説明

耐チッピング透明塗膜及びその形成方法

【課題】 耐チッピング透明塗膜において、環境にやさしい水分散系の透明な塗料を充分な厚さに塗布して下地の着色をそのまま生かせて、低温乾燥できて省エネルギーにもなり、加湿することで短時間で乾燥でき、充分な耐チッピング性が得られること。
【解決手段】 水分散樹脂Aとしてウレタンディスパージョン100重量部に対して、水分散可能イソシアネートBとしてノニオン性の親水性基を付与したポリイソシアネート化合物を10重量部、増粘剤Cとしてウレタン変性ポリエーテル系化合物を1重量部混合して作製した耐チッピング塗料を約500μmの厚膜まで塗布して、約50℃〜約60℃で約10分間低温乾燥した後、湿度80%±5%に約10分間加湿する。Bの平均官能基数を2.5以上、側鎖のアルキル基(Cn2n+1 )のn数を5以上とすれば、透明で塗面外観にも上塗付着性にも耐チッピング性にも耐水白化性にも優れた耐チッピング透明塗膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の上塗焼付後に塗布されて耐チッピング性を高め、環境にやさしく、しかも大型の乾燥炉等を必要としない耐チッピング透明塗膜及びその形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の表面塗膜には、小石・砂粒等が衝突する機会が多いので、かかる衝撃に耐えて塗膜の剥離を起こさない耐チッピング性が要求される。従来、自動車の上塗焼付後に塗布されていた耐チッピング塗料は、溶剤型2液ウレタン塗料であり環境負荷物質を含むので好ましくなく、しかも黒色であるので意匠的に限定されてしまう。また、従来の層間タイプの耐チッピング塗料は、PVCゾル系であり環境に悪く、また120℃以上の焼き付けが必要であるため大型の乾燥炉が必要であった。さらに、従来の透明な上塗は溶剤型であるため焼き付けが必須であり、かつ塗膜が硬くヘビー耐チッピング性を有しない。また、塗布する代わりに貼り付ける耐チッピングフィルムもあるが、下地が凸凹していると泡をかんできれいに貼ることができない。
【0003】
そこで、特許文献1に記載の特許発明においては、2液ポリエステル系の透明チッピングプライマを塗布して透明プライマ塗膜を形成し、その上にアクリルポリオール系もしくはシリコンアクリル系の2液反応型クリア塗料によってクリア塗膜を形成し、これによって自由に着色できるカラークリア塗膜において、耐チッピング性を向上させることができるとしている。
【特許文献1】特許第3189599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このカラークリア塗膜においてもアクリルポリオール系もしくはシリコンアクリル系の環境負荷物質を含む2液反応型クリア塗料を使用している。また、クリア塗膜の厚さが10〜15μmと薄く、充分な耐チッピング性が得られないという問題点があった。
【0005】
そこで、本発明は、環境にやさしい水分散系の透明な塗料を充分な厚さに塗布することによって、下地の着色をそのまま生かすことができ、しかも低温乾燥できて省エネルギーにもなり、充分な耐チッピング性を得ることができる耐チッピング透明塗膜及びその形成方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明にかかる耐チッピング透明塗膜は、水分散樹脂と水分散可能なイソシアネート化合物と増粘剤とを、前記水分散樹脂100重量部に対して前記イソシアネート化合物を5〜15重量部、前記増粘剤を0.4〜5重量部の範囲内で混合してなり、前記イソシアネート化合物の平均官能基数が2.5以上であり、側鎖のアルキル基Cn2n+1 のn数が5以上である耐チッピング塗料を塗布し、温度約50℃〜約60℃で約10分間加熱乾燥した後、湿度80%±5%で10分以上加湿してなるものである。
【0007】
請求項2の発明にかかる耐チッピング透明塗膜の形成方法は、水分散樹脂と水分散可能なイソシアネート化合物と増粘剤とを、前記水分散樹脂100重量部に対して前記イソシアネート化合物を5〜15重量部、前記増粘剤を0.4〜5重量部の範囲内で混合してなり、前記イソシアネート化合物の平均官能基数が2.5以上であり、側鎖のアルキル基Cn2n+1 のn数が5以上である耐チッピング塗料を塗布する工程と、温度約50℃〜約60℃で約10分間加熱乾燥する工程と、湿度80%±5%で10分以上加湿する工程とを具備するものである。
【0008】
請求項3の発明にかかる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法は、請求項1または請求項2の構成において、前記水分散樹脂はウレタンディスパージョンであるものである。
【0009】
請求項4の発明にかかる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、前記イソシアネート化合物はノニオン性の親水性基を付与したポリイソシアネート化合物であるものである。
【0010】
請求項5の発明にかかる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つの構成において、前記増粘剤はウレタン変性ポリエーテル系化合物であるものである。
【0011】
請求項6の発明にかかる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法は、請求項1乃至請求項5のいずれか1つの構成において、乾燥膜厚50μm以上の厚さに塗布してなるものである。
【0012】
請求項7の発明にかかる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法は、請求項6の構成において、前記乾燥膜厚は約50μmから約1000μmの範囲内であるものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明にかかる耐チッピング透明塗膜に用いられる耐チッピング塗料は、水分散樹脂100重量部に対してイソシアネート化合物を5〜15重量部、増粘剤を0.4〜5重量部の範囲内で混合してなるものであり、この範囲内であれば均一に混合されて透明となり、塗布されたときに適度な粘性を有するため適度な硬さの厚膜の塗膜が得られ、従来の塗膜よりも優れた耐チッピング性を示す。また、水系の塗料であるので環境にやさしく、しかも約50℃〜約60℃の低温で約10分間加熱乾燥した後、湿度80%±5%で10分以上加湿して塗膜となるので、加熱・加湿は小型の温風ヒーターと加湿器を数台用いて行うことができ、従来のような大型乾燥炉を使用することがないため、省エネルギーにも貢献する。
【0014】
さらに、イソシアネート化合物の平均官能基数が2.5以上であり、側鎖のアルキル基Cn2n+1 のn数が5以上であるので、前記平均官能基数が2.5未満の場合のように下地との密着性が悪く耐チッピング性に劣ることもなく、アルキル基Cn2n+1 のn数が5未満の場合のように耐水白化性に劣ることもなく、耐候性にも優れている。
【0015】
このようにして、環境にやさしい水分散系の透明な塗料を充分な厚さに塗布することによって、下地の着色をそのまま生かすことができ、しかも低温乾燥できて省エネルギーにもなり、充分な耐チッピング性を得ることができる耐チッピング透明塗膜となる。
【0016】
請求項2の発明にかかる耐チッピング透明塗膜の形成方法に用いられる耐チッピング塗料は、水分散樹脂100重量部に対してイソシアネート化合物を5〜15重量部、増粘剤を0.4〜5重量部の範囲内で混合してなるものであり、この範囲内であれば均一に混合されて透明となり、塗布されたときに適度な粘性を有するため適度な硬さの厚膜の塗膜が得られ、従来の塗膜よりも優れた耐チッピング性を示す。また、水系の塗料であるので環境にやさしく、しかも約50℃〜約60℃の低温で約10分間加熱乾燥した後、湿度80%±5%で10分以上加湿して塗膜となるので、加熱・加湿は小型の温風ヒーターと加湿器を数台用いて行うことができ、従来のような大型乾燥炉を使用することがないため、省エネルギーにも貢献する。
【0017】
さらに、イソシアネート化合物の平均官能基数が2.5以上であり、側鎖のアルキル基Cn2n+1 のn数が5以上であるので、前記平均官能基数が2.5未満の場合のように下地との密着性が悪く耐チッピング性に劣ることもなく、アルキル基Cn2n+1 のn数が5未満の場合のように耐水白化性に劣ることもなく、耐候性にも優れている。
【0018】
このようにして、環境にやさしい水分散系の透明な塗料を充分な厚さに塗布することによって、下地の着色をそのまま生かすことができ、しかも低温乾燥できて省エネルギーにもなり、充分な耐チッピング性を得ることができる耐チッピング透明塗膜の形成方法となる。
【0019】
請求項3の発明にかかる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法は、水分散樹脂がウレタンディスパージョンであり、具体例としては、ポリエステルポリオールと水素添加XDI(キシリデンジイソシアネート)を骨格としたウレタン樹脂、アニオン型の親水性基を導入した自己乳化型水性ウレタン樹脂、シラノール基含有自己架橋性水性ウレタン樹脂等である。これらのウレタンディスパージョンはイソシアネート化合物とも相溶性が良く、混合したときに透明性を損なわない。そして、ウレタンディスパージョンの微粒子がイソシアネート化合物によって強固に接続されて塗膜を形成する。
【0020】
このようにして、環境にやさしい水分散系の透明な塗料を充分な厚さに塗布することによって、下地の着色をそのまま生かすことができ、しかも低温乾燥できて省エネルギーにもなり、充分な耐チッピング性を得ることができる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法となる。
【0021】
請求項4の発明にかかる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法は、イソシアネート化合物がノニオン性の親水性基を付与したポリイソシアネート化合物である。親水性基を付与されることによってイソシアネート化合物が水分散可能になるのであるが、これがカチオン性の親水性基等では、ウレタンディスパージョンがゲル化してしまい、塗料として使用できなくなる。そこで、ノニオン性の親水性基を付与することによって、ウレタンディスパージョンがゲル化することなくイソシアネート化合物が水分散可能になり、均一で透明な塗料となる。
【0022】
このようにして、環境にやさしい水分散系の透明な塗料を充分な厚さに塗布することによって、下地の着色をそのまま生かすことができ、しかも低温乾燥できて省エネルギーにもなり、充分な耐チッピング性を得ることができる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法となる。
【0023】
請求項5の発明にかかる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法は、増粘剤がウレタン変性ポリエーテル系化合物であるため、ウレタンディスパージョンともイソシアネート化合物とも相溶性が良く、透明性を損なうことなく、塗料の粘性を適切な大きさにすることができる。
【0024】
このようにして、環境にやさしい水分散系の透明な塗料を充分な厚さに塗布することによって、下地の着色をそのまま生かすことができ、しかも低温乾燥できて省エネルギーにもなり、充分な耐チッピング性を得ることができる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法となる。
【0025】
請求項6の発明にかかる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法は、乾燥膜厚50μm以上の厚さに塗布してなるものである。したがって、環境にやさしい水分散系の透明な塗料を塗布して充分な厚さの塗膜を得ることができ、優れた耐チッピング性を示す塗膜となる。
【0026】
このようにして、環境にやさしい水分散系の透明な塗料を充分な厚さに塗布することによって、下地の着色をそのまま生かすことができ、しかも低温乾燥できて省エネルギーにもなり、充分な耐チッピング性を得ることができる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法となる。
【0027】
請求項7の発明にかかる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法は、乾燥膜厚が約50μmから約1000μmの範囲内であるものである。上限を約1000μmとしたのは、耐チッピング塗料のタレ限界膜厚が平均約500μm、最大約1000μmであるためである。このように、約500μm〜約1000μmもの厚膜とできるので、従来の耐チッピングフィルムと同等以上の耐チッピング性を得ることができ、しかも耐チッピングフィルムのように泡をかんできれいに貼り付けられないという問題はない。
【0028】
このようにして、環境にやさしい水分散系の透明な塗料を充分な厚さに塗布することによって、従来の耐チッピングフィルムと同等以上の充分な耐チッピング性を得ることができる耐チッピング透明塗膜またはその形成方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態にかかる耐チッピング透明塗膜及びその形成方法においては、水分散樹脂Aとしてウレタンディスパージョンを用いて、その100重量部に対して、水分散可能イソシアネートBとしてノニオン性の親水性基を付与したポリイソシアネート化合物を10重量部用いて、増粘剤Cとしてウレタン変性ポリエーテル系化合物を1重量部用いている。水分散可能イソシアネートBの具体例としては、以下の化学式で示される2種類の化合物がある。
【0030】
【化1】

【0031】
【化2】

これらは、いずれもノニオン性の親水性基を付与したポリイソシアネート化合物であるが、本実施の形態においては、水分散可能イソシアネートBとして前者の化合物を用いることとし、平均官能基(イソシアネート基)数を2.5以上とし、側鎖を構成するアルキル基R1(Cn2n+1 )のn数を5以上とした。以上の条件において、水分散樹脂Aを100重量部と水分散可能イソシアネートBを10重量部と増粘剤Cを1重量部混合して、耐チッピング塗料を作製し、塗装して塗膜の性能試験を行った。より具体的な構成と試験条件を、以下の実施例1〜実施例8に示す。
【0032】
実施例1
本実施の形態にかかる耐チッピング透明塗膜を形成するための耐チッピング塗料の実施例1としては、上述の如く水分散樹脂Aを100重量部,水分散可能イソシアネートBを10重量部,増粘剤Cを1重量部混合して、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を3.0とし、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。
【0033】
性能試験としては、自動車外板に使用されるリン酸亜鉛処理鋼板に電着塗料・中塗塗料・上塗塗料を形成した工程塗膜上に、作製した耐チッピング塗料を乾燥膜厚が100μmになるように塗装し、常温で7日間放置した後、上塗付着性・耐チッピング性・タレ性・耐水白化性の各項目について試験した。また、塗面外観・ベタツキ性については、同様に乾燥膜厚が100μmになるように塗装し、約50℃で10分間加熱乾燥した後、湿度80%±5%で10分間放置して、塗面の外観(透明性及び気泡の有無)と塗膜のベタツキの有無を評価した。
【0034】
実施例2
実施例2としては、同じく水分散樹脂Aを100重量部,水分散可能イソシアネートBを10重量部,増粘剤Cを1重量部混合して、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を2.8に減らし、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、実施例1と同様である。
【0035】
実施例3
実施例3としては、同じく水分散樹脂Aを100重量部,水分散可能イソシアネートBを10重量部,増粘剤Cを1重量部混合して、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数をさらに2.5に減らし、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、実施例1と同様である。
【0036】
実施例4
実施例4としては、水分散樹脂Aを100重量部に対して、水分散可能イソシアネートBを5重量部に減らし、増粘剤Cを1重量部混合して、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を2.5として、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、実施例1と同様である。
【0037】
実施例5
実施例5としては、水分散樹脂Aを100重量部に対して、水分散可能イソシアネートBを15重量部に増やし、増粘剤Cを1重量部混合して、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を2.5として、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、実施例1と同様である。
【0038】
実施例6
実施例6としては、水分散樹脂Aを100重量部,水分散可能イソシアネートBを10重量部に対して、増粘剤Cを0.4重量部に減らして混合し、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を2.5として、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、実施例1と同様である。
【0039】
実施例7
実施例7としては、水分散樹脂Aを100重量部,水分散可能イソシアネートBを10重量部に対して、増粘剤Cを5重量部に増やして混合し、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を2.5として、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、実施例1と同様である。
【0040】
実施例8
実施例8としては、水分散樹脂Aを100重量部,水分散可能イソシアネートBを10重量部,増粘剤Cを1重量部混合し、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を2.5として、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、塗面外観・ベタツキ性を除いて実施例1と同様である。塗面外観・ベタツキ性については、同様に乾燥膜厚が100μmになるように塗装し、約50℃で10分間加熱乾燥した後、湿度75%未満で7日間放置して、塗面外観と塗膜のベタツキの有無を評価した。
【0041】
これらの実施例1〜実施例8に加えて、比較例1〜比較例10として以下の配合についても試験を行った。
【0042】
比較例1としては、実施例1と同じく水分散樹脂Aを100重量部,水分散可能イソシアネートBを10重量部,増粘剤Cを1重量部混合して、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数をさらに2.0に減らし、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、実施例1と同様である。
【0043】
比較例2としては、同じく水分散樹脂Aを100重量部,水分散可能イソシアネートBを10重量部,増粘剤Cを1重量部混合して、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数は2.5とする代わりに、アルキル基R1 のn数=4としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、実施例1と同様である。
【0044】
比較例3としては、水分散樹脂Aを100重量部に対して、水分散可能イソシアネートBを4重量部に減らし、増粘剤Cを1重量部混合して、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を2.5として、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、実施例1と同様である。
【0045】
比較例4としては、水分散樹脂Aを100重量部に対して、水分散可能イソシアネートBを16重量部に増やし、増粘剤Cを1重量部混合して、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を2.5として、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、実施例1と同様である。
【0046】
比較例5としては、水分散樹脂Aを100重量部,水分散可能イソシアネートBを10重量部に対して、増粘剤Cを0.3重量部に減らして混合し、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を2.5として、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、実施例1と同様である。
【0047】
比較例6としては、水分散樹脂Aを100重量部,水分散可能イソシアネートBを15重量部に対して、増粘剤Cを6重量部に増やして混合し、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を2.5として、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、実施例1と同様である。
【0048】
比較例7としては、実施例1と同じく水分散樹脂Aを100重量部,水分散可能イソシアネートBを10重量部,増粘剤Cを1重量部混合して、さらに酸化亜鉛を1重量部混合し、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を2.5として、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、塗面外観とベタツキ性を除いて実施例1と同様である。塗面外観とベタツキ性については、同様に乾燥膜厚が100μmになるように塗装し、約50℃で10分間加熱乾燥した後、湿度75%未満で10分間放置して、塗面外観と塗膜のベタツキの有無を評価した。
【0049】
比較例8としては、実施例1と同じく水分散樹脂Aを100重量部,水分散可能イソシアネートBを10重量部,増粘剤Cを1重量部混合して、さらにイソプロピルアルコール(IPA)を1重量部混合し、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を2.5として、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、塗面外観とベタツキ性を除いて実施例1と同様である。塗面外観とベタツキ性については、同様に乾燥膜厚が100μmになるように塗装し、約50℃で10分間加熱乾燥した後、湿度75%未満で10分間放置して、塗面外観と塗膜のベタツキの有無を評価した。
【0050】
比較例9としては、実施例1と同じく水分散樹脂Aを100重量部,水分散可能イソシアネートBを10重量部,増粘剤Cを1重量部混合して、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を2.5として、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、塗面外観とベタツキ性を除いて実施例1と同様である。塗面外観とベタツキ性については、同様に乾燥膜厚が100μmになるように塗装し、約50℃で10分間加熱乾燥した後、湿度75%未満で10分間放置して、塗面外観と塗膜のベタツキの有無を評価した。
【0051】
比較例10としては、実施例1と同じく水分散樹脂Aを100重量部,水分散可能イソシアネートBを10重量部,増粘剤Cを1重量部混合して、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数を2.5として、アルキル基R1 のn数=5としたものを作製した。性能試験の方法と試験項目は、塗面外観とベタツキ性を除いて実施例1と同様である。塗面外観とベタツキ性については、同様に乾燥膜厚が100μmになるように塗装し、約50℃で10分間加熱乾燥した後、湿度85%以上で10分間放置して、塗面外観と塗膜のベタツキの有無を評価した。
【0052】
実施例1〜実施例8,比較例1〜比較例10の各配合と性能試験条件と性能試験の結果をまとめて表1に示す。
【0053】
【表1】

表1に示されるように、塗面外観は透明な塗膜で気泡なしの場合が○、透明でない場合或いは気泡がある場合は×であるが、実施例全てと比較例1〜比較例5,比較例9は○で問題はなかったが、比較例6は△であり、透明ではあるが塗装表面に凹凸があり塗面外観に問題があった。これは、表1に示されるように、増粘剤Cを6重量部に増やしたため、塗料の粘度が高くなりすぎて塗装表面に凹凸を生じたものと思われる。このことより、実施例7と比較して、増粘剤Cの添加量の上限は5重量部であることが分かる。
【0054】
また、比較例7,比較例8,比較例10は×であり、いずれも気泡が発生した。このことより、酸化亜鉛やIPAは添加しても逆効果になること、また湿度85%以上で加湿すると気泡が発生することが判明した。
【0055】
上塗付着性は剥離なしの場合が○、剥離がある場合が×であるが、比較例1及び比較例3に剥離が認められ、上塗付着性に問題があることが分かった。比較例1が上塗付着性に劣るのは、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数が2.0と少ないため、電着塗料・中塗塗料・上塗塗料の官能基と反応して結合する官能基が不足して、上塗付着性が弱くなったものと考えられる。
【0056】
また、比較例3が上塗付着性に劣るのは、水分散可能イソシアネートBの添加量が4重量部と少ないため、電着塗料・中塗塗料・上塗塗料の官能基と反応して結合する官能基が不足して、上塗付着性が弱くなったものと考えられる。このことより、実施例4と比較して、水分散可能イソシアネートBの添加量の下限は5重量部であることが分かる。
【0057】
耐チッピング性はナット落下により試験するが、20kg以上でもチッピングが生じない場合が○で、20kg以下でチッピングが生じた場合が×である。耐チッピング性については比較例1のみにチッピングが生じ、耐チッピング性に問題があることが分かった。比較例1が耐チッピング性に劣るのは、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数が2.0と少ないため、電着塗料・中塗塗料・上塗塗料の官能基と反応して結合する官能基が不足して、下地との密着性が悪いため耐チッピング性も低下したものと考えられる。このことより、他の例と比較して、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数の下限は2.5であることが分かる。
【0058】
タレ性は、50μm〜1000μm傾斜塗りした後、垂直に立ててタレが保持できた最大膜厚により示すが、実施例1〜実施例6,実施例8及び比較例1〜比較例4,比較例7〜比較例10が500μmであり、実施例7及び比較例6がそれぞれ1000μm、1300μmと大きな値を示し、逆に比較例5が300μmと小さな値を示した。これらはいずれも増粘剤Cの増減によるものであり、実施例6と比較例5を比較することによって、増粘剤Cの添加量の下限は0.4重量部であることが分かる。
【0059】
耐水白化性は、40℃の純水に168時間(7日間)浸漬後の外観で白化なしの場合が○、白化した場合が×であるが、比較例2,比較例3,比較例4が×で、耐水白化性に問題があることが分かった。比較例2が耐水白化性に劣るのは、アルキル基R1 のn数がn=4と少ないためと考えられる。また、比較例3,比較例4が耐水白化性に劣るのは、それぞれ水分散可能イソシアネートBの添加量が少な過ぎ、或いは多過ぎるためと考えられる。
【0060】
そして、ベタツキ性については比較例7〜比較例10が×であり、問題があることが分かった。これらはいずれも加湿条件が湿度80%±5%という条件から外れているものであり、比較例7〜比較例9は湿度75%未満で10分間、比較例10は湿度85%以上で10分間加湿したものである。即ち、実施例8のように長時間にわたって加湿する場合はともかく、短時間で加湿する場合には湿度は低すぎても高すぎても好ましくないことが分かった。
【0061】
これに対して、実施例1〜実施例8の配合及び加湿条件の耐チッピング塗料からなる耐チッピング透明塗膜は、いずれの性能試験項目においても良好な結果を示し、耐チッピング透明塗膜として充分に実用性があることが分かった。この結果、水分散可能イソシアネートBの平均官能基数は2.5以上必要であり、Bの側鎖のアルキル基R1 のn数は5以上必要であることが判明した。また、水分散可能イソシアネートBの添加量は、水分散樹脂A100重量部に対して5重量部〜15重量部の範囲内であることが必要であると分かった。さらに、増粘剤Cの添加量は、水分散樹脂A100重量部に対して0.4重量部〜5重量部の範囲内であることが必要であると分かった。そして、加湿条件が湿度80%±5%の場合に短時間でベタツキが無くなることが判明した。
【0062】
このように、本実施の形態の耐チッピング透明塗膜は、環境にやさしい水分散系の透明な耐チッピング塗料を充分な厚さに塗布することによって、下地の着色をそのまま生かすことができ、しかも低温乾燥できて省エネルギーにもなり、さらに加湿することによって短時間で乾燥することができ、充分な耐チッピング性を得ることができる。さらに、約500μmもの厚膜とできるので、従来の耐チッピングフィルムと同等以上の耐チッピング性を得ることができ、しかも耐チッピングフィルムのように泡をかんできれいに貼り付けられないという問題はない。
【0063】
本実施の形態においては、水分散可能イソシアネートBとして、(化1)の化学式で示されるポリイソシアネート化合物を用いたが、(化2)の化学式で示されるアルキルフェニル基(例えば、n=9であればノニルフェニル基)を一端に有するポリイソシアネート化合物を用いることもできる。
【0064】
本発明を実施するに際しては、耐チッピング透明塗膜のその他の部分の構成、成分、配合、形状、数量、材質、大きさ、接続関係等についても、また耐チッピング透明塗膜の形成方法のその他の工程についても、本実施の形態及び各実施例に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散樹脂と水分散可能なイソシアネート化合物と増粘剤とを、前記水分散樹脂100重量部に対して前記イソシアネート化合物を5〜15重量部、前記増粘剤を0.4〜5重量部の範囲内で混合してなり、前記イソシアネート化合物の平均官能基数が2.5以上であり、側鎖のアルキル基Cn2n+1 のn数が5以上である耐チッピング塗料を塗布し、温度約50℃〜約60℃で約10分間加熱乾燥した後、湿度80%±5%で10分以上加湿してなることを特徴とする耐チッピング透明塗膜。
【請求項2】
水分散樹脂と水分散可能なイソシアネート化合物と増粘剤とを、前記水分散樹脂100重量部に対して前記イソシアネート化合物を5〜15重量部、前記増粘剤を0.4〜5重量部の範囲内で混合してなり、前記イソシアネート化合物の平均官能基数が2.5以上であり、側鎖のアルキル基Cn2n+1 のn数が5以上である耐チッピング塗料を塗布する工程と、
温度約50℃〜約60℃で約10分間加熱乾燥する工程と、
湿度80%±5%で10分以上加湿する工程と
を具備することを特徴とする耐チッピング透明塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記水分散樹脂はウレタンディスパージョンであることを特徴とする請求項1に記載の耐チッピング透明塗膜または請求項2に記載の耐チッピング透明塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記イソシアネート化合物はノニオン性の親水性基を付与したポリイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の耐チッピング透明塗膜またはその形成方法。
【請求項5】
前記増粘剤はウレタン変性ポリエーテル系化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の耐チッピング透明塗膜またはその形成方法。
【請求項6】
乾燥膜厚50μm以上の厚さに塗布してなることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の耐チッピング透明塗膜またはその形成方法。
【請求項7】
前記乾燥膜厚は約50μmから約1000μmの範囲内であることを特徴とする請求項6に記載の耐チッピング透明塗膜またはその形成方法。


【公開番号】特開2006−136792(P2006−136792A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327922(P2004−327922)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】