群遅延特性補償装置及び群遅延特性補償方法
【課題】群遅延特性補償装置で、アナログローパスフィルタの群遅延特性を簡易に補償できることを目的とする。
【解決手段】デジタル/アナログ変換器又はアナログ/デジタル変換器のエイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償装置であって、前記デジタル/アナログ変換器の前段又は前記アナログ/デジタル変換器の後段に、全域通過位相回路を構成し前記アナログローパスフィルタの群遅延特性を補償するデジタル信号処理手段を有する。
【解決手段】デジタル/アナログ変換器又はアナログ/デジタル変換器のエイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償装置であって、前記デジタル/アナログ変換器の前段又は前記アナログ/デジタル変換器の後段に、全域通過位相回路を構成し前記アナログローパスフィルタの群遅延特性を補償するデジタル信号処理手段を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償装置及び群遅延特性補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばダイレクトコンバージョン型の送受信機においては、エイリアシングを除去するために、デジタル/アナログ変換器(DAC)の後段、もしくはアナログ/デジタル変換器(ADC)の前段にアナログ型のローパスフィルタ(LPF)が必須になる。
【0003】
また、近年、ミリ波帯を用いた伝送やUWB(Ultra Wide Band)など広帯域信号を用いた方式が増えてきており、デジタル/アナログ変換器やアナログ/デジタル変換器のサンプリングレートにも高速化が要求されている。
【0004】
例えば、ベースバンド帯域が600MHzの場合、少なくとも1.2GHzのサンプリングレートが要求される。そのためのデジタル/アナログ変換器やアナログ/デジタル変換器は既に市場に出回っているが、1.2GHzのデジタル/アナログ変換器を使用した場合でも、600MHz〜1200MHzの帯域にはエイリアスが発生するため、このエイリアスをローパスフィルタで遮断しなければ隣接チャネルに干渉を与える。また、アナログ/デジタル変換器でも同様に、隣接チャネルからの干渉を防ぐため、事前にローパスフィルタにより隣接チャネルを遮断する必要がある。
【0005】
そのためのローパスフィルタに要求される特性としては、急峻な遮断特性を有している必要がある。一般的に急峻な遮断特性を有するローパスフィルタには、チェビシェフ型や逆チェビシェフ型、連立チェビシェフ型(楕円フィルタ)のフィルタが存在する。これらのフィルタは急峻な遮断特性を有する一方、特に遮断周波数付近では位相の直線性が崩れ群遅延特性が劣化する。
【0006】
フィルタの群遅延特性が劣化した場合、入力波形に対して出力波形に歪みが生じ、その結果伝送特性に大幅な劣化を引き起こす。そのため、ローパスフィルタの群遅延特性を改善させる方法が、従来から検討されている。
【0007】
例えば、送信機にイコライザを挿入し、予め歪ませて出力することで、ローパスフィルタを通過した際の歪みを補償する方法がある(例えば特許文献1,2参照)。
【0008】
また、群遅延特性が中間部で凹となり両側で凸となるフィルタと組み合わせて用いるイコライザが提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0009】
また、アナログフィルタの形状に工夫して、群遅延特性を改善するものがある(例えば特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2000−299652号公報
【特許文献2】特開2001−257564号公報
【特許文献3】特開昭62−227208号公報
【特許文献4】特開平11−261303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1,2には、フィルタの群遅延特性の逆特性を計算する方法については何ら開示がない。また、特許文献3のものは、補正されるフィルタの特性は、群遅延特性が中間部で凹となり両側で凸となるものに限定されている。
【0011】
また、特許文献4のものはアナログフィルタ自体に工夫を施すため高価となり、また通過域、遮断域などの設計の自由度が狭まってしまうという問題があった。
【0012】
開示の装置は、アナログローパスフィルタの群遅延特性を簡易に補償できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
開示の一実施態様による群遅延特性補償装置は、デジタル/アナログ変換器又はアナログ/デジタル変換器のエイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償装置であって、
前記デジタル/アナログ変換器の前段又は前記アナログ/デジタル変換器の後段に、全域通過位相回路を構成し前記アナログローパスフィルタの群遅延特性を補償するデジタル信号処理手段を有する。
【0014】
また、開示の一実施態様による群遅延特性補償方法は、デジタル/アナログ変換器又はアナログ/デジタル変換器のエイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償方法であって、
前記デジタル/アナログ変換器の前段又は前記アナログ/デジタル変換器の後段に、全域通過位相回路を構成し前記アナログローパスフィルタの群遅延特性を補償するデジタル信号処理を行う。
【発明の効果】
【0015】
開示の装置によれば、アナログローパスフィルタの群遅延特性を簡易に補償することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて実施形態について説明する。
【0017】
<送信機の一実施形態>
図1は、ダイレクトコンバージョン型の送信機の一実施形態のブロック図を示す。この送信機はOFDM方式を想定した構成である。同図中、データ生成部11は送信するためのI,Qデータを生成する。このI,QデータはIFFT(Inverse Fast Fourier Transform)部12にて周波数領域の信号から時間領域の信号に変換されてデジタル信号処理部13に供給される。
【0018】
デジタル信号処理部13は、後続のローパスフィルタ15A,15Bの群遅延特性を改善するための信号処理を行う。デジタル信号処理部13の出力するI,Qデータそれぞれはデジタル/アナログ変換器(DAC)14A,14Bでアナログ化された後、ローパスフィルタ(LPF)15A,15Bで不要高周波成分を除去してデジタル/アナログ変換器におけるエイリアシングを遮断する。
【0019】
この後、直交変調器(IQMOD)16にてI,Qデータでキャリア周波数を変調し、電力増幅器(PA)17で電力増幅してアンテナ18より出力する。
【0020】
<受信機の一実施形態>
図2は、ダイレクトコンバージョン型の受信機の一実施形態のブロック図を示す。この受信機はOFDM方式を想定した構成である。同図中、アンテナ21で受信した信号は前置増幅器(LNA)22で増幅され後、直交復調器(IQDEMOD)23に供給され、I,Q信号に復調される。
【0021】
復調されたI,Q信号それぞれはローパスフィルタ24A,24Bにて不要高周波成分を除去してアナログ/デジタル変換器におけるエイリアシングを遮断する。この後、アナログ/デジタル変換器(ADC)25A,25Bでデジタル化されてデジタル信号処理部26に供給される。
【0022】
デジタル信号処理部26は、ローパスフィルタ24A,24Bの群遅延特性を改善するための信号処理を行う。デジタル信号処理部26の出力するI,QデータはFFT(Fast Fourier Transform)部27にて時間領域の信号から周波数領域の信号に変換されてデータ復元部28に供給され、元のデータに復元される。
【0023】
<デジタル信号処理部の設計>
図3は、デジタル信号処理部13,26を設計する処理の一実施形態のフローチャートを示す。同図中、始めにステップS1で所望の特性を持つアナログのローパスフィルタ15A,15B(又は24A,24B)を設計する。ここでは、ローパスフィルタ15A,15B(又は24A,24B)を2次のバタワース型のアナログローパスフィルタとし、遮断周波数は10kHzとする。
【0024】
アナログローパスフィルタは、一般に遮断周波数1/2π、インピーダンス1Ωに正規化されたデータを用いて設計する。バンドパスフィルタ(BPF)、ハイパスフィルタ(HPF)、帯域阻止フィルタ(BEF)の場合でも、ローパスフィルタの値を変換して作成することが可能であり、同様の手法が取られる。
【0025】
2次のバタワース型正規化ローパスフィルタは図4のように1.41421[H]のインダクタンスと1.41421[F]のキャパシタンスで構成され、所望の周波数とインピーダンスのアナログローパスフィルタは、以下の計算で求められる。ステップS2で周波数変換係数M、インピーダンス変換係数Kを求める。
【0026】
M=目的の周波数/基準になるもとの周波数
=10kHz/(1/2π)
=6.28×104
K=目的のインピーダンス/基準になるもとのインピーダンス
=50Ω/1Ω
=50
これらより、ステップS3でLとCの定数を以下の計算で求める。
L=1.42[H]×K/M
=1.42[H]×50/6.28×104
≒1.13kH
C=1.42[F]/(M×K)
=1.42[F]/(6.28×104×50)
≒452.23nF
【0027】
設計したアナログローパスフィルタを図5に示す。このアナログローパスフィルタを回路シミュレータに取り込んで周波数特性(振幅特性、位相特性)を計算した結果を図6及び図7に示す。
【0028】
次に、アナログローパスフィルタをデジタル化する。始めにアナログ正規化ローパスフィルタについて、ステップS11で、定式化された伝達関数G(s)を求める。ここで、s=jωであり、ω=2πf(rad/sec)、fは周波数[Hz]である。ここでは、振幅特性から、振幅・位相情報を持った伝達関数を導出する。バタワース型の場合、振幅特性は、以下のように表される。
【0029】
|G(ω)|2=1/(1+ε2ω2N)
ただし、ε=(10AC−1)1/2
で表される。ACは遮断周波数における減衰量であり、通常は3dBである。このとき、ε=1となる。
【0030】
G(s)を計算するためには、まずs=jωよりω=s/jとして、|G(ω)|2の式に代入する。
【0031】
|G(s)|2=|G(s)G(−s)|
=1/[1+(−js)2N]=1/[1+(−s2)N]
この分母が0になるときのs、すなわち極を求める。
【0032】
Nが奇数の時は、s2N=1を解くと、以下のようになる。
【0033】
sk=ejkπ/N
=cos(kπ/N)+jsin(kπ/N) (k=0,1,2,…2N−1)
Nが偶数の時は、s2N=−1を解くと、以下のようになる。
sk=ej(2k+1)π/2N
=cos[(2k+1)π/2N]+jsin[(2k+1)π/2N] (k=0,1,2,…2N−1)
【0034】
バタワース型ローパスフィルタでは、全ての極は、図8に示すように、s平面上においてπ/N間隔で単位円上に存在する。図8(A)はn=1の場合を示し、図8(B)はn=2の場合を示し、図8(C)はn=3の場合を示す。全ての極はG(s)G(−s)から得られたものであり、s平面の左半平面にある極のみを選ぶと、これらの極で構成される伝達関数は安定である。
【0035】
N=1のとき、安定な極はs1=−1であるので、
G(s)=1/(s+1)
N=2のとき、安定な極はs1=e3π/4、s2=e5π/4であるので、
G(s)=1/[(s−s1)(s−s2)]
=1/[s2+√2s+1]
N=3のとき、安定な極はs2=e2π/3、s3=−1、s4=e4π/3であるので、
G(s)=1/[(s−s3)(s−s1)(s−s2)]
=1/[(s+1)(s2+s+1)]
となり、以降、次数を高くしてもアナログ正規化ローパスフィルタの伝達関数を求めることができる。また、このアナログローパスフィルタの周波数特性を求めるためには、s=jωと置けばよい。
【0036】
<周波数プリワープ>
アナログ正規化ローパスフィルタをIIR(Infinite Impulse Response)デジタルローパスフィルタで近似するために、周波数変換、双一次s−z変換を行うが、その前にステップS12で、周波数プリワープを行う必要がある。
【0037】
双一次s−z変換では、s=(2/Ts)[(1−Z−1)/(1+Z−1)]の計算を行う必要があるが、アナログ角周波数ではs=jωA、デジタル角周波数ではz=exp(jωDTs)となるため、
jωA=(2/Ts)[1−(exp(jωDTs))−1/1+(exp(jωDTs))−1]
より、
ωA=(2/Ts)tan[(ωDTs)/2]
の関係がある。
【0038】
すなわち、周波数プリワープを行うことで、デジタルローパスフィルタのカットオフ周波数をωC=10kHzとしたいとき、以下のようになる。
【0039】
ωC,Analog=(2/Ts)tan[(ωCTs)/2]
以下では、アナログ正規化ローパスフィルタを用いた設計を行うため、カットオフ周波数をωC,Analogとする。
【0040】
<周波数変換>
アナログ正規化ローパスフィルタを用いた周波数変換は、s=s/ωCが変換式となり、ステップS13で、これを正規化ローパスフィルタの式に代入して周波数変換を行う。(N=2の場合)以下のようになる。
G(s)=1/[s2+√2s+1]
=1/[(s/ωC)2+√2(s/ωC)+1]
【0041】
<双一次s−z変換>
次に、ステップS14で双一次s−z変換を行い、アナログローパスフィルタをデジタルローパスフィルタに変換する(ステップS15)。先に述べたように、双一次s−z変換の式は、s=(2/Ts)[1−Z−1/1+Z−1]である。これを代入すると、以下のようになる。
【0042】
H(z)=1/[{(2/Ts)[(1−Z−1)/(1+Z−1)]}2
+√2{(2/Ts)[(1−Z−1)/(1+Z−1)]}+1]
H(z)の周波数特性H(ω)を求めるには、z=exp(jωTs)を代入する。
【0043】
ここで、図9にアナログローパスフィルタと、これを近似したデジタルローパスフィルタの振幅・周波数特性を示し、図10にアナログローパスフィルタと、これを近似したデジタルローパスフィルタの位相・周波数特性を示す。なお、アナログローパスフィルタを一点鎖線で示し、デジタルローパスフィルタを実線で示している。カットオフ周波数は10kHzであり、信号通過域では、振幅及び位相ともに特性は略一致している。
【0044】
次に、全域通過位相回路による位相特性の補償について説明する。
【0045】
<全域通過位相回路の設定>
アナログローパスフィルタの位相特性を補償するために、全域通過位相回路(全域通過フィルタ、もしくはオールパスフィルタとも呼ばれる)を設ける。全域通過位相回路は、以下の数式で表現される回路である(ステップS21)。
【0046】
【数1】
この全域通過位相回路は、全ての周波数帯域で振幅特性が1となり、また係数anを設定することにより任意の位相特性を実現することが可能である。
【0047】
全域通過位相回路を設計するためには、始めにその次数を決める必要があるが、次数を大きくするごとに、細かい位相調整が可能となる。例えば、1次、2次、3次の場合、以下のようになる。
(1次)X(z)=(z−1+a1)/(1+a1z−1)
(2次)X(z)=(z−2+a1z−1+a2)/(1+a1z−1+a2z−2)
(3次)X(z)=(z−3+a1z−2+a2z−1+a3)
/(1+a1z−1+a2z−2+a2z−2)
zの次数が高くなるにつれて細かい位相調整が可能になるが、デジタル回路の規模は大きくなり、またの次数が高いため信号全体の遅延時間が大きくなるため、適切な次数で実現する必要がある。
【0048】
図11に1次の全域通過位相回路の振幅及び位相の周波数特性を示し(a1=−0.5)、図12に2次の全域通過位相回路の振幅及び位相の周波数特性を示す(a1=0.6,a2=0.3)。以降では2次の全域通過位相回路を用いて設計する。
【0049】
<デジタルローパスフィルタと全域通過位相回路を縦続接続した特性>
ステップS22で前述の全域通過位相回路とデジタルローパスフィルタを縦続接続した縦続接続フィルタの伝達関数F(z)を求める。
【0050】
F(z)=X(z)H(z)
F(z)は以下のように計算される。
【0051】
【数2】
このF(z)の群遅延特性が平坦になるように、全域通過位相回路を設計する。ステップS23で、F(z)に、z=exp(jωTs)を代入して周波数特性を求め、その位相角∠F(ω)を求める。
【0052】
【数3】
【0053】
<群遅延量u(ω)の計算と評価関数νの設定>
群遅延量u(ω)は、位相角の増分d∠F(ω)と角周波数の増分dωから以下の式で求めることができる(ステップS24)。
u(ω)=−d∠F(ω)/dω
【0054】
最終的に、信号通過域の群遅延特性が平坦になれば良いので、信号通過域における群遅延の最大値と最小値の差を求め、それを評価関数νとして最小化する。例えば、遮断周波数10kHzのローパスフィルタであれば、0Hz〜10kHzにおいて群遅延量の最大値と最小値の差を取る。
ν=u(ω)max−u(ω)min (ただし、ωは信号通過域)
【0055】
<係数anの計算>
ステップS25では、評価関数νを最小化する全域通過位相回路の係数anを求める。アナログローパスフィルタと全域通過位相回路を設計する段階でのみ設定するのであれば、anの全ての組み合わせについて評価関数νを計算し、最小値を算出する方法で良い。例えば、2次の場合には、−1≦a1≦1、−1≦a2≦1として全ての組について調査を行う。
【0056】
<計算例>
図13及び図14に上記実施形態で設計した場合の全域通過位相回路をデジタルローパスフィルタに縦続接続したフィルタ(縦続接続フィルタ)とアナログローパスフィルタのシミュレーションによる特性図を示す。図13(A)に実線で示す縦続接続フィルタの振幅・周波数特性は、信号通過域において一点鎖線で示すアナログローパスフィルタの特性に一致する。また、図13(B)に実線で示す縦続接続フィルタの位相・周波数特性は直線性を示している。
【0057】
図14は、縦続接続フィルタとアナログローパスフィルタのシミュレーションによる群遅延・周波数特性を示している。信号通過域(10kHz以下)において、一点鎖線に示すアナログローパスフィルタに比して、実線で示す縦続接続フィルタの方が平坦な群遅延特性を示している。なお、このときのa1とa2の値は、a1=0.0700,a2=−0.0800である。
【0058】
ステップS26では、このようにして求めた係数a1,a1,…anで規定される全域通過位相回路をデジタル信号処理部13(又は26)に設定する。
【0059】
このようにして、アナログローパスフィルタの群遅延特性を簡易に補償することが可能となる。
(付記1)
デジタル/アナログ変換器又はアナログ/デジタル変換器のエイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償装置であって、
前記デジタル/アナログ変換器の前段又は前記アナログ/デジタル変換器の後段に、全域通過位相回路を構成し前記アナログローパスフィルタの群遅延特性を補償するデジタル信号処理手段を
有することを特徴とする群遅延特性補償装置。
(付記2)
付記1記載の群遅延特性補償装置において、
前記全域通過位相回路は、前記アナログローパスフィルタをデジタルローパスフィルタにて近似し、前記全域通過位相回路を前記デジタルローパスフィルタに縦続接続したとき信号通過域の群遅延特性が平坦になるよう前記全域通過位相回路の係数を設定した
ことを特徴とする群遅延特性補償装置。
(付記3)
付記2記載の群遅延特性補償装置において、
前記全域通過位相回路の係数は、前記信号通過域における群遅延特性の最大値と最小値の差分が最小となる値を設定した
ことを特徴とする群遅延特性補償装置。
(付記4)
デジタル/アナログ変換器又はアナログ/デジタル変換器のエイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償方法であって、
前記デジタル/アナログ変換器の前段又は前記アナログ/デジタル変換器の後段に、全域通過位相回路を構成し前記アナログローパスフィルタの群遅延特性を補償するデジタル信号処理を行う
ことを特徴とする群遅延特性補償方法。
(付記5)
付記4記載の群遅延特性補償方法において、
前記アナログローパスフィルタをデジタルローパスフィルタにて近似し、
前記全域通過位相回路を前記デジタルローパスフィルタに縦続接続したとき信号通過域の群遅延特性が平坦になるよう前記全域通過位相回路の係数を設定する
ことを特徴とする群遅延特性補償方法。
(付記6)
付記2記載の群遅延特性補償方法において、
前記全域通過位相回路の係数は、前記信号通過域における群遅延特性の最大値と最小値の差分が最小となる値を設定する
ことを特徴とする群遅延特性補償方法。
(付記7)
付記3記載の群遅延特性補償装置は、ダイレクトコンバージョン型の送信機に適用されることを特徴とする群遅延特性補償装置。
(付記8)
付記3記載の群遅延特性補償装置は、ダイレクトコンバージョン型の受信機に適用されることを特徴とする群遅延特性補償装置。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】送信機の一実施形態のブロック図である。
【図2】受信機の一実施形態のブロック図である。
【図3】デジタル信号処理部を設計する処理の一実施形態のフローチャートである。
【図4】バタワース型正規化ローパスフィルタの構成図である。
【図5】設計したアナログローパスフィルタを示す構成図である。
【図6】アナログローパスフィルタの振幅特性図である。
【図7】アナログローパスフィルタの位相特性図である。
【図8】バタワース型ローパスフィルタの極の位置を示す図である。
【図9】アナログローパスフィルタとデジタルローパスフィルタの振幅・周波数特性を示す図である。
【図10】アナログローパスフィルタとデジタルローパスフィルタの位相・周波数特性を示す図である。
【図11】1次の全域通過位相回路の振幅及び位相の周波数特性を示す図である。
【図12】2次の全域通過位相回路の振幅及び位相の周波数特性を示す図である。
【図13】全域通過位相回路を縦続接続したフィルタとアナログローパスフィルタのシミュレーションによる特性図である。
【図14】縦続接続フィルタとアナログローパスフィルタのシミュレーションによる群遅延・周波数特性を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
11 データ生成部
12 IFFT部
13 デジタル信号処理部
15A,15B ローパスフィルタ
16 直交変調器
17 電力増幅器
18,21 アンテナ
22 前置増幅器
23 直交復調器
24A,24B ローパスフィルタ
25A,25B アナログ/デジタル変換器
26 デジタル信号処理部
27 FFT部
28 データ復元部
【技術分野】
【0001】
本発明は、エイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償装置及び群遅延特性補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばダイレクトコンバージョン型の送受信機においては、エイリアシングを除去するために、デジタル/アナログ変換器(DAC)の後段、もしくはアナログ/デジタル変換器(ADC)の前段にアナログ型のローパスフィルタ(LPF)が必須になる。
【0003】
また、近年、ミリ波帯を用いた伝送やUWB(Ultra Wide Band)など広帯域信号を用いた方式が増えてきており、デジタル/アナログ変換器やアナログ/デジタル変換器のサンプリングレートにも高速化が要求されている。
【0004】
例えば、ベースバンド帯域が600MHzの場合、少なくとも1.2GHzのサンプリングレートが要求される。そのためのデジタル/アナログ変換器やアナログ/デジタル変換器は既に市場に出回っているが、1.2GHzのデジタル/アナログ変換器を使用した場合でも、600MHz〜1200MHzの帯域にはエイリアスが発生するため、このエイリアスをローパスフィルタで遮断しなければ隣接チャネルに干渉を与える。また、アナログ/デジタル変換器でも同様に、隣接チャネルからの干渉を防ぐため、事前にローパスフィルタにより隣接チャネルを遮断する必要がある。
【0005】
そのためのローパスフィルタに要求される特性としては、急峻な遮断特性を有している必要がある。一般的に急峻な遮断特性を有するローパスフィルタには、チェビシェフ型や逆チェビシェフ型、連立チェビシェフ型(楕円フィルタ)のフィルタが存在する。これらのフィルタは急峻な遮断特性を有する一方、特に遮断周波数付近では位相の直線性が崩れ群遅延特性が劣化する。
【0006】
フィルタの群遅延特性が劣化した場合、入力波形に対して出力波形に歪みが生じ、その結果伝送特性に大幅な劣化を引き起こす。そのため、ローパスフィルタの群遅延特性を改善させる方法が、従来から検討されている。
【0007】
例えば、送信機にイコライザを挿入し、予め歪ませて出力することで、ローパスフィルタを通過した際の歪みを補償する方法がある(例えば特許文献1,2参照)。
【0008】
また、群遅延特性が中間部で凹となり両側で凸となるフィルタと組み合わせて用いるイコライザが提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0009】
また、アナログフィルタの形状に工夫して、群遅延特性を改善するものがある(例えば特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2000−299652号公報
【特許文献2】特開2001−257564号公報
【特許文献3】特開昭62−227208号公報
【特許文献4】特開平11−261303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1,2には、フィルタの群遅延特性の逆特性を計算する方法については何ら開示がない。また、特許文献3のものは、補正されるフィルタの特性は、群遅延特性が中間部で凹となり両側で凸となるものに限定されている。
【0011】
また、特許文献4のものはアナログフィルタ自体に工夫を施すため高価となり、また通過域、遮断域などの設計の自由度が狭まってしまうという問題があった。
【0012】
開示の装置は、アナログローパスフィルタの群遅延特性を簡易に補償できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
開示の一実施態様による群遅延特性補償装置は、デジタル/アナログ変換器又はアナログ/デジタル変換器のエイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償装置であって、
前記デジタル/アナログ変換器の前段又は前記アナログ/デジタル変換器の後段に、全域通過位相回路を構成し前記アナログローパスフィルタの群遅延特性を補償するデジタル信号処理手段を有する。
【0014】
また、開示の一実施態様による群遅延特性補償方法は、デジタル/アナログ変換器又はアナログ/デジタル変換器のエイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償方法であって、
前記デジタル/アナログ変換器の前段又は前記アナログ/デジタル変換器の後段に、全域通過位相回路を構成し前記アナログローパスフィルタの群遅延特性を補償するデジタル信号処理を行う。
【発明の効果】
【0015】
開示の装置によれば、アナログローパスフィルタの群遅延特性を簡易に補償することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて実施形態について説明する。
【0017】
<送信機の一実施形態>
図1は、ダイレクトコンバージョン型の送信機の一実施形態のブロック図を示す。この送信機はOFDM方式を想定した構成である。同図中、データ生成部11は送信するためのI,Qデータを生成する。このI,QデータはIFFT(Inverse Fast Fourier Transform)部12にて周波数領域の信号から時間領域の信号に変換されてデジタル信号処理部13に供給される。
【0018】
デジタル信号処理部13は、後続のローパスフィルタ15A,15Bの群遅延特性を改善するための信号処理を行う。デジタル信号処理部13の出力するI,Qデータそれぞれはデジタル/アナログ変換器(DAC)14A,14Bでアナログ化された後、ローパスフィルタ(LPF)15A,15Bで不要高周波成分を除去してデジタル/アナログ変換器におけるエイリアシングを遮断する。
【0019】
この後、直交変調器(IQMOD)16にてI,Qデータでキャリア周波数を変調し、電力増幅器(PA)17で電力増幅してアンテナ18より出力する。
【0020】
<受信機の一実施形態>
図2は、ダイレクトコンバージョン型の受信機の一実施形態のブロック図を示す。この受信機はOFDM方式を想定した構成である。同図中、アンテナ21で受信した信号は前置増幅器(LNA)22で増幅され後、直交復調器(IQDEMOD)23に供給され、I,Q信号に復調される。
【0021】
復調されたI,Q信号それぞれはローパスフィルタ24A,24Bにて不要高周波成分を除去してアナログ/デジタル変換器におけるエイリアシングを遮断する。この後、アナログ/デジタル変換器(ADC)25A,25Bでデジタル化されてデジタル信号処理部26に供給される。
【0022】
デジタル信号処理部26は、ローパスフィルタ24A,24Bの群遅延特性を改善するための信号処理を行う。デジタル信号処理部26の出力するI,QデータはFFT(Fast Fourier Transform)部27にて時間領域の信号から周波数領域の信号に変換されてデータ復元部28に供給され、元のデータに復元される。
【0023】
<デジタル信号処理部の設計>
図3は、デジタル信号処理部13,26を設計する処理の一実施形態のフローチャートを示す。同図中、始めにステップS1で所望の特性を持つアナログのローパスフィルタ15A,15B(又は24A,24B)を設計する。ここでは、ローパスフィルタ15A,15B(又は24A,24B)を2次のバタワース型のアナログローパスフィルタとし、遮断周波数は10kHzとする。
【0024】
アナログローパスフィルタは、一般に遮断周波数1/2π、インピーダンス1Ωに正規化されたデータを用いて設計する。バンドパスフィルタ(BPF)、ハイパスフィルタ(HPF)、帯域阻止フィルタ(BEF)の場合でも、ローパスフィルタの値を変換して作成することが可能であり、同様の手法が取られる。
【0025】
2次のバタワース型正規化ローパスフィルタは図4のように1.41421[H]のインダクタンスと1.41421[F]のキャパシタンスで構成され、所望の周波数とインピーダンスのアナログローパスフィルタは、以下の計算で求められる。ステップS2で周波数変換係数M、インピーダンス変換係数Kを求める。
【0026】
M=目的の周波数/基準になるもとの周波数
=10kHz/(1/2π)
=6.28×104
K=目的のインピーダンス/基準になるもとのインピーダンス
=50Ω/1Ω
=50
これらより、ステップS3でLとCの定数を以下の計算で求める。
L=1.42[H]×K/M
=1.42[H]×50/6.28×104
≒1.13kH
C=1.42[F]/(M×K)
=1.42[F]/(6.28×104×50)
≒452.23nF
【0027】
設計したアナログローパスフィルタを図5に示す。このアナログローパスフィルタを回路シミュレータに取り込んで周波数特性(振幅特性、位相特性)を計算した結果を図6及び図7に示す。
【0028】
次に、アナログローパスフィルタをデジタル化する。始めにアナログ正規化ローパスフィルタについて、ステップS11で、定式化された伝達関数G(s)を求める。ここで、s=jωであり、ω=2πf(rad/sec)、fは周波数[Hz]である。ここでは、振幅特性から、振幅・位相情報を持った伝達関数を導出する。バタワース型の場合、振幅特性は、以下のように表される。
【0029】
|G(ω)|2=1/(1+ε2ω2N)
ただし、ε=(10AC−1)1/2
で表される。ACは遮断周波数における減衰量であり、通常は3dBである。このとき、ε=1となる。
【0030】
G(s)を計算するためには、まずs=jωよりω=s/jとして、|G(ω)|2の式に代入する。
【0031】
|G(s)|2=|G(s)G(−s)|
=1/[1+(−js)2N]=1/[1+(−s2)N]
この分母が0になるときのs、すなわち極を求める。
【0032】
Nが奇数の時は、s2N=1を解くと、以下のようになる。
【0033】
sk=ejkπ/N
=cos(kπ/N)+jsin(kπ/N) (k=0,1,2,…2N−1)
Nが偶数の時は、s2N=−1を解くと、以下のようになる。
sk=ej(2k+1)π/2N
=cos[(2k+1)π/2N]+jsin[(2k+1)π/2N] (k=0,1,2,…2N−1)
【0034】
バタワース型ローパスフィルタでは、全ての極は、図8に示すように、s平面上においてπ/N間隔で単位円上に存在する。図8(A)はn=1の場合を示し、図8(B)はn=2の場合を示し、図8(C)はn=3の場合を示す。全ての極はG(s)G(−s)から得られたものであり、s平面の左半平面にある極のみを選ぶと、これらの極で構成される伝達関数は安定である。
【0035】
N=1のとき、安定な極はs1=−1であるので、
G(s)=1/(s+1)
N=2のとき、安定な極はs1=e3π/4、s2=e5π/4であるので、
G(s)=1/[(s−s1)(s−s2)]
=1/[s2+√2s+1]
N=3のとき、安定な極はs2=e2π/3、s3=−1、s4=e4π/3であるので、
G(s)=1/[(s−s3)(s−s1)(s−s2)]
=1/[(s+1)(s2+s+1)]
となり、以降、次数を高くしてもアナログ正規化ローパスフィルタの伝達関数を求めることができる。また、このアナログローパスフィルタの周波数特性を求めるためには、s=jωと置けばよい。
【0036】
<周波数プリワープ>
アナログ正規化ローパスフィルタをIIR(Infinite Impulse Response)デジタルローパスフィルタで近似するために、周波数変換、双一次s−z変換を行うが、その前にステップS12で、周波数プリワープを行う必要がある。
【0037】
双一次s−z変換では、s=(2/Ts)[(1−Z−1)/(1+Z−1)]の計算を行う必要があるが、アナログ角周波数ではs=jωA、デジタル角周波数ではz=exp(jωDTs)となるため、
jωA=(2/Ts)[1−(exp(jωDTs))−1/1+(exp(jωDTs))−1]
より、
ωA=(2/Ts)tan[(ωDTs)/2]
の関係がある。
【0038】
すなわち、周波数プリワープを行うことで、デジタルローパスフィルタのカットオフ周波数をωC=10kHzとしたいとき、以下のようになる。
【0039】
ωC,Analog=(2/Ts)tan[(ωCTs)/2]
以下では、アナログ正規化ローパスフィルタを用いた設計を行うため、カットオフ周波数をωC,Analogとする。
【0040】
<周波数変換>
アナログ正規化ローパスフィルタを用いた周波数変換は、s=s/ωCが変換式となり、ステップS13で、これを正規化ローパスフィルタの式に代入して周波数変換を行う。(N=2の場合)以下のようになる。
G(s)=1/[s2+√2s+1]
=1/[(s/ωC)2+√2(s/ωC)+1]
【0041】
<双一次s−z変換>
次に、ステップS14で双一次s−z変換を行い、アナログローパスフィルタをデジタルローパスフィルタに変換する(ステップS15)。先に述べたように、双一次s−z変換の式は、s=(2/Ts)[1−Z−1/1+Z−1]である。これを代入すると、以下のようになる。
【0042】
H(z)=1/[{(2/Ts)[(1−Z−1)/(1+Z−1)]}2
+√2{(2/Ts)[(1−Z−1)/(1+Z−1)]}+1]
H(z)の周波数特性H(ω)を求めるには、z=exp(jωTs)を代入する。
【0043】
ここで、図9にアナログローパスフィルタと、これを近似したデジタルローパスフィルタの振幅・周波数特性を示し、図10にアナログローパスフィルタと、これを近似したデジタルローパスフィルタの位相・周波数特性を示す。なお、アナログローパスフィルタを一点鎖線で示し、デジタルローパスフィルタを実線で示している。カットオフ周波数は10kHzであり、信号通過域では、振幅及び位相ともに特性は略一致している。
【0044】
次に、全域通過位相回路による位相特性の補償について説明する。
【0045】
<全域通過位相回路の設定>
アナログローパスフィルタの位相特性を補償するために、全域通過位相回路(全域通過フィルタ、もしくはオールパスフィルタとも呼ばれる)を設ける。全域通過位相回路は、以下の数式で表現される回路である(ステップS21)。
【0046】
【数1】
この全域通過位相回路は、全ての周波数帯域で振幅特性が1となり、また係数anを設定することにより任意の位相特性を実現することが可能である。
【0047】
全域通過位相回路を設計するためには、始めにその次数を決める必要があるが、次数を大きくするごとに、細かい位相調整が可能となる。例えば、1次、2次、3次の場合、以下のようになる。
(1次)X(z)=(z−1+a1)/(1+a1z−1)
(2次)X(z)=(z−2+a1z−1+a2)/(1+a1z−1+a2z−2)
(3次)X(z)=(z−3+a1z−2+a2z−1+a3)
/(1+a1z−1+a2z−2+a2z−2)
zの次数が高くなるにつれて細かい位相調整が可能になるが、デジタル回路の規模は大きくなり、またの次数が高いため信号全体の遅延時間が大きくなるため、適切な次数で実現する必要がある。
【0048】
図11に1次の全域通過位相回路の振幅及び位相の周波数特性を示し(a1=−0.5)、図12に2次の全域通過位相回路の振幅及び位相の周波数特性を示す(a1=0.6,a2=0.3)。以降では2次の全域通過位相回路を用いて設計する。
【0049】
<デジタルローパスフィルタと全域通過位相回路を縦続接続した特性>
ステップS22で前述の全域通過位相回路とデジタルローパスフィルタを縦続接続した縦続接続フィルタの伝達関数F(z)を求める。
【0050】
F(z)=X(z)H(z)
F(z)は以下のように計算される。
【0051】
【数2】
このF(z)の群遅延特性が平坦になるように、全域通過位相回路を設計する。ステップS23で、F(z)に、z=exp(jωTs)を代入して周波数特性を求め、その位相角∠F(ω)を求める。
【0052】
【数3】
【0053】
<群遅延量u(ω)の計算と評価関数νの設定>
群遅延量u(ω)は、位相角の増分d∠F(ω)と角周波数の増分dωから以下の式で求めることができる(ステップS24)。
u(ω)=−d∠F(ω)/dω
【0054】
最終的に、信号通過域の群遅延特性が平坦になれば良いので、信号通過域における群遅延の最大値と最小値の差を求め、それを評価関数νとして最小化する。例えば、遮断周波数10kHzのローパスフィルタであれば、0Hz〜10kHzにおいて群遅延量の最大値と最小値の差を取る。
ν=u(ω)max−u(ω)min (ただし、ωは信号通過域)
【0055】
<係数anの計算>
ステップS25では、評価関数νを最小化する全域通過位相回路の係数anを求める。アナログローパスフィルタと全域通過位相回路を設計する段階でのみ設定するのであれば、anの全ての組み合わせについて評価関数νを計算し、最小値を算出する方法で良い。例えば、2次の場合には、−1≦a1≦1、−1≦a2≦1として全ての組について調査を行う。
【0056】
<計算例>
図13及び図14に上記実施形態で設計した場合の全域通過位相回路をデジタルローパスフィルタに縦続接続したフィルタ(縦続接続フィルタ)とアナログローパスフィルタのシミュレーションによる特性図を示す。図13(A)に実線で示す縦続接続フィルタの振幅・周波数特性は、信号通過域において一点鎖線で示すアナログローパスフィルタの特性に一致する。また、図13(B)に実線で示す縦続接続フィルタの位相・周波数特性は直線性を示している。
【0057】
図14は、縦続接続フィルタとアナログローパスフィルタのシミュレーションによる群遅延・周波数特性を示している。信号通過域(10kHz以下)において、一点鎖線に示すアナログローパスフィルタに比して、実線で示す縦続接続フィルタの方が平坦な群遅延特性を示している。なお、このときのa1とa2の値は、a1=0.0700,a2=−0.0800である。
【0058】
ステップS26では、このようにして求めた係数a1,a1,…anで規定される全域通過位相回路をデジタル信号処理部13(又は26)に設定する。
【0059】
このようにして、アナログローパスフィルタの群遅延特性を簡易に補償することが可能となる。
(付記1)
デジタル/アナログ変換器又はアナログ/デジタル変換器のエイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償装置であって、
前記デジタル/アナログ変換器の前段又は前記アナログ/デジタル変換器の後段に、全域通過位相回路を構成し前記アナログローパスフィルタの群遅延特性を補償するデジタル信号処理手段を
有することを特徴とする群遅延特性補償装置。
(付記2)
付記1記載の群遅延特性補償装置において、
前記全域通過位相回路は、前記アナログローパスフィルタをデジタルローパスフィルタにて近似し、前記全域通過位相回路を前記デジタルローパスフィルタに縦続接続したとき信号通過域の群遅延特性が平坦になるよう前記全域通過位相回路の係数を設定した
ことを特徴とする群遅延特性補償装置。
(付記3)
付記2記載の群遅延特性補償装置において、
前記全域通過位相回路の係数は、前記信号通過域における群遅延特性の最大値と最小値の差分が最小となる値を設定した
ことを特徴とする群遅延特性補償装置。
(付記4)
デジタル/アナログ変換器又はアナログ/デジタル変換器のエイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償方法であって、
前記デジタル/アナログ変換器の前段又は前記アナログ/デジタル変換器の後段に、全域通過位相回路を構成し前記アナログローパスフィルタの群遅延特性を補償するデジタル信号処理を行う
ことを特徴とする群遅延特性補償方法。
(付記5)
付記4記載の群遅延特性補償方法において、
前記アナログローパスフィルタをデジタルローパスフィルタにて近似し、
前記全域通過位相回路を前記デジタルローパスフィルタに縦続接続したとき信号通過域の群遅延特性が平坦になるよう前記全域通過位相回路の係数を設定する
ことを特徴とする群遅延特性補償方法。
(付記6)
付記2記載の群遅延特性補償方法において、
前記全域通過位相回路の係数は、前記信号通過域における群遅延特性の最大値と最小値の差分が最小となる値を設定する
ことを特徴とする群遅延特性補償方法。
(付記7)
付記3記載の群遅延特性補償装置は、ダイレクトコンバージョン型の送信機に適用されることを特徴とする群遅延特性補償装置。
(付記8)
付記3記載の群遅延特性補償装置は、ダイレクトコンバージョン型の受信機に適用されることを特徴とする群遅延特性補償装置。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】送信機の一実施形態のブロック図である。
【図2】受信機の一実施形態のブロック図である。
【図3】デジタル信号処理部を設計する処理の一実施形態のフローチャートである。
【図4】バタワース型正規化ローパスフィルタの構成図である。
【図5】設計したアナログローパスフィルタを示す構成図である。
【図6】アナログローパスフィルタの振幅特性図である。
【図7】アナログローパスフィルタの位相特性図である。
【図8】バタワース型ローパスフィルタの極の位置を示す図である。
【図9】アナログローパスフィルタとデジタルローパスフィルタの振幅・周波数特性を示す図である。
【図10】アナログローパスフィルタとデジタルローパスフィルタの位相・周波数特性を示す図である。
【図11】1次の全域通過位相回路の振幅及び位相の周波数特性を示す図である。
【図12】2次の全域通過位相回路の振幅及び位相の周波数特性を示す図である。
【図13】全域通過位相回路を縦続接続したフィルタとアナログローパスフィルタのシミュレーションによる特性図である。
【図14】縦続接続フィルタとアナログローパスフィルタのシミュレーションによる群遅延・周波数特性を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
11 データ生成部
12 IFFT部
13 デジタル信号処理部
15A,15B ローパスフィルタ
16 直交変調器
17 電力増幅器
18,21 アンテナ
22 前置増幅器
23 直交復調器
24A,24B ローパスフィルタ
25A,25B アナログ/デジタル変換器
26 デジタル信号処理部
27 FFT部
28 データ復元部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル/アナログ変換器又はアナログ/デジタル変換器のエイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償装置であって、
前記デジタル/アナログ変換器の前段又は前記アナログ/デジタル変換器の後段に、全域通過位相回路を構成し前記アナログローパスフィルタの群遅延特性を補償するデジタル信号処理手段を
有することを特徴とする群遅延特性補償装置。
【請求項2】
請求項1記載の群遅延特性補償装置において、
前記全域通過位相回路は、前記アナログローパスフィルタをデジタルローパスフィルタにて近似し、前記全域通過位相回路を前記デジタルローパスフィルタに縦続接続したとき信号通過域の群遅延特性が平坦になるよう前記全域通過位相回路の係数を設定した
ことを特徴とする群遅延特性補償装置。
【請求項3】
請求項2記載の群遅延特性補償装置において、
前記全域通過位相回路の係数は、前記信号通過域における群遅延特性の最大値と最小値の差分が最小となる値を設定した
ことを特徴とする群遅延特性補償装置。
【請求項4】
デジタル/アナログ変換器又はアナログ/デジタル変換器のエイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償方法であって、
前記デジタル/アナログ変換器の前段又は前記アナログ/デジタル変換器の後段に、全域通過位相回路を構成し前記アナログローパスフィルタの群遅延特性を補償するデジタル信号処理を行う
ことを特徴とする群遅延特性補償方法。
【請求項5】
請求項4記載の群遅延特性補償方法において、
前記アナログローパスフィルタをデジタルローパスフィルタにて近似し、
前記全域通過位相回路を前記デジタルローパスフィルタに縦続接続したとき信号通過域の群遅延特性が平坦になるよう前記全域通過位相回路の係数を設定する
ことを特徴とする群遅延特性補償方法。
【請求項6】
請求項2記載の群遅延特性補償方法において、
前記全域通過位相回路の係数は、前記信号通過域における群遅延特性の最大値と最小値の差分が最小となる値を設定する
ことを特徴とする群遅延特性補償方法。
【請求項1】
デジタル/アナログ変換器又はアナログ/デジタル変換器のエイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償装置であって、
前記デジタル/アナログ変換器の前段又は前記アナログ/デジタル変換器の後段に、全域通過位相回路を構成し前記アナログローパスフィルタの群遅延特性を補償するデジタル信号処理手段を
有することを特徴とする群遅延特性補償装置。
【請求項2】
請求項1記載の群遅延特性補償装置において、
前記全域通過位相回路は、前記アナログローパスフィルタをデジタルローパスフィルタにて近似し、前記全域通過位相回路を前記デジタルローパスフィルタに縦続接続したとき信号通過域の群遅延特性が平坦になるよう前記全域通過位相回路の係数を設定した
ことを特徴とする群遅延特性補償装置。
【請求項3】
請求項2記載の群遅延特性補償装置において、
前記全域通過位相回路の係数は、前記信号通過域における群遅延特性の最大値と最小値の差分が最小となる値を設定した
ことを特徴とする群遅延特性補償装置。
【請求項4】
デジタル/アナログ変換器又はアナログ/デジタル変換器のエイリアシングを除去するアナログローパスフィルタの群遅延特性を補償する群遅延特性補償方法であって、
前記デジタル/アナログ変換器の前段又は前記アナログ/デジタル変換器の後段に、全域通過位相回路を構成し前記アナログローパスフィルタの群遅延特性を補償するデジタル信号処理を行う
ことを特徴とする群遅延特性補償方法。
【請求項5】
請求項4記載の群遅延特性補償方法において、
前記アナログローパスフィルタをデジタルローパスフィルタにて近似し、
前記全域通過位相回路を前記デジタルローパスフィルタに縦続接続したとき信号通過域の群遅延特性が平坦になるよう前記全域通過位相回路の係数を設定する
ことを特徴とする群遅延特性補償方法。
【請求項6】
請求項2記載の群遅延特性補償方法において、
前記全域通過位相回路の係数は、前記信号通過域における群遅延特性の最大値と最小値の差分が最小となる値を設定する
ことを特徴とする群遅延特性補償方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−68319(P2010−68319A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233438(P2008−233438)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人情報通信研究機構、「超高速ギガビット無線LANの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人情報通信研究機構、「超高速ギガビット無線LANの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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