説明

耐候性及び硬化性に優れる光硬化性プリプレグシート

【課題】硬化性を確保しつつ、耐候性を有する光硬化性プリプレグシートの提供。
【解決手段】本発明に係る光硬化性プリプレグシートは、主剤樹脂(a)及び波長380〜450nmの光によって励起される光重合開始剤(b)を含む光硬化性樹脂組成物層を、光照射面側と貼付面側の両者に有する光硬化性プリプレグシートであって、該プリプレグシートは、波長380nm以下の紫外線を吸収する紫外線吸収剤(c)を含み、かつ、該貼付面側の光硬化性樹脂組成物層の硬化に要する積算光量が、該光照射面側の光硬化性樹脂組成物層の硬化に要する積算光量よりも小さいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性プリプレグシート及びその改良に関する。より詳しくは、本発明は、主剤樹脂に紫外線吸収剤を配合するとともに、貼付面側の層が光照射面側の層よりも少ない積算光量で硬化するよう設計することで、耐候性と同時に硬化性も確保した光硬化性プリプレグシートに関する。
【背景技術】
【0002】
プリプレグシートは、プリント配線板、航空機や自動車、スポーツ用品等の成形材料、土木建築物等の構造補強材、および構造物の被覆固定材として用いられている。特に、紫外線や可視光、近赤外光などの光源で硬化する光硬化性プリプレグシートは、施工性の高さから広く用いられている。中でも、波長400nm前後の近紫外光〜青色光域の光によって硬化する光硬化性プリプレグシートは、人工光の照明下で充分な可使時間を確保でき、しかも、一般に広く流通するブラックライトにより硬化可能なため、成型作業や土木建築作業において広く用いられている。
【0003】
また、ガラス繊維や有機繊維に可視光透過性を有する樹脂組成物を含浸したプリプレグシートは、経時観察を要する構造物の補強や被覆固定に用いられている。
【0004】
以下の特許文献1には、(A)光硬化性繊維強化プリプレグシートの硬化物層、(B)不飽和基含有重合性樹脂、エチレン性不飽和二重結合を有する単量体、及び光硬化剤からなるパテ組成物の硬化物層、(C)プライマーの硬化物層、(D)コンクリート基体の少なくとも4つの層から構成されてなり、前記(A)、(B)、及び(C)層を通してコンクリート基体(D)の表面を視認観察できることを特徴とするコンクリート積層構造体が開示されている。
【0005】
また、以下の特許文献2には、エポキシ系樹脂からなるプライマー層、可視光硬化型ビニルエステル樹脂の層、高密度ポリエチレン2軸メッシュの補強ネット、及び透明なガラスクロスの補強シートからなり、視認性を有するコンクリート補強層の構造が開示されている。
【0006】
これらのプリプレグシートが屋外で使用される場合、紫外線による樹脂の劣化により、補強効果の低下とともに、コンクリート層の経時変化を目視で観察できなくなるという問題が生じる。前記した特許文献1及び特許文献2には、プリプレグシートの施工後、その表面に耐候性を有するトップコート剤を塗布することが開示されている。
しかしながら、かかる工法では工期が増加する上、トップコート剤に含まれる有機溶剤の揮散による作業環境の悪化が懸念される。
【0007】
これらの問題を解決するため、予め紫外線吸収剤をプリプレグシートの樹脂組成物に配合し、樹脂劣化を防止することが行われている。特に、波長350nm以上の紫外線を吸収する紫外線吸収剤は、耐候性向上に効果的である。
しかしながら、これらの紫外線吸収剤の吸収波長は上記のプリプレグシートに用いられる光重合開始剤の吸収波長と一部重複するため、併用による硬化性の低下が問題となる。これは特に、1mm以上の厚みを持つプリプレグシートにおいて顕著である。
【0008】
以下の特許文献3には、紫外線吸収剤を配合した硬化性プリプレグ組成物が開示されている。
しかしながら、前述の硬化性低下の問題は解決されていない。
【0009】
一方、プリプレグシートは、表面硬化性と運搬性を確保するために表裏をポリエチレン等のフィルムで被覆するのが一般的である。
しかしながら、これらのフィルムは施工時に剥がされ廃棄物となるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−272837号公報
【特許文献2】特開2007−2514号公報
【特許文献3】特開2003−286355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、ブラックライトによる硬化性、及び施工前後の下地視認性を確保しつつ、耐候性を有する光硬化性プリプレグシートを提供することである。本発明が解決しようとする課題は、さらに、製造が容易かつ廃棄物の発生を抑制した上記光硬化性プリプレグシートを提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究し、実験を重ねた結果、紫外線吸収剤を配合すると同時に、貼付面側の層が光照射面側の層よりも少ない積算光量で硬化するよう設計することで、耐候性と同時に硬化性も確保した光硬化性プリプレグシートを提供できること、更には該プリプレグシートの表面を予め硬化した構造とすることで廃棄物の抑制が可能であることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]である:
[1]主剤樹脂(a)及び波長380〜450nmの光によって励起される光重合開始剤(b)を含む光硬化性樹脂組成物層を、光照射面側と貼付面側の両者に有する光硬化性プリプレグシートであって、該プリプレグシートは、波長380nm以下の紫外線を吸収する紫外線吸収剤(c)を含み、かつ、該貼付面側の光硬化性樹脂組成物層の硬化に要する積算光量が、該光照射面側の光硬化性樹脂組成物層の硬化に要する積算光量よりも小さいことを特徴とする前記光硬化性プリプレグシート。
【0014】
[2]前記紫外線吸収剤(c)は、前記光硬化性樹脂組成物層の光照射面側に偏在している、前記[1]に記載の光硬化性プリプレグシート。
【0015】
[3]前記紫外線吸収剤(c)が、蛍光増白剤である、前記[1]又は[2]に記載の光硬化性プリプレグシート。
【0016】
[4]前記光硬化性樹脂組成物層の光照射面側表面が硬化されている、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の光硬化性プリプレグシート。
【0017】
[5]前記硬化された光硬化性樹脂組成物層の光照射面側表面は、380nm以下の紫外線を吸収する紫外線吸収剤(c)を含有し、かつ、前記プリプレグシートの硬化後にも剥がされないで残存するフィルムを積層することにより形成されている、前記[4]に記載の光硬化性プリプレグシート。
【0018】
[6]前記硬化された光硬化性樹脂組成物層の光照射面側表面が、離型処理されている、前記[4]又は[5]に記載の光硬化性プリプレグシート。
【0019】
[7]ロール状に巻き取られている、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の光硬化性プリプレグシート。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、プリプレグシートを構成する材料の中に紫外線吸収剤(c)を配合することで該プリプレグシートの耐候性を向上させると同時に、該プリプレグシートの貼付面側の層を光照射面側の層より少ない積算光量で硬化するよう設計することで、紫外線吸収剤(c)の配合により低下した深部硬化性を改善している。
【0021】
更には、該プリプレグシートの光照射面側を予め硬化した状態に製造することで、該光照射面側の保護フィルムを不要とし、施工時の廃棄物の発生量を削減している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中、光硬化性プリプレグシートとは、繊維材やメッシュ材等の補強材に光硬化性樹脂組成物を含浸させ、増粘によってBステージ化したものであって、光照射によって硬化及び接着が可能なものをいう。
本発明の光硬化性プリプレグシートは、繊維材やメッシュ材等の補強材に光硬化性の主剤樹脂及び光重合開始剤を含有する光硬化性樹脂組成物を含浸させ、増粘によってBステージ化したシートであって、紫外線吸収剤を含み、かつ、プリプレグシートの貼付面側の層が光照射面側の層よりも少ない積算光量で硬化するため、耐候性に優れると同時に、光照射によって硬化及び接着させる際、貼付面側まで確実に硬化可能なプリプレグシートである。
【0023】
本発明において、光照射面とは硬化に用いる光源が配置された方の面を指し、貼付面とは付着体に貼り付けられる方の面を指す。含浸とは光硬化性樹脂組成物が補強材の少なくとも一面を覆い、一部は補強材の隙間に保持されていることをいう。また、補強材全体が樹脂に濡れた状態にしてもよい。
【0024】
硬化に要する積算光量は、各層を構成する光硬化性樹脂組成物を一定の厚さの板状に成形し、同一の光源を同じ照度で照射した際、硬化までに要した時間を測定して照度と時間の積で定義する。硬化の判定は赤外分光測定などの分光学的手法や動的粘弾性測定などで行うことができるが、より簡便には押込み硬度や引っかき硬度等の硬度測定によって行うこともできる。硬度は、測定方法や該プリプレグシートを構成する主剤樹脂等によって任意の数値をとり得るが、例えば、エポキシアクリレートとスチレンの混合物を主剤樹脂とした場合、JIS−K−5600−5−4に定義される引っかき硬度(鉛筆法)の測定においてH以上の硬度が発現した場合を硬化と判定することができる。
【0025】
主剤樹脂(a)は、ラジカル活性官能基、カチオン活性官能基又はアニオン活性官能基の内の少なくとも1種を持つモノマー又はオリゴマーであり、例えば、エポキシアクリレートやウレタンアクリレートなどのアクリレート化合物、ポリエン・チオール系化合物、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物などから選択することができるが、以上の例に限定されるものではなく、また一種類の化合物でも、複数の化合物を成分とした混合物として用いることもできる。また、これらの化合物とアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物等の重合性単量体との混合物を用いることもできる。屋外で使用する場合、温度や湿度の影響を受けにくいラジカル硬化系の選択が好ましい。この場合、主剤樹脂として耐候性に優れるエポキシアクリレートが好適に用いられる。
【0026】
波長380〜450nmの光によって励起される光重合開始剤(b)は、ラジカル型開始剤、カチオン型開始剤又はアニオン型開始剤から選択することができる。ラジカル型開始剤として例えば2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドなどのアシルホスフィンオキシド型開始剤、O−アシルオキシム型開始剤、カチオン型開始剤としてオニウム塩化合物、有機金属化合物などを用いることができる。
【0027】
主剤樹脂(a)及び光重合開始剤(b)のいずれも、以上の例に限定されるものではなく、また一種類の化合物でも、複数の化合物を成分とした混合物として用いることもできる。屋外で使用する場合、温度や湿度の影響を受けにくいラジカル型開始剤の選択が好ましい。この場合、フォトブリーチング性を有し厚膜硬化に適したアシルホスフィンオキシド型開始剤が好適に用いられる。
【0028】
前記貼付面側の光硬化性樹脂組成物層の硬化に要する積算光量を、前記光照射面側の光硬化性樹脂組成物層の硬化に要する積算光量よりも、小さくなるように設計することで、プリプレグシートを均一に硬化させることができる。ここで「貼付面側の光硬化性樹脂組成物層の硬化に要する積算光量が光照射面側の光硬化性樹脂組成物層の硬化に要する積算光量よりも小さくなる」とは、光硬化性樹脂組成物層の硬化に要する積算光量が、光照射面側から貼付面側にかけて次第に小さくなるような勾配を持つことも含まれる。
【0029】
貼付面側の層の光重合開始剤の濃度を光照射面側の層の光重合開始剤の濃度よりも高くすることで、光照射面側の層よりも少ない積算光量で貼付面側の層を硬化させることができる。
【0030】
また、光照射面側の層に含有される光重合開始剤として、貼付面側の層に含有される光重合開始剤よりも相対的に平均モル吸光係数εが小さいものを用いることでも、光の吸収を抑制し、貼付面側の層の硬化性を改善することができる。ここで、光重合開始剤の硬化に用いる光源に対する平均モル吸光係数εは、以下の式で定義される:
ε=(cε+…+cε)/(c+…+c)[L/(mol・cm)]
{式中、c[mol/L]は、光硬化性樹脂組成物中の光重合開始剤のモル濃度であり、そしてε[L/(mol・cm)]は、光硬化性樹脂組成物中の照射光に対する光重合開始剤のモル吸光係数である。}。
【0031】
光重合開始剤が単一の光重合開始剤成分からなる場合、平均モル吸光係数εは、該光重合開始剤成分のモル吸光係数に等しい。
【0032】
光重合開始剤成分のモル吸光係数εは、分光光度計で測定することもできるが、シートの硬化に用いる光源が広い波長分布を持つ場合、照度計を用いて照射光の照度I及び透過光の照度Iを、それぞれ、測定し、以下の式から計算することもできる:
ε=(1/cL)・log(I/I) [L/(mol・cm)]
{式中、c[mol/L]は、光硬化性樹脂組成物中の光重合開始剤のモル濃度であり、L[cm]は、透過光路長(光硬化性樹脂組成物層の厚さ)であり、I[W/cm]は、照射光の照度であり、そしてI[W/cm]は、透過光の照度である。}。
【0033】
貼付面側の層の光硬化性樹脂組成物に、光照射面側の層に含有される光重合開始剤と同組成の光重合開始剤を配合した上に、平均モル吸光係数εが該光重合開始剤よりも大きい光重合開始剤成分を更に加えることで、光照射面側の層に含有される光重合開始剤の平均モル吸光係数εを相対的に小さくすることもできる。
【0034】
光重合開始剤の配合量を、主剤樹脂100重量部に対し約0.05〜3重量部とすることで、シート全体の光線透過率を維持しつつ深部の硬化性を改善することができる。
【0035】
プリプレグシートを構成する補強材として、例えば、ガラス、ビニロン、フェノール樹脂、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維、セラミック、金属等の素材からなる織布、不織布、メッシュ、ニット、マット又はこれらの組合せを用いることができるが、これらの例に限定されるものではない。下地視認性を確保するためには、ガラス繊維や有機繊維の補強材が好適に用いられる。またこれらの補強材は、例えば、不織布やマットのような強度に方向性を持たない補強材だけでなく、例えば、繊維の配向や打込みを縦横で変化させた織布等、強度に方向性を持たせた補強材を用いることもできる。更に、補強材を複数枚重ねたり、数種類の補強材を重ねて用いたりすることもできる。光照射面側又は貼付面側の一方の層のみに配置されていてもよく、また各層で異なる補強材を用いてもよい。
【0036】
波長380nm以下の紫外線を吸収する紫外線吸収剤(c)として、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等が用いられるが、以上の例に限定されるものではなく、また一種類の化合物でも、複数の化合物を成分とした混合物として用いることもできる。樹脂劣化を防ぐためには350nm以上の紫外線を吸収する、ベンゾトリアゾール系化合物等が好適に用いられる。
【0037】
紫外線吸収剤(c)は、プリプレグシートの紫外線劣化防止に寄与する形である限り、該プリプレグシートのいずれの構成要素に含まれていてもよい。たとえば光硬化性樹脂組成物の中に含有されていてもよく、繊維補強材に含有されていてもよい。
【0038】
紫外線吸収剤(c)に加え、光安定剤を併用することは樹脂劣化の防止に非常に有効である。光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系化合物が好適に用いられる。また、プリプレグシートの下地視認性を阻害しない範囲で二酸化チタンや酸化亜鉛などの紫外線散乱剤を用いることも樹脂劣化の防止に有効である。
【0039】
また、紫外線吸収剤(c)を光照射面側に偏在させることで、プリプレグシート全体としての紫外線吸収剤(c)の配合量を少量にし、製造コストや物性への影響を小さくすることができる。この場合、貼付面側の光硬化性樹脂組成物層には紫外線吸収剤(c)が含まれなくてもよい。ここで「光照射面側に偏在」とは、紫外線吸収剤(c)がプリプレグシートの貼付面側と比較して光照射面側により多く存在することを指し、光照射面側から貼付面側にかけて次第に濃度が低下するような勾配を持つことも含まれる。光硬化性樹脂組成物層に紫外線吸収剤(c)を含有させる場合、光照射面側に偏在させることで、貼付面側の硬化に要する積算光量を光照射面側の硬化に要する積算光量より相対的に小さくすることができる。
【0040】
更に、紫外線吸収剤として蛍光増白剤を用いることで、紫外線を380〜450nmの可視光に変換し、プリプレグシートの深部硬化に利用することができる。
【0041】
プリプレグシートの光照射面を予め硬化させておくことで、該光照射面側の保護フィルムが不要となる。
【0042】
ここで前記プリプレグシートを、紫外線吸収剤を配合し、かつ施工前後においても剥がさないで残存するフィルムを光照射面に配した構成とすることで、該プリプレグシートに耐候性を簡便に付与し、かつ光照射面を予め硬化した状態に製造することが可能となる。この場合、光硬化性樹脂組成物中に紫外線吸収剤が含まれていなくてもよい。
【0043】
フィルムを構成する樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられるが、これに限定されるものではない。プリプレグシートとの密着性を向上させるため、光硬化性樹脂組成物と接する側にコロナ処理等を行ってもよい。また、フィルムを複層構造とすることで表と裏の密着性に差を持たせてもよい。
【0044】
前記フィルムの光照射面側、すなわち光硬化性樹脂組成物と接していない面にシリコーン加工等の離型処理をしておくことで、プリプレグシートの貼付面側に保護フィルムを用いなくとも、該プリプレグシートを未硬化のまま積層して保管することができる。この時、該未硬化のプリプレグシートをロール状に巻くことで、長尺のまま運搬が容易な形態とすることができる。該未硬化のプリプレグシートは、使用に供するまで硬化に要する波長の光を透過しない袋や金属箔等で覆い、保管することができる。
【0045】
プリプレグシートを構成する光硬化性樹脂組成物には、下地視認性を確保しつつ強度物性や硬化性に悪影響を及ぼさない範囲で、ピレン、ペリレンなどの多核芳香族類、キサンテン類、シアニン類、メロシアニン類、チアジン類、アクリジン類、アントラキノン類、スクアリウム類、アクリドン類、クマリン類等の光増感剤、アセトン、酢酸エチル、トルエン等の溶剤、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物等の重合性単量体、ジエチレングリコールジメタクリレート、N,N′−メチレンビスアクリルアミド等の架橋剤、熱可塑性樹脂粉末やシリカ粉末等の増粘剤、炭酸カルシウム、ベントナイト、マイカ、水酸化アルミニウム等の充填剤、カーボンブラック等の顔料、ヒドロキノン、ニトロソアミン等の重合禁止剤、チオカルバメート、サリチル酸等の金属不活性剤、等の各種添加剤を含有することができる。光照射面側の層と貼付面側の層でこれら添加剤の配合が異なってもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
[光重合開始剤の調製]
2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド50重量%、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン20重量%、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン30重量%を混合し、光重合開始剤(b)を調製した。
【0047】
[光硬化性樹脂組成物(a−1)の調製]
主剤樹脂(a)として、エポキシアクリレート及びスチレンからなる樹脂組成物100量部、架橋剤としてジエチレングリコールジメタクリレート5重量部、増粘剤としてメタクリレートポリマー14重量部、及び重合性単量体としてジアリルフタレート10.5重量部を均一に混合したものに、上記光重合開始剤(b)を、0.25重量部、及び上記光重合開始剤(b)の希釈剤として、重合性単量体のスチレン0.25重量部を添加し、均一に混合することで光硬化性樹脂組成物(a−1)を調製した。光硬化性樹脂組成物(a−1)中での、紫外線蛍光灯(波長320〜400nm、ピーク波長360nm)に対する上記光重合開始剤(b)のモル吸光係数は7.5×10[L/(mol・cm)]であった。
【0048】
[光硬化性樹脂組成物(a−2)の調製]
主剤樹脂(a)として、エポキシアクリレート及びスチレンからなる樹脂組成物100重量部、架橋剤としてジエチレングリコールジメタクリレート5重量部、増粘剤としてメタクリレートポリマー14重量部、重合性単量体としてジアリルフタレート10.5重量部、光重合開始剤として上記光重合開始剤(b)0.25重量部及びビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド0.1重量部、その希釈剤として、重合性単量体のスチレン1.15重量部を添加し、均一に混合することで光硬化性樹脂組成物(a−2)を調製した。光硬化性樹脂組成物(a−2)中での、上記紫外線蛍光灯に対するビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドのモル吸光係数は6.3×10[L/(mol・cm)]であり、全光重合開始剤成分の平均モル吸光係数εは1.9×10[L/(mol・cm)]であった。
【0049】
[プリプレグシートの作製]
紫外線吸収剤を配合したポリエステル製フィルムCの上に、Eガラスロービング1枚(目付450g/m)を重ね、光硬化性樹脂組成物(a−2)を含浸させ、60℃で30分加熱しBステージ化した。得られた構造体の上にEガラスロービング(目付450g/m)を3枚重ね、光硬化性樹脂組成物(a−1)を含浸させた。その後、60℃で30分加熱しBステージ化して、光硬化性プリプレグシートを作製した。シート全体の厚みは2.7mmだった。
【0050】
得られた光硬化性プリプレグシートについて、光硬化性樹脂組成物(a−1)を配置した側から前記紫外線蛍光灯を用いて2000μW/cmの光を20分間照射した。1週間の養生後、硬化の確認のためポリエステル製フィルムCを剥がし、JIS−K−5600−5−4に従って光照射面及び貼付面の引っかき硬度(鉛筆法)を測定したところ、両方の面においてH以上の硬度が発現していた。
【0051】
[実施例2]
[光硬化性樹脂組成物(a−3)の調製]
光硬化性樹脂組成物(a−1)に紫外線吸収剤(c)として2−(2′−ヒドロキシ−3′−t−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール0.1重量部を添加して光硬化性樹脂組成物(a−3)を調製した。
【0052】
[プリプレグシートの作製]
紫外線吸収剤を配合していないポリエステル製フィルムDの上に、Eガラスロービング1枚(目付450g/m)を重ね、光硬化性樹脂組成物(a−1)を含浸させ、60℃で30分加熱しBステージ化した。得られた構造体の上にEガラスロービング(目付450g/m)を1枚重ね、光硬化性樹脂組成物(a−3)を含浸させた。その後、60℃で30分加熱しBステージ化して、光硬化性プリプレグシートを作製した。シート全体の厚みは1.3mmだった。
【0053】
得られた光硬化性プリプレグシートについて、光硬化性樹脂組成物(a−3)を配置した側から前記紫外線蛍光灯を用いて2000μW/cmの光を20分間照射し、その後ポリエステル製フィルムDを剥がした。1週間の養生後、JIS−K−5600−5−4に従って光照射面及び貼付面の引っかき硬度(鉛筆法)を測定したところ、両方の面においてH以上の硬度が発現していた。
【0054】
[実施例3]
[プリプレグシートの作製]
紫外線吸収剤を配合していないポリエステル製フィルムDの上に、Eガラスロービング1枚(目付450g/m)を重ね、光硬化性樹脂組成物(a−2)を含浸させ、60℃で30分加熱しBステージ化した。得られた構造体の上にEガラスロービング(目付450g/m)を3枚重ね、光硬化性樹脂組成物(a−3)を含浸させた。その後、60℃で30分加熱しBステージ化して、光硬化性プリプレグシートを作製した。シート全体の厚みは2.7mmだった。
【0055】
得られた光硬化性プリプレグシートについて、光硬化性樹脂組成物(a−3)を配置した側から前記紫外線蛍光灯を用いて2000μW/cmの光を20分間照射し、その後ポリエステル製フィルムDを剥がした。1週間の養生後、JIS−K−5600−5−4に従って光照射面及び貼付面の引っかき硬度(鉛筆法)を測定したところ、両方の面においてH以上の硬度が発現していた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の光硬化性プリプレグシートは航空機や自動車、スポーツ用品等の成形材料として、土木建築物等の構造補強材として、又は構造物の被覆固定材として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤樹脂(a)及び波長380〜450nmの光によって励起される光重合開始剤(b)を含む光硬化性樹脂組成物層を、光照射面側と貼付面側の両者に有する光硬化性プリプレグシートであって、該プリプレグシートは、波長380nm以下の紫外線を吸収する紫外線吸収剤(c)を含み、かつ、該貼付面側の光硬化性樹脂組成物層の硬化に要する積算光量が、該光照射面側の光硬化性樹脂組成物層の硬化に要する積算光量よりも小さいことを特徴とする前記光硬化性プリプレグシート。
【請求項2】
前記紫外線吸収剤(c)は、前記光硬化性樹脂組成物層の光照射面側に偏在している、請求項1に記載の光硬化性プリプレグシート。
【請求項3】
前記紫外線吸収剤(c)が、蛍光増白剤である、請求項1又は2に記載の光硬化性プリプレグシート。
【請求項4】
前記光硬化性樹脂組成物層の光照射面側表面が硬化されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光硬化性プリプレグシート。
【請求項5】
前記硬化された光硬化性樹脂組成物層の光照射面側表面は、380nm以下の紫外線を吸収する紫外線吸収剤(c)を含有し、かつ、前記プリプレグシートの硬化後にも剥がされないで残存するフィルムを積層することにより形成されている、請求項4に記載の光硬化性プリプレグシート。
【請求項6】
前記硬化された光硬化性樹脂組成物層の光照射面側表面が、離型処理されている、請求項4又は5に記載の光硬化性プリプレグシート。
【請求項7】
ロール状に巻き取られている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光硬化性プリプレグシート。

【公開番号】特開2011−201936(P2011−201936A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67788(P2010−67788)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】