説明

耐座屈特性に優れたブレース用電縫鋼管及びその製造方法

【課題】ブレースとして用いるに十分な耐座屈特性を備えたブレース用電縫鋼管及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の耐座屈特性に優れたブレース用電縫鋼管は、質量%で、C:0.03〜0.25、Si:0.05〜1.0、Mn:0.3〜1.6、P:0.03以下、S:0.015以下、Sol.Al:0.005〜0.1、N:0.0005〜0.006、残部Fe及び不可避的不純物からなり、素材の転位密度の平均値が2×1015/m2以下であり、かつ溶接部を除き、最大板厚と最小板厚との差td(μm)と、外表面の10点平均粗さRz(μm)が、0≦td×√Rz≦40000の式1の条件を満たす。これにより優れた耐座屈特性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の耐震補強材として用いられるブレースを構成する耐座屈特性に優れたブレース用電縫鋼管及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物の耐震補強材として用いられるブレースとして、鋼管を用いた鋼管ブレース(特許文献1)が知られている。ブレースは地震の発生時に建物の倒壊を防ぐためのものであり、耐座屈特性が要求される。地震の振動は繰り返されるため、繰り返し載荷時に荷重低下の小さいものが有利である。特許文献1の鋼管ブレースは二重鋼管構造とすることにより耐座屈特性を高めたものであるが、構造が複雑化するためコスト高となる。そこで単一鋼管によるブレースが求められている。
【0003】
非特許文献1である日本建築学会論文報告集260号の104頁には、シームレス鋼管よりも安価に製造できる電縫鋼管を、ブレースとして使用することが記載されている。しかし一般的な電縫鋼管は繰り返し載荷時の荷重低下が大きく、単一鋼管でブレースとして用いるには耐座屈特性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−223415号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本建築学会論文報告集260号、昭和52年10月発行、99〜108頁「鉄構造筋違付骨格の復元力特性」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は上記した従来技術の問題点を解決し、単一鋼管でブレースとして用いるに十分な耐座屈特性を備えたブレース用電縫鋼管及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の耐座屈特性に優れたブレース用電縫鋼管は、質量%で、C:0.03〜0.25、Si:0.05〜1.0、Mn:0.3〜1.6、P:0.03以下、S:0.015以下、Sol.Al:0.005〜0.1、N:0.0005〜0.006、残部Fe及び不可避的不純物からなり、鋼管母材部の転位密度の平均値が2×1015/m2以下であり、かつ溶接部を除き、最大板厚と最小板厚との差td(μm)と、外表面の10点平均粗さRz(μm)が、0≦td×√Rz≦40000の式1の条件を満たすことを特徴とするものである。
【0008】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の耐座屈特性に優れたブレース用電縫鋼管の製造方法は、質量%で、C:0.03〜0.25、Si:0.05〜1.0、Mn:0.3〜1.6、P:0.03以下、S:0.015以下、Sol.Al:0.005〜0.1、N:0.0005〜0.006、残部Fe及び不可避的不純物からな鋼スラブを、1070℃以上1300℃以下に加熱した後、仕上げ圧延終了温度を800℃以上1070℃以下とする熱間圧延を施し、巻取り温度500℃以上700℃以下で熱延鋼板とした後、ロール成形により巻いて鋼管とし、4ロールサイジングでの縮径歪の合計が0.2%以上0.6%以下となる整形を行い、その後、加熱温度T(K)と加熱時間t(h)が、12800≦T(logt+20)≦19000かつT≦1000の式2の条件を満足する焼鈍を行うことを特徴とするものである。
【0009】
なお何れの発明においても、ブレース用電縫鋼管を構成する鋼がさらに、焼入れ性向上元素群として、Cu:0.005〜1.0、Ni: 0.005〜1.0、Cr:0.03〜1.0、Mo:0.1〜0.5、B:0.0001〜0.01、結晶微細化元素群として、Ti:0.005〜0.1、Nb:0.003〜0.2、V:0.001〜0.2、W:0.001〜0.1、介在物形態制御元素として、Ca:0.0001〜0.02、Mg:0.0001〜0.02、Zr:0.0001〜0.02、REM:0.0001〜0.02の中から選択された1種または2種以上の元素を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の耐座屈特性に優れたブレース用電縫鋼管は、鋼管母材部の転位密度の平均値を2×1015/m2以下と低くするとともに、最大板厚と最小板厚との差td(μm)と、外表面の10点平均粗さRz(μm)が0≦td×√Rz≦40000の式1の条件を満たすようにしたことにより、荷重印加時における一様伸びが高くかつ応力集中も少なくなり、荷重低下係数kdの値が大きく、その絶対値が小さくなる。このため地震の繰り返し振動により繰返し荷重が負荷された際の耐座屈特性を高めることができ、ブレース用電縫鋼管の耐座屈特性を向上させることができる。
【0011】
また本発明の耐座屈特性に優れたブレース用電縫鋼管の製造方法によれば、上記した特性を備えた転位密度の低いブレース用電縫鋼管を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】転位密度と荷重低下係数kdとの関係を示すグラフである。
【図2】eとnの関係を示すグラフである。
【図3】圧縮サイクルのみを抜き出したeとnの関係を示すグラフである。
【図4】td×√Rzの値と荷重低下係数kdとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の耐座屈特性に優れたブレース用電縫鋼管の基本的な鋼組成は、質量%で、C:0.03〜0.25、Si:0.05〜1.0、Mn:0.3〜1.6、P:0.03以下、S:0.015以下、Sol.Al:0.005〜0.1、N:0.0005〜0.006、残部Fe及び不可避的不純物からなるものである。このような組成を持つ鋼よりなる電縫鋼管に後述する加工及び熱処理を施すことにより、転位密度の平均値を2×1015/m2以下と低くして、更に式1の条件を満足するブレース用電縫鋼管を効率的に得ることができる。先ず各元素の数値限定の理由を説明する。
【0014】
Cは鋼の強度を左右する元素であり、地震時の圧縮−引張の繰り返し荷重載荷に耐えうる強度を得るためには0.03%以上が必要である。しかし0.25%を超えると電縫鋼管母材部の転位密度が過度に高密度となり強度が過大となるので、耐座屈特性を確保するために0.25%以下とする。Siは脱酸元素として少なくとも0.05%の添加が必要であるが、過剰に添加すると電縫溶接性が低下するため、最大でも1.0%とする。Mnは焼入性を向上して電縫鋼管への熱処理との組合せで電縫鋼管母材部の転位密度を低く抑制するためには有効な元素であり、転位密度の平均値を2×1015/m2以下に制御することが出来る。このためには少なくとも0.3%の添加が必要であるが、過剰に添加すると電縫溶接性が低下して微小割れ等により耐座屈特性が著しく低下するため1.6%以下とする。
【0015】
PとSは鋼の清浄度を低下させる元素であるため、それぞれ0.03%以下、0.015%以下とする。Alは脱酸元素として添加が必要であり、またAlNを生成させて結晶の細粒化や粗大化抑制により、焼入性が過度に向上するのを防ぎ転位密度を低く抑える。このためには0.005%以上を添加する必要がある。しかし0.1%を超えると鋼の清浄度を著しく低下させて、地震の圧縮−引張の繰返し荷重が載荷する場合に、粗大AlN起因の割れがブレース用電縫鋼管に発生する懸念があるため、0.005〜0.1%とする。NもAlと同様にAlNを生成させて結晶の細粒化促進や粗大化抑制により、焼入性が過度に向上するのを防ぎ転位密度を低く抑える。このためには0.0005%以上を添加する必要がある。しかし0.006%を超えると鋼の清浄度を著しく低下させて、地震で圧縮−引張の繰返し荷重が載荷する場合に、粗大なAlNに起因する割れがブレース用電縫鋼管に発生する場合があるため、0.0005〜0.006%とする。
【0016】
上記した基本的な元素のほかに、焼入れ性向上元素群として、Cu:0.005〜1.0、Ni: 0.005〜1.0、Cr:0.03〜1.0、Mo:0.1〜0.5、B:0.0001〜0.01、結晶微細化元素群として、Ti:0.005〜0.1、Nb:0.003〜0.2、V:0.001〜0.2、W:0.001〜0.1、介在物形態制御元素群として、Ca:0.0001〜0.02、Mg:0.0001〜0.02、Zr:0.0001〜0.02、REM:0.0001〜0.02の中から選択された1種または2種以上の元素を含有させることができる。焼入れ性向上元素(Cu、Ni、Cr、Mo、B)は、いずれも焼入性を向上して、電縫鋼管にて、溶接後に前記の加工と焼鈍を施した際に、効率的に転位密度の平均値を2×1015/m2以下に制御するのに有効な元素であるが、過剰に添加すると転位密度の平均値を2×1015/m2以下に低くすることが困難となり、またコストアップの要因ともなるので、上記の範囲とすることが好ましい。結晶微細化元素(Ti、Nb、V、W)は、結晶を微細化するか粗大化抑制するにより、焼入性を抑制してブレース用電縫鋼管の母材部の転位密度を低く抑えるのに有効な元素である。しかし、過剰に添加すると粗大な炭化物や炭窒化物を形成し易くなり式1の条件を満足しても耐座屈特性が低下する場合があり、またコストアップ要因となるので、上記の範囲とすることが好ましい。
【0017】
介在物形態制御元素(Ca、Mg、Zr、REM)は、ブレース用電縫鋼管で粗大な介在物の生成を抑制し、介在物を微細に分散させるので、地震でブレース用電縫鋼管の鋼管長方向に圧縮−引張荷重が繰返し載荷される場合でも、電縫鋼管の母材部または溶接部に割れが発生する懸念を低減させるために有効な元素である。しかし過剰に添加すると、Ca、Mg、Zr、REMの粗大化した硫化物やクラスター化した酸化物といった複合化合物が電縫鋼管の母材部と溶接部に形成し、母材部の清浄度を低下させるとともに電縫溶接部で繰返し荷重負荷時の耐座屈特性が低下するおそれがあるので、上記の範囲とすることが好ましい。
【0018】
本発明のブレース用電縫鋼管は、転位密度の平均値が2×1015/m2以下である。図1に示すように、転位密度が2×1015/m2以下では、荷重低下特性の低下はないが、これより増加すると荷重低下特性が急激に低下する。ここで図1に示される荷重低下係数kdについて説明する。鋼管に圧縮荷重と引張荷重を交互に加えて鋼管の変形履歴を求めると、図2に示すようになる。縦軸は荷重を降伏荷重(降伏応力×荷重負荷前の管肉厚断面積)で割って無次元化した値nであり、横軸は変位を降伏変位(降伏歪×荷重負荷前の鋼管長さ)で割って無次元化した値eである。この圧縮荷重側、引張荷重側の降伏応力、降伏歪は、鋼管の引張試験で求まる値を使えば良い。図3は図2のグラフから圧縮サイクルのみを抜き出し、横軸をeの積算値としたグラフである。この図3のグラフにおいて頂点を結ぶ直線の勾配が荷重低下係数kdであり、そのkd値が小さくかつその絶対値が大きいほど繰り返し荷重に対する強度低下が大きいこととなる。なお、さらに詳細は実施例の項で説明する。また、転位密度の平均値を2×1015/m2以下とすることは、本発明者らの別発明のように、電縫鋼管の母材部組織が硬質相を面積分率で3%以上存在する場合には、困難である。
【0019】
また本発明のブレース用電縫鋼管は、溶接部を除き、最大板厚と最小板厚との差td(μm)と、外表面の10点平均粗さRz(μm)が、0≦td×√Rz≦40000の式1の条件を満たすことを特徴とするものである。図4は式1のtd×√Rzの値と荷重低下係数kdとの関係を示すグラフである。このグラフから明らかなように、0≦td×√Rz≦40000の範囲では荷重低下係数kdは一定であるが、40000を超えると急激に低下する。ここでtd×√Rzの値が大きいということはtdとRzの少なくとも一方の値が大きいということを意味しており、tdが大きくなると板厚の薄いところに荷重が集中し、またRzが大きくなると鋼管の外表面凹凸の凹部に荷重が集中するため、荷重低下係数kdが大幅に小さくなると考えられる。
【0020】
次に本発明のブレース用電縫鋼管の製造方法を説明する。本発明のブレース用電縫鋼管は、上記組成の鋼からなる鋼スラブを、1070℃以上1300℃以下に加熱した後、仕上げ圧延終了温度を800℃以上1070℃以下とする熱間圧延を施し、巻取り温度500℃以上700℃以下で熱延鋼板とした後、ロール成形により巻いて鋼管とし、4ロールサイジングでの縮径歪の合計が0.2%以上0.6%以下となる整形を行い、その後、加熱温度T(K)と加熱時間t(h)が、12800≦T(logt+20)≦19000かつT≦1000の式2を満足する焼鈍を行うことを特徴とする工程で製造される。ロール成形で巻いて鋼管とするには、ロール成形により鋼板幅両端部を接近せしめ、その鋼板幅両端部に電縫溶接を施せば良い。
【0021】
加熱温度を1070℃以上とするのは、鋼スラブの溶融凝固過程で析出した炭化物、窒化合物、炭窒化合物を再固溶させ、元素を均一分散させるためである。しかし加熱温度が1300℃を超えると熱間圧延工程でAlNが粗大に析出し、鋼の清浄度を低下させて、地震時の圧縮−引張荷重の繰返し載荷により、粗大AlN起因の割れがブレース用電縫鋼管に発生する懸念があるので、加熱温度を1070℃以上1300℃以下とした。
【0022】
圧延終了温度を800℃以上とするのは、この温度よりも低温であると仕上圧延時に鋼板の転位密度が増加し、鋼管母材部で転位密度の平均値が2×1015/m2を超過し易いためである。しかし1070℃を超えると粒成長が顕著となり結晶粒が粗大化するため、熱間圧延における圧延終了温度を800℃以上1070℃以下とした。
【0023】
巻取り温度を500℃以上とするのは、この温度よりも低温であると電縫鋼管の母材部での転位密度の平均値が2×1015/m2を超過する場合があり耐座屈特性が低下する懸念があるためである。しかし700℃を超えるとフェライトの核生成が不十分で粗大粒となる懸念があるため、巻取り温度を500℃以上700℃以下とした。
【0024】
このようにして得られた熱延鋼板はロール成形により巻いて前記鋼板の幅両端同士を電縫溶接して電縫鋼管としたうえ、4ロールサイジングで縮径歪の合計が0.2%以上0.6%以下となる整形を行う。本発明の電縫鋼管の電縫溶接とは、電気抵抗溶接(高周波溶接、低中周波溶接、高周波誘導溶接含む)やレーザー溶接やレーザ・アークハイブリッド溶接等が可能である。4ロールサイジングを採用するのは、鋼管の周方向の均一性を確保するためであり、2ロールでは鋼管の0°位置と180°位置に歪が集中し、3ロールでは鋼管の0°位置と120°位置と240°位置に歪が集中するため、前記の式1を満足するよにtdとRzの値を小さくすることが困難である。
【0025】
4ロールサイジングで縮径歪の合計を0.2%以上とするのは、縮径しながら電縫鋼管の肉厚差及び外表面粗さを均一にするためである。しかし縮径歪が0.6%を超えると鋼管が歪み過ぎて、肉厚差tdと外表面粗さRzが大きくなりすぎるため、式1の条件を安定的に満足することが困難になり、また後述の式2の焼鈍熱処理を電縫鋼管に施しても、加工転位が多すぎ鋼管母材部の転位密度を低くすることが困難となる。このため、縮径歪の合計を0.2%以上0.6%以下とした。
【0026】
その後、加熱温度T(K)と加熱時間t(h)が、12800≦T(logt+20)≦19000かつT≦1000の式2を満足する焼鈍を行う。この式2のT(logt+20)の値を12800以上とするのは、鋼管母材部の転位密度の平均値を2×1015/m2以下とするのに有効なためであり、19000以下とするのは繰り返し荷重に耐え得る強度を確保するためである。加熱温度T(K)が1000(K)を超える場合には、熱処理中に生成したオーステナイトから鋼管母材部で硬質相が面積率で3%以上存在する場合があるので、母材部の転位密度を低くすることが難しい。
【0027】
本発明における各値の測定方法は次の通りである。
転位密度の測定は、X線でのWilliamson-Hall法(CAMP-ISIJ Vol.17(2004)-396)によった。電縫鋼管の母材部から、管周方向と管長手方向に各10mmの四角の試験片を5個採取して、管表面のスケールを酸洗除去してから、転位密度測定用の試験片とした。試験片の表面に前記の方法でX線にて転位密度を測定した。測定した5個の転位密度の平均値を、鋼管母材部の転位密度の平均値とした。
【0028】
tdは鋼管の断面を切断して板厚を周方向に測定し、溶接部を除く最大板厚と最小板厚との差をtdとした。Rzは、基準長さ(長手方向)2.5mm分のうち、高さ方向で5番目までの山頂の平均値と最深から5番目までの谷底の平均値との差を算出し、Rzとした。
【0029】
このようにして製造された本発明のブレース用電縫鋼管は、ブレースとして用いるに十分な耐座屈特性を備えたものである。なお、ブレース用鋼管としては、引張強度が400MPa級、490MPa級、590MPa級の鋼管が一般的に使用される。本発明のブレース用電縫鋼管は、この強度レベルを十分に満足可能である。これより強度レベルが著しく低い電縫鋼管(例えば、C含有量が本発明下限値未満である降伏強度100MPa級)では、地震時の圧縮−引張荷重の繰り返し載荷に十分耐えることが困難である。また、著しく強度が高い超高強度鋼管(例えばC含有量が本発明上限値超である引張強度が1050MPa級、1150MPa級)では、本発明の転位密度条件と式1の両方を同時に満足することが難しいので、ブレース用鋼管としては、地震時に圧縮−引張荷重の繰り返し載荷に対して、荷重低下が大きくなり、耐座屈特性が低下する場合がある。なお、本発明のブレース用電縫鋼管は、鋼組成条件や転位密度条件や式1の条件を全て満足していれば、鋼管の素鋼板としては、熱延鋼板に更に冷延や焼鈍を施した鋼板を用いても良く、又は、それら鋼板に表面処理(防錆処理、潤滑処理等)を加えた鋼板を用いても良い。電縫溶接後に表面処理(防錆処理等)を施した電縫鋼管であっても、本発明の範囲を逸脱するものではない。本発明の電縫鋼管の管寸法は、式1の条件を満足していれば、ブレース用電縫鋼管を使用するための設計条件に応じて決めることが出来る。例えば電縫鋼管の管外径100mm〜400mm、板厚(溶接部を除く管肉厚)で3〜25mmでも構わない。
以下に本発明の実施例を比較例とともに示す。
【実施例】
【0030】
表1に示される組成の鋼から、表2に示される製造条件でブレース用電縫鋼管を製造し、各鋼管の耐座屈特性を測定した結果を表2中に示した。試験に使用した電縫鋼管の寸法は、φ244.5mm×t8.0mm×L2600mmである。耐座屈特性の測定方法は次の通りである。非特許文献1において用いられている方法と同様に、鋼管に引張−圧縮荷重を変位制御で繰り返し加えた。鋼管の降伏変位をδyとし、加える変位δとの比δ/δyをeしたとき、各サイクルで加える変位をeの値がサイクル数と等しくなるように加えていった。そのとき鋼管に加わる荷重をPとし、Pを降伏軸力Pyで除した値P/Pyをnとし、図2に例示するように各サイクルで得られるe‐nの関係を測定した。上側が圧縮、下側が引張りである。次に図3に示すように最大荷重点を結んだ近似直線を引き、その勾配を荷重低下係数kdとした。また鋼管中央部に局部座屈を生じたときのeの値も記録した。
【0031】
さらに非特許文献1に記載されているkd=−0.1(√εy ×λ−0.75)の式から得られた従来の電縫鋼管で予測されるkdの計算値も参考のために表2に示した。耐座屈特性は実際に局部座屈を生じたときのeの値で評価し、eが10超を良好とした。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
発明例の1〜24では何れも鋼管母材部の転位密度の平均値が2×1015/m2以下と十分に小さく、地震時の圧縮−引張荷重の繰返し載荷において電縫鋼管に転位が導入されても局部座屈を生じにくい状態となっており、またtd×√Rzが式1を満足して小さいので、載荷荷重の集中が少ない。このためkdの実測値は従来の電縫鋼管から推定されるkdの計算値よりも大きく、その結果、座屈を起こすeの値も10超であり、比較例の数倍程度と優れた耐座屈特性を示す。表2に示されるように、実施例ではtdは40〜70μm、Rzは10〜30μmの範囲に入る。
【0035】
一方、比較例1ではC成分値が高く鋼管の転位密度が高すぎ延性が低いので耐座屈特性が不十分である。比較例2はMn成分値が過小であり繰り返し荷重に耐え得る強度が得られないため、耐座屈特性が悪い。比較例3は圧延終了温度が低く転位密度が高いので耐座屈特性が悪い。比較例4は2ロールサイジングを行ったため鋼管の周方向で歪みの偏差が生じ、tdとRzが十分に小さくならず式1のtd×√Rzの条件を満足しないので耐座屈特性が悪い。比較例5は縮径歪が0.18%と不足したため十分な縮径ができていないので、tdとRzが十分に小さくならず式1のtd×√Rzの条件を外れるので耐座屈特性が悪い。比較例6は焼鈍条件の加熱温度Tが1000K超で高すぎてT(logt+20)が大きすぎるから式2を満足せず、転位密度も高すぎるので、耐座屈特性が悪い。比較例7は式2のT(logt+20)の値が小さ過ぎるので、鋼管母材分の転位密度を低下するのに十分な焼鈍ができていないために転位密度が2×1015/m2を超えるので、耐座屈特性が悪い。比較例8はサイジング後の焼鈍を行っていないために、サイジング工程で電縫鋼管に転位が増加したままであり、転位密度が2×1015/m2を大幅に超えているので、やはり耐座屈特性が悪い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.03〜0.25、Si:0.05〜1.0、Mn:0.3〜1.6、P:0.03以下、S:0.015以下、Sol.Al:0.005〜0.1、N:0.0005〜0.006、残部Fe及び不可避的不純物からなり、鋼管母材部の転位密度の平均値が2×1015/m2以下であり、かつ溶接部を除き、最大板厚と最小板厚との差td(μm)と、外表面の10点平均粗さRz(μm)が、0≦td×√Rz≦40000の式1の条件を満たすことを特徴とする耐座屈特性に優れたブレース用電縫鋼管。
【請求項2】
ブレース用電縫鋼管を構成する鋼がさらに、焼入れ性向上元素群として、Cu:0.005〜1.0、Ni: 0.005〜1.0、Cr:0.03〜1.0、Mo:0.1〜0.5、B:0.0001〜0.01、結晶微細化元素群として、Ti:0.005〜0.1、Nb:0.003〜0.2、V:0.001〜0.2、W:0.001〜0.1、介在物形態制御元素として、Ca:0.0001〜0.02、Mg:0.0001〜0.2、Zr:0.0001〜0.02、REM:0.0001〜0.02の中から選択された1種または2種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐座屈特性に優れたブレース用電縫鋼管。
【請求項3】
質量%で、C:0.03〜0.25、Si:0.05〜1.0、Mn:0.3〜1.6、P:0.03以下、S:0.015以下、Sol.Al:0.005〜0.1、N:0.0005〜0.006、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼スラブを、1070℃以上1300℃以下に加熱した後、仕上げ圧延終了温度を800℃以上1070℃以下とする熱間圧延を施し、巻取り温度500℃以上700℃以下で熱延鋼板とした後、ロール成形により巻いて鋼管とし、4ロールサイジングでの縮径歪の合計が0.2%以上0.6%以下となる整形を行い、その後、加熱温度T(K)と加熱時間t(h)が、12800≦T(logt+20)≦19000かつT≦1000の式2の条件を満足する焼鈍を行うことを特徴とする耐座屈特性に優れたブレース用電縫鋼管の製造方法。
【請求項4】
ブレース用電縫鋼管を構成する鋼がさらに、焼入れ性向上元素群として、Cu:0.005〜1.0、Ni: 0.005〜1.0、Cr:0.03〜1.0、Mo:0.1〜0.5、B:0.0001〜0.01、結晶微細化元素群として、Ti:0.005〜0.1、Nb:0.003〜0.2、V:0.001〜0.2、W:0.001〜0.1、介在物形態制御元素として、Ca:0.0001〜0.02、Mg:0.0001〜0.02、Zr:0.0001〜0.02、REM:0.0001〜0.02の中から選択された1種または2種以上の元素を含有することを特徴とする請求項3に記載の耐座屈特性に優れたブレース用電縫鋼管の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−246972(P2011−246972A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121253(P2010−121253)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】