説明

義歯床用材料の製造方法

【課題】メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体が十分に溶解し、長期間安定し、耐久性の優れた義歯床用材料を提供する。
【解決手段】メタクリル酸エステルに、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体を等重量以下混合し、十分に溶解するまで静置し、さらに、ラジカル重合可能なウレタンアクリレートオリゴマー、ウレタンメタクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートモノマーもしくはウレタンメタクリレートモノマー20〜80wt%と、重合開始剤または光増感剤0.1〜2wt%と、還元剤0.1〜2wt%とを混合し、溶液とゲル状化合物とが分離するまで静置し、分離されたゲル状化合物を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、義歯床用レジンなどの義歯床用材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
義歯を作製するために用いられる義歯床用材料は、義歯床用レジンや、軟質裏装材、義歯床用補強材等として用いられる。軟質裏装材として用いられた例では、例えば、特許文献1には、ラジカル重合が可能なウレタン系オリゴマーと、メタクリル酸エステルと、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体とが含まれた義歯床用材料が開示されている。
【0003】
前記特許文献1に記載されている軟質裏装材に含まれているウレタン系オリゴマーは、架橋している上に重合率が高いため、軟質裏装材として長期間安定させるとともに、耐久性を向上させるために添加されている。また、メタクリル酸エステルは、重合後の軟質裏装材の弾性を調節するために添加されており、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体は、重合前の段階で流動性を調整するために添加されている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−254303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したメタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体は、多く添加すると流動性が失われやすくなり、成形性が向上する。しかしながら、前記特許文献1に記載の義歯床用材料においては、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体を添加した場合に、ウレタン系オリゴマーの粘性の影響により、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体が完全に溶解しない状態で残ってしまう。すなわち、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体の表面が一部溶解した段階で留まってしまう。
【0006】
一方、義歯を作製する過程において、義歯床用材料の用途によっては、流動性を失わせて成形性を保つ必要がある場合もある。したがって、前述したように表面が一部溶解した段階で留まってしまうため、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体を多く添加しても、十分に流動性が低下せず、成形性が向上しないという問題点がある。
【0007】
本発明は前述の問題点に鑑み、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体が十分に溶解し、長期間安定し、耐久性の優れた義歯床用材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の義歯床用材料の製造方法は、メタクリル酸エステルと、前記メタクリル酸エステルに対して等重量以下のメタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体とを混合して溶解させた第1の混合液を生成して所定時間静置する工程と、前記静置した第1の混合液と、ラジカル重合可能なウレタンアクリレートオリゴマー、ウレタンメタクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートモノマーまたはウレタンメタクリレートモノマーと、重合開始剤または光増感剤と、還元剤とを混合して、前記ラジカル重合可能なウレタンアクリレートオリゴマー、ウレタンメタクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートモノマーまたはウレタンメタクリレートモノマーの割合が20〜80wt%、前記重合開始剤または光増感剤の割合が0.1〜2wt%、前記還元剤の割合が0.1〜2wt%の第2の混合液を生成して静置する工程と、前記静置した第2の混合液からゲル状物を抽出する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多量のメタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体を添加しても、成形性に優れ、長期間安定し、耐久性の優れた義歯床用材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者は、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体の溶解性は、ウレタン系オリゴマーの粘性によって変化することに着目し、メタクリル酸エステルに、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体を等重量以下混合し、十分に溶解するまで静置し、さらに、ラジカル重合可能なウレタンアクリレートオリゴマー、ウレタンメタクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートモノマーまたはウレタンメタクリレートモノマー20〜80wt%と、重合開始剤または光増感剤0.1〜2wt%と、還元剤0.1〜2wt%とを混合し、溶液とゲル状化合物とが分離するまで静置し、分離されたゲル状化合物を抽出することにより、義歯床用材料を製造できることを見出した。
【0011】
この方法により、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体は、ウレタン系オリゴマーの影響を受けずに溶解することができ、多く添加した場合には、成形性を向上させることができる。また、この方法により作製される義歯床用材料は、架橋している上に重合率が高いため、長期間安定し、耐久性にも優れている。
【0012】
また、本発明の製造方法により製造される義歯床用材料は、義歯床レジンとしても用いることができる。アクリル系義歯は、模型作製、ワックスアップ、レジン混入、レジン填入及びレジン重合という多くの過程を経る必要がある。特に、その中のレジン混合では、ポリメチルメタクリレートを主成分とする粉末とメチルメタクリレートモノマーを主成分とする液とを混合して、粉末が液に十分拡散するまで待つ必要がある。そして、十分に拡散した後に、次のレジン填入の段階へ進む。このようなレジン混入過程では、約20〜30分の時間を要している。
【0013】
本発明の製造方法によれば、ゲル状化合物として提供できるため、レジン混入過程における約20〜30分の待ち時間を不要にすることができ、そのまま次のレジン填入過程でゲル状化合物を填入することができる。
【0014】
また、ウレタンオリゴマーまたはウレタンモノマーと、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体とを同時に混合すると、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体が一部残存した状態となり、容器等に保存した場合に、ウレタンオリゴマーまたはウレタンモノマーの影響により容器等の包装材料へ付着しやすい。ところが、本発明の製造方法により製造される義歯床用材料は、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体が十分に溶解するため、容器等の包装材料へ付着しにくく、取り扱いやすいという効果がある。
【0015】
本発明に用いるメタクリル酸エステルは、重合後の軟質裏装材の弾性を調節するために添加するが、液状のためにウレタン系オリゴマーまたはモノマーの硬化前の流動性(粘性)にも影響するため、義歯床用材料において、30wt%を超えると、成形性が低下し、義歯床用の材料として用いることが難しくなる。したがって、メタクリル酸エステルは、義歯床用材料において、30wt%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明に用いるメタクリル酸エステルは、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等が挙げられる。
【0017】
本発明に用いるメタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体は、流動性を調節するために加えるのが主目的であるが、硬化後の弾性率にも影響を与える。粉末粒子のため、メタクリル酸エステルよりも添加量を多くすると、完全な溶解物が得られない。したがって、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体の配合率は、メタクリル酸エステルに対して等重量以下である必要がある。
【0018】
本発明に用いるメタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体は、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等の重合体または共重合体等が挙げられる。
【0019】
また、本発明では、後述するウレタン系オリゴマーまたはモノマーを添加する前に、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体を十分に溶解させておく必要がある。したがって、まず、前述したメタクリル酸エステルとメタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体とを混合し、混合液が均一溶液になり、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体を十分に溶解するまで少なくとも3日間静置しておくことが好ましい。
【0020】
本発明に用いるラジカル重合可能なウレタンアクリレートオリゴマー、ウレタンメタクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートモノマー、またはウレタンメタクリレートモノマーは、重合させると架橋する。重合している上に架橋しているため、長時間性能が安定させるために必要である。義歯床用材料において、比率が20%より小さいと、重合前の粘性が低くなり、成形するのが困難である。また、義歯床用材料において、比率が80%よりも大きいと、他の添加剤の効果がなくなってしまう。したがって、義歯床用材料において、20〜80wt%である必要がある。
【0021】
本発明に用いるウレタン系オリゴマーは、ラジカル重合が可能であるものである。
【0022】
本発明に用いる重合開始剤は、重合を伴う一般的な歯科用材料に0.5〜1.0%程度添加されている。重合開始剤が2wt%を超えると、重合率は進むが、その分保存中に重合する危険性がある。また、重合開始剤が0.1wt%より小さいと、重合開始剤の効果が得られなくなる。したがって、重合開始剤は、義歯床用材料において、0.1〜2wt%である必要がある。なお、本発明に用いる重合開始剤は、例えば、過酸化ベンゾイル等が挙げられる。
【0023】
また、重合開始剤の代わりに光増感剤を用いてもよい。光増感剤は、可視光線により活性化して、ウレタン系オリゴマー及びメタクリル酸エステルに作用する。光増感剤が2wt%を超えると、可塑剤として働く。また、光増感剤が0.1wt%より小さいと、光増感剤の効果が得られなくなる。したがって、重合開始剤の代わりに用いた場合、光増感剤は、義歯床用材料において、0.1〜2wt%である必要がある。本発明に用いる光増感剤は、例えば、カンファキノン等が挙げられる。
【0024】
本発明で用いる還元剤は、光増感剤が活性化するのを助ける。還元剤が2wt%を超えると、可塑剤として働く。また、還元剤が0.1wt%より小さいと、還元剤の効果が得られなくなる。したがって、義歯床用材料において、還元剤は、0.1〜2wt%である必要がある。本発明に用いる還元剤は、例えば、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル等が挙げられる。
【0025】
義歯床用材料を作製するためには、前述したラジカル重合可能なウレタンアクリレートオリゴマー、ウレタンメタクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートモノマーまたはウレタンメタクリレートモノマーと、重合開始剤(光増感剤)と、還元剤とを、前述したように約3日間静置した混合液に混合し、溶液層とゲル状物層とに分離するまで約3日間静置することが好ましい。溶液層とゲル状物層とに分離したら、ゲル状物層のみを抽出することにより、シート状または塊状の義歯床用材料を得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明する。
まず、メタクリル酸メチルと、ポリメタクリル酸メチルとを1:1の重量比で混合し、均一溶液になるまで3日間静置した。
【0027】
次に、ウレタンアクリレートオリゴマー50wt%と、過酸化ベンゾイル0.5wt%と、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル0.5wt%と、静置しておいた混合液49wt%とを混合して攪拌し、溶液層とゲル状物層とに分離するまで3日間静置した。そして、分離したゲル状物層を抽出して、義歯床用材料を作製した。
【0028】
また、比較例1として、ウレタンアクリレートオリゴマー69wt%と、メタクリル酸メチル10wt%と、ポリメタクリル酸メチル20wt%と、カンファキノン0.5wt%と、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル0.5wt%とを同時に混合し、義歯床用材料を作製した。
【0029】
さらに、比較例2として、メタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体としてポリメチルメタクリレート粉末65wt%とメタクリル酸エステルとしてメチルメタクリレートモノマーを主成分とする液35wt%とを混合し、液が粉末に十分拡散するまで20分〜30分静置した。これにより、従来から用いられている粉液重合法によって作製されるアクリル系レジンと同じ義歯床用材料を作製した。
【0030】
そして、上記実施例及び比較例1の義歯床用材料をそれぞれ可視光線により重合させ、また、上記比較例2の義歯床用材料を100℃で加熱して重合させ、重合させたものの破断面をSEM(Scanning Electron Microscope)を用いて観察した。
【0031】
図1は、本実施例で作製した義歯床用材料の重合体の破断面を示すSEM写真である。
図1に示すように、本実施例で用いた方法によれば、ポリメタクリル酸メチルの粒子は確認できなかった。
【0032】
図2は、比較例1で作製した義歯床用材料の重合体の破断面を示すSEM写真である。
図2に示すように、同時に添加したウレタンアクリレートオリゴマーの粘性の影響により、ポリメタクリル酸メチルの球状粒子が残存していることがわかる。
【0033】
図3は、比較例2で作製した義歯床用材料の重合体の破断面を示すSEM写真である。
図3に示すように、ウレタン系オリゴマーは添加されていないが、ポリメタクリル酸メチルへメタクリル酸メチルが拡散しただけであるため、ポリメチルメタクリレートの球状粒子が残存していることがわかる。
【0034】
以上のように本実施例によれば、ポリメタクリル酸メチルを十分に溶解させることができる。したがって、多量のメタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体を添加しても、成形性に優れ、長期間安定し、耐久性の優れた義歯床用材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例で作製した義歯床用材料の重合体の破断面を示すSEM写真である。
【図2】比較例1で作製した義歯床用材料の重合体の破断面を示すSEM写真である。
【図3】比較例2で作製した義歯床用材料の重合体の破断面を示すSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸エステルと、前記メタクリル酸エステルに対して等重量以下のメタクリル酸エステル重合体またはメタクリル酸エステル共重合体とを混合して溶解させた第1の混合液を生成して所定時間静置する工程と、
前記静置した第1の混合液と、ラジカル重合可能なウレタンアクリレートオリゴマー、ウレタンメタクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートモノマーまたはウレタンメタクリレートモノマーと、重合開始剤または光増感剤と、還元剤とを混合して、前記ラジカル重合可能なウレタンアクリレートオリゴマー、ウレタンメタクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートモノマーまたはウレタンメタクリレートモノマーの割合が20〜80wt%、前記重合開始剤または光増感剤の割合が0.1〜2wt%、前記還元剤の割合が0.1〜2wt%の第2の混合液を生成して静置する工程と、
前記静置した第2の混合液からゲル状物を抽出する工程とを有することを特徴とする義歯床用材料の製造方法。
【請求項2】
前記所定時間は、少なくとも3日であることを特徴とする請求項1に記載の義歯床用材料の製造方法。
【請求項3】
前記第2の混合液を静置する時間は、少なくとも3日であることを特徴とする請求項1または2に記載の義歯床用材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−184952(P2009−184952A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25636(P2008−25636)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】