説明

義歯床射出成形装置

【課題】樹脂を封入したチューブを鋳型が形成されたフラスコ上に装填する際に、該チューブが若干傾いていても正常な加圧を行うとともに、チューブの傾きが大きく加圧ができない場合には速やかに作業者に報知する。
【解決手段】フラスコ65及びチューブ63が装填されたあと、まずモータ11の駆動力によりテーブル25を上昇させて、チューブ63上端をチューブガイド37の保持穴38に嵌合させる。保持穴38は下面開口の径が大きく、上にいくに従い内径が絞られているため、チューブ63が若干傾いていても上昇に伴いその姿勢が矯正され、直立した状態で上下から保持される。これにより、ピストンロッド33を下降させての加圧動作が確実に行える。一方、フラスコ65上に装填されたチューブ63の傾きが大きい場合には、テーブル25は上死点まで上昇しない。その場合には、テーブル25を下降させ、異常報知を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を鋳型に圧入することにより義歯床を作製するための義歯床射出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科医療の分野において、義歯床は義歯を支持する重要な要素であり、大別して、樹脂製のレジン床と、少なくとも一部を金属で形成した金属床とがあるが、近年は、レジン床が多用されている。一般的に、レジン床は、フラスコ内に形成された、石膏を用いた義歯床の鋳型の空洞内部に熱可塑性樹脂(レジン)を射出注入することで作製されている。こうした目的のために、従来より、特許文献1、2などに記載の義歯床射出成形装置が知られている。
【0003】
こうした義歯床射出成形装置では、加熱により溶融させた熱可塑性樹脂を収容した周面円筒形状のチューブ(カプセル)を鋳型の上に装着し、そのチューブの直上からピストンを押し下げて溶融樹脂を被包している容器を破断させ、内部の溶融樹脂を鋳型内部に圧入する。テーブル上への鋳型の載置、及びその鋳型上へのチューブの装填は歯科技工士等の作業者自身が行うが、場合によってはチューブが十分に垂直な起立状態とはならずに少し傾いた状態になる場合がある。そうした状態で上述のような射出動作を行おうとすると、ピストンがチューブに触れてチューブが倒れたりチューブが跳ねたりして、適切な鋳込みが行えないのみならず危険でもある。
【0004】
そのため、作業者はチューブが十分に垂直な起立状態となるように装填時に留意する必要があり、例えばフラスコ上部に膠着した樹脂、ワックス、石膏などを除去する等の、装填面を平坦にする作業を行わなければならない場合がある。また、作業者は適切に射出動作が行えるか否かを或る程度、監視しなければならず、作業効率が悪かった。
【0005】
【特許文献1】実開平5−21919号公報
【特許文献2】特開昭61−176340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その主な目的は、樹脂製の義歯床(レジン床)を作製する際に、作業者の作業負荷を軽減しつつ適切な鋳込みが行えるような義歯床射出成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明は、フラスコ内に形成された鋳型を用いて樹脂製の義歯床を製造するための義歯床射出成形装置において、
a)溶融樹脂が封入された略筒形状のチューブを起立状態で上部に保持する前記フラスコが載置されるテーブルと、
b)前記テーブルを昇降させる、第1駆動源を含むテーブル昇降手段と、
c)前記チューブに封入された溶融樹脂を前記フラスコ内の鋳型の内部空洞に圧入するために前記チューブの上から略垂直にピストンを降下させるシリンダと、
d)前記シリンダのピストンを作動させる第2駆動源と、
e)前記チューブの上端を保持するための保持手段と、
f)前記テーブルが下降した状態で前記フラスコ及び前記チューブが前記テーブル上に装填された後に、前記チューブの上端が前記保持手段により保持される位置まで前記テーブルを上昇させ、該テーブルをその位置に維持して前記ピストンを降下させるように前記第1駆動源及び前記第2駆動源を制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0008】
本発明に係る義歯床射出成形装置では、制御手段が第1及び第2駆動源をそれぞれ制御することにより、フラスコ内に形成された鋳型への溶融樹脂の鋳込み作業が自動的に行われる。即ち、作業者が、鋳型が内部に形成されたフラスコを下降した状態にあるテーブル上に載置し、さらにその上に例えば別の加熱溶融装置による加熱によって内部に収容された熱可塑性樹脂を軟化させたチューブを装填し、加圧圧力や加圧時間などのパラメータを適宜設定した上で動作開始を指示する。すると、制御手段は、まず第1駆動源を作動させてテーブルを上昇させる。チューブが適正な位置で且つその傾きが許容範囲内である場合には、チューブの上端が保持手段により保持される。これにより、チューブは上下方向から保持され、ほぼ垂直起立状態になる。その状態で制御手段は第2駆動源によりシリンダのピストンを降下させる。前述のようにチューブは安定して垂直に起立しているため、降下したピストンは確実にチューブ内に挿入され、その内部に保持されている溶融樹脂を押圧し、溶融樹脂はフラスコ内の鋳型(空洞)に注入される。
【0009】
本発明に係る義歯床射出成形装置において、好ましくは、前記保持手段は、下面開口から上方にいくに従いその内径が絞られるように内周面がテーパ状である保持穴を有する構成とするとよい。具体的には、保持穴の下面開口の内径は周面円筒形状であるチューブの上端の外径よりも一回り大きく、保持穴の上部の内径がチューブの上端の外径よりも僅かに大きい程度とするとよい。
【0010】
この構成によれば、チューブがフラスコ上で鉛直線上から少し傾いた状態であったとしても、チューブの上端が保持穴の下面開口内に収まりさえすれば、テーブルの上昇に伴ってチューブの傾きは矯正され、最終的にほぼ垂直に起立した状態となる。そのため、フラスコ上にチューブを装填する際の垂直性についてそれほど厳密さを要求されず、作業者の負担が軽減される。
【0011】
また、本発明に係る義歯床射出成形装置において、好ましくは、前記チューブの上端が前記保持手段により保持される位置まで前記テーブルが上昇したことを検知する検知手段を備え、前記制御手段は前記検知手段により前記テーブルが前記位置に達したことを検知したあとに前記第2駆動源を駆動する構成とするとよい。
【0012】
この構成によれば、チューブの上端が保持手段に保持され得ない状態であるときにピストンが下がることを防止でき、チューブが押し倒されたり跳ねたりすることを回避できる。
【0013】
また、その場合に、前記制御手段は、前記テーブルの上昇開始から所定時間内に前記検知手段により前記テーブルが前記位置に達したことを検知し得ないと異常を報知する構成とするとよい。ここで異常の報知としては音、表示など特に限定されない。また、所定時間は、テーブルの上昇速度とテーブルの上下動の距離とに応じて予め適当に定めておけばよい。
【0014】
例えばチューブの傾きが大きくチューブの上端が保持手段に保持されない状態ではテーブルの上昇は制限されるため、検知手段による検知信号が所定時間内に得られない。したがって、所定時間を上述のように適宜に定めることにより、テーブルの上昇開始から比較的短い時間遅れで以て、作業者に対して異常を報知することができる。これにより、作業者は異常を認識し、例えばチューブの姿勢を修正する等の適切な処置をとることができる。また、チューブ保持の異常時にはこうした異常報知がなされるので、作業者が当該装置を監視している必要がなく、別の作業を行うことができる。
【0015】
なお、本発明に係る義歯床射出成形装置において、前記第1駆動源はモータであり、前記第2駆動源の駆動力は空気圧であるものとすることができる。この場合、前記第2駆動源は、前記シリンダの加圧室に空気を送給するための第1電磁弁と、該加圧室から空気を排出するための第2電磁弁と、を含む構成とするとよい。また、加圧室内の加圧圧力を検知する圧力検知手段を設け、この圧力検知手段による検知圧が目標圧になるように第1電磁弁の開閉を制御するようにするとよい。
【0016】
こうした構成とすることにより、加圧圧力を比較的自由に調整することが可能となり、使用する樹脂の種類、加熱温度、鋳造物のサイズなどに応じて加圧圧力を適宜に変更して良好な鋳込みを行うことができる。これにより、鋳造物の品質を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る義歯床射出成形装置によれば、作業者がフラスコ及びチューブを当該装置に装填する際の作業の負担が軽減され、またチューブが倒れる等の不具合の発生も少なくなるので、作業効率が向上する。また、一連の射出成形の作業が自動化できるので、その点でも作業者の負担が軽減され、別の作業を並行して行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る義歯床射出成形装置の一実施例を図面を参照して説明する。図1〜図3は本実施例による義歯床射出成形装置の全体構成を示す正面図であり、要部については断面で示している。また、図1〜図3は運転開始から加圧注入までの動作も示しており、図1はテーブルが最下位置にある状態、図2はテーブルが最上位置まで上昇された状態、図3は溶融樹脂の圧入が行われた状態である。また図4は本実施例の義歯床射出成形装置のテーブル昇降部の構成図である。図5は本実施例の義歯床射出成形装置での作業に用いられる樹脂収容用のチューブの構成と使用方法を説明するための図である。図6は本実施例の義歯床射出成形装置の電気系構成図である。図7は本実施例の義歯床射出成形装置における加圧用の空気流路の構成図、図8は本実施例の義歯床射出成形装置を用いた義歯床作製時の手順及び制御動作を示すフローチャートである。
【0019】
本実施例の義歯床射出成形装置1は、図1に示すように全高が高い構成となっており、下部側にフラスコ(鋳型)を載置するためのテーブル25を含むテーブル昇降部2が配置され、その上部側に樹脂を鋳型内に押し入れるための射出部3が配置されている。このようにテーブル昇降部2と射出部3とを上下に配置し、つまり縦置きとすることにより、本装置1の設置に必要なスペースを小さくすることができる。それによって、狭い作業場(技工場所)にも設置が容易である。
【0020】
テーブル昇降部2は、図4に示すように、モータ軸12が垂直上方に延伸するように台座10に対して固定された本発明における第1駆動源であるテーブル昇降モータ11と、そのモータ軸12に取り付けられたモータプーリ13と、モータプーリ13に固定され、円盤状で1乃至複数個所に孔が設けられた回転センサ板14と、回転センサ板14の孔を検出する回転センサ15と、台座10に対し強固に固定されたテーブル昇降台17と、上部に大プーリ22が固定され、テーブル昇降台17に対し軸受18、19により垂直軸を中心に回転自在であるスラスト軸体20と、大プーリ22とモータプーリ13との間に巻掛けられたタイミングベルト16と、垂直方向に延伸する円筒状のガイド孔24が形成されたテーブル振れ止めガイド23と、を含む。一方、テーブル25の下面には、スラスト軸体20の中央に垂直方向に延伸し、内面にねじ溝が螺設されたねじ孔21に螺入されるねじ軸26と、テーブル振れ止めガイド23のガイド孔24に挿入されるガイド棒27と、が固定されている。
【0021】
ねじ軸26はスラスト軸体20のねじ孔21に螺入され、ガイド棒27はテーブル振れ止めガイド23のガイド孔24に挿入される。モータ11の駆動力によりモータプーリ13が所定方向に回転すると、タイミングベルト16を介して大プーリ22及びスラスト軸体20が一体に回転する。テーブル25に固定されたガイド棒27がガイド孔24に挿入されることで、テーブル25の回転運動は規制され、上下(昇降)方向にのみテーブル25の移動が可能である。スラスト軸体20が所定方向に回転するとき、テーブル25と一体のねじ軸26は回転しないので、スラスト軸体20の回転に伴ってねじ軸26とねじ孔21との螺合によりねじ軸26は上昇又は下降し、テーブル25は上昇又は下降する。
【0022】
図1に示すように、射出部3の一部としてテーブル25の上方には、後述するアウターチューブ63の上端を保持する本発明における保持手段に相当するチューブガイド37が取り付けられ、その上にピストンロッド33を垂直下方に進出させるエアシリンダ30が取り付けられている。チューブガイド37は、下端面に内径がアウターチューブ63上端の外径よりも一回り大きく、上方に向かって内径がアウターチューブ63上端の外径よりも僅かに大きい程度まで狭められたテーパ状の内周面を有する保持穴38が形成されている。ピストンロッド33がエアシリンダ30のシリンダチューブ32内に最も引き込まれた状態では、ピストンロッド33の下端に取り付けられた押圧部34はチューブガイド37の保持穴38内の上部に収納されており、ピストンロッド33が下方に進出すると押圧部34はチューブガイド37の保持穴38から垂直下方に突出する。
【0023】
ここで、鋳造に使用される樹脂及びその樹脂を収納する容器について説明する。ここで鋳造に使用される樹脂は、例えばナイロン、ポリアセタール、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂であり、その樹脂材料の形状やサイズは様々である。例えば、φ20×10mm(厚さ)の円盤形状体やφ3×3mmの小さなペレット状の樹脂材料などが市販されている。図5(a)、(b)に示すように、樹脂材料60を有底円筒形状でアルミニウム製のインナーチューブ61内に収容し、このインナーチューブ61の上面開口に蓋62となる短手の有底アルミ筒を嵌挿する。このインナーチューブ61は1回の鋳造動作により破損するので、使い捨てである。インナーチューブ61及び蓋62のアルミニウム板厚は200〜300μm程度である。
【0024】
図5(c)、(d)に示すように、樹脂材料60を封入したインナーチューブ61を、その外径とほぼ同じ内径を有する略円筒形状でステンレス製のアウターチューブ63の内部に、上下反転させた状態で収容する。この際に、インナーチューブ61が作業の工程中に脱落しないように、インナーチューブ61を指で押して少し変形させてからアウターチューブ63に入れるとよい。このように、樹脂材料60を封入したインナーチューブ61をアウターチューブ63内に収納したままの状態で、加熱溶融装置を用いて樹脂材料60を加熱することで該材料を軟化させて射出可能な状態とする。
【0025】
なお、本実施例の義歯床射出成形装置では図示しないものの加熱溶融装置が一体化されているが、これらは別体でも構わない。
【0026】
次に本実施例の義歯床射出成形装置の電気系構成及びエアシリンダ駆動のための構成について説明する。
【0027】
図6において、CPU、メモリ、タイマなどを含む本発明における制御手段に相当する制御部40には、テーブル25が最も下の位置(図1の位置)に達したことを検知するためのテーブル下死点センサ45、テーブル25が最も上の位置(図2の位置)に達したことを検知するためのテーブル上死点センサ(本発明における検知手段に相当)46、昇降モータ回転センサ15、エアシリンダ30のシリンダチューブ32内にエアを送り込むエア送給路中の圧力を検知するための加圧側圧力センサ48などの各センサから検知信号が入力され、負荷駆動部41を介してテーブル昇降モータ11のほか、加圧電磁弁42、加圧解除電磁弁43、リリース電磁弁44などの各電磁弁の動作を制御する。また、制御部40には、加圧時の圧力を設定するための圧力設定ボリウム49、各種の操作キーが設けられた操作部50、圧力値や時間などを表示するための表示器を備える表示部51が接続されている。制御部40は制御プログラムが書き込まれたROMを備え、この制御プログラムを実行することにより後述するような義歯床作製のための動作を遂行する。
【0028】
図7に示すように、エアシリンダ30においてシリンダチューブ32の加圧室32aには加圧側エア送給路35が接続され、エアコンプレッサで加圧された(圧力:0.8MPa程度)エアは加圧電磁弁42を介して加圧側エア送給路35に送られる。これにより、ピストンロッド33は押され、下方に進出する。この加圧側エア送給路35には、後述するような制御のための加圧側圧力センサ48とユーザーによる圧力モニタ用のブルドン管圧力計52とが接続されている。さらに加圧側エア送給路35からはリリース電磁弁44を介してエアが外部に逃げるようになっている。一方、シリンダチューブ32の引圧室32bには引圧側エア送給路36が接続され、エアコンプレッサで加圧されたエアは加圧解除電磁弁43を介して引圧側エア送給路36から引圧室32b内へ送られる。リリース電磁弁44及び加圧解除電磁弁43をオンさせて引圧室32bにエアを送り込むことにより、下方に進出した又は下垂したピストンロッド33を上方に押し戻すことができる。
【0029】
上述したような構成を有する本実施例の義歯床射出成形装置を用いた義歯成型の手順と当該装置の制御・処理動作について、図8のフローチャートに従って説明する。
【0030】
いま、周知の方法により、内部に義歯床の型が空洞として形成された鋳型を保持するフラスコ65が用意されるものとする。フラスコ65の上面には溶融した樹脂を注入するための注入口65aが形成されている。溶融した樹脂をこの注入口65aから空洞部分に流し込むことで鋳込みを行うわけであるが、フラスコ65の温度が低いと溶融樹脂が流れ込む途中で硬化してしまい、鋳造欠陥となるおそれがある。そこで、例えば80〜90℃程度の温度雰囲気中に2時間程度フラスコ65を放置することで、フラスコ65をその内部まで略均一に加熱しておく(ステップS1)。
【0031】
一方、これと並行して、鋳込み用の溶融樹脂を準備する(ステップS2)。即ち、上述したように樹脂材料60をアルミニウム製のインナーチューブ61に封入し、該インナーチューブ61をステンレス製のアウターチューブ63内に収容する。これを加熱溶融装置で加熱し、内部の樹脂材料60を溶融させる。この溶融の条件は樹脂材料の種類や量などにも依るが、概ね200〜250℃の範囲内の温度で、保持時間を約30分程度とするとよい。一般に、この溶融条件(温度及び保持時間)については樹脂材料を提供するメーカーから推奨値が与えられることが多い。この溶融の際に、図5(d)に示すように、蓋62が下になった状態で樹脂材料60は溶融するが、溶融樹脂は高い粘性を有するので、蓋62とインナーチューブ61内面との間の隙間から外部に漏出することはない。
【0032】
以上のようにしてフラスコ65及び溶融樹脂が用意できたならば、作業者は、図1に示すように、本装置1のテーブル25上の所定位置にフラスコ65を載置し、そのフラスコ65上面の注入口65aの凹部にアウターチューブ63を装填する(ステップS3)。なお、本装置1の電源が投入された初期状態では、リリース電磁弁44及び加圧解除電磁弁43が共にオンされ、加圧電磁弁42はオフされており、ピストンロッド33は最も上昇した状態にある。それから、作業者は圧力設定ボリウム49により加圧圧力Pを設定し、さらに加圧時間t2などの他の条件を操作部50により入力した上で、スタートキーを操作する(ステップS4)。この操作を受けて、制御部40はまず負荷駆動部41を介してテーブル昇降モータ11を駆動し、テーブル25をゆっくりと上昇させる(ステップS5)。但し、上記加圧圧力P、加圧時間t2は予め運転プログラムとして記憶しておくことができるため、作業者は必ずしも一々こうしたパラメータを入力する必要はなく、記憶しておいた運転プログラムを選択することでパラメータの入力は省略できる。
【0033】
制御部40はテーブル上死点センサ46による検知信号に基づいてテーブル25が上死点に到達したか否かを判定する(ステップS6)。この例では、テーブル下死点とテーブル上死点との距離、つまりテーブル25の移動距離は30mmである。ステップS6でテーブル25が上死点に到達していなければ、テーブル25の上昇開始時点から所定時間t1が経過したか否かを判定し(ステップS15)、所定時間t1が経過していなければステップS5へと戻る。即ち、所定時間t1内にテーブル25が上死点に達したことが検知されればステップS6からS7へと進み、制御部40はテーブル昇降モータ11を停止させることでテーブル25の上昇を停止させる。
【0034】
ここで、所定時間t1は、予め設定されるテーブル25の上昇速度とテーブル25の移動距離(ここでは30mm)とに応じて予め適宜の値に決められる。したがって、所定時間t1内にテーブル25が上死点に達したことが検知されない場合には、後述する原因を含めて何らかの不具合によりテーブル25が最高位置まで上昇しないと判断できる。そこで、その場合にはステップS15からS16へと進み、テーブル昇降モータ11を反転させることでテーブル25を下降させ、テーブル下死点センサ45による検知信号に基づいてテーブル25が下死点に到達するまで、つまり最下位置までテーブル25を降下させ、例えばアラーム音を発する等の異常報知を行う(ステップS17)。
【0035】
フラスコ65がテーブル25上で適正な位置にあり、アウターチューブ63もほぼ鉛直方向に起立して装填されている場合、上述のようにテーブル25が上昇すると、アウターチューブ63の上端がチューブガイド37の保持穴38に嵌合して保持される。これにより、アウターチューブ63は上下から保持されて安定した姿勢を維持する。
【0036】
フラスコ65の上面には石膏、樹脂、ワックスなどが膠着したり或いは上面が凹凸に変形したりする場合があり、そのためにアウターチューブ63が垂直起立せずに多少斜めになることがある。その場合でも、チューブガイド37の保持穴38は下面開口が広く上に向かって内径が絞られているので、傾いたアウターチューブ63の上端面が保持穴38は下面開口内に収まりさえすれば、テーブル25が上昇するに従いアウターチューブ63は直立するように姿勢が修正される。したがって、作業者がアウターチューブ63を装填する際に、それが少し傾いた状態になっていても、アウターチューブ63の上下が確実に保持され、後述のようにエアシリンダ30による射出動作を支障なく行うことができる。
【0037】
これに対し、アウターチューブ63の起立時の傾きが大きくチューブガイド37の保持穴38周囲の壁面下端がアウターチューブ63の上端に接触すると、それ以上、テーブル25が上昇しなくなる。そのため、所定時間t1内にテーブル上死点センサ46が作動せず、上述のように異常報知が行われる。これにより、作業者はアウターチューブ63の装填が適切でないことを速やかに認識し、適切な処置を採ることができる。
【0038】
ステップS7でテーブル25の上昇が停止されたあと、制御部40は負荷駆動部41を介して加圧電磁弁42をオンさせ、リリース電磁弁44及び加圧解除電磁弁43をオフさせることで、シリンダチューブ32の加圧室32a内にエアを供給し、ピストンロッド33上端のヘッドに対する加圧を開始する(ステップS8)。制御部40は加圧側圧力センサ48により実際の加圧圧力を監視し、設定された圧力Pになれば加圧電磁弁42を閉鎖する。加圧によりピストンロッド33は押し下げられ、押圧部34がアウターチューブ63の上面開口からその内部に入り、インナーチューブ61の上壁面を突き破る。ピストンロッド33が下がって加圧室32a内の圧力が低下すると、加圧電磁弁42を開いてエアを加圧室32a内に送り込んでその圧力を設定された圧力Pに戻す。このようにして、所定加圧時間t2が経過するまで設定された圧力Pを維持するように加圧電磁弁42のオン・オフを行う(ステップS9、S10)。
【0039】
こうしたエアシリンダ30へエアを供給する場合に、圧力レギュレータを用いて圧力を一定に維持するのが一般的であるが、ここでは、圧力センサ48でモニタした実際の圧力値に応じて加圧電磁弁42のオン・オフを制御する構成としたので、加圧圧力を比較的自由に調整することができる。例えば、加圧中にユーザーがブルドン管圧力計52を見て、誤って当初の圧力設定値の設定が低くすぎたことに気付いた場合に、圧力設定ボリウム49で圧力設定値を高くすることで、即座に加圧室32a内の圧力を上昇させることができる。
【0040】
ピストンロッド33が下がってゆくとインナーチューブ61内に保持されていた溶融樹脂が勢いよく押し出され、フラスコ65の注入口65aから鋳型の空洞中に圧入される。それにより、さらにピストンロッド33が下がり、最終的にほぼ全ての溶融樹脂が鋳型の空洞中に圧入される。溶融樹脂は温度が下がると硬化するが、その際の樹脂の体積縮小によるヒケを防止するため、溶融樹脂が鋳型の空洞内に注入された後にも或る程度の時間、加圧を続けるのが好ましい。そこで、一般的には、所定加圧時間t2として例えば10分程度を設定するのがよい。
【0041】
所定加圧時間t2が経過すると、制御部40はリリース電磁弁44及び加圧解除電磁弁43をオンし、加圧電磁弁42をオフすることにより、エアシリンダ30での加圧を解除し、引圧室32b内へエアを送り込む(ステップS11)。これにより、ピストンロッド33は上昇し、押圧部34はアウターチューブ63内から抜去される(ステップS12)。さらに、制御部40はテーブル25が下降する回転方向にテーブル昇降モータ11を作動させる(ステップS13)。そして、テーブル下死点センサ45によりテーブル25が最下位置に達したことを検知するとテーブル昇降モータ11を停止させる(ステップS14)。以上で、本装置による鋳造動作は終了する。その後、作業者は、フラスコ65の温度が常温程度まで下がったならば、ハンマー、分割鉗子などの工具を用い、鋳造物である樹脂を壊さないように取り出す。
【0042】
なお、上記実施例は本発明の一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜修正や変更、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施例である義歯床射出成形装置の全体構成を示す正面図(テーブルが最下位置にある状態)。
【図2】本実施例の義歯床射出成形装置の全体構成を示す正面図(テーブルが最上位置まで上昇された状態)。
【図3】本実施例の義歯床射出成形装置の全体構成を示す正面図(溶融樹脂の圧入が行われた状態)。
【図4】本実施例の義歯床射出成形装置のテーブル昇降部の構成図。
【図5】本実施例の義歯床射出成形装置での作業に用いられる樹脂用のチューブの構成と使用方法を説明するための図。
【図6】本実施例の義歯床射出成形装置の電気系構成図。
【図7】本実施例の義歯床射出成形装置における加圧用の空気流路の構成図。
【図8】本実施例の義歯床射出成形装置を用いた義歯床作製時の手順及び制御動作を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0044】
1…義歯床射出成形装置
2…テーブル昇降部
3…射出部
10…台座
11…テーブル昇降モータ
12…モータ軸
13…モータプーリ
14…回転センサ板
15…昇降モータ回転センサ
16…タイミングベルト
17…テーブル昇降台
18…軸受
20…スラスト軸体
21…ねじ孔
22…大プーリ
23…テーブル振れ止めガイド
24…ガイド孔
25…テーブル
26…ねじ軸
27…ガイド棒
30…エアシリンダ
32…シリンダチューブ
32a…加圧室
32b…引圧室
33…ピストンロッド
34…押圧部
35…加圧側エア送給路
36…引圧側エア送給路
37…チューブガイド
38…保持穴
40…制御部
41…負荷駆動部
42…加圧電磁弁
43…加圧解除電磁弁
44…リリース電磁弁
45…テーブル下死点センサ
46…テーブル上死点センサ
48…加圧側圧力センサ
49…圧力設定ボリウム
50…操作部
51…表示部
52…ブルドン管圧力計
60…樹脂材料
61…インナーチューブ
62…蓋
63…アウターチューブ
65…フラスコ
65a…注入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラスコ内に形成された鋳型を用いて樹脂製の義歯床を作製するための義歯床射出成形装置において、
a)溶融樹脂が封入された略筒形状のチューブを起立状態で上部に保持する前記フラスコが載置されるテーブルと、
b)前記テーブルを昇降させる、第1駆動源を含むテーブル昇降手段と、
c)前記チューブに封入された溶融樹脂を前記フラスコ内の鋳型の内部空洞に圧入するために前記チューブの上から略垂直にピストンを降下させるシリンダと、
d)前記シリンダのピストンを作動させる第2駆動源と、
e)前記チューブの上端を保持するための保持手段と、
f)前記テーブルが下降した状態で前記フラスコ及び前記チューブが前記テーブル上に装填された後に、前記チューブの上端が前記保持手段により保持される位置まで前記テーブルを上昇させ、該テーブルをその位置に維持して前記ピストンを降下させるように前記第1駆動源及び前記第2駆動源を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする義歯床射出成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の義歯床射出成形装置であって、前記保持手段は、下面開口から上方にいくに従いその内径が絞られるように内周面がテーパ状である保持穴を有することを特徴とする義歯床射出成形装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の義歯床射出成形装置であって、前記チューブの上端が前記保持手段により保持される位置まで前記テーブルが上昇したことを検知する検知手段を備え、前記制御手段は前記検知手段により前記テーブルが前記位置に達したことを検知したあとに前記第2駆動源を駆動することを特徴とする義歯床射出成形装置。
【請求項4】
請求項3に記載の義歯床射出成形装置であって、前記制御手段は、前記テーブルの上昇開始から所定時間内に前記検知手段により前記テーブルが前記位置に達したことを検知し得ないと異常を報知することを特徴とする義歯床射出成形装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の義歯床射出成形装置であって、前記第1駆動源はモータであり、前記第2駆動源の駆動力は空気圧であることを特徴とする義歯床射出成形装置。
【請求項6】
請求項5に記載の義歯床射出成形装置であって、前記第2駆動源は、前記シリンダの加圧室に空気を送給するための第1電磁弁と、該加圧室から空気を排出するための第2電磁弁と、を含むことを特徴とする義歯床射出成形装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−24602(P2011−24602A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297612(P2007−297612)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(390038999)株式会社デンケン (3)
【Fターム(参考)】