説明

耐久性のある黒鉛体及びその製造方法

【課題】 苛酷な作業環境において極めて耐久性のある電極又は炉のライニング材等の黒鉛体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 200×200×200mmを超え又は直径200mm×長さ200mmを超える寸法を有し、200ppm以下の灰分含量を有する黒鉛体。グリーン体を形成し、このグリーン体を炭化し、所望により一以上の緻密化工程を実施し、得られた炭素体を最後にハロゲンベースの黒鉛層間化合物を含有するLWG炉で黒鉛化工程に付する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苛酷な作業環境において極めて耐久性のある電極あるいは炉のライニング材などの黒鉛体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク炉、アルミニウム電解質、炭素熱シリコン製品や高炉用のライニングなどの大容量の全面的に又は部分的に黒鉛化された製品は、苛酷な作業環境において種々の侵食処理にさらされることがある。
【0003】
アルミニウム製造用のホールエールセルでは、陰極材料の有効寿命は4年から10年、不利な条件下ではそれ以下である。陰極材料の劣化は、機械的並びに化学的侵食の結果である。機械的侵食は陰極表面におけるスラッジ粒子の磨耗を生じる動きに起因する。化学的侵食は、電解質や液体アルミニウムの浸透並びにナトリウムのインターカレーションに起因し、この結果陰極材料やラミング混合物の膨潤や変形が生じる。また、炭素の代わりに黒鉛を使用することにより可能となったより高い電力密度によるアウミニウム溶解窯の高い生産性は、黒鉛陰極材料の高い磨耗率によりいささか減じられている。
【0004】
磨耗を減少するための配合剤やコーティングを陰極材料に設ける種々の提案がなされている。この種の提案の多くはホウ化チタン及び/又はその他のチタン配合物に基づいている。炭素材料又は炭素体の表面にこの種の異物質を入れることは、しかし炭素と埋め込まれた配合物との間の界面に付加的な多孔性を与えやすく、配合物自体が炭素の消耗の触媒となることがあり得る。付加的な多孔性や触媒作用が相俟って、いったん高温の電解浴のコーティングにクラックが生じると、炭素体の磨耗率が高められる。
【0005】
炭素製の耐火煉瓦は高炉のライニングとして使用される。この耐火煉瓦は耐火粘土と比べて熱伝導率が良く、スラグ侵食抵抗も高い。しかしながら、その寿命はある種の用途には満足できるレベルには達していない。高炉内における炭素耐火ライニングのダメージの原因は、溶融鉄への浸炭溶解、孔中への溶融鉄の浸透に伴う構造的な破損、温度変動、アルカリ及び亜鉛蒸気の浸透及びその作用によるクラックの形成や、熱応力によるクラックの形成にある。炭素耐火煉瓦の磨耗はさらに炭素材料に含まれている種々の金属不純物により加速される。
【0006】
黒鉛のもっとも重要な使用例の一つはスチールのアーク溶融用の電極である。電気アークスチール炉の運転中黒鉛電極は、特に超高電力炉など極めて高品質の黒鉛だけが使用できるような苛酷な機械的、化学的及び電気的ストレスを被る。電極は溶融状態のスクラップや大交流電流に起因するインダクタンスにより機械的ストレスを受け、さらに上部電極部分の比較的低い温度から炉の下側で沈んでいる電極チップの3,000℃以上の黒鉛昇華温度に達する温度により酸化されやすい。
【0007】
黒鉛はもっとも不活性で反応しにくい材料として知られているが、酸化は強度の劣化や電気アーク炉における極めて高い温度での材料の損失の極めて重要な原因となっている。深刻な酸化は、高温の金属溶融物に沈められる前に空気中にさらされる電極の上部部分に起り得る。
【0008】
従って酸化反応の抑制は、電極の消耗を減ずるのに極めて有利である。この抑制は、直接酸化の減少及び酸化により生ずる電極の強度損失による破損の減少を招く。従って特許文献1及び特許文献2に記載された酸化抑制手段は、多年に亘り黒鉛電極の製造業者に利用されてきた。しかしこれらの手段は、過去において電極における酸化抑制が乏しいこと、電極ホルダの腐食の増大、電極とそのホルダ間の非導電膜の存在による電極と電極ホルダ間のアークの発生などを含む種々の処理上の欠陥により不満足なものであった。
【0009】
黒鉛電極の酸化を減少する別の試みは主として金属又は金属合金からなるコーティングの使用である。かかるコーティングは特許文献1及び特許文献3に記載されている。この場合の難点は、特に近年の特許出願で提案されているマルチコーティングに要する付加経費だけでなく、コーティングのクラックや電極を保持する接触クランプにおける付着現象などの技術的欠点にある。
【0010】
炭素又は黒鉛電極の別の重要な使用例は、二酸化ケイ素のケイ素金属への炭素熱還元である。このプロセスは主として閉鎖型直流サブマージアーク炉を使用する。還元反応全体はSiO2+2C=Si+2COで表される。このプロセスにおいて非晶質炭素が炉に連続的に供給され、炭素をベースとする電極はゆっくり消費されるだけであり、長期間に亘り酸素の豊富な炉雰囲気にさらされる。電極の寿命を含むこのような炉の生産性向上の要求が高まっている。それゆえ特に鉄の金属不純物の少ない二酸化ケイ素の炭素熱還元のため、また高い酸化抵抗のため部分的に黒鉛化された電極に対する需要が増大している。
【0011】
電極体は黒鉛化する前に非晶質炭素、即ちコークス及びバインダーピッチから形成され、従来例により予め700℃から1,100℃で焼かれる(炭化される)。通常この工程に続き、更なる焼付け工程を伴うピッチ含浸が行なわれる。この緻密化は数回繰り返すことが出来る。最終的な熱処理工程、即ち黒鉛化は2つの異なる主プロセス技術で実施される。
【0012】
アチソン黒鉛化プロセスはもともと特許文献4に記載されている。炉は、耐火金属からなる水平床、炉に負荷電流を供給する炉ヘッド、コンクリートブロックからなる長い側壁、スチール層又はスチール格子からなる。底には空気で冷却され絶縁材料、即ち粒状の炭化ケイ素,冶金用コークス,砂又はおが屑からなる層が施される。同じ材料は炉の側壁及び表面の絶縁用に使用される。カーボンブラックは、特に黒鉛製品に灰分が少ないことが望まれる場合(熱精製)には絶縁材料として使用される。黒鉛化された炭素体は、通常電流の流れに対し水平又は垂直に炉ヘッド間に積層される。黒鉛体は互いに分離され、粒状抵抗媒体、即ちコークス混合物によって囲まれる。
【0013】
アチソン炉は、あらゆる形態及び等級の黒鉛化によく適した堅牢な構造物である。しかし1回の黒鉛化に必要な約2〜6週間の長い加熱及び冷却時間、比較的高いエネルギー需要、1平方メートルあたりの比較的低い生産率、製品の非均一性や放出制御の困難性が不満足な点である。
【0014】
長大黒鉛体の生産技術は、アチソン炉から直流電流によるキャストナー又は長大黒鉛化(LWG)プロセスに発展している。長大寸法という用語は一般に約200×200×200mm又は直径200mm×長さ200mmの寸法を持つ黒鉛体に関する。
【0015】
LWGプロセスを実施するための最初の装置は特許文献5に記載されている。現在では高炉用のアルミニウム電解質又は炭素ライニングのための陰極体をLWGプロセスで黒鉛化することは通常である。旧アチソン技術と比較してこのプロセスは完成体の臨界特性において高い一貫性を与えている。特にブロックからブロックへ、従って各ブロック内において隅から隅まで電気抵抗性が緊密に配布されている。
【0016】
LWGプロセスにおいては、炭素電極体は導電カラムを形成するため端部間(end-to-end)接触状態に置かれており、このカラムはカラムの各端部に電気接続を有する炉において、熱絶縁用パッキング媒体、即ちコーク粒状体で支持及びカバーされている。電流は炭素体のカラムを通って流れ、炭素体を黒鉛化温度、即ちジュール効果により2,500℃から3,500℃に加熱する。LWGプロセスの過程では、非晶質炭素電極は、超大電流、例えば100,000A以上の直流(DC)電流を使用して、3,500℃までの高温で黒鉛に変換される。更に高い加熱率が可能で、従って熱損失は小さくなる。LWGプロセスの通常の実施では炭素電極を黒鉛化する温度(2,500℃〜3,500℃)への加熱期間は例えば2〜8時間であり、その後電流は切られ、黒鉛化された電極は安全に処理できる温度、即ち900℃〜1,100℃に冷却される。
【0017】
約3,000℃の黒鉛化の後も大半の市販の黒鉛製品は若干量の金属不純物を含む。この問題はLWG炉で作られた黒鉛製品に特に当てはまる。なぜなら炭素体は種々の金属不純物を揮発させるのに必要な2,000℃以上の温度に曝される期間が短いからである。
【0018】
この不純物は、か焼コークス、リサイクル黒鉛、コールタール及び石油ピッチなどの原料に発する。不純物のトータル量は燃焼灰で測定して2,000ppmである。灰レベルはいわゆるパッフィング(puffing)を制御するために混合過程で意図的に無機配合物が加えられていればもっと多くなろう。炭素が豊富な環境では多くの金属種はカーバイドのような形で存在し、その多くは極端に安定している。ある種の金属は複合合金のμmサイズの塊の形で最終黒鉛に存在し得る。
【0019】
炭素及び黒鉛の酸化は無機種の存在下に高められることが以前から知られている。Na、V、Fe及びCuなどの元素は活性酸化触媒として作用し得る。それゆえ黒鉛電極の酸化を抑制するには黒鉛材料の不純物、特に酸化触媒として作用する元素を低レベルのものにすることが有利であろう。
【0020】
水又はガス冷却型核融合炉における熱中性子の減速材として純度の高い黒鉛に対する要求は主として1940年代及び1950年代に種々の精製法の開発を生み出した。
【0021】
当時、化学分析用の分光学級の電極の製造用に開発され、アチソン黒鉛化期間中又はそれに続く工程でハロゲンガスのパージを含む精製プロセスは、モノリシックニュークリアブロックに対処するために高められた。塩素はホウ素を除くための有効剤である。1ppm以下のホウ素の除去は四フッ化炭素又はクロロフルオロ炭素によりその場で作られるフッ素により改良される。黒鉛と純フッ素の流体間の反応は極めて激しい。一般に化学的な黒鉛の精製は黒鉛化中金属ハロゲン化物を揮発させる方式に基づいている。
【0022】
特許文献6には、塩素と完全に塩素化された気体状の炭化水素での処理、及びこれに続き温度を高めた上でのアチソン炉における気体状のフッ化剤での処理を組合せた精製法が記載されている。
【0023】
特許文献7にはアチソン炉を使用する精製法が記載されており、ここではカードボード又は木製パネルがパッキング媒体に挿入され、パッキング媒体から発生する蒸気による黒鉛ブロックの汚染を妨げ、またNaFがパッキング媒体に挿入され黒鉛化中フッ素ガスを発生するようにしている。しかしながらフッ素は、NaFの周りのパッキング媒体の温度が1,700℃に達すると解放されるが、その時間までに、精製されるべき炭素体は、1,500℃の最大温度に達してしまい、この温度は、揮発性金属ハロゲン化物を効率よく生成するには低過ぎる。更に、Na不純物が入り込み、製品の中で検出される可能性がある。
【0024】
モノリシック黒鉛減速材ブロックの精製についての要求は衰えてきているが、1990年代の予想では、半導体の分野から質的及び量的なニーズが上昇しつつある。灰分10ppmという最近の典型的な限界は、アチソン炉内の黒鉛部分の高温塩素フラッシュに適合している。
【0025】
黒鉛化の過程で黒鉛を化学的に精製するために最近利用可能な技術は、もっぱらアチソンプロセスを基礎としており、それゆえ主として比較的小さな容量を持つ黒鉛製品に使用される。というのは、大きな黒鉛製品は、より好適な温度プロファイルと生産性問題とに起因して、いまや圧倒的にLWG炉内で黒鉛化されているからである。種々の金属不純物を揮発化するために要求される2000℃を優に超す温度に短時間さらすことの欠点は、部分的な黒鉛化プロセスが適用されるときにより真実味を帯びる。このことは、例えばケイ素の炭素熱還元用電極がそうであるように、完全に黒鉛化することを要求されない炭素体をより短い時間で熱処理した場合を含む。
【0026】
しかしながら、LWGプロセスの短い黒鉛化サイクル時間により、LWG中に化学的精製のためのプロセスを実施することには成功していない。これはさらに、アチソン黒鉛化に典型的な小型から中型の炭素体と比べてLWGに典型的な大型の炭素体を精製することにチャレンジするために妨げられる。それゆえ、LWGプロセスで得られる大型の完全に又は部分的に黒鉛化された製品の多くは不純物レベルが高い。それにもかかわらず、技術的利点及び生産性に鑑み、極めて低い不純物レベルを有する大型の完全に又は部分的に黒鉛化された製品を求める要求は高まっている。
【0027】
本発明の精神における好ましい成果は、できるだけ多数の金属不純物がハロゲンと揮発性ハロゲン化物を形成し、黒鉛化中に炭素体を通って拡散することにある。金属不純物は塩又は電極内の種々の元素の別の配合物の形で多く現れるが、特に鉄は精製すべき対象のもっとも普遍的なものである。この特別な事実は、熱処理中にいわゆるパッフィングを防ぐために、石油コークスに鉄塩を加える通常の実施に関連する。典型的には、鉄(III)酸化物がパッフィング抑制剤としてグリーン混合物に1〜2重量%加えられる。
【0028】
パッフィングとは、常に石油又はピッチコークス中にある程度含まれる窒素又は硫黄の両成分をベースとするガスを迅速に解放することを意味する用語である。迅速な黒鉛化にあたっては、パッフィング効果はもっと強調すべきである。なぜなら黒鉛体におけるクラックの検出を困難にし、運転中に致命的な製造ミスを引き起こすことがあるからである。
【0029】
従って、鉄の添加は、アチソン炉よりもはるかに迅速な加熱工程を有するLWGプロセスにより要求されるが、一方LWGは迅速な加熱サイクルのため十分な精製プロセスを実施できない。この特殊な矛盾点は本発明の重要性を明らかにする。
【特許文献1】独国特許第4136823号明細書
【特許文献2】米国特許第6645629号明細書
【特許文献3】米国特許第4824733号明細書
【特許文献4】米国特許第702758号明細書
【特許文献5】米国特許第1029121号明細書
【特許文献6】米国特許第2734800号明細書
【特許文献7】独国特許第1067416号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明の課題は、上述の問題を解決することにある。
【0031】
即ち、本発明の一つの課題は、灰成分が200ppm以下、特に鉄成分が25ppm以下の長大の完全に又は部分的に黒鉛化された製品を提供することにある。
【0032】
本発明の別の課題は、炭素体の下方の炉中にハロゲンをベースとする黒鉛層間化合物(GIC)を置くことにより、LWGプロセス中に製品を精製する方法を提供することにある。
【0033】
本発明の更に別の課題は、精製プロセスを助成するために黒鉛化すべき炭素体の周りにLWG炉内に黒鉛膜を配置することにある。
【0034】
本発明の更に別の課題は、LWG炉内に黒鉛化すべき炭素体の下側にハロゲンをベースとする黒鉛層間化合物(GIC)を配置し、精製プロセスを助成するため炭素体の周りに黒鉛膜を被覆することにある。
【課題を解決するための手段】
【0035】
この課題は本発明によれば、請求項1に記載の方法及び請求項10に記載の黒鉛体により解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の利点並びに特徴を、添付の図面を参照しつつ以下に詳細に説明する。
【0037】
図1は、長大黒鉛化(LWG)炉1の断面図である。この炉1は、黒鉛化すべき炭素体3を完全に封入し、かつ炭素体3の下に置かれたハロゲンベースの黒鉛層間化合物(GIC)の層4を含んだ冶金用コークスからなるパッキング媒体2で満たされている。図2は、図1の炉と同一構成であるが、GIC層4の下の炉壁を通って水平方向に延びる黒鉛チューブ5を付加的に有する炉を示している。図1と同一の炉配置を図3に示すが、この場合には炭素体3上に近接して黒鉛箔の層6を付加している。図4は、炭素体3の周りをほぼ完全に黒鉛箔6でくるんだ点を除いて図3と同一の炉を示している。
【0038】
最も広範に使用される黒鉛層間化合物(GIC)は、一般にフッ化黒鉛([CFx]n、ここに≧x≧0.5)と呼ばれるフッ化炭素質材料である。この物質は、少量のフッ素を挿入された黒鉛と幾分か区別可能である。何故なら、この物質は、黒鉛面間に挿入されたフッ素原子を有する黒鉛格子内に炭素原子の薄層構造を含んでいるからである。挿入された生成物がその挿入物を自由に放出する温度に加熱するだけでは、フッ素をフッ化黒鉛から簡単に除去することはできない。典型的に、挿入された生成物は、350℃〜400℃の範囲の温度において大部分のフッ素挿入物を自由に放出する。5.9〜8.8Åの層間距離を持つ、2つの別種の混合物からなる混合物と思われるフッ化黒鉛の層間距離は、上記の値の範囲にあり、そして反応温度に依存する。この可変性は、{CF}nが約5.9Åの層間距離、そして{C2F}nが約8.8Åの層間距離を持つと知られているものの、2つの混合物の比率が反応温度に依存していることを示唆する。フッ化黒鉛内のフッ素原子は、共有結合で炭素原子と結合しており、「簡単なフッ素挿入黒鉛」のように隙間内に存在することはない。「簡単なフッ素挿入黒鉛」は、該黒鉛の原材料となった天然の黒鉛より高い導電性を持っている。対照的にフッ化黒鉛は、該黒鉛の原材料となった天然の黒鉛より数桁低い導電率を示す。
【0039】
フッ化黒鉛は、400℃未満では不活性であると考えられる。しかるに400℃以上では脱フッ素化が起る。著しい数の炭素原子がフッ素原子と共に運び出される。ある条件下では、この発熱反応が爆発的に起ると考えられる。何故なら、放出された熱エネルギがCFXの塊を加熱し、反応を促進するからである。放出されるエネルギー量は、化学的な結合が破られる証であり、フッ化黒鉛がフッ素を挿入された黒鉛と全く同一ではないことを示している。理論的に、少なくとも、反応に伴う熱が十分急速に消費されるなら、脱フッ素化率を制御することができる。
【0040】
最近の研究は、10〜15μmの直径を持つフッ化黒鉛繊維が、窒素又は空気の雰囲気内で300℃〜500℃の温度範囲において、ゆっくりとフッ素を放出し得ることを明らかにした。臭素の雰囲気内では、かかる脱フッ素化は350℃以上の温度で起る。この発見は、米国特許第6036934号において、高機能炭素ないし黒鉛繊維を製造するために利用されている。フッ化黒鉛は、より一般的には固体潤滑材或いはリチウム電池の陰極材料として使用されている。フッ化黒鉛は種々の供給元から商業的に入手可能であり、例えば石油コークス、炭素繊維、天然又は合成黒鉛粉末及び膨張黒鉛(expanded graphite)のような種々の炭素質又は黒鉛質原材料から合成可能である。種々の合成法と、フッ化黒鉛の幾つかの特性が、S.Koyamaにより“Z.anorg.allg.Chem.“の540/541(1986)の117〜134頁に纏められている。他のハロゲン、即ち臭素、塩素及びそれらの混合物も、G.Hennigにより“J.Chem.Phyics“20(1952)No.9の1143頁以降に述べられているように、各黒鉛層間化合物の合成のために使用可能である。
【0041】
炭素及び/又は黒鉛製品の製造は一世紀以上にわたって行われており、多くの製造プロセスのバリエーションが存在する。基本的な原理は概略以下のとおりである。
【0042】
第1工程で、炭素体又は黒鉛体を作るための所謂グリーン混合物を、カーボンブラックや炭素繊維のような一般的に使用される添加物を必要に応じて加えたピッチや石油コークスから製造する。更に、この混合物にバインダーピッチを添加する。所望の均質性を得るべく、ピッチと他の成分を、好ましくは約150℃の高温において、強力なミキサーで混合する。この所謂グリーン混合物を約100℃迄冷却し、そしてグリーン体を押し出し、プレス又は振動モールドにより形成する。
【0043】
これらの所謂グリーンブロックを通常の環状炉内に収容し、冶金学的なコークスで覆い、12時間以下にわたり1100℃に加熱する。これらを1時間以内、前記最大温度に保つ。
【0044】
1100℃以下での炭素化中に、炭素体から幾つかの金属不純物が蒸発したが、この温度は残りの不揮発性金属不純物から揮発性の金属ハロゲン化物の生成を助成するには低すぎる。
【0045】
最も注目すべき精製効果は、温度が2500℃及びそれ以上である黒鉛化処理の間に揮発性の金属ハロゲン化物を合成した際に得られる。黒鉛化中のある時間枠内で、ハロゲンガスが炭素体を通って拡散し、揮発性の金属化合物を形成すべく種々の金属不純物を反応せねばならない。工業的な精製の実施における主たる困難性は、金属不純物が比較的大きな寸法の炭素体内に捉えられ、そしてそれらの表面への拡散が遅いことに起因する。そのため、ハロゲン、特にフッ素の充分なソースを炭素体の近傍に設けることは、効果的な精製プロセスのための前提条件である。
【0046】
本発明において、ハロゲンベースのGICは特に優れたハロゲンソースである。前記GICは、隔離媒体として使用される冶金用コークス内の黒鉛化すべき炭素体の下に配置できる。GICがハロゲンと黒鉛のみを含んでいることから、塩陰イオンからの他の金属不純物は含まれていない。LWGプロセスにおいて、炭素体は直接加熱されそして続いて周りを取り囲むパッキング媒体の温度迄昇温する。かくして、ハロゲンは、GICホスト材料がその時点で少なくとも2000℃である高温の炭素体から放射される熱に曝されることで350℃の温度に達した際に、GICホスト材料から解放される。2000℃という温度は、揮発性の金属ハロゲン化物の形成を促進するのに必要な閾値温度である。従って、前記のアチソン黒鉛化プロセスと対照的に、ハロゲンは炭素体が2000℃の閾値に達する以前に解放されることはない。
【0047】
本発明によるLWGプロセスの間に、350℃以上で放出されたハロゲンは2,000℃以上の高温炭素体に到達し、これ等を貫通して拡散しそして蒸発する揮発性の金属ハロゲン化物を形成する。
【0048】
この配置を図1に示す。長大黒鉛化(LWG)炉1は、冶金用コークスからなるパッキング媒体2で満たされ、黒鉛化すべき炭素体3が炉体積のほぼ中心に配置され、そしてハロゲンベースの黒鉛層間化合物(GIC)の層4が炭素体3の下に配置される。
【0049】
GICの所要量は炭素又は黒鉛ホスト材料の特性に依存し、更にGIC内の各ハロゲンの濃度に依存する。ハロゲン濃度が高ければ高い程、コークスに添加すべきGICの量は少なくなる。更に、炉の並びに黒鉛化すべき炭素体の寸法と、所望の精製レベルは重要なパラメータである。一般的に、10〜50kgのハロゲンベースのGICが一度の黒鉛化処理に必要である。GICは、ハロゲン挿入(halogen-intercalated)石油コークス、天然又は合成黒鉛粉末、無煙炭、ピッチ又はPAN系炭素繊維或いは他の一般に知られた炭素材料をベースとするものであってよい。しかしながら、合成黒鉛粉末をベースとするフッ化黒鉛が最善の結果を与えることを見出した。
【0050】
更に、炭素体の下に置かれたGIC層の距離は、LWG炉の構造及び加熱率に大きく依存する。加熱率が高ければ高い程、GIC層を炭素体の近傍に置くべきである。GIC層を炭素体の下に5〜35cmの範囲内で置くことにより最善の結果が得られる。
【0051】
精製プロセスは、炭素体の表面温度が2000℃に到達した際に、黒鉛化体を塩素ガスに曝すことで一層サポートされる。図2は、本発明に従う炉の構成を示す。この炉は、GIC層4の下部の炉壁を通って水平方向に延びる黒鉛チューブ5を備える。塩素ガスは、LWG炉の壁を貫通して水平に延びるチューブの孔を通して放出される。これらの黒鉛チューブ5は、交互に左右の炉壁を貫通して延びるようにするとよい。
【0052】
更に、NaF又は他の適当なフッ化物をGICと混合し、精製をより一層効果的にすべく、黒鉛化体の積層体の下に置くことができる。GICに添加すべきNaFの量は、GICに対し重量比で20%に制限すべきである。
【0053】
本発明の他の実施例においては、図3に示すように、黒鉛箔の層を、1つ或いはそれ以上、LWG炉内の黒鉛化すべき炭素体の積層体の上に置く。図3では、炭素体3上に近接した黒鉛箔6の1層を示している。
【0054】
黒鉛箔は、“SIGRAFLEX”の商標で市販されている。この箔は、膨張天然黒鉛粒子からなり、カレンダ処理により箔状に圧縮されている。この材料は、弾性と不浸透性を併せ持つため、主としてガスケット用に用いられている。本発明では、後者の不浸透性を利用する。LWG炉内での短時間枠内での精製の間に、種々の揮発物が放出され、炉を覆うヒュームフードに近接するフィルタシステムで集められ、濃縮される。この仕事は、揮発物のソースの上方に黒鉛箔を置くこと、即ち通過するヒュームの一部を吸収すべく、炭素体を置くことにより容易となる。黒鉛箔は、数度の黒鉛化処理に使用できる。更に精製を行うべく、塩素ガスが炉を通して放出されると、黒鉛箔は部分的にバリアとして働き、ガスを偏向させ、もって精製効率を改善する。
【0055】
本発明の他の実施例によれば、ハロゲンベースのGICを、上記のように炭素体の下に置き、そして黒鉛箔をほぼ完全に、GIC層の一端から他端に延びるように炭素体に巻き付ける。図4は、この炉配置を示し、黒鉛箔6をほぼ完全に炭素体3の周りに巻き付けている。図示していないが、この炉配置は塩素ガスを放出するための黒鉛チューブを備え得る。
【0056】
黒鉛箔を直接炭素体の頂部に設けるのではなく、黒鉛化炉内で一般的に絶縁材料として使用される冶金用コークスの2cm以下の薄層を、箔を置く前に炭素体の上に設けるとよい。その後、完成した炉は、冶金用コークスで満たされる。 効果は小さくなるものの、黒鉛箔の上述の利用は、アチソン炉内でのハロゲンでサポートされた精製の際に有効である。
【0057】
更に、10〜50wt%の合成黒鉛粉末をグリーン混合物に添加することで、LWG及びアチソン炉内での精製効果を助成できることが解った。何故なら、合成黒鉛はコークスや他の炭素原材料より低い不純物レベルを持ち、より不純な炭素の成分を涸渇させるからである。
【0058】
本発明のプロセスは、同様にして部分的なLWGプロセスに適用可能である。この場合には、炭素体を2,200℃の最高温度に曝す。この際、GICを炭素体に幾分か近接して配置し、他のプロセスパラメータを調整する必要がある。部分的な黒鉛化は、例えば二酸化ケイ素をシリコン金属に炭素熱還元するための電極の製造に使用される。
【実施例】
【0059】
本発明を以下の実施例により、更に説明する。
【0060】
〔実施例1〕
黒鉛化陰極体を下記の手順により作製した。
粒径12μm〜7mmの石油コークス100部を25部のピッチと150℃で強力ミキサー中で10分間混合した。得られた塊(mass)を700×500×3,400mm(幅×高さ×長さ)の寸法を有するブロックに押出した。これらの所謂グリーンブロックを環状炉中に載置し、冶金用コークスで覆い、1,100℃まで10時間加熱した。次に得られた炭化ブロックを、床面が冶金用コークスで覆われており、炭素体の底面下方20cmの距離に位置する粒径50μm〜0.5mmの市販のフッ化黒鉛25kgからなる層を有するLWG炉に載置した。炉中に配列した柱状ブロック(column of blocks)を冶金用コークスの薄い2cmの層で、次いで、炉の全長に亘って伸びる1m幅のロール状SIGRAFLEX(商標)黒鉛箔で覆った。炉容積の残りの部分には、冶金用コークスを充填した。黒鉛化中の精製は、炭素体の表面で測定される温度が2,000℃に達したときに塩素ガスのバックアップを受けた。塩素ガスを、5リットル/hの速度で、LWG炉の長さに沿って伸びる柱状の黒鉛化体の下方に位置する直径5cmの黒鉛管の小孔から、1時間パージした。その後、炉を再び不活性ガス雰囲気下に置いた。LWG炉を吸引系に接続したヒュームフードで覆い、炉を2800℃(炭素体表面温度)に4時間加熱し、その後、電流を切るという黒鉛化過程によって行われた黒鉛化中に揮発する全ての蒸気を、この吸引系でろ過・分析した。
【0061】
〔実施例2〕
塩素による精製のバックアップがないほかは実施例1と同様にして黒鉛化陰極ブロックを作製した。
【0062】
〔実施例3〕
以下の手順に従って黒鉛炉ライニングブロックを作製した:
粒径12μm〜4mmのか焼無煙炭100部を25部のピッチと、シグマ−ブレードミキサー中、150℃で2時間混合した。得られた塊振動成形により700×500×2,500mm(幅×高さ×長さ)の寸法を有するブロックに圧縮した。これらの所謂グリーンブロックを冶金用コークスで覆われた環状炉中に載置し、1,300℃で2時間加熱した。
【0063】
得られた炭化ブロックを次に、床面が冶金用コークスで覆われており、炭素体の底面下方20cmの距離に位置する粒径50μm〜0.5mmの市販のフッ化黒鉛25kgからなる層を有するLWG炉に載置した。炉中に配列した柱状のブロックを冶金用コークスの薄い2cmの層で、次いで、炉の全長に亘って伸びる1m幅のロール状SIGRAFLEX(商標)黒鉛箔で覆った。炉容積の残りの部分には、冶金用コークスを充填した。LWG炉を吸引系に接続したヒュームフードで覆い、炉を3000℃(炭素体表面における温度)で4時間加熱し、その後、電流を切るという黒鉛化過程によって行われた黒鉛化中に揮発する全ての蒸気を、この吸引系でろ過・分析した。
【0064】
〔比較例1〕
GICを添加せず、また、塩素ガスパージのための他の精製バックアップ手段を使用せず、黒鉛箔を使用しないほかは、実施例1及び2と同様にして黒鉛化陰極ブロックを作製した。
【0065】
〔比較例2〕
GICを添加せず、黒鉛箔を使用しないほかは、実施例3と同様にして、黒鉛炉ライニングブロックを作製した。
【0066】
上記実施例の炉ライニングブロックの陰極ブロックの特性を、特にその灰分含量について、また、特にその鉄分残渣について分析した。その結果を表1に纏めた。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から分かるように、この発明に従って適用された精製手段によれば、100ppmより充分に低い灰分含量と僅かに10ppm未満の残留鉄不純分を有する黒鉛化体が得られる。これに対して、比較例1及び2の従来技術による製品は、不純物レベルが非常に高い。実施例1におけるように、更に塩素を使用すると、より純粋な生成物さえ得られる。
【0069】
本発明によって製造された全ての製品は、従来技術により製造された製品と同様の物理的特性を有していた。本発明の製品を、その寿命に関して、産業的に実施されるのと同様の促進寿命試験条件下に試験した。操作条件又は試験条件によるが、その寿命は、従来技術製品より、少なくとも50%長かった。
【0070】
本発明によれば、小寸法の炭素製品に典型的に適用されるアチソン黒鉛化によってこれまでに達成された純度レベルを有する大寸法の黒鉛製品が提供される。
【0071】
本発明の方法は、一般の操作手順の実質的な変更や新設備のための高額投資を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】長大黒鉛化(LWG)炉1の断面図。
【図2】GIC層4の下の炉壁を通って水平方向に延びる黒鉛チューブ5を付加的に有する長大黒鉛化(LWG)炉1の断面図。
【図3】炭素体3上に近接して黒鉛箔の層6を付加付加的に有する長大黒鉛化(LWG)炉1の断面図。
【図4】炭素体3の周りをほぼ完全に黒鉛箔6でくるんだ長大黒鉛化(LWG)炉1の断面図。
【符号の説明】
【0073】
1 長大黒鉛化(LWG)炉
2 パッキング媒体(冶金用コークス)
3 炭素体
4 GIC層
5 塩素パージのための黒鉛管
6 黒鉛箔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリーン体を形成し、このグリーン体を炭化し、得られた炭素体を最後にハロゲンベースの黒鉛層間化合物を含有するLWG炉で黒鉛化工程に付することにより黒鉛体を製造する方法。
【請求項2】
ハロゲンベースの黒鉛層間化合物層を炭素体の下方5〜35cmの間に載置する請求項1記載の方法。
【請求項3】
10〜50kgのハロゲンベースの黒鉛層間化合物を使用する請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ハロゲン挿入石油コークス、天然若しくは合成黒鉛粉、無煙炭、ピッチ若しくはPAN系炭素繊維、又は他の一般的に知られている炭素材料に基づく黒鉛層間化合物を使用する請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
合成黒鉛粉に基づくフッ化黒鉛を使用する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
黒鉛層間化合物に対して20重量%未満のNaFを添加する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
体表面で測定される温度が2,000℃に達したときに、炭素体を塩素で処理する請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
炭素体を炭素体の上方1〜2cmの距離において炭素体を黒鉛箔で覆い、黒鉛箔と炭素体との間の空間にパッキング媒体を充填する請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
炭素体を黒鉛層間化合物層の一端から他端まで伸びる黒鉛箔で殆ど完全に覆い、黒鉛箔と炭素体との間の空間にパッキング媒体を充填する請求項8記載の方法。
【請求項10】
200×200×200mmを超え又は直径200mm×長さ200mmを超える寸法を有し、200ppm以下の灰分含量を有する請求項1によって得られる黒鉛体。
【請求項11】
鉄含量が25ppm以下である請求項10記載の黒鉛体。
【請求項12】
10〜50重量%の第二の黒鉛粉を含有する請求項10又は11記載の黒鉛体。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれかに記載の黒鉛体を電気アーク炉の電極、アルミニウム電気分解の陰極、高炉のライニングブロック、又は炭素熱還元法の電極として使用することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−169103(P2006−169103A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361974(P2005−361974)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(501090803)エスゲーエル カーボン アクチエンゲゼルシャフト (47)
【Fターム(参考)】