説明

織編用糸とこれを用いた織編物並びに無機繊維補強樹脂成形品とその製造方法

【課題】織編時に繊維の破損による毛羽立ちや繊維の脱落、いわゆる風綿の飛散などを防止し、無機繊維で補強された合成樹脂成形品を容易に形成できるようにする。
【解決手段】無機繊維の周囲に、高融点の熱可塑性合成繊維とこれよりも低融点の熱可塑性合成繊維とを配置して加熱する。溶融した低融点熱可塑性合成繊維で無機繊維と高融点熱可塑性合成繊維とを互いに接合する。この織編用糸と、熱可塑性合成繊維からなる第2織編用糸とを用いて織編物(5)にする。織編物(5)を金型(6)内に収容し、加熱して熱可塑性合成繊維を溶融したのち、冷却して固化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維等の無機繊維を有する織編用糸とその利用に関し、織編時に無機繊維の破損による毛羽立ちや繊維の脱落、いわゆる風綿の飛散などを防止し、無機繊維で補強された合成樹脂成形品を容易に形成できる、織編用糸とこれを用いた織編物並びに無機繊維補強樹脂成形品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素繊維等の無機繊維は優れた引張り強度を有するが、織物や編物を製造する際に、織編用糸の相互間や装置部品との摩擦により毛羽立ちや繊維の脱落を生じ、いわゆる風綿を生じる問題がある。また織編用糸の通過経路での屈曲により、無機繊維に破損を生じる虞も高い。特に炭素繊維は比重が軽く、その風綿は飛散しやすい。しかも炭素繊維は導電性が高いので、これらの風綿が電気装置や電子機器などの回路に侵入すると短絡を生じる虞もある。
【0003】
上記の炭素繊維やガラス繊維などを補強材として用いた合成樹脂成形品、いわゆるFRPは、無機繊維で補強したシートにマトリックスとなる合成樹脂を含浸させ、これを所定の形状に賦形したのち合成樹脂を硬化させることで形成される。上記の無機繊維は、成形品の形状に沿って配置されるのが好ましく、織成する場合も織目が付かないようにすると好ましい。このため、上記の無機繊維は一方向に引き揃え、これと直交する方向の合成繊維で溶着などにより固定することが提案されている(例えば、特許文献1参照、以下、従来技術1という。)。
【0004】
しかしこの従来技術1では、上記の無機繊維をこれと直交する繊維で溶着するので、無機繊維の自由度が低下し、平面状のシートは柔軟性が乏しく、立体形状に変形させることが容易でない。また、無機繊維が一方向に引き揃えてあるため、成形品の強度を全ての方向に対し均一にするには、これらのシートを複数枚重ねて無機繊維が互いに異なる方向へ配置する必要があるが、この場合に無機繊維の自由度が低いと、立体形状への変形が一層容易でない。
【0005】
また、熱溶着させずに炭素繊維を編み込む方法として、例えば緯糸挿入ラッセル編みなど、炭素繊維を編目に挿入する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照、以下、従来技術2という。)。しかし炭素繊維等の無機繊維は表面が滑りやすいので、この無機繊維を編目に挿入した従来技術2では、編み上げたのちハンドリングの際などに、無機繊維が長さ方向へ移動し易い。この結果、所定の立体形状へ変形した場合に、無機繊維が移動して配置が不均一となり、成形品が部分的に脆弱となる虞がある。また、含浸させる樹脂に対する無機繊維の比率を大きくした場合などには、その無機繊維間に合成樹脂を隙間なく均等に含浸させることが容易でない。このため、得られた成形品は無機繊維と合成樹脂との比率が部分的に不均一となり、所望の強度を得ることができなくなる問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−159047号公報
【特許文献2】特開2002−020953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の技術的課題は上記の問題点を解消し、織編時に無機繊維の破損による毛羽立ちや繊維の脱落、いわゆる風綿の飛散などを防止し、無機繊維で補強された合成樹脂成形品を容易に形成できる、織編用糸とこれを用いた織編物並びに無機繊維補強樹脂成形品とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するために、例えば本発明の実施の形態を示す図1から図6に基づいて説明すると、次のように構成したものである。
即ち、本発明1は織編用糸に関し、無機繊維(2)の周囲に、高融点の熱可塑性合成繊維(3)とこれよりも低融点の熱可塑性合成繊維とが配置してあり、上記の無機繊維(2)と高融点熱可塑性合成繊維(3)とが、加熱により溶融した上記の低融点熱可塑性合成繊維を介して互いに接合してあることを特徴とする。
【0009】
本発明2は織編物に関し、上記の本発明1の織編用糸(1)を用いて織成し若しくは編み上げてあることを特徴とする。
【0010】
本発明3は無機繊維補強樹脂成形品の製造方法に関し、無機繊維(2)で補強した樹脂成形品の製造方法であって、無機繊維(2)を用いた織編用糸(1)と熱可塑性合成繊維を用いた第2の織編用糸(4)とで織成し若しくは編み上げ、得られた織編物(5)を所定の形状に賦形して加熱することにより上記の熱可塑性合成繊維を溶融させたのち、これを冷却して固化することを特徴とする。
【0011】
本発明4は無機繊維補強樹脂成形品の製造方法に関し、無機繊維(2)で補強した樹脂成形品の製造方法であって、無機繊維(2)の周囲に熱可塑性合成繊維(3)を配置した織編用糸(1)を用いて織成若しくは編み上げ、得られた織編物(5)を所定の形状に賦形して加熱することにより上記の熱可塑性合成繊維を溶融させたのち、これを冷却して固化することを特徴とする。
【0012】
本発明5は無機繊維補強樹脂成形品に関し、無機繊維(2)で補強した樹脂成形品であって、上記の本発明3または本発明4の製造方法により形成したことを特徴とする。
【0013】
本発明1において、上記の無機繊維は、その周囲に配置された高融点の熱可塑性合成繊維と互いに接合してあるので、無機繊維がこの熱可塑性合成繊維により一本の糸状にバラけることなく維持され、さらにこの熱可塑性合成繊維で包まれて保護された状態となっている。しかもこの高融点の熱可塑性合成繊維は、溶融した低融点の熱可塑性合成繊維により無機繊維と接合してあるので、無機繊維を周囲から締め付ける必要がない。この結果、無機繊維は熱可塑性合成繊維の締め付け力で損傷されるという虞がないうえ、無機繊維の屈曲性が良好に維持される。
【0014】
ここで、上記の高融点の熱可塑性合成繊維は、例えば無機繊維の周囲に巻回したり、組紐状に製紐するなど、任意の手段で上記の無機繊維の周囲に配置してもよい。しかしこの高融点の熱可塑性合成繊維は、上記の無機繊維の周囲を取り囲む状態に、例えば丸編みなどにより編み上げてあると、この熱可塑性合成繊維で無機繊維を緩やかに拘束でき、無機繊維に対する締め付け力を一層抑制できて好ましい。
なお、上記の高融点の熱可塑性合成繊維は、上記の低融点の熱可塑性合成繊維とは別の糸に形成して、複数の糸を上記の無機繊維の周囲に配置してもよく、或いは、両合成繊維を合撚糸などのように1本の糸に形成して無機繊維の周囲に配置してもよい。
【0015】
上記の低融点の熱可塑性合成繊維は、加熱により容易に溶融して上記の無機繊維と高融点の熱可塑性合成繊維とを互いに接合できればよく、特定の材質の繊維に限定されない。具体的には、例えば融点が80℃〜180℃の低融点ポリアミド等が好ましく用いられ、融点が110〜150℃であるとさらに好ましい。
また上記の高融点の熱可塑性合成繊維は、例えば融点が200℃以上の熱可塑性合成繊維など、上記の低融点熱可塑性合成繊維よりも高融点であり、且つこの低融点熱可塑性合成繊維で上記の無機繊維に接合できるものであれば良く、特定の材質に限定されない。例えば、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリカーボネート繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維(PPS繊維)、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維等が挙げられ、特に、例えばPPS繊維や、高融点ポリアミド繊維等が好ましく用いられる。
【0016】
上記の無機繊維は、例えば炭素繊維やガラス繊維など、強度が高く、上記の高融点熱可塑性合成繊維よりも耐熱性に優れた繊維が用いられる。その材質は特定のものに限定されないが、特に炭素繊維であると軽量で強度が高く好ましい。
【0017】
上記の本発明2の織編物は、高強度の無機繊維で補強されているうえ、無機繊維の毛羽立ちが少ない。しかも、上記の織編用糸は無機繊維とその周囲の熱可塑性合成繊維とが接合してあるので、適度の摩擦力を備えており、無機繊維をそのまま用いた前記の従来技術2と異なって、織編後のハンドリングの際などに、無機繊維が滑って長さ方向へ移動することが防止され、無機繊維が均一に配置された状態に維持される。さらに、上記の無機繊維を含む織編用糸は、織編されているだけであるので、直交する糸と交点で互いに溶着された前記の従来技術1と異なって自由度が高いうえ、無機繊維の屈曲性が良好に維持されており、この織編物は優れたしなやかさや柔軟性を備える。
【0018】
上記の織編物は、上記の本発明1の織編用糸のみを用いて織成し若しくは編み上げてもよいが、この織編用糸と熱可塑性合成繊維からなる第2の織編用糸とを用いて織成し若しくは編み上げてもよい。この場合には、無機繊維と熱可塑性合成繊維との比率を、用途等に応じて任意に設定することが容易にできる。この比率は、無機繊維を織編物の全体の60重量%以下に設定すると、高い補強性能を確保しながら、織編物の柔軟性や加工性が良好となって好ましく、織編物の全体の10〜50重量%程度に設定すると、さらに好ましい。
【0019】
上記の織編物は、例えば平織や綾織、朱子織、ラッセル編みなど、任意の織構造や編構造を採用できる。例えば、上記の本発明1の織編用糸と上記の第2の織編用糸とを交互に配置して織成することも可能である。しかし、特に本発明1の織編用糸を緯糸に用い、熱可塑性合成繊維からなる第2の糸を経糸に用いた緯糸挿入ラッセル編みにより編み上げてあると、無機繊維を容易に直線状に配置できて好ましい。この緯糸挿入ラッセル編みにおいて、さらに経糸の一部に、上記の無機繊維を含む織編用糸を、編目を形成しない経糸として用いた場合は、タテ方向とヨコ方向の両方向に無機繊維が直線状に配置されて、さらに好ましい。
【0020】
上記の無機繊維を含む織編用糸は、緯糸と経糸とのいずれか一方にのみ用いることも可能であるが、いずれも直線状に配置された緯糸と経糸とに用い、これらの織編用糸の一面側と他面側とを通過する状態に、上記の第2の織編用糸を配置してあると、タテ方向とヨコ方向の両方向に無機繊維が直線状に配置され、無機繊維の強度特性が良好に発揮されて好ましい。しかもこの無機繊維を含む織編用糸は、第2の織編用糸で一面側と他面側との間に保持されるので、この無機繊維を均一に配置された状態に維持できる。さらに、この無機繊維を含む織編用糸は織編されているだけであるので自由度が高いうえ、無機繊維の屈曲性が良好に維持されているので、この織編物は優れたしなやかさや柔軟性を備えることができる利点もある。なおこの場合の織編物は、上記の緯糸挿入ラッセル編みに限定されず、平織や綾織、朱子織等の織構造であってもよい。
【0021】
本発明3または本発明4にあっては、上記の無機繊維と熱可塑性合成繊維が、織組織または編組織を構成しているので、上記の熱可塑性合成繊維が金型内等で加熱されて溶融すると、その溶融した熱可塑性合成樹脂が無機繊維の周囲を包み込む状態となる。そしてこの熱可塑性合成樹脂が上記の冷却により固化すると、この熱可塑性合成樹脂と無機繊維が一体化し、無機繊維で補強された熱可塑性合成樹脂成形品となる。
【0022】
上記の製法により形成された本発明5の無機繊維補強樹脂成形品は、無機繊維が織編物の織組織または編組織を構成しているので、成形品内に均一に配置される。
一方、熱可塑性合成繊維は、織編物の状態で無機繊維の周囲に配置されているので、液状の合成樹脂を無機繊維からなるシートに含浸させる工程が省略される。しかも、この熱可塑性合成繊維も織編物の組織を構成しているので、無機繊維と合成樹脂との比率が任意に設定されるうえ、無機繊維の比率が大きくても、熱可塑性合成樹脂が成形品内に均一に配置され、且つ、無機繊維間へ隙間なく行きわたった状態となる。
【0023】
上記の本発明4において、上記の織編物が本発明2の織編物であると、無機繊維が均一に配置された状態に維持され、しかも、無機繊維の自由度が高いうえ、屈曲性が良好に維持されており、織編物が優れた柔軟性等を備えることから、この織編物を所望の曲面状に変形させて、例えば所定形状の金型内へ容易に収容することができ、さまざまな形状の成形品を容易に形成できるので好ましい。
【0024】
なお上記の成形品は、上記の織編物に用いる合成繊維を加熱により樹脂化させるものであればよく、上記の織編物のみを用いて形成してもよい。しかし本発明では、この織編物と、熱可塑性合成繊維のみからなる織編物や熱可塑性合成樹脂製のフィルム・シートとを組み合わせて形成してもよく、或いは、上記の織編物に熱可塑性合成樹脂や熱硬化性合成樹脂を含浸させ、この含浸させた樹脂と上記の織編物に用いる合成繊維の樹脂化品とを組み合わせて、成形品に形成してもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明は上記のように構成され作用することから、次の効果を奏する。
【0026】
(1)本発明1にあっては、無機繊維を含む織編用糸を用いて織成し又は編み上げた場合に、無機繊維は周囲の熱可塑性合成繊維で、過剰に締め付けることなく保護されており、破損が抑制され、毛羽立ちや繊維の脱落による、いわゆる風綿の発生や飛散などが良好に防止される。しかも熱可塑性合成繊維は無機繊維を締め付ける必要がなく、緩やかに拘束するので、無機繊維の屈曲性を良好に維持できることから、織機や編機で円滑に織編することができる。
【0027】
(2)本発明2の織編物にあっては、無機繊維が周囲の熱可塑性合成繊維と接合してあるので、織編後のハンドリングの際などに、無機繊維が滑って長さ方向へ移動することを防止でき、無機繊維を均一に配置した状態に維持できる。しかも無機繊維を含む織編用糸は織編されるだけであるので、前記の従来技術1と異なってこの織編用糸の自由度が高いうえ、無機繊維の屈曲性が良好に維持されているので、織編物は優れたしなやかさや柔軟性を備えることができる。
【0028】
(3)本発明3又は本発明4の製法により形成された本発明5の無機繊維補強樹脂成形品にあっては、無機繊維と熱可塑性合成繊維とを織組織または編組織に構成しているので、無機繊維と熱可塑性合成樹脂とをそれぞれ成形品内で均一に配置できるうえ、両者の比率を任意に設定することが容易にできる。しかも、成形品に含まれる無機繊維の比率が大きくても、熱可塑性合成樹脂を無機繊維間に隙間なく均等に行きわたらせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態を示し、織編用糸の構造を示す拡大図である。
【図2】第1実施形態の、無機繊維を含む編物の編組織の模式図である。
【図3】第1実施形態の、金型へ収容する直前の織編物の一部破断斜視図である。
【図4】第1実施形態の、無機繊維補強樹脂成形品の一部破断斜視図である。
【図5】本発明の第2実施形態の、無機繊維を含む編物の編組織の模式図である。
【図6】本発明の第3実施形態の、無機繊維を含む編物の織組織の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0031】
図1に示す第1実施形態では、織編用糸(1)が無機繊維として炭素繊維(2)を備えており、この炭素繊維(2)の周囲に高融点の熱可塑性合成繊維(3)とこれよりも低融点の熱可塑性合成繊維とからなる糸が配置してある。この低融点熱可塑性合成繊維は、例えば融点が120℃のポリアミド繊維など、比較的低温で溶融する繊維が用いられる。また上記の高融点熱可塑性合成繊維(3)は、例えば融点が約280℃のPPS繊維や、融点が200℃以上のポリアミド繊維など、上記の低融点熱可塑性合成繊維よりも融点の高い繊維が用いられる。
【0032】
これらの低融点熱可塑性合成繊維と高融点熱可塑性合成繊維(3)は、合撚により1本の糸に形成してあり、これを上記の炭素繊維(2)の周囲を取り囲む状態に、丸編みなどにより編み上げたのち、加熱して上記の低融点熱可塑性合成繊維を溶融させてある。上記の炭素繊維(2)と高融点熱可塑性合成繊維(3)は、この溶融した低融点熱可塑性合成繊維により互いに接合されている。この結果、上記の炭素繊維(2)は上記の高融点熱可塑性合成繊維(3)により緩やかに拘束されるとともに、周囲から保護されており、バラけることなく一本の糸状に維持されている。
【0033】
上記の炭素繊維(2)を含む織編用糸(1)は、単独で、或いは熱可塑性合成繊維からなる第2の織編用糸(4)と組み合わせて、織成し若しくは編み上げることで、炭素繊維を含む織編物にされる。例えば図2に示す編物(5)は緯糸挿入ラッセル編みにより編み上げてある。上記の炭素繊維(2)を含む織編用糸(1)は、緯糸と一部の経糸に用いてあり、残りの経糸に熱可塑性合成繊維からなる第2の織編用糸(4)が用いてある。ここで、上記の織編用糸(1)を用いた経糸は編目が形成されておらず、上記の第2織編用糸(4)を用いた経糸で編目が形成してある。
なおこの第1実施形態では、上記の第2織編用糸(4)の編目(ループ)が隣のウエールに移動するデンビー編みにしてあるが、本発明の編組織はこの第1実施形態のものに限定されず、例えば鎖編みと組み合わせる等、他の編み方などによる編組織であってもよい。
【0034】
上記の炭素繊維(2)を含む織編用糸(1)は、上記の第2織編用糸(4)で形成した編目へタテ方向とヨコ方向の2方向へ略直線状に挿入した状態となっている。上記の編物(5)全体に対するこの炭素繊維(2)の比率は、上記の織編用糸(1)に含まれる炭素繊維(2)の比率と、この織編用糸(1)と上記の第2織編用糸(4)との比率で定まるが、編物(5)の用途等に応じて、例えば60重量%以下に設定され、好ましくは10〜50重量%に設定される。
【0035】
次に、上記の編物を用いて繊維強化樹脂成形品を形成する手順について説明する。
最初に、上記の編物(5)を単独で、或いは例えば図3に示すように複数枚を積層して、所定の形状の金型(6)間に収容する。この編物(5)は、上記の炭素繊維(2)を含む織編用糸(1)の自由度が高いうえ、この炭素繊維(2)の屈曲性が良好に維持されているので、充分に優れたしなやかさや柔軟性を備えており、上記の金型(6)で挟持することにより、その金型(6)の内面で任意に設定された所定形状に容易に変形させることができる。
【0036】
上記の金型(6)内に収容する編物(5)は、炭素繊維(2)の方向が互いに異なる状態に複数枚を重ねてあると好ましい。また、例えば図3に示すように、上記の変形により部分的に引き伸ばされる部位や、特に強度を高くしたい部位などに、上記の編物(5)からなる補充部材(7)を重ねて配置してもよい。なおこの補充部材(7)は、炭素繊維(2)を含む織編用糸(1)を用いて織成したものであってもよい。また、上記の編物(5)のみで充分に高い強度が得られる場合は、この補充部材を省略することも可能である。さらに、厚みが必要な場合であって、且つ、炭素繊維の比率が小さくなっても良い場合などには、熱可塑性合成繊維のみからなる織編物や、熱可塑性合成樹脂製のフィルム・シートを、上記の炭素繊維(2)を含む織編用糸(1)と重ねて上記の金型(6)内に配置してもよい。
【0037】
次に、上記の金型(6)内へ収容した状態で、上記の編物(5)を加圧下で上記の高融点熱可塑性合成繊維(3)の融点よりも高い温度に加熱する。これによりその熱可塑性合成繊維(3)が溶融し、その溶融した熱可塑性合成樹脂が上記の炭素繊維(2)の周囲を包み込む状態となる。その後、この熱可塑性合成樹脂を冷却して固化させ、金型(6)内から、例えば図4に示すような炭素繊維補強樹脂成形品(8)を取出す。得られた成形品(8)は、上記の熱可塑性合成樹脂と炭素繊維(2)とが、所定の比率で一体化しているだけでなく、炭素繊維(2)と熱可塑性合成樹脂とがそれぞれ成形品(8)内で均一に配置され、且つ、熱可塑性合成樹脂が炭素繊維(2)間へ隙間なく行きわたった状態となっている。
【0038】
上記の第1実施形態では、1枚の編物(5)につき直交2方向へ炭素繊維(2)が配置されているので、強度の等方性に優れた炭素繊維補強樹脂成形品(8)が容易に得られる。しかし本発明では、ヨコ方向のみに無機繊維を備えた織編物を用いてもよい。
例えば図5に示す第2実施形態では、上記の炭素繊維(2)を含む織編用糸(1)を緯糸とし、熱可塑性合成繊維からなる第2の織編用糸(4)を経糸とした緯糸挿入ラッセル編みにより編み上げてある。なおこの第2実施形態では、上記の経糸である第2織編用糸(4)の編目(ループ)が、隣のウエールに移動するデンビー編みと、同じウエールを移動する鎖編みとを組み合わせてあるが、この第2実施形態においても、上記の第1実施形態と同様、他の編み方などによる編組織であってもよい。
【0039】
また図6に示す第3実施形態では、上記の炭素繊維(2)を含む織編用糸(1)と、可塑性合成繊維からなる第2の織編用糸(4)とを、それぞれ交互に配置した平織りにより、織物(5)を形成してある。なお、この第3実施形態では平織りにしてあるが、本発明では綾織りなど他の織組織で織物(5)を形成したものであってもよい。また炭素繊維(2)を含む織編用糸(1)は、経糸と緯糸とのいずれか一方にのみ用いるものであってもよい。この織組織に用いる上記の織編用糸(1)と第2織編用糸(4)との比率は、任意に設定できることはいうまでもない。
【0040】
上記の実施形態で説明した織編用糸や炭素繊維を含む織編物、炭素繊維補強樹脂成形品及びその製造方法は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、各部材の材料や形状、寸法、編組織などをこの実施形態のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0041】
例えば、上記の各実施形態では無機繊維として炭素繊維を用いた場合について説明したが、本発明ではこれに代えてガラス繊維などを用いても良い。また上記の各実施形態では緯糸挿入ラッセル編みや平織りの場合について説明したが、他の織物や編物であってもよく、また上記の無機繊維を含む織編用糸のみで織編物を形成してもよい。
【0042】
さらに上記の各実施形態で用いた炭素繊維を含む織編用糸は、その炭素繊維の周囲を取り囲む状態に、低融点熱可塑性合成繊維と高融点熱可塑性合成繊維とからなる糸を丸編みなどにより編み上げたのち、加熱して上記の低融点熱可塑性合成繊維を溶融させてある。しかし本発明では、無機繊維を含む織編用糸を用いた織編物で成形品にする場合、この無機繊維の周囲に熱可塑性合成繊維を卷回等により配置させた糸や、これら周囲に配置する合成繊維を省略した糸など、他の構造の織編用糸を含む織編物を用いてもよい。
【0043】
上記の織編物全体に対する無機繊維の比率は、上記の各実施形態のものに限定されず任意に設定でき、熱可塑性合成繊維の種類は、上記の実施形態のものに限定されないことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の織編用糸や無機繊維を含む織編物、無機繊維補強樹脂成形品は、織編時に繊維の破損による毛羽立ちや繊維の脱落、いわゆる風綿の飛散などを防止し、無機繊維で補強された合成樹脂成形品を容易に形成できるので、炭素繊維などの無機繊維で補強した熱可塑性合成樹脂成形品の製造に好適である。
【符号の説明】
【0045】
1…無機繊維(炭素繊維)を含む織編用糸
2…無機繊維(炭素繊維)
3…高融点熱可塑性合成繊維
4…熱可塑性合成繊維からなる第2織編用糸
5…織編物(編物、織物)
6…金型
7…補充部材
8…無機繊維(炭素繊維)補強樹脂成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維(2)の周囲に、高融点の熱可塑性合成繊維(3)とこれよりも低融点の熱可塑性合成繊維とが配置してあり、
上記の無機繊維(2)と高融点熱可塑性合成繊維(3)とが、加熱により溶融した上記の低融点熱可塑性合成繊維を介して互いに接合してあることを特徴とする、織編用糸。
【請求項2】
上記の高融点熱可塑性合成繊維(3)は、上記の無機繊維(2)の周囲を取り囲む状態に編み上げてある、請求項1に記載の織編用糸。
【請求項3】
上記の高融点熱可塑性合成繊維(3)がポリフェニレンサルファイド繊維(PPS繊維)である、請求項1または請求項2に記載の織編用糸。
【請求項4】
上記の無機繊維(2)が炭素繊維である、請求項1から3のいずれかに記載の織編用糸。
【請求項5】
上記の請求項1から4のいずれか1項に記載の織編用糸(1)を用いて織成し若しくは編み上げてあることを特徴とする、織編物。
【請求項6】
上記の織編用糸(1)と、熱可塑性合成繊維からなる第2の織編用糸(4)とを用いて織成し若しくは編み上げてある、請求項5に記載の織編物。
【請求項7】
上記の無機繊維(2)を含む織編用糸(1)を緯糸に用い、上記の熱可塑性合成繊維からなる第2の織編用糸(4)を経糸に用いた、緯糸挿入ラッセル編みにより編み上げてある、請求項6に記載の織編物。
【請求項8】
さらに経糸の一部に、上記の無機繊維(2)を含む織編用糸(1)を、編目を形成しない経糸として用いた、請求項7に記載の織編物。
【請求項9】
上記の無機繊維(2)を含む織編用糸(1)は、いずれも直線状に配置された緯糸と経糸とに用いてあり、上記の第2の織編用糸(4)は、上記の織編用糸(1)の一面側と他面側とを通過する状態に配置してある、請求項6に記載の織編物。
【請求項10】
上記の無機繊維(2)が、織編物全体の60重量%以下である、請求項5から9のいずれかに記載の織編物。
【請求項11】
無機繊維(2)で補強した樹脂成形品の製造方法であって、無機繊維(2)を用いた織編用糸(1)と熱可塑性合成繊維を用いた第2の織編用糸(4)とで織成し若しくは編み上げ、得られた織編物(5)を所定の形状に賦形して加熱することにより上記の熱可塑性合成繊維を溶融させたのち、これを冷却して固化することを特徴とする、無機繊維補強樹脂成形品の製造方法。
【請求項12】
無機繊維(2)で補強した樹脂成形品の製造方法であって、無機繊維(2)の周囲に熱可塑性合成繊維(3)を配置した織編用糸(1)を用いて織成若しくは編み上げ、得られた織編物(5)を所定の形状に賦形して加熱することにより上記の熱可塑性合成繊維を溶融させたのち、これを冷却して固化することを特徴とする、無機繊維補強樹脂成形品の製造方法。
【請求項13】
上記の織編物(5)が、上記の無機繊維(2)を含む織編用糸(1)と熱可塑性合成繊維からなる第2の織編用糸(4)とを用いて織成し若しくは編み上げてある、請求項12に記載の無機繊維補強樹脂成形品の製造方法。
【請求項14】
上記の織編物(5)が、上記の請求項5から10のいずれかに記載の織編物である、請求項12または請求項13に記載の無機繊維補強樹脂成形品の製造方法。
【請求項15】
上記の無機繊維(2)が炭素繊維である、請求項11から14のいずれかに記載の無機繊維補強樹脂成形品の製造方法。
【請求項16】
無機繊維(2)で補強した樹脂成形品であって、上記の請求項11から15のいずれかに記載の製造方法により形成したことを特徴とする、無機繊維補強樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−57276(P2012−57276A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202815(P2010−202815)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(593020175)一村産業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】