説明

耐摩耗性の着色が可能なコーティング

本発明は、a) 3ないし6個の(メタ)アクリレート基を有するポリオール ポリ(メタ)アクリレートモノマーから選ばれる少なくとも一つのモノマーと、b) 少なくとも3つのエポキシ基を有するポリオール ポリグリシジルエーテルから選ばれる少なくとも一つのモノマーと、c) 少なくとも一つの二官能性モノマーと、d) 少なくとも一つのフリーラジカル光開始剤と、e) 少なくとも一つの陽イオン光開始剤とを含む硬化可能なコーティング組成物であって、エポキシ当量に対するアクリレート当量のモル比が3:1ないし4:1であり、上記組成物が、シリカおよび、シラン基を有するモノマーを含んでいない硬化可能なコーティング組成物を提供する。また、本発明は、この組成物を用いて、眼科用レンズなどの基板をコーティングして、このようにして得られるコーティングされた基板にする方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、眼科用レンズなどの、熱可塑性または熱硬化性の基板に耐摩耗性の着色が可能なコーティングをもたらす組成物に関する。
【0002】
ポリカーボネートの眼科用レンズやスクリーン銘板などの透過プラスチック材料は、使用中の引っ掻き傷や摩耗により光沢がなくなりぼんやりすることが知られている。
【0003】
この問題を解決しようとする試みがなされている。過去に提案された技術的解決策は、UVで硬化可能なコーティングを行うことに関し、一般に、基板に通常依存する、溶媒で生まれる組成物を用いていた。すなわち、コーティング組成物は、CR−39のようなある特定の眼科用レンズや、ポリカーボネートのような熱可塑性物質として作成された。文献に見られる、溶媒のないまたは実質的にない、いくつかの組成物は、基板に依存しているか、または、摩耗および耐摩耗性の両方のために用いられる、部分的または完全に加水分解されたシラン(silane)であった。
【0004】
さらに、眼科用レンズのためのコーティングは、そこに色素を組み込むことによって着色されることができるべきでもある。しかしながら、一方では耐摩耗性および引っ掻き傷抵抗性が、また他方では着色可能性が、しばしば、ほとんど両立しない特性であるとみなされている。
【0005】
これらの特性を満足させるために提案された解決策の中で、米国特許5,614,321号公報は、コロイド状のシリカとこのシリカと反応できる(メタ)アクリレート化合物と、(メタ)アクリレート基を生むモノマー(好ましくはアルコキシシラン)と、フリーラジカル開始剤と、有機着色可能性添加剤とを含む、硬化可能なコーティング組成物を開示している。米国特許公開2002/0193479号公報は、加水分解されたまたはされていないエポキシ基のアルコキシシランおよび硬化剤と、好ましくは2個以下のアクリル基を有するアクリルモノマーとを有する組成物を開示している。同様に、米国特許6,100,313号公報は、エポキシ基のアルコキシシラン、グリシジルエーテル、陽イオン光開始剤、アクリルモノマー、フリーラジカル光開始剤を含む組成物を開示している。
【0006】
知られているように、シランモノマーを用いる組成物は、着色可能で耐摩耗性を有するが、加水分解的に不安定であり、コーティングを循環させるように設計されたコーティング装置ではかなり短いポットライフを有している。これは、この組成物が、空気および/または、コーティング処理中に(自動水洗浄後)完全には乾いていないレンズから、水分を吸収するからである。これにより、粘度が増加し、コーティングされたレンズにコーティング流れの欠点が生じる。加水分解されたシランはまた、コーティング装置でシリカ粒子を生み、粒子的なコーティングの欠点となる。
【0007】
我々は、エポキシおよびアクリルモノマーの特定の組成物に基づき、シランおよびシリカのないコーティング組成物を作成できることを発見した。この組成物は、硬化されると、熱硬化性基板および熱可塑性基板(特に、商業用の真空蒸着反射防止コーティング)に対し優れた接着を提供するコーティングを高収率で行え、この組成物は、優れた均一性、耐摩耗性、引っ掻き傷抵抗性にて着色可能であり、また、UV抵抗性ボトル中やコーティングを循環させるコーティング装置で用いられるときも加水分解的に安定である。
【0008】
〔発明の要約〕
本発明は、
a) 3ないし6個の(メタ)アクリレート基を有するポリオール ポリ(メタ)アクリレートモノマーから選ばれる少なくとも一つのモノマーと、
b) 少なくとも3つのエポキシ基を有するポリオール ポリグリシジルエーテルから選ばれる少なくとも一つのモノマーと、
c) 少なくとも一つの二官能性モノマーと、
d) 少なくとも一つのフリーラジカル光開始剤と、
e) 少なくとも一つの陽イオン光開始剤とを含む硬化可能なコーティング組成物であって、
エポキシ当量に対するアクリレート当量のモル比が3:1ないし4:1であり、
上記組成物が、シリカおよび、シラン基を有するモノマーを含んでいない硬化可能なコーティング組成物を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記の組成物で基板をコーティングするステップを有する、基板をコーティングする方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、
a) 基板の少なくとも一つの表面に、請求項1に記載の組成物を作用させるステップと、
b) 上記組成物を硬化させて、上記基板に、コーティングされた表面を形成するステップと、
c) オプションとして、少なくとも一つの色素を上記コーティングされた表面の中へ吸収するステップとを有する、物品の製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記の方法により得られる物品を提供する。
【0012】
〔発明の詳細な実施形態〕
本発明に係るコーティング組成物は、少なくとも5つの成分を含んでいる。この成分は、ポリオール ポリ(メタ)アクリレートモノマー、ポリオール ポリグリシジルエーテル、二官能性モノマーを含んでおり、組成物中のエポキシ当量(等価物、相当物、基、化合物、成分)(equivalent)に対するアクリレート当量(等価物、相当物、基、化合物、成分)(equivalent)のモル比が3:1ないし4:1である。
【0013】
「アクリレート当量」すなわちAEWと、「エポキシ当量」すなわちEEWとによって、グラム/当量で測った当量を意味する。EEWは、滴定方法を用いて計算される。この方法によれば、溶液中に存在するエポキシの量を決定するためにエポキシ基と定量的に反応する臭化水素を生成するのに過塩素酸と臭化テトラエチルアンモニウムが用いられる。この結果は、一当量のエポキシ基を含有するエポキシ化合物のグラム数で記録される。同様に、アクリレート当量は、グラム/当量で測定される。この値は、アクリレート化合物の分子量を、1分子あたりのアクリレート基の数で割ることによって計算される。そして、エポキシ当量のモル数は、各エポキシの質量を、各EEWで割り、そして総和をとることによって計算される。同様に、アクリレート当量のモル数は、各アクリレートの質量を、AEWで割り、そして総和をとることによって計算される。
【0014】
この組成物の種々の成分については以下に詳述する。
【0015】
〔ポリオール ポリ(メタ)アクリレートモノマー〕
本発明に係る組成物の第1の成分は、3ないし6個のアクリレート基を有するポリオール ポリ(メタ)アクリレートモノマーである。この用語は、アルコール基と反応される少なくとも3つのアクリル酸またはメタクリル酸基を有するモノマーを表すことを意図している。このようなモノマーの例は、以下のものからなるグループから選ばれる。
ペンタエリスリトール トリアクリレート、
トリメチロールプロパン トリアクリレート、
トリメチロールプロパン トリメタクリレート、
ペンタエリスリトール テトラアクリレート、
グリセロール トリアクリレート、
1,2,4−ブタントリオール トリメタクリレート、
プロポキシル化されたトリメチロールプロパン トリアクリレート、
プロポキシル化されたグリセリル トリアクリレート、
トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート トリアクリレート、
エトキシル化されたトリメチロールプロパン トリアクリレート、
ジ−トリメチロールプロパン テトラアクリレート、
ジペンタエリスリトール ペンタアクリレート、
エトキシル化されたペンタエリスリトール テトラアクリレート、
カプロラクトン改変ジペンタエリスリトール ヘキサアクリレート、
ジペンタエリスリトール ヘキサアクリレート、
およびこれらの混合物。
【0016】
さらに詳しくは、ポリオール ポリ(メタ)アクリレートモノマーは、ペンタエリスリトール トリ−および/またはテトラアクリレート、ジペンタエリスリトール ヘキサアクリレートおよびそれらの混合物から選んでよい。
【0017】
これらのモノマーは、好ましくは、組成物の総重量(固体ベース)に基づいて、およそ15%ないしおよそ40%、例えばおよそ20ないし35%、の重量濃度で用いられる。
【0018】
〔ポリオール ポリグリシジルエーテル〕
本発明に係る組成物の第2の成分は、ポリオール ポリグリシジルエーテルである。このような化合物の例は以下の通りである。
トリメチロールメタン トリグリシジルエーテル、
トリメチロールエタン トリグリシジルエーテル、
トリメチロールプロパン トリグリシジルエーテル、
トリフェニロールメタン トリグリシジルエーテル、
トリスフェノール トリグリシジルエーテル、
テトラフェニロールエタン トリグリシジルエーテル、
テトラフェニロールエタンのテトラグリシジルエーテル、
p−アミノフェノール トリグリシジルエーテル、
1,2,6−ヘキサントリオール トリグリシジルエーテル、
グリセロール トリグリシジルエーテル、
ジグリセロール トリグリシジルエーテル、
ジグリセロール テトラグリシジルエーテル、
ジペンタエリスリトール テトラグリシジルエーテル、
グリセロールエトキシレート トリグリシジルエーテル、
グリセロールプロポキシレート トリグリシジルエーテル、
ソルビトール ポリグリシジルエーテル、
ポリグリセロール ポリグリシジルエーテル、
ペンタエリスリトール テトラグリシジルエーテルのようなペンタエリスリトール ポリグリシジルエーテル、
ポリ(グリシジルアクリレート)、
ポリ(グリシジルメタクリレート)、
エポキシ改変ポリ不飽和脂肪酸、
キャスターオイル トリグリシジルエーテル、
およびこれらの混合物。
【0019】
好ましいタイプのポリオール ポリグリシジルエーテルは、ポリオールトリグリシジルエーテルである。本発明の実施形態では、ポリオールトリグリシジルエーテルは、トリメチロールプロパン トリグリシジルエーテルである。
【0020】
ポリオール ポリグリシジルエーテルは、好ましくは、組成物の総重量(固体ベース)に基づいて、およそ15%ないしおよそ35%、例えば20ないし30%、の重量濃度で用いられる。
【0021】
〔二官能性モノマー〕
本発明に係る組成物の第3の成分は、ポリオール ジ(メタ)アクリレート、ポリオール ジグリシジルエーテル、またはそれらの混合物のような、二官能性モノマーである。
【0022】
ポリオール ジ(メタ)アクリレートの例は以下のものを含む。
ネオペンチルグリコール ジアクリレート、
1,6−ヘキサンジオール ジアクリレート、
テトラエチレングリコール ジアクリレート、
1,3−ブチレングリコール ジアクリレート、
1,3−ブチレングリコール ジメタクリレート、
エチレングリコール ジメタクリレート、
テトラエチレングリコール ジメタクリレート、
1,6−ヘキサンジオール ジメタクリレート、
エチレングリコール ジアクリレート、
ジエチレングリコール ジアクリレート、
グリセロール ジアクリレート、
1,3−プロパンジオール ジアクリレート、
1,3−プロパンジオール ジメタクリレート、
1,4−シクロヘキサンジオール ジアクリレート、
1,4−シクロヘキサンジオール ジメタクリレート、
ペンタエリスリトール ジアクリレート、
1,5−ペンタンジオール ジメタクリレート、
およびこれらの混合物。
【0023】
本発明の実施形態では、二官能性モノマーは、ポリオール ジ(メタ)アクリレートからなるグループから選ばれる。特定の実施形態では、二官能性モノマーは、2つのポリオール ジ(メタ)アクリレートを含み、そのうちの少なくとも一つがアルカンジオール ジ(メタ)アクリレートであり、そのうちの少なくとも一つがポリエチレングリコール ジ(メタ)アクリレートである。二官能性モノマーは、1,6 ヘキサンジオール ジアクリレートと、テトラエチレングリコール ジアクリレートなどの、少なくとも3つのエチレングリコール単位を有する少なくとも一つのポリエチレングリコール ジ(メタ)アクリレートとの、混合物を含んでいてよい。
【0024】
上記の代替として、または、追加として、二官能性モノマーは、少なくとも一つのポリオール ジグリシジルエーテルを含んでいてよい。このような化合物の例は、以下のものを含む。
エチレングリコール ジグリシジルエーテル、
プロピレングリコール ジグリシジルエーテル、
ブチレングリコール ジグリシジルエーテル、
ネオペンチルグリコール ジグリシジルエーテル、
1,4−ブタンジオール ジグリシジルエーテル、
1,6−ヘキサンジオール ジグリシジルエーテル、
シクロヘキサンジメタノール ジグリシジルエーテル、
ポリエチレングリコール ジグリシジルエーテル、
ポリプロピレングリコール ジグリシジルエーテル、
ポリテトラメチレングリコール ジグリシジルエーテル、
レゾルシノール ジグリシジルエーテル、
およびこれらの混合物。本発明の実施形態では、ジグリシジルエーテルは、1,4−ブタンジオール ジグリシジルエーテルとしてよい。
【0025】
しかしながら、組成物は、いかなるポリオール ジグリシジルエーテルをも含まないことが好ましい。
【0026】
二官能性モノマーは、好ましくは、組成物の総重量(固体ベース)に基づいて、およそ25%ないしおよそ50%、例えばおよそ30ないしおよそ45%、の重量濃度で用いられる。
【0027】
さらに、組成物における(もし存在するならば二官能性エポキシモノマーを含めた)エポキシモノマーに対する、(もし存在するならばポリオール ジ(メタ)アクリレートモノマーを含めた)上記ポリオール ポリ(メタ)アクリレートモノマーの全量の重量比が、2:1ないし3:1であり、好ましくは2.4:1ないし2.6:1である。
【0028】
〔光開始剤〕
本発明の組成物は、フリーラジカル開始剤と、陽イオン開始剤とを触媒量分含む。
【0029】
フリーラジカル開始剤としては、光活性化および熱活性化光開始剤を挙げることができる。
【0030】
有益なフリーラジカル光開始剤は、
クロロメチルベンゾフェノンなどのハロアルキル化芳香族ケトン;
エチルベンゾインエーテルやイソプロピルベンゾインエーテルなどのいくつかのベンゾインエーテル;
ジエトキシアセトフェノンやα,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノンなどのジアルコキシアセトフェノン;
(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)(CIBAのIrgacure(登録商標)2959)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(CIBAのIrgacure(登録商標)184)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(CIBAにより販売されるDarocur(登録商標)など)などのヒドロキシケトン;
アルファアミノケトン、特に、ベンゾイル部分を有するもの、そうでなければ、アルファ−アミノアセトフェノンと呼ばれるもの、例えば、2−メチル 1−[4−フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン(CIBAのIrgacure(登録商標)907)、(2−ベンゾイル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン(CIBAのIrgacure(登録商標)369);
フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−ホスフィン酸化物(CIBAにより販売されるIrgacure(登録商標)819)などのモノアシルおよびビスアシルホスフィン酸化物および硫化物;
トリアシルホスフィン酸化物;
およびこれらの混合物である。
【0031】
フリーラジカル光開始剤の混合物は、表面硬化と通過硬化との両方に到達するのにも用いることができる。本発明の一実施形態で用いうる混合物は、Darocur(登録商標)1173とIrgacure(登録商標)819とを含み、Irgacure(登録商標)819に対するDarocur(登録商標)1173の重量比は、75:25ないし85:15の範囲とすることができ、例えばおよそ80:20とすることができる。別の実施形態では、フリーラジカル開始剤は、RAHN CORP.により販売されるGenocure(登録商標)LTMのようなものを用いることもできる。
【0032】
本発明の目的のための有益な陽イオン開始剤は、芳香族オニウム塩を含む。芳香族オニウム塩は、以下のものを含む。
ホスホニウム塩などの第Va族元素の塩。例えば、トリフェニルフェナシルホスホニウム ヘキサフルオロホスフェート。
スルホニウム塩などの第VIa族元素の塩。例えば、トリフェニルスルホニウム テトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート(DOW CHEMICALSにより販売されるCyracure(登録商標)UVI-6992など)。
ヨードニウム塩などの第VIIa族元素の塩。例えば、ジフェニルヨードニウムクロライド。上記のものに加えて、他の陽イオン開始剤も用いることができる。例えば、米国特許4,000,115号公報に記載のフェニルラジカルの代わりとして、アルコキシまたはベンジルオキシラジカルを含むフェニルジアゾニウムヘキサフルオロフォスフェートであり、この公報の記載内容を、参照してここに導入する。本発明の組成物に用いるのに好ましい陽イオン開始剤は、第VIa族元素の塩であり、特にスルホニウム塩である。
【0033】
陽イオン光開始剤の混合物は、表面硬化と通過硬化との両方に到達するのにも用いることができる。好ましい混合物は、Cyracure(登録商標)UVI-6992とCyracure(登録商標)UVI-6976とを含み、Cyracure(登録商標)UVI-6992に対するCyracure(登録商標)UVI-6976の重量比は、70:30ないし80:20の範囲とすることができ、例えばおよそ75:25とすることができる。
【0034】
当業者は、本発明の組成物のアクリレートおよびエポキシモノマーを適切に硬化させるためにフリーラジカルおよび陽イオンの光開始剤の量を適切に選択することができる。さらに、フリーラジカル光開始剤の濃度は、アクリレートモノマーの硬化速度と同じくらいの速度でエポキシモノマーを硬化できるように調整すべきである。そうでないと、硬化されたコーティングは、ぼんやりとし、また、均一に着色されない。
【0035】
フリーラジカル光開始剤に対する陽イオン光開始剤の重量比は、1:1より大きくすべきであり、例えば、2:1ないし4:1としてよく、好ましくは2.5:1ないし3.8:1であり、より好ましくは2.8:1ないし3.5:1である。
【0036】
フリーラジカル光開始剤の総量は、例えば、組成物の1.0ないし2.2重量パーセントとすることができる。一方、陽イオン開始剤は、およそ5%ないしおよそ10%の重量濃度とすることができ、例えば、組成物の総重量に対しておよそ6%ないし8%である。
【0037】
〔他の成分〕
本発明に係る組成物は、フロー制御添加剤、ラジカルスカベンジャー、硬化促進剤、光開始剤共力剤、フィルタ、色素、溶媒、およびこれらの混合物などの様々な添加剤を有してもよい。
【0038】
好ましくは、コーティング組成物は、少なくとも一つの界面活性剤を含む。この界面活性剤は、水溶性、非水溶性、水分散性であってよい。この界面活性剤は、ポリジメチルシロキサンまたはポリヘプタメチルシロキサンに基づいて、ポリ(アルキレングリコール)改変ポリマーを含むことができる。
【0039】
本発明の組成物は、有利には、少なくとも一つのスリップ剤を含んでよい。このスリップ剤は、
CIBAにより販売されるEfka(登録商標)3034などの、フルオロカーボン含有改変ポリシロキサン、または、
CYTECにより販売されるEbecryl(登録商標)1360などのシリコーンアクリレート、
などである。
【0040】
コーティング組成物はまた、いくつかの実施形態では、ビスフェノールA ジグリシジルエーテルやブタジエンアクリロニトリルエラストマーなどの接着促進剤を含んでもよい。このような化合物の例は、商標Hypox(登録商標)RA1340としてCVC THERMOSET SPECIALTIESにより販売されている。
【0041】
しかしながら、コーティング組成物は、いかなるシリカ(コロイド状シリカなど)をも含まない。また、コーティング組成物は、エポキシアルキル−またはアクリロキシアルキル−改変アルコキシシランを含め、アルコキシシラン含有モノマーなどの、いかなるシラン含有モノマーも含まない。
【0042】
さらに、この組成物は、好ましくは、溶媒がない。
【0043】
〔コーティングプロセス〕
本発明の組成物は、引っ掻き傷および/または摩耗から基板を保護するために基板に適用されることができ、そしてそのようにコーティングされた物品に適用されることができる。
【0044】
このような物品の典型的な製造方法は、
a) 基板の少なくとも一つの表面に、上記組成物を作用させるステップと、
b) 上記組成物を硬化させて、上記基板に、コーティングされた表面を形成するステップと、
c) オプションとして、少なくとも一つの色素を上記コーティングされた表面の中へ吸収するステップとを有する。
【0045】
基板は、有機ポリマー、金属、ガラスなどで構成することができる。このような基板の例は、
ポリ(メチルメタクリレート)などのアクリルポリマー、
ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)などのポリエステル、
ポリアミド、
ポリイミド、
アクリロニトリル−スチレン コポリマー、
スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン コポリマー、
ポリビニルクロライド、
ブチレート、
ポリエチレンなどを含む。本発明のコーティング組成物は、ポリ(ビスフェノール−A カーボネート)や、GENERAL ELECTRIC COMPANYにより販売されているLexan(登録商標)として知られているポリカーボネートなどの、ポリカーボネートのためのコーティングや、ポリメチルメタクリレートなどの、射出成形や押し出し成形されたアクリルのためのコーティングに、特に有益である。本発明の保護コーティングが効果的でもある金属基板は、アルミニウムのような輝く金属または光沢のない金属と、スパッタされたクロム合金のような輝く金属化表面を含む。ここで検討されている他の固体基板は、木材、塗装表面、皮、ガラス、セラミックス、繊維製品を含む。
【0046】
このような基板の典型的な例は、完成の、またはほぼ完成の、眼科用レンズである。実施形態では、コーティングされる表面は、へこんだ表面であってもよい。しかしながら、別の実施形態では、基板の両表面が、本発明の組成物でコーティングされてもよい。他の有益な基板は、テレビやコンピュータの画面銘板を含む。
【0047】
必須ではないが、基板に組成物をコーティングする前に、熱硬化性アクリル乳濁液のような下塗剤を最初に基板に作用させる下塗工程をオプションとして含んでもよい。
【0048】
基板または下塗りされた基板にコーティング組成物が作用された後に、効果的な量の紫外線照射によって、そこでコーティングが硬化されてもよい。この紫外線照射は、例えば、Hanovia 550ワットランプまたはPPG プロセッサ Model QC1202から得ることができる。
【0049】
本発明のコーティング組成物は、連続した表面膜を形成するための、フロー、スプレー、ディッピングなどの従来の方法によって、選択した基板に作用させることができる。好ましい実施形態では、本発明の組成物は、スピンコーティング法によって基板に作用させる。
【0050】
〔組成物の効果〕
本発明に係る組成物は、高速で均一に着色されることができるとともに、着色後に色素をよく保持し、熱可塑性物質および熱硬化性物質によく接着し、高い引っ掻き傷抵抗性および/または耐摩耗性を有する、コーティングを提供する。さらに、この組成物は、好ましくは、従来のスピンコーティング装置と両立できる粘度を有する。
【0051】
上記特性は、以下の基準を用いて評価することができる。
【0052】
〔1. コーティングの着色可能性〕
BPI色素で着色されるポリカーボネートおよびCR−39の基板の光透過率は、ULTRA OPTICSによって販売される商業用のUVNV(登録商標)の光透過率と同じかそれより小さいべきである。分光光度計で測った場合に、好ましくは、コーティングされたポリカーボネートは、15分後に96CのBPIで30%またはそれより小さい光透過率になるように着色すべきであり、コーティングされたCR−39は、15分後に92CのBPIで30%またはそれより小さい光透過率になるように着色すべきである。
【0053】
〔2. 着色の均一性〕
着色の均一性は、着色後に頭上の透過光源で、白紙越しに見たときに、UVNV(登録商標)(目に見える染みや不均一な硬化パターンがない)のような他の商業用の着色可能なコーティングの均一性と、少なくとも等しくあるべきである。
【0054】
〔3. 色素保持〕
着色されたレンズをIPAで拭いたときに、過剰の色素の最小量を、着色後に除去できるようにすべきである。
【0055】
〔4. 耐摩耗性〕
ポリカーボネート基板上のASTM(Method D 1003)ヘイズレベルは、BYK Gardener Hazeguard(登録商標)を用いて測ったときに、0.5%またはそれより小さいべきである。
【0056】
バイヤー摩耗は、ISTM02-002と02-008(ヘイズ測定)である。耐摩耗性は、ISTMバイヤーテストを用いて測定する。ISTM02-002は、テストされるレンズの耐摩耗性を、コーティングしていないCR−39基準レンズの耐摩耗性を比べる方法として、バイヤーテストを記載している。等しい凸のベースカーブを有する、テストされるレンズと基準レンズとが、各レンズの凸側を500グラムの摩耗物質に曝すパンに固定される。パンは、摩耗物質を含み、4分間に600の周期で、前後に循環する。レンズを洗浄した後、ヘイズを測定する。基準レンズとテストレンズとのヘイズの変化は、基準レンズのヘイズの変化をテストレンズのヘイズの変化で割ったものである比Rとして表される。Rは、レンズのバイヤー値として参照される。さらに、バイヤー摩耗は、コーティングされていないCR−39と同様に、およそ1.0であるべきである。
【0057】
〔5. 引っ掻き傷抵抗性〕
ハンドスチールウールテストの評価は、UVNV(登録商標)同様、3ないし5であるべきである。
【0058】
〔6. 接着(ISTM 02-010)〕
1mm離れた6本の平行なカミソリの刃を持つ道具を使い、25×1mmの四角形の格子をカットすることによって、コーティングされたレンズの上に斜交平行線模様の接着を行った。格子は、少なくとも、レンズの端から5ないし10mmで、コーティング内へ切り込まれなければならない。そして、スチールに対する公称接着が710cN/cm(D−3330)である3Mの250テープを用い、空気に曝露されなかったテープ部分をロールから除去し、レンズの端から、およそ15ないし20mmのテープで、プラスチックのへらを用いて格子に均一に作用させる。鋭く、迅速で連続的な動きで、テープを素早くレンズから除去する。同じ格子に対しこれを5回繰り返す。0点は、コーティングのロスが無いことを示す。1点は、1つの四角形の半分より小さいコーティングロスを示す。1つの四角形の半分より大きいコーティングロスはいずれも失敗とみなす。1.60(MR8)と1.67(MR7)の表面を持つクリアなレンズへの接着は、15分間BPI色素で着色した後、オプションとしてはCR磨き洗いの後、0か1であるべきである。
【0059】
また、ポリカーボネートおよびCR−39の表面を持つクリアなレンズへの接着は、15分間BPI色素で着色した後、コーティング後少なくとも1時間後に行われる斜交平行線模様のテストにおいて、0か1であるべきである。
【0060】
〔7. 粘度〕
100%個体(溶媒無し)の組成物は、60センチポワーズより小さい粘度を有するべきであり、好ましくは、50センチポワーズより大きくないか、さらには40センチポワーズに近い粘度を有するべきである。この粘度は、従来のプロダクションスピンコーティング装置と両立する。
【0061】
〔実施例〕
本発明を、以下の、説明だけの目的で示される非限定的な例によってさらに説明する。
【0062】
〔実施例1〕本発明に係るコーティング組成物の用意
本発明に係る4つの硬化コーティング組成物AないしDが用意された。これらの組成物を以下の表1に示す。
【0063】
これらの組成物は以下のようにして用意された。試験容器にスリップ剤とともにエポキシ化合物とアクリレート化合物とを一度に一つに混合した。最後の混合の前に光開始剤を添加した。1kgのバッチ(実験サイズ)に対し、各組成物が、最低2時間、高速ミキサーを用いて混合され、次いで、泡を除去するためにマグネチックスターラーを用いて一晩(16時間)混合した。組成物は、その後、室温で、紫外線抵抗性の茶褐色の瓶で貯蔵した。
【0064】
【表1】

【0065】
組成物はすでに述べた6つの基準で評価し、すでに述べたテストをパスした。
【0066】
実施例1Aの組成物は、高い着色速度と相まって、特に低い粘度を有していた。ここから得られたコーティングは、わずか15分で、BPI黒色素において20%の透過に達した。
【0067】
この例は、本発明に係る組成物が、3.0ないし4.0の、エポキシ基に対する(シリコンを含まない)アクリレート基のモル比を有し、熱可塑性基板および熱硬化性基板に対するコーティング組成物として有益であることを示している。
【0068】
〔実施例2〕比較用のコーティング組成物の用意
比較用組成物2Aないし2Eが、上記組成物1Aないし1Dと同様の方法で用意された。これらの組成を以下の表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
実施例2Aは、ポリカーボネートに対し高いヘイズを有するコーティング組成物を提供した。実施例2Bに達するように光開始剤を増加させるとこのヘイズを減らせることがわかるが、それでもなお、満足できない値である。組成物のアクリレート化合物を変えて実施例2Cとし、ヘイズがより良くなった。しかしながら、このコーティング組成物は、ポリカーボネートには十分接着しなかった。構成を変えて実施例2Dとした。しかしながら、得られた組成物の着色の均一性は満足できるものではなく、IPAで拭いたときに着色後に色素を浸出した。構成を変えて実施例2Eとした。この組成物は均一な着色を示さなかった。
【0071】
最後に、これらの組成物のどれも、低いヘイズと基板への十分な接着を有して均一に着色されるコーティングのために要求される基準を、満たさなかった。これは、エポキシ当量に対するアクリレートのモル比が低いせいであった。
【0072】
〔実施例3〕比較用のコーティング組成物の用意
以下のものを混合することによってマスターバッチが用意された。
ERYSIS(登録商標)GE-30 25.87g、
ERYSIS(登録商標)GE-21 21.32g、
MIRAMER(登録商標)M-600 32.06g、
CYRACURE(登録商標)UVI-6976 7.67g、
DAROCUR(登録商標)1173およびIRGACURE(登録商標)819 1.73g、
EFKA(登録商標)3034 0.53g、
EBECRYL(登録商標)1360 0.75g。
【0073】
このマスターバッチ13.84gが、6.17gのSR(登録商標)268と混合され、およそ20gのコーティング組成物を得た。
【0074】
エポキシ当量に対するアクリレート当量のモル比は1.86であった。
【0075】
この組成はかなりクリア(ヘイズがない)であったが、ポリカーボネートへの接着は良くなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 3ないし6個の(メタ)アクリレート基を有するポリオール ポリ(メタ)アクリレートモノマーから選ばれる少なくとも一つのモノマーと、
b) 少なくとも3つのエポキシ基を有するポリオール ポリグリシジルエーテルから選ばれる少なくとも一つのモノマーと、
c) 少なくとも一つの二官能性モノマーと、
d) 少なくとも一つのフリーラジカル光開始剤と、
e) 少なくとも一つの陽イオン光開始剤とを含む硬化可能なコーティング組成物であって、
エポキシ当量に対するアクリレート当量のモル比が3:1ないし4:1であり、
上記組成物が、シリカおよび、シラン基を有するモノマーを含んでいないことを特徴とする硬化可能なコーティング組成物。
【請求項2】
上記ポリオール ポリ(メタ)アクリレートモノマーが、ペンタエリスリトール トリ−および/またはテトラアクリレート、ジペンタエリスリトール ヘキサアクリレート、およびそれらの混合物、から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記ポリオール ポリグリシジルエーテルが、ポリオール トリグリシジルエーテルであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
上記ポリオール ポリグリシジルエーテルが、トリメチロールプロパン トリグリシジルエーテルであることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
上記二官能性モノマーが、少なくとも一つのポリオール ジ(メタ)アクリレート、少なくとも一つのポリオール ジグリシジルエーテル、またはそれらの混合物を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
上記二官能性モノマーが、ポリオール ジ(メタ)アクリレートからなるグループから選ばれることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
上記二官能性モノマーが2つのポリオール ジ(メタ)アクリレートを含み、そのうちの少なくとも一つがアルカンジオール ジ(メタ)アクリレートであり、そのうちの少なくとも一つがポリエチレングリコール ジ(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
上記二官能性モノマーが、
1,6 ヘキサンジオール ジアクリレートと、
少なくとも3つのエチレングリコール単位を有する少なくとも一つのポリエチレングリコール ジ(メタ)アクリレートとの、
混合物を含んでいることを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
上記組成物におけるエポキシモノマーに対する、ポリオール ジ(メタ)アクリレートモノマーを含めた上記ポリオール ポリ(メタ)アクリレートモノマーの全量の重量比が、2:1ないし3:1であり、好ましくは2.4:1ないし2.6:1であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
実質的に溶媒を含んでいないことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも一つの界面活性剤、少なくとも一つのスリップ剤、またはそれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
a) 基板の少なくとも一つの表面に、請求項1に記載の組成物を作用させるステップと、
b) 上記組成物を硬化させて、上記基板に、コーティングされた表面を形成するステップとを有することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項13】
少なくとも一つの色素を上記コーティングされた表面の中へ吸収するステップをさらに有することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
基板をコーティングする方法であって、請求項1に記載の組成物で上記基板をコーティングするステップを有することを特徴とする方法。
【請求項15】
上記基板が、完成の、またはほぼ完成の、眼科用レンズであることを特徴とする請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
請求項12または13に記載の方法により得られる物品。

【公表番号】特表2012−518045(P2012−518045A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549514(P2011−549514)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051250
【国際公開番号】WO2010/094558
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(507229319)エシロール アンテルナシオナル (コンパニー ジェネラル ドプティック) (37)
【Fターム(参考)】