説明

美白剤

【課題】天然由来で人体への安全性が高く、安定供給についても問題がなく、且つコンプライアンスの点でも十分な美白剤を提供する
【解決手段】ブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物を含有する美白剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は美白剤に関する。さらに、詳しくは本発明はブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物を含有する美白作用を有する飲食品、香粧品または医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
シミ、ソバカスおよび日焼け後の肌への色素沈着は、加齢に伴い、発生、増加、あるいは消失しにくくなり、中高年齢層にとっては悩みとなっている。皮膚の着色の原因となるこのメラニン色素は、表皮と真皮との間にあるメラニン細胞(メラノサイト)内のメラニン生成顆粒(メラノソーム)において生産され、生成したメラニンは、浸透作用により隣接細胞へ拡散する。このメラノサイト内における生化学反応は、次のようなものとされている。すなわち、必須アミノ酸であるチロシンが酵素チロシナーゼの作用によりドーパキノンとなり、これが酵素的または非酵素的酸化作用により赤色色素および無色色素を経て黒色のメラニンへと変化する過程がメラニン色素の生成過程である。従って、反応の第1段階であるチロシナーゼの作用を抑制することが、メラニン生成の抑制にとって重要である。このメラニンの形成と沈着を防ぐ薬剤、すなわち美白剤の開発が強く望まれており、これまでに多くの薬剤が開発されてきている。
【0003】
これら薬剤の中には、エラグ酸(特許文献1)、アスコルビン酸、ハイドロキノン、コウジ酸、プラセンタエキスおよびアルブチンなどがある。さらに植物の抽出成分としては、火棘(Pyracantha fortuneana)(特許文献2)の抽出物、キョウニンやカリンの抽出物(特許文献3)、ヒノキやジャスミン等(特許文献4)、またはヤワーピリーピリ(特許文献5)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64−79103号公報
【特許文献2】特開2001−139482号公報
【特許文献3】特開平8−119848号公報
【特許文献4】特開平11−60467号公報
【特許文献5】特開2000−119156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらこれら従来のメラニン産生抑制薬剤は、安定性、副作用、効果などの点で満足できるものではなく、安定供給やコンプライアンス(服薬遵守)の点でも十分ではないことがあった。そこで、天然由来で人体への安全性が高く、安定供給についても問題がなく、且つコンプライアンスの点でも十分な美白剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた。その結果、特定植物から好ましくは特定の溶媒を利用して得られた抽出物が、強力なチロシナーゼ活性阻害作用やメラニン合成阻害を有し、美白用組成物として有用であることを見いだした。すなわち、本発明者らは、オーク類などブナ科コナラ属植物を特にエタノール等の低級アルコールの水溶液で抽出した抽出物を含有させることによって、美白用組成物を提供できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は
(1)ブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物を含有する美白剤、
(2)抽出物が抽出液、抽出液の濃縮物または抽出液の乾燥物であることを特徴とする(1)に記載の美白剤、
(3)ブナ科コナラ属植物がオーク類であることを特徴とする(1)または(2)に記載の美白剤、
(4)ブナ科コナラ属植物がオーク類木材からなるチップまたはウイスキーもしくはブランデー熟成用樽の形態であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の美白剤、
(5)溶媒が低級アルコールを含む水溶液であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の美白剤、
(6)低級アルコールがエタノールであることを特徴とする(5)に記載の美白剤、
(7)溶媒のエタノールの濃度が10〜100容量%であることを特徴とする(6)に記載の美白剤、
(8)溶媒が、エタノール含有物を蒸留したものであることを特徴とする(6)または(7)に記載の美白剤、
(9)溶媒抽出物がエタノール含有物を蒸留したものをオーク樽中でオーク樽材と接触させることにより得られることを特徴とする(1)〜(8)に記載の美白剤、
(10)接触期間が0.5年以上であることを特徴とする(9)に記載の美白剤、
(11)ウイスキー、ブランデーまたはそれらの濃縮物あるいは乾燥物のいずれかである(1)に記載の美白剤、
(12)飲食品、香粧品または医薬品である(1)〜(11)のいずれかに記載の美白剤、
(13)外用香粧品または外用医薬品である(12)に記載の美白剤、
(14)飲食品、口中用の香粧品または経口医薬品である(12)に記載の美白剤、
(15)ブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物を含有することを特徴する飲食品用、香粧品用または医薬品用の添加剤または配合剤、
(16)ブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物を含有するメラニン産生抑制剤、
(17)ブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物の美白剤製造のための使用、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物は、美白作用が強く、安全性が高く、当該溶媒抽出物またはそれを含む組成物は、美白剤(例えば美白作用を有する飲食品、香粧品または医薬品等、または飲食用、香粧品用または医薬品用の添加剤等)の製造に有用である。さらに、ブナ科コナラ属植物またはその溶媒抽出物は、美白作用を有する飲食品、香粧品または医薬品の製造原料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物を含有する美白剤に関する。
【0010】
本発明で用いられるブナ科(Fagacwae)コナラ属(Quercus sp)植物としては、例えば、コナラ(ナラ)(Quercus serrata Thunb.)、ミズナラ(オオナラ)(Quercus grosseserrata Blume , Quercus crispula Blume , Quercus mongolica Fisch. var.grosseserata (Blume) Rehd. et Wils.),クヌギ(Quercus acutissima Carruth.),アベマキ(Quercus variabilis Blume),カシワ(Quercus dentata Thunb.),ナラガシワ(Quercus aliena Blume),ウバメガシ(Quercus phillyraeoides A. Gray),シラカシ(クロガシ)(Quercusmyrsinaefolia Blume , Cyclobalanopsis myrsinaefolia (Blume) Oerst.),アラカシ(Quercus glauca Thunb. , Cyclobalanopsis glauca (Thunb.) Oerst.),ツクバネガシ(Quercus paucidentata Franch. , Quercus salicina Blume , Cyclobalanopsis paucidentata Kudo et Masam. , Quercus sessilifolia Blume, Cyclobalanopsis sessilifolia Blume),ウラジロガシ(Quercus stenophylla Makino , Quercus salicina Blume , Cyclobalanopsis salicina (Blume) Oerst.),ヨコメガシ(シマガシ)(Quercus glauca Thunb. var.fasciata Blume),ヒリュウガシ(Quercus glauca Thunb. var. lacera Matsum.),アカガシ(オオガシ,オオバガシ)(Quercus acuta Thunb. , Cyclobalanopsis acuta (Thunb.) Oerst.),イチイガシ(Quercus gilva Blume ,Cyclobalanopsis gilva (Blume) Oerst.),ホワイトオーク(Quercus alba L.),アリゾナホワイトオーク(Quercus arizonica),スワンプホワイトオーク(Quercus bicolor Willd.),ターキーオーク(イタリアンオーク)(Quercus cerris L.),モールオーク(キャニオンライブオーク、アリゾナスクラブオーク)(Quercus chrysolepis Liebm.),ブラックジャックオーク(Quercus marilandica),石栗(Quercus cornea Lour., Lythocarpus cornea(Lour.)Rehd.),シンオーク(Quercus gambelii Nutt.),エンシナ(Quercus agrifolia Nee),ブルーオーク(Quercus douglasii),ウォーターオーク(Quercus nigra),パルマーオーク(Quercus palmeri),ピンオーク(Quercus palustris),カルフォルニアスクラブオーク(Quercus dumosa),アモリーオーク(Quercus emoryi Torr.),メサオーク(Quercus engelmannii Greene),オレゴンホワイトオーク(Quercus garryana Dougl.),オレゴンホワイトオーク(Quercus garryana Dougl.),カリフォルニアホワイトオーク(Quercus lobata Nee),ブラックオーク(Quercus velutina),カリフォルニアブラックオーク(Quercus kelloggii),バーオーク(Quercus macrocarpa),ウェイビーリーフオーク(Quercus undulata Torr.),コルクオーク(コルクガシ)(Quercus lucombeana Sweet ,Quercus suber L.),ホーリーオーク(Quercus ilex L.),オキナワウラジロガシ(Quercus miyagii Koidz. , Cyclobalanopsis miyagii(Koidz.)Kudo et Masamune),スモールオーク(Quercus pungens),モンゴリナラ(モウコガシワ)(Quercus mongolicaFisch.var.mongolica),チェスナッツオーク(Quercus prinus L.),コモンオーク(リムザンオーク、イングリッシュオーク、フレンチオーク)(Quercus robur L.),スパニッシュオーク(サウザンレッドオーク)(Quercus falcata),ノーザンレッドオーク(Quercus rubra),バージニアライブオーク(Quercus virginiana),インテリアライブオーク(Quercus wislizeni),ポストオーク(Quercus stellata),高山櫟(Quercus semicarpifolia Sm.),セシルオーク(Quercus peraea (Mattuschka) Lieblein)等を挙げることができる。古来、ウイスキーやブランデー等の製造、貯蔵用の樽の原料として用いられてきた植物の多くはこの属に属される。特にオーク類と称される植物が好ましい。本発明でいうオーク類とは、ブナ科コナラ属の植物のうち、ウイスキーやブランデー等の製造、貯蔵用の樽の原料として用いられた植物群を言う。本発明においてはこのオーク類を好適に用いることができる。中でも、ホワイトオーク、コモンオーク、セシルオーク、スパニッシュオーク、バーオークやミズナラを特に好適に用いることができる。
これらの植物について、原料として用いる部位には特に制限されるものではなく、幹、葉、枝、樹皮、花、実などを用いることができるが、幹及び主枝から樹皮を除いた心材から抽出するのが好ましい。また、それらは採取直後でもよいし、乾燥させた後に用いてもよい。必要により粉砕、切断、細切、成形等の加工をして用いることもできる。かかる植物の木材から得られるチップ、木粉、樽等が加工品として挙げられる。樽は溶媒抽出に使用する前に内面を焼く等の加熱処理をするのが好ましい。
【0011】
本発明で用いる抽出溶媒としては、好ましくは低級アルコールの水溶液を用いることができる。ここで低級アルコールとしては、炭素数が1ないし4のアルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)を挙げることができる。水溶液中の低級アルコールの濃度は、美白作用の強い抽出物が得られる濃度とすることが肝要であり、具体的には、低級アルコール水溶液中の低級アルコールの濃度が、通常約10〜100容量%、好ましくは約30〜99容量%である。最終的に飲食品等にも配合できることを考慮すると、抽出溶媒としては、安全性の観点からエタノール水溶液を用いることが好ましい。またここでいう抽出溶媒には、低級アルコールと水のほか、抽出効率を大きく損わない範囲で他の成分が含まれていてもよい。例えば、所望により糖類、塩類またはアミノ酸などの水溶性成分や各種他の溶媒(例えば酢酸エチル、アセトン)が含まれていてもよい。
従って、低級アルコールとして、例えばエタノールを用いる場合、エタノール水溶液として、工業的な試薬を水と混合したものを用いてもよいし、あるいは、各種アルコール製品やその仕掛品を用いてもよい。例えばブランデー、ウイスキー、焼酎、日本酒、ビール、発泡酒、スピリッツ、ウオッカまたはそれらの仕掛品が挙げられる。これらの製造方法は常法に従えばよい。植物原料で樽を成形し、その中に溶媒を注入して抽出を行う場合には、溶媒として、エタノール含有物を蒸留したものを好適に用いることができる。ここでいう、エタノール含有物を蒸留したものとは、エタノールを含有する液を蒸留して得られる蒸留物をいう。具体的には、麦芽、米、ブドウ等を原料の一部としてとして糖化、醗酵させて得られるエタノール含有物を、単式蒸留または複式蒸留して得ることができる。例えば、焼酎、ウオッカ、ウイスキー貯蔵前原酒(モルトウイスキーの原酒のニューポット、グレンウイスキーの原酒のニューメイク)、ブランデー貯蔵前原酒(ヌーベル)、を用いるのが好ましい。中でも、ウイスキー貯蔵前原酒、ブランデー貯蔵前原酒を好適に用いることができる。これらの製造方法は常法に従えばよい。この場合には、抽出条件は室温で約半年〜30年程度とすることが好ましい。
【0012】
本発明で原料として用いられる植物の溶媒による抽出方法としては、特に限定されるものではなく、溶媒を上記植物原料と接触させることにより行われる。溶媒中に原料を浸漬させるか、あるいは、植物原料を用いて樽等の容器を成形しその中に溶媒を注入してもよい。静置保存してもよいし、加熱還流や浸漬抽出など、抽出様式は公知手段に従い所望に応じて適宜設定することができる。抽出は常温で行われても加温で行われてもよい。抽出温度は特に限定されないが、操作上、溶媒の沸点以下であることが好ましい。抽出に要する時間は、温度条件や抽出方法にもよるが、通常約30分程度以上である。抽出時間の上限は特に制限されないが、約30年程度で充分な場合が多い。もちろん、本発明では30年以上でもよい。
【0013】
本発明によれば、上記抽出後、自体公知の手段に従って、ブナ科コナラ属植物、その処理物またはその加工品を、美白成分を含有する抽出液と分離する。分離手段としては、公知手段に従ってよく、例えば遠心分離、ろ過などが挙げられる。本発明に抽出液を美白剤として使用してもよいし、抽出液の濃縮物または乾燥物(濃縮乾固物)を美白剤として使用してもよい。濃縮は常圧または減圧下に行われる。濃縮によって濃縮液の容積を約5〜70容量%、好ましくは約10〜50容量%に減少させるのがよい。乾固物は、美白成分を含む抽出液から溶媒を好ましくは減圧下に蒸発させることによって得られる。
さらに、本発明の溶媒抽出物は、抽出によって得られた抽出物を更に例えばカラムクロマトグラフィー等で分画精製したものが含まれる。このようにして得られた溶媒抽出物は、抽出操作の完了した抽出液、抽出液の溶媒を部分的に除去した濃縮物または溶媒を全部除去した乾燥物として用いることができる。保存安定性や持ち運びが容易である点から、乾燥物として用いることが好ましい。本発明でいう溶媒抽出物とは、これら抽出液、濃縮物および乾燥物を指す。また、本発明でいう溶媒抽出物を含有する美白用組成物とし、美白作用を有する上述の溶媒抽出物を含有させた組成物をそのまま美白剤として使用してもよいし、さらに例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、蒸留水、乳糖、デンプンまたは下記実施例で記載する具体例等の適当な液体または固体の賦形剤または増量剤を加えて美白剤に使用してもよい。美白剤中の溶媒抽出物の混合割合は、特に限定されないが、抽出物の性状(抽出液、濃縮物、または乾燥物)により、例えば、約0.01〜100重量%の範囲で適宜設定できる。
【0014】
また、本発明によれば、ブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物を含有する飲食品、香粧品および医薬品などを調製することができる。溶媒抽出物の配合量は、特に限定されないが、抽出物の性状(抽出液、濃縮物、または乾燥物)により、例えば、約0.01〜100重量%、好ましくは約0.1〜80重量%の範囲で適宜設定できる。
【0015】
飲食品としては、飴、トローチ、ガム、ヨーグルト、アイスクリーム、プリン、ゼリー、水ようかん、アルコール飲料、コーヒー飲料、ジュース、果汁飲料、炭酸飲料、清涼飲料水、牛乳、乳清飲料、乳酸菌飲料等に対して、溶媒抽出物を適量含有させて、飲食品として提供することができる。これらの飲食品は、必要により各種添加剤を配合し、常法に従って得ることができる。
これらの飲食品を調製する場合には、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェノール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルアラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等、通常の食品原料として使用されている添加剤を適宜配合して、常法に従って製造することができる。
【0016】
本発明でいう香粧品とは、化粧品や香料製品と称される製品を含むが、これらを提供する場合、化粧水、化粧クリーム、乳液、ファンデーション、口紅、整髪料、ヘアトニック、育毛料、シャンプー、リンス、入浴剤といった非口中用の香粧品や、歯磨き類、洗口液、うがい薬、口腔香料といった口中用の香粧品に対して、溶媒抽出物を適量含有させて、香粧品を調製することができる。
これらの香粧品は、例えば、植物油等の油脂類、ラノリンやミツロウ等のロウ類、炭化水素類、脂肪酸、高級アルコール類、エステル類、種々の界面活性剤、色素、香料、ビタミン類、植物・動物抽出成分、紫外線吸収剤、抗酸化剤、防腐・殺菌剤、保湿剤(例えば尿素、ヒアルロン酸)等、通常の香粧品原料として使用されている添加剤を適宜配合して、常法に従って得ることができる。
【0017】
医薬品として用いる場合には、必要により各種添加剤を配合し、溶媒抽出物を適量含有させて、各種剤形の医薬品として調製することができる。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、エキス剤等の経口医薬品として、あるいは、軟膏、眼軟膏、ローション、クリーム、貼付剤、坐剤、点眼薬、点鼻薬、注射剤といった非経口医薬品として、提供することができる。これらの医薬品は、各種添加剤と用いて常法に従って製造すればよい。使用する添加剤には特に制限はなく、通常用いられているものを使用することができ、その例としてはデンプン、乳糖、白糖、マンニトール、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等の固形担体、蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノール等のアルコール、またはプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の液体担体、各種の動植物油、白色ワセリン、パラフィン、ロウ類等の油性担体等が挙げられる。
【0018】
溶媒としてエタノール水溶液を用いた場合や、原料の植物として、抽出液での飲食経験の豊富なオーク類を用いた場合、経口服用時の安全性にもすぐれていることから、飲食品、経口医薬品、口中用の香粧品として好適に用いることができる。従って、溶媒抽出物として、ウイスキーやブランデー、あるいはそれらの濃縮物ならびに乾燥物を用いて、飲食品、経口医薬品、口中用の香粧品に好適に調製することができる。
【0019】
また、本発明の溶媒抽出物を用いて飲食品、香粧品または医薬品を調製する場合には、他の美白剤やメラニン産生抑制剤、例えば、エラグ酸、アスコルビン酸、ハイドロキノン、コウジ酸、プラセンタエキス、アルブチンや、あるいは、火棘、キョウニン、カリン、ヒノキ、ジャスミン、ヤワーピリーピリなどの植物の抽出成分などとあわせて用いることができる。このようは植物抽出成分と本発明の溶媒抽出物配合割合は、一概には云えないが、重量割合で通常約1:9〜9:1である。
【0020】
本発明でいう、飲食品用、香粧品用または医薬品用の添加剤または配合剤とは、香料、色素、酸化防止剤などの、飲食品、香粧品または医薬品用として通常用いられる添加剤または配合剤に、溶媒抽出物を混合したものを言う。混合比率は適宜設定すればよい。混合比率としては、例えば約0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜80重量%である。ここで用いる飲食品、香粧品または医薬品用の添加剤または配合剤としては、上述の各種添加剤が挙げられる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0022】
(試験方法)チロシナーゼ阻害活性の評価方法
以下の実施例では、美白作用の指標として、チロシナーゼ阻害活性を評価した。試験方法は以下のとおりである。
B16マウスメラノーマ細胞は、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地を用い5%CO、37℃の条件下で培養した。被験物質は凍結乾燥品をDMSOにて適宜溶解し試験に供した。被験物質とB16メラノーマ細胞より調製したチロシナーゼ粗酵素液を混和し、基質としてL−ドーパを終濃度0.05%になるように添加した。37℃で20分間反応させ、492nmの吸光度Aを測定した。吸光度Aはドーパクローム量に比例する。コントロールとして、上記反応系において被験試料を添加せずに同様の操作を行い492nmの吸光度Bを測定し、下記の式からチロシナーゼ活性阻害率を算出した。
阻害率(%)=(1−A/B)×100
被験試料の濃度(μg/反応溶液ml)を段階的に変えて、上記阻害率を測定し、阻害率が50%を示す試料濃度を内挿法で求め、IC50とした。
【0023】
[実施例1]
ホワイトオークの抽出物の有無による美白作用への影響を検討した。
(発明品1):
工業用エタノールを水と混合し、60容量%エタノール水溶液とした。当該エタノール水溶液2.4Lに、ホワイトオークのチップ(1x1x2cm)240gを添加し、85℃で5分間加熱した後、24時間室温で放置し、再度85℃で5分間加熱した。得られた抽出液を減圧乾燥し、7.2gの乾燥品を得た。
【0024】
(発明品2〜5):
ウイスキーの貯蔵前原酒として用いられるニューポットを調整した。すなわち、発芽した大麦(麦芽)を粉砕し、温水と混合し糖化させ、濾過した糖液に酵母を加え発酵させ、アルコール度数は7.0〜7.5容量%の醪(もろみ)を得た。醪を銅製のポットスチル(単式蒸溜器)にいれて二度蒸溜し、アルコール濃度60容量%のアルコール含有の組成物(ニューポット)を得た。
次に、ウイスキー製造用の樽(内容量230リットル)をホワイトオークを用いて製造した。樽の内面は直火で加熱処理した。
当該ウイスキー樽に上述のエタノール溶媒(ニューポット)を210リットル入れ栓をし、貯蔵庫にて室温で保存した。経時的に抽出液を採取し、3年(発明品2)、5年(発明品3)、12年(発明品4)、18年(発明品5)の時点で採取した。得られた抽出液を減圧乾燥し被験物質とした。
【0025】
(発明品6):
同様の方法による保存期間12年以上の抽出物を複数種類ブレンドして得られたサントリーウイスキー山崎(登録商標)12年を減圧乾燥し、被験物質を得た(発明品6)。
これら発明品を上述の方法でチロシナーゼ阻害活性を測定した。
対照品として、ニューポットを減圧乾燥したものを用いた(対照品1)。結果を表1に示した。
対象品に比較して、本発明品はいずれも、強いチロシナーゼ阻害活性が認められた。特に、溶媒としてニューポットを用いた場合、保存期間が長いほど作用は強かった。
これは、多く化粧品や医薬部外品に美白成分として用いられているエラグ酸を同じ試験系で評価した結果(IC50=137μg/ml)と比較すると本発明品はエラグ酸よりも、同等以上に強いものであった。
以上より、本発明品は、美白作用が強く、特に保存期間が長いほど、美白作用が強いことが示された。これらは溶媒としてエタノール水溶液を用いており、かつ飲食経験の豊富なウイスキーの製造方法に準じていることから、経口服用することができる程度に充分に安全性の高い美白剤を提供することができた。
【0026】
【表1】

【0027】
[実施例2]
コモンオークの抽出の有無による美白作用への影響を検討した。
(発明品7):
工業用エタノールを水と混合し、70容量%エタノール水溶液とした。当該エタノール水溶液10Lに、コモンオークの一種であるリムーザンオーク1kgを細断したものを添加し、85℃で5分間加熱した後24時間室温で放置し、再度85℃で5分間加熱した。得られた抽出液を減圧乾燥し、148gの乾燥品を得た。
【0028】
(発明品8〜11):
ブランデーの貯蔵前原酒として用いられるヌーベルを調整した。すなわち、白ぶどうをつぶして果汁を絞り、酵母を添加し発酵させ、アルコール分8〜10容量%のぶどう醗酵液を得た。これを蒸溜器にて蒸留しアルコール濃度70容量%のアルコール含有の組成物(ヌーベル)を得た。
次に、ブランデー製造用の樽(内容量370リットル)をコモンオークを用いて製造した。樽の内側は直火で加熱処理した。
当該ブランデー製造用樽に上述のエタノール溶媒(ヌーベル)を350リットル入れ栓をし、貯蔵庫にて室温で保存した。経時的に採取し、7年(発明品8)、10年(発明品9)、15年(発明品10)、20年(発明品11)の時点で採取した。得られた抽出液を減圧乾燥し被験物質とした。
【0029】
(発明品12):
同様の方法で長期貯蔵により得られた抽出物を複数種類ブレンドして得られたサントリーブランデーインペリアル(登録商標)を減圧乾燥し、被験物質を得た(発明品12)。
これら発明品を上述の方法でチロシナーゼ阻害活性を測定した。
対照品として、ヌーベルを減圧乾燥したものを用いた(対照品2)。結果を表2に示す。
対照品に比較して、本発明品はいずれも、強いチロシナーゼ阻害活性が認められた。特に、溶媒としてヌーベルを用いた場合、保存期間が長いほど作用は強かった。
【0030】
【表2】

【0031】
対象品に比較して、本発明品はいずれも強いチロシナーゼ阻害活性が認められた。特に、溶媒としてヌーベルを用いた場合、保存期間が長いほど作用は強かった。
以上より、本発明品は、美白作用が強く、特に保存期間が長いほど、美白作用が強いことが示された。これらは溶媒としてエタノール水溶液を用いており、かつ飲食経験の豊富なブランデーの製造方法に準じていることから、経口服用することができる程度に充分に安全性の高い美白剤を提供することができた。
【0032】
[実施例3]
発明品6を用いて、細胞内メラニン産生阻害作用を評価した。
被験物質として、上述の発明品6(サントリーウイスキー山崎(登録商標)12年)を用いた。すなわち、サントリーウイスキー山崎(登録商標)12年を減圧乾燥し、終濃度100ug/mlとして用いた。
細胞内メラニン量測定は以下の方法で行った。4x10個のB16メラノーマ細胞を60mmプラスティックシャーレに植え込み前培養を行った。24時間の前培養後、被験物質を添加した。被験試料存在下で、細胞を3日間培養したのち、PBSにより洗浄し、1N NaOHを加え加熱溶解した。培養液について、470nmの吸光度Cを測定した。吸光度Cはメラニン量に比例する。コントロールとして、上記反応系において被験試料を添加せずに同様の操作を行い470nmの吸光度Dを測定し、下記の式から細胞内メラニン産生阻害率を算出した。
阻害率(%)=(1−C/D)×100
なお、同時に細胞数計測により、試料が細胞増殖に与える影響についても検討した。結果を表3示す。
【0033】
【表3】

【0034】
細胞内メラニン産生量は、発明品6で顕著に低減した。なお、本発明品の細胞増殖は、コントロールと同程度であり、発明品の細胞増殖へ影響は認めらなかった。
以上より、本発明の組成物は、細胞内メラニン産生量を顕著に軽減し、安全性の高い美白剤を提供できることが判った。
【0035】
[実施例4]
以下に示す方法で、本発明の溶媒抽出物を含む医薬品を製造した。
【0036】
錠剤:ホワイトオークのチップ1kgをステンレス容器に入れ、エタノール濃度が60容量%の水溶液30Lを加え、60℃で3時間攪拌した。得られた抽出液から溶媒を除去し、15gのホワイトオーク抽出物(乾燥品)を得た。
この乾燥品5gに、乳糖490g及びステアリン酸マグネシウム5gを混合し、単発式打錠機にて打錠し、直径10mm、重量300mgの錠剤を製造した。
顆粒剤:上述の錠剤を粉砕、整粒し、篩別して20−50メッシュの顆粒剤を
得た。
【0037】
[実施例5]
実施例4と同様の方法でホワイトオーク抽出物を調製し、以下に示す組成にて、本発明の溶媒抽出物入りの、各種飲食品を製造した。下記組成中のホワイトオーク抽出物(乾燥品)は実施例4で得たものである。
【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
【表6】

【0041】
【表7】

【0042】
【表8】

【0043】
【表9】

【0044】
【表10】

【0045】
【表11】

【0046】
【表12】

【0047】
【表13】

【0048】
【表14】

【0049】
【表15】

【0050】
【表16】

【0051】
【表17】

【0052】
[実施例6]
実施例4と同様の方法でホワイトオーク抽出物を調製し、以下に示す組成にて、本発明の溶媒抽出物入りの、各種香粧品を製造した。下記組成中のホワイトオーク抽出物(乾燥品)は実施例4で得たものである。
【0053】
【表18】

【0054】
【表19】

【0055】
【表20】

【0056】
【表21】

【0057】
【表22】

【0058】
【表23】

【0059】
【表24】

【0060】
【表25】

【0061】
【表26】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明はブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物を含有する美白作用を有する飲食品、香粧品または医薬品に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホワイトオーク、コモンオーク、セシルオーク、スパニッシュオーク、バーオーク及びミズナラからなる群より選択される少なくとも1種のオーク類の溶媒抽出物を飲食品に添加することを特徴とする飲食品に美白作用を付与する方法。
【請求項2】
抽出物が抽出液、抽出液の濃縮物または抽出液の乾燥物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
オーク類がオーク類木材からなるチップまたはウイスキーもしくはブランデー熟成用樽の形態であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
溶媒が低級アルコールを含む水溶液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
低級アルコールがエタノールであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
溶媒のエタノールの濃度が10〜100容量%であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
溶媒が、エタノール含有物を蒸留したものであることを特徴とする請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
溶媒抽出物がエタノール含有物を蒸留したものをオーク樽中でオーク樽材と5年以上接触させることにより得られるものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
溶媒抽出物がウイスキー、ブランデーまたはそれらの濃縮物あるいは乾燥物のいずれかである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ホワイトオーク、コモンオーク、セシルオーク、スパニッシュオーク、バーオーク及びミズナラからなる群より選択される少なくとも1種のオーク類の溶媒抽出物の、美白作用を有する飲食品を製造するための使用。
【請求項11】
ホワイトオーク、コモンオーク、セシルオーク、スパニッシュオーク、バーオーク及びミズナラからなる群より選択される少なくとも1種のオーク類の溶媒抽出物の、飲食品に美白作用を付与するための使用。
【請求項12】
ホワイトオーク、コモンオーク、セシルオーク、スパニッシュオーク、バーオーク及びミズナラからなる群より選択される少なくとも1種のオーク類の溶媒抽出物を含有することを特徴する飲食品。
【請求項13】
ホワイトオーク、コモンオーク、セシルオーク、スパニッシュオーク、バーオーク及びミズナラからなる群より選択される少なくとも1種のオーク類の溶媒抽出物を含有することを特徴する飲食品用添加剤または配合剤。

【公開番号】特開2011−236238(P2011−236238A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163847(P2011−163847)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【分割の表示】特願2005−517526(P2005−517526)の分割
【原出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】