説明

置換されたフェナントロピラン

本発明は、特殊なフォトクロミックフェナントロピラン、ならびにそれらの、あらゆる種類の合成樹脂材料における、特に眼科用の使用に関する。特に、本発明は、2H−フェナントロ[2,1−b]ピランおよび3H−フェナントロ[3,4−b]ピランから誘導された、開いた形態で特に長波吸収極大を有するが、非励起状態では無色であるフォトクロミック化合物に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、特殊なフォトクロミックフェナントロピラン、ならびにそれらの、あらゆる種類の合成樹脂材料における、特に眼科用の使用に関する。特に、本発明は、2H−フェナントロ[2,1−b]ピランおよび3H−フェナントロ[3,4−b]ピランから誘導された、開いた形態で特に長波吸収極大を有するが、非励起状態では無色であるフォトクロミック化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の波長の光、特に日光、で照射された時に、それらの色を可逆的に変化させる、様々な種類の染料が公知である。これは、光の形態でエネルギーが供給された時に、これらの染料分子が励起した着色状態に転移し、エネルギー供給が中断されると、それらの無色またはほとんど着色していない通常状態に戻るためである。これらのフォトクロミック染料としては、例えば、現状技術水準で、すでに様々な置換基を伴って開示されているナフトピランがある。
【0003】
ピラン、特にナフトピランおよびそこから誘導された大環系化合物は、これまで広範囲に研究者されているフォトクロミック化合物である。最初の特許はすでに1966年に出願されている(米国特許第3,567,605号)が、眼鏡用レンズとして好適であると思われる化合物は、1990年代に開発されたばかりである。
【0004】
先行技術から公知の染料は、励起ならびに非励起状態で、長波吸収が不十分であることが多い。このために、そのような染料を他のフォトクロミック染料と組み合わせても、問題が生じる。さらに、暗色化に対する温度感度が高過ぎ、同時に明色化が遅過ぎることが多い。その上、この分野で入手可能な染料の耐久性は、不十分であることが多い。その結果、サングラス用のそのようなレンズの耐久性は不十分である。これは、急速な性能低下および/または強度の黄変により明らかである。
【0005】
2−ナフトールから誘導される3H−ナフトピラン、およびそれらの、環化(annellation)により誘導される高級類似誘導体は、フォトクロミック染料の一群であり、それらの励起形態の最長波長吸収極大は、主として420nm〜500nmのスペクトル範囲内にあり、従って、黄色、オレンジ色または赤−オレンジ色の感覚を引き起こす(米国特許第5,869,658号および第6,022,495号参照)。しかし、中性の暗色化する光可逆変色ガラスには、高性能の紫−青色フォトクロミック染料が必要になる。現在入手可能な紫−青色フォトクロミック染料は、通常、スピロキサジン染料、フルギド染料または2H−ナフト[1,2−b]ピランから得られる。しかし、通常、スピロキサジン染料は、高温性能に関して不利であり、フルギド染料および2H−ナフト[1,2−b]ピランは、前者は耐久性のために、後者は明色化速度のために、サングラス用レンズに使用するには完全に満足できるものではない。
【0006】
例えば国際特許第WO98/45281号、第WO01/12619号およびヨーロッパ特許第EP0945451A1号に記載されているように、ピラン酸素に対してオルト位置にあるアリール基に電子移動基を導入することにより、3H−ナフト[2,1−b]ピランを赤色から赤紫色に暗色化する。国際特許第WO01/12619号では、一対のアリール基の一方がパラ−アミノ置換された基を有し、他方のアリール基が、メタまたはパラ位置で置換されたアルコキシ基またはチオアルコキシ基を有し、この置換パターンが明色化速度に好ましい影響を及ぼす。国際特許第WO98/45281号では、3H−ナフト[2,1−b]ピラン単位の主として6位置にアミン官能基をさらに含む、赤色の濃色化合物を記載している。アミノ基を有し、顕著な塩基性を示さない化合物がヨーロッパ特許第0945451A1号に記載されている。励起状態で、これらの化合物は、ピンク−紫色を呈し、魅力的な耐久性を有する。6位置にアリール置換基を含む3H−ナフト[2,1−b]ピランは、国際特許第WO99/31082号にさらに記載されている。しかし、6位置にあるアリール置換基の、非励起ならびに励起形態の最長波長吸収極大に対する影響は、これらの化合物では非常に僅かである。
【0007】
3H−ナフト[2,1−b]ピラン単位の8位置における適切な置換は、特に米国特許第5,238,981号に記載されているように、アルコキシ基の導入により、最長波長吸収極大における深色シフトをもたらす。さらに、8位置にジアルキルアミノ基を含む化合物も開示されている。3H−ナフト[2,1−b]ピラン単位の8位置における置換基として窒素複素環式基を使用することにより、開鎖アミノ基と対照的に、耐久性が改良されることが米国特許第5,990,305号に記載されている。これは、いわゆるHALS(ヒンダードアミン光安定剤)構造単位を含む置換基によっても達成される。最後に、3位置ならびに8位置にアミノ基を含む置換基を有する紫−青色3H−ナフトール[2,1−b]ピランが、国際特許出願第WO03/055872号に記載されており、上記の3位置および8位置における置換基に加えて、6位置に置換基を含む3H−ナフトール[2,1−b]ピランが、国際特許出願第WO03/080595号に記載されている。
【0008】
ナフトピラン単位を含むより大きな芳香族環系が、例えば米国特許第5,106,998号、第5,888,432号、第4,826,977号および第5,637,709号に記載されている。しかし、これらの化合物は、3位置で2個のアリール基で置換されてなく、代わりに、少なくとも一個の飽和多環式置換基を有し、従って、励起形態で黄色−赤色フォトクロミック化合物になる。
【0009】
さらに、米国特許第5,565,147号、第5,674,432号および第6,294,112号(国際特許第WO98/45281号)では、ナフタレン単位の異なった側部で複素環式の環化された単位を有するフォトクロミック3H−ナフト[2,1−b]ピランが開示されている。従って、米国特許第6,294,112号(国際特許第WO98/45281号)では、複素環により環化することができる赤色濃色3H−ナフト[2,1−b]ピランが記載されている。ヨーロッパ特許第1038870A1号では、所望により5位置に置換されたアミド基を有し、ナフトピラン単位が複素環または芳香族環により拡張され得る3H−ナフト[2,1−b]ピランが記載されている。
【0010】
置換されたフェナントロピランは、米国特許第5,514,817号および第6,210,608号に記載されている。しかし、これらは、2H−ナフト[1,2−b]ピランから誘導される。
【発明の具体的説明】
【0011】
そこで、本発明の目的は、非励起形態では無色であり、特に励起状態における長波長吸収および高い暗色化性能の有利な組合せを有し、同時に、良好な速度特性および耐久性を有する、すなわち急速な明色化速度ならびに耐久性試験における良好な性能を有する点で、現状技術水準の同等の化合物とは異なっている、新規なフォトクロミック化合物を提供することである。
【0012】
この目的は、請求項に記載の特徴を有する物質により達成される。
【0013】
特に、一般式(I)の2H−フェナントロ[2,1−b]ピランおよび一般式(II)の3H−フェナントロ[3,4−b]ピラン
【化1】

を提供するが、
【0014】
式中、mは、0〜3の整数であり、
【0015】
、R、RおよびR基は、互いに独立して、水素、またはフッ素、塩素、臭素、ヒドロキシ、シリルオキシ、直鎖状または分岐鎖状(C〜C)アルキル基、(C〜C)シクロアルキル基、直鎖状または分岐鎖状(C〜C)アルコキシ基、フェニル、フェノキシ、ベンジル、ベンジルオキシ、ナフチル、ナフトキシ、フェナントリルまたはピリジルからなるα群から選択された置換基、該置換基は、それぞれの場合に、互いに独立して、直鎖状または分岐鎖状(C〜C)アルキル基、(C〜C)シクロアルキル基、直鎖状または分岐鎖状(C〜C)アルコキシ基、ヒドロキシ、t−ブチルジフェニルシリルオキシ、アミノ、ジ(C〜C)アルキルアミノ、ニトロ、シアノ、ベンジル、4−メトキシベンジル、4−ニトロベンジル、フェニル、4−メトキシフェニル、4−ジメチルアミノフェニル、ピリジルおよびピリミジニルからなるβ群から選択された、1、2または3個の置換基で置換されていてよい、またはNR基を表し、その際、RおよびR基は、互いに独立して、水素、直鎖状または分岐鎖状(C〜C)アルキル基、(C〜C)シクロアルキル基、フェニルまたはベンジルから選択され、後者の2個は、所望により、β群から選択された一個以上の置換基を有するか、またはRおよびR基は、窒素原子と共にアザアダマンチル基または3〜10員の窒素複素環式基を形成し、該基は、置換されていないか、または直鎖状または分岐鎖状(C〜C)アルキル基で置換されていてよく、その際、該窒素複素環式基は、所望により、O、SまたはNRからなる群から選択された一個以上の異原子を含み、その際R基は、水素またはβ群から選択され、該窒素複素環式基は、所望により、1または2個のベンゼン環で環化されていてよいか、あるいは
【0016】
2個の隣接するR基は、一緒に、置換されていない、一置換された、または二置換された、環化されたベンゼン環を形成し、該ベンゼン環の置換基は、互いに独立して、α群から、または上記のNR基から選択されるか、あるいは
【0017】
基は、R基と一緒に、置換されていない、一置換された、または二置換された、環化されたベンゼン環を形成してトリフェニレンピランを形成し、該置換基は、互いに独立して、α群から、または上記のNR基から選択されるか、あるいは
【0018】
基は、水素またはα群、上記のNR基またはキノリニル、イソキノリニル、チエニル、ベンゾチエニル、ジベンゾチエニル、フラニル、ベンゾフラニル、ジベンゾフラニル、カルバゾリル、フェノチアジニル、フェノキサジニル、オキサゾリル、ベンゾキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、チアジアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピリミジニル、ピラジニル、アセチル、ベンゾイル、シアノ、ホルミル、イミノメチル、1−イミノアミノメチル、N−ヒドロキシイミノメチル、メチレンアミノ、シアナミノ、シアノメチル、ジシアノメチル、カルボキシ、カルボキシメチル、(C〜C)アシルオキシ、(C〜C)アルコキシカルボニル、(C〜C)アルコキシカルボニルメチル、フェノキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、ニトロ、ジアゾフェニル、アミノカルボニル、エテニル、4−エテニルフェニル、エチニルまたは4−エチニルフェニルの置換基から選択されるか、もしくはN−(C〜C)アルキルピリジニオ、1−ピリジニオ、N−(C〜C)アルキルキノリニオ、1−キノリニオ、N−(C〜C)アルキルイソキノリニオ、2−イソキノリニオ、イミノメチルまたは1−イミノアミノメチルから陽イオン系構造を形成し、その際、対応する対イオンは、塩化物、臭化物、硫酸塩、硫酸水素塩、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、メシレート、トシレートまたはトリフレートから選択され、上記の置換基は、可能である限り、β群から1、2、3または4個の置換基を有するか、
あるいは
【0019】
式(I)におけるRとR基または式(II)におけるRとRまたはRとR基は、フェナントレン単位に環化された、ベンゼン環、ピリジン環、インドール環、ベンゾフリル環、ベンゾチエニル環、チエニル環、フリル環またはピリミジニル環から選択された芳香族または複素芳香族環を形成し、それぞれの場合、α群から、およびインドール環の場合、ベンゾフリル環またはベンゾチエニル環から、選択された1個以上の置換基で置換されていてよく、フェナントレン骨格への環化は5員複素環式基を通して行われるか、あるいは
【0020】
基は、式(I)のフェナントレン系の10位置でR基と共に、環化されたベンゼン環を形成し、下記の式(III)
【化2】

のピレノピランまたは環化されたピリド環を形成し、その際、窒素原子が、RまたはR10に接続された炭素原子を置きかえ、環化されたベンゼン環は、場合によりRとR10基により置換され、環化されたピリド環はR基により置換され、その際、RまたはRとR10は、互いに独立して、α群から選択されるか、または式(III)のRとR10基が、やはり一緒に、環化された、ベンゼン環、ピリジン環、インドール環、ベンゾフリル環、ベンゾチエニル環、チエニル環、フリル環またはピリミジニル環から選択された芳香族または複素芳香族環を形成し、それぞれの場合、α群から、およびインドール環の場合、ベンゾフリル環またはベンゾチエニル環から、選択された1個以上の置換基で置換されていてよく、環化は5員複素環式基を通して行われ、
【0021】
BおよびB’は、互いに独立して、置換されていない、一置換された、または二置換された、フェニル、エチニル、エテニル、ナフチル、フラニル、ベンゾフラニル、チエニル、ベンゾチエニルまたはユロリジニルから選択され、置換基は、α群、上記のNR基、ならびにエテニル、4−エテニルフェニル、エチニルまたは4−エチニルフェニルから選択され、その際、α群の置換基、ならびに上記の置換基は、可能である限り、やはり互いに独立して、β群から2または3個の置換基を有するか、または2個の直接隣接する置換基がY−(CH−Z基を表し、その際、q=1、2または3であり、YおよびZは、互いに独立して、酸素、硫黄、NCH、NPh、CH、C(CHまたはC(Cでよいか、あるいは
【0022】
BおよびB’は、一緒に、置換されていない、一置換された、または二置換された9−スピロフルオレンを表し、その際、該フルオレン置換基は、β群から選択されるか、またはBおよびB’は、一緒に、C〜C12スピロ単環、C〜C12スピロ二環またはC〜C12スピロ三環を表す。
【0023】
3H−ナフト[2,1−b]ピランのg側またはi側でベンゾ環化により塩基性芳香族系を拡張することにより、2H−フェナントロ[2,1−b]ピランまたは3H−フェナントロ[3,4−b]ピランが得られ、これらは非励起形態でなお無色であり、高い吸光度を有する。これらの染料のフォトクロミック、特にそれらの出力、は、励起形態でそれらの化合物による長波長での吸収を引き起こす適切な置換基を同時に導入することにより、および/または式(I)の化合物の11位置または式(II)の化合物の6位置で適切な置換基を同時に導入することにより、さらに増加させることができる。現状技術水準における同等の化合物と比較して、本発明の化合物は、より長波長で吸収し、同時に、それらの暗色化性能も同じく良好である。その上、本発明のフォトクロミック2H−フェナントロ[2,1−b]ピランおよび3H−フェナントロ[3,4−b]ピランは、良好な耐久性および急速な明色化速度を示す。同時に、それらの暗色化性能は、非常に優れている。
【0024】
立体的な理由から、RとRが一緒に環化されたベンゾ環またはピリド環を形成するこの場合は例外として、通常はペリ位置、すなわち10位置、には置換基が無いので、mは0〜3である。
【0025】
本発明の一実施態様では、R、R、R、RおよびR基は、互いに独立して、水素、α群から選択された置換基、または上記の−NR基から選択される。
【0026】
本発明の別の実施態様では、BおよびB’基の少なくとも一方は、パラ位置で上記の−NR基で置換されたフェニル基から選択される。これに関して、RおよびR基は、この−NR基の窒素原子と共に、アザアダマンチル基を形成することもできる。あるいは、これらの基は、上にすでに規定したように、3員〜10員窒素複素環、特にモルホリン基、チオモルホリン基、ピペリジン基、アザシクロヘプタン基、アザシクロオクタン基、1,4−ジアザ−1−メチル−シクロヘプタン基、ピペラジン基、−N−(N’−(C〜Cアルキル)ピペラジン基またはピロリドン基、を形成することもできるか、またはパラ位置で−NR基で置換されたフェニル基が、全体で、N−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロキノリニル基を表し、下記の構造単位が存在する。
【化3】

【0027】
別の実施態様では、BおよびB’の少なくとも一方は、好ましくは4−ジメチルアミノフェニル基である。
【0028】
BおよびB’の少なくとも一方が、3位置でピラン環に結合したユロリジニル基を表す場合、下記の構造が得られる。
【化4】

【0029】
本発明の別の好ましい実施態様では、式(I)および(II)におけるR基が、(C〜C)アルキル、フェニル、4−メトキシフェニル、4−ジメチルアミノフェニル、エテニル、エチニル、2−((C〜C)アルキル)エテニル、2−((C〜C)アルキル)エチニル、2−フェニルエテニルまたは2−フェニルエチニルから選択される。
【0030】
本発明の別の好ましい実施態様では、式(III)中のR基が、(C〜C)アルキル、フェニル、4−メトキシフェニル、4−ジメチルアミノフェニル、エテニル、エチニル、2−((C〜C)アルキル)エテニル、2−((C〜C)アルキル)エチニル、2−フェニルエテニルまたは2−フェニルエチニルから選択される。
【0031】
本発明の式(I)の特に好ましいフォトクロミック2H−フェナントロ[2,1−b]ピランは、下記のような置換基の組合せを有する、すなわち
・R、R、RおよびRがそれぞれ水素を表し、
・Rが(C〜C)アルキル、フェニル、4−メトキシフェニル、4−ジメチルアミノフェニル、エテニル、エチニル、2−((C〜C)アルキル)エテニル、2−((C〜C)アルキル)エチニル、2−フェニルエテニルまたは2−フェニルエチニルを表し、
・B’がフェニルを表し、
・Bが、4−ジメチルアミノフェニルまたは4−(N−アザシクロヘプチル)フェニルから選択される。
【0032】
本発明の式(III)の特に好ましいフォトクロミックピレノピランは、下記のような置換基の組合せを有する、すなわち
・R、R、RおよびRがそれぞれ水素を表し、
・Rが(C〜C)アルキル、フェニル、4−メトキシフェニル、4−ジメチルアミノフェニル、エテニル、エチニル、2−((C〜C)アルキル)エテニル、2−((C〜C)アルキル)エチニル、2−フェニルエテニルまたは2−フェニルエチニルを表し、
・B’がフェニルを表し、
・Bが、4−ジメチルアミノフェニルまたは4−(N−アザシクロヘプチル)フェニルから選択される。
【0033】
式(I)の化合物の代表例における開いた(着色した)形態の最長波長吸収極大を下記の表に示す。
【表1】

【0034】
式(III)の化合物の代表例における開いた(着色した)形態の最長波長吸収極大を下記の表に示す。
【表2】

【0035】
本発明の化合物は、フォトクロミック活性が重要である様々な目的に使用する、あらゆる種類または形状の合成樹脂材料または合成樹脂物体に使用できる。その上、本発明の染料またはそのような染料の混合物を使用できる。例えば、本発明の2H−フェナントロ[2,1−b]ピランおよび3H−フェナントロ[3,4−b]ピランは、レンズ、特に眼科用レンズ、あらゆる種類の眼鏡、例えばスキーゴーグル、サングラス、オートバイ用眼鏡、安全ヘルメット用バイザー、等に使用できる。さらに、本発明のフォトクロミック染料は、例えば車両および居間における、窓、保護シャッター、カバーリング、屋根、等の形態で、日光に対する保護用に使用できる。
【0036】
そのようなフォトクロミック物体を製造するには、本発明のフォトクロミック2H−フェナントロ[2,1−b]ピランおよび3H−フェナントロ[3,4−b]ピランを、国際特許第WO99/15518号に記載されている様々な方法により、重合体材料、例えば有機合成樹脂材料上に塗布するか、またはその中に埋め込むことができる。
【0037】
いわゆる全体染色法と表面染色法を区別する。全体染色法は、例えば重合前に本発明のフォトクロミック化合物を単量体状材料に加えることにより、合成樹脂材料中にフォトクロミック化合物を溶解または分散させることを含んでなる。フォトクロミック物体を製造するための別の方法では、本発明のフォトクロミック染料の高温溶液中に合成樹脂材料を浸漬することにより、または熱転写製法により、合成樹脂材料にフォトクロミック化合物を浸透させる。フォトクロミック化合物は、例えば合成樹脂材料の接合層間に、例えば重合体状フィルムの一部として存在する、個別層の形態で使用することもできる。さらに、フォトクロミック化合物を、合成樹脂材料表面上被覆の一部として塗布することも可能である。これに関して、「浸透する」の表現は、例えばフォトクロミック化合物が溶剤に支持されて重合体マトリックス中に移動することにより、蒸気相移動により、あるいは他のそのような表面拡散過程により、フォトクロミック化合物が合成樹脂材料の中に移動することを意味する。有利なことに、眼鏡レンズのようなフォトクロミック物体は、通常の全体染色によってのみならず、類似の様式で、表面拡散によっても製造することができ、その場合、驚くべきことに、移動の傾向を少なくすることができる。これは、特にその後に続く仕上げ工程で、例えば反射防止被覆の際、真空下での逆拡散が少ないために、層の剥離および類似の欠陥を劇的に低減させることができるので、有利である。
【0038】
本発明の2H−フェナントロ[2,1−b]ピラン染料および3H−フェナントロ[3,4−b]ピラン染料により、すべての染料、すなわち化学的な、または色の観点から相容性がある染料を、合成樹脂材料上に塗布するか、または中に埋め込むことができ、美的観点、ならびに医学的または流行の観点を満足させることができる。意図する効果ならびに必要条件に応じて、様々な、具体的な染料を選択することができる。
【0039】
本発明の一般式(I)による2H−フェナントロ[2,1−b]ピラン染料または式(III)の誘導体は、図1に示す反応概略により合成することができる。
【0040】
本発明の化合物の合成における重要な工程は、対応する1,3−ジケトン誘導体または1,3,5−トリケトン誘導体から、すなわち4−(2−ナフチル)−1,3−ブタジオン誘導体または6−(2−ナフチル)−1,3,5−ヘキサトリオン誘導体から出発し、リン酸を使用する、約100℃での環化である。続いて、得られたヒドロキシフェナントレンまたはヒドロキシピラン誘導体を、適切に置換された2−プロピン−1−オール誘導体と反応させ、本発明の化合物を形成する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)または一般式(II)のフォトクロミックフェナントロピラン化合物:
【化1】

[式中、mは、0〜3の整数であり、
、R、RおよびR基は、互いに独立して、水素、またはフッ素、塩素、臭素、ヒドロキシ、シリルオキシ、直鎖状または分岐鎖状(C〜C)アルキル基、(C〜C)シクロアルキル基、直鎖状または分岐鎖状(C〜C)アルコキシ基、フェニル、フェノキシ、ベンジル、ベンジルオキシ、ナフチル、ナフトキシ、フェナントリルまたはピリジルからなるα群から選択された置換基、またはNR基を表し、前記α群から選択された置換基は、それぞれの場合に、互いに独立して、直鎖状または分岐鎖状(C〜C)アルキル基、(C〜C)シクロアルキル基、直鎖状または分岐鎖状(C〜C)アルコキシ基、ヒドロキシ、t−ブチルジフェニルシリルオキシ、アミノ、ジ(C〜C)アルキルアミノ、ニトロ、シアノ、ベンジル、4−メトキシベンジル、4−ニトロベンジル、フェニル、4−メトキシフェニル、4−ジメチルアミノフェニル、ピリジルおよびピリミジニルからなるβ群から選択された、1、2または3個の置換基で置換されていてよく、前記RおよびR基は、互いに独立して、水素、直鎖状または分岐鎖状(C〜C)アルキル基、(C〜C)シクロアルキル基、フェニルまたはベンジルから選択され、後者の2個は、所望により、前記β群から選択された一個以上の置換基を有するか、または前記RおよびR基は、窒素原子と共にアザアダマンチル基または3〜10員の窒素複素環式基を形成し、前記基は、置換されていないか、または直鎖状または分岐鎖状(C〜C)アルキル基で置換されていてよく、その際、前記窒素複素環式基は、所望により、O、SまたはNRからなる群から選択された一個以上の異原子を含み、その際R基は、水素または前記β群から選択され、前記窒素複素環式基は、所望により、1または2個のベンゼン環で環化されているか、あるいは
2個の隣接するR基は、一緒に、置換されていない、一置換された、または二置換された、環化されたベンゼン環を形成し、前記ベンゼン環の置換基は、互いに独立して、前記α群から、または前記NR基から選択されるか、あるいは
前記R基は、前記R基と一緒に、置換されていない、一置換された、または二置換された、環化されたベンゼン環を形成してトリフェニレンピランを形成し、前記置換基は、互いに独立して、前記α群から、または前記NR基から選択されるか、あるいは
前記R基は、水素または前記α群、前記NR基またはキノリニル、イソキノリニル、チエニル、ベンゾチエニル、ジベンゾチエニル、フラニル、ベンゾフラニル、ジベンゾフラニル、カルバゾリル、フェノチアジニル、フェノキサジニル、オキサゾリル、ベンゾキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、チアジアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピリミジニル、ピラジニル、アセチル、ベンゾイル、シアノ、ホルミル、イミノメチル、1−イミノアミノメチル、N−ヒドロキシイミノメチル、メチレンアミノ、シアナミノ、シアノメチル、ジシアノメチル、カルボキシ、カルボキシメチル、(C〜C)アシルオキシ、(C〜C)アルコキシカルボニル、(C〜C)アルコキシカルボニルメチル、フェノキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、ニトロ、ジアゾフェニル、アミノカルボニル、エテニル、4−エテニルフェニル、エチニルまたは4−エチニルフェニルの置換基から選択されるか、もしくはN−(C〜C)アルキルピリジニオ、1−ピリジニオ、N−(C〜C)アルキルキノリニオ、1−キノリニオ、N−(C〜C)アルキルイソキノリニオ、2−イソキノリニオ、イミノメチルまたは1−イミノアミノメチルから陽イオン系構造を形成し、その際、対応する対イオンは、塩化物、臭化物、硫酸塩、硫酸水素塩、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、メシレート、トシレートまたはトリフレートから選択され、前記置換基は、可能である限り、それぞれ前記β群から1、2、3または4個の置換基を有するか、
あるいは
式(I)における前記RとR基または式(II)における前記RとRまたはRとR基は、フェナントレン単位に環化された、ベンゼン環、ピリジン環、インドール環、ベンゾフリル環、ベンゾチエニル環、チエニル環、フリル環またはピリミジニル環から選択された芳香族または複素芳香族環を形成し、それぞれの場合、前記α群から、およびインドール環の場合、ベンゾフリル環またはベンゾチエニル環から、選択された1個以上の置換基で置換されていてよく、前記フェナントレン骨格への環化は5員複素環式基を通して行われるか、あるいは
前記R基は、式(I)のフェナントレン系の10位置でR基と共に、環化されたベンゼン環を形成し、下記の式(III)
【化2】

に対応するピレノピランまたは環化されたピリド環を形成し、その際、窒素原子が、RまたはR10に結合した炭素原子を置きかえ、環化されたベンゼン環は、前記RとR10基により置換されていてよく、環化されたピリド環は前記R基により置換されていてよく、その際、RまたはRとR10は、互いに独立して、α群から選択されるか、または式(III)のRとR10基が、やはり一緒に、環化された、ベンゼン環、ピリジン環、インドール環、ベンゾフリル環、ベンゾチエニル環、チエニル環、フリル環またはピリミジニル環から選択された芳香族または複素芳香族環を形成し、それぞれの場合、前記α群から、およびインドール環の場合、ベンゾフリル環またはベンゾチエニル環から、選択された1個以上の置換基で置換されていてよく、環化は5員複素環式基を通して行われ、
BおよびB’は、互いに独立して、置換されていない、一置換された、または二置換された、フェニル、エチニル、エテニル、ナフチル、フラニル、ベンゾフラニル、チエニル、ベンゾチエニルまたはユロリジニルから選択され、置換基は、前記α群、前記NR基、ならびにエテニル、4−エテニルフェニル、エチニルまたは4−エチニルフェニルから選択され、その際、前記α群の置換基、ならびに前記置換基は、可能である限り、やはり互いに独立して、前記β群から2または3個の置換基を有するか、または2個の直接隣接する置換基がY−(CH−Z基を表し、その際、q=1、2または3であり、YおよびZは、互いに独立して、酸素、硫黄、NCH、NPh、CH、C(CHまたはC(Cでよいか、あるいは
BおよびB’は、一緒に、置換されていない、一置換された、または二置換された9−スピロフルオレンを表し、その際、前記フルオレン置換基は、前記β群から選択されるか、またはBおよびB’は、一緒に、C〜C12スピロ単環、C〜C12スピロ二環またはC〜C12スピロ三環を表す]。
【請求項2】
前記BおよびB’基の少なくとも一方が、パラ位置で前記−NR基で置換されたフェニル基から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記−NR基全体が、ジフェニルアミノ、ジアニシルアミノ、モルホリニル、チオモルホリニル、3,5−ジメチルチオモルホリニル、ピペリジニル、アザシクロヘプチル、アザシクロオクチル、1,4−ジアザ−1−メチル−シクロヘプチル、ピペラジニル、ピロリジニルまたは1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリニルを表す、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
式(I)および(II)における前記R基が、(C〜C)アルキル、フェニル、4−メトキシフェニル、4−ジメチルアミノフェニル、エテニル、エチニル、2−((C〜C)アルキル)エテニル、2−((C〜C)アルキル)エチニル、2−フェニルエテニルまたは2−フェニルエチニルから選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
式(III)中の前記R基が、(C〜C)アルキル、フェニル、4−メトキシフェニル、4−ジメチルアミノフェニル、エテニル、エチニル、2−((C〜C)アルキル)エテニル、2−((C〜C)アルキル)エチニル、2−フェニルエテニルまたは2−フェニルエチニルから選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
式(I)の化合物に関して、R、R、RおよびRがそれぞれ水素を表し、Rが(C〜C)アルキル、フェニル、4−メトキシフェニル、4−ジメチルアミノフェニル、エテニル、エチニル、2−((C〜C)アルキル)エテニル、2−((C〜C)アルキル)エチニル、2−フェニルエテニルまたは2−フェニルエチニルを表し、B’がフェニルを表し、Bが、4−ジメチルアミノフェニルまたは4−(N−アザシクロヘプチル)フェニルから選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
式(III)の化合物に関して、R、R、RおよびRがそれぞれ水素を表し、Rが(C〜C)アルキル、フェニル、4−メトキシフェニル、4−ジメチルアミノフェニル、エテニル、エチニル、2−((C〜C)アルキル)エテニル、2−((C〜C)アルキル)エチニル、2−フェニルエテニルまたは2−フェニルエチニルを表し、B’がフェニルを表し、Bが、4−ジメチルアミノフェニルまたは4−(N−アザシクロヘプチル)フェニルから選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のフォトクロミック化合物の、合成樹脂材料における使用。
【請求項9】
前記合成樹脂材料が眼科用レンズである、請求項8に記載の使用。

【公表番号】特表2007−505842(P2007−505842A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526535(P2006−526535)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009369
【国際公開番号】WO2005/035529
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(503279013)ローデンストック.ゲゼルシャフト.ミット.ベシュレンクテル.ハフツング (34)
【Fターム(参考)】