説明

耐弾防護部材及び防護製品

【課題】高速の飛来物に対し、安価で、かつセラミックスタイル接合面の隙間が小さく優れた耐衝撃性を有し、かつ、軽量である耐弾防護部材及び防護製品を提供する。
【解決手段】複数枚の曲面形状であるセラミックスタイル2と高強度繊維強化プラスチック3からなる耐弾防護部材11であって、1つの軸に対して、セラミックスタイル2の接合面がすべて平行であることを特徴とする耐弾防護部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐弾防護部材及びそれを用いてなる防護製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、飛来する弾丸や砲弾等の破片から身体を防護するための防護製品が開発されおり、その1つとして複数のセラミックスタイルを配置することによって耐弾性を付与した防護製品がある。例えば、高強度繊維強化プラスチックからなる曲面形状成形物の表面に、裏面を高強度繊維強化プラスチックと同一の曲面形状に合せ、表面が平面であるセラミックスを所定数量組合せて並べ接着、固定する複合成形物が提案されている(特許文献1)。かかるセラミックスタイルの形状では、セラミックスタイル端面にテーパーを入れる必要がある(特許文献1の図3)。すなわち、端面にテーパーが入っていないセラミックスタイル(特許文献1の図1)では接合面に隙間を生じてしまい、耐弾性が劣るものとなるためである。しかし、端面にテーパーが入っているため同一の金型ではセラミックスタイルの厚さを変更できず、対象とする高速の飛来物それぞれに適した厚さとなるセラミックス成形用金型を製作する必要があり、製品価格が高価になるといった問題があった。
【0003】
また、ヘルメットの表面層にセラミックスで構成された層を有する防護ヘルメットが提案されている(特許文献2)。かかる防護ヘルメットでは、ヘルメットの表層にセラミックを貼り付けるためにセラミックを特殊な形状とする(特許文献2の図3(A)、図4)か、セラミックスタイル端面にテーパーを入れる(特許文献2の図3(B))必要がある。したがって、上記と同様の問題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3207330号公報(請求項1、図1、図3)
【特許文献2】特開平9−138097号公報(特許請求の範囲、図3、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術に鑑み、高速の飛来物に対し同一の金型でセラミックスの厚さを変更することができるために安価で、かつセラミックスタイル接合面の隙間が小さく優れた耐弾性を有し、かつ、軽量であって身体等への装着物を構成する場合にも所望の機能を阻害せずに構成できる耐衝撃性部材及び防護製品を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、複数枚の曲面形状セラミックスタイルと高強度繊維強化プラスチックとからなる耐弾防護部材であって、セラミックスタイルの接合面のすべてが任意の1つの軸に対して平行であることを特徴とする耐弾防護部材である。
【0007】
また本発明は、本発明の耐弾防護部材を有してなることを特徴とする防護製品である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来のものに比べ、安価で、かつセラミックスタイル接合面の隙間が小さく優れた耐弾性を有し、かつ、軽量である耐弾防護部材及び防護製品を提供できる。したがって、身体等への装着物を構成する場合には所望の機能を発揮させることが可能になり、また、車両、艦船、航空機の付加装甲に用いる場合にも、極めて優れた耐弾性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)本発明の好ましい態様における、耐弾防護部材の好ましい形状(シングルカーブ)の一例を表した断面模式図である。(b)本発明におけるセラミックスタイルの好ましい態様の一例でを表した図である。(c)本発明におけるセラミックスタイルの好ましい態様の別の一例でを表した図である。
【図2】(a)従来技術の耐弾防護部材の形状(シングルカーブ)の一例を表した断面模式図である。(b)及び(c)は従来技術で使用されているセラミックスタイルの好ましい態様の一例の模式図である。
【図3】本発明の好ましい態様における、耐弾防護部材の好ましい形状(シングルカーブ)の一例を表した図である。
【図4】本発明の好ましい態様における、耐弾防護部材の好ましい形状(多面表面及び複心曲線から構成された形状)の一例を表した図である。
【図5】本発明の好ましい態様における、セラミックスタイルの好ましい配置の一例を表した図である。
【図6】本発明の好ましい態様における、セラミックスタイルの好ましい配置の別の一例を表した図である。
【図7】本発明の好ましい態様における、セラミックスタイルの好ましい配置の別の一例を表した図である。
【図8】本発明の好ましい態様における、セラミックスタイルの好ましい配置の別の一例を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の耐弾防護部材は、複数枚の曲面形状のセラミックスタイルおよび高強度繊維強化プラスチック(以下、「FRP」とも表す。)からなる。セラミックスが自身の破壊により着弾の衝撃エネルギーを分散・吸収し、さらにFRPが残る弾丸の衝撃エネルギーを吸収して弾丸の貫通を食い止める。
【0011】
本発明の耐弾防護部材におけるセラミックスの材料としては、アルミナ類、窒化類、珪石類、ボロン類、マグネシア類等や、これらの混合焼成物を好ましく採用することができる。なかでも、耐弾性、軽量性、強度などの点から、アルミナ(Al、純度80〜99.9%)、窒化ケイ素(Si)、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(BC)をより好ましく使用できる。
【0012】
セラミックスの特性としては、耐弾性の面から、曲げ強度250MPa以上、弾性率300GPa以上、ビッカース硬度1000GPa以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の耐弾防護部材においては、1枚の防護製品について複数枚のセラミックスタイルを配列させてセラミックスタイル層を形成し、FRPと積層させる。本発明においては、複数枚の曲面形状のセラミックスタイルを配列させるために、配列する全てのセラミックスタイルの接合面(端面)の全てがある任意の1つの軸に対して平行であることが必須である(図1参照。)。ここで接合面が任意の1つの軸と平行であるとは、接合面に含まれる直線の1つが任意の1つの軸と平行であることを意味する。
【0014】
このようなセラミックスタイルの接合面(端面)形状にすることで、乾式プレスによるグリーン成形時に容易にセラミックスタイルの厚さを変えることができ、対象とする高速の飛来物に合わせたセラミックスタイルの設計が可能となり、セラミックスタイル用金型の費用削減が図れる。また、隣り合うセラミックスタイルとの接合面に隙間が生じにくく、優れた接合面の耐衝撃性が得られ、特に多面表面及び複心曲線から構成された形状に有用である。
【0015】
一方、隣り合うセラミックスタイルとの接合面に隙間を生じさせない方法としては、図2のような方法も有りうる。すなわち、各接合点における法線ベクトルにあわせて接合面を形成する方法であるが、特に多面表面及び複心曲線から構成された形状の場合、焼結時に生じたセラミックスタイルの歪みによって、テーパーのあるセラミックスタイル接合面に隙間が生じやすくなる。また、図2(b)や(c)のような従来のセラミックスタイルの場合、セラミックスタイル端面にテーパー(α)が入っているため、対象とする弾丸それぞれに適した厚さに容易に設計変更できない。すなわち、従来形状のセラミックスタイルの厚さを変更する場合、セラミックスタイル用金型を一義的に設計するか、あるいは必要とするセラミックスタイル寸法よりも大きなセラミックスタイルを製作、研削する必要が生じ、状況に合わせて厚さを変えるといった柔軟な対応は不可能である。
【0016】
また、セラミックスタイルの正面形状としては、どのような形状でもよく、三角形、長方形、正方形、台形、5角形、6角形、円形等を採用することができ、耐連射性能や耐弾防護部材の形状に合わせ、適宜設計できる。例えば、耐弾防護部材の外寸が縦20cm、横25cmの長方形な多面表面及び複心曲線から構成された形状である場合、正面形状が5cm角の正方形セラミックスタイルであれば20枚を配置することになる。また、セラミックスタイルの厚さは、対象とする弾丸の構造や重量、速度、安全率などにより適宜選択するものとする。例えば、高速の飛来物が30−06M2AP弾の場合、アルミナセラミックスであれば7〜13mmの範囲内にあることが好ましく、NATO M80弾の場合、アルミナセラミックスであれば4〜9mmの範囲内にあることが好ましく、NATO SS−109弾であれば3.5〜7mmの範囲内にあることが好ましい。各飛来物に対し厚み未満であれば、十分な耐衝撃性能を付与できない。また、厚みを超えると満足できる耐衝撃性能を付与できるが、耐弾防護部材の重量が増す。
【0017】
また、本発明のセラミックスタイルの製造方法として、一軸加圧成型あるいは冷間静水圧成型により成型後、焼結する方法や、ホットプレスにより焼結しながら成型する方法、鋳込み成型後、焼結する方法などをあげることができる。
【0018】
また、本発明でいう曲面形状セラミックスタイルとは、おもて面及び裏面がいずれも曲面形状であるセラミックスタイルをいう。曲面形状は、セラミックスタイルのある一方向にのみ概ね同一の曲率を有する形状(シングルカーブ)でもよく、多面表面及び複心曲線から構成された形状(マルチカーブ)でもよいが、特にセラミックスタイルの厚さが均一で、かつ、多面表面及び複心曲線から構成された形状のものが本発明の効果が大きい。また、セラミックスタイルのおもて面及び裏面は同一の曲面形状であることが好ましく、さらに積層するFRPの曲面形状にと同一に合わせることも好ましい。例えば、本発明の耐弾防護部材を身体の胸部へ着用する場合、シングルカーブであれば、セラミックスタイルの曲率が450mmなど、身体の形状に合わせて適宜選択できる。また、マルチカーブの場合も、身体の形状に合わせて多面表面及び複心曲線を適宜選択できる。
【0019】
また、図7や図8のように隣り合うセラミックスタイルの頂点同士が1点に会合する配列よりも、図5や図6のように隣り合うセラミックスタイルの頂点同士の会合する部分が、さらに隣り合う第三のセラミックスタイルの辺の途上に位置するように配列とすることが好ましい。このように配列することで、隣り合うセラミックスタイルの頂点同士が会合する点におけるセラミックスタイルの枚数を少なくし(例えば図7の丸で示す箇所において4枚に対し、図5の丸で示す箇所において3枚)、脆い箇所ができるのを防ぐことができる。
【0020】
本発明の耐弾防護部材は、配列させたセラミックタイル層の片面にFRPを積層し、固定する。耐弾性を発揮するメカニズムからかわるとおり、FRPは人体側に積層させる。
【0021】
FRPにおける繊維としては、繊維糸条として引張強度が17cN/dtex以上であるものが好ましい。一方、価格、生産性の点からは45cN/dtex以下が好ましい。なかでも、アラミド繊維が好ましい。アラミド繊維は耐熱性に優れ、徹甲焼夷弾に対しても優れた防弾性を発揮する。
【0022】
FRPにおける繊維の総繊度としては、200〜4000dtexが好ましく、より好ましくは400〜3500dtexである。200dtex以上とすることで、耐弾性に優れる。また、4000dtex以下とすることで、裁断時等の取り扱い性に優れる。
【0023】
FRPにおける繊維には、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤、などを含有させてもよく、また、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、顔料、難燃剤、油剤などを付着させてもよい。
【0024】
FRPにおける繊維布帛の形態としては、織物、編物、不織布、フェルト、一方向性シート(UD)、UDを0°/90°に積層したもの、3次元構造物などが好ましく使用でき、寸法安定性、強度から織物がさらに好ましく使用できる。織物としては、平織、綾織、朱子織、畝織、斜子織、杉綾、二重織などを用いることができる。なかでも、平織が耐弾性、寸法安定性、取り扱い性の点から好ましい。
【0025】
FRPを構成するマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0026】
熱硬化性樹脂としては例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、珪素樹脂、ポリイミド樹脂、ビニルエステル樹脂などやその変性樹脂などを挙げることができる。
【0027】
熱可塑性樹脂としては例えば、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル、ポリアミドなど、熱可塑性ポリウレタン、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ネオプレン、ポリエステル等の合成ゴム又はエラストマーなどが好ましく使用できる。
【0028】
中でも、フェノール樹脂とポリビニルブチラール樹脂とを主成分とする樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、とりわけ、フェノール樹脂とポリビニルブチラール樹脂とを主成分とする樹脂が耐衝撃性、寸法安定性、強度、価格などから好ましく使用できる。
【0029】
マトリックス樹脂には、生産性や特性改善のために、変性剤、可塑剤、充填剤、離型剤、着色剤、希釈剤の添加剤などを含有せしめてもよい。
【0030】
FRPの作製にあたっては、プリプレグを使用してもよい。
【0031】
マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合には、熱硬化性樹脂を溶剤に溶解してワニスに調整し、繊維布帛をワニス漕に通しバーコーターやクリアランスロールなどにて余分な樹脂を掻き取る方法や、コーティング、スプレーを用いた塗布等を採用することができる。
【0032】
マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合には、溶融した樹脂、溶剤に溶解した樹脂あるいは樹脂エマルジョンをナイフやグラビアなどにて繊維布帛にコーティングする方法や、溶融した樹脂を直接布帛にラミネートする方法等を採用することができる。
【0033】
樹脂の付着量としては、積層する高強度繊維織物の絶乾質量に対し3〜30質量%が好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。3質量%未満であると、剛性が低いため形態保持性が低く、30質量%を超えると、繊維の自由度を奪うため耐衝撃性に劣る。
【0034】
FRPを製造する方法としては、上記プリプレグを積層した後に加熱加圧成形する方法やしてもよいし、高強度繊維織物間に樹脂パウダーやフィルムを配し、加熱加圧成形する方法等を採用することができる。
【0035】
セラミックスタイルとFRPを固定する方法としては、合成ゴムやエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の接着剤を介して接着させることを採用できる。
【0036】
また、本発明の耐弾防護部材には、セラミックスタイル層の上にさらに高強度繊維織物を積層させることも好ましい。そうすることで、耐衝撃性部材周辺部に高速の飛来物が衝突した際、セラミックスとFRPの層間剥離を抑制でき耐弾性が向上する。
【0037】
本発明の耐弾防護部材の形状としては、側面からみた場合は曲面形状の曲面板であり、図3のようなシングルカーブでも図4のような複心曲線の曲面形状でもよい。また、正面から見た形状は適宜選択できる。人体に着用する用途に用いる場合には、着用する部位にあわせた曲面形状の曲面板とすることが好ましい。
【0038】
本発明の防護製品の例として、本発明の耐弾防護部材の形状を人体の胸服部、背部、脇部、肩部、下腹部などを覆う形状にすることで、人体用防護チョッキに用いることができる。また、本耐弾防護部材を頭部を覆う形状とし、更にクッション材、あご紐などを取り付けることで、ヘルメットに用いることができる。また、取っ手や覗き窓、自立用の足などを取り付けることで盾に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えば、防護チョッキ(防弾チョッキや防刃チョッキ)及び防弾板(防護チョッキへの挿入板)やヘルメット及びその装着板、盾、車両及び艦船または航空機の付加装甲といった防護製品の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 耐弾防護部材
2 セラミックスタイル
3 FRP
4 任意の1つの軸
5 セラミックタイルの接合面(端面)
6 法線ベクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の曲面形状セラミックスタイルと高強度繊維強化プラスチックとからなる耐弾防護部材であって、該セラミックスタイルの接合面のすべてが任意の1つの軸に対して平行であることを特徴とする耐弾防護部材。
【請求項2】
請求項1記載の耐弾防護部材を用いたことを特徴とする防護製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−210201(P2010−210201A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59132(P2009−59132)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】