耐力壁及び接合金具
【課題】終局的な破壊にいたるまでに充分な強度を保持したまま大きな水平方向の変位を許容する耐力壁及びこの耐力壁で用いる接合金具を提供する。
【解決手段】土台2と梁5と土台上に立設されて梁を支持する2本の柱3,4とで形成される枠体に2つの筋交い6,7を配置する。2つの筋交いの一端は接合金具20を介して第1の柱3の中間部に接合する。2つの筋交いは上記接合部より斜め上方及び斜め下方に架け渡し第2の柱4と接合する。接合金具は、該接合金具の変形によって二つの筋交いの一端と該筋交いが接合された前記第1の柱とが、該第1の柱の軸線方向へ相対的に変位することを許容する。この接合金具は、鋼板材を折り曲げて形成されており、柱に固定される柱固定部21と筋交いに固定される筋交い固定部24との間に、折り曲げられて柱固定部と対向する折り返し部22を有する。
【解決手段】土台2と梁5と土台上に立設されて梁を支持する2本の柱3,4とで形成される枠体に2つの筋交い6,7を配置する。2つの筋交いの一端は接合金具20を介して第1の柱3の中間部に接合する。2つの筋交いは上記接合部より斜め上方及び斜め下方に架け渡し第2の柱4と接合する。接合金具は、該接合金具の変形によって二つの筋交いの一端と該筋交いが接合された前記第1の柱とが、該第1の柱の軸線方向へ相対的に変位することを許容する。この接合金具は、鋼板材を折り曲げて形成されており、柱に固定される柱固定部21と筋交いに固定される筋交い固定部24との間に、折り曲げられて柱固定部と対向する折り返し部22を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物に設けられ、地震時等における水平力に対して抵抗する耐力壁及びこの耐力壁で用いる接合金具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸組構造の木造建築物では、地震等による水平力に抵抗するために耐力壁が設けられる。耐力壁は、2つの柱と柱の下側及び上側に配置される2つの横架材とで矩形となった枠体に構造用合板等の面材を固着するもの、及び上記枠体内に筋交いを配置したものが広く用いられている。筋交いを用いた耐力壁は、筋交いの一端を上側の横架材と一方の柱との接合部に接合するとともに、他端を下側の横架材と他方の柱との接合部に接合するものが一般的となっている。また、一つの枠体内に2つの筋交いを配置し、2つの筋交いとこれらの筋交いが中間部に接合された柱とがKの字状になる構造の耐力壁が、例えば特許文献1又は特許文献2に記載されている。
【0003】
これらの耐力壁では、二つの筋交いのうちの第1の筋交いは、一端を上側の横架材と一方の柱との接合部に固定し、他端を他方の柱の上下方向における中間部に固定する。そして、もう一方の筋交いである第2の筋交いは、下側の横架材と一方の柱との接合部に一端を固定するとともに、他端を他方の柱の中間部に第1の筋交いと連結して固定する。各筋交いが柱と横架材との接合角部に固定される部分及び柱の中間部に二つの筋交いが固定される部分には固定用の金具が用いられ、筋交いに作用する引張力及び圧縮力を柱又は横架材に伝達するものとなっている。
【0004】
上記のような2つの筋交いと柱とがKの字状に配置される耐力壁では、鉛直方向と筋交いの軸線とのなす角度が大きくなり、筋交いが水平力に対して有効に抵抗するものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−104342号公報
【特許文献2】特開2010−53661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
地震等による水平力が作用したときに、柱と横架材とを用いて構築された軸組構造は水平方向に変形が生じる。つまり、水平力が柱を傾斜させ、柱の上に支持された梁、胴差等の横架材を水平方向に変位させるように作用する。そして耐力壁は、このような水平方向の力に対して充分な強度を備えるように構築される。また、耐力壁は終局的な破壊にいたるまでに充分な強度を保持したまま大きな変位を許容するものであることが望ましい。耐力壁が終局的な破壊までに大きな変位を許容することによってねばり強い構造となり、地震時のように水平力が繰り返し作用するときに急激な破壊が生じるのを回避することが可能となる。
【0007】
木造の軸組構造における耐力壁であって、上記のように筋交いと柱とをKの字状に配置した耐力壁では、終局的な破壊を想定すると、引張力が作用した筋交いが横架材と柱との接合角部から引き離される状態、又は柱の中間部に接合された筋交いの端部が柱に対して上下方向に変位して柱から引き離される状態が考えられる。このような状態にいたるまでに充分な強度を保持したままで、水平方向に大きな相対的な変位を許容する構造が望まれる。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、筋交いと柱とをKの字状に配置した耐力壁であって、終局的な破壊にいたるまでに充分な強度を保持したまま大きな水平方向の変位を許容する耐力壁及びこの耐力壁で用いる接合金具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 ほぼ水平に支持された木製の下部横架材と、 該下部横架材上に間隔を開けて立設された木製の第1の柱及び第2の柱と、 これらの柱上でほぼ水平に支持される木製の上部横架材と、 前記第1の柱の上端から下端までの間の中間部に接合金具を介して一端が接合され、他端は前記接合金具による接合位置より高い位置で前記第2の柱に接合された第1の筋交いと、 前記接合金具を介して一端が前記第1の柱の前記中間部に接合され、他端が前記接合金具による接合位置より低い位置で前記第2の柱に接合された第2の筋交いと、を有し、 前記接合金具は、該接合金具の変形によって二つの筋交いの一端と該筋交いが接合された前記第1の柱とが、該第1の柱の軸線方向へ相対的に変位することを許容するものであることを特徴とする耐力壁を提供するものである。
【0010】
この耐力壁では、地震等によって横架材に水平方向の力が作用すると、2つの筋交いの一方に引張力が作用し、他方の筋交いに圧縮力が作用する。そして、これらの筋交いが柱の中間部に接合されている部分では、筋交いの端部と柱との間に鉛直方向にずれようとする力が作用する。この力に対して、筋交いの端部と柱とを接合している接合金具は、接合金具自体の変形によって筋交いと柱との間の相対的な変位を許容するとともに、接合金具は金属で形成されているために変形しても柱と筋交いとの接合状態を維持する力つまり強度を直ちに失うものではない。したがって、柱と横架材とで形成された枠体は、水平力によって変形した状態で耐力を有し、粘り強い構造となる。また、接合金具に塑性変形が生じることによってエネルギーを吸収し、地震時等の水平力が繰り返し作用するときに振動のエネルギーを吸収して、振動を減衰させる効果が得られる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の耐力壁において、 前記接合金具は、連続する板状の部材からなり、 前記柱の側面に当接して固定される柱固定部と、 前記柱固定部と連続し、鉛直方向の折り曲げ線によって折り返すように曲折されて前記柱固定部と対向する折り返し部と、 前記折り返し部を介して前記柱固定部と連続し、前記柱固定部とほぼ垂直となって前記筋交いの側面に固定される筋交い固定部とを有するものとする。
【0012】
この耐力壁では、二つの筋交いを柱の中間部に接合する接合金具が、柱に固定される柱固定部と筋交いに固定される筋交い固定部との間で相対的な変位を許容する。つまり、柱固定部と筋交い固定部との間にある折り返し部及びこの折り返し部に近接する部分が変形して上記変形を許容する。そして、このような変形が生じたときにも筋交いと柱とを接合する機能を保持した状態が維持される。したがって、連続した板状の部材からなる簡単な構造の接合金具を用いて、粘り強い構造の耐力壁とすることができ、耐力壁の急激な破壊が回避される。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の耐力壁において、 前記筋交いは、前記折り返し部に端面を当接又は近接対向した状態で前記筋交い固定部に固定されているものとする。
【0014】
この耐力壁では、筋交いの端面と柱固定部が取り付けられた柱の側面との間に折り曲げ部が介挿され、折り曲げ部が筋交いの端面と直角方向に変位するのが拘束される。したがって、柱固定部と筋交い固定部との間に相対変位が生じるときに、相対変位に対する抵抗力が大きく維持され、水平力に対して充分な強度を有する耐力壁とすることができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、連続する金属の板状部材からなり、 柱の上端から下端までの中間部における側面に当接して固定される柱固定部と、 前記柱固定部と連続し、鉛直方向の折り曲げ線によって折り返すように曲折されて前記柱固定部と対向する折り返し部と、 前記折り返し部を介して前記柱固定部と連続し、前記柱固定部とほぼ垂直となって、斜め上方及び斜め下方へ架設される2つの筋交いの側面に固定される筋交い固定部と、を有することを特徴とする接合金具を提供するものである。
【0016】
この接合金具を使用することによって、柱の中間部に2つの筋交いを接合し、これらの筋交いを斜め上方及び斜め下方に架設して耐力壁を構成することができる。そして、筋交いと柱との接合部分で上下方向に相対的な変位を生じさせようとする力が生じたときに、この接合金具が変形し、筋交いと柱とを接合した状態を維持しながら相対的な変位を許容することができる。つまり、上記接合金具の変形は、柱に固定される柱固定部と筋交いに固定される筋交い固定部とが折り返し部を介して連続していることにより、折り返し部及びこの折り返し部に近接する部分で生じ、柱固定部は柱に、筋交い固定部は筋交いに強固に固定された状態が維持される。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の接合金具において、 前記折り返し部と連続し、該折り返し部を挟んで前記折り曲げ線とほぼ平行に設定された第2の折り曲げ線によって折り返すように曲折されて該折り返し部と対向する第2の折り返し部を有し、 前記筋交い固定部は、前記第2の折り返し部及び前記折り返し部を介して前記柱固定部と連続するものとする。
【0018】
この接合金具では、柱固定部と筋交い固定部との間に相対的な変位が生じたときに折り返し部と第2の折り返し部と、及びその周辺が変形する。したがって、接合金具が破断することなく柱固定部と筋交い固定部との間に大きな相対的変位を許容するとともに、柱固定部が柱に固着され、筋交い固定部が二つの筋交いに固着された状態が維持される。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項4又は請求項5に記載の接合金具において、 前記柱固定部は、複数の小孔が設けられ、該小孔に差し入れた先端部を前記柱に打ち込み又はねじ込むことができる固定用部材によって前記柱に固定されるものであり、 前記折り返し部又は前記折り返し部と前記第2の折り返し部との前記小孔と対向する位置には開口が設けられ、 該開口は、前記固定用部材の先端部を前記小孔に差し入れて前記柱に打ち込み又はねじ込むことを可能とする大きさを有するものとする。
【0020】
この接合金具では、柱固定部に対向して折り返し部が設けられているが、折り返し部に設けられた開口を介してビス、くぎ、螺条が周面に設けられた釘等の固定用部材を柱固定部の小孔に差し入れ、柱固定部を容易に柱に固定することができる。また、第2の折り返し部が設けられていても、この第2の折り返し部に同様の開口が設けられていることにより、同様にして柱固定部を柱に固定することができる。
【0021】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の接合金具において、 前記柱固定部と前記筋交い固定部との間に生じる鉛直方向の相対的な変位に対する抵抗力を大きく設定するときには、前記折り返し部又は前記第2の折り返し部に設けられた開口の水平方向又は鉛直方向の寸法が小さく、 前記柱固定部と前記筋交い固定部との間に生じる鉛直方向の相対的な変位に対する抵抗力を小さく設定するときには、前記折り返し部又は前記第2の折り返し部に設けられた開口の水平方向又は鉛直方向の寸法が大きく設定されているものとする。
【0022】
上記折り曲げ部又は上記折り曲げ部と第2の折り曲げ部とに開口が設けられることによって、折り曲げ部又は第2の折り曲げ部は変形し易くなり、この開口の大きさを調整することによって柱固定部と筋交い固定部との間の相対的な変位に対する抵抗力を調整することができる。したがって、筋交いを設ける建築物の規模や構造等に応じて開口の大きさが異なる接合金具を選択して、建築物の耐力壁を形成することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明に係る耐力壁では、水平方向の力に対して十分な耐力を備えた状態で大きな変形を許容し、急激な破壊が生じるのを回避してねばり強い耐力壁とすることができる。
また、本発明に係る接合金具を用いて、2つの筋交いの端部を柱の中間部に接合し、上記筋交いを斜め上方と斜め下方とに架設して柱と筋交いとがKの字状となる耐力壁とすることにより、筋交いの端部と柱の中間部との間に充分な抵抗力が作用している状態で双方の相対的な変位を許容するように接合することができる。これにより、充分な耐力を有し、ねばり強い耐力壁を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態である耐力壁を示す概略正面図である。
【図2】図1に示す耐力壁の柱と横架材との接合角部に筋交いの一端を固定した状態を示す概略斜視図である。
【図3】図1に示す耐力壁の筋交いと柱の中間部との接合状態を示す概略斜視図である。
【図4】図1に示す耐力壁の筋交いと柱の中間部との接合状態を示す概略平面図及び概略正面図である。
【図5】図1に示す耐力壁の筋交いと柱の中間部とを接合する部分に用いられる接合金具の概略斜視図である
【図6】図5に示す接合金具の概略平面図、概略側面図及び概略正面図である。
【図7】図6中に示すA−A線及びB−B線における矢視図である。
【図8】図1に示す耐力壁の機能を示す概略図である。
【図9】本発明の他の実施形態である接合金具の概略平面図、概略側面図及び概略正面図である。
【図10】図9中に示すC−C線における矢視図である。
【図11】図9に示す接合金具を用いて筋交いと柱の中間部とを接合した状態を示す概略平面図及び概略正面図である。
【図12】本発明の他の実施形態である接合金具の概略平面図、概略側面図及び概略正面図である。
【図13】図12に示す接合金具を用いて筋交いと柱の中間部とを接合した状態を示す概略平面図及び概略正面図である。
【図14】従来の接合金具を用いて筋交いと柱の中間部とを接合した状態を示す概略斜視図である。
【図15】本発明に係る接合金具の使用による効果を確認するために行った実験の結果を示す図である。
【図16】本発明の他の実施形態である耐力壁を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態である耐力壁の正面図である。
この耐力壁は、軸組構造の木造建築物において用いられるものであり、コンクリートの布基礎1上に支持された下部横架材である土台2と、この土台の上に間隔を開けて立ち上げられた2つの柱3,4と、これらの柱上に支持された上部横架材である梁5とで矩形の枠体を形成し、この枠体内に筋交い6,7を設けて水平力に抵抗するものである。
上記筋交いは、一つの枠体内に2つの筋交い6,7を配置するものであり、2つの筋交いの一端が互いに接合されるとともに、第1の柱3の上端から下端までの間の中間部3aに接合されている。そして、第1の筋交い6の他端は第2の柱4と梁5との接合部分に固定され、第2の筋交い7の他端は第2の柱4と土台2との接合部に固定されている。
また、第2の柱4とは反対側で第1の柱3と隣り合うように立設された第3の柱8との間にも同様に筋交い9,10が配置され、2連の耐力壁となっている。
【0026】
上記土台2、柱3,4,8、梁5、筋交い6,7,9,10は、いずれも木部材となっており、土台2はアンカーボルト11によって布基礎1に固定される。また、第2の柱4及び第3の柱8も地震時等の大きな水平力が作用したときに揚力によって土台2から浮き上がらないようにホールダウン金物12によって拘束されている。また、第2の柱4と梁5との接合部及び第3の柱8と梁5との接合部も同様に金物13を用いて梁5が柱4,8の上面から浮き上がらないように拘束されている。
なお、2つの柱との間には間柱14が立設され、筋交い6,7,9,10と交差する部分は、釘15等を用いて互いに結合されている。
【0027】
上記第2の筋交い7が第2の柱4と土台2との接合部に固定される構造は、図2に示すように、土台2と第2の柱4とによって形成される隅角部すなわち接合角部に第2の筋交い7の端面を対向させ、互いにほぼ直角となるように形成された2つの面を、土台2の上面と第2の柱4の側面に突き当てるように接合されている。そして、筋交い固定金具16が有する3つの取り付け面が、土台2の上面と第2の柱4の側面と第2の筋交い7の側面とにそれぞれ当接され、ビス等をよって固定されて土台2と第2の柱4と第2の筋交い7とがそれぞれの相互間で接合されるものとなっている。
また、第1の筋交い6が第2の柱4と梁5との接合部に固定される構造も、上下を逆にして同様のものとなっている。
【0028】
2つの筋交い6,7が第1の柱3に接合される部分は、図3及び図4に示すように、接合金具20によって第1の筋交い6と第2の筋交い7とが互いに接合されるとともに、この接合金具20を介して2つの筋交い6,7の端部が第1の柱3の中間部に接合されるものである。
【0029】
上記接合金具20は、図5、図6及び図7に示すように、軟鋼の板材を曲げ加工して形成されたものであり、柱3の側面に固定される柱固定部21と、柱固定部21の側部に沿って形成された第1の折り曲げ線25で折り曲げられて柱固定部21と対向する折り返し部22と、折り返し部22から第2の折り曲げ線26で折り曲げられて上記折り返し部22と対向するように設けられた第2の折り返し部23と、第2の折り返し部23から第3の折り曲げ線27に沿って折り曲げられ、上記柱固定部21と垂直で鉛直な面を形成する筋交い固定部24とを備えている。
【0030】
上記柱固定部21は、柱3の側面に当接される鉛直面を有するものであり、図7(a)に示すように複数の小孔21aが設けられている。この小孔21aは、ビス、釘又はラグスクリュー等の固定用部材の先端部を差し入れて、柱3にねじ込むか又は打ち込むことができるように形成されており、これらの固定用部材によって第1の柱3の側面に固定することができる。この柱固定部21は、上記折り返し部22及び筋交い固定部24より上下方向の寸法が拡大された部分21bを有し、多くの固定用部材を用いて固定することができるようにしている。
【0031】
上記折り返し部22は、柱固定部21の側部に沿って鉛直方向に形成された第1の折り曲げ線25でほぼ180°折り曲げて形成されており、柱固定部21とほぼ平行となって対向している。この折り返し部22には、図7(b)に示すように、柱固定部21の小孔21aと対向する位置に開口22a,22bが設けられている。これらの開口は、柱固定部21の小孔21aが2列に設けられているのと対応し、一方の小孔列と対向する第1の開口列22Aは、他方の小孔列と対向する第2の開口列22Bより、開口22aの寸法が大きくなっている。この開口22aの大きさは、柱固定部21の小孔21aにビス等を差し入れて柱にねじ込むことが可能な寸法となっている。そして、上記ビス等のねじ込みを可能とする寸法より大きい範囲で、この開口22aの寸法を調整することにより、接合金具20の剛性を調整するものとしている。つまり、柱固定部21と筋交い固定部24とを上下方向に相対的に変位させるときの力と変位との関係を、この開口22aの寸法によって調整することができるものであり、相対的な変位に対する抵抗力を大きく設定するときに、開口22aの寸法を小さく、相対的な変位に対する抵抗力を小さく設定するときに、開口22aの寸法を大きく設定するものである。本実施の形態では、水平方向の寸法が鉛直方向の寸法より大きい長孔としている。なお、第2の開口列22Bの開口22bは、柱固定部21の小孔21aにビス等を差し入れて柱にねじ込むことが可能となる寸法としている。
これらの開口22a,22bの形状は、角張った隅角部を設けず、なめらかな曲線で周縁が形成されるものとするのが望ましい。なめらかな曲線とすることにより、接合金具20の変形時における応力の集中を緩和することができる。
【0032】
上記第2の折り返し部23は、折り返し部22の第1の折り曲げ線25が設けられた側部とは反対側の側部に沿って鉛直方向に設定された第2の折り曲げ線26で折り曲げて、折り返し部22と対向するように設けられたものである。この第2の折り返し部23は、上記折り返し部22と平行となるように設けてもよいが、本実施の形態では、折り返し部22に対してやや傾斜して対向するように設けられている。また、この第2の折り返し部23にも、柱固定部21の小孔21aと対向する位置には開口23aが設けられ、第2の折り返し部23に設けられた開口23a及び上記折り返し部22に設けられた開口22bを介して固定用部材を柱固定部21の小孔21aに差し入れ、柱固定部21を第1の柱3に固定することができるものとしている。
【0033】
上記筋交い固定部24は、第2の折り返し部23の上記折り返し部22と連続する側部とは反対側の側部に沿って鉛直方向に設定された第3の折り曲げ線27で折り曲げ、柱固定部21とほぼ直角となるように形成されている。この筋交い固定部24は、筋交い6,7の側面に当接して固定されるものであり、ビス、釘又はラグスクリュー等の固定用部材を差し入れて筋交い6,7にねじ込むか又は打ち込むことができる複数の小孔24aが設けられている。
【0034】
このような接合金具20は、図4に示すように、第1の柱3の側面に柱固定部21を当接し、ビス17、釘又はラグスクリュー等の固定用部材を小孔21aから第1の柱3にねじ込むか又は打ち込むことによって固定される。また、筋交い6,7は端面が鉛直方向の面と水平方向の面との二つの面を有するように加工されており、鉛直な面を折り返し部22に当接するとともに側面を筋交い固定部24に当接される。このとき2つの筋交い6,7の水平な端面は互いに当接される。そして、筋交い固定部24に設けられた小孔24aにビス18、釘又はラグスクリュー等の固定用部材を差し入れ、筋交い6,7にねじ込むか又は打ち込むことによって2つの筋交い6,7のそれぞれが接合金具20に固着される。これにより2つの筋交い6,7と柱3の中間部とが接合金具20を介して接合される。
【0035】
このように2つの筋交い6,7が設けられた耐力壁は、図8に示すように、矢印Aの方向に水平力が作用したときに、第1の筋交い6には引張力が作用し、第2の筋交い7には圧縮力が作用する。そして、2つの筋交い6,7と第1の柱3の中間部とが接合された部分3aでは、筋交い6,7の端部が第1の柱3の側面に沿って上方に移動しようとする力(図8中に符号Bで示す)が作用する。また、水平力が反対方向に作用したときには、第1の筋交い6には圧縮力が作用し、第2の筋交い7には引張力が作用する。そして、2つの筋交い6,7と第1の柱3の中間部とが接合された部分3aでは、筋交い6,7の端部が第1の柱3の側面に沿って下方に移動しようとする力が作用する。このような筋交い6,7の端部と第1の柱3との間に作用する力に対して接合金具20が変形し、筋交い6,7の端部は柱に対して上方又は下方に移動する。つまり、接合金具20の柱固定部21と筋交い固定部24とは、折り返し部22及び第2の折り返し部23を介して連続しており、折り返し部22、第2の折り返し部23及びこれらの周辺が変形して柱固定部21と筋交い固定部24とが上下方向に相対的な変位を生じ、筋交い6,7と第1の柱3との相対的な変位を許容する。このような相対的な変位にともない、第1の柱3、第2の柱4及び梁5は、図8中に破線で示すように変形する。このとき接合金具20は柱固定部21と筋交い固定部24との間で変形するが第1の柱3及び筋交い6,7に強固に固定された状態は維持され、筋交い6,7の端部と第1の柱3との相対的な変位に対する抵抗力を維持したまま変位を許容する。したがって、筋交い6,7の他端が第2の柱4と土台2又は梁5との接合部から引き離されたり、筋交い6,7と第1の柱3との接合部で、筋交い6,7が第1の柱3の側面から引き離されたりする破壊が生じる前に、柱3,4及び横架材2,5からなる枠体の変形を許容する。このような枠体が破壊までに許容する変形は、図14に示されるような、鋼板をL字形に折り曲げた従来の接合金具を用いた耐力壁に比べて、著しく増大され、急激な破壊が生じ難く、ねばり強い耐力壁となる。
【0036】
また、耐力壁に作用する水平量と耐力壁の変形量との関係、つまり所定の変位量が生じるときの水平力の大きさは、建築物の構造・規模等によって要求される値が変動することがある。これに対して接合金具20の折り返し部22に設けられた開口22aの寸法を、適宜に選択することによって対応することができる。つまり、水平力に対して変形し難い耐力壁とするときには、折り返し部22の開口22aの寸法が小さい接合金具を選択し、水平力に対して変形し易い耐力壁とするときには、折り返し部22の開口22aの寸法が大きい接合金具を選択することができる。
【0037】
次に、本発明の他の実施形態である接合金具について説明する。
この接合金具30は、図9、図10及び図11に示すように、軟鋼の板材を曲げ加工して形成されたものであり、柱3の側面に固定される柱固定部31と、柱固定部31と連続し、鉛直方向の第1の折り曲げ線34で折り曲げられて柱固定部31と対向する折り返し部32と、折り返し部32から鉛直方向の第2の折り曲げ線35で折り曲げられて柱固定部31とほぼ直角となった筋交い固定部33とを備えている。
【0038】
上記柱固定部31は、柱3の側面に当接されるものであり、図10示すように小孔31a,31bが設けられており、これらの小孔31a,31bは上下方向に複数を配列して水平方向に2列が設けられている。これらの小孔31a,31bには、ビス17、釘又はラグスクリュー等の固定用部材を差し入れ、図11(a)に示すように、柱3にねじ込むか又は打ち込むことによって柱3に固定することができるものとなっている。
上記折り返し部32は、第1の折り曲げ線34で折り曲げられて柱固定部31とほぼ平行となって対向している。この折り返し部32には複数の開口32aが設けられており、それぞれの開口32aが柱固定部31に設けられた第1の小孔列31Aの一つの小孔31aと、第2の小孔列31Bの一つの小孔31bと対向するように横方向に長い孔となっている。これらの開口32aは、図5に示す接合金具20と同様に、寸法を調整することによって変形に対する剛性を調整するものである。
上記筋交い固定部33は、ビス、釘又はラグスクリュー等の固定用部材を差し入れるための小孔33aが複数設けられており、筋交い6,7の側面と当接し、上記固定用部材によって筋交い6,7に固定するものである。
【0039】
このような接合金具30は、図1に示す耐力壁において2つの筋交い6,7の端部を第1の柱3の中間部に接合するために用いることができる。そして、図11に示すように、柱固定部31がビス17、釘又はラグスクリュー等の固定用部材によって第1の柱3に固定され、筋交い6,7は端面を折り返し部32に当接又は近接対向させ、側面を筋交い固定部33に当接してビス18等によって固定される。また、2つの筋交い6,7は水平方向の端面を突き合わせ、筋交い固定部33を介して互いに接合される。このように上記接合金具30を介して筋交い6,7と第1の柱3とが接合された耐力壁では、水平力が作用したときに上記折り返し部32及びその周辺の変形によって筋交い6,7と第1の柱3との間で上下方向への相対的な変位が許容される。また、接合金具30は変形しても直ちには破壊されず、このような変位に対する抵抗力を備えた状態が維持されたまま変位が許容される。したがって、図5に示す接合金具20を用いたときと同様にねばり強い耐力壁となる。
【0040】
また、図5に示す接合金具に代えて、図12及び図13に示すような接合金具40を図1に示す耐力壁に使用することもできる。
この接合金具40も、図5に示す接合金具と同様に軟鋼の板材を曲げ加工して形成されたものであり、柱3の側面に固定される柱固定部41と、柱固定部41と連続し、鉛直方向の第1の折り曲げ線44で折り曲げられて柱固定部41と対向する折り返し部42と、折り返し部42から鉛直方向の第2の折り曲げ線45で折り曲げられて柱固定部41とほぼ直角となった筋交い固定部43とを備えている。
【0041】
上記柱固定部41は、柱3の側面に当接されるものであり、複数の小孔41aが設けられてビス17、釘又はラグスクリュー等の固定用部材で柱3に固定することができるものとなっている。
上記折り返し部42は、鉛直方向に設定された第1の折り曲げ線44で折り曲げて形成されており、柱固定部41に対して傾斜した状態で対向している。この折り返し部42の水平方向の寸法は柱固定部41の水平方向の寸法より小さくなっており、柱固定部41に設けられた2列の小孔列の一方のみと対向するものとなっている。そして、これらの小孔41aと対向する部分に開口42aが設けられている。これらの開口42aはビス17、釘又はラグスクリュー等の固定用部材を柱固定部の小孔41aに差し入れて柱固定部41を柱3に固定する作業が可能となる程度の円形となっている。
また、筋交い固定部43は、折り返し部42の側部に設定された鉛直方向の第2の折り曲げ線45で折り曲げられ、柱固定部41とほぼ直角に設けられている。そして、複数の小孔43aが設けられている。
【0042】
このような接合金具40は、図13に示すように、柱固定部41がビス17、釘又はラグスクリュー等の固定用部材によって第1の柱3に固定されるとともに、筋交い固定部43が筋交い6,7の側面に当接してビス18等によって固定される。このとき、筋交い6,7の端面に形成された鉛直部分が柱固定部41に当接又は近接対向し、水平部分は互いに突き合わされて筋交い固定部43に固定される。このように上記接合金具40を介して筋交い6,7と第1の柱3とが接合された耐力壁においても、水平力が作用したときに上記折り返し部42及びその周辺の変形によって筋交い6,7と柱3との間の相対的な変位が許容されるとともに、変位に対する抵抗力は維持され、ねばり強い耐力壁とすることができる。
【0043】
次に、上記実施の形態の接合金具20を筋交い6,7と第1の柱3の中間部との接合に用いたときに、第1の柱3と筋交い6,7との間に生じる上下方向の力と相対的な変位との関係を、実験により調査した結果について説明する。
実験は、接合金具20の柱固定部21と筋交い固定部24との間に相対的な変位を生じさせる方向の力を負荷し、変位を測定したものである。測定は、図5に示す接合金具20を用いたとき(供試体1)と、図14に示す従来の耐力壁で用いられる接合金具50を用いたとき(供試体2)とについて行い、結果を比較する。なお、従来の接合金具50は、図14に示すように鋼板材をL型に曲げ加工されたものであり、折り曲げられた一面を柱3に、他の面を筋交い6,7の側面に当接してビス等により固定するものである。
【0044】
実験の結果は図15に示すとおり、本発明の接合金具20を用いた実験において、接合金具20が弾性的に変形しているときには、作用する力の増大とともに変位がほぼ比例的に増大する。その後、塑性変形が生じ、変位に抵抗する力を維持したまま変位が増大する。そして、従来の接合金具50を用いたときと、ほぼ同等の耐力を有するとともに、終局的な破断までには、従来の接合金具を用いたときに比べて大幅に大きな変位を許容するものとなっている。
【0045】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で接合金具の形状は適宜に変更して用いることができる。また、接合金具を構成する材料は、低降伏点鋼等を用いることができ、その他破断までに大きな塑性変形が生じる金属等を用いることができる。
一方、本発明の耐力壁は、図1に示すように、2つの柱と2つの横架材とで囲まれる一つの枠体の内側に2つの筋交いを配置するものに限定されず、図16に示すように、3つの筋交いを配置するもの、4本の筋交いを配置するものであってもよい。
【0046】
図16(a)に示す耐力壁は、第1の筋交い61の一端を第2の柱4と梁5との接合部に固定し、第1の筋交い61の他端と第2の筋交い62の一端を第1の柱3の中間部に固定する。また、第2の筋交い62の他端と第3の筋交い63の一端を第2の柱4の中間部に固定し、第3の筋交い63の他端を第1の柱3と土台2との接合部に固定するものである。そして、第1の筋交い51と第2の筋交い52とを第1の柱3の中間部に接合する部分64、及び第2の筋交い62と第3の筋交い63とを第2の柱4の中間部に接合する部分65に、本発明の接合金具、例えば図5、図9又は図12に示す接合金具20,30,40を用いるものである。
一方、図16(b)に示す耐力壁は、4つの筋交いを配置するものであり、第1の筋交い71と第2の筋交い72が第1の柱3の上位の中間部に接合され、第2の筋交い72と第3の筋交い73が第2の柱4の中間部に接合され、第3の筋交い73と第4の筋交い74とが第1の柱3の下位の中間部に接合されている。そして、上記筋交いの2本を突き合わせて柱3,4の中間部に接合される部分75,76,77に、本発明の接合金具を用いている。
【符号の説明】
【0047】
1:布基礎、 2:土台(横架材)、 3:第1の柱、 4:第2の柱、 5:梁(横架材)、 6:第1の筋交い、 7:第2の筋交い、 8:第3の柱、 9,10:筋交い、 11:アンカーボルト 、 12:ホールダウン金物、 13:金物、 14:間柱、 15:釘、 16:筋交い固定金具、 17,18:ビス、
20:接合金具、 21:柱固定部、 22:折り返し部、 23:第2の折り返し部、 24:筋交い固定部、 25:第1の折り曲げ線、 26:第2の折り曲げ線、 27:第3の折り曲げ線、
30:接合金具、 31:柱固定部、 32:折り返し部、 33:筋交い固定部、 34:第1の折り曲げ線、 35:第2の折り曲げ線、
40:接合金具、 41:柱固定部、 42:折り返し部、 43:筋交い固定部、 44:第1の折り曲げ線、 45:第2の折り曲げ線、
50:接合金具
61:第1の筋交い、 62:第2の筋交い、 63:第3の筋交い、
71:第1の筋交い、 72:第2の筋交い、 73:第3の筋交い、 74:第4の筋交い、
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物に設けられ、地震時等における水平力に対して抵抗する耐力壁及びこの耐力壁で用いる接合金具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸組構造の木造建築物では、地震等による水平力に抵抗するために耐力壁が設けられる。耐力壁は、2つの柱と柱の下側及び上側に配置される2つの横架材とで矩形となった枠体に構造用合板等の面材を固着するもの、及び上記枠体内に筋交いを配置したものが広く用いられている。筋交いを用いた耐力壁は、筋交いの一端を上側の横架材と一方の柱との接合部に接合するとともに、他端を下側の横架材と他方の柱との接合部に接合するものが一般的となっている。また、一つの枠体内に2つの筋交いを配置し、2つの筋交いとこれらの筋交いが中間部に接合された柱とがKの字状になる構造の耐力壁が、例えば特許文献1又は特許文献2に記載されている。
【0003】
これらの耐力壁では、二つの筋交いのうちの第1の筋交いは、一端を上側の横架材と一方の柱との接合部に固定し、他端を他方の柱の上下方向における中間部に固定する。そして、もう一方の筋交いである第2の筋交いは、下側の横架材と一方の柱との接合部に一端を固定するとともに、他端を他方の柱の中間部に第1の筋交いと連結して固定する。各筋交いが柱と横架材との接合角部に固定される部分及び柱の中間部に二つの筋交いが固定される部分には固定用の金具が用いられ、筋交いに作用する引張力及び圧縮力を柱又は横架材に伝達するものとなっている。
【0004】
上記のような2つの筋交いと柱とがKの字状に配置される耐力壁では、鉛直方向と筋交いの軸線とのなす角度が大きくなり、筋交いが水平力に対して有効に抵抗するものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−104342号公報
【特許文献2】特開2010−53661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
地震等による水平力が作用したときに、柱と横架材とを用いて構築された軸組構造は水平方向に変形が生じる。つまり、水平力が柱を傾斜させ、柱の上に支持された梁、胴差等の横架材を水平方向に変位させるように作用する。そして耐力壁は、このような水平方向の力に対して充分な強度を備えるように構築される。また、耐力壁は終局的な破壊にいたるまでに充分な強度を保持したまま大きな変位を許容するものであることが望ましい。耐力壁が終局的な破壊までに大きな変位を許容することによってねばり強い構造となり、地震時のように水平力が繰り返し作用するときに急激な破壊が生じるのを回避することが可能となる。
【0007】
木造の軸組構造における耐力壁であって、上記のように筋交いと柱とをKの字状に配置した耐力壁では、終局的な破壊を想定すると、引張力が作用した筋交いが横架材と柱との接合角部から引き離される状態、又は柱の中間部に接合された筋交いの端部が柱に対して上下方向に変位して柱から引き離される状態が考えられる。このような状態にいたるまでに充分な強度を保持したままで、水平方向に大きな相対的な変位を許容する構造が望まれる。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、筋交いと柱とをKの字状に配置した耐力壁であって、終局的な破壊にいたるまでに充分な強度を保持したまま大きな水平方向の変位を許容する耐力壁及びこの耐力壁で用いる接合金具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 ほぼ水平に支持された木製の下部横架材と、 該下部横架材上に間隔を開けて立設された木製の第1の柱及び第2の柱と、 これらの柱上でほぼ水平に支持される木製の上部横架材と、 前記第1の柱の上端から下端までの間の中間部に接合金具を介して一端が接合され、他端は前記接合金具による接合位置より高い位置で前記第2の柱に接合された第1の筋交いと、 前記接合金具を介して一端が前記第1の柱の前記中間部に接合され、他端が前記接合金具による接合位置より低い位置で前記第2の柱に接合された第2の筋交いと、を有し、 前記接合金具は、該接合金具の変形によって二つの筋交いの一端と該筋交いが接合された前記第1の柱とが、該第1の柱の軸線方向へ相対的に変位することを許容するものであることを特徴とする耐力壁を提供するものである。
【0010】
この耐力壁では、地震等によって横架材に水平方向の力が作用すると、2つの筋交いの一方に引張力が作用し、他方の筋交いに圧縮力が作用する。そして、これらの筋交いが柱の中間部に接合されている部分では、筋交いの端部と柱との間に鉛直方向にずれようとする力が作用する。この力に対して、筋交いの端部と柱とを接合している接合金具は、接合金具自体の変形によって筋交いと柱との間の相対的な変位を許容するとともに、接合金具は金属で形成されているために変形しても柱と筋交いとの接合状態を維持する力つまり強度を直ちに失うものではない。したがって、柱と横架材とで形成された枠体は、水平力によって変形した状態で耐力を有し、粘り強い構造となる。また、接合金具に塑性変形が生じることによってエネルギーを吸収し、地震時等の水平力が繰り返し作用するときに振動のエネルギーを吸収して、振動を減衰させる効果が得られる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の耐力壁において、 前記接合金具は、連続する板状の部材からなり、 前記柱の側面に当接して固定される柱固定部と、 前記柱固定部と連続し、鉛直方向の折り曲げ線によって折り返すように曲折されて前記柱固定部と対向する折り返し部と、 前記折り返し部を介して前記柱固定部と連続し、前記柱固定部とほぼ垂直となって前記筋交いの側面に固定される筋交い固定部とを有するものとする。
【0012】
この耐力壁では、二つの筋交いを柱の中間部に接合する接合金具が、柱に固定される柱固定部と筋交いに固定される筋交い固定部との間で相対的な変位を許容する。つまり、柱固定部と筋交い固定部との間にある折り返し部及びこの折り返し部に近接する部分が変形して上記変形を許容する。そして、このような変形が生じたときにも筋交いと柱とを接合する機能を保持した状態が維持される。したがって、連続した板状の部材からなる簡単な構造の接合金具を用いて、粘り強い構造の耐力壁とすることができ、耐力壁の急激な破壊が回避される。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の耐力壁において、 前記筋交いは、前記折り返し部に端面を当接又は近接対向した状態で前記筋交い固定部に固定されているものとする。
【0014】
この耐力壁では、筋交いの端面と柱固定部が取り付けられた柱の側面との間に折り曲げ部が介挿され、折り曲げ部が筋交いの端面と直角方向に変位するのが拘束される。したがって、柱固定部と筋交い固定部との間に相対変位が生じるときに、相対変位に対する抵抗力が大きく維持され、水平力に対して充分な強度を有する耐力壁とすることができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、連続する金属の板状部材からなり、 柱の上端から下端までの中間部における側面に当接して固定される柱固定部と、 前記柱固定部と連続し、鉛直方向の折り曲げ線によって折り返すように曲折されて前記柱固定部と対向する折り返し部と、 前記折り返し部を介して前記柱固定部と連続し、前記柱固定部とほぼ垂直となって、斜め上方及び斜め下方へ架設される2つの筋交いの側面に固定される筋交い固定部と、を有することを特徴とする接合金具を提供するものである。
【0016】
この接合金具を使用することによって、柱の中間部に2つの筋交いを接合し、これらの筋交いを斜め上方及び斜め下方に架設して耐力壁を構成することができる。そして、筋交いと柱との接合部分で上下方向に相対的な変位を生じさせようとする力が生じたときに、この接合金具が変形し、筋交いと柱とを接合した状態を維持しながら相対的な変位を許容することができる。つまり、上記接合金具の変形は、柱に固定される柱固定部と筋交いに固定される筋交い固定部とが折り返し部を介して連続していることにより、折り返し部及びこの折り返し部に近接する部分で生じ、柱固定部は柱に、筋交い固定部は筋交いに強固に固定された状態が維持される。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の接合金具において、 前記折り返し部と連続し、該折り返し部を挟んで前記折り曲げ線とほぼ平行に設定された第2の折り曲げ線によって折り返すように曲折されて該折り返し部と対向する第2の折り返し部を有し、 前記筋交い固定部は、前記第2の折り返し部及び前記折り返し部を介して前記柱固定部と連続するものとする。
【0018】
この接合金具では、柱固定部と筋交い固定部との間に相対的な変位が生じたときに折り返し部と第2の折り返し部と、及びその周辺が変形する。したがって、接合金具が破断することなく柱固定部と筋交い固定部との間に大きな相対的変位を許容するとともに、柱固定部が柱に固着され、筋交い固定部が二つの筋交いに固着された状態が維持される。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項4又は請求項5に記載の接合金具において、 前記柱固定部は、複数の小孔が設けられ、該小孔に差し入れた先端部を前記柱に打ち込み又はねじ込むことができる固定用部材によって前記柱に固定されるものであり、 前記折り返し部又は前記折り返し部と前記第2の折り返し部との前記小孔と対向する位置には開口が設けられ、 該開口は、前記固定用部材の先端部を前記小孔に差し入れて前記柱に打ち込み又はねじ込むことを可能とする大きさを有するものとする。
【0020】
この接合金具では、柱固定部に対向して折り返し部が設けられているが、折り返し部に設けられた開口を介してビス、くぎ、螺条が周面に設けられた釘等の固定用部材を柱固定部の小孔に差し入れ、柱固定部を容易に柱に固定することができる。また、第2の折り返し部が設けられていても、この第2の折り返し部に同様の開口が設けられていることにより、同様にして柱固定部を柱に固定することができる。
【0021】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の接合金具において、 前記柱固定部と前記筋交い固定部との間に生じる鉛直方向の相対的な変位に対する抵抗力を大きく設定するときには、前記折り返し部又は前記第2の折り返し部に設けられた開口の水平方向又は鉛直方向の寸法が小さく、 前記柱固定部と前記筋交い固定部との間に生じる鉛直方向の相対的な変位に対する抵抗力を小さく設定するときには、前記折り返し部又は前記第2の折り返し部に設けられた開口の水平方向又は鉛直方向の寸法が大きく設定されているものとする。
【0022】
上記折り曲げ部又は上記折り曲げ部と第2の折り曲げ部とに開口が設けられることによって、折り曲げ部又は第2の折り曲げ部は変形し易くなり、この開口の大きさを調整することによって柱固定部と筋交い固定部との間の相対的な変位に対する抵抗力を調整することができる。したがって、筋交いを設ける建築物の規模や構造等に応じて開口の大きさが異なる接合金具を選択して、建築物の耐力壁を形成することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明に係る耐力壁では、水平方向の力に対して十分な耐力を備えた状態で大きな変形を許容し、急激な破壊が生じるのを回避してねばり強い耐力壁とすることができる。
また、本発明に係る接合金具を用いて、2つの筋交いの端部を柱の中間部に接合し、上記筋交いを斜め上方と斜め下方とに架設して柱と筋交いとがKの字状となる耐力壁とすることにより、筋交いの端部と柱の中間部との間に充分な抵抗力が作用している状態で双方の相対的な変位を許容するように接合することができる。これにより、充分な耐力を有し、ねばり強い耐力壁を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態である耐力壁を示す概略正面図である。
【図2】図1に示す耐力壁の柱と横架材との接合角部に筋交いの一端を固定した状態を示す概略斜視図である。
【図3】図1に示す耐力壁の筋交いと柱の中間部との接合状態を示す概略斜視図である。
【図4】図1に示す耐力壁の筋交いと柱の中間部との接合状態を示す概略平面図及び概略正面図である。
【図5】図1に示す耐力壁の筋交いと柱の中間部とを接合する部分に用いられる接合金具の概略斜視図である
【図6】図5に示す接合金具の概略平面図、概略側面図及び概略正面図である。
【図7】図6中に示すA−A線及びB−B線における矢視図である。
【図8】図1に示す耐力壁の機能を示す概略図である。
【図9】本発明の他の実施形態である接合金具の概略平面図、概略側面図及び概略正面図である。
【図10】図9中に示すC−C線における矢視図である。
【図11】図9に示す接合金具を用いて筋交いと柱の中間部とを接合した状態を示す概略平面図及び概略正面図である。
【図12】本発明の他の実施形態である接合金具の概略平面図、概略側面図及び概略正面図である。
【図13】図12に示す接合金具を用いて筋交いと柱の中間部とを接合した状態を示す概略平面図及び概略正面図である。
【図14】従来の接合金具を用いて筋交いと柱の中間部とを接合した状態を示す概略斜視図である。
【図15】本発明に係る接合金具の使用による効果を確認するために行った実験の結果を示す図である。
【図16】本発明の他の実施形態である耐力壁を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態である耐力壁の正面図である。
この耐力壁は、軸組構造の木造建築物において用いられるものであり、コンクリートの布基礎1上に支持された下部横架材である土台2と、この土台の上に間隔を開けて立ち上げられた2つの柱3,4と、これらの柱上に支持された上部横架材である梁5とで矩形の枠体を形成し、この枠体内に筋交い6,7を設けて水平力に抵抗するものである。
上記筋交いは、一つの枠体内に2つの筋交い6,7を配置するものであり、2つの筋交いの一端が互いに接合されるとともに、第1の柱3の上端から下端までの間の中間部3aに接合されている。そして、第1の筋交い6の他端は第2の柱4と梁5との接合部分に固定され、第2の筋交い7の他端は第2の柱4と土台2との接合部に固定されている。
また、第2の柱4とは反対側で第1の柱3と隣り合うように立設された第3の柱8との間にも同様に筋交い9,10が配置され、2連の耐力壁となっている。
【0026】
上記土台2、柱3,4,8、梁5、筋交い6,7,9,10は、いずれも木部材となっており、土台2はアンカーボルト11によって布基礎1に固定される。また、第2の柱4及び第3の柱8も地震時等の大きな水平力が作用したときに揚力によって土台2から浮き上がらないようにホールダウン金物12によって拘束されている。また、第2の柱4と梁5との接合部及び第3の柱8と梁5との接合部も同様に金物13を用いて梁5が柱4,8の上面から浮き上がらないように拘束されている。
なお、2つの柱との間には間柱14が立設され、筋交い6,7,9,10と交差する部分は、釘15等を用いて互いに結合されている。
【0027】
上記第2の筋交い7が第2の柱4と土台2との接合部に固定される構造は、図2に示すように、土台2と第2の柱4とによって形成される隅角部すなわち接合角部に第2の筋交い7の端面を対向させ、互いにほぼ直角となるように形成された2つの面を、土台2の上面と第2の柱4の側面に突き当てるように接合されている。そして、筋交い固定金具16が有する3つの取り付け面が、土台2の上面と第2の柱4の側面と第2の筋交い7の側面とにそれぞれ当接され、ビス等をよって固定されて土台2と第2の柱4と第2の筋交い7とがそれぞれの相互間で接合されるものとなっている。
また、第1の筋交い6が第2の柱4と梁5との接合部に固定される構造も、上下を逆にして同様のものとなっている。
【0028】
2つの筋交い6,7が第1の柱3に接合される部分は、図3及び図4に示すように、接合金具20によって第1の筋交い6と第2の筋交い7とが互いに接合されるとともに、この接合金具20を介して2つの筋交い6,7の端部が第1の柱3の中間部に接合されるものである。
【0029】
上記接合金具20は、図5、図6及び図7に示すように、軟鋼の板材を曲げ加工して形成されたものであり、柱3の側面に固定される柱固定部21と、柱固定部21の側部に沿って形成された第1の折り曲げ線25で折り曲げられて柱固定部21と対向する折り返し部22と、折り返し部22から第2の折り曲げ線26で折り曲げられて上記折り返し部22と対向するように設けられた第2の折り返し部23と、第2の折り返し部23から第3の折り曲げ線27に沿って折り曲げられ、上記柱固定部21と垂直で鉛直な面を形成する筋交い固定部24とを備えている。
【0030】
上記柱固定部21は、柱3の側面に当接される鉛直面を有するものであり、図7(a)に示すように複数の小孔21aが設けられている。この小孔21aは、ビス、釘又はラグスクリュー等の固定用部材の先端部を差し入れて、柱3にねじ込むか又は打ち込むことができるように形成されており、これらの固定用部材によって第1の柱3の側面に固定することができる。この柱固定部21は、上記折り返し部22及び筋交い固定部24より上下方向の寸法が拡大された部分21bを有し、多くの固定用部材を用いて固定することができるようにしている。
【0031】
上記折り返し部22は、柱固定部21の側部に沿って鉛直方向に形成された第1の折り曲げ線25でほぼ180°折り曲げて形成されており、柱固定部21とほぼ平行となって対向している。この折り返し部22には、図7(b)に示すように、柱固定部21の小孔21aと対向する位置に開口22a,22bが設けられている。これらの開口は、柱固定部21の小孔21aが2列に設けられているのと対応し、一方の小孔列と対向する第1の開口列22Aは、他方の小孔列と対向する第2の開口列22Bより、開口22aの寸法が大きくなっている。この開口22aの大きさは、柱固定部21の小孔21aにビス等を差し入れて柱にねじ込むことが可能な寸法となっている。そして、上記ビス等のねじ込みを可能とする寸法より大きい範囲で、この開口22aの寸法を調整することにより、接合金具20の剛性を調整するものとしている。つまり、柱固定部21と筋交い固定部24とを上下方向に相対的に変位させるときの力と変位との関係を、この開口22aの寸法によって調整することができるものであり、相対的な変位に対する抵抗力を大きく設定するときに、開口22aの寸法を小さく、相対的な変位に対する抵抗力を小さく設定するときに、開口22aの寸法を大きく設定するものである。本実施の形態では、水平方向の寸法が鉛直方向の寸法より大きい長孔としている。なお、第2の開口列22Bの開口22bは、柱固定部21の小孔21aにビス等を差し入れて柱にねじ込むことが可能となる寸法としている。
これらの開口22a,22bの形状は、角張った隅角部を設けず、なめらかな曲線で周縁が形成されるものとするのが望ましい。なめらかな曲線とすることにより、接合金具20の変形時における応力の集中を緩和することができる。
【0032】
上記第2の折り返し部23は、折り返し部22の第1の折り曲げ線25が設けられた側部とは反対側の側部に沿って鉛直方向に設定された第2の折り曲げ線26で折り曲げて、折り返し部22と対向するように設けられたものである。この第2の折り返し部23は、上記折り返し部22と平行となるように設けてもよいが、本実施の形態では、折り返し部22に対してやや傾斜して対向するように設けられている。また、この第2の折り返し部23にも、柱固定部21の小孔21aと対向する位置には開口23aが設けられ、第2の折り返し部23に設けられた開口23a及び上記折り返し部22に設けられた開口22bを介して固定用部材を柱固定部21の小孔21aに差し入れ、柱固定部21を第1の柱3に固定することができるものとしている。
【0033】
上記筋交い固定部24は、第2の折り返し部23の上記折り返し部22と連続する側部とは反対側の側部に沿って鉛直方向に設定された第3の折り曲げ線27で折り曲げ、柱固定部21とほぼ直角となるように形成されている。この筋交い固定部24は、筋交い6,7の側面に当接して固定されるものであり、ビス、釘又はラグスクリュー等の固定用部材を差し入れて筋交い6,7にねじ込むか又は打ち込むことができる複数の小孔24aが設けられている。
【0034】
このような接合金具20は、図4に示すように、第1の柱3の側面に柱固定部21を当接し、ビス17、釘又はラグスクリュー等の固定用部材を小孔21aから第1の柱3にねじ込むか又は打ち込むことによって固定される。また、筋交い6,7は端面が鉛直方向の面と水平方向の面との二つの面を有するように加工されており、鉛直な面を折り返し部22に当接するとともに側面を筋交い固定部24に当接される。このとき2つの筋交い6,7の水平な端面は互いに当接される。そして、筋交い固定部24に設けられた小孔24aにビス18、釘又はラグスクリュー等の固定用部材を差し入れ、筋交い6,7にねじ込むか又は打ち込むことによって2つの筋交い6,7のそれぞれが接合金具20に固着される。これにより2つの筋交い6,7と柱3の中間部とが接合金具20を介して接合される。
【0035】
このように2つの筋交い6,7が設けられた耐力壁は、図8に示すように、矢印Aの方向に水平力が作用したときに、第1の筋交い6には引張力が作用し、第2の筋交い7には圧縮力が作用する。そして、2つの筋交い6,7と第1の柱3の中間部とが接合された部分3aでは、筋交い6,7の端部が第1の柱3の側面に沿って上方に移動しようとする力(図8中に符号Bで示す)が作用する。また、水平力が反対方向に作用したときには、第1の筋交い6には圧縮力が作用し、第2の筋交い7には引張力が作用する。そして、2つの筋交い6,7と第1の柱3の中間部とが接合された部分3aでは、筋交い6,7の端部が第1の柱3の側面に沿って下方に移動しようとする力が作用する。このような筋交い6,7の端部と第1の柱3との間に作用する力に対して接合金具20が変形し、筋交い6,7の端部は柱に対して上方又は下方に移動する。つまり、接合金具20の柱固定部21と筋交い固定部24とは、折り返し部22及び第2の折り返し部23を介して連続しており、折り返し部22、第2の折り返し部23及びこれらの周辺が変形して柱固定部21と筋交い固定部24とが上下方向に相対的な変位を生じ、筋交い6,7と第1の柱3との相対的な変位を許容する。このような相対的な変位にともない、第1の柱3、第2の柱4及び梁5は、図8中に破線で示すように変形する。このとき接合金具20は柱固定部21と筋交い固定部24との間で変形するが第1の柱3及び筋交い6,7に強固に固定された状態は維持され、筋交い6,7の端部と第1の柱3との相対的な変位に対する抵抗力を維持したまま変位を許容する。したがって、筋交い6,7の他端が第2の柱4と土台2又は梁5との接合部から引き離されたり、筋交い6,7と第1の柱3との接合部で、筋交い6,7が第1の柱3の側面から引き離されたりする破壊が生じる前に、柱3,4及び横架材2,5からなる枠体の変形を許容する。このような枠体が破壊までに許容する変形は、図14に示されるような、鋼板をL字形に折り曲げた従来の接合金具を用いた耐力壁に比べて、著しく増大され、急激な破壊が生じ難く、ねばり強い耐力壁となる。
【0036】
また、耐力壁に作用する水平量と耐力壁の変形量との関係、つまり所定の変位量が生じるときの水平力の大きさは、建築物の構造・規模等によって要求される値が変動することがある。これに対して接合金具20の折り返し部22に設けられた開口22aの寸法を、適宜に選択することによって対応することができる。つまり、水平力に対して変形し難い耐力壁とするときには、折り返し部22の開口22aの寸法が小さい接合金具を選択し、水平力に対して変形し易い耐力壁とするときには、折り返し部22の開口22aの寸法が大きい接合金具を選択することができる。
【0037】
次に、本発明の他の実施形態である接合金具について説明する。
この接合金具30は、図9、図10及び図11に示すように、軟鋼の板材を曲げ加工して形成されたものであり、柱3の側面に固定される柱固定部31と、柱固定部31と連続し、鉛直方向の第1の折り曲げ線34で折り曲げられて柱固定部31と対向する折り返し部32と、折り返し部32から鉛直方向の第2の折り曲げ線35で折り曲げられて柱固定部31とほぼ直角となった筋交い固定部33とを備えている。
【0038】
上記柱固定部31は、柱3の側面に当接されるものであり、図10示すように小孔31a,31bが設けられており、これらの小孔31a,31bは上下方向に複数を配列して水平方向に2列が設けられている。これらの小孔31a,31bには、ビス17、釘又はラグスクリュー等の固定用部材を差し入れ、図11(a)に示すように、柱3にねじ込むか又は打ち込むことによって柱3に固定することができるものとなっている。
上記折り返し部32は、第1の折り曲げ線34で折り曲げられて柱固定部31とほぼ平行となって対向している。この折り返し部32には複数の開口32aが設けられており、それぞれの開口32aが柱固定部31に設けられた第1の小孔列31Aの一つの小孔31aと、第2の小孔列31Bの一つの小孔31bと対向するように横方向に長い孔となっている。これらの開口32aは、図5に示す接合金具20と同様に、寸法を調整することによって変形に対する剛性を調整するものである。
上記筋交い固定部33は、ビス、釘又はラグスクリュー等の固定用部材を差し入れるための小孔33aが複数設けられており、筋交い6,7の側面と当接し、上記固定用部材によって筋交い6,7に固定するものである。
【0039】
このような接合金具30は、図1に示す耐力壁において2つの筋交い6,7の端部を第1の柱3の中間部に接合するために用いることができる。そして、図11に示すように、柱固定部31がビス17、釘又はラグスクリュー等の固定用部材によって第1の柱3に固定され、筋交い6,7は端面を折り返し部32に当接又は近接対向させ、側面を筋交い固定部33に当接してビス18等によって固定される。また、2つの筋交い6,7は水平方向の端面を突き合わせ、筋交い固定部33を介して互いに接合される。このように上記接合金具30を介して筋交い6,7と第1の柱3とが接合された耐力壁では、水平力が作用したときに上記折り返し部32及びその周辺の変形によって筋交い6,7と第1の柱3との間で上下方向への相対的な変位が許容される。また、接合金具30は変形しても直ちには破壊されず、このような変位に対する抵抗力を備えた状態が維持されたまま変位が許容される。したがって、図5に示す接合金具20を用いたときと同様にねばり強い耐力壁となる。
【0040】
また、図5に示す接合金具に代えて、図12及び図13に示すような接合金具40を図1に示す耐力壁に使用することもできる。
この接合金具40も、図5に示す接合金具と同様に軟鋼の板材を曲げ加工して形成されたものであり、柱3の側面に固定される柱固定部41と、柱固定部41と連続し、鉛直方向の第1の折り曲げ線44で折り曲げられて柱固定部41と対向する折り返し部42と、折り返し部42から鉛直方向の第2の折り曲げ線45で折り曲げられて柱固定部41とほぼ直角となった筋交い固定部43とを備えている。
【0041】
上記柱固定部41は、柱3の側面に当接されるものであり、複数の小孔41aが設けられてビス17、釘又はラグスクリュー等の固定用部材で柱3に固定することができるものとなっている。
上記折り返し部42は、鉛直方向に設定された第1の折り曲げ線44で折り曲げて形成されており、柱固定部41に対して傾斜した状態で対向している。この折り返し部42の水平方向の寸法は柱固定部41の水平方向の寸法より小さくなっており、柱固定部41に設けられた2列の小孔列の一方のみと対向するものとなっている。そして、これらの小孔41aと対向する部分に開口42aが設けられている。これらの開口42aはビス17、釘又はラグスクリュー等の固定用部材を柱固定部の小孔41aに差し入れて柱固定部41を柱3に固定する作業が可能となる程度の円形となっている。
また、筋交い固定部43は、折り返し部42の側部に設定された鉛直方向の第2の折り曲げ線45で折り曲げられ、柱固定部41とほぼ直角に設けられている。そして、複数の小孔43aが設けられている。
【0042】
このような接合金具40は、図13に示すように、柱固定部41がビス17、釘又はラグスクリュー等の固定用部材によって第1の柱3に固定されるとともに、筋交い固定部43が筋交い6,7の側面に当接してビス18等によって固定される。このとき、筋交い6,7の端面に形成された鉛直部分が柱固定部41に当接又は近接対向し、水平部分は互いに突き合わされて筋交い固定部43に固定される。このように上記接合金具40を介して筋交い6,7と第1の柱3とが接合された耐力壁においても、水平力が作用したときに上記折り返し部42及びその周辺の変形によって筋交い6,7と柱3との間の相対的な変位が許容されるとともに、変位に対する抵抗力は維持され、ねばり強い耐力壁とすることができる。
【0043】
次に、上記実施の形態の接合金具20を筋交い6,7と第1の柱3の中間部との接合に用いたときに、第1の柱3と筋交い6,7との間に生じる上下方向の力と相対的な変位との関係を、実験により調査した結果について説明する。
実験は、接合金具20の柱固定部21と筋交い固定部24との間に相対的な変位を生じさせる方向の力を負荷し、変位を測定したものである。測定は、図5に示す接合金具20を用いたとき(供試体1)と、図14に示す従来の耐力壁で用いられる接合金具50を用いたとき(供試体2)とについて行い、結果を比較する。なお、従来の接合金具50は、図14に示すように鋼板材をL型に曲げ加工されたものであり、折り曲げられた一面を柱3に、他の面を筋交い6,7の側面に当接してビス等により固定するものである。
【0044】
実験の結果は図15に示すとおり、本発明の接合金具20を用いた実験において、接合金具20が弾性的に変形しているときには、作用する力の増大とともに変位がほぼ比例的に増大する。その後、塑性変形が生じ、変位に抵抗する力を維持したまま変位が増大する。そして、従来の接合金具50を用いたときと、ほぼ同等の耐力を有するとともに、終局的な破断までには、従来の接合金具を用いたときに比べて大幅に大きな変位を許容するものとなっている。
【0045】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で接合金具の形状は適宜に変更して用いることができる。また、接合金具を構成する材料は、低降伏点鋼等を用いることができ、その他破断までに大きな塑性変形が生じる金属等を用いることができる。
一方、本発明の耐力壁は、図1に示すように、2つの柱と2つの横架材とで囲まれる一つの枠体の内側に2つの筋交いを配置するものに限定されず、図16に示すように、3つの筋交いを配置するもの、4本の筋交いを配置するものであってもよい。
【0046】
図16(a)に示す耐力壁は、第1の筋交い61の一端を第2の柱4と梁5との接合部に固定し、第1の筋交い61の他端と第2の筋交い62の一端を第1の柱3の中間部に固定する。また、第2の筋交い62の他端と第3の筋交い63の一端を第2の柱4の中間部に固定し、第3の筋交い63の他端を第1の柱3と土台2との接合部に固定するものである。そして、第1の筋交い51と第2の筋交い52とを第1の柱3の中間部に接合する部分64、及び第2の筋交い62と第3の筋交い63とを第2の柱4の中間部に接合する部分65に、本発明の接合金具、例えば図5、図9又は図12に示す接合金具20,30,40を用いるものである。
一方、図16(b)に示す耐力壁は、4つの筋交いを配置するものであり、第1の筋交い71と第2の筋交い72が第1の柱3の上位の中間部に接合され、第2の筋交い72と第3の筋交い73が第2の柱4の中間部に接合され、第3の筋交い73と第4の筋交い74とが第1の柱3の下位の中間部に接合されている。そして、上記筋交いの2本を突き合わせて柱3,4の中間部に接合される部分75,76,77に、本発明の接合金具を用いている。
【符号の説明】
【0047】
1:布基礎、 2:土台(横架材)、 3:第1の柱、 4:第2の柱、 5:梁(横架材)、 6:第1の筋交い、 7:第2の筋交い、 8:第3の柱、 9,10:筋交い、 11:アンカーボルト 、 12:ホールダウン金物、 13:金物、 14:間柱、 15:釘、 16:筋交い固定金具、 17,18:ビス、
20:接合金具、 21:柱固定部、 22:折り返し部、 23:第2の折り返し部、 24:筋交い固定部、 25:第1の折り曲げ線、 26:第2の折り曲げ線、 27:第3の折り曲げ線、
30:接合金具、 31:柱固定部、 32:折り返し部、 33:筋交い固定部、 34:第1の折り曲げ線、 35:第2の折り曲げ線、
40:接合金具、 41:柱固定部、 42:折り返し部、 43:筋交い固定部、 44:第1の折り曲げ線、 45:第2の折り曲げ線、
50:接合金具
61:第1の筋交い、 62:第2の筋交い、 63:第3の筋交い、
71:第1の筋交い、 72:第2の筋交い、 73:第3の筋交い、 74:第4の筋交い、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ水平に支持された木製の下部横架材と、
該下部横架材上に間隔を開けて立設された木製の第1の柱及び第2の柱と、
これらの柱上でほぼ水平に支持される木製の上部横架材と、
前記第1の柱の上端から下端までの間の中間部に接合金具を介して一端が接合され、他端は前記接合金具による接合位置より高い位置で前記第2の柱に接合された第1の筋交いと、
前記接合金具を介して一端が前記第1の柱の前記中間部に接合され、他端が前記接合金具による接合位置より低い位置で前記第2の柱に接合された第2の筋交いと、を有し、
前記接合金具は、該接合金具の変形によって二つの筋交いの一端と該筋交いが接合された前記第1の柱とが、該第1の柱の軸線方向へ相対的に変位することを許容するものであることを特徴とする耐力壁。
【請求項2】
前記接合金具は、連続する板状の部材からなり、
前記柱の側面に当接して固定される柱固定部と、
前記柱固定部と連続し、鉛直方向の折り曲げ線によって折り返すように曲折されて前記柱固定部と対向する折り返し部と、
前記折り返し部を介して前記柱固定部と連続し、前記柱固定部とほぼ垂直となって前記筋交いの側面に固定される筋交い固定部とを有するものであることを特徴とする請求項1に記載の耐力壁。
【請求項3】
前記筋交いは、前記折り返し部に端面を当接又は近接対向した状態で前記筋交い固定部に固定されていることを特徴とする請求項2に記載の耐力壁。
【請求項4】
連続する金属の板状部材からなり、
柱の上端から下端までの中間部における側面に当接して固定される柱固定部と、
前記柱固定部と連続し、鉛直方向の折り曲げ線によって折り返すように曲折されて前記柱固定部と対向する折り返し部と、
前記折り返し部を介して前記柱固定部と連続し、前記柱固定部とほぼ垂直となって、斜め上方及び斜め下方へ架設される2つの筋交いの側面に固定される筋交い固定部と、を有することを特徴とする接合金具。
【請求項5】
前記折り返し部と連続し、該折り返し部を挟んで前記折り曲げ線とほぼ平行に設定された第2の折り曲げ線によって折り返すように曲折されて該折り返し部と対向する第2の折り返し部を有し、
前記筋交い固定部は、前記第2の折り返し部及び前記折り返し部を介して前記柱固定部と連続するものであることを特徴とする請求項4に記載の接合金具。
【請求項6】
前記柱固定部は、複数の小孔が設けられ、該小孔に差し入れた先端部を前記柱に打ち込み又はねじ込むことができる固定用部材によって前記柱に固定されるものであり、
前記折り返し部又は前記折り返し部と前記第2の折り返し部との前記小孔と対向する位置には開口が設けられ、
該開口は、前記固定用部材の先端部を前記小孔に差し入れて前記柱に打ち込み又はねじ込むことを可能とする大きさを有することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の接合金具。
【請求項7】
前記柱固定部と前記筋交い固定部との間に生じる鉛直方向の相対的な変位に対する抵抗力を大きく設定するときには、前記折り返し部又は前記第2の折り返し部に設けられた開口の水平方向又は鉛直方向の寸法が小さく、 前記柱固定部と前記筋交い固定部との間に生じる鉛直方向の相対的な変位に対する抵抗力を小さく設定するときには、前記折り返し部又は前記第2の折り返し部に設けられた開口の水平方向又は鉛直方向の寸法が大きく設定されていることを特徴とする請求項6に記載の接合金具。
【請求項1】
ほぼ水平に支持された木製の下部横架材と、
該下部横架材上に間隔を開けて立設された木製の第1の柱及び第2の柱と、
これらの柱上でほぼ水平に支持される木製の上部横架材と、
前記第1の柱の上端から下端までの間の中間部に接合金具を介して一端が接合され、他端は前記接合金具による接合位置より高い位置で前記第2の柱に接合された第1の筋交いと、
前記接合金具を介して一端が前記第1の柱の前記中間部に接合され、他端が前記接合金具による接合位置より低い位置で前記第2の柱に接合された第2の筋交いと、を有し、
前記接合金具は、該接合金具の変形によって二つの筋交いの一端と該筋交いが接合された前記第1の柱とが、該第1の柱の軸線方向へ相対的に変位することを許容するものであることを特徴とする耐力壁。
【請求項2】
前記接合金具は、連続する板状の部材からなり、
前記柱の側面に当接して固定される柱固定部と、
前記柱固定部と連続し、鉛直方向の折り曲げ線によって折り返すように曲折されて前記柱固定部と対向する折り返し部と、
前記折り返し部を介して前記柱固定部と連続し、前記柱固定部とほぼ垂直となって前記筋交いの側面に固定される筋交い固定部とを有するものであることを特徴とする請求項1に記載の耐力壁。
【請求項3】
前記筋交いは、前記折り返し部に端面を当接又は近接対向した状態で前記筋交い固定部に固定されていることを特徴とする請求項2に記載の耐力壁。
【請求項4】
連続する金属の板状部材からなり、
柱の上端から下端までの中間部における側面に当接して固定される柱固定部と、
前記柱固定部と連続し、鉛直方向の折り曲げ線によって折り返すように曲折されて前記柱固定部と対向する折り返し部と、
前記折り返し部を介して前記柱固定部と連続し、前記柱固定部とほぼ垂直となって、斜め上方及び斜め下方へ架設される2つの筋交いの側面に固定される筋交い固定部と、を有することを特徴とする接合金具。
【請求項5】
前記折り返し部と連続し、該折り返し部を挟んで前記折り曲げ線とほぼ平行に設定された第2の折り曲げ線によって折り返すように曲折されて該折り返し部と対向する第2の折り返し部を有し、
前記筋交い固定部は、前記第2の折り返し部及び前記折り返し部を介して前記柱固定部と連続するものであることを特徴とする請求項4に記載の接合金具。
【請求項6】
前記柱固定部は、複数の小孔が設けられ、該小孔に差し入れた先端部を前記柱に打ち込み又はねじ込むことができる固定用部材によって前記柱に固定されるものであり、
前記折り返し部又は前記折り返し部と前記第2の折り返し部との前記小孔と対向する位置には開口が設けられ、
該開口は、前記固定用部材の先端部を前記小孔に差し入れて前記柱に打ち込み又はねじ込むことを可能とする大きさを有することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の接合金具。
【請求項7】
前記柱固定部と前記筋交い固定部との間に生じる鉛直方向の相対的な変位に対する抵抗力を大きく設定するときには、前記折り返し部又は前記第2の折り返し部に設けられた開口の水平方向又は鉛直方向の寸法が小さく、 前記柱固定部と前記筋交い固定部との間に生じる鉛直方向の相対的な変位に対する抵抗力を小さく設定するときには、前記折り返し部又は前記第2の折り返し部に設けられた開口の水平方向又は鉛直方向の寸法が大きく設定されていることを特徴とする請求項6に記載の接合金具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−28944(P2013−28944A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165310(P2011−165310)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】
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