説明

耐不凍液性に優れた水回り部材用ポリアミド樹脂組成物及びそれからなる水回り部材

【課題】
温水やエチレングリコールやプロピレングリコール等の多価アルコールを不凍液として含む水溶液との接触下において良好な耐久性と、強度、耐熱性を兼ね備えたポリアミド樹脂組成物及びそれからなる水回り部材を提供する。
【解決手段】
ポリアミド樹脂(a)40〜90重量%、ポリオレフィン樹脂(b)1〜40重量%、およびポリフェニレンスルファイド樹脂(c)1〜40重量%から構成される樹脂組成物であって、該樹脂組成物中に電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造において、ポリアミド樹脂(a)が連続相、ポリオレフィン樹脂(b)およびポリフェニレンスルファイド樹脂(c)が分散相を形成し、ポリオレフィン樹脂(b)およびポリフェニレンスルファイド樹脂(c)がそれぞれ1〜200nmの分散粒径で分散する樹脂相分離構造を有することを特徴とする水回り部材用ポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂とポリフェニレンスルファイド樹脂からなり、特にポリアミド樹脂中にポリオレフィン樹脂ポリフェニレンスルファイド樹脂をナノメートルオーダーで分散させることによって、温水やエチレングリコール等の多価アルコールを含む水溶液(以下「不凍液」とも称す。)との接触下において良好な耐久性と強度、耐熱性を兼ね備えたポリアミド樹脂組成物及びそれからなる水回り部材に関する。特に樹脂製パイプ並びにこれを用いた温水循環装置に好適に使用できる水回り部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、引張、曲げ等の強度、弾性率などの機械的性質に優れ、しかも耐熱性、耐薬品性が良好で精密機械部品、構造材料などの多くの分野で利用されている。自動車分野や建築、土木分野では軽量化、組み立て合理化等から、金属部品を樹脂化することが進んでいる。中でもガラス繊維強化ナイロン66樹脂に代表されるポリアミド樹脂は耐熱性、耐油性、強靱性に優れた特徴を有し、自動車エンジンルーム内部品であるラジエータタンクや床暖房を行うフロアーヒーティングや寒冷地での路面の凍結を防止するロードヒーティングシステム等のいわゆる「ヒートシステム法」に用いられるパイプ状配管に代表される不凍液と接触する部品の素材として注目され、相当の使用実績がある。しかしながら、従来のガラス繊維強化ナイロン66樹脂は、高温雰囲気下での不凍液との長時間接触後、強度が低下する傾向があり、さらなる性能向上が望まれていた。この解決を目的としてナイロン66よりもアミド基濃度の低いナイロン612、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12等の長鎖脂肪族ポリアミドをそのまま、あるいはナイロン66とブレンドした組成物を用いる方法(例えば、特許文献1)が開示されている。しかしながら、これらの方法は耐不凍液性は向上するものの、耐熱性がナイロン66よりも劣るという欠点がある。また、分子鎖中に芳香族成分を有するポリアミドを用いる方法(例えば、特許文献2)も開示されているが、この方法では確かにポリアミド樹脂単体に比較し、吸水時の寸法安定性および耐熱性は向上するものの、これら芳香族成分を含むポリアミドは融点が高すぎて極めて限られた温度範囲と滞留時間でしか溶融成形できず、また、ガラス転移点が高いため十分結晶化させるために、さらに、オイル温度調節機等の付いた高温金型が必要となり、成形加工性にも問題を有していた。
【0003】
このようなポリアミド樹脂の物性を補完するために、耐不凍液性に優れるポリオレフィン樹脂とを組み合わせた樹脂組成物(例えば、特許文献3)が従来より提案されている。しかしながら、こられの方法では確かにポリアミド樹脂単体に比較し、耐不凍液性は向上するものの十分とは言えなかった。
【0004】
また、耐熱性、耐不凍液性、成形性に優れる反面、靭性や成形加工性などに問題を有するポリフェニレンスルファイド樹脂(以下PPS樹脂と略す)をポリアミド樹脂に組み合わせた樹脂組成物および成形体(例えば、特許文献4)が従来より提案されている。しかしながら、こられの方法では確かにポリアミド樹脂単体に比較し、吸水時の寸法安定性および耐熱性は向上するものの、脆く割れやすいなどの欠点があるため、耐不凍液性が必要な部材に用いる場合には十分とは言えなかった。
【特許文献1】特公平3−2392号公報
【特許文献2】特開平4−239530号公報
【特許文献3】特開平1−240561号公報
【特許文献4】特開平5−248237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、機械的特性、耐熱性、耐薬品性および成形性のいずれにも優れた性能を兼ね備え、特に長時間に亘る不凍液との接触による機械的性質の低下をできるたけ抑制することが可能な水回り部材用ポリアミド樹脂組成物及び該ポリアミド樹脂組成物からなる水回り部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアミド樹脂中にポリオレフィン樹脂とPPS樹脂を特定の分散状態(ナノメートルオーダー)で分散させることにより上記課題が解決されることを見出し本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)ポリアミド樹脂(a)40〜90重量%、ポリオレフィン樹脂(b)1〜40重量%、およびポリフェニレンスルファイド樹脂(c)1〜40重量%から構成される樹脂組成物であって、該樹脂組成物中に電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造において、ポリアミド樹脂(a)が連続相、ポリオレフィン樹脂(b)およびポリフェニレンスルファイド樹脂(c)が分散相を形成し、ポリオレフィン樹脂(b)およびポリフェニレンスルファイド樹脂(c)がそれぞれ1〜200nmの分散粒径で分散する樹脂相分離構造を有することを特徴とする水回り部材用ポリアミド樹脂組成物、
(2)前記ポリアミド樹脂(a)がナイロン66であることを特徴とする(1)の水回り部材用ポリアミド樹脂組成物、
(3)前記ポリオレフィン樹脂(b)がポリプロピレンであることを特徴とする(1)または(2)の水回り部材用ポリアミド樹脂組成物、
(4)前記水回り部材用ポリアミド樹脂組成物100重量部に対して、無機充填剤(d)0.5〜100重量部含有してなることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかの水回り部材用ポリアミド樹脂組成物、
(5)(1)〜(4)のいずれかの水回り部材用ポリアミド樹脂組成物からなることを特徴とする水回り部材、
(6)射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形から選ばれる少なくとも一種の方法で成形されることを特徴とする(5)の水回り部材、
(7)前記水回り部材がパイプであることを特徴とする(5)または(6)の水回り部材、
(8)(7)のパイプにて構成される管路に水もしくは多価アルコールを含む水溶液が通されていることを特徴とする温水循環装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水回り部材用ポリアミド樹脂組成物及びそれからなる水回り部材は、ポリアミド樹脂中にポリオレフィン樹脂とPPS樹脂を特定の分散状態(ナノメートルオーダー)で分散させることにより、温水や不凍液と長時間の接触下においても良好な耐久性、強度を有する。したがって、自動車エンジンルーム内部品であるラジエータタンクやフロアーヒーティングシステムやロードヒーティングシステムに代表される温水循環装置の管路として用いられるパイプとして好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
【0010】
本発明で用いられるポリアミド樹脂(a)とは、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分とするポリアミドである。その主要構成成分の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるナイロンホモポリマーまたはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0011】
本発明において、特に有用なポリアミド樹脂は、150℃以上の融点を有する耐熱性や強度に優れたポリアミド樹脂であり、具体的な例としてはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0012】
中でも好ましいポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン6/66コポリマー、またナイロン6T/66コポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン6T/12、およびナイロン6T/6コポリマーなどのヘキサメチレテレフタルアミド単位を有する共重合体を挙げることができ、特に好ましくはナイロン66を挙げることができる。更にこれらのポリアミド樹脂を耐不凍液性、成形加工性などの必要特性に応じて混合物として用いることも実用上好適である。
【0013】
これらポリアミド樹脂の重合度には特に制限がないが、サンプル濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度として、1.5〜5.0の範囲のものが好ましく、特に2.0〜4.5の範囲のポリアミド樹脂が好ましい。
【0014】
相対粘度が1.5より低いと樹脂が脆くなり、さらに、成形時にシリンダーのノズル先端からのドローリングが激しくなり成形できなくなり好ましくない。相対粘度が5.0より高いと樹脂の溶融粘度が高く成り過ぎて、成形時に金型のデザインによっては樹脂を金型内に充填できなくなり好ましくない。
【0015】
本発明で用いられるポリオレフィン樹脂(b)とは、エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレン、ペンテンなどのオレフィン類を重合または共重合して得られる熱可塑性樹脂である。具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ1−ブテン、ポリ1−ペンテン、ポリメチルペンテンなどの単独重合体および共重合体、エチレン/α−オレフィン共重合体、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素とのブロック共重合体、及び、そのブロック共重合体の水素化物などが用いられる。ここでいうエチレン/α−オレフィン共重合体は、エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンの少なくとも1種以上との共重合体であり、上記の炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。これらα−オレフィンの中でも、炭素数3〜12のα−オレフィンを用いた共重合体が機械強度の向上の点から好ましい。このエチレン/α−オレフィン系共重合体は、α−オレフィン含量が好ましくは1〜30モル%、より好ましくは2〜25モル%、さらに好ましくは3〜20モル%である。
【0016】
更に1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエン、5−エチリデンノルボルネン、5−エチル−2,5−ノルボルナジエン、5−(1′−プロペニル)−2−ノルボルネンなどの非共役ジエンの少なくとも1種が共重合されていてもよい。
【0017】
これらポリオレフィン樹脂の中でも、低、中および高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/α−オレフィン共重合体が好ましい。より好ましくは、ポリプロピレンである。
【0018】
本発明のポリオレフィン樹脂(b)のメルトフローレート(以下MFRと略す。:ASTM D 1238)は0.01〜70g/10分であることが好ましく、さらに好ましくは0.03〜60g/10分である。MFRが0.01g/10分未満の場合は流動性が悪く、70g/10分を超える場合は成形品の形状によっては衝撃強度が低くなることもあるため好ましくない。
【0019】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂(b)の製造方法については特に制限はなく、ラジカル重合、チーグラー・ナッタ触媒を用いた配位重合、アニオン重合、メタロセン触媒を用いた配位重合などいずれの方法でも用いることができる。
【0020】
また、本発明において、ポリオレフィン樹脂(b)の一部もしくは全部を不飽和カルボン酸またはその誘導体から選ばれる少なくとも1種類の化合物で変性して用いることが好ましい。変性したポリオレフィン樹脂を用いると、相溶性が向上し、得られる樹脂組成物の相分離構造の制御性が向上し、好ましい態様の一つである。
【0021】
変性剤として使用される不飽和カルボン酸またはその誘導体の例を挙げると、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸およびこれらカルボン酸の金属塩、マレイン酸水素メチル、イタコン酸水素メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸アミノエチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物、マレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル、および5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸などである。これらの中では、不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物が好適であり、特にマレイン酸や無水マレイン酸が好適である。
【0022】
これらの不飽和カルボン酸またはその誘導体成分をポリオレフィン樹脂に導入する方法は特に制限なく、予め主成分であるオレフィン化合物と不飽和カルボン酸またはその誘導体化合物を共重合せしめたり、未変性ポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸またはその誘導体化合物をラジカル開始剤を用いてグラフト化処理を行って導入するなどの方法を用いることができる。不飽和カルボン酸またはその誘導体成分の導入量は変性ポリオレフィン中のオレフィンモノマ全体に対して好ましくは0.001〜40モル%、より好ましくは0.01〜35モル%の範囲内であることが適当である。
【0023】
本発明で用いられるPPS樹脂(c)は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0024】
【化1】

【0025】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。また、PPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0026】
【化2】

【0027】
かかる構造を一部有するPPS樹脂は、融点が低くなるため、熱可塑性樹脂の融点が低い場合には成形性の点で有利となる。
【0028】
本発明で用いられるPPS樹脂の溶融粘度は、溶融混練が可能であれば特に制限はないが、通常50〜20000poise(320℃、剪断速度1000−1)のものが好ましく使用され、100〜5000poiseの範囲がより好ましい。
【0029】
かかるPPS樹脂は通常公知の方法即ち特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さい重合体を得る方法あるいは特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法などによって製造できる。本発明において上記の様に得られたPPS樹脂を空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有化合物による活性化など種々の処理を施した上で使用することももちろん可能である。
【0030】
PPS樹脂の加熱による架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気、酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法が例示できる。加熱処理温度は通常、170〜280℃が選択され、好ましくは200〜270℃である。また、加熱処理時間は通常0.5〜100時間が選択され、好ましくは2〜50時間であるが、この両者をコントロールすることのより目標とする粘度レベルを得ることができる。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理するためには回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0031】
PPS樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間は0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間加熱処理する方法が例示できる。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理するためには回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0032】
本発明に用いるPPS樹脂は脱イオン処理を施されたPPS樹脂であることが好ましい。かかる脱イオン処理の具体的方法としては酸水溶液洗浄処理、熱水洗浄処理および有機溶媒洗浄処理などが例示でき、これらの処理は2種以上の方法を組み合わせても良い。
【0033】
PPS樹脂を有機溶媒で洗浄する場合の具体的方法としては以下の方法が例示できる。すなわち、洗浄に用いる有機溶媒としては、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はないが、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド、スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール、フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがあげられる。これらの有機溶媒のなかでN−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミド、クロロホルムなどの使用が好ましい。また、これらの有機溶媒は1種類または2種類以上を混合して使用される。有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。また有機溶媒洗浄を施されたPPS樹脂は残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。
【0034】
PPS樹脂を熱水で洗浄処理する場合の具体的方法としては以下の方法が例示できる。すなわち熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の多いほうが好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
【0035】
PPS樹脂を酸処理する場合の具体的方法としては以下の方法が例示できる。すなわち、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。用いられる酸はPPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸などのハロ置換脂肪族飽和カルボン酸、安息香酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などのジカルボン酸、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物などがあげられる。中でも酢酸、塩酸がより好ましく用いられる。酸処理を施されたPPS樹脂を残留している酸または塩などを除去するために、水または温水で数回洗浄することが好ましい。また、洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。
【0036】
本発明において、ポリアミド樹脂(a)と(c)成分のPPS樹脂の相溶性の向上を目的として従来公知の相溶化剤を配合することもできる。相溶化剤の具体的な例としては、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシランなどの有機シラン化合物および多官能エポキシ化合物などが挙げられ、これらは2種以上同時に使用することもできる。ここで多官能エポキシ化合物は、エポキシ基を分子中に2個以上含むものであり、液体または固体状のものを使用することができる。例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどのα−オレフィンとアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジルなどのα,β−不飽和酸グリシジルエステルとの共重合体、ビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ−ジフェニルジメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン等のビスフェノール−グリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系エポキシ化合物、N−グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系エポキシ化合物、ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させたノボラック型エポキシ樹脂等が例示される。本発明において好ましくはビスフェノール−グリシジルエーテル系エポキシ化合物、エポキシ基を有する有機シラン化合物、またはイソシアネート基を有する有機シラン化合物などが用いられる。
【0037】
相溶化剤の配合割合は本発明のポリアミド樹脂組成物100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、更に好ましくは0.1〜5重量部である。0.01重量部以下の添加量においては十分な相溶性向上効果が得られず、10重量部を超える場合はポリアミド樹脂組成物の溶融粘度が著しく増加し流動性が低下するため好ましくない。
【0038】
本発明のポリアミド樹脂(a)、ポリオレフィン樹脂(b)およびPPS樹脂(c)の配合割合は、ポリアミド樹脂(a)、ポリオレフィン樹脂(b)およびPPS樹脂(c)の合計100重量%として、ポリアミド樹脂(a)40〜90重量%、ポリオレフィン樹脂(b)1〜40重量%、およびPPS樹脂(c)1〜40重量%であり、好ましくは、ポリアミド樹脂50〜80重量%、ポリオレフィン樹脂5〜30重量%およびPPS樹脂5〜30重量%である。ポリアミド樹脂(a)が40重量%未満では本来持つ機械的特性が著しく低下し、また90重量%を越えると本発明の耐不凍液性の改良効果が得にくくなるため好ましくない。
【0039】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(a)が連続相、ポリオレフィン樹脂(b)およびPPS樹脂(c)が分散相を形成し、ポリオレフィン樹脂(b)およびPPS樹脂(c)が共に1〜200nmの範囲の分散粒径で分散して樹脂相分離構造を有していることが好ましい。ここで言う分散粒径とは、前記したポリアミド樹脂(a)とポリオレフィン樹脂(b)の2成分の場合と同様に該樹脂組成物を射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度300℃、金型温度80℃)により調製したASTM1号ダンベルの成型表面から500μm内部より、80nmの薄片をダンベル片の断面積方向に切削し、透過型電子顕微鏡(倍率:1000倍)で観察した電子顕微鏡写真を画像解析ソフト「Scion Image」(Scion Corporation製)を用いて処理することで算出した平均粒径である。この時、ポリアミド樹脂(a)、ポリオレフィン樹脂(b)およびPPS樹脂(c)の3成分の場合でも、透過型電子顕微鏡観察時の染色方法および画像解析ソフト「Scion Image」による画像処理を用いることで、ポリオレフィン樹脂(b)とPPS樹脂(c)の分散粒径を個別に算出することが可能である。特に好ましい分散粒径の範囲は10〜150nmである。ポリオレフィン樹脂(b)およびPPS樹脂(c)の分散粒径が1〜200nmの範囲以外の場合には、本発明の課題である機械的特性に優れ、かつ耐不凍液性が改良されたポリアミド樹脂組成物を得ることができない。
【0040】
ここでいう耐不凍液性とは、PPS樹脂の融点+20℃の成形温度でASTM1号ダンベル片を成形し、そのダンベル片の引張強度とロングライフクーラント(LLC)50%水溶液中で130℃/1000時間処理した後の引張強度からによる強度保持率で評価され、好ましくは40%以上である。強度保持率が40%未満となると耐不凍液性が劣るため、自動車エンジンルーム内で使用されるラジエータタンク等の耐不凍液性が必要な部品には使用できなくなり好ましくない。ここでいうロングライフクーラント(LLC)とはエチレングリコールを主成分とした不凍液である。
【0041】
本発明では、ポリアミド樹脂組成物の機械的強度を向上させるために無機充填剤(d)を配合することが好ましい。本発明で用いる無機充填材(d)としては、特に限定されるものではないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填材を使用することができる。具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状、ウィスカー状充填材、ワラステナイト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、モンモリロナイト、合成雲母などの膨潤性の層状珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラス・ビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウムおよびシリカなどの非繊維状充填剤が挙げられる。上記充填材中、ガラス繊維および導電性が必要な場合にはPAN系の炭素繊維が好ましく使用される。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記の充填材は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する上記の充填材はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤および膨潤性の層状珪酸塩では有機化オニウムイオンで予備処理することは、より優れた機械的強度、耐不凍液性を得る意味において好ましい。また、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被膜あるいは集束されていてもよい。
【0042】
上記の無機充填材(d)の配合量は、本発明のポリアミド樹脂組成物100重量部に対し、0.5〜100重量部であることが好ましい。より好ましくは5〜80重量部である。配合量が0.5重量部に満たないと強度が不足するので好ましくなく、一方配合量が100重量部を越えると成形加工時の流動性が損なわれるので好ましくない。
【0043】
また、本発明の水回り部材用ポリアミド樹脂組成物には、長期耐熱性の向上や熱安定性を保持させるために耐熱安定剤および酸化防止剤を含有せしめることが好ましい。かかる耐熱剤および酸化防止剤としては、銅化合物およびフェノール系、リン系化合物の中から選ばれた1種以上の酸化防止剤を含有せしめることが好ましく用いられる。銅化合物の具体的な例としては、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅および前記無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2ーメルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールなどの錯化合物などが挙げられる。なかでも1価の銅化合物とりわけ1価のハロゲン化銅化合物が好ましく、酢酸第1銅、ヨウ化第1銅などを特に好適な銅化合物として例示できる。銅化合物の添加量は、通常ポリアミド樹脂100重量部に対して0.01〜2重量部であることが好ましく、さらに0.015〜1重量部の範囲であることが好ましい。添加量が多すぎると溶融成形時に金属銅の遊離が起こり、着色により製品の価値を減ずることになる。本発明では銅化合物と併用する形でハロゲン化アルカリを添加することも可能である。このハロゲン化アルカリ化合物の例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができ、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
【0044】
フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物が好ましく用いられ、具体例としては、トリエチレングリコール−ビス[3−t−ブチル−(5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが挙げられる。
【0045】
中でも、エステル型高分子ヒンダードフェノールタイプが好ましく、具体的には、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが好ましく用いられる。
【0046】
次にリン系酸化防止剤としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビスフェニレンホスファイト、ジ−ステアリルペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリフェニルホスファイト、3,5−ジーブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステルなどが挙げられる。かかる耐熱安定剤および酸化防止剤の配合量は、耐熱改良効果の点から熱可塑性樹脂組成物の合計100重量部に対して、0.01重量部以上、特に0.02重量部以上であることが好ましく、成形時に発生するガス成分の観点からは、5重量部以下、特に1重量部以下であることが好ましい。また、フェノール系及びリン系酸化防止剤を併用して使用することは、特に耐熱性、熱安定性、流動性保持効果が大きく好ましい。
【0047】
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、PPS樹脂以外の樹脂を添加することが可能である。但し、本発明のポリアミド樹脂組成物全体100重量部に対して30重量部を超えるとポリアミド樹脂本来の特徴が損なわれるため好ましくなく、特に20重量部以下の添加が好ましく使用される。
【0048】
樹脂の具体例としては、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリアレキレンオキサイド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
【0049】
また、改質を目的として、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、他の重合体を添加することができる。
【0050】
本発明のポリアミド樹脂組成物を得る方法としては、特に制限はないが、溶融混練において、たとえば2軸押出機で溶融混練する場合にメインフィーダーからポリアミド樹脂およびPPS樹脂を供給し、無機充填材を押出機の先端部分のサイドフィーダーから供給する方法や事前にポリアミド樹脂を溶融混練した後、無機充填材と溶融混練する方法などが挙げられる。また、押出温度については、通常、ポリアミド樹脂やPPS樹脂の融点より5〜50℃高い温度範囲から選択され、スクリュー回転数としては本発明のモルホロジーを得る上で150rpm以上が好ましく、更には200rpm以上が好ましい。また、本発明のモルホロジーおよび分散相の粒径を上述の如くコントロールするためには、押出時の混練エネルギー(吐出量あたりの押出機仕事量(kW/(kg/h)))を大きくすることが必要である。これによって分散相の微分散化を行うことができる。好ましい混練エネルギーは、0.2以上であり、特に好ましくは0.3以上である。しかしながら、通常混練エネルギーを大きくするとせん断による発熱で樹脂温度が上昇し、ポリアミド樹脂やポリオレフィン樹脂の熱分解を引き起こし、目的の相分離構造を形成することが困難となる。そのため押出時の樹脂温度は250℃〜320℃にすることが好ましく、280℃〜310℃にすることが更に好ましい。このように混練エネルギーと樹脂温度を制御することにより、目的の樹脂相分離構造を形成することが可能となる。
【0051】
本発明で言う水回り部材とは、自動車エンジンルーム内部品であるラジエータタンクや床暖房を行うフロアーヒーティングや寒冷地での路面の凍結を防止するロードヒーティングシステム等のいわゆる「ヒートシステム法」に用いられるパイプ状配管に代表される温水やエチレングリコールやプロピレングリコール等の多価アルコールを含む水溶液(不凍液)との接触下に配置される部材である。このような多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、へキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等があげられ、いずれも効果が認められるが、その中でもエチレングリコールやプロピレングリコールが好適に使用できる。
【0052】
本発明の水回り部材は公知の方法で賦形でき、その成形方法に関しても制限はなく射出成形、押出成形、吹込成形、プレス成形等を利用することができる。中でも射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形から選ばれる一方法を採用することが生産性に優れ工業的に本発明を実施する上で好ましい。また、成形温度については、通常、ポリアミド樹脂やPPS樹脂の融点より5〜50℃高い温度範囲から選択され、一般的には、単層であるが、2色成形法により多層にしてもかまわない。
【0053】
本発明の水回り部材は、その優れた耐不凍液性からタンク、パイプやポンプ筐体、バルブ、フランジなどに好ましく用いることができ、その中でも特に、パイプとして好適に用いることができる。
【0054】
本発明の温水循環装置とは不凍液を30〜60℃に調整し、パイプを通して循環させる装置のことをいう。本発明の温水循環装置は熱源により加熱される熱交換器と温水を貯溜する貯溜タンクと温水を強制循環させる循環ポンプからなり、それぞれがパイプにより接続されることにより、温水を循環させ、これにより、床下や道路下を一定の温度に保つことができる。
【0055】
また、例えば、フロアーヒーティングやロードヒーティング等の温水循環装置の管路には、温水もしくはエチレングリコールなどの多価アルコールを含む水溶液を循環させるものであるが、本発明の温水循環装置は、30℃〜120℃に調整させた多価アルコールを含む水溶液、または30℃〜90℃に調整された水が通されていることが好ましい。多価アルコールを含む水溶液は、不凍液としての効果を有するため寒冷地で使用する温水循環装置として好適に使用できる。
【0056】
さらに、本発明における温水循環装置は、上記のように作製されたパイプが地中に埋設されるとともに、その埋設部の地表面がアスファルト処理されたロードヒーティングシステムに好適に使用できるものである。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0058】
(1)材料強度
以下の標準方法に従って測定した。
引張強伸度 :ASTM D638
【0059】
(2)耐熱性
荷重たわみ温度をASTM D648に従って測定した。
【0060】
(3)耐不凍液性
ロングライフクーラント(LLC)50%水溶液中でASTM1号ダンベル片を130℃/1000時間処理した後の引張強度および強度保持率を測定し、耐不凍液性の目安とした。
【0061】
(4)モルホロジー
射出成形機(住友重機社製SG75H−MIV)を使用し、シリンダー温度300℃、金型温度80℃により成形したASTM1号ダンベル片の成形表面より500nm内部から80nmの薄片を切削し、透過型電子顕微鏡で倍率1000倍にて観察し、以下のように評価した。
○:図1記載のようにポリアミド樹脂組成物が連続相形成場合。
×:ポリアミド樹脂組成物が連続相を形成しない場合。
【0062】
(5)分散粒径
分散相の分散粒径は以下の要領で測定した。住友重機社製SG75H−MIVを使用し、シリンダー温度300℃、金型温度80℃により射出成形したASTM1号ダンベル片の成形表面より500nm内部から80nmの薄片を切削し、透過型電子顕微鏡で倍率1000倍にて観察して得られた写真を画像処理ソフト「Scion Image」を用いてフーリエ変換し、得られる逆空間像を円平均して得たプロファイルよりDebyeプロットを行うことで直線を得ることができる。この直線を高分子濃厚溶液の濃度ゆらぎに関するOrnstein-Zernik型の式(1)とみることで、このプロットの傾きとy切片から密度ゆらぎの相関長ξを求め、その相関長ξと分散相の体積分率φより式(2)に従い比表面積を算出して、更に式(3)を用いて平均粒径として算出した。
【0063】
【数1】

【0064】
【数2】

【0065】
【数3】

【0066】
(6)水回り部材の外観
水回り部材として、外径17mm、肉厚2mm、長さ500mmのパイプを押出加工にて成形し、その長手方向に沿う外観を目視観察した。
○:外観にザラ付きみられない。
×:外観にザラ付きがみられる。
【0067】
(7)水回り部材の耐熱性
路盤上の溶接金網(ワイヤーメッシュ:4mmφ、15cm×15cm)を埋設し、その上に、水回り部材として押出成形にて成形された外径17mm、肉厚2mmのパイプを設置後、160℃に加熱したアスファルト(密粒度(13))を厚さ50mmとなるように打設した。その後、アスファルト舗装を掘り起こし、パイプの外観(変形、破損の有無)にて耐熱性を評価した。
○:外観に変形、破損がみられない。
×:外観に変形、破損がみられる。
【0068】
(8)水回り部材の耐不凍液性
水回り部材として成形された、外径17mm、肉厚2mm、長さ300mmのパイプをロングライフクーラント(LLC)50%水溶液に浸漬させ130℃/1000時間処理し、パイプ表面のクラック発生の有無により、耐不凍液性の評価を行った。
○:パイプ表面にクラックがみられない。
×:パイプ表面にクラックがみられる。
【0069】
実施例1〜7、比較例1〜7
表1に示すようにポリアミド樹脂と他の樹脂を混合し、日本製鋼所社製TEX30型2軸押出機(スクリュー混練部に低発熱混練エレメントを導入、比較例4〜6はスクリュー混練部に従来のニーディングディスクを導入)のメインフィーダーから供給し、無機充填材を供給する場合は、シリンダー途中のサイドフィーダーを用いて供給する方法で混練温度300℃、スクリュー回転数200rpmで溶融混練を行った。得られたペレットは(1)〜(8)の各項目について評価した。評価結果は表1に示すとおりであった。
【0070】
本実施例および比較例に用いたポリアミド樹脂(a)は以下の通りである。
(A−1):融点265℃、98%硫酸1g/dlでの相対粘度2.90のナイロン66樹脂。
(A−2):融点265℃、98%硫酸1g/dlでの相対粘度3.30のナイロン66樹脂。
(A−3):融点225℃、98%硫酸1g/dlでの相対粘度2.80のナイロン6樹脂。
【0071】
同様に、ポリオレフィン(b)は以下の通りである。
(B−1):融点160℃、MFR=0.5g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度0.910g/cmのポリプロピレン樹脂100重量部と無水マレイン酸1重量部とラジカル発生剤(パーヘキサ25B:日本油脂製)0.1重量部をドライブレンドし、シリンダー温度230℃にて溶融混練して得られた樹脂。
(B−2):融点160℃、MFR=0.5g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度0.910g/cmのポリプロピレン樹脂100重量部と無水マレイン酸0.5重量部とラジカル発生剤(パーヘキサ25B:日本油脂製)0.05重量部をドライブレンドし、シリンダー温度230℃にて溶融混練して得られた樹脂。
【0072】
同様に、PPS樹脂(c)は以下の通りである。
(C−1):融点280℃、MFR=200g/10分(315.5℃、5kg荷重)のPPS樹脂。
(C−2):融点280℃、MFR=100g/10分(315.5℃、5kg荷重)のPPS樹脂。
【0073】
同様に、無機充填材(d)は以下の通りである。
(D−1):ガラス繊維、(日本電気硝子(株)製T―747GH)
【0074】
同様に、相溶化剤は以下の通りである。
(相溶化剤):3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン製KBE−9007)
【0075】
【表1】

【0076】
実施例1〜7および比較例1〜7との比較より明らかなとおり、ポリアミド樹脂中にポリオレフィン樹脂およびPPS樹脂を特定の分散状態(ナノメートルオーダー)で分散させたポリアミド樹脂組成物を用い、必要に応じ無機充填剤を配合した本発明の樹脂組成物は、高い機械的強度、耐熱性の優れた特性と、良好な耐不凍液性を兼ね備えたものであり、水回り部材用として好適なものであった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】ポリアミド樹脂が連続相を形成し、ポリオレフィン樹脂およびPPS樹脂が分散するモルホロジーのモデル図である。
【符号の説明】
【0078】
1.ポリアミド樹脂
2.ポリオレフィン樹脂
3.PPS樹脂
4.無機充填剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(a)40〜90重量%、ポリオレフィン樹脂(b)1〜40重量%、およびポリフェニレンスルファイド樹脂(c)1〜40重量%から構成される樹脂組成物であって、該樹脂組成物中に電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造において、ポリアミド樹脂(a)が連続相、ポリオレフィン樹脂(b)およびポリフェニレンスルファイド樹脂(c)が分散相を形成し、ポリオレフィン樹脂(b)およびポリフェニレンスルファイド樹脂(c)がそれぞれ1〜200nmの分散粒径で分散する樹脂相分離構造を有することを特徴とする水回り部材用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂(a)がナイロン66であることを特徴とする請求項1記載の水回り部材用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂(b)がポリプロピレンであることを特徴とする請求項1または2記載の水回り部材用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記水回り部材用ポリアミド樹脂組成物100重量部に対して、無機充填剤(d)0.5〜100重量部含有してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水回り部材用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水回り部材用ポリアミド樹脂組成物からなることを特徴とする水回り部材。
【請求項6】
射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形から選ばれる少なくとも一種の方法で成形されることを特徴とする請求項5記載の水回り部材。
【請求項7】
前記水回り部材がパイプであることを特徴とする請求項5または6記載の水回り部材。
【請求項8】
請求項7記載のパイプにて構成される管路に水もしくは多価アルコールを含む水溶液が通されていることを特徴とする温水循環装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−348107(P2006−348107A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173637(P2005−173637)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】