説明

耐摩耗性塗装体及びその塗料組成物

【課題】繰り返して擦られた場合の耐摩耗性を向上させた塗膜を表面に有する耐摩耗性塗装体及びその塗膜の塗料組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】アクリルウレタン塗料を含み、平均粒径が0.5〜7μmのアクリルゴム粒子又はウレタンゴム粒子21が、このアクリルウレタン塗料の固形分100質量部に対し、0.5〜2.0質量部の割合で配合されている塗料組成物からなる塗膜20を、牛皮等からなる本皮材30の表面に有する耐摩耗性塗装体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜を表面に有する塗装体及びその塗膜の塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、ステアリングカバー等の本革製品は、美麗にすると共に、耐久性を付与するため、表面にアクリルウレタン塗料からなる塗膜が設けられている。そして、このような塗膜のなかには、表面の滑り性を高めて(摩擦係数を低下させて)、耐摩耗性を向上させるため、油状のシリコン系添加剤が配合されているものがある。
【0003】
しかし、油状のシリコン系添加剤は、浮遊成分であり、塗膜表面に配向しやすいことから、塗膜が繰り返して擦られると、摩耗等によって塗膜中から取り除かれ易い。その上、このようにして油状のシリコン系添加剤を失った塗膜は、表面の滑り性が急激に低下してしまい、より摩耗され易くなる。そのため、このような塗膜は、繰り返して擦られる場合における耐摩耗性を確保することが難しかった。
【0004】
なお、特許文献1には、具体的な実施例等の記載はないものの、建造物の壁等に用いられる塗料に、直径0.1〜3mmのアクリルゴムのような弾性骨材を、容積比で2〜4倍含ませる技術が記載されている。しかし、これは、弾性骨材が大きすぎる(塗膜も厚くなりすぎる)ため、本革製品等の塗膜には用いることができない。
また、特許文献2には、自動車用塗料に、平均粒径0.3μmの球状シリコンゴム粒子を、塗膜形成性固形分中に約8.3質量%配合して、耐チッピング性を向上させる技術が記載されている。しかし、シリコンゴムは、塗料中での分散性が悪いため、ディスパー等を用いた通常の攪拌方法では、塗料を作成することが難しい。その上、塗膜との密着性も悪いため、摩耗時に容易に塗膜から欠落してしまうおそれがある。そのため塗膜の耐摩耗性を向上させることが見込めないことから、本革製品等の塗膜には用いることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−186722号公報
【特許文献2】特開平9−316373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、繰り返して擦られた場合の耐摩耗性を向上させた塗膜を表面に有する耐摩耗性塗装体及びその塗膜の塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の耐摩耗性塗装体は、アクリルウレタン塗料を含み、平均粒径0.4μm以上10μm以下のゴム粒子が、前記アクリルウレタン塗料の固形分100質量部に対し、0.1〜2.2質量部の割合で配合されている塗料組成物からなる塗膜を表面に有する。
【0008】
このように、アクリルウレタン塗料に、ゴム粒子を配合することで、塗膜の伸びが向上する。また、そのゴム粒子の平均粒径が小さく(10μm以下)、且つ配合量が適量であると(アクリルウレタン塗料の固形分100質量部に対し、0.1〜2.2質量部の割合)、塗膜からゴム粒子が欠落することもない。このため、繰り返し擦られても塗膜は摩耗し難くなる。
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の塗料組成物は、アクリルウレタン塗料を含み、平均粒径0.4μm以上10μm以下のゴム粒子が、前記アクリルウレタン塗料の固形分100質量部に対し、0.1〜2.2質量部の割合で配合されていることを特徴とする。
【0010】
本発明における各要素の態様を以下に例示する。
【0011】
1.ゴム粒子
ゴム粒子は、その平均粒径が10μmを超えると、塗膜の表面の滑り性が低くなり(平均摩擦係数が高くなり)、塗膜の耐摩耗性が悪くなる。一方、その平均粒径が0.4μm未満では、塗膜の伸びが向上せず、塗膜の耐摩耗性の向上が図れない。好ましくは、0.5〜7μmである。
ゴム粒子の配合量は、アクリルウレタン塗料の固形分100質量部に対し、0.1質量部未満の割合では、塗膜の伸びの向上が少なく、塗膜の耐摩耗性の向上が図れない。一方2.2質量部を超える割合では、塗膜の表面の滑り性が低くなり(平均摩擦係数が高くなり)、塗膜の耐摩耗性が悪くなる。好ましくは、0.4〜2質量部である。
ゴム粒子のゴムとしては、特に限定はされないが、アクリルウレタン塗料の樹脂との密着性がよいことから、アクリルゴム又はウレタンゴムであることが好ましい。
また、アクリルゴムとしては、特に限定はされないが、ACM(アクリル酸エステルと2−クロロエチルビニルエーテルとの共重合体)、ANM(アクリル酸エステルとアクリロニトリルの共重合体)等が例示できる。
また、ウレタンゴムとしては、特に限定はされないが、ポリエステル系ウレタンゴム、ポリエーテル系ウレタンゴム等が例示できる。
【0012】
2.アクリルウレタン塗料
アクリルウレタン塗料としては、特に限定はされないが、水酸基を持つアクリルポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とからなる二液型アクリル変性ポリウレタン塗料等が例示できる。
【0013】
3.塗膜
塗膜の厚さは、塗装体の用途等によっても異なり、特に限定はされないが、15〜50μmであることが好ましい。
塗膜を形成するための塗料は、特に限定はされないが、顔料等の着色剤を含まない、いわゆるクリア塗料であってもよいし、顔料等の着色剤を含む、いわゆるベース塗料であってもよい。
塗料は、表面の滑り性を高める(平均摩擦係数を小さくする)ため、油状のシリコン系添加剤が添加されていることが好ましい。また、塗料は、塗装し易いよう、溶剤などを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
塗膜を形成するための塗装方法としては、特に限定はされないが、スプレー塗装、ロールコーター塗装等が例示できる。
【0014】
4.耐摩耗性塗装体
耐摩耗性塗装体としては、特に限定はされないが、牛革等の本革材からなる本革製品、樹脂等を成形した樹脂成形品等が例示できる。本革製品としては、ステアリングホイール、シートクッション、コンソールアームレスト、アシストグリップ、シフトノブ、インストゥルメントパネル等の表皮等が例示できる。
また、耐摩耗性塗装体は、本発明の塗料からなる塗膜と本革材等からなる本体部との間に、他の塗料からなる塗膜を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、繰り返して擦られた場合の耐摩耗性を向上させた塗膜を表面に有する耐摩耗性塗装体及びその塗膜の塗料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の耐摩耗性塗装体の表面付近の断面模式図である。
【図2】アクリルゴム粒子の配合量とテーバ摩耗のグラフである。
【図3】アクリルゴム粒子の配合量と摩擦係数のグラフである。
【図4】アクリルゴム粒子の配合量と伸び率のグラフである。
【図5】ウレタンゴム粒子の配合量とテーバ摩耗のグラフである。
【図6】ウレタンゴム粒子の配合量と摩擦係数のグラフである。
【図7】ウレタンゴム粒子の配合量と伸び率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0017】
図1に示すように、本発明の耐摩耗性塗装体10は、本革材(牛革)30の表面に、平均粒径が0.4μm以上10μm以下のアクリルゴム粒子又はウレタンゴム粒子21を含むアクリルウレタン塗料の塗膜20を有するものである。
【0018】
油状のシリコン系添加剤を含むアクリルウレタン塗料(従来例)に、平均粒径が異なる(0.5μm、7.0μm、15.0μm)アクリルゴム粒子を、それぞれ配合量を変えて添加した7種類の実施例及び6種類の比較例の塗料を作成した。そして、それらの塗膜のテーバ摩耗、摩擦係数及び伸び率を測定した。アクリルゴム粒子の平均粒径は、レーザー回折(島津製作所社のレーザー回折光分散計を使用)による値である。
【0019】
各実施例又は比較例の塗料に用いたアクリルゴム粒子の平均粒径と配合量を表1に示すと共に、それらの塗膜のテーバ摩耗、摩擦係数及び伸び率の測定結果も表1に示す。また、従来例のアクリルウレタン塗料(ゴム粒子が配合されていないもの)についても、その塗膜のテーバ摩耗、摩擦係数及び伸び率の測定結果を表1に示す。表1のアクリルゴム粒子の配合量は、アクリルウレタン塗料の固形分100質量部に対する質量部の値である。また、アクリルゴム粒子の配合量と、テーバ摩耗、摩擦係数又は伸び率とのグラフを図2〜4に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例及び比較例の各試料は、油状のシリコン系添加剤を含むアクリルウレタン塗料に、それぞれ所定のアクリルゴム粒子を所定量加えた後、ディスパーで攪拌して作成した。
【0022】
このように作成した、本発明の実施例及び比較例の試料は、次のようにして測定した。
【0023】
(1)テーバ摩耗
耐摩耗性は、ロータリー式テーバ摩耗試験機を用い、素地(牛革)が露出するまでの回転数を測定した。
テーバ摩耗の測定には、牛革上に、着色剤を含むアクリルウレタン塗料からなる膜厚20μmのベース塗膜を作成し、その上に各試料を膜厚が30μmになるようにスプレー塗装したものを用いた。
測定は、試験片:直径110mm、環境温度:25±5℃、摩耗輪:CS−10、荷重:9.8N、回転速度:60回/分の条件で行った。なお、摩耗輪のクリーニングは、試験片1,000回転毎に、S−11ペーパーで50回クリーニングした。
【0024】
(2)摩擦係数
摩擦係数は、摩耗感テスター(カトーテック社の「KSE−SE」)を用い、MIU(平均摩擦係数)を測定した。
摩擦係数の測定には、上記テーバ摩耗の測定と同じ構成の試験片を用いた。
測定は、環境温度:25±5℃、荷重:0.98N、速度:1mm/秒の条件で行った。
【0025】
(3)伸び率
伸び率は、引張試験機を用い、破断時の伸び率を測定した。
伸び率の測定には、各試料の塗膜からJIS1号ダンベル状の試験片(膜厚:100±10μm)を作成し、それを用いた。
測定は、環境温度:25±5℃、引張速度:50mm/分、チャック間距離:60mm、標線間距離:40mmの条件で行った。
伸び率は、次に示す式を用いて算出した。
【数1】

【0026】
以上の結果より、平均粒径が0.5〜7μmのアクリルゴム粒子を、アクリルウレタン塗料の固形分100質量に対し、0.4〜2質量部の割合で配合した実施例は、伸び率が向上した(図4参照)。また、アクリルゴム粒子の粒径(平均粒径)が大きすぎることもなく、且つアクリルゴム粒子の配合量が多すぎることもないので、塗膜からアクリルゴム粒子が欠落し難い。そのため、従来例より、テーバ摩耗(耐摩耗性)が向上した(図2参照)。
一方、平均粒径が0.5〜7μmのアクリルゴム粒子を、アクリルウレタン塗料の固形分100質量に対し、4質量部の割合で配合した比較例1、2は、従来例より、テーバ摩耗(耐摩耗性)が低下した(図2参照)。これは、アクリルゴム粒子を多く配合することで、塗膜の伸び率は向上する(図4参照)ものの、摩擦係数MIUが大きくなる(図3参照)ことと、アクリルゴム粒子の配合量が多すぎるため、塗膜からアクリルゴム粒子が欠落しやすいことによる。
また、平均粒径が15μmのアクリルゴム粒子を配合したもの(特に比較例5、6)は、従来例より、テーバ摩耗(耐摩耗性)が低下した(図2参照)。これは、アクリルゴム粒子の粒径(平均粒径)が大きいことで、摩擦係数MIUが大きくなる(図3参照)ことと、アクリルゴム粒子の粒径(平均粒径)が大きすぎるため、塗膜からアクリルゴム粒子が欠落しやすいことによる。
【0027】
次に、油状のシリコン系添加剤を含むアクリルウレタン塗料(従来例)に、平均粒径が異なる(7.0μm、15.0μm)ウレタンゴム粒子を、それぞれ配合量を変えて添加した3種類の実施例及び5種類の比較例の塗料を作成した。そして、それらの塗膜のテーバ摩耗、摩擦係数及び伸び率を測定した。なお、試料の作成方法及び各測定方法は、上記アクリルゴム粒子を配合した実施例等のときと同じである。ウレタンゴム粒子の平均粒径は、レーザー回折(島津製作所社のレーザー回折光分散計を使用)による値である。
【0028】
この各実施例又は比較例の塗料に用いたウレタンゴム粒子の平均粒径と配合量を表2に示すと共に、それらの塗膜のテーバ摩耗、摩擦係数及び伸び率の測定結果も表2に示す。また、表2のウレタンゴム粒子の配合量は、アクリルウレタン塗料の固形分100質量部に対する質量部の値である。また、ウレタンゴム粒子の配合量と、テーバ摩耗、摩擦係数又は伸び率とのグラフを図5〜7に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
以上の結果より、平均粒径が7μmのウレタンゴム粒子を、アクリルウレタン塗料の固形分100質量に対し、0.4〜1.6質量部の割合で配合した実施例は、伸び率が向上した(図7参照)。また、ウレタンゴム粒子の粒径(平均粒径)が大きすぎることもなく、且つウレタンゴム粒子の配合量が多すぎることもないので、塗膜からウレタンゴム粒子が欠落し難い。そのため、従来例より、テーバ摩耗(耐摩耗性)が向上した(図5参照)。
一方、平均粒径が7μmのウレタンゴム粒子を、アクリルウレタン塗料の固形分100質量に対し、4質量部の割合で配合した比較例7は、従来例より、テーバ摩耗(耐摩耗性)が低下した(図5参照)。これは、ウレタンゴム粒子を多く配合することで、塗膜の伸びは向上する(図7参照)ものの、摩擦係数MIUが大きくなる(図6参照)ことと、ウレタンゴム粒子の配合量が多すぎるため、塗膜からウレタンゴム粒子が欠落しやすいことによる。
また、平均粒径が15μmのウレタンゴム粒子を配合したものは、従来例より、テーバ摩耗(耐摩耗性)が低下した(図5参照)。これは、ウレタンゴム粒子の粒径(平均粒径)が大きいことで、摩擦係数MIUが大きくなる(図6参照)ことと、ウレタンゴム粒子の粒径(平均粒径)が大きすぎるため、塗膜からウレタンゴム粒子が欠落しやすいことによる。
【0031】
以上より、アクリルウレタン塗料に、平均粒径が0.5〜7μmのアクリルゴム粒子又はウレタンゴム粒子を、アクリルウレタン塗料の固形分100質量に対し、0.4〜2質量部の割合で配合することにより、この塗料からなる塗膜は、繰り返して擦られた場合における耐摩耗性が向上する。
【0032】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【符号の説明】
【0033】
10 耐摩耗性塗装体
20 塗膜
21 ゴム粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルウレタン塗料を含み、平均粒径0.4μm以上10μm以下のゴム粒子が、前記アクリルウレタン塗料の固形分100質量部に対し0.1〜2.2質量部の割合で配合されている塗料組成物からなる塗膜を表面に有する耐摩耗性塗装体。
【請求項2】
前記ゴム粒子のゴムは、アクリルゴム又はウレタンゴムである請求項1記載の耐摩耗性塗装体。
【請求項3】
アクリルウレタン塗料を含み、
平均粒径0.4μm以上10μm以下のゴム粒子が、前記アクリルウレタン塗料の固形分100質量部に対し0.1〜2.2質量部の割合で配合されていることを特徴とする塗料組成物。
【請求項4】
前記ゴム粒子のゴムは、アクリルゴム又はウレタンゴムである請求項3記載の塗料組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−172866(P2010−172866A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21016(P2009−21016)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】