0103】
密度パターンの一例を図6(A)に示し、その結果達成される巻取ロールの回転速度を図6(B)に示す。図6(A)及び(B)において、縦軸は緯糸密度及び服巻(巻取)ロール速度をそれぞれ示し、横軸は緯入れピック数を示す。
【0104】
また、経糸張力及び経糸ビームによる経糸送出速度の実際値の一例を、それぞれ、図6(C)及び(D)に示す。図6(C)及び(D)において、縦軸は経糸張力及び経糸送出速度の実際値をそれぞれ示し、横軸は緯入れピック数を示す。
【0105】
図6では、図4の場合と同様、織機運転開始直前では経糸張力が定常運転時の目標張力に対し約20.0kg・f程度低下している場合を想定している。
【0106】
一方、巻取制御装置には、図4の場合と同様、第1の期間である運転開始から数十ピックにわたり緯糸密度パターンが、運転開始直後には定常運転時の緯糸密度パターンに比べて密の状態から定常運転時の密度に近づくように設定されているため、巻取ロール速度は図6(B)に示すように、定常運転時の速度よりも低い速度から定常運転時の速度に近づくように変速駆動される。
【0107】
他方、送出制御装置には、巻取制御装置側の第1の期間と同じ期間に定められ
た第3の期間にわたり、巻取ロール速度に同期して経糸が送り出されるようにされている。
【0108】
このため、経糸送出速度は図6(D)に示すように巻取ロール速度に同期して変速駆動される。この結果、運転開始されてから第1の期間(第3の期間)終了時点においても、経糸張力偏差は、元の状態である20kg・f低下した状態を保ったままである。
【0109】
また、送出制御装置では、図4の場合と同様、張力制御器96として、いわゆる公知のPI制御器を用い、また第2の期間における比例ゲイン(pゲイン)、積分ゲイン(iゲイン)を第4の期間以降(定常運転時の)値に対し、それぞれ1/10にしたときのものである。第4の期間の長さは、第3の期間後の数百ピックの期間に定められている。
【0110】
図6(C)(D)に示すように、第4の期間における比例ゲイン(pゲイン)、積分ゲイン(iゲイン)がその期間以降に比べて小さな値が設定されているため、補正送出速度V4(すなわち経糸送出速度)は緩やかに低下することになり、それにより、織機運転開始後の経糸張力もその後も低下することになる。この結果、経糸張力の低下にともなって緯糸密度もいくぶん粗くなる。
【0111】
これに対し、張力低下に伴い緯糸の打込具合(経糸と緯糸の屈曲度合い)が変化して経糸をより多く消費するようになり、経糸張力の低下が自然に吸収されていき、さらには補正送出速度v4もその後も継続的に低下していくため、経糸張力の低下が下げ止まり、その後定常運転時の目標張力に向けて次第に上昇する。そして経糸張力は、運転開始から数百ピック程度で定常運転時の目標張力に到達する。
【0112】
上記のように、運転開始から数百ビック程度の間に経糸張力が低下するもののその変動は比較的に緩やかであるため、これにより発生する緯糸密度のムラも比較的に目立たない。
【0113】
送出装置120においては、第3の期間における速度指令を図6(D)に点線で示すように、定常運転時の速度に対して異なる一定の値としてもよいし、同箇所に実線で示すように経時的に増加(又は、減少)する値としてもよい。
【0114】
つまり、第1の期間(第3の期間)における巻取ロール速度に対し、経糸送出速度を異なるように設定することにより、この期間における経糸張力を所望の張力に変えることが可能になるため、織段を解消することができる。
【0115】
また、第3の期間は、第1の期間と同じであってもよいし、第1の期間より長い又は短い期間であってもよい。後者の場合、第3の期間は、第1の期間の1/2から2倍程度とすることができる。
【0116】
上記いずれの実施例においても、第1の期間及び巻取速度は、織段の状態に合わせて起動の都度自在に設定してもよい。
【0117】
例えば、第1の期間を、数ピックから百数十ピック、具体的には2ピック以上80ピック以下とすることができる。第1の期間は、製織長に換算して、数mmから数十mm、具体的には5mmから50mmとすることができる。
【0118】
巻取速度は、薄段のとき、定常時の緯糸密度に比べ、遅くなるように設定してもよい。
【0119】
張力制御器96の一部として基準値を変更(切換)可能の差動増幅器を用いる場合、解消条件(係数)は、基準値とすることができ、また第2の期間の間における基準値が第2の期間以降における基準値未満となるように設定される。
【0120】
設定器102に設定された係数を用いて第2又は第4の期間における送出速度を張力制御器96で修正する代わりに、張力制御器96の出力自体を他の回路で修正して第2又は第3の期間において出力するようにしてもよい。
【0121】
図7を参照するに、この実施例においては、張力制御器96は、設定器104に設定されている係数を用いて補正送出速度V4を出力し、その代わりに信号処理回路130と切換器132とが張力制御器96と加算部98との間に配置されている。
【0122】
張力制御器96の出力信号V4が信号処理回路130に供給されると共に、切換器132の一方の入力端子に供給される。信号処理回路130は、入力する信号V4を設定器102に設定されている係数で修正して第2の補正送出速度V7を切換器132の他方の入力端子に出力する。
【0123】
信号処理回路180は、いわゆる乗算器とし、設定器102にはその係数として1未満の値(正の値)が設定されている。このため信号処理回路130は、入力信号に対し係数を乗じた信号を補正送出速度V7として出力することができる。
【0124】
切換器132は、オンの第2の期間信号S12が入力しているとき、第2の補正送出速度V7を加算部98に出力し、オンの第2の期間信号S12が入力していないとき、補正送出速度V4を加算部98に出力する。
【0125】
上記いずれの実施例においても、起動準備動作を織機に行わせることなく、織段の発生を防止することができる。しかし、本発明は、停止中の織機に起動準備動作を行わせることなく、停止中の織機を起動させる場合のみならず、停止中の織機に起動準備動作を行わせた後、織機を起動させる場合にも適用することができる。
【0126】
上記した実施例について次のように変形することが考えられる。織機運転中に緯入れピック数毎に緯糸密度が複数切り換えられるいわゆる変わり織りが行われる織機の場合、より好ましくは、織機の運転開始時の選択される緯糸密度に応じて、第1の期間における緯糸密度パターンや、第1〜第4の期間の長さ、張力偏差を解消するための解消条件や、第3の期間における送出速度の出力態様などを設定し、その都度選択するようにすればよい。そのようにすれば、運転開始時の緯糸密度がいずれであってもそれらに対応した値を設定することにより、緯糸密度ムラをより日立たなくすることができる。
【0127】
また、上記実施例では、第2の期間又は第4の期間について数百ピック程度に設定されており、この期間では経糸送出速度(張力偏差に対応する補正速度)が小さな値が出力されるが、この期間は可能な限り短くすればよいことはいうまでもない。
【0128】
例えば、運転開始直前の張力偏差に応じて、第1の期間における緯糸密度パターンや、第1〜第4の期間の長さ、張力偏差を解消するための解消条件や、第3の期間における送出速度の出力態様などを設定しておき、織機運転開始時における張力偏差に応じて、これらを選択するようにすればよい。このようにすれば、張力偏差に応じてこれらを設定し、その都度選択することが可能になり、より好ましい。
【0129】
さらには、第2の期間又は第4の期間では張力偏差を解消するための解消条件(係数)を小さい値の補正経糸送出速度が出力されるように設定しているが、張力偏差が解消された時点で、これまでの制御をやめ、この期間以降の解消条件に切り換えて(いわゆる定常運転時の解消条件をもとに)、張力偏差を解消する制御を行うようにすることもできる。
【0130】
上記いずれの実施例も、運転開始後における、張力偏差に対する補正送出速度の小さな値が出力される制御期間をより短くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明は、上記実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない限り、種々変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明に係る織り段防止装置を備えた織機の概略図である。
【図2】図1に示す織り段防止装置の一部を構成する巻取制御装置のブロック線図である。
【図3】図1に示す織り段防止装置の一部を構成する送出制御装置のブロック線図である。
【図4】図1に示す織り段防止装置の動作を説明するためのタイムチャート図である。
【図5】送出制御装置の他の実施例を示すブロック線図である。
【図6】図5に示す送出制御装置の動作を説明するための時間に対する出力を表したグラフである。
【図7】補正送出速度を発生する装置の他の実施例を示すブロック線図である。
【図8】緯糸密度パターンの実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0133】
D 巻径信号
T0 張力の目標値
T1 張力信号
V1 基本巻取速度
V2 起動時巻取速度
V3 基本送出速度
V4 補正送出速度
S0 運転信号
S1 回転速度信号
S2 主軸回転角度信号
S3 送出モータ速度信号
S4 緯糸密度信号
S6 加算信号
S7 送出速度信号
S8 送出速度指令
S11 第1の期間信号
S12 第2の期間信号
S13 第3の期間信号
S14 第4の期間信号
10 織機
12 経糸
14 送出ビーム
16 バックローラ
18 各綜絖枠
18 綜絖枠
20 筬
22 織前
24 織布
26 ガイドローラ
28 服巻ロール
30 プレスロール
32 布巻ビーム
34 送出モータ
36 送出トルク調整機構
38 巻径センサ
40,120 送出制御装置
42 タコジェネレータ
44 経糸張力センサ
46 主軸
48,50 運動変換機構
52 緯糸
54 巻取モータ
56 服巻トルク調整機構
58,60 エンコーダ
62 巻取制御装置
72 運転ボタン
92,110 ドライバー
98 加算部
108 減算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織機の運転開始から複数ピックの期間を含む第1の期間の間、定常運転時と異なる緯糸密度に設定された密度パターンであって最終的に定常運転時の緯糸密度に近づくように設定された密度パターンにしたがって巻取ロールを変速駆動させる巻取装置と、
経糸ビームの回転速度に対し、経糸の張力偏差を解消する方向に補正するための解消条件を基に、経糸ビームの回転速度に対する補正信号を出力して経糸ビームを回転駆動させる送出装置とを含む織機の経糸制御方法であって、
前記送出装置において、前記第1の期間の開始時点を開始時点としかつ前記第1の期間の終了時点又はそれ以降を終了時点として定められる第2の期間の間、経糸張力制御を実行すると共に、前記第2の期間における張力偏差に対する補正信号の値が、前記張力偏差に基づく値であって前記第2の期間後における同じ前記張力偏差に対する値よりも小さい値の前記補正信号が出力されるように、前記解消条件を設定することを含む、織機の経糸制御方法。
【請求項2】
前記密度パターンは、通常の緯糸密度を前記密度パターンの補正パターンに基づいて正規の密度に近づけるように変更すべく設定されている、請求項1に記載の経糸制御方法。
【請求項3】
前記密度パターンは、通常の緯糸密度を前記密度パターンの補正パターンに基づいて正規の密度に近づけるように変更し、その後さらなる変更により正規の密度に対する大小関係を逆転させると共に、前記正規の密度との差を増大させ、その後徐々に前記正規の密度に戻すように設定されている、請求項1に記載の経糸制御方法。
【請求項4】
前記送出装置は、前記第2の期間の間及びその後にわたって経糸の張力を制御すべく前記補正信号を出力する制御器を備え、
前記制御器は、張力偏差を予め定められる係数で増幅し、前記補正信号を出力するようにされており、
前記解消条件は、前記係数を含み、また前記第2の期間の間における前記係数をその期間後における係数値未満の値に設定される、請求項1から3のいずれか1項に記載の経糸制御方法。
【請求項5】
前記送出装置は、前記第2の期間の間及びその後にわたって経糸の張力を制御すべく前記補正信号を出力する制御器を備え、前記制御器は、張力偏差に対して比例要素及び積分要素の少なくとも一方を含む演算を行って前記補正信号を出力可能とされており、
前記解消条件は、前記比例要素及び積分要素の少なくとも1つを含み、また前記第2の期間の間における前記比例要素及び前記積分要素の少なくとも1つの係数をその期間後における係数値未満の値に設定される、請求項1から3のいずれか1項に記載の経糸制御方法。
【請求項6】
前記送出装置は、経糸の張力を制御すべく前記補正信号を出力する制御器と、前記第2の期間の間その出力結果に所定の係数を乗じてこれを前記補正信号として出力する演算器とを備え、
前記解消条件は、前記係数を含み、また前記第2の期間の間における前記係数をその期間後における係数値未満に設定される、請求項1から3のいずれか1項に記載の経糸制御方法。
【請求項7】
張力偏差に応じて複数の前記係数を設定すると共に、織機の起動時に張力偏差に対応する係数を選択する、請求項4から6のいずれか1項に記載の経糸制御方法。
【請求項8】
さらに、前記第2の期間内において、張力偏差が解消したとき、それ以降の張力偏差に対する前記係数を前記期間後における値に切り換えることを含む、請求項4から7のいずれか1項に記載の経糸制御方法。
【請求項9】
前記制御器は、前記解消条件を設定する設定器であって前記解消条件を前記期間毎に独立して入力可能の設定器に接続されている、請求項4から8のいずれか1項に記載の経糸制御方法。
【請求項10】
前記制御器は、前記第2の期間を設定する設定器であって前記第2の期間の長さを入力可能の設定器に接続されている、請求項4から9のいずれか1項に記載の経糸制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−214850(P2008−214850A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149252(P2008−149252)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【分割の表示】特願2003−99968(P2003−99968)の分割
【原出願日】平成15年4月3日(2003.4.3)
【出願人】(000215109)津田駒工業株式会社 (226)
【Fターム(参考)】