説明

耐候性に優れた畳縁地及び畳縁

【課題】畳縁に注目して、上記の目的のために、更なる劣化防止を施した、耐候性に優れた畳縁地や畳縁を開発する。
【解決手段】耐候剤として、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物を用いた耐候剤含有のポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維織糸から織成して畳縁地又は畳縁とする。また、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物に加えて、その他の熱安定剤、耐光安定剤としてその他の紫外線吸収剤、酸化防止剤から選ばれた1種又は2種以上の混合物を併用添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性の優れた畳縁地及び畳縁に関する。更に詳しくは、耐候剤含有合成繊維織糸から織成してなる畳縁地及び畳縁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の合成繊維製畳縁は、特に、アパート、マンションなどでよくみられる現象であるが、空室になって窓のカーテンが外され、直射日光に長時間曝されるような場所にある畳縁は、太陽熱や紫外線により劣化して変色したり、場合により強度劣化で繊維が分解して剥離したりしてしまう現象が生じていた。こうした状態が散見するにも拘わらず、これまで特別な対策がなされていなかった。
【0003】
住環境を快適にするため、畳縁の処理に注目したものが、特許文献1,2に見られる。すなわち、バクテリア、カビ、ダニ等の有害物の発生や繁殖を効果的に抑制し、快適な住環境を整えるために、合成繊維糸に無機系抗菌剤を練込んだり、織り込んだ合成繊維糸の間に無機系抗菌剤を保持させたりしている。上記無機系抗菌剤としては、銀、銅または亜鉛などの金属イオンをイオン交換により担持するゼオライト固体粒子である。
【0004】
畳縁地としては、ポリエステル糸又はナイロン糸の風合のよさと、ポリプロピレン糸やポリエチレン糸又はナイロン糸の硬さと防汚性のよさとをこれらの交織によって合わせ持つものとし、抗菌剤の保持性のよい方法としてポリオレフィン樹脂に抗菌剤を練り込んで抗菌性を付与し、撥水性はポリオレフィン糸自体の撥水性に加え撥水処理したポリエステル糸が受け持ち、全体として抗菌・撥水性を兼備した畳縁地に対し、抗菌剤は有機系では、ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)亜鉛、無機系ではゼオライト、ヒドロキシアパタイト、シリカゲルなどが使用されている。
【0005】
この他、合成繊維に各種の機能性を付与することは種々試みられており、例えば、原料樹脂に酸化防止剤、安定剤、加工助剤、抗微生物剤、防炎加工剤、オゾン劣化防止剤、汚れ防止剤、しみ防止剤、帯電防止添加剤、平滑剤、溶融粘度向上剤、又はこれらの混合物を適宜添加することは、広くなされている。例えば、特許文献3にはポリプロピレン繊維の原料樹脂材料にラクトン系熱安定剤とリン系安定剤とフェノール系酸化防止剤との混合物である耐熱安定剤を用いると好適であることが記載されている。また、特許文献4には、プロピレンの重合反応に際し、リン系酸化防止剤、ヒンダードアミン系耐候剤あるいは飽和ジアルキルヒドロキシルアミン系化合物の存在下に行なうことが記載されている。これは、そのプロピレン系ブロック共重合体組成物を自動車用成形物に用いた場合、剛性や耐熱変形性に優れると共に、低温での耐衝撃性に優れ、滅菌処理後においても延性破壊に対する良好な耐性を示すと共に意匠性を損ない難い良好な変色耐性を有する成形品を与えるため、とある。
【0006】
近年、十分な耐候性を有し、ブリードの少ない耐候剤としてトリアジン系の紫外線吸収剤が提案されている(例えば特許文献5)。これらによれば、トリアジン系の耐候剤は、樹脂との相溶性に問題がなければ、従来の系よりも分子量が大きく、トリアジン骨格がブリードを抑制し、従来よりもブリードが少なく揮発も少ないために長期に亘る紫外線吸収能を保持することが可能であるとのことである。また、特許文献5には、本発明で使用するヒドロキシフェニルトリアジンが、耐候性が高く、屋外等で使用しても劣化等を起こしにくい化粧シート等に好適に使用し得る耐候剤組成物であることの記載が見られる。しかしながら、畳縁用織布として用いた場合に、いかなるものが実際に効果を示すのかの知見はみられなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平11−247415号公報
【特許文献2】特開平11−324286号公報
【特許文献3】特開2002−266158号公報
【特許文献4】特開2003−147156号公報
【特許文献5】特開2006−307142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、従来から合成繊維原料樹脂に酸化防止剤、安定剤、加工助剤、抗微生物剤、防炎加工剤、オゾン劣化防止剤、汚れ防止剤、しみ防止剤、帯電防止添加剤、平滑剤、溶融粘度向上剤、又はこれらの混合物を適宜添加することは公知であるが、実際に、市販の合成繊維を用いた畳縁地から畳縁を織成して耐候性を調べてみると、長期の太陽光線の暴露には耐えられないものである。特に、ポリオレフィン系繊維の場合、周知のように、十分な耐候性が得られていない。
【0009】
本発明は畳縁に注目して、上記の目的のために、更なる劣化防止を施した、耐候性に優れた畳縁地や畳縁を開発したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、市販の合成繊維製造用樹脂に対して、耐候剤として、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物を用いた耐候剤含有合成繊維織糸から織成してなることを特徴とする畳縁地又は畳縁である。市販の耐候剤の含有しない合成繊維織糸や本発明の耐候剤その他の耐候剤含有合成繊維織糸に対しても、これらの表面にヒドロキシフェニルトリアジン系化合物からなる耐候剤による被覆膜を形成した耐候剤被覆合成繊維織糸から織成すると、更に耐候性に優れた畳縁地及び畳縁となる。
【0011】
したがって、ここで用いる耐候剤は、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、又はこれを主体とし、更にその他の熱安定剤、耐光安定剤として紫外線吸収剤、酸化防止剤から選ばれた1種又は2種以上の混合物の併用添加も可能である。
【0012】
耐候剤の合成繊維に対する添加量は0.2〜5重量%の範囲で、好ましい添加量は0.5〜3.5重量%の範囲である。また、耐候剤に加えて熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤の合成繊維に対する添加量は0.1〜3重量%好ましくは0.2〜2重量%の範囲である。これらの添加剤が7重量%を超えても効果は変らず、表面被覆の場合はかえって乾燥や熱処理に長時間を必要とし作業性が大幅ダウンしてしまい、好ましくなく、また、0.2重量%未満であれば、十分な耐候性が得られない。
【0013】
合成繊維はポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維の単独又はこれらの混紡糸が用いられる。
【0014】
例えば、ポリオレフィン繊維の代表例であるポリプロピレン繊維の原料樹脂材料は、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物に加えてラクトン系熱安定剤やリン系安定剤とフェノール系酸化防止剤との混合物で耐熱性を向上させ、更に、安定剤をポリプロピレン樹脂が溶融状態にある時、ポリマー中のラジカルを捕捉することによって、MFR値の上昇(分子量低下)を抑えることができる。特にラクトン系安定剤はラジカルの捕捉のみならず、フェノール系酸化防止剤を再生する働きも有する。
【0015】
更に、ポリプロピレン繊維の原料樹脂材料は、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物に加えて、耐光安定剤として紫外線吸収剤を0.3重量%含有させると良い。紫外線吸収剤としては、一般に使用されるベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系およびシアノアクリレート系等の紫外線吸収剤から任意に選択できる。特に安定剤を0.1〜0.5重量%の範囲で含有することで、より大きな耐熱性向上効果が得られる。より好ましい添加量は0.1〜0.3重量%の範囲である。
【0016】
本発明で用いる耐候剤としてのヒドロキシフェニルトリアジン系化合物の具体的化合物例としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の下記製品(商品名「チヌビン、Tinuvin(登録商標)」)が挙げられる。すなわち、
チヌビン 234, 2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ビス(メチルベンジル)フェノール)ベンゾトリアゾール ;
Tinuvin 234, 2-(2'-hydroxy-3',5'-bis(methylbenzyl)phenol)benzotriazole ;
チヌビン 326, 2-(2'-ヒドロキシ-3'-tert-ブチル-5'-メチルフェノール)-5-クロロベンゾトリアゾール ;
Tinuvin 326, 2-(2'-hydroxy-3'-tert-butyl-5'-methylphenol)-5-chlorobenzotriazole ;
チヌビン 327, 2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ブチルフェノール)-5-クロロベンゾトリアゾール ;
Tinuvin 327, 2-(2'-hydroxy-3',5'-di-tert-butylphenol)-5-chlorobenzotriazole, CAS NO.3864-99-1 ;
チヌビン 328, 2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-アミルフェノール)ベンゾトリアゾール ;
Tinuvin 328, 2-(2'-hydroxy-3',5'-di-tert-amylphenol)benzotriazole ;
チヌビン 329, 2-(2'-ヒドロキシ-5'-テトラメチルブチルフェノール)ベンゾトリアゾール ;
Tinuvin 329, 2-(2'-hydroxy-5'-tetramethylbutylphenol)benzotriazole ;
チヌビン 320, 2-(2H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ブチルフェノール ;
Tinuvin 320, 2-(2H-1,2,3-benzotriazole-2-yl)-4,6-di-tert-butylphenol ;
チヌビンP, (2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェノール)ベンゾトリアゾール)チモール ;
TinuvinP, (2-(2-hydroxy-5-metylphenol)benzotriazole)thymol ;
等である。
【0017】
ポリプロピレン原料樹脂に上記耐候剤のヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、更に必要に応じて紫外線吸収剤等を混合させる方法としては、溶融紡糸直前にポリプロピレン樹脂に耐熱向上の安定剤、及び紫外線吸収剤を添加して溶融紡糸する方法がある。或いは、耐熱性向上の安定剤の分散性を考慮すれば、予め、耐候剤及び紫外線吸収剤をそれぞれ高濃度ポリプロピレン樹脂に3〜30重量%添加したマスターバッチをそれぞれに作成し、ポリプロピレン樹脂のペレットに、所要の含有量となるようにブレンドして溶融紡糸する方法が好ましい。
【0018】
その他、紡糸延伸工程で付与したり、糸にした状態や製織して畳縁地や畳縁にした状態でも付与できる。具体的には、表面噴霧、処理浴剤に浸漬する方法が挙げられる。
【0019】
更に、繊維物性を害さない範囲で、着色顔料、分散剤、蛍光増白剤、艶消剤、滑剤、帯電防止剤、抗菌剤等、他の添加剤を配合してあっても良い。
【発明の効果】
【0020】
ポリプロピレン樹脂は、紫外線吸収剤を添加していても、使用過程で熱、光、空気にさらされると次第に分解し、物理的性質が低下するという欠点がある。この脆化あるいは劣化(老化)を食い止め、最初の性質を保持するために本発明の畳縁地には耐候剤のヒドロキシフェニルトリアジン系化合物を添加する処方が取られる。これによって畳縁にした場合に長期の太陽光暴露による脆化あるいは劣化が防げるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。畳縁地は市販のポリプロピレン糸(繊度;200〜300デシテックスの複合糸を織密度;(縦210本×横63本)/5cm)に織成したものを比較例に用い、下記実施例1〜4に示す本発明に係る畳縁地との耐候性を比較した。耐候性試験は次の方法により行った。
【0022】
キセノン型ウエザオメーターを用いてJIS L1096法に準じて、ブラックパネル温度63℃、槽内温度65℃で、散水条件120分中18分の条件で試験した後、直後、170時間、400時間毎に畳縁織物の表面の変化を顕微鏡撮影するとともに目視で観察をして、表面劣化の状態を観察した。結果を、畳縁に用いたポリプロピレン繊維の耐候性として、各実施例ごと表1に示す。
【0023】
実施例1
ポリプロピレン樹脂ペレットに対し、耐候剤のヒドロキシフェニルトリアジン系化合物としてチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「チヌビン(登録商標)234」)を3重量%加え、溶融紡糸により比較例繊維と同様に耐候剤含有繊維組成物を調製した。この耐候剤含有ポリプロピレン繊維を用いて、比較例同様の畳縁地を作成した。結果は表1に見られるように、400時間の照射にも拘わらず、繊維の表面状態に全く変化が見られず、毛羽立ち劣化がなく極めて良好な耐候性が得られた。
【0024】
実施例2
実施例1と同様の方法により、耐候剤のヒドロキシフェニルトリアジン系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「チヌビン(登録商標)234」)に代えて、他のヒドロキシフェニルトリアジン化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「チヌビン(登録商標)326」)を用い、添加量を1.5重量%以外は同様にして得られたポリプロピレン繊維を用いて、畳縁を作成した。結果は表1に見られるように、実施例1よりも耐候剤の添加量が少ないにも拘わらず、十分な耐候性が得られた。
【0025】
実施例3
実施例1と同様の方法により、耐候剤のヒドロキシフェニルトリアジン系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「チヌビン(登録商標)234」)と、他のヒドロキシフェニルトリアジン化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「チヌビン(登録商標)326」)の1:1混合物を用い、添加量を1.0重量%以外は同様にして得られたポリプロピレン繊維を用いて、畳縁地を作成した。この畳縁地に対し、0.2重量%の含有量となるよう、シアノアクリレート系紫外線吸収剤を添加した。結果は表1に見られるように、実施例1よりも耐候剤の添加量が少ないにも拘わらず、十分な耐候性が得られた。
【0026】
実施例4
実施例1と同様の方法により、耐候剤のヒドロキシフェニルトリアジン系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「チヌビン(登録商標)234」)の添加量を実施例1の1/4以下の0.7重量%に減らす以外は同様にして得られたポリプロピレン繊維を用いて、畳縁を作成した。結果は表1に見られるように、実施例1よりも耐候剤の添加量が少ないにも拘わらず、比較例1に比べて格段に優れた耐候性が得られた。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の結果から明らかなように、本発明で使用するヒドロキシフェニルトリアジン系化合物を添加した畳縁地を用いて畳縁を縫着した畳は長期の太陽光線に曝されても、退化することなく、優れた耐候性を示すものとなっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維製造用樹脂に対して、耐候剤としてヒドロキシフェニルトリアジン系化合物を添加した耐候剤含有合成繊維織糸から織成してなることを特徴とする耐候性に優れた畳縁地及び畳縁。
【請求項2】
合成繊維織糸又は請求項1記載の耐候剤含有合成繊維織糸の表面にヒドロキシフェニルトリアジン系化合物を添加した耐候剤による被覆膜を形成した耐候剤被覆合成繊維織糸から織成してなることを特徴とする耐候性に優れた畳縁地及び畳縁。
【請求項3】
耐候剤に加えて熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤から選ばれた1種又は2種以上の混合物を添加した請求項1又は2いずれか記載の耐候性に優れた畳縁地及び畳縁。
【請求項4】
耐候剤の合成繊維に対する添加量は0.2〜5重量%の範囲である請求項1又は2記載の耐候性に優れた畳縁地及び畳縁。
【請求項5】
耐候剤に加えて熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤の合成繊維に対する添加量は0.1〜3重量%の範囲である請求項3記載の耐候性に優れた畳縁地及び畳縁。
【請求項6】
合成繊維はポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維の単独又はこれらの混紡糸である請求項1又は2のいずれか記載の耐候性に優れた畳縁地及び畳縁。

【公開番号】特開2009−150096(P2009−150096A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327980(P2007−327980)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(397054565)モーリ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】