説明

美爪料

【課題】生分解性の皮膜形成樹脂を用いて環境対応型であり、且つ、塗布性に優れ、光沢性に優れ、皮膜強度に優れた美爪料を提供する。
【解決手段】下記化学式(1)で示される、天然植物由来非晶性生分解性高分子化合物であるポリ乳酸を樹脂成分として配合する。
【化3】


(式中、R,R,Rは炭素数が1以上の飽和炭化水素基であり、同一でも、異なっていてもよい。nは1以上の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布性に優れた環境対応型の美爪料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、美爪料は、酢酸エチル類、乳酸エステル類、酸化水素等の有機溶媒、ニトロセルロース、皮膜形成樹脂、可塑剤、着色剤等を含んでいる。実際に美爪料として皮膜を形成する成分は、ニトロセルロースと皮膜形成樹脂である。ニトロセルロースはセルロースを原料とする天然由来成分であるが、一般的に使用される皮膜形成樹脂は、アクリル系樹脂、アルキッド系樹脂、トルエンスルホンエミド系樹脂、半天然物由来のシュークローズ系樹脂等の合成高分子である。この皮膜形成樹脂として、具体的には、アクリル酸エステル/メタクリル酸エステル共重合体、フタル酸系アルキッド樹脂、イソフタル酸系アルキッド樹脂、コハク酸系アルキッド樹脂、トルエンスルホンアミド/ホルムアルデヒド樹脂、トルエン/スルホンアミド/エポキシ樹脂、シュークローズベンゾエード、シュークローズアセラートイソブチレート等を挙げることができる。これらの樹脂は、合成高分子系であるので、生分解性を有していない。
【0003】
近年、各産業分野において、生分解性の材料を使用することが重要となっており、美爪料においても、生分解性の材料を用いることが望まれているところである。しかし、従来の美爪料においては、ニトロセルロースは天然植物由来の成分であるが、このニトロセルロースと同時に配合される皮膜形成樹脂が合成高分子系であるため、環境対応型ではないという問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、生分解性の皮膜形成樹脂を用いて環境対応型であり、且つ、塗布性に優れ、光沢性に優れ、皮膜強度に優れた美爪料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を達成するために、本発明による美爪料は、
下記化学式(1)に示される天然植物由来の非晶性生分解性高分子化合物であるポリ乳酸を樹脂成分として配合することを特徴とするものである。
【化1】

(式中、R,R,Rは炭素数が1以上の飽和炭化水素基であり、同一でも、異なっていてもよい。nは1以上の整数である。)
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、皮膜形成樹脂として、天然植物由来高分子化合物である生分解性のポリ乳酸が用いられているので、環境対応型であり、しかも、塗布性に優れ、光沢性に優れ、皮膜強度に優れた美爪料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
次に、本発明による美爪料の具体的な実施の形態について説明する。
【0008】
本発明に用いられる天然植物由来の生分解性ポリ乳酸は、主にトウモロコシを原料として精製されたラクチドを重合して得られるものであり、このラクチドの光学異性体を組み合わせることにより、非晶性で、かつ、美爪料に使用される有機溶媒に可溶の高分子化合物を重合することができる。この非晶性ポリ乳酸のガラス転移点は、光学異性体の組み合わせ比率にもよるが、−10℃から50℃の範囲であるのが好ましい。
【0009】
また、本発明に用いられるポリ乳酸の重合度は特に制限されるものではないが、美爪料として適度な粘度を与える重合度とするのが好ましい。さらに、本発明に用いられるポリ乳酸は好気性分解、嫌気性分解での処理が可能な生分解性を有している。また、本発明に用いられる非晶性ポリ乳酸を美爪料に配合する際に、あらかじめ適当な有機溶媒、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、アセトン等に溶解させておくとよい。
【0010】
すなわち、本発明は、次の成分
(a)天然植物由来、生分解性非晶性ポリ乳酸(上記化学式(1))
(b)ニトロセルロース
(c)有機顔料
(d)ゲル化剤
(e)非芳香族系有機溶媒
を含有することを特徴とする美爪料を提供するものである。
【0011】
ここで示される(b)のニトロセルロースは、従来の美爪料に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、硝化綿H1/2、H1/4、H1/8などが使用される。
【0012】
また、(c)の有機顔料は、あらかじめ上記硝化綿(=ニトロセルロース)と可塑剤、例えばクエン酸エステル等と3本ロール等にて混練してチップ化しておくのがよい。配合される有色顔料については、通常化粧料に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、酸化チタン、カーボンブラック、酸化クロム、水酸化クロム、紺青、群青、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄または黒色酸化鉄、雲母チタン等のパール顔料等の無機有色顔料や、赤色226号、黄色205号や青色404号等の有機有色顔料、さらには赤色201号、黄色202号、青色1号、黄色4号などのレーキ顔料が挙げられる。また、これらの有色顔料は、各種シリコーン処理、アルキルシラン処理、アルキルチタネート処理、ラウロイルリジン処理、パーフルオロアルキルフォスフェート処理、パーフルオロアルキルシラン処理、シリカ処理などの各種表面処理が施されてもよい。
【0013】
(d)のゲル化剤は、きわめて少量の添加で、美爪料の粘度を増加させるものであり、例えば、モンモリロナイト、スメクタイト、またはヘクトライト等のモンモリロナイト群、ナトリウムシリシックマイカ、ナトリウムデニオライトもしくはリチウムテニオライト等の合成雲母等、またはヘクトライトやベントナイトのような粘土鉱物、あるいは無水ケイ酸等が挙げられる。
【0014】
(e)の非芳香族系有機溶剤としては、酸化ブチル、酸化エチル、メチルエチルケトン、アセトン、n−ブタノール、イソプロピルアルコール、エチルアルコール等が挙げられる。その他、皮膜の除去性、修復性などの改良、配合原料の相溶性を改良する目的のために油性成分を配合したり、さらに可塑剤、助溶剤、希釈剤、糊剤、安定化剤、界面活性剤、染料、香料、水等を加えてもかまわない。上記配合中で、ニトロセルロースの配合量は0〜15質量%が適量であり、ニトロセルロースの配合量が0質量%の場合には、有色顔料と可塑剤をあらかじめ、天然植物由来の生分解性非晶性ポリ乳酸に混練しておくのがよい。一方、皮膜形成樹脂としての天然植物由来の生分解性非晶性ポリ乳酸の配合量は、1〜40質量%が適当である。
本発明の美爪料には、これらの他に染料、香料など、一般的に美爪料に配合可能な成分を配合することができる。
【0015】
本発明の美爪料の製造方法としては下記の方法が挙げられる。
(1)第1の方法:イソプロパノールを含み市販のニトロセルロースに着色顔料とクエン酸エステルのような可塑剤を3本熱ロールで混錬し、イソプロパノールを蒸発除去して各色のカラーニトロセルロースチップを調製する。これらのカラーニトロセルロースチップと本発明の天然植物由来非晶性生分解ポリ乳酸を皮膜形成樹脂として、酢酸エステル、炭化水素などの有機溶剤に混合溶解させ均一にする。また、そのときに同時に、パール顔料のような光輝性のある大きな顔料粒子や染料や香料を混合してもよい。
(2)第2の方法:本発明の天然植物由来非晶性生分解ポリ乳酸に着色顔料、可塑剤などを2軸エクストルーダーや加熱式ニーダーなどであらかじめ混錬し、カラーポリ乳酸チップを調製しておく。これとエタノールなどで膨潤させたニトロセルロースとを、酢酸エステルなどの有機溶媒とともに溶解混合する。このとき同時にパール顔料のような光輝性のある大きな顔料粒子や染料や香料を混合してもよい。
【実施例】
【0016】
以下、本発明による美爪料を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0017】
(製造実施例1〜4)
3本熱ロール機を用い、硝化綿H1/4(イソプロピルアルコール湿潤)と、各種色顔料を表1に示される配合(単位は質量部)にて混錬し、硝化綿カラーチップを調製した。調製された硝化綿カラーチップ中には、通常、数%のイソプロピルアルコールが残留している。
【0018】
【表1】

【0019】
(製造実施例5〜8)
2軸エクストルーダーを用い、東洋紡績株式会社製ポリ乳酸「バイオエコールBE−400」をベース樹脂として、表2に示される配合(単位は質量部)にて混錬し、ポリ乳酸カラーチップを調製した。このときの加工温度は、150〜200℃であった。
【0020】
【表2】

【0021】
(実施例1,2)
ラッカーシンナーベース溶剤として、n−ブチルアセテート33質量%、エチルアセテート33質量%、トルエン34質量%の割合で混合したものをあらかじめ準備する。このラッカーシンナーベース70質量%と、製造実施例1〜4で調製した硝化綿カラーチップ30質量%とを、ディスパーを用いて溶解分散させ、各色のカラーブレンドペーストを調製した。一方、下記の配合にて、ベントンゲルペーストもあらかじめ調製した。
トルエン 35部
n−ブチルアセテート 26部
エチルアセテート 6.75部
イソプロピルアルコール 8.5部
硝化綿H1/4 15部
ベントン27 8部
カンファー 0.75部
100部
【0022】
また、分散ベースとして、下記のペーストを調製した。
n−ブチルアセテート 23部
トルエン 17.7部
硝化綿H1/4 14.4部
アセチルトリエチルサイトレート 4部
カンファー 1.2部
n−ブチルアセテート 0.8部
イソプロピルアルコール 0.2部
エチルアルコール 1.7部
ベントンゲル(上記) 20部
ポリ乳酸(BE−400)40%エチルアセテート溶液 17部
100部
【0023】
上記分散ベースを用い、下記の配合にてカラーマニキュアを調製した。
(実施例1:ブラウンマニキュア)
分散ベース100部に対して、製造実施例2で調製した硝化綿カラーチップ0.5部、製造実施例3で調製した硝化綿カラーチップ0.61部、製造実施例4で調製した硝化綿カラーチップ0.5部をそれぞれ配合したカラーブレンドペーストを、ディスパーにて均一に混合分散させた。
(実施例2:ピンクマニキュア)
分散ベース100部に対して、製造実施例1で調製した硝化綿カラーチップ0.2部、製造実施例4で調製した硝化綿カラーチップ0.4部をそれぞれ配合したカラーブレンドペーストを、ディスパーにて均一に混合分散させた。
【0024】
(実施例3,4)
上記実施例1,2の時と同様のベントンゲルを用い、下記の配合にて分散ベースを調製した。
n−ブチルアセテート 23部
トルエン 17.7部
硝化綿H1/4 18.4部
アセチルトリエチルサイトレート 4部
カンファー 1.2部
n−ブチルアセテート 0.8部
イソプロピルアルコール 0.2部
エチルアルコール 1.7部
ベントンゲル(上記) 20部
ポリ乳酸(BE-400)40%エチルアセテート溶液 13部
100部
【0025】
上記分散ベースを用い、下記の配合にてカラーマニキュアを調製した。
(実施例3:ブラウンマニキュア)
分散ベース100部に対して、製造実施例8で調製した硝化綿カラーチップ0.5部、製造実施例6で調製した硝化綿カラーチップ0.61部、製造実施例7で調製した硝化綿カラーチップ0.5部をそれぞれ配合したカラーブレンドペーストを、ディスパーにて均一に混合分散させた。
(実施例4:ピンクマニキュア)
分散ベース100部に対して、製造実施例5で調製した硝化綿カラーチップ0.2部、製造実施例7で調製した硝化綿カラーチップを0.4部をそれぞれ配合したカラーブレンドペーストを、ディスパーにて均一に混合分散させた。
【0026】
(比較例1,2)
下記の配合にて、分散ベースを調製した。なお、ベントンゲルは、上記実施例のものと同様のものを使用した。
n−ブチルアセテート 23.09部
トルエン 22.18部
エチルアセテート 7.23部
硝化綿H1/4 14.39部
アセチルトリエチルサイトレート 4部
カンファー 1.2部
n−ブチルアセテート 0.8部
イソプロピルアルコール 0.225部
エチルアルコール 0.06部
ベンゾフェノン−2 0.025部
ベントンゲル(上記) 20部
アルキッド樹脂 6.8部
100部
【0027】
上記分散ベースを用い、下記の配合にてカラーマニキュアを調製した。
(比較例1:ブラウンマニキュア)
分散ベース100部に対して、製造実施例2で調製した硝化綿カラーチップ0.5部、製造実施例3で調製した硝化綿カラーチップ0.61部、製造実施例4で調製した硝化綿カラーチップ0.5部をそれぞれ配合したカラーブレンドペーストを、ディスパーにて均一に混合分散させた。
(比較例2:ピンクマニキュア)
分散ベース100部に対して、製造実施例1で調製した硝化綿カラーチップ0.2部、製造実施例4で調製した硝化綿カラーチップ0.4部をそれぞれ配合したカラーブレンドペーストを、ディスパーにて均一に混合分散させた。
【0028】
実施例1〜4で調製したカラーマニキュアは、比較例1,2で調製したものと同等の、艶、光沢、皮膜強度、発色性を示した。また、比較例1,2のものは、環境対応型ではないのに対し、実施例1〜4のものは、好気性分解、嫌気性分解の両方の方法にて生分解可能なポリ乳酸が含まれているので、環境に負荷のかからないマニキュアである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、環境対応型であるだけでなく、塗布性および光沢性に優れ、皮膜強度に優れた美爪料が得られるので、化粧料としての利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で示される、天然植物由来非晶性生分解性高分子化合物であるポリ乳酸を樹脂成分として配合することを特徴とする美爪料。
【化2】

(式中、R,R,Rは炭素数が1以上の飽和炭化水素基であり、同一でも、異なっていてもよい。nは1以上の整数である。)

【公開番号】特開2011−168552(P2011−168552A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35164(P2010−35164)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(391015373)大東化成工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】