説明

缶切不要蓋の製造方法

【課題】歪みを生じず外観に優れた缶切不要蓋の製造方法を提供する。
【解決手段】ラミネート鋼板に対し、パネル構造部とスコアを形成する。スコア形成時、スコア金型の断面は、先端が曲線で、該先端を挟んでなる2辺が前記曲線の接線で構成されるスコア刃部を有し、前記先端は曲率半径0.2mm以上0.4mm以下の曲線で構成され、前記2辺は蓋面に対する仰角θが0.3≦tanθ≦1.0である。また、前記パネル構造部は、前記スコア形成時に前記スコア金型をラミネート鋼板の板面に押圧する運動と同期した運動により形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶の蓋に形成された開口予定部を人手により容易に破断して開缶できる缶切不要蓋の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
缶切不要蓋(イージーオープンエンドとも言われ、以下、略してイージーオープン蓋と称することもある)は、図2に示すように、ボディーフック部6、チャックウォール部7、パネル部8、スコア部11、リベット部10、タブ9から構成される。そして、缶切不要蓋の材料には、塗装あるいは有機樹脂フィルムがラミネートされたアルミニウム板および鋼板が適用でき、主としてアルミニウムが用いられている。塗装またはラミネートされた鋼板は素材としては安価であるが、蓋加工後に補修塗装工程が必要となるため経済的なメリットが少ない。これらの理由から積極的に鋼板が利用されない状況にある。
この様な背景のもと、蓋の加工法を工夫し、その加工法に応じたラミネート鋼板を用いることで鋼板製イージーオープンエンドの補修塗装工程の省略化が様々に試みられてきた。
従来のイージーオープンエンドのスコア(切り込み溝)部形成用の金型断面を図7に示す。図7のように、従来はV字型のスコア金型が用いられていたので、蓋を切り開くためのスコア(切り込み溝)部の断面形状はV字状に成形されていた。そのため、ラミネート鋼板を材料として用いた場合、ラミネートフィルムがV字型のスコア金型により破断されて鉄部が露出する。よって、この部分の耐食性を確保するためにスコア加工後に補修塗装を行う必要があった。
これに対し、特許文献1では、ポリエステル樹脂を用い、従来のV字型のスコア金型を用いることなく、2工程の押出し加工(複合押出し加工)によってスコア部を成形することにより、無補修化を試みている。
特許文献2では、スコア加工に曲面金型を用いる事でフィルムの破断を防ぐことで無補修化を試みている。
また、特許文献3では、スコア加工に用いる曲面金型の断面形状を規定することで開缶性の改善と無補修化を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−115546号公報
【特許文献2】特開平11−91775号公報
【特許文献3】特開2004−298887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術はスコア部を成形する工程が複合押出し加工となるため、従来1工程であったスコア加工が2工程となり、それに対応するスペースが必要になる。そのため、従来の蓋加工設備には適用できない不具合がある。
一方、特許文献2および3の技術でスコア加工を行った結果、パネル部に従来のV型スコア金型を用いた際には認められなかった歪みが生じる不具合がある。この歪みは、蓋の外観を損ねるばかりではなく、スコア部の耐食性を損ねる。
本発明は、かかる事情に鑑み、新たな蓋加工設備を必要とせず、歪みを生じず外観に優れた缶切不要蓋の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は以下の通りである。
[1]両面に樹脂皮膜を有するラミネート鋼板を用い、パネル構造部とスコアを形成する缶切不要蓋の製造方法において、前記スコア形成に用いるスコア金型の断面は、先端が曲線で、該先端を挟んでなる2辺が前記曲線の接線で構成されるスコア刃部を有し、前記先端は曲率半径0.2mm以上0.4mm以下の曲線で構成され、前記2辺は蓋面に対する仰角θが0.3≦tanθ≦1.0であり、さらに、前記パネル構造部は、前記スコア形成時に前記スコア金型をラミネート鋼板の板面に押圧する運動と同期した運動により形成することを特徴とする缶切不要蓋の製造方法。
[2]前記[1]において、前記パネル構造部は、下記式を満たすように形成されることを特徴とする缶切不要蓋の製造方法。
-1.45t02 + 1.76t0 - 0.139≦h/(R0.5)≦-1.63t02 + 2.31t0 + 0.091
ただし、h(mm):パネル部のラミネート鋼板表面とスコア部が形成されるラミネート鋼板表面との平均距離、R(mm):スコア部中心からパネル部中心までの距離、t0(mm):ラミネート鋼板原板の板厚である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、新たな蓋加工設備を必要とせず、歪みを生じず外観に優れた缶切不要蓋が得られる。
このように、本発明では、ラミネート鋼板からなる缶蓋に開口予定部を形成する際に、缶蓋の両面に形成されている樹脂被覆の損傷による補修塗装を必要とせず、しかも、子供や老人でも容易に開缶することができる、開缶性の優れた缶切不要蓋が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のスコア金型の断面を示す図である。
【図2】缶切不要蓋の構成を示す図である。
【図3】本発明のスコア部とパネル構造部の同期した形成を示す断面図である。
【図4】パネル構造部の形成後におけるhおよびRを示す図である。
【図5】スコア加工に伴い膨らんだ形状の歪を説明する模式図である。
【図6】耐食性に及ぼす板厚の影響を示す図である。
【図7】従来のスコア金型の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
先ず、本発明のスコア金型について説明する。本発明のスコア金型は、スコア刃部先端断面は曲率半径0.2mm以上0.4mm以下の曲線で構成され、前記スコア刃部先端を挟んでなる2辺は前記スコア刃部先端を構成する曲線の接線であり、前記2辺は蓋面に対する仰角θが0.3≦tanθ≦1.0である特徴を有する。ここで、先端断面はスコア金型の円形部分の円中心を通り、該円の面に垂直な断面である。
【0009】
発明者らの調査によると、イージーオープン蓋の開缶力にはスコア部の断面形状ではなくスコア残厚が支配的に効いてくることがわかった。即ち、従来と同じ開缶力を得るためには、スコア残厚を従来どおりとすればよく、スコア形状は従来の形状のV字型としなくともよいことになる。よって、本発明では、スコア金型の形状は、V字型ではなく、ラミネート鋼板のフィルムをスコア加工によっても損傷しない曲面形状を取り入れた。すなわち、スコア刃の断面形状として、まず、先端部を曲線とし、これに続く2本の直線部がこの先端曲線を挟む2辺の接線になるように構成する。このような形状(以下、曲面形状とも呼ぶ)とすることで、開缶力を従来と同等に維持したままで無補修化を行うことができる。
【0010】
これまで、スコア加工法について様々な試みがされており、様々なスコア形状が提案されてきている。しかし、スコア残厚がより薄くなるような加工の場合、あるいはラミネート鋼板の板厚が厚い場合、同じスコア残厚を得るには加工がより厳しくなるためフィルムの破損を防止する効果は十分でない。
この理由について考察してみると、曲面形状のスコア加工においては、スコア金型が鋼板と接触する部分と接触しない部分の境界は、その境界点における接線の傾きが大きい程、せん断的であると考えられる。仮に、傾きが垂直であれば(スコア刃部分の断面形状が長方形のスコア金型で加工した場合)、境界点はせん断加工を受けることになる。逆に、傾きが0に近ければ(曲面金型の最下点)、せん断的要素が極めて少なくなる。この事から、曲面金型において、接線の傾きが大きくなるほどせん断的要素が大きくなることが窺える。従って、曲面の最下部ではせん断的要素が少ないが、端部ではせん断的要素が大きくなると言える。しかも、曲面上の各点における傾きは、tanθ(θは各点と曲線の中心点、曲線の最下点を結ぶ線で作られる角度)で表せるから、θが大きくなると急激に大きくなる傾向にある。一方、スコア加工の過程において、極初期は曲面の最下部近辺でのみ押圧されるが、加工が進むに従って、曲面の端まで含めて加工される事になる。厳しい加工において、フィルムの最薄部ではなく、スコアの端に近い部分でフィルムの破損が観察された事実は、この部分でせん断的要素が大きくなった為とも考えられる。
【0011】
以上の考察結果を基に、傾きが大きくなりすぎない(曲線の傾きが一定値を超えない)ようにする工夫を金型に施して様々な試験を試みた。その結果、以下に規定するスコア金型を完成するに至った。
図1は本発明の実施形態の一つであるスコア金型の断面図である。図1において、スコア金型1のスコア刃部1aの先端部分2は曲線で形成され、前記先端部分2を挟む2辺3、3’は前記先端部分2の曲線の接線となるように構成されている。なお、スコア刃部1aは、押圧加工することで、蓋本体(ラミネート鋼板)5にスコアを形成するスコア金型の突起部分である。図1中、θは前記辺3、3’の蓋面4に対する仰角θである。
そして、本発明では、前記曲率半径を0.2mm以上0.4mm以下、仰角θの関数tanθは0.3以上1.0以下とする。
【0012】
先端が曲線で、該先端を挟んでなる2辺が前記曲線の接線で構成:
スコア金型1の先端部分2を挟む2辺3、3’が前記先端部分2の曲線の接線でないと、前記辺3、3’と前記先端部分2の曲線とが交わる点において、鋼板面に対する仰角が急激に変化し、該部分で加工が厳しくなり、フィルムが破損しやすくなる。逆に、辺3、3’が前記先端部分2の曲線の接線となるように構成されると、該部分(接点)で鋼板面に対する仰角が滑らかに変化し、フィルムが破損し難くなる。
【0013】
曲率半径が0.2mm以上0.4mm以下、かつ0.3≦tanθ≦1.0:
曲率半径が0.2mm以上でtanθが1.0以下である場合、単純に曲率半径Rの曲面で加工するよりもフィルムが破損し難くなる。一方、曲率半径が0.4mmを超える場合、スコア幅が大きくなりすぎるとともに、加工量が増大するためフィルム加工が厳しくなる。曲率半径が0.2mm未満になると、辺の占める割合が高くなる事で、剪断成分が大きい部分が増え、フィルムが破損しやすくなる。tanθが0.3を下回る場合はスコア幅が大きくなりすぎるとともに、加工量が増大するためフィルム加工が厳しくなる傾向にあるため好ましくない。
【0014】
以上のように規定したスコア金型の作用について説明する。辺3、3’を先端部分2の曲線の接線としたことで、スコア加工時に働く応力の内、剪断成分を減少させることができる。断面形状が正円形状のスコア加工では、中心(スコアの最底部)から離れた部分で剪断成分が大きくなるが、剪断成分比率が一定以上大きくならないようにする配慮が接線の考え方である。しかし、正円の接線である以上、本発明の金型においては接線部分で剪断成分が最大となる(但し、正円の場合よりは剪断成分が大きくならない)。この点のみを考慮すると、接線部分の長さは短い方が望ましい。接線部分の長さを短くするために、正円部の曲率半径を大きくすることも考えられるが、この場合、加工量の増大とともに全体としての加工程度は厳しくなり、却ってフィルムが破損しやすくなる。逆に正円の曲率半径を小さくすると接線部分の占める割合が高くなる事で、剪断成分が大きい部分が増えフィルムが破損しやすくなる。曲率半径を0.2mm以上0.4mm以下に規定することで、上記問題点が解決できる。
先端部分2を挟む2辺3、3’は前記先端部分2の曲線の接線となるように構成されることで、フィルムの破損を防止する効果が最大限に発現される。しかし、前記したように、前記辺3、3’と前記先端部分2の曲線とが交わる点において、鋼板面に対する仰角が急激に変化しなければ、フィルムの破損を防止する効果が発現される。係る点を考慮し、本発明にあっては、スコア刃部1aの前記先端部分2を挟む2辺3、3’は、前記先端部分2の曲線の厳密な意味での接線ではなく、略接する辺で構成されてもよい。ここで略接する辺とは、厳密な意味での接線に対してある程度、例えば±3度程度の範囲内で傾斜して構成されている辺を指している。
【0015】
次に、上記スコア金型を用いての本発明の缶切不要蓋の一連の製造工程について説明する。
従来の加工工程は概ね以下のとおりである。先ず、板状素材を円形ブランクに打ち抜き、次いでプレス加工による浅絞りにより、図2に示すボディーフック部6、チャックウォール部7、パネル部8からなるベーシックシェルを作製する。ボディーフック部6はカール加工などによりベーシックシェルの中心部に向けて曲げこまれる場合もある。また、ボディーフック部6の図2における下面側には蓋として缶胴と巻締められた後の機密性を保持するため柔軟性のある樹脂コンパウンド(図示せず)が塗布される。さらに、ベーシックシェルのパネル部8には、リベット部10が形成される。リベット部10は後にタブ9を取り付けるために設けられるものである。次いで、スコア部11、パネル構造部12が、この順またはその逆の順で形成され、最後にタブ9が取り付けられて缶切不要蓋が完成する。なお、パネル構造部12は、開口時にタブ9に指を掛け易くするためと、脱離する蓋に強度を付与するためにプレスして設けられる。
【0016】
前記工程により、本発明のスコア金型を用いてスコアを形成した場合、条件によっては完成後のパネル部8およびパネル構造部12に、膨らみ状の歪みが生じることがわかった。これは従来のV型の断面形状をもつスコア金型を用いた際には顕在化しなかった問題であり、本発明のような曲面形状のスコア金型を用いた際に特徴的な現象である。また、本発明のスコア金型を用いた際に、パネル構造部12に、膨らみ状の歪みが生じる場合には、スコア部の耐食性に劣化が生じた。
【0017】
このような現象をもたらす原因は、スコア断面形状に起因すると考えられる。従来のV型形状に比べ、本発明のスコア形状はスコア加工によって被加工部から押し出される材料の体積が多い。その体積が、スコア部からチャックウォール部7側またはパネル部8の中心側に向けて移動することで、歪みが生じると考えられる。この際、チャックウォール部7は蓋の全周にわたってリム状に形成されている剛直な構造であるため歪みにくいが、パネル部8は平面的で撓み易いため、パネル部8で歪みが顕在化すると考えられる。
【0018】
また、この歪みが耐食性に及ぼす影響は、前記の缶切不要蓋の製造工程との関係から説明できる。前記のように、スコア部11とパネル構造部12とは、パネル部8に対して、(1)スコア部11の後にパネル構造部12が形成される場合と、(2)パネル構造部12の後にスコア部11が形成される場合とがある。
(1)の場合、スコア部11は平面的(リベット部10を除く)で撓み易いパネル部8に形成されるため、歪みが顕著に現れ、パネル部8の中央部分付近が膨らんだ形状となる。この歪みはスコア部11を変形させ、スコア部11のラミネートフィルムにも損傷をもたらす。その後、形成したパネル部8に対してパネル構造部12が形成される。この際、パネル部8の中央部の歪みはパネル構造部12の形成に伴って一部が矯正されるが、矯正しきれない歪みが残留する場合がある。このパネル構造部12の形成の際にもスコア部11は変形を受け、ラミネートフィルムにも損傷をもたらす。
一方、(2)の場合はパネル構造部12がまず成形される。スコア部11は、パネル構造部12が形成され剛直となったパネル部8に形成される。そのため、(1)のスコア加工にパネル部8の中央部付近に認められ膨らんだ形状の歪みは軽減される。ただし、歪みはスコア部11付近に認められるようになる。このスコア部11付近の歪みにより、スコア部11は変形し、スコア部11のラミネートフィルムにも損傷がもたらされる。
以上のように、従来の缶切不要蓋の製造工程である(1)または(2)のいずれによっても蓋の歪みが生じ、その歪みがスコア部11を変形させることでフィルムに損傷が生じ、耐食性が劣化することになる。
【0019】
この現象を回避するため、本発明者らが検討を行った結果、スコア部11を形成するためにスコア金型1をラミネート鋼板の板面に押圧する運動とパネル構造部12を形成する運動を同期で行うことが効果的であるという結論を得た。本発明で言う「同期で行う」あるいは「同期した運動により形成する」とは、スコア形成工程とパネル構造部形成工程を同時にあるいは連続した1工程として行うことである。「同期で行う」あるいは「同期した運動により形成する」際は、スコア形成工程とパネル構造部形成工程のどちらが先に始動してもよい。この工程では、スコア金型およびパネル用プレスの両者がラミネート鋼板に接触している時間がオーバーラップしているのが好ましい。なかでも、スコア金型およびパネル用プレスの各下限点への到達が同時になるのがより好ましい。
これは以下の理由による。 すなわち、スコア部11の形成にともなって生じる歪は、そもそもスコア部11に形成にともなって被加工部から押し出される材料の体積が、スコア部11からチャックウォール部7側またはパネル部8の中心側に向けて移動することで生じるのである。したがって、被加工部から押し出される材料の体積を、なんらかの手段で吸収することで、歪は解消される。ただし、この吸収手段は従来から行われている蓋の製造工程に追加される工程であると、製造工程の増加をもたらすため好ましくない。よって、従来から行われているパネル構造部12を形成する工程にこの吸収手段を担わせることが最も合理的である。すなわち、パネル構造部12の形成を、スコア金型1をラミネート鋼板の板面に押圧する運動と同期した運動において行うことで、スコア部11をパネル構造部12と同期して形成する。
【0020】
ここで、同期した運動とは、例えば、以下のように行うことである。すなわち、蓋の加工はプレス機に代表される往復運動を行う加工機を用いて行われる。この際、図3のようにスコア金型1とパネル構造部12を形成するパネル金型13とをプレス機の同一の往復運動内でラミネート鋼板5に加工を行う構造とすることで、同期した運動においてスコア部11とパネル構造部12とが形成される。なお、スコア金型1とパネル金型13はそれぞれ分離した個々の金型を組み合わせたものであっても、それらが一体であってもよい。図3の符号14はベーシックシェルである。
前記の同期した運動において、スコア部11は適切なスコア残厚を得るように形成される。適切なスコア残厚は、開缶力とスコア部の強度を両立する範囲で選定することができ、概ね0.03〜0.1mmが好ましい。
【0021】
また、本発明者らが検討した結果、パネル部のラミネート鋼板表面とスコア部が形成されるラミネート鋼板表面との平均距離をh(mm)、スコア部中心からパネル部中心までの距離(スコア部で形成される円の半径)をR(mm)、図6のラミネート鋼板原板の板厚をt0(mm)とした時、下記式(1)となるように形成することで、歪を解消し、耐食性の劣化を防ぐことができるとの知見に達した。
-1.45t02+ 1.76t0 - 0.139≦h/(R0.5)≦-1.63t02+ 2.31t0 + 0.091 ・・・(1)
以下に、この条件について説明する。
hは図4(a)に例示したように、パネル部のラミネート鋼板表面と、スコア部が形成されるラミネート鋼板表面との距離(高さ)を平均したもの(「パネル平均高」とも呼ぶ)である。なお、図4(b)に示すようにパネル構造部が段階的になっている場合は、それぞれの距離を平均したものとする。また、パネル構造部が図4(c)のように凸となっている場合も、スコア部が形成される板面ラミネート鋼板表面からの距離として決定する。スコア部は図2に示したように円形に形成され、パネル部と同心円を形成する。Rは、スコア円の中心(パネル部中心)15と形成されたスコア部の中心16との距離である。t0はラミネート鋼板原板であり、全体の板厚から両面のラミネートフィルムの厚みを除いた値である。
上記式(1)は実験結果に基づいて算出した結果であるため、その意味を理論的な厳密性を持って説明することはできないが、概ね以下の意味があると考えられる。hが大きいほど、パネル構造はラミネート鋼板を深く押し込んだ状態となり、変形量が大きいことを意味する。つまり、それだけスコア部から押し出される体積を吸収することに寄与する。しかし、hが大きすぎると、スコア部から押し出される体積を吸収するよりも必要以上にラミネート鋼板を変形させることになり、好ましくない。よって、スコア部から押し出される体積を過不足なく吸収するために、hは適切な範囲で設定することが必要になる。本発明では、hの適切な範囲を設定する指標として、単にhではなく、h/(R0.5)を用いた。以下にその理由を説明する。
前述のように、スコア加工によりスコア部から押し出される体積によってパネル部は膨らんだ形状の歪が生じる。図5はパネル部中心を通る蓋断面の片側を示したものである。膨らんだ形状は概ね円弧状になると考えられるが、簡単のためにこれを直線ACで近似すると、下記式(2)が成り立つ。
2+y2=(r+x)2 ・・・(2)
ここで、rはパネル部中心から膨らみの端部までの距離である直線ABの長さ、yは膨らみの高さである直線BCの長さ、xはスコア加工によりスコア部から押出される体積によって生じる伸びであり、(r+x)は直線ACの長さである。式(2)を変形すると、次の式(3)を得る。
={(r+x)2 -r2 }0.5 = r0.5・(2x+x2/r)0.5 ・・・(3)
さらに、xの大きさは微小であり、rに対しても小さいことから、x2/rは2xに対して無視し得る。よって、上記式(3)は式(4)のように近似できる。
y/(r0.5)≒(2x)0.5 ・・・(4)
ここで、本発明は、図5に示した膨らんだ形状の歪を高さhのパネル構造で矯正するものである。したがって、上記式(4)のyはhと関係付けられる。また、図5のrは、概ね本発明ではスコア部のパネル中心からの距離Rに相当する。つまり、y/(r0.5)はh/(R0.5)に関係している。
以上のように、h/(R0.5)がスコア加工によってスコア部から排除される体積に関係するため、本発明では、パネル構造の加工度を表す指標にh/(R0.5)を用いた。h/(R0.5)の上下限に板厚が関係するのは以下のように考えられる。
前記のように、スコア加工部11は適切なスコア残厚を得るように形成される必要がある。本発明で改善を行うパネル部の歪はスコア加工部から押し出される体積に関係するが、この体積はスコア残厚とラミネート鋼板の原板板厚との関係で決まるはずである。つまり、スコア残厚を一定の範囲にするためには、用いる原板板厚が厚いほど、スコア部から押し出される体積は大きい。よって、h/(R0.5)には原板板厚が影響する。
板厚の具体的な影響を調査した結果を図6に示す。加工の条件は、スコア部先端の曲率半径が0.3mm、tanθが0.7、板厚t0が 0.20mm、スコア残厚が0.07mm、スコア部で形成される円の半径Rが41mmとし、スコア部とパネル構造を同期して加工した。図中の○、×はスコア部の形成後の耐食性の評価結果であり、加工部を電解液(KCl 5%溶液、温度は常温)に浸し、鋼板と電解液間に6.2Vの電圧をかけた場合に測定される電流値が、0.1mA未満の場合を○、0.1mA以上の場合を×とした。0.1mA未満の領域が実用上十分な耐食性を示す。図6より、耐食性が良好なh/(R0.5)の範囲は、A(t0)≦h/(R0.5)≦B(t0)となる範囲である。ただし、A(t0)= -1.45 t02 + 1.76 t0 - 0.139、B(t0)= -1.63t02+ 2.31t0 + 0.091である。
なお、hの測定にあたって、リベット部は測定に含まないこととする。これは、リベット部の形成は、スコア加工およびパネル加工に先立って行われることに加え、リベット部の加工は被加工部の板厚を薄くすることで行われるため、スコア加工部から押し出される体積を吸収するには寄与しないためである。
【0022】
本発明のラミネート鋼板は、素材の各種表面処理鋼板の両面に、接着、ラミネート等の方法により、樹脂皮膜を形成することで製造できる。前述の表面処理鋼板としては、錫、亜鉛、ニッケル、クロム、あるいはそれらの合金を、1種または2種以上、鋼板表面にめっきしたものや、更に、上層にクロメート処理やリン酸塩処理のような各種化成処理を施したものが好適であり、前記の中で、金属クロム層と、その上層のクロム水和酸化物層とからなるクロメート皮膜が形成された所謂ティンフリースチールが特に好適である。
上記樹脂皮膜としては、食品衛生性、耐食性および加工性等の性能から、ポリエステルあるいはポリアミド等の熱可塑性樹脂の1種または2種以上から構成される樹脂フィルムを用いる。フィルム破断伸び、引張強度および引張弾性率等のフィルム物性を高い水準でバランスよく得るためには、単層及び二層以上のポリエステル樹脂から構成されたフィルムを用いることが好ましい。
具体的に使用されるポリエステル樹脂フィルムとしては、ジカルボン酸とジオールの縮重合で得られる線状熱可塑性ポリエステルフィルムであり、ポリエチレンテレフタレートで代表されるものである。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等の単独または混合物であり、ジオール成分としては、エチレングリコール、ブタジエングリコール、デカンジオール等の単独または混合物である。2種以上のジカルボン成分やジオール成分による共重合体や、ジエチレングリコール等の他のモノマーやポリマーとの共重合体であっても良い。なお、ラミネート方法としては、フィルム自体を熱接着するか、熱硬化型接着剤を塗布して鋼板表面に貼り付けるものとする。
樹脂皮膜の厚みは、10μm未満の場合には加工により皮膜の破断が生じやすく、逆に100μm超えの場合には、開缶後にフェザー性の劣化を招きやすく、また経済面からもコストアップとなり好ましくない。従って、樹脂皮膜の厚みは、10〜100μmの範囲内であることが望ましい。
ラミネート鋼板の板厚は0.15mm〜0.40mmが好適であり、スコア残厚については、良好な開缶性が得られる0.03〜0.1mmが好適であり、0.05〜0.07mmがより好適である。
なお、本発明は、プルトップ・タブ・タイプ缶蓋、ステイオン・タブ・タイプ缶蓋、あるいはフルオープン・タイプ缶蓋の何れにも適用することができる。
【実施例】
【0023】
(ラミネート鋼板)
板厚が0.2mm、0.25mmおよび0.3mmの3種類の鋼板の両面に、クロメート処理によって100〜120mg/mの量の金属クロム層と、その上層に金属クロム換算で14〜18mg/mのクロム水和酸化物層からなるクロメート皮膜を形成し、ティンフリースチールを得た。次いで、このティンフリースチールの両面に厚さ20μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムをラミネートした。
(ベーシックシェル)
前記により得られたラミネート鋼板を用い、プレス成形により、307径(チャックウォール部の内径86mm)、603径(チャックウォール部の内径156mm)のベーシックシェルを作製した。
(スコア金型)
図1に示すようにスコア刃部1aの断面形状が略三角形状で、その先端部分2が曲率半径Rの曲線で形成され、前記先端部分2を挟む2辺3、3’は前記先端部分2の曲線の接線となるように構成された金型を用いた。また、先端部分2の曲率半径rと辺3、3’の蓋面に対する仰角θを表1に示すように種々変えた。307径ベーシックシェルではスコア円の直径は82mm(半径41mm)、603径ベーシックシェルではスコア円の直径は152mm(半径76mm)になるようにした。
(パネル構造部金型)
パネル構造部はスコア円と同心円とした。307径ではパネル構造部の直径を74mm(半径37mm)、603径ではパネル構造部の直径を144mm(半径72mm)になるような金型を用いた。
(スコア形成およびパネル構造形成)
前記スコア金型、前記パネル構造部金型を用い、スコア部およびパネル構造部を形成した。スコア部の形成においてはスコア残厚は0.07mmとした。スコア部とパネル構造部の形成は、スコア形成後にパネル構造部を形成したもの(「個別」)と、スコア部とパネル構造部を同期して形成したもの(「同期」)とした。また、パネル構造部の平均距離(「パネル平均高」とも呼ぶ)hは種々に変更した。
(耐食性評価)
スコア部形成後の鋼板の耐食性の評価を以下の方法で行った。
加工部を電解液(KCl 5%溶液、温度は常温)に浸し、鋼板と電解液間に6.2Vの電圧をかけた場合に測定される電流値を測定した。電流値が0.01mA未満の場合を◎、0.01以上で0.1mA未満の場合を○、0.1以上で1mA未満の場合は△、1mA以上の場合は×とした。
(ラミネート鋼板)
以上により得られた結果を、条件と併せて表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1より、No.4、5は、スコア金型の形状が本発明範囲外であり、またスコア部とパネル構造部の形成を個別に行っているので、耐食性が最も劣る。
No.1から3は、スコア金型の形状は本発明範囲内であるが、スコア部とパネル構造部の形成を個別に行っている。これにより、耐食性はNo.4、5よりも若干良いが、未だ改善の余地がある。
No.6から10は、スコア金型の形状は本発明範囲内であり、スコア部とパネル構造部の形成を同期して行った本発明例である。これより、パネル構造の形成条件であるh/(R0.5)が本発明に規定した条件に合致しないまでも、No.1から3と比べて良い耐食性を示している。
No.11から14は、スコア金型の形状が本発明範囲外であるため、スコア部とパネル構造部の形成を同期して行ったにも関わらず、耐食性が劣る。
No.15から18、およびNo.23、25は、スコア金型の形状は本発明範囲内であり、スコア部とパネル構造の形成を同期して行い、かつパネル構造の形成条件であるh/(R0.5)が本発明に規定した好適条件内であるため、最も優れた耐食性を示す。
No.24、26は、スコア金型の形状は本発明範囲内であり、スコア部とパネル構造部の形成を同期して行った本発明例である。これらは、パネル構造の形成条件であるh/(R0.5)が本発明に規定した条件に合致しないまでも、No.6からNo.10と同程度の、比較的良い耐食性を示している。
No.19から22、No.27から30は、スコア金型の形状が本発明範囲外であるため、スコア部とパネル構造部の形成を同期して行い、かつパネル構造の形成条件であるh/(R0.5)が本発明範囲内であるが、耐食性は劣る。
【符号の説明】
【0026】
1 スコア金型
1a スコア刃部
2 金型の先端部分
3、3’ 金型の辺
4 蓋面
5 ラミネート鋼板
6 ボディーフック部
7 チャックウォール部
8 パネル部
9 タブ
10 リベット部
11 スコア部
12 パネル構造部
13 パネル金型
14 ベーシックシェル
15 スコア円の中心
16 スコア部の中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面に樹脂皮膜を有するラミネート鋼板を用い、パネル構造部とスコアを形成する缶切不要蓋の製造方法において、前記スコア形成に用いるスコア金型の断面は、先端が曲線で、該先端を挟んでなる2辺が前記曲線の接線で構成されるスコア刃部を有し、前記先端は曲率半径0.2mm以上0.4mm以下の曲線で構成され、前記2辺は蓋面に対する仰角θが0.3≦tanθ≦1.0であり、さらに、前記パネル構造部は、前記スコア形成時に前記スコア金型をラミネート鋼板の板面に押圧する運動と同期した運動により形成することを特徴とする缶切不要蓋の製造方法。
【請求項2】
前記パネル構造部は、下記式を満たすように形成されることを特徴とする請求項1に記載の缶切不要蓋の製造方法。
-1.45t02 + 1.76t0- 0.139≦h/(R0.5)≦-1.63t02 + 2.31t0+ 0.091
ただし、h(mm):パネル部のラミネート鋼板表面とスコア部が形成されるラミネート鋼板表面との平均距離、R(mm):スコア部中心からパネル部中心までの距離、t0(mm):ラミネート鋼板原板の板厚である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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