説明

置換されたトリチオカーボネート類を作製するためのプロセス

本発明は、溶媒洗浄または再結晶化ステップを必要とせず、先行技術における開示プロセスに比べて2倍超の実用収率をもたらすワンステップ・プロセスによって、置換されたトリチオカーボネート類およびその誘導体を合成する低コストの技術を提供する。一つの実施形態において、本発明は、トリチオカーボネートの酸生成物または一般構造:HOC−CR−S−C(=S)−S−Y(式中、Yは−CR−COHまたはRである)のトリチオカーボネートの酸生成物、或いはその誘導体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、置換されたトリチオカーボネート類およびその誘導体を作製するためのプロセスに関する。本請求項の発明によって生成される化合物は、制御されたフリーラジカル重合における重合開始剤、連鎖移動剤および/または重合停止剤として利用することができる。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
置換されたトリチオカーボネート類およびその誘導体は、制御されたフリーラジカル重合における重合開始剤、連鎖移動剤および/または重合停止剤としての利用を含む様々な応用において商業的に重要である。
【0003】
有機トリチオカーボネート類のクラスのいくつかのメンバーは長年にわたって知られ、それらの合成に様々な手段が採用されてきたが、本発明におけるトリチオカーボネート化合物をつくるプロセスは開示されていない。
【0004】
トリチオカーボネート類の従来の製造方法は、例えば、変換率が低い、廃物発生が多い、反応速度が遅い、大量の溶媒が必要、試薬の過剰な供給が必要、実用収率が低い(実用収率は、プロセスから収集されるトリチオカーボネート化合物の総量を、プロセスすべてにわたって供給されたすべての材料の総量で除し、百分率値を与えるために100を乗じることによって計算される重量百分率で定義される)、高価で時間がかかる最終生成物の溶媒洗浄および再結晶化が必要、およびしばしば固体生成物である最終的なトリチオカーボネート化合物を取り扱うコストおよび複雑さなど、多くの不利な点がある。トリチオカーボネート類を生成する従来の方法は、これらの欠点故に多くの商業的利用のいずれに対しても、商業的に大規模な利用が可能なトリチオカーボネート化合物の実用プロセスまたは方法、延いては大きな商業的供給源には繋がらなかった。
【0005】
本発明に開示されるトリチオカーボネート化合物の生成プロセスは、上述の問題を軽減し、トリチオカーボネート化合物を大規模に生成する商業的に実行可能な手段を提供する。
【0006】
特許文献1、Lai、2003年7月22日は、s,s’−ビス(α,α’−二置換−α’’−酢酸)−トリチオカーボネートおよびその誘導体、並びにそれらをつくるプロセスを開示している。開示されたプロセスは、用いられる塩基および供給される様々な試薬のマルチ反応ステップを必要とするマルチステップ・プロセスであり、第1のステップは、二硫化炭素および塩基を結合させて中間的なトリチオ構造を形成し、次に第2のステップは、この中間生成物をハロホルム、ケトンおよび付加的な塩基と結合させる。トリチオカーボネート類の調製に係る開示例は、すべて生成物が固体として分離され、収集される必要があり、一例においては付加的な溶媒を最終混合物に加えて生成物を沈殿させ、次に固体として分離する溶媒再結晶化ステップを必要とする。これらの例は、4.3重量%以下の実用収率をもたらす。なお、実用収率は生成物の量を、生成物を得るためのプロセス全体にわたる材料の総供給量で除し、次に100を乗じた百分率値として出願人により定義されている。特許文献1におけるこの最大実用収率4.3重量%は、同文献の例2に記載された収量である生成物40.3グラムを、この例における総供給量942グラムで除すことにより計算された。
【0007】
特許文献2、Laiら、2005年5月17日、および特許文献3、Lai、2005年11月8日は、トリチオカーボネート化合物を調製する同じマルチステップ・プロセスおよび同じ低実用収率を含めて、上述の特許文献1と同様の開示を有する。
【0008】
特許文献4、Parker、2006年5月2日は、イオン性液体を用いてエポキシドから環状トリチオカーボネート類を調製する方法を開示する。この開示された方法は、イオン性液体の少なくとも2回の再利用を可能にする。すべての開示例は、最終的な環状トリチオカーボネート類を結晶性固体として収集する再結晶化ステップを含み、先に定義された実用収率は5.8重量%以下である。
【0009】
本発明は、トリチオカーボネート誘導体を生成するために、上述のプロセスに代わる改善された代替手段を提供する。先行技術はこれらの化合物を生成するために、マルチステップ反応システムおよび再結晶化ステップを用いるが、実用収率が低くて変換量が少なく、廃物発生が多い。本請求項の発明は、実用収率が改善し、変換量が向上し、より高純度で廃物発生の少ないより簡単なプロセスを提供する。本請求項の発明は、それ故にこれらの化合物を商業的規模で生成する上での諸問題を解決し、トリチオカーボネート誘導体をつくる低コストの手段を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,596,899号明細書
【特許文献2】米国特許第6,894,116号明細書
【特許文献3】米国特許第6,962,961号明細書
【特許文献4】米国特許第7,038,062号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の要旨)
本発明は、溶媒洗浄または再結晶化ステップを必要とせず、先行技術の開示プロセスに比べて2倍超の実用収率、並びに高生成物純度、および反応物から所望の生成物への高変換率をもたらすワンステップ・プロセスによって、置換されたトリチオカーボネート類およびその誘導体を合成する低コストの技術を提供する。
【0012】
本発明は、トリチオカーボネートの酸生成物または一般構造:HOC−CR−S−C(=S)−S−Y(式中、Yは−CR−COHまたはRである)のトリチオカーボネートの酸生成物、或いはその誘導体を提供するために、T試薬:(i)CS、(ii)ハロホルムまたはその反応性同等物、および(iii)RC(=O)R構造のケトンまたはアルデヒド、並びに随意的に(iv)RSH構造のメルカプタン(式中、R、RおよびRは、R、RおよびRの少なくとも1つがヒドロカルビル基である条件の下で独立に水素またはヒドロカルビル基である)を反応させるプロセスを提供し、上記プロセスは、(a)単一の容器において、上記ケトンまたはアルデヒド、上記ハロホルム、および上記トリチオカーボネート生成物が可溶な有機溶媒中で、随意的に水とともに、試薬(i)、(ii)、(iii)、随意的に(iv)、および(v)金属水酸化物塩基を混合するステップであって、それによって塩基(v)と、試薬(i)と、ハロホルム(ii)と、ケトンまたはアルデヒド(iii)と、随意的なメルカプタン(iv)との反応から、塩基で中和された形態の上記トリチオカーボネート生成物が形成され、それによって水相が有機相と共存する、ステップ;(b)ステップ(a)の終わりに存在する水相および任意の固体を随意的に除去するステップ;(c)その後、容器に残存する混合物を酸と混合するステップであって、それによって上記トリチオカーボネートと上記酸との反応からトリチオカーボネートの酸が形成され、それによって水相が有機相と共存する、ステップ;(d)ステップ(c)の終わりに存在する水相および任意の固体を随意的に除去するステップであって、それによって上記トリチオカーボネートの酸が溶解した有機相が提供される、ステップ;および(e)ステップ(d)の上記有機相から上記トリチオカーボネートの酸を随意的に単離するステップであって、ステップ(b)、(d)および(e)によって、各ステップ中で反応混合物から不純物および反応副生成物が除去される、ステップを含む。
【0013】
本発明は、T試薬:(i)CS、(ii)ハロホルムを反応させるプロセスを提供する。本発明は、試薬(ii)のハロホルムはクロロホルム、ブロモホルムまたはその混合物であり;試薬(iii)のケトンまたはアルデヒドはアセトンであり;随意的な試薬(iv)のメルカプタンはドデシルメルカプタンであり;試薬(v)の塩基は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはその混合物であり;ステップ(a)における有機溶媒はアセトン、ヘキサン、ヘプタンまたはその混合物であり;ステップ(c)における酸は、リン酸、塩酸またはその混合物である、上述のプロセスをさらに提供する。本発明は、随意的な試薬(iv)のメルカプタンをジアルキルアミンで置き換えることも提供する。
【0014】
本発明の一実施形態は、随意的なステップ(b)および(d)が液相分離、排出、濾過またはその組み合わせによって独立に実行され、随意的なステップ(e)が液相分離、排出、濾過、フラッシュ除去、ケトル除去(kettle stripping)、真空除去またはその組み合わせによって実行される上述のプロセスを提供する。
【0015】
本発明は、(f)反応容器において、上記トリチオカーボネートの酸を、(vi)Rがヒドロカルビル基であるR−OH構造のアルコール、随意的に有機溶媒、および随意的に酸触媒と混合するステップであって、それによって上記トリチオカーボネートの酸と上記アルコールとの反応からトリチオカーボネートのエステルが形成されること、並びに(g)上記随意的な溶媒、随意的な触媒、および残存アルコールから上記トリチオカーボネートのエステルを随意的に単離することを含む上記プロセスをさらに提供する。
【0016】
本発明の一実施形態において、プロセスのすべてのステップは、独立にバッチ方式で実行される。別の実施形態において、ステップ(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)および(g)の1つまたはそれ以上は、独立に連続方式で実行される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(発明の詳細な説明)
様々な好ましい特徴および実施形態が、非限定的な説明を通じて以下に記載される。
【0018】
本明細書に後ほど記載される、本請求項のプロセスによって調製されるトリチオカーボネート類(TTC)は、一般に以下の化学式によってその酸性状態を記述できる:
【0019】
【化1】

(式中、RおよびRは、RおよびRの少なくとも1つはヒドロカルビル基であるという条件の下で独立に水素またはヒドロカルビル基であり、Rはヒドロカルビル基である)。
【0020】
本発明によって生成されるトリチオカーボネートのための短縮された反応は、一般に次のように記述できる:
【0021】
【化2】

本発明は、随意的な有機溶媒の存在下において、試薬:(i)CS、(ii)ハロホルム、および(iii)RC(=O)R構造のケトンまたはアルデヒド、並びに随意的に(iv)RSH構造のメルカプタンを用いる。ここで、RおよびRは、トリチオカーボネートを提供するために、RおよびRの少なくとも1つがヒドロカルビル基であるという条件の下で独立に水素またはヒドロカルビル基であり、Rはヒドロカルビル基である。
【0022】
(i)二硫化炭素。二硫化炭素および/または随意的なメルカプタンは、一般にトリチオカーボネートの生成反応を制御する試薬である。一般に随意的なメルカプタンは、二硫化炭素を換気系に逃がす能力の故に、律速性の試薬とすることができる。反応混合物中における相対量によっては、他の試薬も律速性の試薬として用いてよい。二硫化炭素は、硫化ナトリウム、或いは水酸化ナトリウムと硫化水素との混合物、または硫化水素ナトリウムと水酸化ナトリウムとの混合物など、その反応性の同等物と混合してもよく、二硫化炭素と硫化ナトリウムまたはその同等物は、約1:1のモル比で混合される。
【0023】
(ii)ハロホルム。本発明に用いるハロホルムは、一般式CHXを有し、各Xは独立に塩素または臭素である。本発明に用いるハロホルムの量は、一般に二硫化炭素1モル当たりハロホルムが1.0から20モルまで、一実施形態において二硫化炭素1モル当たりハロホルムが1.3から3モルまで、また別の実施形態において二硫化炭素1モル当たりハロホルムが1.8から2.5モルまでである。ハロホルム類の例は、限定されることなしに、クロロホルム、ブロモホルム、およびその反応性の同等物を含む。本発明の一実施形態において、ハロホルムの反応性同等物として、トリクロロ酢酸のような化合物を用いてもよく、この化合物は反応容器中において分解し、反応が以下に記載されるように進むことを可能にする。
【0024】
(iii)ケトンまたはアルデヒド。以下の一般式を有する任意のケトンまたはアルデヒドを本発明に用いることができ、
【0025】
【化3】

ここで、RおよびRは、独立に同じかまたは異なってもよく、水素またはヒドロカルビル基とすることができる。かかる化合物の例は、アセトン、ホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、アセトフェノンおよびメチルエチルケトンを含む。RおよびRは、さらに炭素原子の総数が5から約12までの環状リングを形成するか、またはその一部となることができる。RおよびRは、一実施形態において独立にメチルまたはフェニル基である。二硫化炭素は、一般に反応を制御する試薬なので、ケトンまたはアルデヒドは、一般に二硫化炭素1モル当たり1から20モルまでのケトンまたはアルデヒド、一実施形態において二硫化炭素1モル当たり1から3モルまでのケトンまたはアルデヒド、および一実施形態において二硫化炭素1モル当たり1.8から2.5モルまでのケトンまたはアルデヒドの量を用いる。
【0026】
ケトンまたはアルデヒドは、ステップ(a)における随意的な有機溶媒としても用いることができ、異なった溶媒を系に供給する必要性が省かれる。ケトンまたはアルデヒドを溶媒としても用いるとき、一般にすべての反応物の10から500重量パーセントまで、また別の実施形態においてすべての反応物の約50重量パーセントから約200重量パーセントまでの量を利用する。
【0027】
(iv)随意的なメルカプタン。一般式:
−SH
を有する任意のメルカプタンを本発明に用いることができ、Rは直鎖および分枝鎖ヒドロカルビル基の両方を含めてヒドロカルビル基とすることができる。典型的にRは、1から30までの炭素原子、一実施形態において1から20までの炭素原子、また別の実施形態において5から15までの炭素原子、およびまた別の実施形態において8から14までの炭素原子を含むヒドロカルビル基である。かかる化合物の例は、限定されることなしに、ノニルメルカプタンまでを含めて、n−ドデシルメルカプタンおよびtert−ドデシルメルカプタン、並びにかかるメルカプタンの誘導体までを含めてメチルメルカプタン、エチルメルカプタンなどを含む。
【0028】
メルカプタンは、一般に二硫化炭素1モル当たり約0.5から約30モルまでのメルカプタン、また別の実施形態において二硫化炭素1モル当たり約1から約10モルまでのメルカプタン、およびまた別の実施形態において二硫化炭素1モル当たり約5から8モルまでのメルカプタンの量を用いる。
【0029】
(v)金属水酸化物塩基。本発明における使用に適した金属水酸化物塩基は、限定されることなしに、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびその混合物を含む。本発明の一実施形態において、塩基は、水酸化テトラメチルアンモニウム溶液のような水酸化テトラアルキルアンモニウム溶液とすることができる。塩基は、一般に二硫化炭素1モル当たり1から15モルまでの塩基、また別の実施形態において二硫化炭素1モル当たり4から10モルまでの塩基の量を反応に用いる。
【0030】
ステップ(a)に存在する有機溶媒は、試薬(i)、(ii)、(iii)および(iv)、並びにトリチオカーボネートの中間生成物および酸性状態が可溶な任意の溶媒とすることができる。適切な溶媒は、限定されることなしに、ヒドロハロメチレン類、特にジクロロメタンおよびトリクロロメタンのようなヒドロクロロメチレン類;スルホラン、ジブチルエーテル、ジメチルスルホキシド、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、四塩化炭素、ヘプタン、キシレン、ミネラルスピリットなどをその混合物を含めて含む。ある実施形態において、溶媒は、ヘプタンまたはミネラルスピリットである。溶媒は、存在する場合、一般にすべての反応物の10から500重量パーセントまで、また別の実施形態においてすべての反応物の約50重量パーセントから約200重量パーセントまでの量を用いる。
【0031】
ケトンまたはアルデヒド(iii)は、溶媒のいくつか或いはすべてとして機能を果たすことができる。ケトンまたはアルデヒド(iii)が溶媒として機能を果たしている場合、他の有機溶媒を加える必要はない。
【0032】
酸性化ステップ、ステップ(c)、に用いる酸は典型的に鉱酸であり、限定されることなしに、塩酸、硫酸およびリン酸を含むことができる。この酸は、ステップ(c)の終わりの溶液を酸性にするのに適した量を利用する。一実施形態において、系のpHが5未満になるまで混合物に酸を加え、他の実施形態においてpHが4、3、および2以下になるまで酸を加える。
【0033】
本発明は、(a)単一容器において、上記ケトン、上記ハロホルム、および上記生成物が可溶な有機溶媒中において試薬(i)、(ii)、(iii)、随意的に(iv)および(v)金属水酸化物塩基を混合するステップであって、それによって塩基(v)、試薬(i)、ハロホルム(ii)、ケトン(iii)および随意的なメルカプタン(iv)の反応からトリチオカーボネートが形成され、それによって水相が溶媒相と共存するステップ;(b)ステップ(a)の終わりに存在する水相および任意の固体を随意的に除去するステップ;(c)結果として生じる混合物に酸性水溶液を混合する、或いは随意的に水および続いて酸性水溶液を加えるステップであって、それによって上記トリチオカーボネートと上記酸との反応からトリチオカーボネートの酸が形成され、それによって水相が溶媒相と共存するステップ;(d)ステップ(c)の終わりに存在する水相および任意の固体を随意的に除去するステップであって、それによって上記トリチオカーボネートの酸が溶解した有機相が提供されるステップ;および(e)上記トリチオカーボネートの酸を上記有機相から随意的に単離するステップであって、それによって不純物および反応副生成物がステップ(b)、(d)および(e)における反応混合から除去されるステップを含む。
【0034】
ステップ(a)、トリチオカーボネートの形成。試薬:(i)二硫化炭素、(ii)ハロホルム、(iii)ケトンまたはアルデヒド、随意的な有機溶媒、および(iv)随意的なメルカプタンを反応容器に加える。反応容器、および結果として生じる混合物の温度は、約−15℃から約80℃までに保持するとよい。反応容器を換気する場合、蒸発および/または混合物のフラッシングにより失われる二硫化炭素、並びに有機溶媒および他の試薬の量を抑えるために、反応容器をいくらか冷却して約−15℃から約30℃の温度を保持することもできる。成分(i)、(ii)、(iii)および随意的に(iv)をすぐに反応させず、塩基を加えるまでこの時点に留めることもできる。
【0035】
次に試薬(v)塩基を反応容器に加えると、それに基づいてトリチオカーボネート構造を形成する発熱反応が単一のワンステップ・プロセスで生じる。塩基を供給する間、反応容器における混合物の温度は、−15℃から80℃まで、例えば、約−5℃から25℃まで、または5℃から20℃までに保持すべきである。−15℃を下回る温度は、反応時間を増加させ、さらには所望の反応を抑制するところまでトリチオカーボネート生成に関する反応速度を低下させかねない。80℃を上回る温度は、トリチオカーボネートの副生成物およびその中間生成物の生成を促進し、生成物の最終的な収量を低下させる可能性がある。
【0036】
反応温度は、ステップ(a)の間、反応容器を冷却すること、加える試薬(v)塩基の供給速度を制御すること、枝付き冷却器または同等の熱交換器ないしその組み合わせを用いて反応容器における圧力、延いては有機溶媒の沸点を制御して還流冷却することによって、制御することができる。反応容器を冷却する付加的な手段は、当業者に明らかであろう。
【0037】
少量の水または酸を、塩基の添加前、後または間に反応容器に加えることができる。この随意的な水の供給は、塩基が水性の場合に塩基とともに加える任意の水と区別することができる。この水は、反応で形成される特定の中間生成種の反応速度を調整するために用いることができる。すなわち、アセトンとクロロホルムとの化学結合の反応副生成物であり別名アセトンクロロホルムまたはクロレトンとして知られる、1,1,1−トリクロロ−2−メチル−2−プロパノールの形成および分解が、試薬から所望のトリチオカーボネート構造への変換に影響を与えることがある。反応ステップの間に水を添加すると、これらの反応速度を制御する助けとなり、かくして変換および収率を最大化することができる。水または酸触媒によりクロレトンが分解されると、一酸化炭素が多量に放出される可能性がある。保持容器における一酸化炭素のビルドアップを低減および/または防止するために、いかなる残存クロレトンも最終的な反応生成物または水生の反応副生成物をパッケージングまたはドラム詰め前に分解すべきである。
【0038】
ステップ(a)における反応混合物に相間移動触媒を加えることができる。相間移動触媒の使用は、ケトンまたはアルデヒドとは異なる溶媒を反応に用いる場合、および複数の相が存在する場合に特に有用であり得る。ケトンまたはアルデヒドを試薬として、および溶媒として反応に利用するとき、一般にいかなる相間移動触媒も必要としない。相間移動触媒の量は、本発明に利用するとき、一般に二硫化炭素1モル当たり0.001から0.1モルまでの相間移動触媒、一実施形態において二硫化炭素1モル当たり0.005から0.5モルまで、また別の実施形態において二硫化炭素1モル当たり0.02から0.04モルまでである。相間移動触媒は、ポリエーテル、および/または周期律表の窒素族元素または酸素族元素の第3級または第4級有機化合物およびその塩を含むオニウム塩であってもよい。一実施形態において、相間移動触媒は、第4級アミンおよびその塩、例えば第4級水酸化アンモニアまたはハロゲン化物である。
【0039】
任意の特定メカニズムに限定されることは望まないが、随意的なメルカプタンが存在し、水酸化カリウムを塩基として用い、クロロホルムをハロホルムとして用いる場合、反応プロセスの具体的なメカニズムは、次の通りと考えられる:
【0040】
【化4】

但し反応シークエンスIおよびIIは同時に生じ、結果として生じる中間生成物は、形成されるとすぐにシークエンスIIIの反応を生じて発熱する。本発明の一実施形態において、発熱は、系への試薬の供給に依存して遅れるかまたは潜在的になる。この複雑なメカニズムによって、反応が完了するまでに出発試薬が所望のトリチオカーボネートに多量に変換されることは、これに相当するシークエンスが、異なった時間、さらには異なった反応容器で行われるマルチステップ反応に限られた先行技術では提案されていない、驚くべき結果である。
【0041】
本発明の一実施形態において、(iv)随意的なメルカプタンは、ジアルキルアミンで置き換えてもよく、ジアルキルアミンは、以下の構造を有する:R‐N(H)‐R(式中、RおよびRはヒドロカルビル基である)。かかる実施形態において、上述のステップIに示した反応は、同じ中間生成物をもたらすであろうし、図示したように次のステップに進むであろう。最初のメルカプタン‐塩基反応を必要とせず、代わりにジアルキルアミンと二硫化炭素間との反応からスタートすることになる。本発明に用いるためのジアルキルアミンは、限定されることなしに、ジメチルアミンのような1から12の炭素原子を含んだアルキル基をもつジアルキルアミンを含む。
【0042】
同様に、いかなる特定のメカニズムに限定されることもやはり望まないが、随意的なメルカプタンが存在せず、塩基として水酸化ナトリウムを用い、ハロホルムとしてクロロホルムを用いる反応プロセスに対する具体的なメカニズムは、以下の通りである:
【0043】
【化5】

【0044】
【化6】

但し反応シークエンスV、VIは同時に生じ、結果として生じる中間生成物は、形成されるとすぐにシークエンスVIIの反応を生じる。かさねて、このメカニズムによって、反応が完了するまでに多量に変換されることは、先行技術のマルチステップ反応では提案されていない驚くべき結果である。
【0045】
説明のための手段として、上図のメカニズムには塩基として水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムが示され、ハロホルムとしてクロロホルムが示される。本明細書では、付加的な塩基類およびハロホルム類を付加的に本発明に用いてもよい。塩および水のような反応副生成物は、上図のメカニズムに示されない。
【0046】
ステップ(a)は、塩としてのトリチオカーボネート構造またはその誘導体をもたらす。反応は、すべての試薬を反応容器中で同時に組み合わせた単一の処理ステップで完了し、反応を完了させるために一次試薬を引き続き供給する必要はない。
【0047】
本発明の一実施形態において、ステップ(a)で生じる様々な反応の反応速度は、反応混合物における溶媒の含有量、および反応に用いる具体的な溶媒を制御することによって制御される。ステップ(a)に存在する随意的な有機溶媒として、ヘプタンおよびトルエンを一緒に用いることができる。有機溶媒におけるヘプタン対トルエン比を制御することにより、ステップ(a)における反応速度に影響を及ぼし、総合的な反応速度を効果的に増減させることができる。当業者に明らかであろうように、反応速度制御のこの手段を上記の反応管理法と組み合わせて用いることができる。
【0048】
ステップ(b)、水相および固体の除去。ステップ(a)は、所望のトリチオカーボネートが溶解した有機相をもつ、有機相および水相の混合物をもたらす。水相は、反応メカニズムによって発生した水、(上述のような)所望の反応の促進に役立てるために反応容器に加えた任意の水、および試薬(v)に塩基水溶液を用いた場合、塩基の添加による水に由来する。多量の塩、すなわち反応から発生、溶解、水相に存在、および水相から脱落した塩も存在することができる。これらの塩は、ハロホルム誘導体と金属水酸化物塩基との反応から形成される。特に、反応シークエンスIIにおける第2の反応、および反応シークエンスIVは、ステップ(a)の終わりに水相に存在する塩を生成する。反応の完了を促進するために過剰の塩基を一般に加えるので、水相は一般に塩基性である。
【0049】
水相および塩は、この時点で反応容器から随意的に除去することができる。除去の方法は、限定されることなしに、系の沈降による相分離、下側の水層および塩の排出、沈殿した塩を除去する濾過、遠心分離、液/液抽出、およびその組み合わせを含む。
【0050】
反応容器からの水層および/または塩の除去は、生成物がより濃縮された混合物のプロセスを前に進め、かつ過剰な塩基の除去により次の酸性化に必要な酸を低減する利益を提供する。水層は、反応の間に形成された反応副生成物も含む可能性があり、この層の除去は、これらの反応副生成物の除去により生成物を精製するのに役立つ。
【0051】
ステップ(c)、トリチオカーボネートの酸の形成。ステップ(c)は、反応容器における混合物の酸性化に関する。酸性水溶液を反応容器に加えることができ、それによってステップ(a)において形成されたトリチオカーボネートと酸とが反応して、トリチオカーボネートの酸が形成される。発生すると考えられる反応、および結果として生じるトリチオカーボネートの酸を以下に図示する:
【0052】
【化7】

反応シークエンスIXは、随意的なメルカプタンが存在する場合の反応メカニズムおよび生成物を表し、反応シークエンスXは、随意的なメルカプタンが存在ない場合の反応メカニズムおよび生成物を表す。
【0053】
上図のメカニズムには、説明のために酸として塩酸が示される。本明細書に記載されるように、(硫酸のような)付加的な酸を本発明に用いてもよく、一実施形態において酸は水溶液である。塩および水のような反応副生成物は上図のメカニズムに示されていない。
【0054】
反応容器の温度をステップ(c)の間に制御し、混合物の温度を−5℃から25℃まで、または5℃から20℃までのように、−15℃から80℃までに保つことができる。−15℃を下回る温度は、関係する反応速度を低下させる可能性があり、反応容器の内容物における有機成分から、生成物および生じうる副生成物が欠如または脱落することを招きかねない。80℃を上回る温度は、トリチオカーボネート、および任意の残存中間生成物の分解を促進し、生成物の最終的な収率を減少させる。
【0055】
ステップ(d)水相および固体の除去。ステップ(c)は、所望のトリチオカーボネートが有機相に溶解した、有機相および水相の混合物をもたらす。水相は、反応メカニズムによって生成された水、および酸性水溶液を用いた場合、酸の添加からの水、に由来する。多量の塩、すなわち反応から発生、存在しうる任意の水相に溶解、およびそこから脱落した塩も存在することがありうる。これらの塩は、ステップ(a)において形成されたトリチオカーボネートと、ステップ(c)において供給された酸との反応から形成される。この反応は、トリチオカーボネートの酸および付加的な塩の形成をもたらす。トリチオカーボネートからトリチオカーボネートの酸への変換を促進するために過剰な酸を添加してもよいため、反応が完了したときに酸が残ることがあり、そのために水相は酸性の可能性がある。
【0056】
この時点で、反応容器から水相および塩を随意的に除去することができる。除去の方法は、限定されることなしに、系の沈降による相分離、下側の水層および塩の排出、沈殿した塩を除去する濾過、遠心分離、液/液抽出、およびその組み合わせを含む。反応容器からの水層および/または塩の除去は、必要な貯蔵容積を減らし、かつ(一般に酸性の水層を除去するので)腐食性を低めることができるように、生成物をより一層濃縮した混合物を前に進める利益を提供する。水層は反応の間に形成された反応副生成物も含むことがあり、層を除去することは、これらの反応副生成物を除去することによって生成物を精製する役割を果たす。
【0057】
ステップ(e)、生成物の単離。酸性化の後に、トリチオカーボネート生成物は、反応容器に存在する混合物の有機相に存在する。生成物の混合物からの単離は、限定されることなしに、任意の残存する水層の除去、水層に溶解した、或いは溶液から沈殿した任意の塩の除去、ステップ(a)から存在する任意の残存溶媒および過剰反応物の除去を含むことができる。
【0058】
水層および塩は、限定されることなしに、遠心分離、液/液抽出、水洗および相分離排出を含む手段によって除去することができ、それによって下側の水層および塩が反応容器の底から排出され、生成物を含む上側の有機層が反応容器に残る。過剰な溶媒および試薬は、限定されることなしに、ケトル除去、フラッシュ除去、真空除去、薄膜蒸着、分留、およびその組み合わせを含む手段によって除去することができ、上記材料は沸騰して反応容器から取り除かれる。生成物を単離するために、他の手段も同じく用いることができる。
【0059】
トリチオカーボネート生成物は、単離しなければ混合物中に存在するが、高純度を必要としないいくつかの応用には使用可能であるため、生成物の単離は随意的なステップである。最終生成物を精製および濃縮するために生成物の単離が望ましいことがある。
【0060】
生成物の水洗および溶媒洗浄は必須ではないが、生成物を単離する一環として、かかるステップも行うことができる。水または溶媒を反応容器に供給し、生成物を含む混合物と混ぜることができる。次に、反応容器の内容物を沈降させることができる。このとき、洗浄材料には生成物を含む混合物中に依然として残留していた副生成物、塩および過剰な試薬が含まれることもあるので、次に洗浄材料から生成物を単離することができる。
【0061】
生成物の溶媒洗浄に用いる溶媒は、トリチオカーボネート生成物が可溶な、または不溶な溶媒または溶媒混合物とすることができる。もし生成物が溶媒に可溶であれば、単離ステップは、残存副生成物を含む混合物から生成物を含む混合物を分離すること、および次に溶媒を除去して生成物を提供することを含むことができる。濾過または再結晶化ステップは本発明に必須ではないが、単離ステップにかかるステップも含まれてもよい。もし生成物が溶媒洗浄のいずれかに用いる溶媒に不溶であれば、単離ステップは、溶媒および反応副生成物を含む混合物から生成物を含む混合物を分離することであって、相分離、遠心分離、または液/液抽出によって完了することができる分離を含むことができる。
【0062】
エステル化。ステップ(a)から(e)までによって生成されたトリチオカーボネートの酸生成物は、さらにアルコールと反応させてトリチオカーボネートのカルボキシエステル(トリチオカーボネートのエステル)を形成することができる。これらのステップは、トリチオカーボネートの酸が形成された直後に、或いはしばらく後に完了させることができる。
【0063】
ステップ(f)、トリチオカーボネートのエステルの形成。トリチオカーボネートは、ステップ(a)から(e)までを行った同じ反応容器において、或いは別の反応容器においてエステル化することができる。分子式R−OH(式中、Rはヒドロカルビル基である)の任意のアルコールが本発明における使用に適する。Rが2から30までの炭素原子を含むヒドロカルビル基である第1級、第2級または第3級の自然のアルコール、例えば、Rが4から12までの炭素原子を含むヒドロカルビル基であるアルコールを用いることができる。本発明の一実施形態において、エステル化に用いるアルコールは、ブチルアルコールまたはラウリルアルコールである。
【0064】
エステル化に用いるアルコールの量は、一般にトリチオカーボネートのエステルに変換されるトリチオカーボネートの酸1モル当たりアルコールが約1から10モルまで、一実施形態においてトリチオカーボネートのエステルに変換されるトリチオカーボネートの酸1モル当たり1から5モルまで、また別の実施形態においてトリチオカーボネートのエステルに変換されるトリチオカーボネートの酸1モル当たり1から3モルまでである。
【0065】
トリチオカーボネートの酸にアルコールを加えることができ、さらに随意的な有機溶媒および随意的な酸触媒も加えることができる。ステップ(f)にとって適切な有機溶媒は、トリチオカーボネートの酸およびトリチオカーボネートのエステルが可溶な任意の溶媒とすることができる。適切な溶媒は、限定されることなしに、スルホラン、ジブチルエーテル、ジメチルスルホン、ジイソプロピルエーテル、ジ‐n‐プロピルエーテル、1,4‐ジオキサン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、四塩化炭素、ヘプタン、ペンタン、およびその混合物を含んだミネラルスピリットを含む。適切な溶媒は、かくしてヘプタンおよびミネラルスピリットを含む。溶媒は、存在するとき、一般にすべての反応物の10から500重量パーセントまで、また別の実施形態においてすべての反応物の50から200重量パーセントまでの量が利用される。
【0066】
随意的な酸触媒は、パラトルエンスルホン酸またはメタンスルホン酸とすることができる。酸触媒の量は、本発明に利用されるとき、一般にトリチオカーボネートのエステルに変換されるトリチオカーボネートの酸1モル当たり酸触媒が0.001から0.1モルまで、一実施形態においてトリチオカーボネートのエステルに変換されるトリチオカーボネートの酸1モル当たり0.005から0.5モルまで、また別の実施形態においてトリチオカーボネートのエステルに変換されるトリチオカーボネートの酸1モル当たり0.2から0.4モルまでである。
【0067】
ステップ(g)、生成物の単離。トリチオカーボネートのエステル生成物は、エステル化後に通常は反応容器に存在する混合物の有機相に存在する。エステル生成物の混合物からの単離は、限定されることなしに、任意の残存水層を除去すること、水層に溶解した或いは溶液から沈殿した任意の塩を除去すること、先行ステップから存在する任意の残存溶媒および過剰反応物を除去することを含むことができる。
【0068】
任意の水層および/または塩は、限定されることなしに、遠心分離、液/液抽出、下側の水層および塩を反応容器の底から排出させる相分離排出を含む方法により、生成物を含む上側の有機層を残して除去することができる。過剰な溶媒および試薬は、限定されることなしに、上記の非生成物材料を反応容器から沸騰させるケトル除去、フラッシュ除去、真空除去、薄膜蒸着、分留、およびその組み合わせを含む方法によって除去することができる。当業者に明らかであろうように、生成物を単離するために他の手段も同じく用いることができる。
【0069】
トリチオカーボネートのエステル生成物は、単離しなければ混合物中に存在するが、高純度を必要としないいくつかの応用にそれなりに使用可能なので、生成物の単離は随意的なステップである。最終エステル生成物を精製および濃縮するために、エステル生成物の単離が望ましいことがある。
【0070】
エステル生成物の水洗および溶媒洗浄は必須ではないが、エステル生成物を単離する一環として、かかるステップも行うことができる。水または溶媒を反応容器に供給し、エステル生成物を含む混合物と混ぜることができる。次に、反応容器の内容物を沈降させることができる。このとき、洗浄材料にはエステル生成物を含む混合物中に依然として残留していた副生成物、塩および過剰な試薬が含まれることもあるので、次に洗浄材料からエステル生成物を単離することができる。
【0071】
エステル生成物の溶媒洗浄に用いる溶媒は、トリチオカーボネートのエステル生成物が可溶な、または不溶な溶媒または溶媒混合物とすることができる。もし生成物が溶媒に可溶であれば、単離ステップは、残存副生成物を含む混合物から生成物を含む混合物を分離すること、および次に溶媒を除去して生成物を提供することを含むことができる。濾過または再結晶化ステップは本発明に必須ではないが、単離ステップにかかるステップも含まれてもよい。もし生成物が溶媒洗浄のいずれかに用いる溶媒に不溶であれば、単離ステップは、溶媒および反応副生成物を含む混合物から生成物を含む混合物を分離することであって、相分離、遠心分離、液/液抽出、およびその組み合わせによって完了することができる単離を含むことができる。
【0072】
本発明の一実施形態において、ステップ(a)、ステップ(b)、ステップ(c)、ステップ(d)、ステップ(e)、ステップ(f)およびステップ(g)は、バッチタイプのプロセスで実行され、ステップの成分は、上述と矛盾しない量で1つまたはそれ以上のバッチ反応容器に添加および/またはそれらから除去されて、1つまたはそれ以上の各バッチ反応における反応が完了することを可能にする。
【0073】
本発明のまた別の実施形態において、ステップ(a)、ステップ(b)、ステップ(c)、ステップ(d)、ステップ(e)、ステップ(f)、ステップ(g)、またはその組み合わせは、連続タイプのプロセスで実行することができ、上述の相対量に相当する流量が1つまたはそれ以上の連続的した反応容器に添加および/またはそれらから除去される。連続的なやり方で完了しないステップは、保持タンク、一時的中間貯蔵、およびバッチ処理ステップから連続処理ステップへおよび/またはその逆にプロセスを移行させるために用いる同様の処理ステップを用いて、バッチタイプのプロセスで完了させることができる。
【0074】
記載されたプロセス・パラメータに許容されるばらつきは、当業者に明らかであろう。
【0075】
本明細書では、用語「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」は、当業者によく知られる通常の意味に用いられる。具体的に、これは分子の残りの部分に直接に結合したカーボン原子を有し、主として炭化水素の特徴をもつ基を指す。ヒドロカルビル基の例は、以下を含む:
−炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、さらに芳香族、脂肪族、および脂環式置換芳香族置換基、並びに(例えば、2つの置換基が一緒に芳香環を形成する)分子のまた別の部分を通じて環が完成する環状置換基;
−置換炭化水素置換基、すなわち本発明の文脈において、置換基の主に炭化水素としての特性を変えない非炭化水素基を含む置換基(例えば、ハロ(特にクロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソとスルホキシ);
−ヘテロ置換基、すなわち、主に炭化水素としての特徴をもつ一方で、本発明の文脈において、炭素からなる環または鎖に炭素以外のものを含む置換基。ヘテロ原子は、硫黄、酸素、窒素を含み、ピリジル、フリル、チエニル、およびイミダゾリルのような置換基を包含する。非炭化水素置換基は、一般にヒドロカルビル基の10炭素原子ごとに高々2つ存在するに過ぎず、典型的にはヒドロカルビル基に非炭化水素置換基は存在しないであろう。
【実施例】
【0076】
比較例1‐マルチステップ反応プロセスによるTTC酸およびエステルの調製
機械撹拌器、熱電対、還流冷却器および添加漏斗を装備した5Lの被覆フラスコにおいて、ドデシルメルカプタン404.8グラム、アセトン1366グラム、およびAliquat336 48.4グラムを加えることによって、マルチステップ反応プロセスの第1の部分を実行する。温度を20℃未満に保ちながら、約40分にわたって50%の水酸化ナトリウム溶液168.0グラムを加える間、非サブライン窒素パージ下において溶液を4℃で撹拌する。添加後に、フラスコを10℃未満に冷却する。冷却した時点で、温度を10℃未満に保ちながら、2時間にわたって二硫化炭素152.0グラムをフラスコに加えることによって、マルチステップ反応の第2ステップを実行する。次に、アセトン199.0グラムをフラスコに追加して二硫化炭素添加漏斗をフラッシュする。フラッシュに続いて、クロロホルム358.1グラムをフラスコに加える。溶液を4℃まで冷ましながら、30分間混合する。
【0077】
次に、温度を27℃未満に保ちながら、2時間にわたって50%の水酸化ナトリウム溶液800グラムをフラスコに加える。溶液を次に10℃まで冷却し、一晩保持する。次に10℃および5.3kPa(40mmHg)の真空ケトル除去によってアセトンを除去する。真空除去後に、蒸留水2775グラム、および35%の塩酸332グラムをフラスコに加えてpH<2にする。相を5分間混合してその後分離させ、その時点で水相を排出させる。相分離が完了した時点で、ヘキサン1500グラムをフラスコに加え、混合物を52℃まで加熱する。この時点で、すべての水を確実に除去するために、もう一度相分離を完了させる。次に、68℃および5.3kPa(40mmHg)の真空ケトル除去によってヘキサンを除去する。回収されたトリチオカーボネートの酸生成物が300グラム存在し、実用収率3.7重量%を得る。なお実用収率は、回収された生成物の量を系に加えたすべての材料の合計で除して、次に100を乗じたものとして定義し、ここではトリチオカーボネートの酸生成物300グラムを全添加量8103.3グラムで除する。
【0078】
エステル反応のために、n‐ドデシルアルコール156.6グラム、およびメタンスルホン酸7.9グラムをトリチオカーボネートの酸生成物300グラムに加え、次に110℃まで加熱する。材料が110℃に達した時点で、還流条件下で水を収集しながら、材料を4時間これらの条件下で保持する。4時間後に、フラスコを49℃まで冷却する。次に、イソプロピルアルコール600グラムをフラスコに加える。次に一晩にわたって材料を冷却し、ブフナー漏斗を通してワンパス濾過してトリチオカーボネートのエステル生成物249.1グラムを収集し、実用収率2.8重量%を得る。なお、実用収率は、生成物の総量を、トリチオカーボネートの酸生成物を生成するための最初の反応(単数または複数)を含めて、生成物を生成するために全プロセスにわたって加えた総量で除し、次に100を乗じたものとして定義し、ここではトリチオカーボネートのエステル生成物249.1グラムを全添加量8867.8グラムで除する。
【0079】
実施例2‐ワンステップ・プロセスによるTTC酸およびエステルの調製
570L(150ガロン)のステンレス製反応器において、ドデシルメルカプタン20.4kg(45ポンド)、アセトン151kg(333ポンド)、二硫化炭素8.4kg(18.5ポンド)、およびクロロホルム29.5kg(65ポンド)を加えることによって、単一の反応プロセスを完了させる。反応器を約33.3kPa(250mmHg)に減圧する。温度を21℃未満に保ちながら、1.5時間にわたって45%の水酸化カリウム溶液塩基125.2kg(276ポンド)を加える間、溶液を4℃で混合する。塩基の添加が完了した時点で、ヘプタン151.0kg(333ポンド)、水68.0kg(150ポンド)、および次に35%の塩酸65.8kg(145ポンド)を加えてpH<2にする間、反応器を4℃付近まで冷却する。内容物を1時間混合した後に撹拌を停止する。沈降後に、下側の水相および固体塩を排出させる。相分離物を排出させた後、反応器に水158.8kg(350ポンド)を加え、15分間混合する。相分離を繰り返す。有機材料を次に380L(100ガロン)のガラスライニング加工を施した反応器に移し、続いて水113.4kg(250ポンド)を加えて、有機層と混合する。相を再び分離させて、水層を排出させる。最後に、系を52℃まで加熱し、系の圧力を5.3kPa(40mmHg)に維持することによって、系からアセトンを除去する。回収されたトリチオカーボネートの酸生成物が68.2kg(150.3ポンド)存在し、先に定義した実用収率は7.6重量%となる。
【0080】
エステル反応のために、380L(100ガロン)の反応器中における除去後の材料68.2kg(150.3ポンド)にヘプタン36.3kg(80ポンド)、ブタノール18.6kg(41ポンド)およびパラトルエンスルホン酸3.9kg(8.5ポンド)を加え、次に110℃まで加熱した。材料が110℃に達した時点で、ヘプタンを還流させ水を収集しながら、材料を12時間これらの条件下で保持する。12時間の保持後に、反応器を<66℃まで冷却する。冷却後に、10%の重炭酸ナトリウム溶液19.5kg(43ポンド)を反応器に加える。5分間混合した後、相を分離させて下側の水相を排出させる。水層を排出させた後、水158.8kg(350ポンド)を反応器に加え、15分間混合して生成物を水洗する。相分離を繰り返す。次に、水158.8kg(350ポンド)を加え、有機層と混合して最終洗浄を行う。相を再び沈降させて水層を排出させる。最後に、材料を85℃および5.3kPa(40mmHg)で真空ケトル除去を行う。回収されたトリチオカーボネートのエステル生成物が38.1kg(84.1ポンド)存在し、先に定義した実用収率は3.0重量%となる。
【0081】
実施例3‐ワンステップ・プロセスによるTTC酸およびエステルの調製
1900L(500ガロン)のステンレス製反応器において、ドデシルメルカプタン66.7kg(147ポンド)、アセトン494.4kg(1090ポンド)、二硫化炭素27.7kg(61ポンド)およびクロロホルム97.5kg(215ポンド)を加えることによって、単一ステップ反応プロセスを実行する。反応器を約33.3kPa(250mmHg)まで減圧する。温度を32℃未満に保ちながら、2.5時間にわたって45%の水酸化カリウム塩基溶液412kg(908ポンド)を加える間、溶液を4℃で混合する。塩基の添加が完了した後、ヘプタン408.2kg(900ポンド)、水68.0kgキログラム(150ポンド)、および35%の塩酸215.9kg(476ポンド)を反応器に加えてpH<2にする間、反応器を4℃付近まで冷却する。内容物を30分間混合した後に撹拌を停止する。沈降後に、下側の水層および固体塩を排出させる。相分離物を排出させた後、水158.8kg(350ポンド)を反応器に加え、系を15分間混合して材料を水洗する。相分離を繰り返す。有機材料を次に380L(100ガロン)のガラスライニング加工を施した反応器に移す。最後に、52℃および8.0kPa(60mmHg)の真空ケトル除去によって溶媒を除去する。回収されたトリチオカーボネートの酸生成物210.9kg(465ポンド)が存在し、先に定義した実用収率は10.8重量%となる。
【0082】
エステル反応のために、380L(100ガロン)の反応器におけるトリチオカーボネートの酸性材料210.9kg(465ポンド)にヘプタン120.2kg(265ポンド)、ブタノール61.2kg(135ポンド)およびパラトルエンスルホン酸12.7kg(28ポンド)を加え、次にこれを110℃まで加熱する。材料が110℃に達した時点で、ヘプタンを還流させ水を収集しながら、材料をこれらの条件下で12時間保持する。12時間の保持後、反応器を<66℃まで冷却する。冷却後、10%の重炭酸ナトリウム溶液79.4ポンド(175ポンド)を反応器に加える。5分間混合した後、相を分離させて、下部の水相を排出させる。水相を排出させた後、水158.8kg(350ポンド)を反応器に加え、15分間混合して材料を水洗する。相分離を繰り返す。最後に、材料を85℃および5.3kPa(40mmHg)で真空ケトル除去を行う。回収されたトリチオカーボネートのエステル生成物が123.8kg(273ポンド)存在し、先に定義した実用収率は5.2重量%となる。
【0083】
実施例4‐ワンステップ・プロセスによるTTC酸およびエステルの調製
1900L(500ガロン)のステンレス製反応器において、ドデシルメルカプタン66.7kg(147ポンド)、アセトン494.4kg(1090ポンド)、二硫化炭素27.7kg(61ポンド)およびクロロホルム97.5kg(215ポンド)を加えることによって、ワンステップ反応プロセスを完了させる。反応器を約33.3kPa(250mmHg)まで減圧する。温度を21℃未満に保ちながら、1.5時間にわたって45%の水酸化カリウム塩基溶液411.9kg(908ポンド)を加える間、溶液を4℃で混合する。塩基の添加が完了した後、反応器を21℃付近まで冷却し、反応器を大気圧にする。層を次に分離させて、下側の水相および固体塩を排出させる。水層を排出させた時点で、有機材料を次に1900L(500ガロン)のガラスライニング加工を施した反応器に移す。次に、水181.4kg(400ポンド)および35%の塩酸90.7kg(200ポンド)を反応器に加え、系を2未満のpHにする。内容物を30分間混合した後に撹拌を停止し、系を沈降させて下側の水相の分離を可能にする。トリチオカーボネートの酸生成物を含む有機材料を次にドラムに詰め、複合物の除去およびエステル化のために保存する。
【0084】
上記プロセスをさらに2回繰り返し、合計3つの反応とする。第2の反応は、水90.7kg(200ポンド)および塩酸45.4kg(100ポンド)を、それぞれ181.4kg(400ポンド)および90.7kg(200ポンド)の代わりに用いる以外、上記にリストした同じ添加量を用いる。第3の反応は、第1の反応と比較して約20%拡大させてドデシルメルカプタン81.2kg(179ポンド)、アセトン593.3kg(1308ポンド)、二硫化炭素33.1kg(73ポンド)、クロロホルム117.0kg(258ポンド)、45%の水酸化カリウム484.0kg(1067ポンド)、水108.9kg(240ポンド)および塩酸54.4kg(120ポンド)を用いた。上述の添加量の違いを除いて、上記の第1の反応について記載した同じ手順を第2および第3の反応に用いる。
【0085】
3つの反応が完了したとき、3つすべての反応から生成されたトリチオカーボネートの酸生成物を含む、収集された有機材料を次に1900L(500ガロン)のガラスライニング加工を施した反応器において混ぜ合わせる。次に、52℃および8.0kPa(60mmHg)の真空ケトル除去により系からアセトンを除去する。回収されたトリチオカーボネートの酸生成物が730.7kg(1611ポンド)存在し、先に定義した実用収率は17.9重量%となる。
【0086】
エステル化のために、除去を行った材料にヘプタン381.0kg(840ポンド)、ブタノール196.0kg(432ポンド)およびパラトルエンスルホン酸40.8kg(90ポンド)を加え、次に110℃まで加熱する。材料が110℃に達した時点で、ヘプタンを還流させ水を収集しながら、材料をこれらの条件下で16時間保持する。16時間の保持後に、反応器を<66℃まで冷却する。冷却後に、10%の重炭酸ナトリウム溶液147.9kg(326ポンド)を反応器に加える。5分間混合した後、相を分離させて下側の水相を排出させる。水層を排出させた後、水158.8kg(350ポンド)を反応器に加え、系を15分間混合して生成物を水洗する。相分離を繰り返す。最後に、85℃および5.3kPa(40mmHg)で材料の真空ケトル除去を行う。回収されたトリチオカーボネートのエステル生成物が415.5kg(916ポンド)存在し、先に定義した実用収率は8.3重量%となる。
【0087】
実施例5‐ワンステップ・プロセスによるTTC酸およびエステルの調製
1900L(500ガロン)のステンレス製反応器において、ドデシルメルカプタン100.2kg(221ポンド)、アセトン743.9kg(1640ポンド)、二硫化炭素41.7kg(92ポンド)およびクロロホルム146.5kg(323ポンド)を加えることによって、ワンステップ反応プロセスを完了させる。反応器を約33.3kPa(250mmHg)まで減圧する。温度を32℃未満に保ちながら、4時間にわたって45%の水酸化カリウム塩基溶液553.4kg(1220ポンド)を加える間、溶液を4℃で混合する。塩基の添加が完了した後、反応器を21℃付近まで冷却し、反応器を大気圧する。次に層を分離させて、下側の水層および固体塩を排出させる。水層を排出させた時点で、有機材料を次に1900L(500ガロン)のガラスライニング加工を施した反応器に移す。次に、水79.4kg(175ポンド)および35%の塩酸56.7kg(125ポンド)を反応器に加えてpH<2にする。内容物を30分混合した後に撹拌を停止して、系を沈降させ、下側の水層の分離を可能にして、これを除去する。トリチオカーボネートの酸生成物を含む有機材料を次にドラムに詰め、複合物の除去およびエステル化のために保存する。上記プロセスをさらに2回繰り返し、合計3つの反応とする。反応間の単なる違いは、第2の反応では水113.4kg(250ポンド)および塩酸56.7kg(125ポンド)、第3の反応では水113.4kg(250ポンド)および塩酸69.4kg(153ポンド)を用いることに過ぎない。3つすべての反応から生成されたトリチオカーボネートの酸生成物を含む、収集された有機材料を次にガラスライニング加工を施した反応器において混ぜ合わせる。次に、52℃および5.3kPa(40mmHg)の真空ケトル除去により系からアセトンを除去する。回収されたトリチオカーボネートの酸生成物が880.0kg(1940ポンド)存在し、先に定義した実用収率は16.8重量%となる。
【0088】
エステル反応のために、除去を行った材料880.0kg(1940ポンド)にヘプタン272.2kg(600ポンド)、ブタノール276.2kg(609ポンド)およびパラトルエンスルホン酸57.2kg(126ポンド)を加え、次に110℃まで加熱する。材料が110℃に達した時点で、ヘプタンを還流させ水を収集しながら、材料をこれらの条件下で12時間保持する。12時間の保持後に、反応器を<66℃まで冷却する。冷却後に、10%の重炭酸ナトリウム溶液149.7kg(330ポンド)を反応器に加える。5分間混合した後、相を分離させて、下側の水相を排出させる。最後に、85℃および5.3kPa(40mmHg)で材料からの除去を行う。回収されたトリチオカーボネートのエステル生成物が597.2kg(1316.5ポンド)存在し、先に定義した実用収率は10.0重量%となる。
【0089】
実施例6‐ワンステップ・プロセスによるTTC酸およびエステルの調製
機械撹拌器、熱電対、還流冷却器および添加漏斗を装備した12Lの被覆フラスコにおいて、ドデシルメルカプタン626グラム、アセトン5052グラム、二硫化炭素260グラムおよびクロロホルム915グラムを加えることによって、ワンステップ・プロセスを完了させる。温度を32℃未満に保ちながら、3時間にわたって45%の水酸化カリウム塩基溶液3480グラムを加える間、非サブライン窒素パージ下において溶液を10℃で撹拌する。添加後に、フラスコを約32℃付近に保持する。相を次に分離させて、下側の水相および固体塩を排出させる。水層を排出させた後、水1136グラムおよび35%の塩酸568グラムをフラスコに加えて2未満のpHにする。相を再び分離させて、水相を排出させる。最後に、66℃および2.7kPa(20mmHg)の真空ケトル除去によりアセトンを除去する。回収されたトリチオカーボネートの酸生成物が6009グラム存在し、先に定義した実用収率は約44.9重量%となる。
【0090】
エステル反応のために、ヘプタン417グラム、ブタノール425グラムおよびメタンスルホン酸87グラムを、除去を行ったトリチオカーボネートの酸性材料6009グラムに加え、次にこれを110℃まで加熱する。材料が110℃に達した時点で、水を収集しながら、材料をこれらの条件下で12時間保持する。4時間後に、フラスコを<66℃まで冷却する。冷却後に、10%の重炭酸ナトリウム溶液556グラムをフラスコに加える。5分間混合した後、相を分離させて、下側の水相を排出させる。最後に、85℃および2.7kPa(20mmHg)で材料からの除去を行う。回収されたトリチオカーボネートのエステル生成物が1300グラム存在し、先に定義した実用収率は、9.6重量%となる。
【0091】
実施例7‐ワンステップ・プロセスによるTTC酸の調製
機械撹拌器、熱電対、還流冷却器および添加漏斗を装備した12Lの被覆フラスコにおいて、ドデシルメルカプタン673グラム、アセトン4495グラム、二硫化炭素280グラムおよびクロロホルム982グラムを加えることによって、ワンステップ・プロセスを実行する。温度を32℃未満に保ちながら、3.5時間にわたって45%の水酸化カリウム溶液3321グラムを加える間、溶液を非サブライン窒素パージ下において10℃で撹拌する。添加後に、フラスコを32℃付近に保持する。相を次に分離させ、下側の水相および固体塩を排出させる。水層を排出させた後、水915グラムおよび35%の塩酸457グラムをフラスコに加えてpHを2未満にする。相を再び分離させ、水相を排出させる。最後に、66℃および2.7kPa(20mmHg)の真空ケトル除去によりアセトンを除去する。回収されたトリチオカーボネートの酸生成物が2549グラム存在し、先に定義した実用収率は22.9重量%となる。
【0092】
実施例8‐ワンステップ・プロセスによるTTC酸の調製
1900L(500ガロン)のステンレス製反応器において、ドデシルメルカプタン108.0kg(238ポンド)、アセトン859.1kg(1894ポンド)、二硫化炭素53.5kg(118ポンド)およびクロロホルム187.8kg(414ポンド)を加えることによって、ワンステップ反応プロセスを実行する。反応器を約33.3kPa(250mmHg)まで減圧する。温度を32℃未満に保ちながら、4時間にわたって45%の水酸化カリウム塩基溶液635.0kg(1400ポンド)を加える間、溶液を4℃で混合する。塩基の添加が完了した後、反応器を大気圧にする。次に、水163.3kg(360ポンド)を反応器に加え、10分間混合する。次に層を分離させて、下側の水相および固体塩を排出させる。水層を排出させた時点で、有機材料を次に1900L(500ガロン)のガラスライニング加工を施した反応器に移す。次に、水163.3kg(360ポンド)および35%の塩酸81.6kg(180ポンド)を反応器に加え、pH2未満を得る。内容物を30分間混合した後に撹拌を停止し、系を沈降させて、水相を分離させる。トリチオカーボネートの酸を含む有機材料を次にドラムに詰め、複合物の除去のために3800L(1000ガロン)のステンレス製反応器に移す。次に、このプロセスをさらに7回繰り返す。7つすべてのワンステップ反応からのトリチオカーボネートの酸を含む有機材料を含んだ3800L(1000ガロン)の反応器において、66℃および2.7kPa(20mmHg)の真空ケトル除去によりアセトンを除去する。回収されたトリチオカーボネートの酸生成物が2137.8kg(4713ポンド)存在し、先に定義した実用収率は13.6重量%となる。
【0093】
実施例9‐連続的なワンステップ・プロセスによるTTC酸の調製
機械撹拌器、熱電対、還流冷却器および添加漏斗を装備した「供給フラスコ1」と称する12Lのフラスコに、ドデシルメルカプタン905.2グラム、アセトン6721.6グラム、二硫化炭素376.4グラムおよびクロロホルム1321.9グラムを加える。「供給フラスコ2」と称する同一の第2の12Lのフラスコに45%の水酸化カリウム溶液15,768グラムを満たす。
【0094】
機械撹拌器、熱電対、還流冷却器および添加漏斗を装備した「反応フラスコ」と称する5Lの被覆フラスコに、実施例3からの未除去のトリチオカーボネートの酸生成物4200グラムを生成物の基部として加える。反応フラスコにおける溶液を非サブライン窒素パージ下において21℃で撹拌および循環させる。次に、供給フラスコ2における水酸化カリウム溶液を毎分15.5グラムで供給しかつ供給フラスコ1における有機混合物を毎分25.9グラムで供給すること、すなわち2つの12Lの供給フラスコからの材料を合わせて毎分41.4グラムの速度で5Lの反応フラスコに加えることによって、トリチオカーボネートの酸生成物を生成するための連続的なワンステップ反応プロセスを実行する。これらの連続的な供給の間、温度を21℃付近に保持する。
【0095】
5Lの反応フラスコは、MasterFlexポンプを通じて12Lの「収集フラスコ」に接続されたサブライン管も装備する。このポンプは、5Lの反応フラスコから毎分約41.4グラムの反応混合物を回収して12Lの収集フラスコに供給するように予め較正されている。12Lの収集フラスコにおける原材料を使い尽くすまで連続的にこのやり方でプロセスを実施する。12Lの収集フラスコは、定期的に排出させて生成物を含むより多くの材料のためにスペースを与える。実施例6に記載されるように、収集フラスコからの材料を12Lの系に供給する。材料を相分離させて、下側の水層および固体塩を排出させ、この時点で実施例6に提示した同じ手順に従って材料を最終的なトリチオカーボネートの酸生成物に仕上げる。この連続的なプロセスは、毎分4.5グラムのトリチオカーボネートの酸生成物を有効に生成し、毎分41.4グラムの総供給速度に対して、先に定義した実用収率は10.7重量%となる。
【0096】
【表1】

このデータは、本発明の反応プロセスを用いたすべての実施例が、トリチオカーボネートの酸生成物およびトリチオカーボネートのエステル生成物の両方に関し、従来型のマルチステップ反応プロセスを用いる比較例と比べてより高い実用収率を有することを示す。
【0097】
上記に参照した各文献は、参照により本明細書に組み込まれる。実施例における以外、或いは別に明記しない限り、材料の量、反応条件、分子量、炭素原子数など本明細書において指定されるすべての数量は、単語「約」によって修正されると理解すべきである。別に指示しない限り、本明細書において参照する各化学薬品または組成は、商用グレード材料と解釈すべきであり、異性体、副生成物、誘導体、および商用グレードに存在すると通常理解される他の材料を含む可能性がある。しかしながら、各化学成分の量は、別に指示しない限り、市販材料に通例として存在しうる任意の溶媒または希釈油を除いて示されている。当然のことながら、本明細書に示す上下量、範囲、および比率の限度は、独立して組み合わすことができる。同様に、本発明の各要素の範囲および量は、任意の他の要素の範囲または量とともに用いることができる。本明細書において、表現「から本質的になる」は、考察下にある組成物の基本的かつ新規な特性に本質的な影響を与えない物質の包含を許す。用語「少量」は、上記に別に指示しない限り、対象とする物質の全組成の一部分として50%未満の量を意味する。用語「多量」は、上記に別に指示しない限り、対象とする物質の全組成の一部分として50%以上の量を意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリチオカーボネートの酸生成物または一般構造:
HOC−CR−S−C(=S)−S−Y(式中、Yは−CR−COHまたはRである)のトリチオカーボネートの酸生成物、或いはその誘導体を提供するために、試薬:(i)CS、(ii)ハロホルムまたはその反応性同等物、および(iii)構造RC(=O)Rのケトンまたはアルデヒド、並びに随意的に(iv)構造RSHのメルカプタン(式中、R、RおよびRは、R、RおよびRのうちの少なくとも1つがヒドロカルビル基である条件の下で、独立に水素またはヒドロカルビル基である)を反応させるプロセスであって、該プロセスは、
(a)単一の容器において、該ケトンまたはアルデヒド、該ハロホルム、および該トリチオカーボネート生成物が可溶な有機溶媒中で、随意的に水とともに、試薬(i)、(ii)、(iii)、随意的に(iv)、および(v)金属水酸化物塩基を混合するステップであって、それによって該塩基(v)と、該試薬(i)と、該ハロホルム(ii)と、該ケトンまたはアルデヒド(iii)と、該随意的なメルカプタン(iv)との反応から、該塩基で中和された形態の該トリチオカーボネート生成物が形成され、それによって水相が有機相と共存する、ステップ;
(b)ステップ(a)の終わりに存在する該水相および任意の固体を随意的に除去するステップ;
(c)その後、該容器に残存する該混合物を酸と混合するステップであって、それによって該トリチオカーボネートと該酸との反応からトリチオカーボネートの酸が形成され、それによって水相が有機相と共存する、ステップ;
(d)ステップ(c)の終わりに存在する該水相および任意の固体を随意的に除去するステップであって、それによって該トリチオカーボネートの酸が溶解した有機相が提供される、ステップ;および
(e)ステップ(d)の該有機相から該トリチオカーボネートの酸を随意的に単離するステップであって、それによってステップ(b)、(d)および(e)における該反応混合物から不純物および反応副生成物が除去される、ステップ
を含むプロセス。
【請求項2】
前記試薬(ii)のハロホルムはクロロホルム、ブロモホルムまたはその混合物であり;前記試薬(iii)のケトンまたはアルデヒドはアセトンであり;前記随意的な試薬(iv)のメルカプタンは8個から14個までの炭素原子を含み;前記試薬(v)の塩基は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはその混合物であり;ステップ(a)における前記有機溶媒はアセトン、ヘキサン、ヘプタン、トルエンまたはその混合物であり;ステップ(c)における前記酸はリン酸、塩酸またはその混合物である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記随意的な試薬(iv)のメルカプタンは、ジアルキルアミンで置き換えられる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
ステップ(a)は、約−15℃から約80℃までの温度に保持された反応容器を用いて実行される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
随意的なステップ(b)および(d)は、独立に液相分離、排出、濾過またはその組み合わせによって実行され、随意的なステップ(e)は、液相分離、排出、濾過、フラッシュ除去、ケトル除去、真空除去またはその組み合わせによって実行される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
ステップ(c)は、約−15℃から約80℃までの温度に保持された反応容器を用いて実行される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記プロセスは、
(f)反応容器において、前記トリチオカーボネートの酸を、(vi)Rがヒドロカルビル基であるR−OH構造のアルコール、随意的に有機溶媒、および随意的に酸触媒と混合するステップであって、それによって該トリチオカーボネートの酸と該アルコールとの反応からトリチオカーボネートのエステルが形成されること;並びに
(g)該随意的な溶媒、随意的な触媒、および残存アルコールから該トリチオカーボネートのエステルを随意的に単離すること
をさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記エステル化は、約−15℃から約80℃までの温度に保持された反応容器を用いて実行される、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
ステップ(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)および(g)が独立にバッチ方式で実行され、
用いられる(i)二硫化炭素1モル当たり、(ii)ハロホルムが1から20モルまで、(iii)ケトンまたはアルデヒドが1から20モルまで、(iv)メルカプタンが0.5から30モルまで、および(v)塩基が1から15モルまで用いられ、そしてトリチオカーボネートのエステルに変換されるトリチオカーボネートの酸1モル当たり、(vi)アルコールが1から10モルまで用いられるように、前記試薬が前記ステップの完了までに用いられる
請求項7に記載のプロセス。
【請求項10】
ステップ(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)および(g)の1つまたはそれ以上が独立に連続方式で実行され、
用いられる(i)二硫化炭素1モル当たり、(ii)ハロホルムが1から20モルまで、(iii)ケトンまたはアルデヒドが1から20モルまで、(iv)メルカプタンが0.5から30モルまで、および(v)塩基が1から15モルまで用いられ、そしてトリチオカーボネートのエステルに変換されるトリチオカーボネートの酸1モル当たり、(vi)アルコールが1から10モルまで用いられるように、前記試薬が前記ステップの完了までに用いられる
請求項7に記載のプロセス。

【公表番号】特表2010−535789(P2010−535789A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520236(P2010−520236)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【国際出願番号】PCT/US2008/072058
【国際公開番号】WO2009/035793
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(591131338)ザ ルブリゾル コーポレイション (203)
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
【Fターム(参考)】