説明

美術品保存装置

【課題】掛軸や絵画等の美術品の保存を簡易かつ良好に行うことを可能とする。
【解決手段】ロックレバー7および開閉ハンドル14の回動操作により蓋板本体3を開閉し、掛軸や絵画等の美術品を固定した移動装架台5を中空気密状の収納ケース1に出し入れするように移動させることによって、美術品の収容または取出を容易に行うとともに、収納ケース1の内部における湿気を調湿剤により一定に保ち、さらにその収納ケース1内における調湿状態を湿度検出手段により常時監視するように構成したもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掛軸や絵画等の美術品を容易かつ良好に保存可能とした美術品保存装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、掛軸や絵画等の美術品には、湿度等の保存環境を適切なものとしておかなければ、ひび割れ、黄変、剥離などの損傷や、カビなどを発生しやすいものが多い。
【0003】
しかしながら、美術品の保存環境を適切に維持するためには、美術品を保管する部屋全体の保存環境を整えたり、大がかりな保存装置を準備しておく必要がある。そのため現状では、美術品の保存を簡易かつ良好に行うことは困難であり、美術品の保存が事実上不可能になっている場合も多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前述のような従来の諸事情に鑑み創出されたもので、掛軸や絵画等の美術品の保存を簡易かつ良好に行うことができるようにした美術品保存装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明にかかる美術品保存装置では、内部に美術品を挿入可能とした中空状筐体からなる収納ケースと、前記美術品を保持可能に構成され、前記収納ケースの挿出開口部から外方に向かって引き出し可能となるように前記収納ケースの内壁に沿って往復移動する移動装架台と、前記収納ケースの挿出開口部を気密的に閉塞可能かつ開放可能に設けられた密閉蓋手段と、前記収納ケースの内部雰囲気を一定湿度に維持する調湿手段と、前期収納ケース内における少なくとも湿度を検知して表示する湿度検出手段とを備えている。
【0006】
このような構成を有する本発明にかかる美術品保存装置によれば、中空気密状の収納ケースの内部に移動装架台を出し入れするように移動させることによって美術品の収容または取出が容易に行われる。
【0007】
また、収納ケースの内部における湿気が調湿手段により一定に保たれるとともに、その収納ケース内における調湿状態が湿度検出手段により常時監視されるため、収納ケースの内部に収容された美術品の保存状態が良好に維持されるようになっている。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明は、中空気密状の収納ケースに対して移動装架台を介して美術品を出し入れすることにより美術品の収容または取出を容易に行うとともに、その収納ケース内を調湿手段によって一定の湿度状態に維持しつつ当該調湿状態を湿度検出手段により常時監視することによって美術品の保存状態を良好に維持することを可能としたものであるから、掛軸や絵画等の美術品の保存を簡易かつ良好に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示されている本発明の一実施形態にかかる美術品保存装置は、書画等の掛軸を保存しておくための掛軸保存装置であって、掛軸の桐箱(以下、掛軸箱という。)を収容可能な細長状の収納ケース1を有している。この収納ケース1は、横断面略矩形状をなして細長状に延在する中空気密状のアルミ筐体からなり、図2および図3に示されているように、長手方向の奥側の端部(図3参照)が奥端止板2により閉塞されているとともに、その反対側に設けられた挿出開口部(図2参照)には、密閉蓋手段を構成する蓋板本体3が開閉可能に取り付けられている。これらの奥端止板2および蓋板本体3の詳細な構成については後述する。
【0010】
上記収納ケース1の内部には、当該収納ケース1の長手方向に沿って延在する案内レール4が配置されている。この案内レール4の内側空間部分には、図示を省略した調湿手段としての調湿剤が適宜の容器を介して交換可能に取り付けられている。上述した案内レール4には複数の案内コロ(図示省略)が回転可能に取り付けられており、それらの案内コロ上には、前述した掛軸箱を載置・固定する移動装架台5が前記案内レール4に沿って往復移動可能となるように装着されている。
【0011】
このとき前記移動装架台5は、上述した密閉蓋手段としての蓋板本体3を収納ケース1から取り外して挿出開口部を開放したときに前記収納ケース1の内部側から外方に向かって引き出し可能となるように構成されている。その移動装架台5には、適宜の間隔をもって配置された複数のフック5aに締結紐(図示省略)が掛け渡すように設けられており、それらの締結紐を互いに結び合わせることによって掛軸箱の固定が行われるようになっている。
【0012】
このような移動装架台5の奥側(図3参照)端面は、上述した奥端止板2側から立ち上がるように取り付けられた一対の板バネ2aの先端部分に当接可能となるように配置されており、当該移動装架台5が奥側に向かって押し込められたときに前記板バネ2aに対して移動装架台5の奥側(図3参照)端面が弾性的に当接して弾性的に係止されるようになっている。
【0013】
一方、上述した密閉蓋手段の蓋板本体3は、前記収納ケース1の挿出開口部に対して気密的に閉塞可能に取り付けられるように構成されているとともに、次に説明するロック手段の締付力によって当該蓋板本体3が気密的に閉塞された状態に維持されるようになっている。また、そのロック手段を解除したときには前記蓋板本体3が挿出開口部から任意に取り外し可能となるように構成されている。
【0014】
上述したロック手段は、前記蓋板本体3の略中心部分を前記収納ケース1の長手方向に沿って貫通するロック軸6を有している。このロック軸6は、前記蓋板本体3側に固定された軸受部材6aを介して摺動自在かつ回転可能に支持されており、当該ロック軸6が前記蓋板本体3から外方側に向かって突出した部分の途中部位には、そのロック軸6を軸回りに回動操作させるロックレバー7がボス部7aを介して取り付けられている。このロックレバー7は、前記ロック軸6から半径方向外方に延出するように前記ボス部7aに螺子止めされている。
【0015】
さらに、前記ロック軸6が前記蓋板本体3から内方側に向かって突出した部位の先端部分には、係合板8が固定ナット9の締め付け力により挟持されている。この係合板8は、前記ロック軸6から半径方向外方に向かって放射状に延出する複数の係合爪8aを有しており、それらの各係合爪8aに対応して前述した収納ケース1の内壁面に複数の係止部材1aが設けられている。
【0016】
前記係合板8に設けられた各係合爪8aは、前記ロックレバー7の回動操作により前記ロック軸6とともに回動される構成になされており、前記各係止部材1aと互いに対面するロック位置(図2参照)と、各係止部材1aから回転方向に離間した解除位置との間を回動して切り替えられる構成になされている。このとき、上述したロックレバー7が予め決められた位置、例えば鉛直延在位置に回動された際に前記各係合爪8aが各係止部材1aに対面してロック位置に移動されるようになっている。
【0017】
一方、上述した軸受部材6aの軸方向内側端面の中心部分には、断面テーパ状をなす拡開端部6bが前記係合板8に向かって内径が連続的に拡大するように形成されており、その拡開端部6b内に、上述したロック軸6との間に形成される軸隙間を気密状に閉塞するシール部材としてのOリング11が配置されている。このOリング11は、前記ロック軸6の外周側に装着されたものであるが、前記軸受部材6aの拡開端部6bの内部側に収容されるように配置されている。
【0018】
さらに、前記Oリング11の背面側(図2の左方側)には、前記ロック軸6の外周側に装着された弾性コイルバネ12の一端部がカラー13を介して圧接されている。この弾性コイルバネ12の他端部は、上述した係合板8の中心部分に圧接されており、その係合板8と軸受部材6aとの間部分に圧縮状態で装着されている。そして、この弾性コイルバネ12の軸方向反発力によって前記Oリング11が前記軸受部材6aの拡開端部6bを形成しているテーパ状傾斜面に押し付けられ、その結果として、前記Oリング11がロック軸6の外周面に押し付けられ、前記ロック軸6が軸受部材6aを貫通している部分における軸隙間が気密状に閉塞されるようになっている。
【0019】
また、上述したロック軸6が前記収納ケース1から外方に突出している部位の先端部分には、軸移動手段としての開閉ハンドル14が取り付けられている。この開閉ハンドル14は、前記ロック軸6の先端部分に螺合されており、当該開閉ハンドル14を回すことによって上述したロック軸6が軸方向に移動されるように構成されている。そして、そのロック軸6の軸移動に伴って、上述した係合板8の軸方向移動および前記弾性コイルバネ12の圧縮・伸長が行われるようになっている。
【0020】
一方、上述した収納ケース1の内部には、図示を省略した温湿度センサーが適宜の位置に配置されている。この温湿度センサーは、前記収納ケース1内の温湿度を検知して表示する温湿度検出手段を構成しているものであるが、その温湿度センサーから延出しているリード線21が、前記蓋板本体3の一部に貫通形成された通し孔内に嵌合されたシール用シリコンゴム22を介して前記収納ケース1の内部側から外部側に向かって気密的に引き出されるように取り付けられている。
【0021】
また、そのリード線21が外方に引き出された先端部分には、図示を省略した表示モニターが接続されており、前記温湿度センサーからリード線21を通して送出される検知信号が表示モニターに受けられて収納ケース1の内部の温湿度の表示が行われるようになっている。
【0022】
さらに、前記蓋板本体3の隅部には押込ピン23が前記収納ケース1の内部に向かって立設されており、その押込ピン23の突出方向の先端部分には略尖塔状の弾性部材からなる突当部材24が取り付けられている。その突当部材24は、上述した移動装架台5の手前側(図2参照)の端面に当接可能な位置に配置されており、前記蓋板本体3が閉塞されたときに当該突当部材24が移動装架台5側に当接して当該移動装架台5を奥側(図3参照)に向かって押し込むように構成されている。そして、奥側に押し込められた移動装架台5の奥側端面は、前述した板バネ2aに対して弾性的に当接し、その板バネ2aと前記突当部材24との間に移動装架台5が弾性的に位置決めされるようになっている。
【0023】
また、上述した収納ケース1の奥端止板2の略中心部分には、通気パイプ2bが当該奥端止板2軸方向に貫通するように設けられており、その通気パイプ2bが前記収納ケース1の内部側に開口している部位にエアバッグ2cが取り付けられている。このエアバッグ2cは、分子の大きさとの関係から空気は通過させるが水分は通過させないような材質、例えば例えばOPPシートから形成されており、収納ケース1の内部空間の圧力に対応して体積が拡張・伸縮するように構成されていることによって、当該エアバッグ2cを通して前記収納ケース1の内部側圧力が大気圧との関係で相対的に調整されるようになっている。
【0024】
このような実施形態にかかる掛軸保存装置を使用するにあたっては、例えば図4に示されているように蓋板本体3を取り外して開放させる。その蓋板本体3の取り外しを行うには、開閉ハンドル14を弛緩方向に回転操作してロック手段を構成している係合板8および弾性コイルバネ12を開放状態とし、ロックレバー7を回動操作して係合板8の係合爪8aを係止部材1aから回転方向に離間した解除位置に移動させる。これにより密閉蓋手段の蓋板本体3が収納ケース1の挿出開口部から取り外し可能となる。
【0025】
このようにして蓋板本体3を収納ケース1から取り外すと、収納ケース1の挿出開口部が露出状態となり、その挿出開口部を通して移動装架台5を収納ケース1から外方に向かって引き出す。そして、その外方に引き出した移動装架台5上に、掛軸を適宜に巻回して収容した掛軸箱を載置し、その上に締結紐を引き回して結び合わせる。その締結紐によって掛軸箱Wを移動装架台5に固定したら、その移動装架台5を収納ケース1内の奥側に向かって押し込み、奥端止板2側の板バネ2aに移動装架台5を当接させる。
【0026】
つぎに、収納ケース1の挿出開口部に蓋板本体3を位置決めしながら装着し、ロックレバー7を回動操作して係合板8の係合爪8aを係止部材1aと対面するロック位置に移動させる。そして、開閉ハンドル14を締め付け方向に回転操作してロック手段の係合板8をロック状態とするとともに弾性コイルバネ12を圧縮状態とする。これにより収納ケース1の挿出開口部に対して蓋板本体3が気密状に閉塞されるとともに、弾性コイルバネ12が圧縮状態となってOリング11がシール状態となる。
【0027】
また、蓋板本体3側に設けられた突当部材24が移動装架台5側に圧接して当該移動装架台5を奥側に押し込み、当該移動装架台5が奥側に配置された板バネ2aとの間に弾性的に保持される。一方、掛軸箱を収納ケース1から取り出す場合には、これと逆の操作を行うこととなる。
【0028】
このように本実施形態にかかる掛軸保存装置によれば、蓋板本体3を開閉して掛軸箱を固定した移動装架台5を中空気密状の収納ケース1に出し入れするように移動させることによって、掛軸箱の収容または取出が容易に行われる。また、収納ケース1の内部における湿気が調湿剤により一定に保たれるとともに、その収納ケース1内における調湿状態が温湿度センサーを含む湿度検出手段により常時監視されるため、収納ケース1の内部に収容された美術品の保存状態が良好に維持されるようになっている。
【0029】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能であるというのはいうまでもない。
【0030】
例えば上述した実施形態は、保存する美術品として掛軸を対象としたものであるが、掛軸以外の多種多様な美術品に対しても本発明は同様に適用することが可能であることは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上述べた本発明は、掛軸を始めとして、多種多様な美術品に対して広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態としての掛軸保存装置の使用状態を表した外観斜視説明図である。
【図2】図1に示された掛軸保存装置の手前側部分を拡大して表した部分縦断面説明図である。
【図3】図1に示された掛軸保存装置の奥側部分を拡大して表した部分縦断面説明図である。
【図4】図1に示された掛軸保存装置に対して掛軸箱を出し入れする状態を表した外観斜視説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 収納ケース
1a 係止部材
2 奥端止板
2a 板バネ
2b 通気パイプ
2c エアバッグ
3 蓋板本体(密閉蓋手段)
3a 通し孔
4 案内レール
5 移動装架台
5a フック
6 ロック軸
6a 軸受部材
6b 拡開端部
7 ロックレバー
7a ボス部
8 係合板
8a 係合爪
9 固定ナット
11 Oリング
12 弾性コイルバネ
13 カラー
14 開閉ハンドル(軸移動手段)
21 温湿度センサーリード線(温湿度検出手段)
22 シール用シリコンゴム
23 押込ピン
24 突当部材
W 掛軸箱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に美術品を挿入可能とした中空状筐体からなる収納ケースと、
前記美術品を保持可能に構成され、前記収納ケースの挿出開口部から外方に向かって引き出し可能となるように前記収納ケースの内壁に沿って往復移動する移動装架台と、
前記収納ケースの挿出開口部を気密的に閉塞可能かつ開放可能に設けられた密閉蓋手段と、
前記収納ケースの内部雰囲気を一定湿度に維持する調湿手段と、
前記収納ケース内における少なくとも湿度を検知して表示する湿度検出手段と、
を備えたことを特徴とする美術品保存装置。
【請求項2】
前記密閉蓋手段は、
前記収納ケースの挿出開口部の周縁部に対して密着可能に構成された蓋板本体と、
その蓋板本体を前記収納ケースの挿出開口部に密着した状態に保持するロック手段と、
を備えていることを特徴とする請求項1記載の美術品保存装置。
【請求項3】
前記ロック手段は、
前記蓋板本体を摺動自在かつ回転可能に貫通するロック軸と、
前記ロック軸を回転操作させるように当該ロック軸に取り付けられたロックレバーと、
前記ロック軸が前記蓋板本体からケース内方に突出する部位に取り付けられ前記ロックレバーの回転操作に従って回動する係合部材と、
前記収納ケースの内壁に取り付けられ前記係合部材の回動に対応して当該係合部材と軸方向に当接可能に配置された係止部材と、
前記ロック軸が前記蓋板本体を貫通する部分の軸隙間を気密状に閉塞するシール部材と、
そのシール部材を前記軸隙間に対して閉塞する方向に押圧するとともに前記蓋板本体を前記収納ケースの挿出開口部の周縁部に対して開放する方向に押圧する付勢手段と、
前記ロック軸を軸方向に往復移動させる軸移動手段と、
を備えたことを特徴とする請求項2記載の美術品保存装置。
【請求項4】
前記収納ケースは、当該収納ケース内の圧力を調整するエアバッグを介して外気と連通されていることを特徴とする請求項1記載の美術品保存装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−315723(P2006−315723A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140543(P2005−140543)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(505176110)株式会社小嶋技研 (1)
【Fターム(参考)】